弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件第1事件に係る訴えのうち、被告が原告A、同B、同C及びDに対して平
成6年1月31日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求め
る部分をいずれも却下する。
2 被告が、原告Aに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格4億3426万6000円、納付すべき税額2億
4842万5500円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
3 被告が、原告Bに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格5億6656万1000円、納付すべき税額3億
2410万6000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
4 被告が、原告Cに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格3億3429万7000円、納付すべき税額1億
9123万7400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
5 被告が、Dに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にかかる
相続税の更正(平成7年4月28日付け更正で一部取消し後のもの)及び過少申告
加算税賦課決定(平成7年4月28日付け更正で一部取消し後のもの)を取り消
す。
6 被告が、原告Aに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正
のうち総所得金額421万9000円、納付すべき税額38万3000円を超える
部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
7 被告が、原告Bに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正
のうち、総所得金額753万4000円、納付すべき税額65万5300円を超え
る部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
8 被告が、Dに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正のう
ち総所得金額646万7000円、納付すべき税額96万4300円を超える部分
及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
9 玉川税務署長が、原告Cに対し、平成8年3月13日付けでした平成4年分所
得税の更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
10 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
11 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負
担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告が、原告A、同B、同C及びDに対し、被相続人の相続にかかる相続税の
更正の請求について平成6年1月31日付けでした更正をすべき理由がない旨の通
知処分をいずれも取り消す。
2 被告が、原告Aに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格3億0626万7000円、納付すべき税額1億
6857万0000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
3 被告が、原告Bに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格4億0835万6000円、納付すべき税額2億
2476万0000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
4 被告が、原告Cに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にか
かる相続税の更正のうち課税価格3億0626万7112円、納付すべき税額1億
6857万0000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
5 被告が、Dに対し平成6年1月31日付けでした、被相続人Eの相続にかかる
相続税の更正(平成7年4月28日付け更正で一部取消し後のもの)のうち課税価
格1億0208万9000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(平成7年
4月28日付け更正で一部取消し後のもの)を取り消す。
6 被告が、原告Aに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正
のうち、納税額38万3000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り
消す。
7 被告が、原告Bに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正
のうち、納税額99万4300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り
消す。
8 被告が、Dに対し、平成8年3月8日付けでした平成4年分所得税の更正のう
ち、納税額96万4300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消
す。
9 玉川税務署長が、原告Cに対し、平成8年3月13日付けでした平成4年分所
得税の更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、平成3年8月1日開始の被相続人Eの相続に係る原告A、同B及び原告
C(以下3名をあわせて「原告ら」という。)並びにDの相続税について、被告が
原告ら及びDの更正の請求に対して平成6年1月31日付けで行った更正をすべき
理由がない旨の通知処分(以下、更正をすべき理由がない旨の通知処分について一
般的には単に「通知処分」といい、原告ら及びDに対する通知処分をあわせて「本
件各通知処分」という。)並びに原告ら及びDに対し同日付けで行った各相続税更
正処分(以下、あわせて「本件各相続税更正処分」という。)のうち同人らがそれ
ぞれ更正の請求で主張した金額を上回る部分及び過少申告加算税賦課決定(以下
「本件各第1賦課決定」という。)(Dに対する更正処分及び過少申告加算税につ
いては平成7年4月28日付け減額更正処分による一部取消し後のもの)につい
て、同各処分は、被相続人が株式会社オリックス及び平和生命株式会社に対し負担
した保証債務につき、相続税法13条1項を適用し、相続財産から控除すべきであ
るのに、これをしない違法なものであるとしてその取消しを求め(第1事件)、ま
た、原告ら及びDの平成4年分所得税について、被告が、D、原告A及び原告Bに
対し、玉川税務署長が原告Cに対してした各所得税更正処分(以下、あわせて「本
件各所得税更正処分」という。)のうち確定申告額を超える部分及び過少申告加算
税賦課決定(以下「本件各第2賦課決定」という。)について、原告ら及びDが東
京都世田谷区の所有土地を譲渡したことに基づく所得について、所得税法64条を
適用して計算すべきであるのに、同条の適用をしなかったものであり違法であると
してその取消しを求めるもの(第2事件)である。
 なお、Dは本件訴え提起後である平成11年1月8日に死亡し、原告らが同人の
原告たる地位を承継し、また、原告Cが本件第2事件に係る訴え提起前に東京都世
田谷区α14番18号から頭書住所地に転居したため、被告が玉川税務署長から被
告たる地位を承継した。
2 法規等の定め
(1) 相続税課税価格に係る債務控除に関する定め
 相続税法13条1項は、相続税の課税価格に算入すべき価額は、相続により取得
した財産の価額から、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」のうち、
その者の負担に属する部分の金額を控除した金額とする旨規定し、同法14条1項
は、「前条の規定によりその金額を控除すべき債務は確実と認められるものに限
る」と規定している。
 そして、相続税基本通達14-5(1)においては、保証債務については、原則
として控除をしないこととし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債
務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して
返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当
該保証債務者の債務として控除するものとされている。
(2) 所得税法64条2項の定め
 所得税法64条2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合におい
て、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなった
ときは、その行使をすることができないこととなった金額を同条1項に規定する回
収することができないこととなった金額とみなして、同項の規定を適用すると規定
し、同項は、その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額若しくは総収
入金額の全部若しくは一部を回収することができないこととなった場合又は政令で
定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべ
きこととなった場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計
額のうち、その回収することができないこととなった金額又は返還すべきこととな
った金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかったものと
みなすと定めている(以下「本件特例」という。)。
3 本件各訴えに至る経緯(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがな
い。)
(1) 原告Cは、平成3年8月1日に死亡した故E(以下「被相続人」といい、
同人に係る相続を「本件相続」という。)とその妻であるDの間の長女であり、原
告Aは同人らの二女、原告Bは同人らの長男であって、原告ら及びDは、被相続人
の共同相続人である。
(2) 本件各相続税更正処分等に至る経緯
ア 原告ら及びDは、法定申告期限前である平成4年1月31日までに、本件相続
に係る相続税につき、別表1ないし4の各「期限内申告」欄記載の額で、申告を行
った。
イ 原告ら及びDは、平成5年1月29日に、本件相続に係る相続税の課税価格及
び相続税額を、別表1ないし4の各「更正の請求」欄記載の額とする旨の更正の請
求をそれぞれ行った(甲460ないし463)。
ウ 被告は、平成6年1月31日付けで、イ記載の各更正の請求についてそれぞれ
通知処分(本件各通知処分、甲464ないし467)を行うとともに、同日付け
で、原告ら及びDに対し、本件相続に係る課税価格及び相続税額を別表1ないし4
の各「更正処分」欄記載の額とする旨の各更正処分(本件各相続税更正処分)及び
これに係る同欄記載の過少申告加算税額の過少申告加算税賦課決定(本件各第1賦
課決定)を行った(甲468ないし471)。なお、Dに対する更正処分及び過少
申告加算税賦課決定処分については、平成7年4月28日付けで、別表4「減額更
正処分」欄記載の課税価格、相続税額及び過少申告加算税額とする旨の減額更正処
分がされている。
エ 原告ら及びDは、平成6年3月31日、それぞれ本件各通知処分を不服とし異
議申立て(甲476ないし479)を、また、同日、それぞれ本件各相続税更正処
分及び本件各第1賦課決定を不服として異議申立て(甲472ないし475)を行
ったところ、被告は、平成6年7月7日付けで、原告ら及びDそれぞれに対し、本
件各通知処分及び相続税更正処分及び第1賦課決定に係る異議申立てを併せていず
れも棄却する旨の異議決定をし(甲480ないし483)、このころ、同決定謄本
が原告らに送達された。原告ら及びDは、同年8月5日、国税不服審判所長に対
し、本件各通知処分に係る異議決定に不服がある旨の審査請求をし、同所長は本件
各更正処分についても合わせて審理するとし、平成8年9月11日付けで、原告ら
及びDの審査請求をあわせてこれを棄却する旨の裁決をし(甲1)、同年9月13
日ころ、同裁決書謄本が原告ら及びDの総代である原告Aに送達された。
オ 原告らは、平成6年9月26日、被告に対し、本件各相続税更正処分により納
付すべき税額を上回る税額である別表1、3及び4の各「修正申告」欄記載の課税
価格及び相続税額を記載した修正申告書を提出し(甲25)、修正申告を行った
(以下、あわせて「本件各修正申告」という。)。
(3) 所得税更正処分等に至る経緯
ア 原告ら及びDは、平成5年3月15日、別表5ないし8の各「確定申告」欄記
載の課税所得金額及び納付すべき税額で平成4年分所得税の確定申告をそれぞれ行
った。
イ 被告は、平成8年3月8日付けで、原告A、原告B及びDの平成4年分所得税
に関し、課税所得金額及び納付すべき税額を別表5ないし7の各「更正・賦課決
定」欄記載の額とする各更正処分及びこれに係る同欄記載の過少申告加算税額の各
過少申告加算税賦課決定を行った(甲423ないし425)。
ウ 玉川税務署長は、平成8年3月13日付けで、原告Cの平成4年分所得税に関
し、課税所得金額及び納付すべき税額を別表8の「更正・賦課決定」欄記載の額と
する更正処分及びこれに係る同欄記載の過少申告加算税額の過少申告加算税賦課決
定を行った(甲426)。
エ 原告Cは、平成8年4月1日、玉川税務署管内である東京都世田谷区α41番
18号から、北沢税務署管内である同区β25番10号に転居した(甲439)。
オ 原告ら及びDは、上記イ及びウ記載の各処分(本件各所得税更正処分)を不服
として、平成8年4月30日にそれぞれ被告に対して異議申立てをした(甲427
ないし430)ところ、被告は、平成8年7月8日付けをもって同異議申立てを棄
却する旨の各決定をし、同決定の決定書は同年7月9日ころ、原告らに送付された
