弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
被告は原告らに対し、別紙第二債権目録合計欄記載の金員およびこれに対する昭和
四三年八月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告A、同B、同C、同Dおよび同Eのその余の請求を棄却する。訴訟費用は被告
の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
(一) 被告は原告らに対し、別紙第三時間外勤務明細一覧表請求金額欄記載の金
員およびこれに対する昭和四三年八月二三日から支払い済みまで年五分の割合によ
る金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 請求原因
一 原告らはいずれも、被告が学校教育法第二条に基き設置した小中学校の教員で
あつて、市町村立学校職員給与負担法第一条に規定する給与の支給を受けているも
のである。
なお、原告らの勤務している学校名の詳細は、別紙第一当事者目録記載の原告番号
1ないし17の原告がK中学校、同18ないし20および25、26の原告がL中
学校、同21ないし24の原告がL小学校、同27ないし37の原告がM小学校、
同38ないし72の原告がK小学校である。
二 原告らはそれぞれ、別紙第三時間外勤務明細一覧表年月日欄記載の日に、使用
者である右各勤務校の校長の指示により職員会議に出席し、同表時間外勤務明細欄
記載の時間、労働基準法に定める一日八時間の勤務時間を超えて勤務した(以下こ
れを本件時間外勤務という)。
三 ところで、市町村立学校職員給与負担法は、市町村立学校職員に支給されるべ
き給与について、同法第一条に規定する給料および各種手当は都道府県において負
担すべきものと規定し、事務職員に支給すべき時間外勤務手当については都道府県
の負担と規定しているけれども、教員に支給すべきそれについては都道府県の負担
と規定していないから、結局、教員に支給すべき時間外勤務手当は当該学校を設置
した市町村において負担すべきことになる。
このことは北海道人事委員会もその昭和三八年(措)第八号の判定において同一に
解釈している。
四 そこで原告らは被告に対し、前記の各時間外勤務について正規の賃金および労
働基準法に定める割増賃金(以下この両者の合計を時間外勤務手当という。)支払
いを求めることとし、所定の計算によれば原告らの時間外勤務一時間に対する時間
外勤務手当は別紙第三時間外勤務明細一覧表単価欄記載のとおりとなり、また、原
告らの時間外勤務時間に一時間に満たない端数が生じたときは原告らに適用される
北海道人事委員会規則(昭和四二年一二月二五日規則七-二八〇)によつて三〇分
未満は切り捨て三〇分以上は一時間として計算することとすると、原告らの時間外
勤務時間数は同表勤務時間数欄記載のとおりとなるから、結局、原告らが被告に対
し支払いを求める時間外勤務手当額は同表手当額記載のとおりとなる。
五 そして、被告は原告らに対し、未だ右時間外勤務手当を支払つてないから、原
告らは被告に対し、労働基準法第一一四条に定める附加金として同表附加金欄記載
の金員の支払いを求める。この金員の額は、次に掲げるものを除いては右時間外勤
務手当額と同額であるが、原告番号18の原告A、同20のF、同56のGおよび
同60の同Hについては各時間外勤務手当額より少額であつて、これらの原告はそ
れぞれ附加金の一部を請求しているものである。
六 原告らの右時間外勤務手当と右附加金を合算すると同表請求金額欄記載のとお
りとなる。
よつて、原告らは被告に対し、同表同欄記載の金員およびこの支払いにつき履行遅
滞に陥いつたことが明らかな訴状送達の翌日である昭和四三年八月二三日からその
支払い済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求原因に対する認否
一 請求原因一項の事実はすべて認める。
二 請求原因二項の事実については、原告番号18の原告A、同21の同B、同2
3の同Cおよび同24のDが昭和四二年四月二七日にならびに同30の同Eが昭和
四二年九月二九日にそれぞれが主張している時間職員会議に出席していたという事
実は否認し、その余については原告らがその主張のとおりの年月日に職員会議に出
席し、その主張のとおりの時間、時間外勤務をした事実はすべて認めるが、原告ら
が職員会議に出席したのは原告らの自発的な意思によるものであるから「校長の指
示により出席した。」という事実は否認する。
三 請求原因三項の事実については、原告らが主張するような北海道人事委員会の
判定があることを認め、その余を争う。
四 請求原因四項の事実については、時間外勤務一時間当りの時間外勤務手当の額
および時間外勤務時間数に関する原告らの主張をすべて認める。
五 原告らのその余の主張は争う。
第四 被告の反論
一 公立学校の教員の勤務の実態
公立学校の教員の時間外勤務手当請求権はこれを放棄するという慣習があるから、
教員は時間外勤務手当請求権を有しないことを明らかにするにさきだつて被告の主
