弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人及び弁護人柘植欧外提出の各控訴趣意書記載の通りであ
るから之等を茲に引用する。
 弁護人の控訴趣意第一点について。
 原審検事は昭和三十年二月二十二日付起訴状により被告人は(中略)共謀の上同
年二月十日松阪市a町b番地Aの居宅並びにその隣家のB方で二㏄アンプル入覚せ
い剤注射液九百七十二本を所持していた旨の訴因に対し、覚せい剤取締法第十四条
第一項第四十一条第二号を適用すべきものとして起訴し、次いで昭和三十年四月五
日付起訴状により被告人は(中略)共謀の上常習として(第一)同年一月七日頃か
ら同年二月二日頃迄の間接続して前後約七回に亘り大阪市c区d町e町fのg番地
CことC方その他で同人から二㏄、四㏄アンプル入覚せい剤注射液を取混ぜ合計約
二千四百五十本を一本につき代金二㏄入は七円五十銭、四㏄入は十五円の割で譲受
け、(第二)同年一月七日頃から同年二月十日頃迄の間接続して前後約百八十五回
に亘り松阪市a町b番地の居宅でDことD外十八名に対し二㏄、四㏄アンプル入覚
せい剤注射液を取混ぜ合計約千三百八十二本を一本につき代金二㏄入は二十五円、
四㏄入は五十円の割で販売譲渡した旨の訴因に対し、覚せい剤取締法第十七条第三
項第四十一条第一項第四号第四項を適用すべきものとして起訴し、原審は右第一次
第二次起訴の各公訴事実とするところを併合審判したものであり、其の間何等訴因
罰条の追加変更等の手続を経由しないで、右第一次第二次の公訴事実を包括して常
習の覚せい剤取締法違反の一罪と認定し(原判決第一事実中昭和二十九年二月十日
とあるは昭和三十年二月十日の誤記と認める)之に対し覚せい剤取締法第十四条第
一項第十七条第三項第四十一条第一項第二号、第四号第四項を適用して被告<要旨>
人を処断したことは記録上明らかである。そこで原審は前示の如く検察官が第一次
の公訴事実を非常習として起訴したのに対し、何等訴因罰条の追加変更等の
手続を経ないで第二次の常習の公訴事実と共に包括して重き常習の一罪と認定した
ことの当否につき案ずるに、斯くの如き起訴の形式の下に原判決認定の如き判決が
なされるには予め刑事訴訟法第三百十二条により第一次起訴の訴因を第二次起訴の
事実を附加した包括的常習の一罪と変更すること及び第二次の起訴に対し同法第三
百三十八条の公訴棄却の裁判を為すことも考えられるが、本件は当初から原審にお
いて右第一次第二次の起訴にかかる公訴事実を併合して審理したものであり、第一
次の非常習の訴因をその儘常習に事実認定したものでなく(非常習の訴因を常習と
認定するについては訴因変更の手続を要することは論をまたない)、第一次の非常
習の訴因を第二次の常習の訴因に附加して審理した上包括して常習の一罪と認定し
たものであるから、その間被告人の防禦に何等不利益を生じたことも又生ずべき虞
のあつたこともなく、而も検察官が二個の事件として二回に亘り公訴を提起したと
きは、仮令裁判所が審理の結果一個の事件と認定したとしても、起訴の際は夫々適
法な手続であつたのであり、且つ各起訴後の原審の併合審判の経過に鑑みれば一個
の公訴事実につき二個の有罪判決を生ずべき危険は全然あり得なかつたものである
(原審の審理に際し被告人の側から如上の危険につき異議その他如何なる形式にお
いても主張されたこともない)。従つて原審が前記の如き訴因変更又は公訴棄却の
方法に出なかつたころに非難すべき点なく、又原審が所論の如く公訴提起なき事実
乃至審判の請求を受けない事件につき判決をしたことにならないことも当然であ
り、この点に関する論旨は理由なく採用できない。
 同第二点について。
 原判決が証拠として挙示する供述調書及びその他の書面につき刑事訴訟法第三百
二十六条の同意を得ていないことは所論の通りである。然しながら原審第二回(昭
和三十年四月十三日)公判調書によれば原審は本件を簡易公判手続により審判した
ことは明らかであり。而して同法第三百二十条第二項によれば簡易公判手続によつ
て審判する旨の決定をした事件の証拠については同条第一項の規定の適用を排除し
てるから、書面を証拠とするにつき同意の有無を取調べる必要がないことは明らか
であり従つて論旨は理由がない。
 同第三点及び被告人の控訴趣意(量刑不当)について。
 本件記録によれば本件犯罪は被告人がその実母に該る原審相被告人Aを勧誘し同
人と共謀の上、同人をして原判示の如く覚せい剤を販売させたものであること、被
告人は右覚せい剤を直接製造元から仕入れたことを認めることができ、この事実と
犯罪の回数、取扱つた覚せい剤の数量その他諸般の事情を考察すれば動機や家庭の
事情につき幾多同情すべき点があるけれども、原判決の量刑は相当であつて、加重
のものではなく、又Aとの刑の均衡を破るものでもなく、論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却し、尚訴訟費用の負担に
つき同法第百八十一条第一項本文を適用し、
 主文の通り判決する。
 (裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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