(甲431ないし434の各1、2)。
カ 原告ら及びDは、平成8年8月5日、上記オの異議棄却決定を不服として、国
税不服審判所長に対し、審査請求を行った(甲435ないし438)が、3ヶ月以
上経過した後である同年11月20日に至っても裁決がされないため、同日第2事
件に係る訴えを提起した。なお、国税不服審判所長は、平成11年3月25日付け
で、上記各審査請求を棄却する旨の裁決を行った。
(4) Dは、平成11年1月8日に死亡し、その子である原告ら3名が同人の遺
産を相続した。
4 前提事実(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 本件求償権債務の発生及び履行の経緯等
ア 被相続人は、高橋興業株式会社(以下「高橋興業」という。)が昭和60年9
月6日及び同年12月18日に平和生命保険株式会社(以下「平和生命」とい
う。)との間で計12億5000万円、昭和60年12月26日にオリエントリー
ス株式会社(平成元年4月1日にオリックス株式会社に商号変更、以下、変更の前
後を問わず「オリックス」という。)との間で10億円の各金銭消費貸借契約を締
結する際に、高橋興業の代表取締役Fとともに平和生命及びオリックスと連帯保証
契約(以下「本件各連帯保証契約」といい、それにより生じた被相続人の債務を
「本件連帯保証債務」という。)を締結しており(乙6ないし9)、その後、原告
ら及びDは、本件相続により、被相続人の連帯保証人の地位を承継した。なお、高
橋興業は、住宅等の開発、造成及び販売等を目的として昭和32年12月7日に設
立された株式会社であり、平成9年9月30日付けで本店所在地を東京都世田谷区
γ32番15号から神奈川県相模原市δ2番6号ε202号に移転するとともに、
商号を株式会社アストン・デベロップメントと変更した(乙15の1、2)。その
後、本店所在地は平成13年に東京都町田市ζ1793番356に移転している。
イ 原告ら及びDは、本件相続により取得した土地のうち、平成4年6月8日付け
売買契約により東京都世田谷区β52番8の土地をユニオンリース株式会社に対し
3億0036万円で譲渡し、平成4年5月22日付け売買契約により同番9の土地
を有限会社アイザワ興業に対し4億5006万円で譲渡し、平成4年8月5日付け
の売買契約により同番13の土地(以下、3筆の土地をあわせて「本件各土地」と
いう。)を株式会社八丸商会に対し2億9148万円で譲渡し(以下、あわせて
「本件各譲渡」という。)、売買代金計10億4190万円を原資として、平成4
年5月22日に平和生命保険に対して5億9090万5970円、平成4年5月2
2日及び同年6月8日にオリックスに対して計4億6567万0075円を代位弁
済した(以下「本件代位弁済」という。)。なお、本件代位弁済が本件各譲渡の一
部よりも先にされているが、その間は短期の借入れにより弁済を行った(甲44
8)と認められるし、代位弁済のために本件各土地を譲渡した点については、被告
もこれを明らかに争わない。
第3 当事者の主張
1 第1事件について
(1) 本案前の主張
ア 被告
(ア) 原告らの相続税更正処分の取消請求に係る訴えの利益
a 上記第2、3、(2)、オのとおり、原告らは、平成6年9月26日、被告に
対し、原告らに対する相続税更正処分による納付すべき税額を上回る税額を記載し
た修正申告書を提出し、本件各修正申告を行っているところ、修正申告がされた場
合、納付すべき税額は増額された部分を含む全額が即時確定するということがで
き、その限りで先にされた申告又は更正は修正申告に吸収されて消滅し、その存在
意義を失うものと解される。したがって、原告らが、被告がした各相続税更正処分
の取消しを求める訴えの利益はなく、本件訴えのうち、原告らに対する各相続税更
正処分を求める部分(Dに対する相続税更正処分はこの部分に含まれない。)は不
適法として却下されるべきである。
b 更正処分に対する審査請求中に税務職員の不注意による勧奨に従って修正申告
がされた場合に、更正処分取消訴訟の被告となった税務署長が、修正申告があった
ことにより原告の訴えの利益が失われたと主張することは信義則上許されない旨判
示した判決例はあるが、本件においては、被告所部係員が原告らの関与税理士に対
して修正申告を慫慂した事実はあるものの、本件各修正申告は原告らがその利害得
失を関与税理士らとともに十分検討した結果されたものと認められ、被告が原告ら
に訴えの利益がない旨主張することは何ら信義則に反するものではない。すなわ
ち、原告らは、本件相続に係る相続税を納付するため、被告に対して物納申請書を
提出したので、被告は、物納を許可するに当たり、原告らに対して物納申請土地の
実測を求めたところ、その実測面積が当初申告された面積よりも大きいことが明ら
かとなったため、その実測面積にあわせた土地の評価額の見直しが必要となり、被
告所部係官Gが、原告らの関与税理士であるHにこれを説明した上で、修正申告を
慫慂したものであって、これに対して、原告らは上記慫慂から約1ヶ月後に本件各
修正申告を行っているのであり、その間、原告らはH税理士とともに十分に修正申
告を行った場合の利害得失について検討していたものと推認される。そして、原告
らが金銭による納付及び延納が困難であるため、物納申請を行っていることからす
れば、本件各修正申告を行うことによって物納が許可され、納税義務の履行が容易
になるとの利点があるとの判断に基づき、自らの自由意思に基づいて本件各修正申
告に及んだものと認められるから、本件各修正申告は、被告所部係官の慫慂に基づ
いてされたものではないとすらいえ、被告が、本件各修正申告の存在を理由に訴え
の却下を求めることは何ら信義則に反するものではない。
(イ) 本件各通知処分の取消請求に係る訴えの利益
 原告らは、本件各通知処分(Dに対する通知処分を含む。)の取消しを求めてい
るところ、これと同時に又はその後に行われた増額更正処分は、全体として課税標
準等又は税額等が納税申告に係る額を超えるとするものであるから、その判断の中
には更正の請求を理由なしとする判断が内包されている関係にある。このような場
合には、通知処分と同時又は後にされた更正処分の取消しを求めれば足り、通知処
分の取消しを求める訴えの利益はないというべきである。
 なお、Dのした期限内申告における納付すべき税額は0円であるから、同人のし
た更正の請求はそもそも不適法なものである。
イ 原告ら
(ア) 原告らの相続税更正処分の取消請求に係る訴えの利益
 更正後に修正申告が行われた場合にも、その修正申告が税務係官の示唆ないし勧
奨により誘発された事情の下で行われた時は、当該修正申告が更正処分を吸収し、
更正処分取消の訴えがその利益を失うと解するのは妥当ではない。
 原告らは平成6年1月31日付けで本件各相続税更正処分を受けたことに対応す
るため、当初申告税額を上回る部分について平成6年2月28日、相続税物納申請
書を提出した。物納申請をするに際して、相続財産である土地の面積を測量したと
ころ、当初の申告における土地の面積よりも0.07平方メートル広く、これを相
続税評価すると3万2762円となるため、物納担当職員は、この3万2762円
を加算した修正申告書の提出を強く求め、修正申告書を提出しなければ物納許可を
しないと述べた。原告らは、その後も異議申立て、審査請求を行い各相続税更正処
分を争ってはいたが、物納許可なしに更正処分等につき争うことはいたずらに年当
たり14.6パーセントの延滞税を増加させるばかりとなり、原告らは、延滞税が
かからない形で各相続税更正処分等を争うため、物納担当職員の指導に従い、やむ
を得ず、同年9月26日に、相続土地の評価額を3万2762円増加した修正申告
書を提出し、本件各修正申告を行った。
 上記の事情にかんがみれば、本件訴えのうち、原告らに対する各相続税更正処分
の取消しを求める部分の訴えの利益が消滅したものとは認められない。本件各相続
税更正処分につき国税不服審判所長がした裁決においても、「当審判所の調査によ
れば、請求人らが物納申請をするに当たって、相続財産である土地の面積を実測し
たところ、当初の申告における土地の面積よりも0.07平方メートル上回ってい
たため、原処分庁の物納担当職員が請求人らに対し、当初の申告における土地の面
積を実測面積に修正するように指導したので、Aほか2名はこれに応じて本件修正
申告書を提出したものと認められる。」として、審査請求が請求の利益を欠くもの
であるとするのは相当でなく、審査請求を適法として扱っている。
(イ) 本件各通知処分の取消請求に係る訴えの利益
 通知処分と増額更正処分は、一方が他方を吸収する関係にはなく、それぞれが別
個の処分であって、それぞれについて取消訴訟を提起することが妨げられていない
こと、両処分の取消請求における違法事由が全て重複するとは限らないことからす
れば、同時又は後に増額更正処分がされた場合であっても通知処分の取消しを求め
る訴えの利益は認められる。
(2) 本案に関する主張
ア 被告
(ア) 課税根拠に関する主張
 原告ら及びDに対する課税の根拠は別表9記載のとおりであり、本件各更正処分
に係る原告ら及びDが納付すべき相続税額は、いずれも別表9の「納付すべき税
額」欄記載の金額と同額又はその範囲内であるから、本件各相続税更正処分は適法
である。
(イ) 債務控除の可否
a 保証債務と債務控除
 保証債務は、主たる債務者がその債務を履行しない場合に、主たる債務者に代わ
って、その債務を履行するという債権者と保証人との間に生じる「従たる債務」で
あるから、相続の開始時点において、被相続人が当該債務を履行することとなるか
否かが不確実であること、仮にその保証債務を承継した相続人が将来当該債務を履
行した場合であっても、その履行による債権の回収は、主たる債務者及び他の共同
保証人に対して求償権を行使することによって可能であることから、保証債務は、
原則として相続税法14条1項が定める「確実と認められる」債務には該当しな
い。
 そして、保証債務が「確実と認められる」債務に該当するためには、相続の開始
時点を基準として、その履行すべき保証債務について主たる債務者及び他の共同保
証人に対して求償権を行使してもなお債権の回収を受ける見込みのないことが明確
になっていなければならず、具体的には、主たる債務者が破産、和議、会社更生あ
るいは強制執行等の手続開始を受け、又は事業閉鎖、行方不明、刑の執行等によっ
て債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、
再起の目途が立たないなどの事情によって事実上債権の回収ができない状況にある
ことが客観的に認められるか否かで決せられるべきである(東京高等裁判所平成1
2年1月26日判決・訟務月報46巻12号4365頁、最高裁判所第二小法廷平
成12年6月23日等)。
b 本件における債務控除の可否
 後記3(2)記載の主張を前提にすれば、本件連帯保証債務は、相続税法14条
1項に規定する「確実と認められる」債務ということはできず、相続税の課税価格
の計算上控除すべき債務とは認められない。
(ウ) 更正処分の理由附記
 国税通則法(以下「通則法」という。)28条2項は、税務署長が更正をする場
合において、その更正通知書に記載すべき事項を定めるが、更正処分の理由は、そ
の記載事項とされておらず、相続税法において、更正通知書に更正の理由を附記し
なければならない旨の規定は存しないから、更正通知書に更正の理由を附記する必
要はないというべきである。
 したがって、本件各相続税更正処分の更正通知書に更正の理由を附記する必要は
ない。
 本件各相続税更正処分は、行政手続法の施行日である平成6年10月1日より前
にされたものであるから、行政手続法の適用を受けるものではなく、行政手続法3
条1項6号や通則法74条の2第1項の合憲性が本件各相続税更正処分の理由附記
に関して影響するものではないし、そもそも上記各条項及び通則法28条の2はい
ずれも憲法の趣旨に適合したものであるから、そのことが上記の主張に何ら影響す
ることはない。
(エ) 本件第1賦課決定処分の適法性
 原告ら及びDは、いずれも課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたも
のであり、過少に申告したことについて通則法65条4項に規定する正当な理由も
存しないから、いずれも、少なくとも別表9の「過少申告加算税額」欄記載の過少
申告加算税を支払う義務を負うものであって、本件第1賦課決定の過少申告加算税
額は、いずれも別表9の「過少申告加算税額」欄記載の金額と同額又はその範囲内
であるから、本件第1賦課決定は適法である。
イ 原告
(ア) 課税根拠に関する被告の主張に対する認否
 相続により取得した財産の総額は否認するが、その内訳は、控除すべき債務の総
額を否認し、その余は認める。
(イ) 債務控除の可否
 保証債務が相続税法14条1項の「確実と認められる債務」に該当するか否かの
判断に際しては、破産、和議等の手続の開始を必須の基準と考えるべきではなく、
上記の事実がなくとも、これに準じる事情があれば、保証債務も相続税法14条1
項の「確実と認められる債務」に該当すると考えるべきである。
 そして、後記3(1)の主張を前提にすれば、本件連帯保証債務のうち本件代位
弁済の額に相当する部分は、相続税法14条1項に規定する「確実と認められる」
債務に当たるものといえ、相続税の課税価格の計算上控除すべき債務であると認め
られる。
(ウ) 更正処分の理由附記
 更正処分等を受ける者は、自らが考えていた税額よりも多い金額での課税を受け
るのであるから、その処分等がいかなる根拠でなされ、その根拠が本件について具
体的に存在することを明らかにするのは、処分をする者としては極めて当たり前の
ことである。すなわち、憲法は、31条で適正手続条項を定め、32条で国民の裁
判を受ける権利条項を定めており、同法31条の適正手続条項は行政手続にも適用
されるものであって、さらには、この憲法31条の精神を具体化するものとして行
政手続法を定めているところ、更正処分において理由を明らかにしないことは、適
正手続を害し、また、後の訴訟において裁判を受ける権利が侵害されることとなる
から、税務署長の更正処分において理由附記について適用除外を定めた行政手続法
3条1項6号は、憲法31条、32条に反し無効であり、また、更正の理由を通知
書の記載事項としていない通則法28条2項も上記各憲法条項に反し無効であるか
ら、理由を附記しない更正処分は、行政手続法14条1項及び3項に反した違法な
ものとなる。
2 第2事件について
(1) 被告
ア 課税根拠及び本件各更正処分の適法性
 原告らに対する課税の根拠は別表10記載のとおりであり、本件各更正処分に係
る原告らが納付すべき所得税額は、いずれも別表10の「納付すべき税額」欄記載
の金額と同額又はその範囲内であるから、本件各所得税更正処分は適法である。