張についての理解を容易にするため、公立学校の教員の勤務の実態、即ち、その職
務内容および勤務め態様、それにみあう給与制度等をまず説明する。
(一) 教員の職務内容
教員の主たる職務内容は生徒・児童の教育を掌ることである(学校教育法第二八条
第四項、第四〇条、第五一条)。そもそも教育は、人類の精神的・文化的遺産を次
の世代に承継せしめることであり、教育者が被教育者に対して一定の理念をもつて
内面的に働きかけ、その持つている知識・技能を教授し、被教育者の人間性を開発
し、人格を完成するという創造的作用である。
したがつて、教育は正しい教育理念のもとに、その教育課程において常に被教育者
の素質や能力に応じてあらゆる機会をとらえて、しかも無限の創造工夫をもつて行
なわれなければならないものである。教育基本法は、第一条において「教育は、人
格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個
人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な
国民の育成を期して行なわれなければならない」として教育の目的を宣明する。こ
れを受けて学校教育法は、小学校、中学校、高等学校の各目的を掲げるとともに
(第一七条、第三五条、第四一条)、その目的を実現するために達成すべき目標を
規定している(第一八条、第三六条、第四二条)。
以上述べた如く、教員の職務は、人格の完成、国民の育成等きわめて高い価値の創
造な目ざすものであつて、単なる知識の伝達にとどまらず、被教育者との人格的交
流によつて行なわれるという高度の精神活動を内容とする特殊性を有するものであ
る。もつとも教員の職務には、以上の直接間接の指導活動のほか、管理・教務事務
等も分掌することもありうる。しかし、これら事務の教員の職務全体に占める割合
は、質量とも僅少に過ぎずこれをもつて、前述の教員の教務の内容の特殊性を喪わ
せるものということはできない。
(二) 教員の勤務の態様
市町村立学校の教員は、地方公務員の身分を有し(教育公務員特例法三条)、その
勤務時間は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律四二条、地方公務員法二四
条六項により都道府県の条例によつて定めることとされている。これに基づき各都
道府県はおおむね市町村立学校の教員の勤務時間を一週間について四四時間とし、
右勤務時間の割振りは市町村教育委員会が月曜日から土曜日までの六日間において
行なうものとし、日曜日は勤務を要しない日とする旨条例で定めている。
しこうして、勤務時間の割振りは校長に委任され、校長は、右委任に基づき、全般
的に月曜日から金曜日までは、おおむね学校の授業開始時刻より八時間、土曜日は
同じく四時間の勤務時間の割り振りを行なつているのが通例である(もつとも勤務
の態様に応じ必要な場合には、教員の個々について別に割り振られる場合があ
る)。
しかしながら、教員の勤務の実態はその勤務の特異性よりして必ずしも勤務時間条
例及びそれに基づき割り振られた勤務時間どおりの勤務がなされていないのであ
る。
教員の職務の中心をなすのは、授業の担当であることはいうまでもないところであ
つて、したがつて教員は、授業を中心としたスケジユールに即して勤務することが
要請される。
学校の授業は、学年、学期制度をとり、毎年四月一日から翌年三月三一日までの学
年を単位とし、教育課程が計画・運営・実施される(学校教育法施行規則第四四
条、第二四条の二、同規制別表一、第五五条、第五四条、同別表第二、第六五条、
第五七条、同別表三、同施行令第二九条)。年間授業日数は三五週、各週の週当り
平均授業時数もあらかじめ平均化して年間の授業時数は小学校は最低学年が八一六
時間(週当り二四時間)、最高学年が一、〇八五時間(週当り三一時間)であり、
中学校は各学年一、一二〇時間以内(週当り三二時間以内、ただし、中学校の教員
は教科担任であるから、通常教員の一人当りの授業時数は、これよりも少ない。)
であつて、授業時間の一単位時間は、小学校四五分、中学校五〇分と定められてい
る。
したがつて、授業時間は、通常午後三時頃で終了、その以後は、放課となり、教員
は、この放課後の時間は、特別の用務のない限り、自宅研修の名目で帰宅すること
が認められている。
また、学校は、日曜、国民の祝日等のほか、その特有の休業日として夏季(七月下
旬から八月末まで)、冬季(一二月下旬より翌年一月上旬まで約二週間)、学年末
(三月下旬より四月上旬まで約一〇日間)等の合計約六〇日の休業日がある(学校
教育法施行令第三〇条)。もちろん、学校における長期にわたる休業日は、教育的
配慮、教育の効率の観点から設定されたもので、生徒・児童にある期間集中的に授
業中心の教育活動を行なつたあと、休業日のあいだ中に学習の整理、自習による学
習の定着、自由研究などを行なわせるとともに、次の学期の授業に備えて心身を鍛
練させようとするものである。もとより学校の休業日は、生徒・児童が登校して授
業を受けることを中止する期間であつて、教員の職務専念義務の免除がなされる期
間ではない。しかし、実際上、授業がないにもかかわらず、教員に登校を命じて事
