弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告が平成八年四月一九日付けで原告に対してした、国民健康保険被保険者証
を交付しない旨の処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 原告の請求
 主文同旨
第二 事案の概要
 本件は、在留資格のないまま、日本人と婚姻し、被告の区域内に居住している中
国人女性である原告が、被告に対し、国民健康保険被保険者証の交付を求める申請
(以下「本件交付申請」という。)をしたところ、被告が、原告には在留資格がな
く、国民健康保険の被保険者資格を定めた国民健康保険法(以下「法」という。)
五条の「住所を有する者」に該当しないことを理由として、国民健康保険被保険者
証を交付しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため、原告がこれを
不服として、その取消しを求めている事案である。
一 関係法令の定め
 法によれば、市町村又は特別区(以下、単に「市町村」という。)の区域内に住
所を有する者は、健康保険等の被用者保険の被保険者など法六条各号に掲げる適用
除外事由に該当する者を除き、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とされ
(法五条、六条)、右被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有するに至った日
又は法六条各号のいずれにも該当しなくなった日から、その資格を取得するものと
されている(法七条)。
二 前提となる事実
(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実で
ある。)
1 原告の身上関係等
(一) 原告は、一九六八年(昭和四三年)四月二四日生まれの中国国籍を有する
女性である。
(二) 原告は、その出身地である中国上海市内で、日本人のAと知り合い、平成
二年一一月一九日、中国において中国の方式により同人と婚姻した。
 原告は、Aと日本国内で婚姻生活を送るため、平成三年一月一七日、来日し、出
入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第二の「日本人の配偶者
等」の在留資格で在留期間を一年として在留することを認められ、同日から、東京
都杉並区<以下略>においてAとの同居を開始した。
 また、原告は、同月二二日、東京都杉並区長に対し外国人登録の申請をし、同日
から同区の国民健康保険の被保険者として取り扱われることとなった。
(甲二、六、五四、五六、六四、原告本人、調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)
(三) その後、原告は、中国在住の祖母が病気になったため、一時帰国すること
とし、平成三年一月二五日、入管法二六条の再入国許可を受けた上で出国し、同年
三月一二日、日本に再入国した。
 なお、杉並区においては、原告が右の出国をした日の翌日である同年一月二六日
をもって、国外転出を理由として、原告が同区の国民健康保険の被保険者資格を喪
失したものとして取り扱っている。
(甲二、五四、五六、原告本人、調査嘱託の結果)
(四) 原告とAは、婚姻直後から不仲となったが、原告は、平成三年三月に中国
から戻った後、Aから暴力を振るわれたことに強い衝撃を受け、同人と同居するこ
とが苦痛に感じられるようになった。そして、原告は、同年四月ころ離婚を決意し
てAと別居し、杉並区内の友人宅に一時身を寄せた後、同区<以下略>所在のアパ
ートを原告名義で賃借してここに転居した。
 また、原告は、代理人を通じて、上海市中級人民裁判所にAとの離婚を求める訴
訟を提起して、離婚判決を得、平成五年二月六日、右判決が確定した。
 なお、原告が上陸時に許可された在留期間は平成四年一月一七日までであった
が、原告は、Aと別居し、離婚訴訟が継続中であったこともあって、在留期間の更
新を申請しなかったため、上陸時に許可された在留期間の経過により在留資格を失
い、以後在留資格のないまま日本に残留することになった。
(甲六、五四、原告本人)
(五) 原告は、平成五年一二月二五日、現在の住居である東京都武蔵野市<以下
略>所在の○○ハイツの一室を原告名義で賃借し、そのころ、右(四)記載の杉並