イ 本件特例の適用の可否
(ア) 本件特例と譲渡所得
 本件特例は、保証債務を履行するための資産の譲渡があった場合において、その
履行に伴う「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」
は、その行使することができないこととなった金額は、所得税法64条1項に規定
する回収できないこととなった金額とみなして、同項の規定を適用する旨の特例規
定であり、求償不能という異例の事態について租税政策上の見地から特に課税上の
救済を図った例外的規定であると解されるから、本件特例を適用するに当たって
は、条文を厳格に解釈すべきであり、本件特例の適用を基礎付ける事実の主張立証
責任は、その適用を受けようとする者にあるというべきである。
 なお、本件特例に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこ
ととなったとき」とは、保証債務を履行するために資産の譲渡があった年分の所得
税の確定申告期限を基準として主たる債務者が破産宣告、和議開始決定を受け、又
は失踪、事業閉鎖等の事実が発生したり、債務超過の状態が相当期間継続して金融
機関や大口債権者の協力を得られないため事業運営が衰微し再建の見通しもないこ
とが確実になった場合をいい、これは、求償の相手方たる債務者の資産や営業の状
況、支払能力、他の債務者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に判断
すべきものと解すべきである。
(イ) 後記3(2)の主張を前提にすれば、本件特例の適用上、原告らが高橋興
業に対して求償権を行使してもその目的を達せられないことが客観的に明らかであ
ったとはいえないから、本件各譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適
用はない。
ウ 更正処分の理由附記
 通則法28条2項は、税務署長が更正をする場合において、その更正通知書に記
載すべき事項を定めるが、更正処分の理由は、その記載事項とされておらず、所得
税法155条2項は、「その更正に係る国税通則法28条2項に規定する更正通知
書にその更正の理由を附記しなければならない」と規定しているものの、これは、
あくまで通則法28条2項の例外規定である。
 本件各所得税更正処分をみるに、D、原告A及び同Bの所得税の申告書は青色申
告書ではないし、原告Cの申告書は青色申告書であるものの、同原告に対する更正
は青色申告の承認を受けていない所得である譲渡所得に係る処分であるから、いず
れも本件各所得税更正処分の更正通知書に更正の理由を附記する必要はない。
エ 本件第2賦課決定処分の適法性
 原告らは、いずれも平成4年分所得税に係る課税価格及び納付すべき税額を過少
に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法65条4項に規定
する正当な理由も存しないから、いずれも、少なくとも別表10の「過少申告加算
税額」欄記載の額の過少申告加算税を支払う義務を負うものであって、本件第2賦
課決定の過少申告加算税額は、いずれもこれと同額又はその範囲内であるから、本
件第2賦課決定は適法である。
(2) 原告
ア 課税根拠に関する被告の主張に対する認否
 下記イ記載の本件特例の適用の有無について争うほか、課税根拠に関する被告の
主張については、これを争わない。
イ 本件特例の適用の可否
 後記3(1)の主張を前提にすれば、被相続人の連帯保証債務を相続した原告ら
は、高橋興業が借入金の弁済能力を喪失し、自らが連帯保証債務の履行を迫られて
いたことから、本件各土地を売却し、その売却代金をもって上記連帯保証債務の履
行をしたものといえるから、本件特例に規定する「求償権の全部又は一部を行使す
ることができないこととなったとき」に該当し、本件各譲渡に係る譲渡所得の算出
に当たっては、本件特例が適用されるべきものである。
ウ 更正処分の理由附記
 1、(2)、イ、(ウ)と同じ
3 高橋興業の弁済能力及び他の共同保証人への求償権行使の可能性
(1) 原告
ア 高橋興業の弁済能力
(ア) 弁済原資の不存在
a 弁済能力の判断基準
 相続税法14条1項の基準時である本件相続の開始日(平成3年8月1日)及び
本件特例の各適用の基準時である本件譲渡に係る所得税の確定申告期限(平成5年
3月15日)における高橋興業の弁済の可能性については、各当時、高橋興業が有
する処分可能な資産を有したか否かと債務の弁済に回せる税引き後利益が存したか
で判断すべきである。
b 高橋興業の粉飾決算
 高橋興業の平成3年11月期の決算書においては、負債が合計369億8396
万円、資産が合計348億8839万円であって、負債が資産を上回っていること
になるものの、これが真実であれば、本件求償権は相当な部分回収可能ということ
になるが、下記のとおり、平成3年11月期の高橋興業の決算書は、大きく真実を
偽るものであった。すなわち、高橋興業の決算書では、平成2年11月期までは1
000万円をわずかに上回る金額の当期利益が計上されていたが、平成3年11月
期に至って24億円近くの損失が計上されている。しかし、真実の決算では、平成
2年11月期以前にも、連年、巨額の損失が計上されており、架空会社である小富
士産業株式会社(以下「小富士産業」という。)等に対する架空売掛金計上などの
手法を用いて、当期利益を粉飾していたにすぎず、小富士産業に対する粉飾を除去
しただけでも、昭和61年から連年にわたって億単位の当期損失を出していたこと
となり、平成元年11月期以降は、営業利益ですら赤字であり、平成2年11月期
では50億円の債務超過、平成3年11月期では80億を超える債務超過が発生し
ていることとなる。高橋興業の平成4年11月期の損益計算書においては、97億
8515万0156円の前期損益修正損が計上されているが、前期損益修正損とし
て計上されたのは、平成3年11月期以前の損失であることを明確にするためであ
り、これを、平成3年11月期における繰越損失とあわせると121億7866万
1973円となり、また、同期の債務超過額は118億8071万6473円とな
り、まさに、上記の粉飾が裏付けられたものといえる。
c 弁済能力の不存在
 上記の粉飾決算の事実を考慮に入れれば、高橋興業は、平成3年11月期以前の
段階において、税引後利益が存せず、また、弁済原資となる可能性がある資産であ
る売掛金は架空のものであり、立替金・貸付金も子会社に対するもので回収を期待
できず、土地・建物等の不動産についても、一番抵当権者の被担保債権の弁済にも
不足を生じるものであるから、いずれも実際には弁済原資とはなり得ないもので、
弁済の可能性は存しないこととなる。
 高橋興業は、土地を購入し、それに再開発等の加工をして販売することを事業と
していたが、当時は、大蔵省により金融機関による不動産に関連した融資が規制さ
れていたため、新たな融資を受けて着手すべき土地の再開発等の事業を全くできな
い状態に追い込まれており、平成3年3月ころから、日常の経費の支払にも事欠く
ようになって、実質的には野村ファイナンス株式会社の管理下に入っていたもので
あって、本件相続開始時である平成3年8月1日以前の段階で、事実上事業を行っ
ておらず、既に資産整理に入っていたものと認められる。
(イ) 破産申立て
 高橋興業は、平成4年10月19日、株式会社シマモト(以下「シマモト」とい
う。)により、破産の申立てをされており、同申立ては破産の要件を充足している
ものであったが、高橋興業には財団を構成すべき財産がほとんどなく、他方、財団
債権として租税債務が1億円を超えることから配当の見込みが皆無であるばかり
か、手続費用さえ賄えないため、裁判所が申立人であるシマモトを説得し、破産申
立ての取下げに至ったものである。高橋興業は、上記のとおり、平成3年3月ころ
からは金融機関の経営管理下に入り、資産整理状態に至っていたものであるが、金
融機関が土地売買の人材とノウハウをもつ高橋興業を存続させて任意売却させるこ
とを求めたため、高橋興業の破産宣告を回避したものであって、取下げの事実は、
高橋興業が破産宣告を受けるべき実態を有していたことと矛盾するものではない。
(ウ) 税金の滞納
 高橋興業は、千葉県成田市に対し、平成3年5月31日を納期限とする特別土地
保有税1310万9900円の納税をしておらず、その後においても平成4年ない
し平成7年に毎年同額の税金を滞納しており、その合計は6554万9500円に
達している。また、他の自治体にも多額の税金の滞納がある。
(エ) オリックスによる競売申立て
 オリックスは、平成3年8月1日ころから、被相続人や原告ら及びDに対し本件
保証債務の履行を求めるようになり、平成3年12月27日、東京地方裁判所に対
し、原告ら所有の不動産の競売の申立てを行っている。
 一般に、金融機関が中小企業に融資をする場合、代表取締役個人の連帯保証を要
求するのが普通であり、さらに、第三者を連帯保証人とすることを要求する場合も
あるが、そのような場合であっても、まず、主債務者である法人から債権の回収を
図ろうとするのはいうまでもなく、まず、主債務者たる法人に対し任意の弁済を求
め、任意の弁済を受けられない場合には、連帯保証人である代表取締役個人に対し
て任意の弁済を求めた上、両者に任意の弁済を求める意思がないことが明らかにな
った場合に、法人又は代表取締役個人に対する強制回収の方法を検討するのが一般
的である。にもかかわらず、本件においては、第三者たる連帯保証人である被相続
人を相続した原告ら及びDに履行を求め、さらに、原告ら及びDの財産を目的とし
て競売の申立てを行っているのであるから、平成3年8月1日当時、高橋興業及び
Fがオリックスに対して借入金を返済し得る資力を有していないことは明らかであ
る。
 オリックスは、当該競売申立後も、原告ら及びDに対して所有不動産の任意売却
を勧めており、原告ら及びDが、平成4年5月22日に代位弁済を行い、債権全額
の回収の目処が立ったことから、同日競売申立てを取り下げたにすぎない。
(オ) シマモトの貸倒損失処理
 シマモトは、高橋興業に対し、2億4000万円の貸付を行い、平成4年度末現
在、高橋興業に対して2億2000万円の貸付金残高を有していた。しかし、高橋
興業の資産状況や支払能力からみて、既に貸付金残高2億2000万円全額の回収
不能が明らかであったため、平成5年度(平成4年10月1日から平成5年9月3
0日)において、高橋興業に対する2億2000万円の貸付金を貸倒れとして損失
処理を行った。
(カ) 求償権の行使
 原告ら及びDは、平成4年6月9日に、請求書を交付した上、高橋興業及びFに
求償権を行使したが、同人らからの弁済はなかった。
(キ) 社会福祉法人王樹会に対する寄付について
 高橋興業は、平成3年ころに社会福祉法人王樹会に対し、現金や不動産の寄付を
行っているようであるが、この現金は、当時の高橋興業の経理担当事務員であった
I氏ですら知り得なかった、いわば裏金であり、このような寄付がされたからとい
って、一般債権者がそのような金員を引き当てに求償権の行使をし得るものではな
く、寄付の事実が原告ら3名の主張に影響するものではない。
(ク) 結論
 上記の各事情によれば、高橋興業は本件相続の開始日(平成3年8月1日)の時
点においてすでに弁済能力を失っていたものといえ、その後、本件譲渡に係る所得
税の確定申告期限(平成5年3月15日)の時点においても、同様であるというべ
きである。
イ 他の共同保証人への求償権行使の可能性
(ア) シマモトについて
a シマモトは、本件金銭消費貸借債務の担保として、被告主張の建物に根抵当権
を設定しているが、当該建物の平成3年度ないし平成5年度の固定資産評価額は8
02万8400円であり、上記債務の担保として十分な価値を有するとはいえな
い。
 また、シマモトは、平成4年度において、営業損失1084万6816円、当期
利益821万1493万(ただし、高橋興業から未収である貸付金利息を1320
万9858円を貸付金利息として計上)、平成5年度において、営業損失732万
9114円、当期損失2億1406万4937円(高橋興業に対する貸付金2億2
000万円を貸倒損失として計上したもの)であり、このような財務状況からみ
て、シマモトが平成3年8月1日及び平成5年3月15日当時、原告らの求償権行
使に対して弁済し得るだけの資力がなかったことは明らかである。
 そもそも、シマモトは、被相続人の資産管理を行うべく設立した資産管理会社で
あり、資産管理以外の業務は行っておらず、シマモトに対して求償権を行使して
も、原告ら及びDの資産から形式的に本件保証債務の履行による損失を回復するだ
けであり、実質的な損失の回復はされず、高橋興業又はFが原告ら及びDからの求
償権行使に対して弁済をする資力を有していない以上は、その損失を免れることは
できない。
b 時期に遅れた攻撃防御方法
 被告は、平成14年4月25日の第23回口頭弁論期日において、被告準備書面
(6)を陳述した際、追加主張及び立証はない旨を明らかにしたにもかかわらず、
その後に至って他の共同保証人への求償権行使の可能性に関する主張を追加したも
のであり、当事者の責務である信義誠実な訴訟追行(民事訴訟法2条)に反するも
のであるから、同主張は却下されるべきである。
(イ) Fについて
 Fは、平成3年ないし5年当時、土地を所有していたが、その土地はいずれも担
保余剰を有しないものであって、同土地を一般財産として求償権行使ができるはず
はなく、他に本件求償権の行使に見合うような財産はなかった。
(2) 被告
ア 高橋興業の弁済能力
(ア) 弁済能力の判断基準
 営業活動を継続的に行っている企業においてはその営業活動中に継続的・段階的
に借入金等を返済していくのが普通であり、借入金・保証債務等を一時に返済する
ことはむしろまれなことである。また、企業の損益は、それぞれの企業の影響状
況、企業を取り巻く景気、金利、物流状況、消費者の嗜好の変化、国際情勢等によ
り変化するものであり、その企業における一時点の資産の判断の状況から、借入金
等が一時に返済できるかどうかを判断基準とするのは非現実的である。
(イ) 高橋興業の事業の状況
 高橋興業は、本件相続の開始日(平成3年8月1日)及び本件譲渡に係る所得税
の確定申告期限(平成5年3月15日)において、東京都世田谷区γ32番15号
を本店所在地として事業活動を従前どおり継続しており、その間、破産宣告、和議
開始決定、会社更生あるいは強制執行等の手続開始を受けたことはなく、また、F
も同社の代表取締役として東京都世田谷区η14番26号に居住しており、失踪等
の事実もない。
 また、高橋興業は、営業部員を働かせ、所有する不動産を売却し、仮に、当該不
動産に設定された被担保債権が売却代金を上回る場合であったとしても、抵当権者