務を処理させる必要は必ずしもないところから、前記長期にわたる休業日の大半の
期間は、自宅研修の形で学校に出勤することなく、管理者の拘束を離れ、研修ある
いは、休養等にあてている。
他方、学校の授業計画に基づく遠足、修学旅行、運動会等の学校行事、特別教育活
動の指導あるいは職員会議その他管理、教務事務処理のため勤務時間を超えて勤務
することもありうる。
かくて、勤務の必要に応じて勤務時間を超えて勤務に服することもあるかわりに、
通常は授業時間が終了した後は、他に用務のない限り勤務時間中においても帰宅す
ることが認められ、また長期にわたる休業期間の大半の期間、学校に出勤すること
が必ずしも必要とされないのであつて、かかる勤務の態様は、最近になつてはじめ
て行なわれたものではなく、学校制度が始まつて以来行なわれ続けてきたものであ
り、また、単にわが国のみならず、世界各国の学校においても行なわれているもの
である。しかも、かかる勤務の態様について学校教育関係者のみならず、広く世間
一般においてもこれをもつて法令に違背するものとは考えず、教員の職務の内容と
その責任に合致した当然の措置として認められてきたものである(もつとも勤務時
間制度等とつじつまをあわせるため、ときには自宅研修という形式的理由をもつて
説明することもあるが)。
(三) 教員の給与制度
教員の職務内容および勤務態様の特殊性から教員の俸給額決定にあたり、一般の公
務員に比し優遇するという政策的配慮がなされている。
公立学校の教員は、もと待遇官吏であつたが、公立学校官制(昭和二一年四月一日
勅令二一三号)及び同官制の一部改正(昭和二一年六月二一日勅令三三四号)によ
り文部教官、地方教官として官吏の身分を有することとなり、地方自治法(昭和二
二年四月一七日法律六七号)、教育委員会法(昭和二三年七月一五日法律一七〇
号)の制定によつてもその官吏たる身分は変わらず、教育公務員特例法(昭和二四
年一月一二日法律一号、即日施行)によつてはじめて地方公務員とされ(第三
条)、現にある級及び現に受ける号俸に相当する給与をもつて、この法律により地
方公共団体の公務員に任用されたものとされた(第三一条)。なお、その給与の種
類及びその額は、当分の間、国立学校の教育公務員の給与の種類及びその額を基準
として定めるものとされている(第二五条の五)。
しこうして教員の給与は、一般官吏と同じく官吏俸給令が適用されていたが、政府
職員の俸給等に関する法律(昭和二三年三月二〇日法律一二号)により二、五〇〇
円べースに暫定的に切り替えられ、政府職員の新給与実施に関する法律(昭和二三
年五月三一日法律四六号)により二、九二〇円ベースの本格的な切替えがなされ
た。すなわち、政府職員の俸給等に関する法律は、昭和二三年一月一日にそ及し
て、二、九二〇円ベースの俸給を支給する旨を定めたが(第一項)、俸給の額及び
支給に関する事項は別に法律で定めることとし(第三項)、その法律が定められる
までの間二、五〇〇円ベースの暫定給与を支給することとした(附則第二条)。し
こうして右暫定的切替えは、所定拘束勤務時間に応じ一五割、一六割、一七割を現
俸給に乗じて暫定俸給額と定めた(附則第四条)。
所定拘束勤務時間四一時間三〇分~四四時間未満   一五割
〃    四四時間~四八時間        一六割
〃    四八時間以上           一七割
教員についてはその勤務の複雑なる特異性から、勤務時間を固定することは、かえ
つて実情に添わない面が多分にあるので、勤務の実態を勘案し、勤務時間は必ずし
も一定していないが、一応四八時間以上のものと同様と推定して一七割を適用し、
これに伴つて超過勤務手当は支給しないこととされた。つづいて政府職員の新給与
実施に関する法律が施行され、これによつて本格的な二、九二〇円ベースへの切替
えが行なわれたが、前記教員に対する優遇措置はそのまま維持され、そのかわり超
過勤務手当は支給しない旨決定された(同法第二条に基づく新給与実施本部の下部
機構と考えられる新本俸切替審議委員会決定)。
その後、教員の給与に関する法律は数度にわたり改正されたが、割合において多少
の変遷はあるとはいえ、一般公務員に比して教員に対する優遇措置はいぜん維持さ
れているのである。教育公務員特例法施行後の公立学校の教員の給与は、県条例に
よることになつているが、国立学校の教育公務員のそれを基準とすることとなつて
いるので、同じく優遇措置を受けているわけである。
このようにして昭和二二年七月一日以降一般公務員に対し時間外勤務手当が支給さ
れるようになつたにもかかわらず(昭和二二年一二月一二日法律一六七号、労働基
準法等の施行に伴う政府職員に係る給与の応急措置に関する法律の附則)、教員に
対しては特殊の場合を除き時間外勤務手当は支給されないものと観念され、予算措
置も講じられることもなかつたのであるが、一方、教員の側としても、ことさら現
在の勤務の態様が従前のそれと異なるようになつたわけでもなく、原告らが本件に
おいて時間外勤務と称する同内容の勤務を行ないながら、これについて時間外勤務
手当の請求をしたことは全くなく、労使双方ともにこれを当然のこととして疑念す
らいだかず現在に至るまで約二〇年間経過したものである。
