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平成27年6月24日判決言渡
平成26年(行ケ)第10143号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年4月22日
判決
原告株式会社エアウィーヴ
訴訟代理人弁護士塩月秀平
同水戸重之
同根本浩
同田代啓史郎
同髙梨義幸
訴訟代理人弁理士稲葉良幸
同鎌田徹
同深澤拓司
同髙村和宗
同津田拓真
被告株式会社シーエンジ
訴訟代理人弁護士岩瀬吉和
同後藤未来
同福田一翔
訴訟代理人弁理士小野誠
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2013-800208号事件について平成26年4月30日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁による手続の概要(争いがない。)
被告は,平成24年2月3日,発明の名称を「立体網状構造体製造方法及び立体
網状構造体製造装置」とする特許出願(特願2012-22551号。出願日を平
成13年3月16日とする特許出願(特願2001-76171号)の分割出願。)
をし,平成25年5月17日,設定の登録(特許第5270014号。請求項の数
は2。)を受けた(以下,この特許を「本件特許」といい,明細書及び図面を併せて
「本件明細書」という。甲20,21)。
原告は,平成25年11月1日,特許庁に対し,本件特許の請求項1及び2に記
載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。
特許庁は,上記請求を無効2013-800208号事件として審理した結果,
平成26年4月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その
謄本を,同年5月12日,原告に送達した。
原告は,平成26年6月10日,上記審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2特許請求の範囲の記載(甲20)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,
同請求項1及び2に記載された発明を,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」
といい,これらを併せて「本件発明」という。)。
【請求項1】
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスか
ら下方へ押し出し,
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自
然降下させ,
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み,
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが,水
没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する,
立体網状構造体製造方法において,
前記無端コンベアが,複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したも
のであり,
前記板材の隙間に水が流れることを特徴とする立体網状構造体製造方法。」
【請求項2】
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスか
ら下方へ押し出し,
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自
然降下させ,
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み,
前記押出された線条の集合体の幅より前記無端コンベアの間隔が狭く設定され,
前記無端コンベアが,水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する,
立体網状構造体製造装置において,
前記無端コンベアが,複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したも
のであり,
前記板材の隙間に水が流れることを特徴とする立体網状構造体製造装置。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その概要は,①本件
発明1は,(ⅰ)特開平11-241264号公報(甲1。以下「甲1公報」とい
う。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)とは,後記相違点1において,
(ⅱ)特開2000-328422号公報(甲2。以下「甲2公報」という。)に記
載された発明(以下「甲2発明」という。)とは,後記相違点2において,それぞれ
相違し,甲1発明又は甲2発明に特開平8-226069号公報(甲3。以下「甲
3公報」という。)ないし甲5号証に記載されている事項を適用することの動機付け
は認められないし,「コンベヤ用語-種類」(JISB0140。甲11。以下
「甲11文献」という。)における種々の周知のコンベアに係る記載を参酌しても,
甲1発明又は甲2発明に,甲3公報ないし甲5号証に記載されている事項のいずれ
か一つを適用することで,当業者が容易に想到することができたものとはいえない,
②本件発明2は,本件発明1とはカテゴリーの違いを除けば同一であるので,本
件発明1と同様に,甲1発明又は甲2発明に,甲3公報ないし甲5号証に記載され
ている事項のいずれか一つを適用することで,当業者が容易に想到することができ
たものとはいえないというものである。
また,原告は,当該審判において,③「無端コンベアが,複数の金属製の板材
を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れること」が,
発明の詳細な説明に記載されていないから,特許法36条6項1号に違反する,④
「板材の隙間に水が流れること」は出願当初明細書に記載されていないから,これ
を追加する補正は出願当初の明細書の記載の範囲内でされたものではなく,同法1
7条の2第3項に違反する,とそれぞれ主張したが,審決は当該各主張をいずれも
排斥した(なお,原告は,上記③及び④については,本件訴訟において取消事由と
して主張していない。)。
4審決が認定した甲1発明の内容並びに本件発明1と甲1発明との一致点及び
相違点(争いがない。)
(1)甲1発明の内容
「溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズル4から下方へ押し出し,
一対が間隔をあけて対向しほぼ垂直に設置された無端ベルトコンベアー1の間に
複数のノズル4を有するダイス2から押し出した前記熱可塑性樹脂を自然降下させ,
無端ベルトコンベアー1が降下速度より前記熱可塑性樹脂を遅く引き取り,
前記押し出された熱可塑性樹脂の束の幅より狭く設定された無端ベルトコンベア