等の協力によって、売却代金のうち少なくともその10パーセントの運転資金を確
保し、どの不動産をいつ誰に売却するかとか売買価額の交渉などの重要な意思決定
は代表取締役であるF自らの判断の下に事業活動が継続的に行われていたものであ
る。
 現に、平成3年12月10日付けで、静岡県知事より静岡県富士宮市内の土地の
開発工事の検査済証の交付を受け、その土地を分譲し、平成4年1月20日から平
成5年7月30日にかけて分譲を行っていて、同土地に根抵当権を設定し借り入れ
た2億8000万円も平成5年7月30日までに完済している。その他にも富士宮
市θに所有する土地の譲渡、藤沢市ιに所有する土地の譲渡、富士市κに所有する
土地の譲渡、神戸市λに所有する土地の譲渡等、大手建設会社から土地の購入から
売却までのプロジェクトを請け負ったり、単に借入金の返済の目的ではない土地の
譲渡を行っていたし、不動産業以外にも、平成5年3月11日には、コンテナを利
用したカラオケ事業を行うための契約を締結したり、平成元年から平成7年ころま
での間に子会社である東京スパランドを介して健康センターの事業を行っており、
平成3年以降も、借入金を返済するために土地の売却を行うのみではなく、具体的
な事業活動を行っていた。
(ウ) 同社の財務内容
a 資産状況
 平成3年11月30日現在での資産の帳簿価額が348億8839万4519
円、平成4年11月30日現在で資産の帳簿価額が201億4871万7520
円、平成5年11月30日現在で資産の帳簿価額が149億8699万6234円
である。なお、地価の下落による所有不動産のいわゆる含み損があるとも考えられ
るが、一方で、平成4年11月期には特別利益として、固定資産売却益5億694
5万5003円を計上しており、含み益のある不動産も所有している。原告らの主
張する高橋興業所有の土地の時価評価の具体的算出方法は、失当であるほか、共同
担保の存在を考慮していない点にも問題があり、それに基づき土地が弁済原資とな
り得ないと主張することはその前提に誤りがあるといわざるを得ない。
b 収入状況
 平成3年11月期の不動産の譲渡収入が120億7955万0768円、家賃収
入が2億8295万0281円、荷役保管料が7959万1642円、その他営業
外収入が1億4409万7138円あり、平成4年11月期の不動産の譲渡収入が
11億9611万8527円、家賃収入が1億8590万5923円、荷役保管料
収入が1億0291万0423円、その他営業外収入が16億2287万0865
円あり、平成5年11月期の不動産収入が38億8146万1304円、家賃収入
が1億6670万2469円及び荷役保管料収入が3919万8500円、その他
営業外収入が3140万2902円である。
c 人件費
 平成3年11月期の役員報酬が1781万7000円、給料手当が9573万2
505円、平成4年11月期の役員報酬が1813万1600円、給料手当が82
78万6085円、平成5年11月期の役員報酬が1418万1600円、給料手
当が3516万8773円である。
d 借入状況及び弁済状況
 平成3年11月期の借入金額が110億9740万3646円であるのに対し
て、返済金額が193億9973万2113円、平成4年11月期の借入金額が3
0億2944万8285円であるのに対して、返済金額が95億7453万720
7円、平成5年11月期の借入金額が6億9974万2290円であるのに対し
て、返済金額が40億4949万1569円である。
(エ) 金融機関及び建設会社の協力
 高橋興業の大口債権者である野村ファイナンスは、同社に対して、毎月、翌月の
資金不足分を融資しており、また、平成3年7月26日から平成4年2月20日ま
での間に運転資金として都合7回にわたり4000万円ずつ総額2億8000万円
を新規に融資している。
 また、上記(ア)記載の健康センター事業に関し、高橋興業の子会社である東京
スパランドの設立に際し総額24億6000万円を融資し、さらに、平成4年4月
15日から平成6年10月14日までに総額11億7236万8919円の追加融
資まで行っており、建築会社である佐藤組は、24億6000万円の融資につき、
連帯保証人及び物上保証人となっている。
 さらに、上記(ア)記載のカラオケ事業のため、金融業を営むエクイオンが平成
5年3月11日付けで工事着手金として1億円を融資し、追加融資の予定もあった
(結局は、原告Bが代表取締役を務めるシマモトの破産申立ての事実が判明し、追
加融資は受けられなかった。)ところである。
(オ) 弁済の事実
 高橋興業は、本件借入金のうち、オリックスから昭和60年12月26日に買い
入れた10億円については、平成3年6月20日分までを、平和生命から昭和60
年9月6日に借り入れた5億円については平成3年6月20日分までを、また、同
社から昭和60年12月18日に借り入れた7億5000万円については、平成3
年5月20日分までをそれぞれ約定どおりに返済を継続していた。
 また、上記(ウ)dのとおり、その他の債権者に対しても多額の弁済を実行して
いる。
(カ) 社会福祉法人王樹会に対する寄付
 高橋興業は、社会福祉法人王樹会に対し、平成3年10月2日、八王子市μ一五
号1550番1及び2の土地5018.17平方メートル(同土地には何らの担保
権が設定されていない。)及び現金を贈与しているところ、このような贈与は原告
らがその当時において求償権行使が可能であった可能性を基礎付ける事実であると
いえるし、仮に、その当時、高橋興業が事業を行っておらず、金融機関の管理の下
で資産整理のみを行っていたのであれば、このような不動産の贈与や資金の提供に
金融機関が同意するとは到底考えられず、高橋興業がその時点で自らの判断で贈与
行為を行っていたいえる。
(キ) 総括
 高橋興業は、本件代位弁済金額を大幅に超える莫大な資産を有するほか、不動産
の譲渡収入及び毎月一定の収入が見込まれる家賃収入等があり、従業員を雇用し、
大口債権者の協力を得て、借入金も返済しているのであるから、特定の期間に損失
が発生しているからといって、直ちに高橋興業から原告らの代位弁済に係る求償債
権の回収が不能の状態であるとみることはできない。
 そして、高橋興業の所有資産そのものがないか、あるいは破産等の手続によっ
て、高橋興業の全資産が代表取締役たるFの手を離れて、破産管財人等を通して換
価され、法の規定に従い各債権者への配当が計算されて、その結果配当が全くな
い、あるいは見込みがないということが確実といった事情があればともかく、その
ような事情は全く認められないから、原告らの代位弁済に係る求償権の行使が客観
的に不能であるとは認められないというほかない。
(ク) 粉飾決算について
 商人は、営業上の財産及び損益の状況を明らかにするため会計帳簿及び貸借対照
表を作成することを要し(商法32条)、法律上又企業会計原則上、真実に基づき
正確な会計帳簿を作成することを義務付けられている(商法32条2項、33条、
498条1項19号、企業会計原則一般原則の一、二)。また、法人税法において
も、同法22条4項により、各事業年度の収益の額及び損金の額は、一般に公正妥
当と認められる会計処理の基準に従って計算し、青色申告を行う法人については、
同法施行規則53条ないし59条までの定めにより、決算を行うことが義務付けら
れている。
 そして、高橋興業は、青色申告の承認を受けている法人であるから、公表帳簿の
記載内容は強い事実上の推定力を有している。
 したがって、高橋興業の決算報告書及びそれに基づく確定申告書が粉飾決算に基
づく事実に反するものと主張するのであれば、原告らにおいて、その真実の益金及
び損金の額に算入すべき金額並びに真実の所得について、相当程度具体的に立証し
なければ、確定申告書に記載された所得を真実に反するものとして原告らの主張す
る金額を認めるのは困難というべきである(東京地方裁判所平成7年6月2日判
決・税務訴訟資料209号949頁)。
(ケ) オリックスによる競売申立てについて
 債権者は、貸付金債権の回収に当たり、その回収の手段として採り得る各手段に
付き、回収に要する時間やコスト等を検討し、もっとも早期かつ確実に債権回収を
図り得る手段を講じるのは当然であり、原告らが連帯保証人となっている金銭消費
貸借契約には、主たる債務者が弁済不能状態と認められた場合に限って連帯保証人
に弁済を求めるなどといった定めはなく、また、連帯保証人には催告の抗弁権及び
検索の抗弁権はないのであるから、オリックスが原告らに対して競売申立てを行っ
たことは、原告らの高橋興業に対する求償権行使が不能であったことを示すもので
はない。
(コ) 原告らと高橋興業の関係
 Dは、昭和44年ないし平成4年まで高橋興業の取締役に就任して報酬を得てお
り、被相続人、D及び原告Bは、高橋興業から配当金を得ていた。
 また、高橋興業は、同人らに、昭和63年12月15日以降、毎月100万円前
後の金員を支払っており、高橋興業が支払不能の状況にあったなどとは到底いえな
い。
イ 他の共同保証人への求償権行使の可能性
(ア) シマモトについて
a 本件借入金のうち、オリックスからの借入金に係る担保として、被相続人所有
の不動産とともに原告Bが代表取締役を務めるシマモトが所有の建物に根抵当権を
設定しているところ、同建物の敷地についてはシマモトを借主、被相続人を貸主と
して建物所有を目的とする賃貸借契約を締結しており、原告らも本件相続税に当た
って借地権相当額を控除してこれらの土地を評価していたのであるから、平成3年
8月1日及び平成5年3月15日当時において、シマモトが担保価値を十分有する
借地権付き建物を有していたこととなり、原告らがシマモトに対して求償権を行使
することができないことが客観的に確実であったとは認められない。
b 時期に遅れた攻撃防御方法の主張について
 民事訴訟法157条は、当事者が故意又は重大な過失により時期に遅れて提出し
た攻撃防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認
めた時は、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる旨
定めているところ、同条にいう「時期に遅れた」とは、もっと早く提出できたとい
うだけではなく、訴訟の具体的進行状況からみて、それ以前に提出することが期待
できる客観的事情のあったことをいうとされている。
 本件訴訟経過についてみると、被告は、従前から本件保証債務の履行に係る求償
権の行使が不可能であることは、原告らに主張立証責任がある旨明確に主張してい
たところ、平成12年11月10日以降、裁判所から原告に対し、その点について
の立証を促すという訴訟指揮が続いたにもかかわらず、原告はそれを行わず、他
方、被告に対し、求償権の行使が可能である旨主張立証すべきとの訴訟指揮はされ
ず、その状況の中で被告準備書面(7)を提出し、同書面において上記(ア)の主
張を行ったものである。そして、平成14年6月4日には、上記主張に係る証拠及
び証拠説明書を提出し、原告らに上記主張を行うことを明示し、原告らもこれを受
けて、上記主張に対する反論を展開しているのであり、上記主張が「訴訟の完結を
遅延させることになる」と認められるものではなく、「時期に遅れた」ものである
余地はない。
(イ) Fについて
 Fは、原告ら及びDによる代位弁済当時、神奈川県相模原市や千葉県鴨川市に不
動産を所有し、後者には担保権が設定されていなかったほか、平成3年11月期に
1757万7000円、平成4年11月ないし平成6年11月期に1406万16
00円の役員収入を受けているのであり、Fに対する原告らの求償権の行使は、少
なくともその一部について、これを行使することができないことが客観的に確実で
あったといえないことは明らかである。
第4 争点及びこれに関する裁判所の判断
 本件の争点は、①第1事件に係る訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部
分の訴えの利益の存否及び同訴えのうち原告ら3名に対する相続税更正処分の取消
しを求める部分の訴えの利益の存否(争点1)、②相続税法14条1項及び本件特
例の解釈並びに相続税法14条1項の基準時である本件相続の開始日(平成3年8
月1日)及び本件特例の各適用の基準時である本件譲渡に係る所得税の確定申告期
限(平成5年3月15日)における高橋興業の弁済能力及び他の連帯保証人への求
償権行使の可能性の有無(争点2)、③本件各相続税更正処分及び本件各所得税更
正処分につき理由附記の違法があるか否か(争点3)である。
1 争点1(訴えの利益)
(1) 本件各通知処分の取消しを求める部分の訴えの利益
 本件においては、原告ら及びDに対する本件各通知処分と同時に本件各相続税更
正処分が行われているところ、このように、通知処分と増額更正処分が相前後して
行われた場合には、増額更正処分取消訴訟を提起し、その中で減額更正をしない判
断の違法性を主張すれば足り、これと別個に通知処分を争う格別の利益はないとい
うべきである。したがって、本件第1事件に係る訴えのうち本件各通知処分の取消
しを求める部分については、訴えの利益が存しないものというべきである。
(2) 原告らに対する更正処分の取消しを求める部分の訴えの利益
ア 被告は、本件各相続税更正処分のうち原告ら3名に対してされたものについて
は、その後にされた修正申告に吸収されて消滅したとみるべきであるから、本件第
1事件に係る訴えのうち、原告ら3名が同人らに対する各相続税更正処分の取消し
を求める部分は、訴えの利益を欠く旨主張している。
イ しかし、証拠(甲14ないし29、458、乙28、29)及び弁論の全趣旨
によれば、本件においては以下の事実が認められる。
(ア) 原告らは、税理士Hを代理人として、平成4年1月31日の相続税の当初
申告と同時に物納申請を行っていたところ(甲15ないし17)、平成6年1月3
1日付けで本件各相続税更正処分がされたため、同処分による納付すべき税額を前
提にすると、原告らについては当初申告の際にした物納申請だけでは納税に不足を
生じることから、平成6年2月28日に別紙物件目録記載の土地(以下「本件物納
土地」という。)等につき、新たに物納申請を行った(甲20ないし22)。
(イ) 物納許可手続においては、一般に利用状況の確認や境界線等の確認、測量
等を行い、これらに基づいて土地の評価を行った上で、収納することが適格と認め
られれば物納を許可することとされているところ、本件においては、被告管内の物
納に係る事務を取り扱う新宿税務署のJ国税徴収官が、原告Aとの面接、利用状況
の確認及び境界の確認等を行い、原告らに土地の測量をすることを求めた。
 そこで、原告らが、土地家屋調査士に依頼して、本件物納土地の測量を行ったと
ころ、同土地の実測地積は、申告の際の地積より0.5平方メートル広いことが判
明した。