二 原告ら主張の勤務が時間外勤務に当たるとしても、本件のような時間外勤務に
ついては、時間外勤務手当を不要とする事実たる慣習があつたものであるから、原
告ら公立学校の教員には時間外勤務手当請求権がない。
(一) 事実たる慣習の存在
公立学校の教員は、前述の政府職員に対して時間外勤務手当が支給されるようにな
つた昭和二二年七月一日ごろはもちろん、それ以降においてもずつと原告らが時間
外勤務と称する内容の勤務を行ないながら、全く時間外勤務手当を請求していない
のである。このように教員が時間外勤務手当を請求せず、また支給されなかつた理
由は、次のような事情によるものである。
すなわち、すでに詳述したとおり公立学校の教員は、一般公務員に比し俸給面にお
いて優遇されているほか、その出退勤が比較的自由とされ、かつ、学校の休業期間
の大半は、自宅研修の名目下に、自宅その他勤務場所以外で十分な休養をとりうる
実情にあつたため、いうなれば、かかる勤務実態と引換えに時間外勤務手当を不要
とする時間外勤務を行なつてきたのである。俸給面で優遇され、出退勤時刻が比較
的緩やかに扱われ、しかも学校の休業期間中自宅等で実質的に自由な時間を享受し
うるような勤務状態にある場合、ときたま必要に応じ時間外勤務をしても、その手
当を不要とする慣行を生ずるのは、人間自然の情である。そしてこの時間外勤務手
当を不要とする時間外勤務の慣行は、昭和二二年以来長年にわたり、かつ全国各都
道府県公立学校に共通して広く行なわれてきたのであるから、この慣行は当然事実
たる慣習の成立要件を充足するものである。
なお、義務教育費国庫負担法および市町村立学校職員給与負担法が制定公布されて
から数回の改正を経た現在に至るまで教員の時間外勤務手当に関して何ら規定する
ところがないのは、右慣習の存在を証左するものといえよう。
(二) 以上の事実たる慣習は、公の秩序に反するものではない。
本件のような時間外勤務については、時間外勤務手当を不要とする事実たる慣習は
その内容を分析すれば、本件のような時間外勤務をしても時間外勤務手当はいらな
い。すなわち、時間外勤務手当請求権を放棄する、ないしは時間外勤務手当請求権
は行使しない、ということになろう。かかる慣習は、公の秩序に反するものではな
い。
労働基準法第三七条に規定する時間外勤務手当は、給与の一種であるが、給料のよ
うに基本的、継続的な給与ではなく、付随的、臨時的、派生的な給与にすぎない。
しかるところ、基本的給与とされる公務員の給料請求権につき、これを処分又は放
棄することが可能か否かについては、学説はその放棄を認め(鵜飼信成「公務員
法」六三ページ)、裁判例もまた、「公務員と国または地方公共団体との間に存す
る特別権力関係を破壊し、公益を害するに至るおそれが全く存しない場合には」と
いう限定を付してであるが、その放棄を認めている(仙台高判、昭和三二・七・一
五、行集八巻七号一九三ページ)。このように基本的給与たる給料請求権の放棄が
許される以上、付随的、臨時的、派生的給与にすぎない時間外勤務手当請求権の放
棄は当然認められてよい。何となれば、時間外勤務手当請求権を放棄することによ
り、公務員と国又は地方公共団体間の特別権力関係を破壊するとか、公益を害する
おそれを生ずることはおよそ考えられないからである。
しこうして、労働基準法第三七条は、時間外勤務等に対し、正規の労働に対する賃
金の二割五分増の割増賃金を支払わせることにより、一方で時間外その他の労働を
できるだけ防止しようとするとともに、他方かかる労働が行なわれた場合の労働の
生産性回復をねらつたものであり、(吾妻光俊「労働基準法」一八七ページ)、こ
れにより間接的に労働時間制限を維持しようとするものなのである。ところで、労
働基準法が労働者の労働時間を、原則として一日八時間、一週四八時間と制限した
目的は、それによつて労働者の労働力を維持培養するとともに、労働者に余暇を楽
しませて労働者の文化的生存権を保護しようとするにあるから、形式的にみれば労
働基準法第三七条の規定に反するようなものであつても、実質的には何ら同条の規
定に違反しない場合には、形式面だけをとらえて公の秩序違反をうんぬんすべきで
ない。いま、本件についてこれをみるに、既述したとおり、公立学校の教員は、俸
給において優遇を受け、さらに通常の場合でも出退勤の時刻が比較的自由とされる
うえ、生徒の夏休み、冬休み等の期間中は実質上自己のたてたプランに従つて、十
分な休養をとり、余暇を利用しうるのであるから、たとえ、若干の時間外勤務をし
たからといつて、それにより労働力の維持培養に支障を来たすとか、余暇を利用す
る権利を奪われるということは起こり得ない。そうすれば、本件慣習は、実質的に
何ら公の秩序に反するものではないから、この慣習の効力が生じないとすることは
誤りといわなければならない。
(三) 以上述べてきたとおり、原告ら主張の時間外勤務については、時間外勤務
手当を不要とする事実たる慣習が存在し、しかもこの慣習は、公の秩序に反するも
のでなく、原告ら各教員はもちろん、被告もまた、この慣習による意思を有してい
たのであるから、原告らには、時間外勤務手当請求権はないといわなければならな