ー1が,水没する熱可塑性樹脂の束の二面に接触する,
立体網状構造体の製造方法。」
(2)本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
審決が認定した本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりであ
る。
ア一致点
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスか
ら下方へ押し出し,
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自
然降下させ,
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み,
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが,水
没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する,
立体網状構造体製造方法。」
イ相違点
無端コンベアに関し,本件発明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を
開けて連結したものであり,前記板材の隙間に水が流れる」のに対し,甲1発明で
は,ベルトコンベアである点(以下「相違点1」という。)。
5審決が認定した甲2発明の内容並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び
相違点(争いがない。)
(1)甲2発明の内容
「溶融温度に保持した熱可塑性PLA樹脂の溶融線条2を複数のオリフィスを持つ
多列ノズル5より下方へ向けて吐出し,
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置されたネットである引き取り装置7の間
に多列ノズルから吐出された溶融線条2を降下させ,
引き取り装置7が落下速度より溶融線条のループ径の弛み分だけ遅く引き取り,
吐出された溶融線条2が接合した網状の三次元構造体3を形成し,
オリフィスの有効幅よりネット間の間隔が狭く設定された引き取り装置が,水没
する三次元構造体3の二面に接触する,
網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法。」
(2)本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点
審決が認定した本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は,次のとおりであ
る。
ア一致点
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスか
ら下方へ押し出し,
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自
然降下させ,
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み,
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが,水
没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する,
立体網状構造体製造方法。」
イ相違点
無端コンベアに関し,本件発明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を
開けて連結したものであり,前記板材の隙間に水が流れる」のに対し,甲2発明で
はネットである点(以下「相違点2」という。)。
第3原告主張の取消事由
1取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)
(1)本件発明1と甲2発明との実質的相違点
原告は,相違点2に係る審決の認定について,特段争うものではないが,次のと
おり補足する。
甲2発明において引き取り装置として開示されている「ネット」とは,「ネットコ
ンベア」,すなわち金網を用いたチェーンコンベアを意味する。また,本件発明1に
おける無端コンベアは,一条又は数条のチェーンにスラットを連続的に取り付けた
チェーンコンベアである「スラットコンベア」に該当する。
そして,ネットコンベアを水中で用いた場合に,ネット状に連結された金属製の
線条の隙間に水が流れることは当然であるから,本件特許の原出願日の時点におけ
る技術常識を考慮すると,本件発明1と甲2発明との実質的な相違点は,無端コン
ベアに関し,本件発明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結
したもの」(スラットコンベア)であるのに対し,甲2発明では「複数の金属製の線
条をネット状に隙間を開けて連結したもの」(ネットコンベア)である点にすぎない。
(2)甲2発明及び周知慣用技術に基づく本件発明1の容易想到性
アネットコンベアとスラットコンベアは,本件特許の原出願日の時点において,
いずれもきわめて広く一般的に知られていた周知慣用技術である。このことは,平
成5年8月31日に財団法人日本規格協会が発行した甲11文献において,スラッ
トコンベアとネットコンベア(「金網チェーンコンベア」の慣用語。)が,いずれも
チェーンコンベアの一種として認定されていることからも明らかである。
実際,ネットコンベアは,物の搬送に用いられるだけではなく(甲11),熱可塑
性樹脂からなる立体網状構造体の製造工程における引き取りや成形工程にも用いら
れている(甲2,28)。また,スラットコンベアも,物の搬送のみならず(甲5,
11),繊維製品の圧縮・成形工程(甲3)や空き缶を圧潰する工程(甲29)に用
いられている。さらに,ネットコンベアやスラットコンベアが相互に代替可能なも
のとして水中で用いられ得ることも公知であった(甲30)。そうすると,甲2発明
のネットコンベアに代えて,スラットコンベアを含む他のコンベアの利用を試みる
ことについては,既に十分な示唆・動機付けがあるというべきであるし,ネットコ
ンベアからスラットコンベアへの置換も容易である。
したがって,当業者であれば,甲2発明のネットコンベアに代えて,本件特許の
原出願日の時点において周知となっているコンベアの中からスラットコンベアを採
用することは,単なる公知材料の中から最適材料の選択,均等物による置換及び設
計変更にすぎず,容易に想到し得る事項である。
イまた,甲2発明のネットコンベアは,「引き取り装置」として開示されている
ものであるが,これはネットコンベアに限定されているものではないから,甲2公
報に触れた当業者が,「引き取り」機能を有する「装置」として,ネットコンベアと
類似の構造を有し,同様の機能を果たし得るような他のコンベアを,本件特許の原
出願日の時点において周知となっているコンベアの中から選択し,採用することは,
まさに最適材料の選択行為にほかならない。この点,甲2発明において開示されて