(ウ) 当時、物納の許可手続においては、一般に、実測面積が申告面積よりも広
かった場合、申告内容を実測面積に合わせたものとするために修正申告書の提出を
求める運用がされており、本件においても、J国税徴収官から事務を引き継いだG
国税徴収官が、H税理士に対し、数度にわたり、修正申告書の提出が物納許可のた
めに必要である旨を告げて、実測測量に基づく修正申告書の提出を強く求めた。そ
の際、G国税徴収官は、原告らが更正処分の内容を争って不服申立てをしているこ
とを知っていたが、修正申告書の提出と不服申立ての適否との関係については何ら
教示しなかった。
(エ) 原告らは、延滞税等の負担を避けるため、平成6年9月26日、北沢税務
署に本件相続に係る相続税についての修正申告書を提出した。
(オ) 被告は、平成6年12月22日、原告らに対し、上記申請についての物納
許可を行い、同月27日に本件物納土地を物納財産として収納した。
ウ 相続税法41条1項の規定によれば、通則法35条2項の規定により納付すべ
き相続税額、すなわち更正により課せられた相続税額についても、物納を申請する
ことが認められており、その際、相続税の更正を受けた者が物納申請を行う際に更
正に沿った修正申告を行うことは、物納申請及び物納許可を行う上での法律上の要
件とはされていない。そして、課税庁としては、仮に、申告面積と実測面積に相違
が生じた場合に、納税者が修正申告を行わなかったとしても、その点を理由として
再度の増額更正を行って、課税の根拠とされた面積と実測面積の相違を解消した上
で、物納の許否を判断することも可能であり、被告が本訴で主張しているように修
正申告をすることによってそれ以前にされた増額更正処分を争うことができなくな
るとの見解に立つならば、物納申請者が既に増額更正処分について不服申立てをし
ている事案においては、修正申告を求めることなく再度の増額更正の方法を採るこ
とを原則とすべきものと考えられる。本件で問題となっている申告面積と実測面積
の相違は当初の申告書に納付すべき税額として記載した税額に不足額を生じさせる
ものであるが、その後に増額更正がされた以上は、もはや当初の申告についての修
正申告は許されず(通則法19条1項柱書)、増額更正について同条2項各号列挙
の事項を修正するための修正申告をするほかないのであるから、本件のような事案
において、物納許可のために必要であるとして修正申告を促すことは、被告の前記
見解を前提とする限り、増額更正を争うことを放棄して物納をするか、物納を諦め
て現金納付の手段を講じ又はその時点における納税を諦めて多額の延滞税の負担を
甘受しつつ、あくまで増額更正を争うかの二者択一を迫るものというほかない。こ
れに対し、上記面積の相違に基づき増額再更正を行った場合には、当該納税者は、
この再更正に基づく税額についての物納を求めつつ、従来からの不服をこの再更正
に対する不服申立て手続内において主張することが可能となるのである。このよう
な場合、すみやかに後者の手段を採れば、納税者に対して何らの不利益を与えるこ
となく、物納申請に対して適切な対応が可能であるにもかかわらず、前者の手段を
採って、上記のような二者択一が迫られていることについて何ら説明をしないまま
修正申告を求めた上、それがされたときには増額更正処分を争う訴えの利益がない
と主張することは、あまりに原告らに酷というべきである。そして、そのような税
務職員によってもたらされた無用な二者択一によって行った修正申告によって、本
件各相続税更正処分を争う利益が失われるとしても、これを被告において有利に援
用し主張することは、信義に反し許されないものというべきである。
エ したがって、被告が、本件修正申告がされたことにより、原告らに対してされ
た相続税各更正処分の効力が消滅し、原告らが同各処分の取消しを求める訴えの利
益が失われると主張することは許されないというべきであり、本件においては、訴
えの利益が存するものとして取り扱うべきである。
 なお、この点については、国税不服審判所長も、本件についての審査請求に対す
る裁決において、物納担当職員が土地の面積を実測面積に修正するよう指導したの
で、原告らがこれに応じて本件修正申告書を提出したものと認定した上で、本件修
正申告書における課税価格については、原告らが自認したものとするのは相当でな
く、単に物納担当職員からの指導に応じたものであるから、本件修正申告書の提出
があるからといって、本件審査請求が請求の利益を欠くものであるとするのは相当
でないとして、審査請求が適法である旨を明言しており、当裁判所の上記判断と同
様の結論を導いている。
2 争点2(相続税法14条1項等の解釈、高橋興業の弁済能力及び求償権行使の
可能性)
(1) 相続税法14条1項の解釈
 相続税法14条1項は、同法13条の規定により課税価格から金額の控除を行う
べき債務は「確実と認められるもの」に限られる旨規定しているところ、保証債務
は、連帯保証債務を含めて従たる債務であり、主債務者が主たる債務を履行すれ
ば、保証人はその責任を免れ得るものであって、単に保証債務を負っているという
ことのみでは、将来保証人がその債務を履行するか否かは確実ではないから、原則
として、連帯保証債務は、単にそれを負担していることのみから相続税法14条1
項にいう「確実と認められる」債務には該当しないというべきである。
 しかし、相続開始時において、主債務の弁済期が到来しているにもかかわらず主
債務者が弁済不能の状態にある場合や債権者が既に主債務者ではなく保証人に対し
て履行を求める方針を明らかにしている場合には、保証人は、保証債務の履行をし
なければならないことが確実である上、主債務者の財産状況等からして、求償権を
行使してもその全部又は一部について満足が得られる見込みがないと認められると
きは、損失全部の填補を受けることができないことが確実なのであるから、このよ
うな場合には、連帯保証債務も、少なくとも求償の見込みがないと認められる限度
において同項にいう確実な債務に該当するというべきである。
 この点について、被告は、「主たる債務者が破産、和議、会社更生あるいは強制
執行等の手続開始を受け、又は事業閉鎖、行方不明、刑の執行等によって債務超過
の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途
が立たないなどの事情によって事実上債権の回収ができない状況にあることが客観
的に認められるか否か」という基準により判断するのが相当であると主張し、本件
相続に係る申告の時点において主債務者である高橋興業について破産等の手続が開
始されておらず、また、事業を継続しているとして、上記基準に列挙された事情は
存在しないとの認定をした上で、そのため債務の控除は行うべきではない旨の主張
をする。確かに、上記基準に列挙された事情が相続開始時に存した場合には、主債
務者が弁済不能の状態にあるし、将来の求償の余地がないことが容易に認められよ
う。もっとも、被告は、この基準を用いるに当たり、主債務者が事業を継続してい
る場合には何らかの法的な倒産処理手続が開始されていることを要すると解してい
るように思われるところ、そのような解釈は、この基準の趣旨ひいては相続税法1
4条1項の趣旨を正解しないものといわざるを得ない。すなわち、例えば、主債務
者がいわゆる私的整理(法的倒産処理手続によらない倒産処理)を行うに至った場
合、上記基準に列挙されている破産、和議、会社更生あるいは強制執行等の手続が
開始されていないのが通常であり、かつ、いわゆる再建型の私的整理を行った場合
には、主債務者の事業が依然継続しているものの、会社更生手続が開始されたとき
と同様、保証人が一般債権者に優先して弁済を受けることはできないし、保証人と
主債務者の関係いかんによっては他の債権者と同等の立場で整理を行う者から弁済
を受けることもできないこともあるから(むしろ、連帯保証人は、債権者に対して
自らが率先して弁済をしなければならない立場に追い込まれることもある。)、仮
に弁済をした場合にも、その弁済額全額の求償を受けられる可能性はないばかり
か、整理開始の段階で全く弁済を受けられないことが確実になっていることも十分
考えられる。そして、このような不利益を避けるための法的手続を採るとしても、
本件におけるシマモトのように費用倒れに陥るおそれ等から、これを断念せざるを
得ないことが多いのである。このような場合には、上記基準にいう「主債務者に対
して求償権を行使しても、事実上回収不可能な状況にあることが客観的に認められ
る」ものといえ、被告の主張がこのような場合に上記基準への該当性を否定するも
のならば、それは誤りというほかなく、被告が指摘する裁判例もこのような場合に
は保証債務が相続税法14条1項にいう「確実と認められるもの」に該当すること
を否定するものではないと解するのが相当である。むしろ、近時の経済状況や債務
整理手続の多様化等の事情を考慮すれば、単に主債務者における破産等の法的手続
開始や事業継続の状況のみから、主債務者の求償可能性の有無を判断することはか
えって事の本質を見誤るおそれがあり、相続開始時に存した客観的事情を総合考慮
した上で、求償債権の弁済可能性の有無を判断することが、被告指摘の裁判例の趣
旨にもかなったものであるというべきである。
 なお、以上のように考えると、求償債権の弁済可能性の有無については、保証債
務についての債務控除を求める納税者において、その全部又は一定の限度において
弁済を受ける可能性のないことを主張立証すべきこととなるが、その具体的な認定
に当たっては、主張立証すべき事実がいわゆる消極的事実であって、それを基礎付
ける事実関係が主として主債務者の資産及び負債の内容という納税者の直接関与し
得ない事柄であることに留意し、事案の内容に応じた事実上の推認の手法を用いる
べき場合が多いことに留意すべきである。
(2) 本件特例の解釈
 本件特例は、「保証債務を履行するため資産を譲渡した場合、その履行に伴う求
償権の全部又は一部を行使することができなくなったとき」に、「行使をすること
ができないこととなった金額」を、所得税法64条1項の「その回収することがで
きないこととなった金額」とみなし、「当該各種所得の金額の計算上、なかったも
のとみなす。」という規定である。
 この点について、被告は、「保証債務を履行するために資産の譲渡があった年分
の所得税の確定申告期限を基準として主たる債務者が破産宣告、和議開始決定を受
け、又は失踪、事業閉鎖等の事実が発生したり、債務超過の状態が相当期間継続し
て金融機関や大口債権者の協力を得られないため事業運営が衰微し再建の見通しも
ないことが確実になった場合をいい、これは、求償の相手方たる債務者の資産や営
業の状況、支払能力、他の債務者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的
に判断すべきものと解すべきである。」と主張する。しかし、これについても、上
記(1)と同様の見地から検討すれば、破産宣告、和議開始決定等の法的手続がと
られておらず、事業閉鎖等の外形的事実が発生していなくても、求償債権の弁済を
受ける見込みのない場合が存するものというべきである。この点について判断した
大阪高等裁判所昭和60年7月5日判決(行裁集36巻7・8号1101頁、同判
決は、最高裁判所第3小法廷昭和61年10月21日で維持されているものであ
る。)においても、本件特例適用の要件につき、「求償権行使の相手方である主債
務者が倒産して事業を廃止してしまったり、事業回復の目処がたたず破産もしくは
私的整理に委ねざるを得ない場合はもちろんのこと、主債務者の債務超過の状態が
相当期間継続し、衰微した事業を再建する見通しがないこと」と判示しつつ、それ
以外にも「その他これに準ずる事情が生じ」た場合にも本件特例の適用の可能性を
残しており、要は「債権回収の見込みのないことが確実となった場合」か否かを判
断するものとし、被告主張のような限定的な場合に限って本件特例の適用を認める
趣旨とは理解できないところであり、むしろ、前記(1)と同様、相続開始時に存
した客観的事情を総合考慮した上で、債権回収の見込みのないことが確実となった
場合」か否かを判断するのが妥当である。
(3) 高橋興業の弁済能力
ア 証拠(各項目に摘示のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認めら
れる。
(ア) 高橋興業の事業の状況等
a 高橋興業は、昭和32年12月7日に設立された資本金6000万円の株式会
社であり、平成元年ころ以降は、不動産の売買及び賃貸を主な業務としていた会社
である(甲415ないし甲419、乙15の1及び2)
b 高橋興業は、その決算報告書においては、平成元年11月期には、剰余金2億
0041万1642円、営業利益8億2050万9449円、経常利益2615万
7939円、税引後利益1681万6239円を、平成2年11月期には、剰余金
2億0427万8839円、営業利益9億8104万2116円、経常利益266
0万9097円、税引後利益1336万7197円をそれぞれ計上し、200億円
を超える借入金に対する約10億円に上る利息も滞ることなく支払っていたもの
の、これには子会社である小富士産業への売掛金がそれぞれ29億1858万97
42円、56億0376万3115円存在することを前提とするものであった(甲
415、416)。その後同社は、平成3年11月期には、欠損金22億0251
万1817円、営業損失12億1194万7378円、経常損失23億9729万
0656円を、平成4年11月期には、欠損金121億8302万9486円、営
業損失11億4900万2730円、経常損失17億7855万5282円を計上
(借入金に対する利息も平成3年11月期には13億円余り、平成4年11月期に
は33億円余りを延滞)するに至った(甲417、418)。
c しかも、平成4年11月期には、前期損益修正損として97億8515万01
56円が計上されており、その内訳は、既に計上した売掛金66億3537万23
97円、未収入金2億9614万7150円、仮払金7億0122万1300円、
立替金128万5161円、預かり金120万円、貸付金3億9200万円、子会
社勘定17億5192万4148円を修正するというものである(甲5、41
8)。上記売掛金のうち、56億円余を計上している小富士産業株式会社が実際に
は存在しない会社であり、また、売掛金等を計上している会社のうちティーケーハ
ウジング株式会社、オーミネ建設株式会社はいずれも高橋興業の代表者であるFが
取締役を務める会社であるところ、高橋興業は、以前からこれらの会社に対する架
空の売上を計上した上、期末に売掛金を借入金等の負債の科目と相殺し、架空の利
益を計上するための売掛金が不自然に巨額にならないようにすると同時に、実際に
は存在する借入金を簿外のものとして、架空の利益の計上と債務超過の隠ぺいを行