い。少なくとも、時間外勤務手当請求権を行使し得ないことは確実というべきであ
る。
第五 被告の反論に対する認否および原告の再反論
一 被告の反論一項において被告が原告ら公立学校の教員の勤務の実態として主張
する事実は概ねそのとおりである。
しかし、教員はその本来の職務である「教育を掌る」(学校教育法第二八条)こと
のほかに、管理・事務室のいわゆる雑務を行なつている。そして、この雑務の質・
量は一般に予想されるよりも非常に多く、この雑務のために費やされる時間が多大
であるのみならず、その内容においても、教員にとり過大な負担となつていること
はすでに多くの識者の指摘するとおりであり、教員はやむを得ずこれを行なつてい
るのである。
また、給与(賃金)に関して、従前他の職種の公務員に比して多少の優遇措置が採
られていたことは認めるが、現在ではかえつて一般公務員に比して低くなつてい
る。
そして、原告ら教育公務員は折にふれて時間外勤務手当の支払いを求めてきたが、
支払義務者はこれを黙殺してきただけであり、請求したことがないという被告の主
張は否認する。
二 被告の反論二項において、被告は原告ら教育公務員は時間外勤務手当を請求し
ないという事実たる慣習があると主張しているが、このような慣習は存在しない
し、仮にあつたとしても公序良俗に違反することが明らかである。
第六 証拠(省略)
○ 理由
一 原告らが、その主張のとおりの小、中学校に勤務している教員であること、お
よびこれらの学校はいずれも被告が学校教育法第二条に基いて設置したものである
ことは当事者間に争いがない。
二 (一)また原告らが、別紙第三時間外勤務明細一覧表年月日欄記載の日に、一
日八時間の勤務時間を超えて同表時間外勤務明細欄記載の時間職員会議に出席した
ことも次に述べる原告ら五名の分を除いて当事者間に争いがない。
(二) 原告A(原告番号18)、同B(同21)、同C(同23)および同D
(同24)が昭和四二年四月二七日にならびに同E(同30)が同年九月二七日に
各勤務校の職員会議に出席したことについては被告は否認しているので、このこと
について判断すると、原告主張事実を認めるに足りる証拠がないから、これら五名
の原告が右の主張の日に時間外に職員会議に出席したことを理由とする時間外勤務
手当の請求は以下の点について検討するまでもなく理由がないから棄却することと
する。
従つて、以下の検討は原告らのその余の請求についてなすものである。
三 そこでまず、職員会議に出席することが原告らの職務であるかどうか、原告ら
が職員会議に出席したのがそれぞれの勤務校の校長の指示(職務命令)によつたも
のであるかどうかを順次検討することにする。
(一) 証人Iの証言および原告J(原告番号57)の本人尋問の結果によれば、
昭和四二、三年頃のK町立K小学校(前記のとおり原告番号38ないし72の原告
らが勤務している小学校である。)における職員会議の運用の実態について次の事
実が認められ、これに反する格別の証拠はない。
1 職員会議には月に一度定期的に開催される月例のものと必要に応じて開催され
る臨時のものとがあり、しばしば月に二、三回開催されていた。
2 職員会議の召集権者は校長であり、召集の通知は、通常職員室の黒板に開催の
日時を記載することによつてなされていたが、時には口頭の通知によつてなされる
こともあつた。
3 職員会議の出席者は、校長、教頭、教員および事務職員であつたが、事務職員
を除いて校務その他格別の用事のないものは全員出席する建前であり、実際にも格
別の用事がないのに欠席するものはなかつた。司会は教員が輪番で担当し、議長な
いし進行係の役割を果たしていた。
4 職員会議の議題は、概略的にいえば、年度はじめのものであれば各職員の校務
の分掌の確定、年間の行事計画の決定、学校運営の基本方針の樹立等であり、月例
のものであれば翌月の行事計画の確定等が主たるものであつたといえる。これを内
容的にさらに若干細別してみると、第一に、本来校長の職務権限に属する入退学、
進級、懲戒等生徒に対する処分に関する事項および対内的、対外的な通知確認事務
に関する事項、第二に、本来各教員の職務権限に属する生徒に対する授業、生活指
導、健康指導、運動会、文化祭その他の教育活動に関する事項ならびに第三に、本
来誰の職務権限に属するということもないが、学校予算についての要望や父兄会に
対する各職員の対処方法等々学校運営上重要な事項の三つに分類される。これら
は、要するに、学校運営および教育活動を円滑かつ効果的に行ううえで重要な諸問
題のすべての事項にわたることになり、これらの事項が職員会議の審議の対象とさ
れていた。また、職員会議は前記の事項についての討論決議の場であつたのみなら
ず、各種の学校事務についての報告連絡等の場でもあつた。
5 職員会議の結果は学校の公式の簿冊である職員会議録に記載され、その決定事
項は校長の学校運営に際してはもちろん教員が各種教育活動をする際にも尊重され
ており、事実上一種の拘束力を有していた。
6 職員会議は、通常授業の終了したいわゆる放課後である平日の午後三時ないし
三時半ころから始まり、正規の勤務時間内に終ることを建前としていたが、一時間