いる引き取り装置としてスラットコンベアを用いる場合であっても,コンベアを駆
動させる基本的構成を変更する必要は生じないし,スラットコンベアは,ネットコ
ンベアと同じ金属製であり,その表面も同等の接触性を有するように容易に設計し
得る。したがって,甲2発明の目的や製造方法を考慮しても,甲2発明のネットコ
ンベアに代えてスラットコンベアを用いることは容易に想到し得る。
ウさらに,審決は,本件発明1は,「無端コンベアが,複数の金属製の板材を上
下方向に隙間を開けて連結したものであり,前記板材の隙間に水が流れる」という
構成を用いたことによって,「甲2発明の『ネットである引き取り装置』とは異なる
効果を奏する」と認定しており,この効果の認定が進歩性の認定に大きく寄与して
いるように思われる。
しかし,本件明細書の段落【0032】には,「ステンレスメッシュ(金網)等の
ベルト23でも良い」と記載されているから,ネットコンベアが本件発明1におけ
るスラットコンベアと同じ効果を奏するものであることは,本件明細書自身が自認
している。
また,ネットコンベアを水中で用いた場合には,ネット状に連結された金属製の
線条の隙間にも当然水が流れるのであるから,「板材の隙間に水が流れる」点や,こ
れによってもたらされる他の効果(例えば冷却効果など)が仮にあったとしても,
同じ効果は,甲2発明の「ネットである引き取り装置」にも生じているはずである。
加えて,撓みの観点からしても,甲2発明のネットコンベアも,同じ金属であるス
ラットコンベアと違いはなく,成形の精密さや寸法精度にも差異は生じない。しか
も,審決は,四面の同時成形の場合における効果を殊更強調しているが,本件発明
1は「無端コンベアが(略)線条の集合体の少なくとも二面に接触する」ことを内
容とする発明であるから,本件発明の効果の理解として妥当でない。
このように,相違点2によって,本件発明1は甲2発明と何ら別段の効果を生じ
るものではない。
なお,水が流れることによる冷却効果や,無端コンベアの撓みをなくすこと並び
に成形の精密さ及び寸法精度を向上させることは,本件明細書に記載がないか,又
は本件発明そのものの効果ではないから,進歩性の判断に参酌されることは許され
ない。
エ以上のとおり,本件発明1は,甲2発明における周知慣用技術を,別の周知
慣用技術に置換したにすぎないし,また,相違点2は,何ら効果に差異を生じさせ
るものではない。
よって,本件発明1は,甲2発明及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易に想
到し得たものであり,これと異なる審決の判断は誤りである。
(3)甲2発明及び甲3公報記載の発明に基づく本件発明1の容易想到性
ア本件特許の原出願日より前に頒布された甲3公報に記載された発明(以下「甲
3発明」という。)の技術分野は,熱可塑性樹脂の成形に関するものであって,スラ
ットコンベアは繊維製品の成形機として記載されている。すなわち,甲3発明にお
ける「スラットコンベア」は,熱可塑性樹脂を三次元に成形する工程で用いられる
ものであって,「成形機」としての作用,機能を果たしており,搬送機能にとどまる
ものではない。
また,審決は,その目的,機能や熱媒体の違いによってスラットコンベアの設計
は大きく異なると判断した。しかし,上記のとおり,甲2発明と甲3発明のコンベ
アの目的及び機能は同一である。そして,熱媒体の違いによってスラットコンベア
の設計が大きく異なることとなるとの判断は,甲2発明及び甲3発明の各明細書中
に一切根拠が示されていないばかりか,一般論としてもその根拠が不明である。
さらに,上記(2)ウのとおり,甲2発明においてネットコンベアに代えてスラット
コンベアを用いることにより,何ら効果に差異は生じない。
イこのように,甲2発明と甲3発明とは,技術分野が同一で,コンベアが成形
機としての作用,機能を果たしていることでも共通している。また,甲2発明にお
いては,単に「引き取り装置」との記載があるのみで,ネットコンベア以外のコン
ベアを用いることも示唆されており,少なくともそのことを排除していない。さら
に,ネットコンベアとスラットコンベアは,いずれもきわめて広く一般的に知られ
ていた周知慣用技術であるから,その置換に何ら阻害要因は見出せないし,甲2発
明において何らの効果の差異もない。
ウよって,本件発明1は,甲2発明及び甲3発明に基づき,当業者が容易に想
到し得たものであり,これと異なる審決の判断は誤りである。
(4)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1とカテゴリーの差異があるにすぎず,実質的には同一
の発明であるから,進歩性の判断は同一となり,本件発明2についても,本件発明
1と同様の理由に基づく取消事由がある。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)
甲1発明においては,ベルトコンベアの種類に何ら限定がないから,ベルトコン
ベアの一種である「金網ベルトコンベア」も甲1発明のベルトコンベアに含まれる。
そして,ネットコンベアを水中で用いることにより,ネット状に連結された金属製
の線条の隙間に水が流れることは当然であるから,甲1発明におけるベルトコンベ
アは,「複数の金属製の線条をネット状に隙間を開けて連結したベルトコンベアであ
り,前記ネット状に連結した金属製の線条の隙間に水が流れる」構成を含む。そう
すると,本件発明1と甲1発明の実質的な相違点は,無端コンベアに関し,本件発
明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したチェーンコンベ
ア」(スラットコンベア)であるのに対し,甲1発明では「複数の金属製の線条をネ
ット状に隙間を開けて連結したベルトコンベア」(金網ベルトコンベア)である点に
すぎない。
したがって,取消事由1と同様の理由により,本件発明1は,甲1発明及び周知
慣用技術又は甲3発明に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,審決の判
断は誤りである。また,本件発明2は,本件発明1とカテゴリーの差異があるにす
ぎず,実質的には同一の発明であるから,進歩性の判断は同一となり,本件発明2
についても,本件発明1と同様の理由に基づく取消事由がある。
第4被告の反論
1取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)について
(1)甲2発明及び周知慣用技術に基づく本件発明1の容易想到性について
ア原告は,甲2発明のネットコンベアに代えてスラットコンベアを用いること
は,単なる公知材料の中から最適材料の選択,均等物による置換及び設計変更にす
ぎず,容易に想到し得る事項であると主張する。
しかし,甲11文献の記載は,ネットコンベア(金網チェーンコンベア)とスラ
ットコンベアが搬送用のものとして知られていたことを示しているにすぎない。甲
2発明における「ネットである引き取り装置7」あるいはネットコンベアは,「押圧・
成形」機能を有していることが明らかであって,単なる搬送のためのチェーンコン