っていた(甲3、5ないし7、甲403、I証言)。小富士産業に対する架空売上
は、昭和61年11月期で5億8900万円、翌62年11月期で6億9000万
円、63年11月期で3億0070万円、平成元年11月期で10億7700万
円、平成2年11月期で10億円に上るものであるから(甲7の1ないし5)、こ
れらを差し引いただけでも、各年度において上記架空売上とほぼ同額の損失が存在
したこととなり、相当以前から借入金の利息すら支払えない状態が生じていたので
あって、これらの損失の存在を前提にして各期の資産及び負債を算出すると、各期
とも数十億単位の債務超過が生じ、平成2年11月期で56億9000万円余、平
成3年11月期で80億9000万円余の債務超過が生じていたこととなる(甲5
16、原告準備書面(2)及び(4)参照)。
d この間の高橋興業の状況について、同社の経理担当者であった証人Iは、次の
とおり証言する。すなわち、「高橋興業は、平成元年ごろから資金繰りが苦しくな
り始め、その頃は、いわゆるバブル経済期であったため、何とか資金繰りが可能で
あったものの、平成2年の夏ころからは、資金繰りが窮状を示すようになり、同社
が野村ファイナンスから100億円を超える融資を受けていたため、結局、その
頃、野村ファイナンスの実質的な支配下に入った。高橋興業は、毎月の収入と支出
の流れを事前に野村ファイナンスに示し、翌月の不足分について融資を受けるよう
交渉を行うといった状態で、その際には、借入金の元金や支払利息といったものは
削られて、必要最小限の資金のみの融資を受けて運転資金の調達をしていた。野村
ファイナンスとしては、その時点で高橋興業の清算を行うよりも営業を続けさせ
て、同社の所有している不動産をそのノウハウを用いて売却させ、その売却代金を
野村ファイナンス等の担保権者に返済するということを行った方が有利であると考
えて、そのようなことを行ったにすぎず、高橋興業にどの土地を売るかなどを決定
する権限は与えられていたものの、その管理が始まった時点で一種の清算状態であ
り、担保権者に弁済を行うため営業を行っていたにすぎない。不動産の売買代金の
1割に当たる手付金は日常の資金繰りに回し、残りの売却代金である9割は担保権
者に回されていた。」というものであるが、この証言は、上記の客観的状況及び平
成3年11月期に182億円余あった仕掛販売不動産が、平成4年11月期には1
52億円弱、平成5年11月期には100億円余と減少の一歩をたどっていること
等の事実と一致するものであり、これを覆すに足りる的確な証拠がない限り、同社
の状況は上記証言のとおりのものであったと認めるべきである。
 この点について、Fは、本訴提起後の平成13年11月に東京国税局の聴取に対
し、これに反する供述を行っている(乙32)が、同人の供述は、原告らへの返済
可能性に関する点はあいまいで具体性がなく、原告らが高橋興業に対して求償権の
行使を行っていないとする点(甲第448号証によれば、同人らは高橋興業に対し
て代位弁済にかかった費用の明細と題する書面を送付し、求償権を行使していると
認められる。なお、原告が同号証提出に至るまで求償権の行使はしていない旨主張
していたことからすると、同号証のみによって求償権の行使があったと認めること
には疑問が生じないでもないが、高橋興業が上記のような状況にあったとすると、
求償に見込みがないとして求償権を行使した事実すら失念したとする原告の弁解も
首肯し得るところである。)において信用性に疑問がある上、10億円を超える多
額の代位弁済を受けておきながら、10年近くもこれを放置し、請求がないから支
払っていないなどとうそぶいている点で不誠実な供述態度というほかなく、また、
同人が、破産申立て手続の間から原告らに対して非協力的であった(甲10)こ
と、同人が高橋興業の経営状況をありのままに供述することは粉飾決算や後記エの
王樹会への寄付といった犯罪と評価されるおそれのある行為を自ら認めることにな
ることからすると、同人がこの点について素直に供述することは期待し難く、この
点に関するFの供述は採用し得ない。
e 高橋興業は、次のとおり税金を滞納している。
(千葉県成田市への特別土地保有税。甲12) (平成10年2月20日時点)
納期限       税額         延滞金        加算金
平成3.5.31  1310万9900円 1301万4600円
平成4.6.1   1310万9900円 1109万0200円
平成5.5.31  1310万9900円  901万3700円
平成6.5.31  1310万9900円  676万4200円
平成7.12.21 1310万9900円  481万6200円 196万6
300円
合計        6554万8900円 4469万8900円 196万6
300円
(東京都狛江市への固定資産税。甲420の3) (平成12年11月6日時点)
年度    税額
平成4年度   1万0000円
平成5年度 155万9200円
平成6年度 163万5800円
平成7年度 169万5100円
平成8年度 155万4700円
平成9年度 159万5400円
合計    805万0200円
(静岡県富士宮市への租税。甲421の1ないし3) (平成12年11月7日時
点)
特別土地保有税
納期限      税額         延滞金      督促手数料
平成1.8.31  29万9600円                (取得
分)
平成3.5.31  60万7700円  26万8700円      (保有
分)
平成4.6.1  123万1400円             50円(保有
分)
平成5.5.31 130万7900円             50円(保有
分)
法人市民税
納期限      税額         延滞金      督促手数料
平成3.7.31               4700円   50円
固定資産税・都市計画税
納期限      税額         延滞金      督促手数料
平成3.6.3              2万1800円
平成4.5.6             13万6800円   50円
   〃       98万7200円            50円
   〃      124万3000円            50円
   〃      124万3000円            50円
   〃       81万2800円            50円
   〃      115万9000円            50円
   〃      115万9000円            50円
   〃      115万9000円            50円
平成6.6.3    89万5500円            50円
   〃      109万5000円            50円
   〃      109万5000円            50円
   〃      109万5000円            50円
平成7.6.5   112万0100円            50円
   〃      111万7000円            50円
   〃      111万7000円
   〃      111万7000円
平成8.6.3   113万6900円            50円
   〃      113万3000円            50円
   〃      113万3000円            50円
   〃      113万3000円            50円
平成9.6.3    41万6700円            50円
   〃       41万5000円            50円
   〃       41万5000円            50円
   〃       41万5000円            50円
平成10.5.6             2万2400円   50円
   〃       36万0100円            50円
   〃       42万9000円            50円
   〃       42万9000円            50円
合計       2727万6900円 45万4400円 1450円
(東京都世田谷区(以下「世田谷区」という。)への固定資産税。都市計画税。甲
422号証の3) (平成8年7月5日時点)
納期限        税額       延滞金
平成4.12.28           5万0400円
平成5.4.30   50万6400円
平成5.6.10   54万5000円
平成5.6.10   54万5000円
平成5.6.10   54万5000円
平成6.5.31   56万4000円
平成6.8.1    56万4000円
平成6.12.27  56万4000円
平成7.2.28   56万4000円
平成7.5.31   58万3800円
平成7.7.31   58万3000円
平成7.12.27  58万3000円
平成8.2.29   58万3000円
合計        673万3200円 5万0400円
(静岡県富士市(以下「富士市」という。)への固定資産税・都市計画税。甲45
5号証) 平成8年1月29日現在
納期限      税額        延滞金       督促手数料
平成5.4.30 210万9940円  70万1400円  210円
平成6.5.31 240万4200円  47万9200円  280円
平成7.5.31   4万3700円     3900円   70円
合計       455万7840円 118万3600円  560円
神戸市ν(以下「ν」という。)に対する固定資産税・都市計画税。甲457号
証)
納期限        税額
平成5.3.1    39万4000円
平成5.4.30   51万8900円
平成5.7.28   51万6000円
平成5.7.28   51万6000円
平成5.7.28   51万6000円
平成6.5.31   49万6500円
平成6.8.1    49万4000円
平成6.11.18  49万4000円
平成6.11.18  49万4000円
平成7.7.31   44万8800円
平成7.10.2   44万7000円
平成7.12.25  44万7000円
平成8.2.29   44万7000円
平成8.5.31   46万9600円
平成8.7.31   46万9000円
平成8.9.9    46万9000円
平成8.9.9    46万9000円
平成9.6.10   41万4300円
平成9.7.31   41万1000円
平成9.8.11   41万1000円
平成9.8.11   41万1000円
合計        975万3100円
 このうち、成田市からは、株式会社シマモトを申立人、高橋興業を抵当権設定者
とする不動産競売申立事件(横浜地方裁判所相模原支部平成7年(ケ)第260
号)において、本税額総額6554万8900円の交付要求を(甲12)、また、
世田谷区及び富士市からは、株式会社シマモトを申立人、高橋興業を抵当権設定者
とする静岡地方裁判所富士支部平成7年(ケ)第95号において交付要求を受けて
いる。さらに、世田谷区からは平成8年7月5日に高橋興業所有財産に差押えがさ
れ、νは、世田谷区が行った高橋興業財産への差押えにつき参加差押えを行ってい
る(甲12、420ないし422、453ないし457、枝番を含む)。
 前記の横浜地方裁判所相模原支部係属の不動産競売申立事件では、高橋興業から
請求債権について任意に弁済等されることなく、平成12年3月3日に売却許可決
定がされ、同年6月15日に配当がされており、また、静岡地方裁判所富士支部係
属の不動産競売申立事件においても、平成8年9月27日に配当に至っている。そ
して、両事件においては第1順位又は第2順位の抵当権者のみが配当を受けられる
にとどまり、配当を受けられない抵当権者もおり、租税債務及び申立人シマモトに
ついては全く配当がされなかった(甲511、512)。
e 高橋興業は、協同住宅ローン株式会社から、昭和63年から平成元年にかけて
の所有不動産に根抵当権を設定して合計10億円を借り入れていたが、平成3年4
月ないし5月以降、元利金の支払を遅滞し、平成5年11月17日に期限の利益を
失ったことから、同社は、根抵当権に基づく物上代位により、担保建物の賃借人に
対する賃料の債権執行の申立てをし、平成7年5月11日には債権差押命令が発付
された(東京地方裁判所平成7年(ナ)第462号、第463号、甲450、甲4
51)。
f 高橋興業は、昭和60年に平和生命から合計12億5000万円を借り入れ、
昭和61年9月末日の第1回返済から元金及び利息を約定に従い、毎年3月、6
月、9月、12月の各20日に1400万円返済していたが、平成3年6月21日
の返済を最後に元金の返済を行わず、その後は平成4年4月までは利息のみの返済
を行った(その後、平成4年5月22日に原告らが代位弁済を行ったため、同債務
は消滅している。)(乙8ないし10、17の1ないし3)。
 また、高橋興業は、昭和60年にオリックスから10億円を借り入れたが、平成
3年7月20日以降分割金の支払を怠り、それ以降、利息は支払ったものの、残元
本の支払を行わなかった(乙6、7)。
(イ) オリックスによる競売申立て
 オリックスは、平成3年8月1日、Eに対して、高橋興業の同社からの借入金に
ついて、連帯保証人として上記遅滞に係る分割金のうち833万3000円の弁済
を求める旨の催告書を送付した(乙7)。この催告がたまたま同人の死亡時期と重
なったため、しばらくは対応が取れなかったが、やがて原告ら及びDと高橋興業と
で弁済方法について協議を行ったり、千歳農業協同組合との間で借り換えの交渉を
行ったが不調に終わったため、結局、原告ら及びDは、任意売却により返済を行う
こととした。これと並行して、オリックスは、平成3年12月27日に本件連帯保
証債務の抵当権を実行すべく東京地方裁判所に競売申立てを行った。原告らが平成
4年に入り前記抵当権の抵当不動産の任意売却を行い、平成4年5月22日に弁済
を行ったため、オリックスは、同日に同申立てを取り下げた(甲440、447、
448、459、484、485各枝番を含む。)。
(ウ) 高橋興業に対する破産申立て(甲10、11、13、441、442、4
45、449)
 シマモトは、亡Eの資産管理等を行う会社であり、同人の死亡後は原告Bが代表
者となっていたところ、平成4年時点で高橋興業に対して2億2000万円の貸付
金を有していたものの、その回収の見込みが立たなかったことから、高橋興業を債
務者として、同年10月19日に破産申立てを行い、予納金800万円を納付し、
同年11月11日以降審問が行われた。その審問においては、当初、高橋興業が債
