弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 論旨は、原判決が本件農地を控訴人(上告人)の自作地ではなく、小作地である
と認定した事実認定を非難するに帰し、上告適法の理由と認められない。
 同第二点について。
 原判決は、「D村農地委員会が、本件農地について小作人の請求がないのに拘ら
ずその請求があつたものとして改正前の自作農創設特別措置法附則二項、同法施行
令四三条により昭和二〇年一一月二三日現在の事実に基いて買収計画を定めたこと、
並びに、被控訴(被上告)委員会が同令四五条を適用して本件買収を相当と認め控
訴人(上告人)の訴願を容れない旨の裁決をしたものであること」を認定した上、
「右のような事実関係においては、本件農地については右附則二項、同令四三条の
規定を適用すべきものではなく、従つて、D村農地委員会が、同法条により買収計
画を定めた手続は違法であるから、被控訴委員会はこの点を是正して裁決すべきで
あつたに拘らず、この点を判明させないで漫然改正前の同法施行令四五条を適用し
て裁決したことは妥当でない」と判断しながら、しかも、行政事件特例法一一条を
適用して控訴人(上告人)の主張を排斥したことは所論のとおりである。そして、
右特例法一一条二項によれば、同一項の規定による裁判には、処分が違法であるこ
と及び請求を棄却する理由を明示しなけれはならないものである。しかるに、原判
決は、単に一般的に農地買収は公共の福祉のためになされるものであるから正に同
法条を適用すべき場合に該当するものと解するを相当とする旨説示しただけで、具
体的に本件について処分は違法であるが、処分を取り消し、又は変更することが公
共の福祉に適合しない理由について何等首肯するに足りる理由を示していないので
ある。従つて、原判決は、この点において失当たるを免れない。しかし、改正前の
自作農創設特別措置法附則二項によれば、三条一項の規定による農地の買収につい
ては、市町村農地委員会は、相当と認めるときは、「命令」の定めるところにより、
昭和二〇年一一月二三日現在における事実に基いて六条の規定による農地買収計画
を定めることができるものである。そして、右「命令」である同法施行令四三条は、
右期日現在における小作農が農地買収計画を定めるべきことを請求したときは、市
町村農地委員会は、当該小作地につき附則二項の規定により同日現在の事実に基い
て買収計画を定めなければならないと規定し、また、同令四五条一項は、同条所定
の農地については、市町村農地委員会は、同法附則二項の規定により同日現在の事
実に基いて農地買収計画を定めることの可否につき審議しなければならないと規定
しているだけであるから、同令四三条による場合と同令四五条による場合とによつ
て、市町村農地委員会が買収計画を相当と認める理由を異にするものとは認められ
ない。従つて原判決が同令四三条により定めたと認定したD村農地委員会の本件買
収計画を被上告委員会が同令四五条を適用して相当と認め上告人の訴願を容れない
旨の裁決をしたことは違法であるとはいえない。されば、上告人の主張を排斥した
原判決は、前記理由に依れば失当であるけれども、右の理由により結局正当に帰す
るから、論旨は採用できない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が訴外Eにおいて村農地委員又は県農地委員として本件農地買収
事件に関与するにあたり特に偏頗な措置をし又は公正を欠く取扱をした事実が認め
られないとした事実認定を誤認であるというに帰し、上告適法の理由と認め難い。
また、原判決がなした「右訴外人は本件D村農地委員会が昭和二二年八月一六日樹
立した本件買収計画当時同委員会の委員と広島県農地委員会の委員とを兼職してお
り、本件農地買収異議の採否に関与したことは当事者間に争ないところであるが、
昭和二二年政令一三七号四三条の二、附則二項、三項の規定により同年八月三一日
まで右兼職が法律上認められていたこと明らかであるから、兼職の一事を以て右関
与が違法であるといえない旨、並びに、同訴外人は同年八月一七日同村農地委員会
の委員を辞任したことが認められるから、同訴外人が本件訴願申立のあつた同年九
月六日以後県農地委員会の委員として本件訴願事件に関与したことも適法である旨」
の判示は、当裁料所においてもこれを正当であると認める。
 同第四点について。
 自作農創設特別措置法は、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受
させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し、以
て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする法律
であることは、同法一条の規定によつて明らかである。されば、同法による農地の
買収並びに売渡は、憲法二九条三項にいわゆる「私有財産を公共のために用ひる」
ことに該当すること多言を要しない。また、同法六条三項本文の買収対価は、憲法
二九条三項にいわゆる「正当な補償」にあたることは、当裁判所の判例とするとこ
ろである(昭和二五年(オ)九八号同二八年一二月二三日民事判例集七巻一三号一
五二三頁以下大法廷判決参照。)。それ故、所論は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は、論旨第四点後段の点につき裁判官井上登、同真野毅、同斎藤悠輔、
同岩松三郎の反対意見(前掲大法廷判決中の反対意見と同一)を除く外裁判官全員
一致の意見によるものである。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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