ベアとは目的及び機能が大きく異なっているから,甲2発明におけるネットコンベ
アをスラットコンベアに置換することが,単なる最適材料の選択等にすぎないとは
いえない。
また,甲3公報からは,上下側のスラットコンベアが繊維製品を搬送する機能を
有することはわかるものの,スラットコンベアの間隔を繊維製品の厚さよりも狭く
するとは記載されておらず,いわんや,スラットコンベアが繊維製品を「押圧・成
形」するとは一切記載されていない。さらに,甲3公報は,「押圧・成形」がスラッ
トコンベアよりも下流に配置した矯正ロール群によって行われることを明記してい
るのであるから,スラットコンベアにより「押圧・成形」機能を達成し得ることを
示唆するものでもない。
加えて,原告が指摘する実開平7-37492号公報(甲29。以下「甲29公
報」という。)及び実公昭47-36069号公報(甲30。以下「甲30公報」と
いう。)は,単にスラットコンベアが記載されているというだけであり,立体網状構
造体の製造方法とは全く関係のない技術分野に属するものである。
このように,甲2発明におけるネットコンベアをその他のものに置換する際には,
当然,その「押圧・成形」機能も考慮する必要がある。ましてや,スラットコンベ
アを用いることでコンベアの耐久性が向上し,更には成形を精密に行って寸法精度
を向上することが従来技術から自明ないし当然に予測できた効果であるとはいえな
いから,甲2発明におけるネットコンベアに代えてスラットコンベアを用いること
が,単なる公知の「搬送用コンベア」の中からの最適材料の選択等により行い得る
ものではない。
イまた,原告は,甲2公報に触れた当業者が,「引き取り」機能を有する「装置」
として,ネットコンベアと類似の構造を有し,同様の機能を果たし得るような他の
コンベアを,本件特許の原出願日の時点において周知となっているコンベアの中か
ら選択し,採用することは,まさに最適材料の選択行為にほかならないと主張する。
しかし,甲11文献には,ネットコンベアやスラットコンベアにつき,「引き取り」
機能を有する装置として用いることや,「押圧・成形」機能の点で共通することの記
載もその示唆もない。そして,甲2公報における高温のポリ乳酸樹脂からなる繊維
製品を挟み込む際,スラットコンベアとネットコンベアとでは,それぞれ異なる態
様で当該繊維製品の表面と接触することが明らかであるのに,原告は,スラットの
配置をどのように調整すれば,ネットコンベアと同等の接触性を有するようになる
のかについては,具体的根拠を挙げて説明していない。そうすると,甲2発明にお
けるネットコンベアをスラットコンベアに置換することは,当業者が容易に想到し
得るものではないというべきである。
ウなお,原告は,相違点2によって,本件発明1は甲2発明と比較して何ら別
段の効果を生じるものではないと主張する。
ここで,本件明細書の段落【0032】中のステンレスメッシュベルトとは,ス
パイラル(螺旋)とロッド(力骨)を組み合わせたものであり,甲2発明のような
単なる金網状のネットではない。単なる金網状のネットコンベアには力骨がないた
め容易に撓んでしまい,ベルト表面を水平に保つことが難しく,立体網状構造体の
成形が精密でなくなり,寸法精度も低くなるところ,本件明細書においては,力骨
を通したメッシュベルトの方が成形の精密性や耐久性が優れていることを明記しつ
つ,当該メッシュベルトとスラットコンベアにつき,同等の効果が得られることを
明らかにしたのである。
また,甲2発明におけるネットの隙間に水が流れることが当然であるとしても,
当該ネットコンベアに代えて甲3公報等に記載されているスラットコンベアを用い
た場合に,その板材と板材との隙間に水が流れることや,それによってもたらされ
る冷却効果については,甲2公報にも甲3公報等にも記載されていないから,当業
者が本件発明1においてそれと同様の効果が得られることを当然に予期できたとは
いえない。
したがって,本件明細書が,スラットコンベアとネットコンベアとが同じ効果を
奏することを自認しているという原告の主張は誤りである。
(2)甲2発明及び甲3発明に基づく本件発明1の容易想到性について
ア甲2発明は,無秩序な螺旋形状に複雑に絡み合った線条からなる立体網状構
造体の製造方法ないし装置に関するものであって,甲3公報記載の単なる熱処理成
形機とは異なる原理に基づいて,異なる形状の三次元構造体を製造するためのもの
であるから,両発明の技術的基礎が共通しているとはいえない。また,甲3公報に
は,同公報記載の成形装置において,スラットコンベアは,繊維製品を下流の矯正
ロール群へと搬送し,当該矯正ロール群で押圧・成形処理された繊維製品を更に搬
送するためのものであることが明記されている。
イかえって,甲3公報においては,スラットコンベアを備えた成形機では,繊
維製品に対し,横棧の隙間の幅に相当する部分にマークが付き易く,品質低下の要
因となっていることが解決課題であるとされており,甲3発明は,この課題を解決
するために,透孔性を有するエンドレスベルトを使用することを開示している。そ
うすると,甲3公報に接した当業者は,品質低下の要因となるスラットコンベアを,
甲2発明に敢えて適用しようと動機付けられることはない。
なお,本件発明によって製造された立体網状構造体には,上記のようなマークは
形成されない。これは,本件発明においては,線条が高温に曝される時間が短いこ
と,立体網状構造体が無端コンベアを構成する板材の隙間で冷却されること,熱媒
体が水であること,立体網状構造体が垂直方向に搬送されることによるものと推測
される。
ウそうすると,相違点2に係る構成は,甲3公報の記載から動機付けられるも
のとはいえない。そして,本件発明1の有利な効果につき,当業者が当然に予測で
きたものではないことも,上記(1)ウにおいて主張したとおりである。
(3)小括
したがって,原告が主張する取消事由1には理由がない。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について
そもそも,甲1発明におけるベルトコンベアを金網ベルトコンベアと同一視する
根拠はない。
そして,原告が主張するように,スラットの隙間に水が流れる点や,それによっ
てもたらされる冷却効果が,金網ベルトコンベアでも生じているのであれば,通常
の当業者は金網状のベルトコンベアを選択するはずであり,金網でないベルトコン
ベアや,ましてやスラットコンベアを選択する動機付けをむしろ阻害しているとも
いえる。
その他,取消事由1に関する反論と同様の理由により,相違点1に係る構成は,
甲3公報の記載及びその他の周知慣用技術から動機付けられるものではないし,本
件発明の有利な効果についても,当業者が当然に予測できたものではない。
したがって,原告が主張する取消事由2には理由がない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の各取消事由の主張はいずれも理由がなく,審決にはこれを取
り消すべき違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)について
(1)本件発明について(甲20)