務超過の状態にあることを否認していたが、平成5年3月の第5回審問以降は、裁
判所からも同社が債務超過の状態にある旨の指摘がされ、同年6月22日の第8回
審問の際には、いったん審問が打ち切られ、破産宣告の期日として同年8月30日
が定められた。その後、高橋興業が新たに代理人を選任し、破産宣告を回避するた
めの具体的な提案をする旨の申入れがあったこと、債権者申立てによる破産事件で
あるため、高橋興業が管財人に協力しない懸念があったことから、担当裁判官が、
同年8月30日の破産宣告を見送り、同日は第9回の審問期日を行うこととした。
同期日や同年9月16日の期日においては、担当裁判官から、破産宣告の要件を充
たしているものの、財団が形成できず異時廃止にならざるを得ないし、K家(編注
 KはAの姓である。)の相続税の軽減のためには必ずしも破産宣告は必要ではな
いとの認識が示され、破産宣告は留保された。そこで、高橋興業が原告ら及びシマ
モトに対して税務上の協力を行うこと等を条件に破産申立ての取下げをする方向で
協議が続けられ、その検討の間にも、担当裁判官からは、破産宣告が必要であれ
ば、破産宣告を行う旨の話があったが、平成6年8月5日付けで、高橋興業代理人
が国税不服審判所に宛てて、高橋興業が、平成3年8月1日現在において、破産法
126条にいう支払不能状態にあったこと、当時において担保権の実行に着手して
いない金融機関等もあるが、それは、不良債権の顕在化をおそれ処理方針を決定し
かねているとともに、担保権の実行よりも不動産の任意売却による方が債権回収額
が多くなると見込まれていることによること、銀行取引停止処分を受けていないの
は手形・小切手を振り出していないことによること、破産申立事件の担当裁判官が
高橋興業が著しい債務超過の状態にあり、破産宣告の要件を充足しているが、高橋
興業の債務が過大でかつ資産がオーバーローンであるため、破産宣告を行っても固
定資産税や地価税さえも支払うことができず、財団を形成することができないか
ら、破産宣告をしても、手続費用さえまかなえずに手続は異時廃止とならざるを得
ないとの認識を示しており、そのために破産宣告をしていないこと、高橋興業が実
質的な営業を全く行っていないことを内容とする上申書(甲10)を提出した。
 このような経過を経て、高橋興業とシマモトとの間で、平成7年8月9日、高橋
興業がシマモト及び原告らに対する残債務の存在及び平成3年8月1日以前に大幅
な債務超過により破産状態であったことを確認し、税務上の協力をすること、並び
にシマモトに対して金800万円の和解金を支払うことを条件に、シマモトが破産
申立てを取り下げる旨の合意が成立し、シマモトは破産申立てを取り下げた。その
後、平成7年9月13日にはシマモト代理人と高橋興業代理人との間で、高橋興業
及びFが、平成3年8月1日以降において、大幅な債務超過により破産状態に陥
り、その時点でも破産状態にあったこと及び上記の認識が裁判所から示されたこと
の確認書(甲13)が作成された。
(エ) 貸倒損失処理
 シマモトは、高橋興業に対して上記(ウ)のとおり破産申立てをする一方、上記
2億2000万円の貸付金につき、平成5年会計年度(平成4年10月1日から翌
5年9月30日まで)において貸倒損失として計上し、処理を行った。その後、シ
マモトの税務処理を担当していたH税理士が、北沢税務署に行き、同処理について
説明を行ったが、その点について質問を受けたことも、その処理を否認される形で
の更正を受けたこともない(甲502)。
(オ) 高橋興業の所有の土地の状況
 原告は、高橋興業所有の土地について、土地の時価を推定し、設定債務額との差
異を算出して、高橋興業所有の土地がごく一部の例外を除いてオーバーローンであ
る旨を主張し、これについての証拠(甲31~414)を提出する。
 この主張の前提となる時価の算出方法については、被告の指摘するとおり厳密さ
に欠ける点があるため、これらの証拠のみをもって、高橋興業所有の土地がすべて
オーバーローンの状態にあったと断定することは困難といわざるを得ないが、その
反面、これらの土地のうちに十分な担保余力があると認めるに足りるものがないこ
ともまた明らかである。このことに加え、上記認定の著しい債務超過の状況を加味
した場合には、むしろ、特段の事情が認定し得ない限り、高橋興業所有の土地はも
はや担保余力のないオーバーローンの状態にあったと推認することできるというべ
きである。
 これに対し、被告は、富士宮市ξの土地が、極度額1億1000万円の根抵当権
設定がされているのに対し、2億1694万1200円で売却された例を指摘し、
原告の主張立証は失当であり、個別に不動産の売買時期、売買価額及び代金の売買
使途を明らかにすべきである旨主張する。しかし、証拠(乙34の1ないし37、
36)によると、この売買の対象となった土地のうち、高橋興業の所有名義になっ
ているのは、その仮登記がされているものを含めても取付道路等ごくわずかの部分
であって、これらがどれほどの価値を有するものか明らかでない上、上記の根抵当
権が設定されているのは、高橋興業の所有名義はおろか仮登記も経由されていない
土地、すなわち、物上担保に供されていた土地であり、これに担保余力があったと
しても、その部分は当該担保権者以外の債権者にとっては、その債権の引き当てと
はならないものであると認められる。したがって、被告指摘の売却事例は、上記推
認に反するものではなく、その主張は前提を欠き採用できない。
イ 以上の事実によれば、高橋興業は、昭和61年ころから、税引後において5億
円にものぼる赤字を計上し、やがて数十億円単位の債務超過に陥り、その額は平成
3年11月期には80億9000万円余りに達し、所有不動産の担保余力もなくな
ったことから資金繰りに窮し、平成3年5月には租税の滞納や一般債権も履行遅滞
が生じるなどしたため、遂に同年8月1日、連帯保証人である被相続人に保証債務
の履行の通知が届くに至っていたとみるのが相当である。
ウ 被告は、高橋興業が平成3年8月1日及び平成5年3月15日時点以降におい
ても事業活動を続けていたことを指摘するためこの点について判断する。
(ア) 証拠(乙35ないし39、41ないし67、乙78ないし80)によれば
以下の事実が認められる。
a 高橋興業は、同社が平成2年7月12日に開発許可を受け、開発を行った静岡
県富士宮市π2961-43ほかの土地7094.87平方メートルについて、平
成3年11月25日に開発行為に関する工事の検査済証を静岡県知事から受け取っ
ており、その後、これらの土地を分譲し、いずれも平成4年1月30日から平成5
年7月30日にかけて売買を原因とする登記がされている。上記土地には、平成2
年4月19日付けで、債務者高橋興業、根抵当権者を兵銀リース株式会社、極度額
3億3500万円とする根抵当権設定の登記がなされており、実際に平成2年4月
18日付けの2億8000万円をはじめとする融資もされたが、各土地についての
根抵当権設定登記は、各土地が分譲される際にそれぞれ解除を原因として抹消さ
れ、平成5年7月30日までにはすべて抹消された(乙35ないし40)。
b 高橋興業は、平成2年2月27日に、株式会社熊谷組及びフジタ工業株式会社
(以下「熊谷組ら」という。)との間で、神奈川県藤沢市ι460番地1ほかの土
地835.08平方メートルを高橋興業が取得し、引き渡す旨の業務委託契約を締
結し(その後同年11月1日に変更の合意がされた。)、平成2年3月12日に三
井リース事業株式会社からの計97億1200万円の借入金を原資として、株式会
社日東エステートから同日所有権の移転を受け、同土地を取得した後、平成3年8
月9日付けで熊谷組らに売買代金79億6713万4900円で売却し、同日付け
の清算書により21億3286万5100円を受領し、同日、三井リースの抵当権
設定登記は、同日付け解除を原因として抹消された(乙41ないし47)。
c 平成7年10月30日付けで、高橋興業の子会社であるティーケーハウジング
が所有していた富士市κ224番5ほかの土地4795.87平方メートルについ
て、同社がFの弟であるLが代表を務める有限会社サフランクリエーション(以下
「サフランクリエーション」という。)に一括して売却する契約を締結し、上記売
買代金の支払について、サフランクリエーションが高橋興業に対して3億6251
万円を支払うとの契約がされ、高橋興業がサフランクリエーションに対して融資を
行っている生泉興産に対して3億3000万円の支払をした(乙48ないし5
0)。
d 高橋興業は、平成10年3月24日付けで、神戸市λ五丁目9番1の土地22
0.12平方メートルを神戸市に対し1億5848万6400円で譲渡する土地売
買契約を締結し、さらに、その土地上の建物を3億1913円で移転する旨の物件
移転補償契約を締結している。そして、代金の支払先は、神戸市ν長に411万6
300円、東京都町田市役所収入役に2499万7650円、株式会社住宅金融債
権管理機構に4億2030万2450円とされ、残りの2820万円が高橋興業
(商号変更後の株式会社アストン・デベロップメント)に振り込まれた(乙51な
いし53)。
e 高橋興業は、東京都町田市σ3番1においてカラオケ事業を行うことを計画
し、平成5年3月11日付けで、株式会社プロジェクト・ジンとの間で、カラオケ
装置つきコンテナの購入契約及び工事請負契約を締結し、経営管理をプロジェク
ト・ジンに委託する契約を締結している。上記事業に関しては、高橋興業の債権者
である株式会社エクイオンが新たに1億円の融資を行ったものであるが、エクイオ
ンが追加融資を行わず、カラオケ事業はエクイオンに引き継がれた(乙54ないし
57)。
f 高橋興業は、東京都町田市σ1191番1ほかの土地において、いわゆる健康
センターの事業を計画し、平成元年12月4日付けで野村ファイナンス及び株式会
社佐藤組と基本契約を締結した上、同月14日付けで、佐藤組と20億3940万
円の工事請負契約を締結し、平成3年12月16日には高橋興業、佐藤組及び上記
土地に係る抵当権の抵当権者である野村ファイナンスとの協議によって、高橋興業
が、株式会社東京スパランドを自らの子会社として、上記土地を東京スパランドへ
現物出資する形で設立した。野村ファイナンスは、平成4年1月28日に24億6
000万円を東京スパランドに対して融資し、また、平成4年から6年にかけて総
額11億7236万8919円の追加融資をしており、高橋興業も、野村ファイナ
ンスから平成3年7月から翌4年2月までに都合7回にわたり4000万円ずつ、
2億8000万円の融資を受けた。また、佐藤組は、東京スパランドが融資を受け
るに当たり、連帯保証をするとともに自己の所有する不動産を担保として提供して
いる。その後、東京スパランドの営業収益が上がらず、同土地の地価も下がったた
め、佐藤組は、平成7年1月10日付けの合意書に基づき、野村ファイナンスに対
し、東京スパランドの保証債務を履行するとともに、野村ファイナンスの東京スパ
ランドに対する債権額36億円のうち12億円の債権を譲り受け、その代金として
12億円支払った。そして、佐藤組は、東京スパランドに対し、求償権を行使し、
同社から35億2000万円の代物弁済として土地、建物、什器備品を取得した
(乙58ないし67)。
(イ) 上記事実に基づき、各事実が上記イの認定と整合するか否かについて検討
する。
a 上記aの事実についてみると、aの開発土地に設定された兵銀リースの抵当権
設定時期によれば、平成2年4月以前から計画がされ、開発に着手していた事業で
あり、その後開発が進み、平成3年12月に開発が完了し分譲が行われたものであ
って、上記イの認定における、平成2年夏以前に開発に着手していた土地について
は、開発を進めて売却の手続を進め、売却代金でその土地に設定された抵当権を抹
消した上、仮に余剰が生じれば野村ファイナンスに対する債務の返済や人件費等に
充てていたという事実と矛盾するものではないし、この事実から一般債権者への弁
済可能な利益が生じたか否かは明らかでなく、aの事実が、上記認定を妨げるもの
とはいえない。
b また、bの事実についてもaと同様、平成2年の夏以前の時期に契約が締結さ
れた事業をそのまま続けたにすぎず、売却代金の大半は抵当権の抹消に用いられて
いるものである。また、被告の主張によれば、高橋興業は同事業で105億816
2万9077円を支出したところ、熊谷組らからは101億円が支払われたのみで
あり、後に三井信託銀行から高橋興業の報酬が2億円となるように損害が填補され
る旨の調停が三井信託銀行との間で成立した(乙47)とされるが、この余剰も他
の債務の返済や人件費等に充てていたとみるのが自然なものであり、上記各事実も
上記イの認定と抵触するものとは認め難い。
c cの事実についてみれば、確かに被告の指摘どおり、高橋興業に約3000万
円の余剰が生じていることとなるが、平成8年に3000万円の余剰が生じている
ことをもって、平成3年や平成5年の時点で、原告らに対する弁済の可能性があっ
たことを基礎付けることにはならないし(本件代位弁済により生じた求償債務の利
息を考えただけでも、それに全く満たない金額である。)、同土地の入手経路は証
拠上必ずしも明らかではなく、上記a、bと同様、単なる仕掛土地の処分とみるべ
きものであるという可能性もあり、被告の主張によれば、本土地の売買は、ティー
ケーハウジングに対する差押えを免れることをきっかけとしてされたものであるの
であるから、これをもって、平成8年時点において高橋興業が事業を行っており、
利益を上げてきたことを推認させる事実ともいい難い。
d dの事実についてみれば、確かに、2820万円がアストン・デベロップメン
トに支払われてはいるものの、代金に占めるアストン・デベロップメントの取得分
の比率が著しく低く、大部分が株式会社住宅金融債権管理機構に支払われているこ
とや、同建物の譲受先が地方公共団体である神戸市であること、本件土地の取得経
緯は必ずしも明らかではない(仮に同土地・建物を事業として新たに取得して、譲
渡を行い利益を得たということであれば、同土地・建物の取得経過等について被告
が立証してしかるべきであるが、それがされていない。)ことにかんがみれば、未
納の税金や債務の支払のため同市に対して従前から所有していた財産を任意売却し
たものとみるのが自然であり、これをもって事業と呼ぶべき性質のものではない
し、上記利益もこれを一般債権者への弁済に充て得るものか否か不明というほかな
い。
e eの事実は、その時期も平成5年3月であり、これを高橋興業の事業とみるこ
とができれば確かに被告の指摘も的を射ていることとなる。しかし、乙第16号証
によれば、エクイオンは、平成2年11月期において、高橋興業に対して18億円
という巨額の融資を行い、高橋興業はこれに対する返済を全く行っていないことが
認められるところ、この事実を背景にすれば、高橋興業がこの新規事業を自らの意