ないし一時間半くらい正規の勤務時間を超えて行なわれることが多かつた。勤務時
間を超えて続行する際には司会者が続行することについて出席者の意向を打診した
こともあつたが、通常出席した教員はもとより校長からも続行することについて格
別の異議が申し立てられたことはなかつた。もつとも、近年本件類似の訴訟が全国
各地で提起されるや、校長はできる限り勤務時間内に終了するよう指導するように
なつた。正規の勤務時間を超えて職員会議が続行された場合、勤務時間の内外によ
りその審議内容、審議方法等に何らかの差異が生じることはなかつた。
(二) 以上はK小学校における職員会議の概略であるが、前記証拠によれば、K
小学校以外の原告らの勤務する学校における職員会議の内容や運営方法も右小学校
のそれとほゞ同様であつたことが認められ、これに反する格別の証拠はない。
(三) 職員会議については、現行法規上明確な規定がなく、その性格について一
義的に述べることは困難であるけれども、前記認定事実を総合すれば、少くとも原
告らの各勤務校において職員会議が学校運営上および教育活動上極めて重要な機能
を有し、必要不可欠な機関であつたことは疑う余地がなく、たまたま何らかの事情
である教員が欠席した場合には当該職員の教育活動に支障を来たすおそれがあるこ
とは十分予想されるのであつて、いわんやこれに出席することが教員の職務でな
く、出席すると否とが各自の任意であるとして、すべての教員が欠席するようなこ
とになれば、学校運営上および教育活動上著しい支障が生ずることはいうまでもな
い。このように考えてみると、教員が職員会議に出席することは児童、生徒の教育
のために不可欠のものであるというべく、「児童、生徒の教育を掌る」ことを職務
とする(学校教育法第二八条第四項、第四〇条参照)原告ら教員の職務の範囲に含
まれていると解するを相当とする。
そして、勤務時間の内外によつて職員会議の内容、運営方法等に何らの差異も生じ
なかつたことは前記認定のとおりであるから、教員が正規の勤務時間を超えて職員
会議に出席した場合、正規の勤務時間内の場合と同様職務として出席しているもの
と解するを相当とする。
(四) そして、職員会議が前記認定のような内容および運営方法をもつものとす
れば、それは、学校教育法第二八条第三項または第四〇条の規定により校務を掌理
する校長がその権限により必要に応じて召集し主宰していたものと解するほかはな
いから、原告らは当該勤務校の校長の召集に基づく明示的ないし黙示的な職務命令
に従つて職員会議に出席していたと認めるを相当とし、このことは勤務時間の内外
を問わず妥当する。勤務時間を超えて職員会議を続行する際、司会者が出席者の意
向を打診し、これに対し出席していた教員が異議を述べず、または積極的に同意し
て続行された場合であつてもこのことから、直ちに正規の勤務時間を超える職員会
議への出席が教員のまつたく任意の自発的奉仕行為であると解するのは相当でな
い。正規の勤務時間を超えて職員会議が続行された場合において、これを召集し主
宰している校長が続行につき異議を述べたり終了を宣言するなどして勤務時間を超
えて職員会議に出席すべき命令を出さないことを明らかにしないかぎりは、教員
は、校長の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの明示的ないし黙示的な職務命
令に従つて職務として時間外勤務をしていたものと認めるを相当とする。
(五) ちなみに、法令上校長に正規の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの
職務命令を発する権限があつたかどうか、又このような命令に教員が従う義務があ
つたかどうかという問題は、本件の時間外勤務手当の請求の可否を決するうえでは
重要な問題ではない。すなわち、本件においては、本件時間外勤務が時間外勤務手
当を支給すべき労働であるか否かだけが問題なのであるから、正規の勤務時間を超
えて職員会議に出席することが教員の正当な職務に含まれているかどうかおよびそ
の出席が校長の事実上の職務命令によつたものであるかどうかだけを検討すれば十
分である。
(六) よつて、原告らの本件時間外勤務は各勤務校の校長の職務命令によつたも
のと認められる。
四 ところで、校長は、「校務を掌り、所属職員を監督する」権限を有する(学校
教育法第二八条第三項、第四〇条参照)各学校における最高管理権者であるから、
上司として所属教員に対し労務管理事務を行うものであるということができる。し
たがつて、法令上校長が教員に対し時間外勤務命令を発する権限を有しているかど
うかに関係なく、事実上上司である校長から指示命令を受け、事実上これに拘束さ
れることがありうる教員について、労働基準法上の諸権限を享受させるためには、
校長は同法第一〇条にいう「使用者」に該当すると解しなければならない。
五 つぎに、被告は、本件のような時間外勤務については教員は時間外勤務手当請
求権を放棄するないしは行使しないという事実たる慣習があると反論しているの
で、これについて検討する。
(一) まず、公立学校の教員が労働基準法の制定施行された昭和二二年以来今日
まで時間外勤務手当請求権を行使しなかつたかどうかについて検討することとす