本件発明は,クッション材等に使用する立体網状構造体製造方法及び立体網状構
造体製造装置に関するものである(段落【0001】)。
本件発明と同種の製造方法及び製造装置においては,熱可塑性樹脂を原料又は主
原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し,押出され
た線条の集合体の幅より狭く設定された間隔を置いて対向した一対のベルトコンベ
アの間に自然降下させ,無端コンベアによって降下速度よりも遅く引き込み水没さ
せることで立体網状構造体を製造している。しかし,従来の方法では,立体網状構
造体の束の両面部がベルトコンベアに接するため,実質的に表面がフラット化され
るが,束の左右端面はランダムな螺旋形状で,側面は横方向に波打つように不整列
となったり,ベルトコンベアに無端ベルトを使用していたため,無端ベルトが熱等
によって損傷しやすく耐久性に問題が生じるおそれがあるという課題があった(段
落【0002】及び【0004】)。
本件発明は,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め,異形形状への対応を
可能とし,耐久性を向上させた立体網状構造体の製造方法及び製造装置を提供する
ことを目的とするものである(段落【0004】)。
本件発明は,上記無端コンベアが,複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開け
て連結したものであり,当該板材の隙間に水が流れることを特徴としており,この
構成により,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め,耐久性を向上させるこ
とができる(段落【0024】)。
(2)甲2発明及び周知慣用技術に基づく本件発明1の容易想到性について
ア甲2公報(甲2)には次の記載がある(図1は別紙甲2公報図面目録のとお
り)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,熱可塑性ポリ乳酸樹脂からなる線条にて三次
元構造に形成され,優れた抗菌性及び防黴性と,生分解性とを有する抗菌防黴性ポ
リ乳酸構造体,及びその製造方法に関する。」
「【0018】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について詳述する。本発明の抗菌
防黴性ポリ乳酸構造体は,熱可塑性ポリ乳酸樹脂を主体としてなる線条が,繰返し
屈曲して接触部の大部分で接合した三次元構造体である。」
「【0024】(略)本発明の抗菌防黴性PLA構造体の主要な用途は生活資材,ク
ッション材,農業資材,土木資材などが例示でき,個々にはこれら用途に適合する
特性を付与することが望ましい。」
「【0032】図1に示すように,一般的な溶融押出機1を用い,所定のオリゴマー
成分を含有させた熱可塑性PLA樹脂を溶融し(又はオリゴマーを含有しないPL
Aを用いる場合は,オリゴマーをPLAと同時に定量添加しつつ好ましくは混練用
二軸溶融押出機にて溶融混練りしつつ),ギヤポンプ等で融点より10℃以上80℃
未満の溶融温度に保持した溶融物を複数のオリフィスを持つ多列ノズル5の背面に
所定量だけ供給する。溶融物はオリフィスより下方へ向けて溶融線条2として吐出
され,その下側で溶融状態にて繰返し屈曲されてループ等を形成しつつ,互いに接
触して接合し,三次元構造体3を形成する。これが,引取り装置7で挟み込まれ,
冷却槽6中の冷却水等にて冷却され,送りローラ8で水中から引き上げられ,更に
脱水,乾燥等が行われて,抗菌防黴性ポリ乳酸構造体が得られる。」
「【0038】ノズルより下方に向けて吐出された溶融線条2は,引き取り装置7の
ネットと接する位置で,引き取り速度と線条の落下速度の差を与えて,弛み分のル
ープ等を形成させる。また,引き取り装置7のネットで挟み込み,ループ等の形態
が緩和により変形しない時間内に,連続して冷却媒体(通常は室温の水を用いるの
が冷却速度が速く,コストも安価で好ましい)にて急冷固化させる。(略)」
「【0039】三次元構造体3の厚みはノズルのオリフィス有効幅とネットの開口幅
(引き取り装置のネット間の間隔)で決まる。オリフィス有効幅より引き取りネッ
トの開口幅を狭くして,表面の線条を45°以上折り曲げてフラット化すると構造
体表面が補強面となり,剛性の向上や耐久性が向上するので,より好ましい実施形
態となる。
【0040】通常はネットの開口幅はオリフィスの有効幅より-5~-10mm狭
くするのが好ましい。オリフィス有効幅より広くすると構造体に引き取り斑を発生
したり表面に凹凸を発生する傾向がある。凹凸を発生させる場合は引き取りネット
の搬出側の幅をオリフィス有効幅より狭くすることで引き取り斑を防止できる。引
き取り速度は線条の落下速度より少なくともループ径の弛み分だけは遅くする必要
があり,早すぎるとループ形成ができなくなったり接触点の接合が不充分になり好
ましくない。遅すぎると溶融線条が滞留しすぎて密度が高くなり過ぎるので,引き
取りネットの引き取り速度調整は吐出量と吐出線条の溶融粘度による落下速度との
バランスから所望の見掛密度に調整する。」
「【0060】実施例1
(略)ノズル下方に溶融状態の線条として吐出させ,ノズル面150mm下に冷却
水を配し,駆動軸で駆動する一対の平行に配した幅1400mmのステンレス製エ
ンドレスネットを持つ引取りコンベアを水面に一部出るようにして,平行部が35
mm間隔の開口幅となるよう配し,該溶融状態の吐出線条を曲がりくねらせループ
を形成しつつ互いに接触させて接合させ三次元構造を形成し,該溶融状態の三次元
構造体の両面を引取りコンベアーで挟み込みつつ,毎分2000mmの速度で2
5℃の冷却水中へ引き込み固化させ,両面をフラット化した三次元構造体を形成し
て引き出し,水切り後,連続して長さ2000mmに切断し,乾燥した。」
イ日本工業規格(JIS規格)の一つである「コンベヤ用語-種類」(JISB
0140。昭和47年12月1日制定,平成5年7月1日改正)に係る甲11文献
(甲11)には,主としてかさ物用コンベヤに関する用語として,「金網チェーンコ
ンベヤ」(別紙甲11文献図面目録の図30203)及び「スラットコンベヤ」(同
目録の図30205)が記載されている。なお,「金網チェーンコンベヤ」の慣用語
として,「ネットコンベヤ」が掲げられている。
ウ甲3公報(甲3)には,次の記載がある(図1及び8は別紙甲3公報図面目
録のとおり)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,熱融着繊維,樹脂綿等でなる繊維製品に熱処理を
施し,所定の厚み,硬さの製品(各工業用,車輪用,土木用,マット・ベッド等の
寝具用等の基礎繊維資材)を得ることができる熱処理成形機(以下,成形機とする)
に関する。
【0002】
【従来の技術】従来,この種繊維製品に熱処理を施し,前記製品を得る成形機とし
ては,通常スラットコンベアと称される成形機が市販されている。この成形機は,
図8に示す如く,多数の横棧をエンドレス状に設けてなるスラットコンベアを上下