区<以下略>のアパートから右住居に転居した。
(甲三、五四、原告本人)
(六) 原告は、平成六年六月ころ、当時働いていた郷土料理店の客の家に遊びに
行った際に、同じく同所に遊びに来ていた当時桜美林大学国際学部の学生であった
Bと知り合い、同年夏ころから、同人と結婚を前提に交際するようになった。そし
て、Bは、平成七年五月から原告の住居である○○ハイツに転居して、同所で原告
と同居するようになり、Bと原告は、同年七月二八日、武蔵野市長に対し婚姻の届
出をした。
 なお、原告は、右の婚姻の届出に先立つ同年六月一三日、武蔵野市長に対し、外
国人登録の居住地を東京都杉並区<以下略>から現在の居住地である「東京都武蔵
野市<以下略>」(以下「現居住地」という。)に変更する旨の居住地変更登録の
申請をした。
(甲一、四、五、五四、六四、乙一ないし三、七、証人C、原告本人)
(七) 原告は、法務大臣に対し、平成七年一一月九日付けで、入管法五〇条一項
三号に基づく在留特別許可の付与を求める旨の申請を行った。
(甲七、原告本人)
2 本件処分
 原告は、平成八年四月五日付けで、被告に対し、国民健康保険被保険者証の交付
を求める本件交付申請をしたところ、被告は、同月一九日付けで、原告に対し、原
告には在留資格がなく、法五条の「住所を有する者」に該当しないため、国民健康
保険の対象外となるので、国民健康保険被保険者証の交付はできない旨の本件処分
を行った。
3 審査請求
 原告は、本件処分を不服として、平成八年五月一四日付けで、東京都国民健康保
険審査会に対し、審査請求を行ったが、同審査会は、同年一〇月三一日付けで、右
審査請求を棄却する旨の裁決をした。
三 争点及び争点に関する当事者の主張
1 本件の争点は、原告が、被告が行う国民健康保険の被保険者資格を有するか否
かであり、具体的には、原告が法五条の定める「(被告の区域内に)住所を有する
者」に該当するか否かが問題となる。
 なお、法九条二項は、世帯主は、市町村に対し、その世帯に属するすべての被保
険者に係る被保険者証の交付を求めることができる旨規定しているところ、右規定
が被保険者証の交付申請権者を世帯主に限定する趣旨であるとすれば、世帯主以外
の者からされた交付申請は、被保険者証の交付申請の申請者適格を欠く者によって
された不適法な申請というべきことになる。しかし、被告は、本件交付申請につ
き、原告が右申請者適格を有するかどうかについては積極的に争っていないので、
本件においては、被告は、原告が右申請者適格を有すること(申請権者が世帯主に
限られるものとすれば、原告が世帯主であること)について明らかに争わないもの
として、これを自白したものとみなし、原告の右申請者適格の有無については、当
裁判所の判断の対象とはしない。
2 本件の争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(原告の主張)
(一)市町村の区域内に住所を有する者は、法六条の適用除外事由に該当しない限
り、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者となるものである(法五条、六
条)。そして、右の「住所」とは、各人の生活の本拠をいうものであり、在留資格
の有無と住所がどこにあるかとは、直接関連するものではない。
 しかして、原告は、現居住地を生活の本拠としているから、被告の区域内に住所
を有する者に該当し、かつ、法六条所定の適用除外事由に該当しないので、当然
に、被告が行う国民健康保険の被保険者となるものである。
(二) しかるに、被告は、法五条の「住所を有する者」について、居住の継続
性、安定性を要するものと解し、在留資格のない外国人については、退去強制の対
象となることもあることから、居住の継続性、安定性が保障されていないので、法
五条の「住所を有する者」に該当しないとして、原告の被保険者資格を認めなかっ
たものである。
 しかしながら、かかる被告の解釈、運用は、以下のとおり、明らかに違法、不当
なものである。
(1) 国民健康保険制度においては、かつては、日本国籍を有しない者はその適
用対象から除外されていたが、在日朝鮮人・韓国人における国民健康保険の適用の
現実的必要性並びに国際化時代の到来、国際交流の活発化及び国内外における内外
人均等待遇の原則の確立を背景として、昭和六一年三月七日付けで法施行規則の一