る。
原本の存在およびその成立に争いのない甲第一号証および乙第一号証ならびに証人
Iの証言および原告J本人尋問の結果によれば、昭和四〇年前後まで原告らも含め
て公立学校の教員は明確かつ具体的に時間外勤務手当請求権を行使したことは殆ん
どなかつたこと、しかし、これは公立学校の教員の間に時間外勤務手当請求権は行
使しないという通念があつたことに由来するのではなく、ただ国ないし地方公共団
体が時間外勤務手当についての予算措置を講ぜず、また若干なりともあつた支払い
の要望に対してもまつたく支払おうとしなかつたことおよび一部については支払義
務者が誰であるか必らずしも明らかと言い難かつたこと等に由来するものであつ
て、公立学校の教員の時間外勤務手当請求権を如何に扱うかは昭和二五、六年ころ
から今日まで国、各地方公共団体と教員間の懸案になつていたこと、この状況を北
海道についてみると、昭和四六年現在で約三万人の組合員を有し、北海道における
教員の大半が加入していると推測される北海道教職員組合において組合員の時間外
勤務手当支払要求が組織化されたのは昭和二七年ころであり、同組合の執行部が北
海道教育委員会に対する教育予算および賃金についての要求中に時間外勤務手当の
支払いを具体的かつ明確に位置づけて要求したのは昭和三八年ころであり、以来同
組合は今日まで時間外勤務手当の支払いについて要求、交渉を続けていることが認
められる。乙第一号証中以上の認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右
する証拠はない。
右認定事実によれば、公立学校の教員が従来時間外勤務手当請求権を行使したこと
がなかつたとは断じ難く、まして被告の主張するような事実たる慣習の存在を認め
ることはできない。
(二) 仮りに従前時間外勤務手当の支払がなされたことがないことをもつて、被
告の主張する事実たる慣習があつたものと認められるとしても、労働条件の基準を
定める労働基準法の規定が強行法規であることは、同法第一三条の規定によつて明
らかであるから、時間外労働に関する割増賃金の支払義務を定める労働基準法の規
定は公の秩序であつて、これに反する慣習は効力を有しないものというべきであ
る。(最高裁昭和四七年四月六日第一小法廷判決参照)
六 そうすると、原告ら公立学校の教員については、教育公務員特例法第三条、地
方公務員法第五八条によつて労働基準法第三七条の規定が適用されることになるか
ら、原告らは、本件時間外勤務につき時間外勤務手当請求権を有することになるの
で、次に、その支払義務者が誰であるかを検討することとする。学校教育法第五条
によれば、学校の設置者は法令に特別の定のある場合を除いてはその学校の経費を
負担することと定められており、教員の時間外勤務手当が学校の経費に含まれるこ
とは明らかである。そして、市町村立学校職員給与負担法第一条によれば、市町村
立学校の教員に支給すべき本俸および予想される殆んどの各種諸手当は各都道府県
の負担とする旨規定しているところからみれば、時間外勤務手当も都道府県の負担
となるのではないかとの疑問が生じないわけではない。
しかし、時間外勤務手当については、同条がわざわざ教員に対するものを除外して
事務職員に対するもののみを各都道府県の負担とする旨規定しているところからみ
れば、同法は教員の時間外勤務手当については都道府県の負担とする趣旨ではない
ものと解される。当事者間に争いのない事実すなわち、北海道人事委員会が市町村
立学校の教員に支給すべき時間外勤務手当は各市町村において負担すべきであつて
北海道が負担すべきものでないと判定(昭和三八年((措))第八号)しているこ
とも右の解釈に符合するものである。そして、他に教員の時間外勤務手当の負担者
を定めた法令は存在しない。
そうすると本件時間外勤務手当は原告らの各勤務校の設置者である被告が負担すべ
きこととなる。
七 次に原告らのそれぞれの時間外勤務手当額を算出することとする。
原告らに対する本件時間外勤務に対する一時間当りの手当額が別紙第三時間外勤務
明細一覧表の単価欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
また、原告らに対する時間外勤務手当の算出方式が、原告らの主張する北海道人事
委員会規則に定める時間計算方式によること、右方式によれば、本件時間外勤務が
これに対する手当額の算出上前記一覧表時間数欄記載の整数として計算されること
は、当事者間に争いがない。
よつて、本件時間外勤務に対する原告らの時間外勤務手当額を右の計算方法により
計算すると、別紙第二債権目録時間外勤務手当欄記載のとおりとなる。
八 次に、附加金請求について判断する。
被告が原告らに対し、前記の時間外勤務手当を支払つてないことは弁論の全趣旨に
より明らかであり、また支払わなかつたことについて格別の正当性を認めるべき証
拠はないから、労働基準法第一一四条によつて被告は原告らに対し右時間外勤務手
当と同額の附加金を支払うべき義務があると認められるところ、原告らのうち附加
金の一部請求をしているものがあるので、これらの原告に対してはその請求の範囲