側に配設し,この上側のスラットコンベアの上方に熱風供給装置を設け,また前記
下側のスラットコンベアの下方に排風吸込装置を設け,前記上下側のスラットコン
ベアの終端に矯正ロール群を設けてなる構成である。この構成を採用する成形機で
前記製品を得るには,先ず,繊維製品を,この上下側のスラットコンベア間に挿入
する。この繊維製品は,当該上下側のスラットコンベアの進行に伴って搬送される
とともに,その上側のスラットコンベアの上方より供給される熱風で順次熱処理さ
れる。この熱処理加工済み繊維製品は,続いて,上下側の矯正ロール群の押圧・成
形処理により所定の厚さ,硬さを有する製品に処理加工され,その後,前記上下側
のスラットコンベアより製品として送り出される。
【0003】また他の成形機としては,ワイヤーネットでなる上下側のネット式エ
ンドレスベルトを設け,この上側のネット式エンドレスベルトの上方に熱風供給装
置を設け,また前記下側のネット式エンドレスベルトの下方に排風吸込装置を設け,
前記上下側のネット式エンドレスベルトの終端に矯正ロール群を設けてなる構成
である。この成形機でも前述の例と,ほぼ同様に処理される。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記スラットコンベアを備えた成形機では,上下
側のスラットコンベアの横棧間に隙間が形成され,この隙間にある繊維製品に直接
熱風が供給されることから,当該隙間の幅に相当する部位にマークが付き易く,品
質低下の要因となること,並びに均一な厚み,硬さが確保されないこと,等の課題
がある。またこのスラットコンベアでは,蛇行又は振動が発生し易く,スピードコ
ントロールに難点があること,及び作業能率面で十分でないこと,等の課題がある。
【0006】更にワイヤーネットを備えた成形機では,上下側のネット式エンドレ
スベルトのネット間に隙間が形成され,この隙間にある繊維製品に直接熱風が供給
されることから,当該隙間の形状に相当する部位にマークが付き易く,品質低下の
要因となること,並びに均一な厚み,硬さが確保されないこと,等の課題がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記に鑑み,本発明は,マークなし製品を製造し得
ること,又は均一な厚み,硬さが確保された製品を得ること,等を目的とする。
【0008】即ち,本発明の繊維製品熱処理成形機は,透孔性を有する上下側のエ
ンドレスベルト,モータ及び回転機構でなる繊維製品を搬送する搬送装置と,(略)
前記搬送装置の終端に設けた前記繊維製品の厚さ,硬さを設定する上下側の矯正ロ
ール群と,で構成される。
【0009】
【作用】以下,本発明の作用を説明する。
【0010】透孔性を有する上下側のエンドレスベルト(略)の始動端間に繊維製
品が投入されると,当該繊維製品は透孔性を有する上下側のエンドレスベルトによ
り圧縮されつつ,透孔性を有する上側のエンドレスベルトの透孔を介して供給され
る熱風により熱処理加工される。(略)熱処理加工された繊維製品(熱処理加工済
み繊維製品)は,透孔性を有する上下側のエンドレスベルトの終端に到ると,(略)
この終端に設けた上下側の矯正ロール群及び上下側のエンドレスベルト部位で押
圧され所定の厚み,硬さの製品となって送り出される。また前記透孔性を有する上
側のエンドレスベルト及び上側のロール群は製品の厚さ,硬さ等を変更する場合に,
数基のジャッキを利用して同一平面位置を昇降する。
【0011】
【実施例】以下,本発明の一実施例を,図面を参照にして説明する。
【0012】1はフレームで,当該フレーム1に設けた上下側のスプロケット2,
2a,3,3aにはそれぞれチェーン4,4a,5,5aが懸架されている。また
前記フレーム1に昇降自在に設けられた枠体6には上側のロール7が数本架承さ
れている。そして,この枠体6は数基のジャッキ8によりフレーム1の横枠体に対
して平行に昇降され,もって前記上側のロール7が同一平面を昇降する構成となっ
ている。図中9はフレーム1に架承された下側のロールで,当該下側のロール9は
例えば前記上側のロール7と対峙する位置に設けられている。前記チェーン4,4
aには取付金具10,10aを介して透孔性を有する上側のエンドレスベルト11
が設けられており,当該チェーン4,4aの走行に伴って前進又は後退する構成と
なっている。この透孔性を有する上側のエンドレスベルト11はガラス繊維物にテ
フロンコーティングした織物又は同編物,その他ステンレス製微細孔網体,又はス
テンレス製パンチングシート等が採用される。また前記チェーン5,5aには取付
金具12,12aを介して透孔性を有する下側のエンドレスベルト13が設けられ
ており,当該チェーン5,5aの走行に伴って前進又は後退する構成となっている。
当該透孔性を有する下側のエンドレスベルト13の構造は,前記透孔性を有する上
側のエンドレスベルト11と同様となっている。尚,前記透孔性を有する上下側の
エンドレスベルト11,13は接合部を付合せ構造として,製品に継ぎ目マークが
生成されないようにする。」
「【0015】図中40は前記透孔性を有する上下側のエンドレスベルト11,1
3の終端に設けた大気供給装置で,冷風チャンバー41及びファン42で構成され
ている。この大気供給装置40により,当該セクションを通過する熱処理加工済み
繊維製品A’を冷却する。またこの大気供給装置40の下方には,熱処理加工済み
繊維製品A’の厚さ,硬さを決定する上下側の矯正ロール群50,51が設けられ
ており,上側の矯正ロール群50は前記ジャッキ8により同一平面を昇降する構成
となっている。」
エ検討
(ア)上記アにおいて認定した甲2公報の記載内容によれば,甲2発明においては,
一対の対向したネットコンベアを,間隔を置いて縦方向に配置し,かつ,その間隔
は,押出された線条の集合体の幅より狭く設定されるものであって,溶融状態の三
次元構造体(ポリ乳酸構造体)の両面を当該ネットコンベアで挟み込んで両面をフ
ラット化させるとともに,当該ネットコンベアの幅及び回転速度を調整することに
より,所望の厚み,剛性及び密度を有する三次元構造体を形成し,冷却水中へ引き
込み固化させるというのであるから(甲2・段落【0032】,【0038】ないし
【0040】,【0060】),当該ネットコンベアは,単に同三次元構造体を搬送す
る機能のみならず,一対が組となって対向するネットコンベアそれ自身で同三次元
構造体を成形する機能を担っているものといえる。
そうすると,本件発明1が,甲2発明及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易
に想到し得たものであるというためには,本件特許の原出願日の時点において,ス
ラットコンベアそのものが周知慣用技術であったことを立証するだけでは足りず,
スラットコンベアを上記三次元構造体(ポリ乳酸構造体)ないしその類似品の上位
概念である熱融着繊維等から成る繊維製品の成形手段として用いることが周知慣用
技術であったことを立証する必要があるというべきである。
(イ)甲11文献によれば,コンベアとは,荷を連続的に搬送する機械のことをい