部改正が行われ、同年四月一日から外国人に対しても国民健康保険が適用されるこ
とになった。
 国民健康保険が外国人に適用されることは、国民健康保険が健康の保持と医療に
おける社会保障の目的をもつものである以上、むしろ当然のことであり、その制度
目的の達成に必要なことである。
 右の観点からすれば、国民健康保険の被保険者資格を定めた法五条の「住所」の
解釈について、日本人の場合と外国人の場合とで区別する合理的根拠はなく、国民
健康保険の被保険者資格は、日本人の場合であろうと外国人の場合であろうと、法
五条に定めるとおり、市町村の区域内に「住所」、すなわち、「生活の本拠」があ
れば付与されるのである。そして、現に、国民健康保険の運用において、日本人の
場合には、被保険者資格の要件たる住所の有無について「居住の継続性、安定性」
は問題とされておらず、外国人についてのみ被保険者資格を取得するために「居住
の継続性、安定性」が必要であるとする理由は存しない。
(2) ところで、厚生省保険局国民健康保険課長は、平成四年三月三一日、都道
府県民生主管部(局)長あてに、「外国人に対する国民健康保険の適用について
(通知)」(以下「厚生省通知」という。)を発し、原則として、在留期間一年以
上の在留資格を有する外国人についてのみ国民健康保険の適用対象とすることとし
た。
 被告は、本件処分をするに当たって、形式的には厚生省通知を引用していない
が、実質的には、厚生省通知に束縛され、法五条に関し無理な解釈を採用したもの
である。しかし、厚生省通知は法律ではなく、また、法律の委任を受けた政令等で
もないので、被保険者資格を決定する法的根拠とはなり得ず、これを実質的に遵守
しようとする被告の解釈は不当である。
(3) 法五条の「住所を有する者」に解釈について、
 「生活の本拠を有するが住所を有しない者」という範疇を創り出すこととなって
いる被告の解釈論は、地方自治法、地方税法、住民基本台帳法の解釈とも整合しな
いものであって、この観点からも許容されないものである。
 すなわち、地方自治法一〇条一項は、市町村の区域内に住所を有する者は、当該
市町村及びこれを包括する都道府県の住民とすると規定しているが、右条項の「住
所を有する」とは、端的に生活の本拠を有するとの趣旨に解されており、生活の本
拠を有しながら在留資格の欠如をもって「住所を有する」者に当たらないというよ
うな解釈は行政の運営上されていない。
 また、地方税法により、個人の市町村民税は「市町村に住所を有する個人」に対
して課すものとされているが(同法二九四条一項一号)、市町村民税は、実際に外
国人に対しても課されており、その際、在留資格の有無が問われることはない。
 さらに、住民基本台帳法四条は、住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法
一〇条一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはな
らない旨規定している。住民基本台帳には、外国人は記載されないが、外国人も地
方自治法一〇条一項の「住所を有する者」に該当するのであるから、外国人に関し
ても、右条項の趣旨は当然にあてはまるものである。そして、外国人に関しては、
地方公共団体は、在留資格の有無にかかわらず、外国人登録がされている場所をも
って生活の本拠と認定して事務一般を運用しているのであり、国民健康保険に関し
てのみ、在留資格を有しない外国人は「生活の本拠を有していても住所は有しな
い」との解釈を行うことは、住民基本台帳法四条の趣旨にも反するものである。
(4) 被告は、在留資格のない外国人については、不法滞在者として退去強制の
対象となることもあることから、居住の継続性、安定性が保障されていないと主張
するが、外国人が、退去強制事由に該当し退去強制手続の対象となったとしても、
必ずしも退去強制処分に至るわけではない。殊に、原告のように日本人と婚姻した
場合には、在留特別許可を受けることが常例となっている。退去強制事由に該当す
るからといって、直ちに退去強制になることを前提とする被告の主張は、その前提
を誤るものである。
 そもそも、退去強制に付するか否かは、法務大臣の判断によるものであって、右
判断を国民健康保険の窓口が行うこと自体不可能なことであり、また、不適切なこ
とである。国民健康保険の運営上は、当該外国人が退去強制に付されて、生活の本