内で附加金の支払いをなすことを被告に命ずることとするから、結局、被告は原告
らに対し別紙第二債権目録附加金欄記載の附加金を支払わなければならないことと
なる。
九 最後に、時間外勤務手当および附加金に対する遅延損害金につき考える。
まず、時間外勤務手当支払義務が遅くとも本件訴状送達の時までに履行遅滞に陥つ
ていることは明らかである。
けれども、附加金支払義務がいつ履行遅滞に陥るかについては疑義があるので、こ
れにつき検討する。
結論をさきにいえば、当裁判所は、労働基準法第一一四条所定の附加金支払義務
は、使用者が同法所定の解雇予告手当等の支払義務を正当な理由なくして履行しな
い場合において労働者が附加金の支払を裁判所に請求した時点から遅滞に陥るもの
と解する。その理由は次のとおりである。
労働基準法第一一四条が附加金の支払を認めた趣旨は、主として同法所定の解雇予
告手当等の支払義務の不履行に対して使用者に一般の遅延損害金のほかに附加金の
支払義務を課することによつて解雇予告手当等の支払を確保しようとすることにあ
り、この意味において附加金は一種の民事的制裁の性質を有するものということが
できよう。しかし、同条は、これに加えて、解雇予告手当等の支払義務の不履行に
よつて一般の遅延損害金では償い得ない損害が労働者に発生することを想定し、こ
れをてん補するものとして附加金の支払を使用者に命じたものと解することがで
き、この意味では附加金は損害賠償の性質を有すると考えられ、結局附加金は民事
的制裁の性質とともに損害賠償の性質をもあわせ有するものと解するのが相当であ
る。このように考えると、損害賠償という私法上の債務としての性質をも有する附
加金が裁判所の命令によつて始めて発生すると解することは、通常の私法上の債務
のあり方としてきわめて異例の事態であつて妥当ではなく、附加金請求権は裁判所
の命令以前に存在するものと解さなければならない。そして、同条が「裁判所
は、・・・・・・・・・労働者の請求により、・・・・・・・・・附加金の支払を
命ずることができる。」と規定している点からみると、附加金請求権は、解雇予告
手当等の不払があつても当然に発生するものではなく、労働者が附加金の支払を裁
判所に請求して始めて発生し、、その時以降遅滞に陥いるものと解するのが相当で
ある。もつとも、最高裁判所昭和三五年三月一一日判決(民集一四巻三号四〇三
頁)は、「労働基準法一一四条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わ
ない場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を
命ずることによつて、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基
準法二〇条の違反があつても、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者
の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立
をすることができないものと解すべきである。」と判示しており、附加金支払義務
は裁判所が支払を命じることによつて初めて発生するものとしたもののように解さ
れないでもないけれども、同判決は使用者が予告手当を支払つた後に附加金請求の
申立てをしたのに対しこれを排斥した事案に対するものであつて、本件に適切なも
のとはいえず、当裁判所の前記の見解は右の最高裁判所の判決に牴触するものでは
ないと考えられる。ひるがえつて、実質的に考えても、附加金請求権が裁判所の支
払命令によつて初めて発生するものとすれば、本件のように労働者が解雇予告手当
等とあわせて附加金請求の申立てをしている場合に、使用者が口頭弁論終結間際に
なつてから解雇予告手当等を支払つたときには附加金の請求は棄却せざるを得ない
結果となり、前記の附加金制度を設けた趣旨からみてその不当なることはいうをま
たない。これに対し、当裁判所の前記のような見解をとれば、労働基準法の規定の
文言にも適合し、また附加金制度の趣旨にも適合するのである。
一〇 結論
そうすると、被告は、原告らに対し、時間外勤務手当および附加金として別紙第二
債権目録合計欄記載の金員およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上
明らかな昭和四三年八月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損
害金の支払義務がある。よつて、原告らの請求は、この限度で理由があるからこれ
を認容することとし、原告A、同B、同C、同Dおよび同Eのその余の請求を棄却
することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条ただし書を適
用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 新海順次 今井 功 伊藤 剛)
(別紙省略)

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