い,ネットコンベアやスラットコンベアは,かさ物用コンベアのうちチェーンコン
ベアに分類されていることが認められる(甲11)。そして,日本工業規格は,工業
標準化法(昭和24年法律第185号)に基づいて制定される工業標準であって,
甲11文献は,その中でも一般に用いられるコンベアの種類に関する主な用語とそ
の定義について規定するものであるから,本件特許の原出願日の時点において,ネ
ットコンベア及びスラットコンベアは,かさ物を連続的に搬送する手段として周知
慣用技術であったといえる。
しかし,甲11文献においては,上記のとおり,コンベアは「荷を連続的に搬送
する機械」,すなわち搬送手段として定義づけられている一方で,ネットコンベアや
スラットコンベアを成形手段として用いることについては何らの記載も示唆もされ
ていない。(甲11)
したがって,甲11文献には,スラットコンベアが熱融着繊維等から成る繊維製
品の成形手段として周知慣用技術であることが開示されているとはいえない。
(ウ)次に,甲3公報には,従来の技術として「この種繊維製品に熱処理を施し,
前記製品を得る成形機としては,通常スラットコンベアと称される成形機が市販さ
れている。」旨が記載されている(甲3・段落【0002】)。しかし,「この成形機
は,図8に示す如く,多数の横棧をエンドレス状に設けてなるスラットコンベアを
上下側に配設し(略),前記上下側のスラットコンベアの終端に矯正ロール群を設け
てなる構成」であって,「繊維製品は,当該上下側のスラットコンベアの進行に伴っ
て搬送され(略),上下側の矯正ロール群の押圧・成形処理により所定の厚さ,硬さ
を有する製品に処理加工」される(同段落)というのであるから,当該成形機にお
いては,熱融着繊維等から成る繊維製品の押圧・成形処理に当たり,同繊維製品と
上下側のスラットコンベアが直接接していたとしても,当該処理は専ら矯正ロール
群によって行われており,スラットコンベアが成形機能を担っているものとはいい
難い。
なお,甲3公報には,①「前記スラットコンベアを備えた成形機では,上下側の
スラットコンベアの横棧間に隙間が形成され(略),当該隙間の幅に相当する部位に
マークが付き易」い旨が指摘されており(甲3・段落【0005】),一見すると,
スラットコンベアが繊維製品に圧力を加え,その成形に寄与しているかのようにも
読める。しかし,同じ文中に,②「この隙間にある繊維製品に直接熱風が供給され
る」(同段落)ことがその原因として掲げられていることからすると,前記①の記載
をもって,スラットコンベアが成形機能を担っているということはできない。
そうすると,甲3公報に上記繊維製品の圧縮・成形工程においてスラットコンベ
アが使用されることが開示されていることは,原告が主張するとおりであるものの,
スラットコンベアそれ自身を成形手段として使用することまでが開示されていると
か,示唆されているとはいえない。
(エ)その他,原告が指摘する文献について検討する。
まず,特開平5-311561号公報(甲28)には,熱可塑性合成樹脂のフィ
ラメントループ集合体からなるマットの製造方法に関し,ダイスから押出された溶
融状態の熱可塑性合成樹脂の複数のフィラメントを,水平方向に対向して配置され
たネットコンベアと冷却ロールの間に垂直に降下させ,マットを製造する方法が記
載されているものの,当該公報には,コンベアそれ自身で熱融着繊維等から成る繊
維製品を成形する方法が開示されているとはいえない。
また,甲29公報(甲29)には,一対のスラットコンベアを空き缶の圧潰手段
として使用することが記載されている。しかし,空き缶の圧潰手段と繊維製品の成
形手段とでは目的,機能及び効果がいずれも異なるものであるところ,当該公報に
は,スラットコンベアを繊維製品の成形手段として用いることについて,何らの記
載も示唆もされていない。
さらに,甲30公報(甲30)には,スラットコンベアを食器の搬送手段として
水中で使用することが記載されているが,スラットコンベアを繊維製品の成形手段
として用いることについては,何らの記載も示唆もない。
このほか,原告が指摘する証拠(甲4,5)にも,スラットコンベアを繊維製品
の成形手段として用いることは,何ら開示も示唆もされていない。
(オ)以上において検討したところによれば,スラットコンベアが,繊維製品に係
る成形手段として周知慣用技術であったことについては,いまだ立証がされている
とはいえず,また,スラットコンベアが繊維製品の成形機能を有する手段として用
いられたことを示す公知技術の立証すらない。
(カ)このように,本件特許の原出願日の時点において,スラットコンベアが搬送
手段として周知技術であったとしても,本件においては,それが繊維製品の成形手
段として周知慣用技術であったとは認めることができず,また,それが繊維製品の
成形機能を有する手段として用いられたことを示す公知技術の立証すらないのであ
るから,甲2発明のネットコンベアに代えてスラットコンベアを採用することにつ
き,当業者が容易に想到し得たというためには,この点についての示唆ないし動機
付けがあることについての立証を要するというべきである。
この点,原告が主張するとおり,甲2発明の特許請求の範囲においては,「引き取
り装置」との記載しかなく(【請求項5】),甲2発明に係る明細書を精査しても,こ
れがネットコンベアによる構成に限定されることをうかがわせる記載はない(甲2)。
しかし,一方で,当該明細書に記載されている実施例及び比較例は,そのすべてが
「ステンレス製エンドレスネット」で構成されたネットコンベアを使用するもので
あって,当該引き取り装置としてネットコンベア以外の手段を用いることは何ら記
載されておらず,その示唆もされていない。そして,当該引き取り装置としてネッ
トコンベアを用いることに,何かしらの問題がある旨の記載もされていないから,
甲2公報に接した当業者が,当該ネットコンベアを他の手段に置換しようと動機付
けられるとはいえない。
また,甲11文献には,成形手段として用いるには不適当な形態を含む多種多様
なコンベアが記載されていることに鑑みれば(甲11),甲11文献に接した者にお
いて,成形手段としてスラットコンベアを使用するという動機付けがされるとは到
底いえない。
そして,このほかに,甲2発明のネットコンベアに代えてスラットコンベアを用
いることについて示唆ないし動機付けがあると認めるに足りる証拠はない。
オ小括
よって,本件発明1は,甲2発明及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易に想
到し得たものであるとの原告の主張は採用することができない。
(3)甲2発明及び甲3発明に基づく本件発明1の容易想到性について
ア上記(2)エ(カ)において判示したとおり,甲2公報に接した当業者が,当該ネ
ットコンベアを他の手段に置換しようと動機付けられるとはいえない。
また,甲3公報には,スラットコンベアを成形機能を有する手段として用いてい
ることが開示されているわけではなく,かえってスラットコンベアの横棧間に生じ
る隙間の幅に相当する部位にマークが付きやすく,品質低下の要因となったり,均
一な厚み,硬さが確保されないうえ,蛇行又は振動が発生しやすく,スピードコン