拠を失ってから、その翌日に被保険者資格を失うとすればよいのであって、それが
法の規定とも適合するのである。
(5) さらに、法五条の「住所」についての被告の解釈は、市民的及び政治的権
利に関する国際規約(以下「B規約」という。)二六条並びに経済的、社会的及び
文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)一二条、二条二項、二条
一項に違反し、ひいては憲法九八条二項に違反するものである。
 すなわち、被告は、居住の継続性、安定性の要件は日本人、外国人を問わずに要
求される要件である旨主張しているが、その運用をみれば、外国人についてのみ居
住の継続性、安定性を要求していることは明らかである。しかも、居住の継続性、
安定性の認定も「一定の在留資格を有しているか否か」によりほぼ一律に決してい
るのが実態である。
 しかしながら、在留資格の有無及び在留期間の長短と当該自治体における居住の
継続性、安定性とは全く無関係であり、前者を後者の認定基準とすること自体、不
合理、不適切といわなければならない。
 いずれにしても事実上外国人についてのみ居住の継続性、安定性を要求し、日本
人と別扱いとする被告の法五条の解釈は、なんら合理的根拠を有しないのであっ
て、法の下の平等を保障したB規約二六条に違反するとともに、社会権保障に関す
る平等原則を定めたA規約一二条、二条二項に違反するものである。
 また、被告は、かつては在留資格を有しない外国人に対しても国民健康保険の適
用を認めており、その後において在留資格のない外国人に対し国民健康保険の適用
を認めないとすることは、締約国がその国内における社会保障の程度を後退させる
ことを禁じたA規約一二条、二条一項に違反するものである。
(三) 以上のとおり、原告が被告の区域内に住所を有し、被告が行う国民健康保
険の被保険者資格を有するにもかかわらず、その被保険者資格を認めなかった本件
処分は、違法な処分として取り消されるべきである。
(被告の主張)
(一) 法五条の「住所を有する者」の「住所」については、国民健康保険制度が
相扶共済の精神に基づき運営されることに照らして、居住の継続性、安定性が認め
られることを要件とするものと解すべきであり、特に、日本に在留する外国人につ
いては、当該外国人が相当の期間、継続的かつ安定的に在留し得る資格、期間を有
するか否かによって判断すべきである。
 そして、在留資格のない外国人については、不法滞在者として退去強制の対象と
なることもあることから、居住の継続性、安定性が保障されていないので、法五条
の「住所を有する者」には該当しないというべきである。
(二) 原告は、平成四年一月一七日をもって在留期間が満了となり、その後に在
留期間の更新がされていない外国人であり、原告が被告に対し本件交付申請をした
平成八年四月八日の時点において在留資格を有しないものであった。
 そこで、被告としては、かかる不法残留の場合においては、居住の継続性、安定
性が認められないから、原告は法五条の「住所を有する者」に該当しないものと判
断し、本件処分をしたものであって、本件処分に何ら違法はない。
第三 当裁判所の判断
一 国民健康保険の被保険者資格について
1 市町村が行う国民健康保険は、法六条各号所定の適用除外事由に該当する者を
除き、当該市町村の区域内に住所を有する者を被保険者として強制的に保険に加入
させ(法五条)、被保険者の属する世帯の世帯主が納付する保険料(法七六条)又
は国民健康保険税(地方税法七〇三条の四)、国の負担金(法六九条、七〇条)及
び補助金(法七四条)、都道府県の補助金(法七五条)、市町村の一般会計からの
繰入金(法七二条の二第一項)などを財源として、被保険者の疾病、負傷、出産又
は死亡に関して必要な保険給付を行うものであり(法二条)、被保険者は、当該市
町村の区域内に住所を有するに至った日又は法六条各号所定の適用除外事由に該当
しなくなった日から、当然にその資格を取得するものである(法七条)。
2 右1記載のとおり、市町村の区域内に住所を有する者は、法六条各号所定の適
用除外事由に該当しない限り、当然に当該市町村が行う国民健康保険の被保険者と
なるものである。そして、右の「住所」とは、「市町村の区域内に住所を有する者
は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」と規定した地方自治
法一〇条一項にいう「住所」と同義であり(住民基本台帳法四条参照)、各人の生
活の本拠(民法二一条参照)、すなわち、当該個人がその場所に定住し、その者の
生活関係全般の拠点となる場所をいうものと解するのが相当である。
3 (一) ところで、個人の住所がどこにあるかを認定するに当たっては、居住
関係を中心とした当該個人の客観的生活状況を基礎とし、その者の定住意思をも勘
案して総合的に判断すべきであるが、我が国に在留する外国人の住所の認定につい
ては、日本人の住所の認定と全く同様に取り扱うことはできないものである。
 すなわち、我が国に在留する外国人は、憲法上我が国に在留する権利ないし引き
続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく(最
高裁昭和五〇年(行ツ)第一二〇号昭和五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻
七号一二二三頁参照)、入管法及び他の法律に特別の規定がある場合を除き、それ
ぞれ、当該外国人に対する上陸許可若しくは当該外国人の取得に係る在留資格又は
それらの変更に係る在留資格をもって在留し(入管法二条の二第一項)、原則とし
て、該当する在留資格に対応する在留期間に限って、その在留が認められるもので
ある(同条三項参照)。外国人が現に有する在留資格をもって引き続き我が国に在
留することを希望する場合には、在留期間の更新を受けることができるが(同法二
一条一項)、在留期間の更新を受けようとする外国人は、法務省令で定める手続に
より、法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならず(同条二項)、法務
大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる
相当の理由があるときに限り、これを許可することができるものである(同条三
項)。そして、当初から在留資格を得ずに不法に入国した者(同法二四条二号参
照)はもとより、在留資格を得て適法に我が国に入国した者であっても、在留期間
の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して残留するものは、退去強制の対象
となるものである(同条四号ロ)。
 右のような我が国に在留する外国人の法的地位にかんがみると、当該外国人が我
が国の一定の場所に居住しているという事実があったとしても、当該外国人がその
場所に定住し、その場所が当該外国人の生活関係全般の拠点になっていると直ちに
認めることはできず、我が国に在留する外国人の住所がどこにあるかを認定するに
当たっては、当該外国人が我が国に入国した経緯、入国時ないしその後における在
留資格の有無及び在留期間の長短をも考慮する必要があるものである。
(二) もっとも、我が国に在留する外国人の住所を認定するに当たって、当該外
国人が我が国に入国した経緯、入国時ないしその後における在留資格の有無及び在
留期間の長短を考慮する必要があるといっても、これらは、居住関係を中心とした
当該個人の客観的生活状況を基礎とし、その者の定住意思をも勘案して総合的に判
断すべき住所の認定において考慮されるべき事情の一部にとどまるものであり、ま
た、在留資格のない外国人であっても、入管法五〇条一項に基づき我が国での在留
を特別に許可される可能性もあることを考えれば、在留資格のない外国人につき、
一律に我が国に生活の本拠を有し得ないものと解するのは相当でなく、在留資格の
ない外国人であっても、居住関係を中心とした客観的生活状況及びその者の定住意
思から、我が国に住所があると認めるべき場合も存するというべきである。
 したがって、在留資格のない外国人であっても、右の観点から、当該市町村の区
域内に住所を有していると認め得る者については、当該市町村が行う国民健康保険
の被保険者となり得るものというべきである。
(三) この点に関し、被告は、法五条の「住所を有する者」の「住所」について
は、居住の継続性、安定性が認められることを要件とすべきであり、特に外国人に
ついては、当該外国人が相当の期間、継続的、安定的に在留する資格、期間を有す
るか否かによって判断すべき旨主張する。
 もとより、住所とは、各人の生活の本拠、すなわち、当該個人がその場所に定住