トロールに難点があり,作業能率面で十分でない等の課題があることが指摘されて
いる。そうすると,甲2発明に係る当業者が,甲3公報に接したとしても,甲2発
明におけるネットコンベアを,技術的問題があるスラットコンベアに変更しようと
試みることはないというべきである。
以上によれば,甲2発明及び甲3発明により,甲2発明におけるネットコンベア
をスラットコンベアに変更する動機付けがあると認めることはできない。
イ小括
よって,本件発明1は,甲2発明及び甲3発明に基づき,当業者が容易に想到し
得たものであるとの原告の主張は採用することができない。
(4)本件発明2の容易想到性について
本件発明2は,本件発明1とはカテゴリーの違いを除けば同一であるから,本件
発明2についても,甲2発明及び周知慣用技術又は甲3発明に基づき,当業者が容
易に想到し得たものであるとはいえない。
(5)以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について
(1)本件発明1の容易想到性について
ア原告は,取消事由1と同様の理由により,本件発明1は,甲1発明及び周知慣
用技術又は甲3発明に基づき,当業者が容易に想到し得たものであると主張する。
イ甲1公報(甲1)には次の記載がある(図1は別紙甲1公報図面目録のとお
り)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,クッション部材,水処理材,フィルター材,
暗渠排水材,法面緑化用基材などに使用する空隙を有する立体網状構造体に関する。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者の研究によれば,ランダムな螺旋形状の線
状熱可塑性樹脂が点接着した平板状の立体網状構造体において,厚さ方向に表面か
ら,線状熱可塑性樹脂の素線径の1倍~3倍の距離までの両面あるいは片面表面部
の空隙率が,前記表面部を除く中央部の空隙率より低い平板状の立体網状構造体を
提供することが合理的であると考えた。
【0008】本発明の立体網状構造体を得る方法の一つとしては,溶融した熱可塑
性樹脂を複数のノズルより下方へ押出し,一部水没した1対のベルトコンベアーの
間に自然降下させ,上記の降下速度より遅く引き取ることにより立体網状構造体を
製造する際に,押出された溶融樹脂の束の巾より1対のベルトコンベアーの間隔が
狭く,かつベルトコンベアーが水没する前に上記溶融樹脂の束の両面あるいは片面
がベルトコンベアーに接触するようにした。
【0009】つまり,溶融した熱可塑性樹脂の束の両面あるいは片面の表面部分は,
ベルトコンベアー上に落下し,溶融した熱可塑性樹脂の束の内側へ移動し密な状態
となるため,水中にそのまま落下した中央部分より空隙率が小さくなるわけである。
当然ながら空隙率が低くなった表面部分は,空隙率が高い中央部分より交点の数が
多くなり,引張り強度が著しく強くなる。また,空隙率が低い表面部分は空隙部の
面積が小さくなり,細かいフィルター層となるわけである。」
「【0016】
【発明の実施の形態】図1は本発明の代表的な立体網状構造体の製造装置の断面図
である。また,以下の実施例に基いて,本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
【実施例】実施例1として,スクリューの直径が90mmの単軸押出し機に,1.
0m×50mmの面積に直径0.8mmのノズル4が,ほぼ等間隔で約800ある
ダイス2を取り付けた。ノズル4の下約120mmの位置に水位がある冷却水槽6
を設置し,巾1.2mのベルトコンベアー1を25mmの間隔をあけて1対,ベル
トコンベアー1の上部が40mm程度水面から出るようにほぼ垂直に設置した。
【0018】この装置で,EVA樹脂を熱を加えて可塑化しながら樹脂温度が24
0℃になるように,ダイス2の温度をコントロールして,1時間当たり120kg
の押出し量でノズル4から出た溶融樹脂の束5の両面がベルトコンベアー1上に落
ちるように1対のベルトコンベアー1の間に押出した。この時のベルトコンベアー
1の引取速度は0.7m/分とした。ベルトコンベアー1に挟まれて下方へ移動し
た成形物は,冷却水槽6の下部で向きを変え,押出し機とは反対の側から水面へと
移動し,冷却水槽6から出た時点で圧縮エアーで水分を吹き飛ばした。」
ウ検討
(ア)甲1発明及び周知慣用技術に基づく本件発明1の容易想到性について
甲2発明と甲1発明とは,無端コンベアに関し,甲2発明ではネットコンベアで
あるのに対し,甲1発明ではベルトコンベアである点が相違しているのみである。
そして,上記イにおいて認定した甲1公報の記載内容に照らせば(段落【0008】,
【0009】,【0017】及び【0018】),甲1発明においてベルトコンベアが
果たしている機能についても,甲2発明におけるネットコンベアと同等のものとい
うことができる。
しかし,上記1(2)において判示したとおり,スラットコンベアが繊維製品に係る
成形手段として周知慣用技術であったことについての立証も,スラットコンベアが
繊維製品の成形機能を有する手段として用いられたことを示す公知技術に係る立証
もされているとはいえない。また,甲1発明のベルトコンベアに代えてスラットコ
ンベアを用いることについて,示唆ないし動機付けがあると認めるに足りる証拠は
ない。
(イ)甲1発明及び甲3発明に基づく本件発明1の容易想到性について
前記1(3)において判示したところによれば,甲3公報には,スラットコンベアを
成形機能を有する手段として用いていることが開示されているとはいえず,このほ
かに甲1発明におけるベルトコンベアをスラットコンベアに変更する動機付けがあ
ると認めるに足りる証拠もない。
(ウ)小括
よって,本件発明1は,甲1発明及び周知慣用技術又は甲3発明に基づき,当業
者が容易に想到し得たものであるとの原告の主張は採用することができない。
(2)本件発明2の容易想到性について
本件発明2は,本件発明1とはカテゴリーの違いを除けば同一であるから,本件
発明2についても,甲1発明及び周知慣用技術又は甲3発明に基づき,当業者が容
易に想到し得たものであるとはいえない。
(3)以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
第6結論
以上のとおり,原告の各取消事由の主張はいずれも理由がなく,原告の本件請求
は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂一
裁判官大寄麻代
裁判官間明宏充
(別紙)
甲2公報図面目録
【図1】
(別紙)
甲11文献図面目録
(別紙)
甲3公報図面目録
【図1】
【図8】
(別紙)
甲1公報図面目録
【図1】

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司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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