し、その者の生活関係全般の拠点となる場所をいうものであるから、個人が現に居
住する場所が住所と認められるためには、一定程度において居住の継続性、安定性
を要するものであり、その意味において、居住の継続性、安定性は、住所の概念に
当然に内包されるものということができる。
 しかしながら、居住の継続性、安定性ということに住所の概念に内包される居住
の継続性、安定性という以上の意味をもたせ、これを前提に、外国人が法五条の
「住所を有する者」に該当するといえるためには、当該外国人が一定の在留資格を
有することが一律の要件になると解するのは、法五条の文理解釈上無理があるとい
わなければならない。のみならず、住民基本台帳法四条が、住民の住所に関する法
令の規定は、地方自治法一〇条一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定
めるものと解釈してはならないと規定している趣旨からすれば、国民健康保険制度
が相互扶助と社会連帯の精神を基盤とする制度であるといえるとしても、かかる制
度の性質論から、外国人について、法五条の「住所」の有無を判断する場合の一つ
の考慮要素にすぎない「在留資格を有すること」を「住所を有する者」に該当する
ための一律の要件とする右のような解釈を導くのは妥当性を欠くものというべきで
ある。
 被告の右主張は採用することができない。
二 原告の被保険者資格の有無について
1 被告は、本訴において、原告が法六条各号所定の適用除外事由に該当するとの
主張はしていないので、原告が、本件処分がされた時点において、被告が行う国民
健康保険の被保険者資格を有していたか否かは、原告が、本件処分がされた時点に
おいて、被告の区域内に住所を有していたか否かによって決せられるものである。
2 そこで、以下、この点について検討する。
 前記第二の二記載の事実によれば、①原告は、平成三年一月一七日に当時の夫と
婚姻生活を送るため来日し、「日本人の配偶者等」の在留資格(在留期間一年)を
得て我が国での在留を開始し、来日後間もなくして再入国許可を得て中国に一時帰
国したものの、同年三月一二日に再来日した後は、現在に至るまで引き続き我が国
に在留しており、右再来日後、本件処分がされた平成八年四月一九日の時点までの
原告の在留期間は五年を超えていたこと、②原告は、平成五年一二月二五日に現居
住地のアパートを自己の名義で賃借し、そのころ同所に転居して以来現在に至るま
で同所に居住しており、本件処分がされた時点までの現居住地での居住期間は二年
三か月余りであること、③原告は、平成七年七月二八日、日本人である現在の夫と
婚姻し、以来、現居住地のアパートにおいて同人と同居して婚姻生活を送っている
こと、④原告は、平成七年六月一三日、外国人登録の居住地を現居住地に変更する
居住地変更登録の申請をしていること、⑤原告は、上陸時に許可された在留期間が
平成四年一月一七日に経過した後は、在留資格を有していないが、平成七年一一月
九日に法務大臣に対し在留特別許可の申請をしたことが認められる。そして、これ
らの事実によれば、原告が本件処分がされた当時において、現居住地に定住する意
思を有していたことは容易に推認することができる。
 右のとおりの居住関係を中心とする原告の客観的生活状況を基礎とし、その定住
意思をも勘案して総合的に判断すれば、原告は、本件処分がされた時点において、
在留資格を有してはいなかったものの、現居住地を生活の本拠としていたものと認
めるのが相当であり、したがって、原告は、本件処分がされた時点において、被告
の区域内に住所を有していたものというべきである。
3 そうすると、原告は、本件処分がされた時点において、被告が行う国民健康保
険の被保険者資格を有していたものというべきであるから、被告が原告の右被保険
者資格を認めずに行った本件処分は違法というべきである。
第四 結論
 よって、原告の本件請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用
の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第三部
裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 増田稔
裁判官 篠田賢治

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