思で計画し、これに対してエクイオンがさらに1億円の融資をしたというよりは、
エクイオンが自らの債権をできるだけ回収するため、原告に新規事業を行わせた
が、破産申立ての事実が発覚したため頓挫したとみるのが自然であり、これを妨げ
るに足りる証拠はなく、この事実をもって、高橋興業が自力で事業を行う意思を有
していたとみるのは困難である。
f fの事実についてみれば、a及びbの事実と同様、そもそも本件事業の開始の
時期は、平成元年以前であるし、当事者3社が平成3年12月4日付け覚書(乙6
6)において、平成元年12月4日付け基本契約は「乙(高橋興業)の野村ファイ
ナンスに対する債務の弁済を円滑に行うため、丙(株式会社東京スパランド)に別
紙物件目録記載の土地・建物を所有させたうえ、同債務を重畳的に引き受けさせ、
適当な買い手が出現するまでの間、本件土地・本件建物において丙の営業による利
益で借入金等の弁済をする意図で締結されたものである」旨確認しており、また、
同事業に融資を行ったのは、上記認定において高橋興業を管理しているとした野村
ファイナンスであるから、同社が協力を行ったことは高橋興業の信用の評価にとっ
て積極的なものとはならない。むしろ、毎月運転資金の融資を行っていた点など
は、上記イの認定に合致しているところである。また、佐藤組が協力したという点
も、共同事業者として協力したことは認められるものの、自らも収益を挙げるため
投資を行ったにすぎず、その投資の対象も高橋興業の信用というよりは東京スパラ
ンドの収益にすぎず、また、自ら担保提供を行ったものの、求償権を確保するため
の手段も講じていたものであり、そのことが高橋興業の当時の信用を裏付けるもの
とはいえない。
(ウ) 以上のとおり、被告が主張する上記の各事業は、高橋興業に関する上記イ
の認定を妨げるものではない。
 そして、被告は、前記の事業を踏まえて、高橋興業が野村ファイナンスや佐藤組
から協力を得られており、その点からも原告の弁済能力を基礎付けるかの主張をす
るが、それらの協力が高橋興業の弁済能力を基礎付けるものでないのは、上記の判
断から明らかであるし、他に金融機関等が高橋興業に協力したことを基礎付けるに
足りる証拠はない。
エ 社会福祉法人王樹会の出資及び現物出資について
 被告は、平成3年中に、高橋興業が医療法人王樹会に多額の出資及び現物出資を
していることを指摘するためこの点について検討する。
 証拠(乙24ないし27)によれば、高橋興業が、平成3年3月29日に設立認
可となった社会福祉法人王樹会に対し、平成3年3月30日に八王子市μ字十五号
1550番1、同1550番2の土地5018.17平方メートルを、同日、3億
0325万円、同年7月1日に5352万5900円、同月10日に1000万
円、同月31日に1200万円、同年10月2日に1億3800万円及び2500
万円の現金計5億4177万5900円をそれぞれ寄付財産として移転した事実が
認められる。確かに、被告の指摘するとおり、上記認定の高橋興業の事業の状況に
鑑みれば、当時、実質的に高橋興業を管理していた野村ファイナンスやその他の金
融機関が上記出資に同意しない場合には金融機関らの回収に当てられる蓋然性は高
く、出資に同意しなければ、回収分が増えるという関係が存するのは確かである。
 しかし、上記の不動産や金銭はいずれも高橋興業の帳簿や決算報告書に現れてい
ないものであるから、これらを果たして野村ファイナンスが認識していたか否かに
も疑問があり、この時期は、それまで続けられてきた粉飾決算についても帳簿上の
修正がされていないことを考え合わせると、高橋興業がそれまで帳簿外で蓄積して
いた財産を粉飾決算の発覚後も温存させようとして社外に移したとみるのが相当で
ある。仮にそうであるとすると、野村ファイナンスはもとより、原告ら一般債権者
もこれらを把握することは、困難であり、仮にこれを把握したとしても、詐害行為
取消権を行使してこれらの財産を高橋興業の下に取り戻すにはかなりの困難が予想
されるし、それが実現したとしても、当時の高橋興業の債務額からすると、原告ら
のような求償債権者がいく分なりとも弁済が受けられるか否かにも疑問があるとい
わざるを得ない。
オ 債務の弁済について
 被告は、高橋興業が平成3年8月1日及び平成5年3月15日以降においても他
の債権者に対し極めて多額の債務の返済を行っていると主張するので、この点につ
いて判断する。
(ア) 乙第18号証の1及び2によれば、平成4年11月期以降に至っても総額
95億円(もっとも、うち36億6700万円余りは野村ファイナンスへの返済で
ある。)、翌5年11月期に40億円、翌6年11月期に22億円の借入金の返済
を行っていることが認められ、被告は、このことが、高橋興業の弁済原資の存在を
基礎付けるものとなると主張するが、上記ウの被告主張の事業の例からも明らかな
ように、高橋興業は、借入金により土地を購入し、これを分譲・譲渡などし、その
差額で利益を上げるという業態を取っている会社である以上、土地を譲渡する際に
は必ず当該土地に設定した抵当権を抹消することが必要となるのであり、同社が平
成2年11月期において仕掛販売不動産225億円余りを有していたのに、平成3
年11月期に約182億円(前年比43億円の減少)、平成4年11月期におい
て、約152億円(前年比30億円の減少)、平成5年11月期において約100
億円(前年比50億円の減少)となっていることにかんがみれば、借入金の返済の
かなりの部分は、仕掛販売不動産の販売による収入がそのまま充てられたとみるべ
きであり(Fからの聴取書(乙32)中にもこれに沿う部分がある。)、上記イの
認定のとおり、清算のために土地の譲渡を行うのみの活動を行ったとしても生じる
範囲の債務の弁済とみることが可能である。
(イ) 他方、乙第18号証1によると原告ら以外にも、平成5年度にマツガネ建
設株式会社がτ信用金庫に2000万円を、平成7年度には、Mが株式会社日貿に
5億18202万2704円を、平成8年度には静岡県信用保証協会が清水銀行τ
支店に406万8323円を、平成9年度には山見工務店がコスモ信用組合φ支店
に対し1億0012円をそれぞれ代位弁済していることが認められるものの、高橋
興業がこれらの者の求償に応じた形跡はない。
(ウ) 以上のように、被告指摘の弁済の事実は必ずしも高橋興業の弁済能力を裏
付けるものではない上、原告ら以外の保証人にも代位弁済を余儀なくさせているこ
とは同社の弁済能力の欠如をうかがわせるものであり、たとえ一時的に弁済の余力
が生じたとしても、原告ら及びDの求償権は、そもそも被相続人が高橋興業に対し
て行った連帯保証に基づくものであって、前記のとおり何らの担保権も設定されて
おらず、一般の債権に比べて事実上優先順位が低いとみられるものであるから、そ
のような弁済余力が、原告ら及びDへの弁済に向けられる可能性があったというこ
とはできない。
カ その他の被告の主張について
(ア) 被告は、高橋興業の弁済能力については、企業における一時点の資産の判
断によるのは非現実的である旨の主張をする。確かに、企業活動においては借入金
や保証債務が一時的に増大することもあるため、一時的な資産内容によってその健
全性を判断することは、誤りを招く可能性があるといえる。しかし、前記イの認定
は、本件における高橋興業の資産内容を一定程度継続して、その判断を行っている
のであるから、被告の主張は当を得ていない。
(イ) 被告は、連帯保証人には検索及び催告の抗弁権がないのであるから、オリ
ックスが原告らに対して請求を行ったからといって、必ずしも主債務者である高橋
興業に弁済能力がないとは考えられない旨主張するが、一般に、金融機関が債権回
収に当たって、連帯保証人に催告の抗弁権がないからといって、いきなり連帯保証
人に履行を求めることがあり得ないのは経験則上常識というべきものであり、オリ
ックスは、高橋興業及びその代表取締役であるFに対して任意の履行を求めた上、
強制回収の手段も困難であると判断したため、連帯保証人である被相続人に履行を
求めたと推認するのが相当である。特に、本件においては、単に連帯保証人である
被相続人に催告を行っただけでなく、その後、被相続人を相続した原告ら及びDが
所有する不動産の競売申立てまで行っているのであり、このことは、オリックスが
催告を行った平成3年8月1日より前の時点で高橋興業やFに弁済の可能性がない
と判断したことを示すものというべきである。
(ウ) また、被告は、粉飾決算を行っていた事実の立証につき、主たる債務者が
決算報告書に基づく確定申告書を提出している以上、その真実の益金及び損金の額
に算入すべき金額並びに真実の所得について相当程度に立証しなければ、確定申告
書記載の所得金額を真実に反するものとして覆して真実の金額と認めることはでき
ないとして、原告らが真実の金額を立証できない以上、公表帳簿によるべきとの主
張をする。
 しかし、本件においては、主債務者である高橋興業の経理担当者であった証人I
がこの点について証言しており、同社の作成した伝票(甲6の2)にまで「粉飾」
であることを認める記載がされていること、及び平成4年11月期に突然97億円
余りの損益修正損が計上されていることからすると、それまでに相当多額の粉飾が
行われていたことが明らかであり、それに具体的な立証を求めることは、事実に反
して原告らに困難を強いているにすぎず、そのような主張は到底採用できない。
(エ) 被告は、高橋興業代理人の上申書(乙444)をはじめ、破産の手続にお
いて、高橋興業の破産の要件の充足が確認されているのは、単に、高橋興業が、原
告らの税務手続に協力するために記載したものであり、真実かどうかには疑問が残
る旨の主張をする。確かに、本件手続において、破産取下げに当たり、高橋興業が
原告らの税務手続に協力することが条件とされてはいるが、弁護士である今井・北
村両代理人が真実に反してまで依頼者の破産要件の充足を宣言して、相手方の税務
手続に協力するとは考え難いし、また、証拠(甲11、13、441、442)に
よると、裁判官が破産宣告の要件を充足し財団形成すらも難しいとの認識を示した
ことも認められ、これに反する証拠がない以上、被告らの主張は採用し得ない。
(オ) 被告は、高橋興業に営業収入が多く存在する旨を指摘し、事業が実体を有
していたものである旨を主張するが、高橋興業の業態を考えた場合、営業収入は、
会社を管理され、任意弁済に充てるために会社資産を譲渡する状態にあっても発生
するものであり、そのことは同社の一般債権者への弁済余力の存在を基礎付けるも
のではないし、同社においては、少なくとも平成3年11月期から同5年11月期
まで経常利益はおろか営業利益すら全く挙がっていないのであるから被告の主張は
採用し得ない。
 また、被告は人件費の存在も指摘するが、これも何ら原告の事業の存在や弁済能
力を基礎付けるものとはいえない。
(カ) 被告は、亡Eがオリックスに対し高橋興業の債務の連帯保証人となった後
に自らもオリックスから1億2000万円の借入れをし、昭和63年当時有してい
た全ての土地に抵当権を設定していたことを指摘し、遺産分割を行い相続税の物納
や延納の許可を得るためには、これらの抵当権と併せて本件連帯保証に係る債務に
ついての抵当権も抹消する必要があったため、原告らは自らの都合もあって連帯保
証債務を任意に履行したのが事の真相であると主張する。
 しかし、仮に、被告の主張するように原告らが自らの都合も考慮して代位弁済を
行ったとしても、そのことは上記イの認定を左右するものではないし、上記イ及び
下記(4)、(5)のとおり、高橋興業及び他の連帯保証人の状況からすると、亡
Eの相続開始時において既に本件各連帯保証債務について早晩履行が求められざる
を得ず、その求償が不能な状態が生じていたことは客観的にみて明らかであるか
ら、被告の上記主張は本訴請求の成否に影響を及ぼすものではない。
(4) 本件連帯保証債務の状況
 オリックスからの借入れ(乙6)については、高橋興業が借主、Fと被相続人が
連帯保証人として契約したものであり、その際には、被相続人が自己所有の土地及
び建物並びに東京都世田谷区β62番1の3棟のシマモト所有の建物に昭和60年
12月27日受付の根抵当権を設定するとともにシマモトも連帯保証人となってい
るものの、それ以外に担保はない。また、平和生命からの借入れ(乙8、9)につ
いては、高橋興業を借主とし、被相続人、Fが連帯保証人となり、被相続人が自己
所有の土地につき、昭和60年9月6日付け及び昭和61年12月28日付けの抵
当権を設定したものである。
 これらによれば、原告らが代位弁済した際に、債務者である高橋興業に代位して
取得するのはF及びシマモトに対する連帯保証債権とシマモトに対する抵当権であ
り、これら以外の担保は存在しない。
 そして、法的にはともかく、自らが行った一般債権の保証契約に基づく保証債務
を履行したことによる求償権を、他の一般債権に優先して行使するというのは困難
なことが多いといわざるを得ない。
(5) 他の保証人等への求償可能性
 本件求償権の担保として、破産申立て取下げの合意に基づき、平成7年に至って
求償権についての抵当権設定の仮登記がされているが、同登記は、あくまで仮登記
である上、当時の高橋興産の状況からすれば、同社所有の不動産一般について、特
段の事情がない限り担保価値が存したと認めることはできないのは上記のとおりで
あり、これらから回収を受けられた可能性も低いといわざるを得ない。実際に、相
模原支部係属の競売事件及び富士支部係属の競売事件においては、シマモトの抵当
権については、配当のないまま事件が終了しているし、これらの事件においては、
最優先の根抵当権の極度額を大きく下回る額で売却決定がされている状況にある
(甲511、512)。
 また、被告はFに対する求償可能性を主張し、同人が千葉県鴨川市に平成4年9
月まで他の担保に供していない別荘地を所有しており、同土地には昭和48年時点
で極度額500万円の根抵当権が設定されていることから、ある程度の財産的価値
があると指摘しているが、その根抵当権は他の担保との共同担保として設定されて
いるのであるから(被告は共同担保目録はもはや入手できないとしている。)、同
土地自体がどの程度に評価されたかは不明であるし、同土地の地目が山林であるこ
となどからすると(乙20)、年間5000万円を超える求償債権の利息を上回る
価値があるとは認め難い。また、同人は年間1000万円余りの報酬を得ている
が、その額は求償債権の利息の4分の1程度に過ぎないものであるから、これを全
額差し押さえても求償債権の元本は全く減少しないことが明らかである。そのほか
には被告の主張を認めるに足りる資産は見当たらないばかりか、上記ア(イ)のと
おり、オリックスが被相続人に対して催告をし、競売申立てを行っていることや証
拠(甲404ないし414、443及び444)によって認められるFの資産状況
等からすると同人に対する求償可能性が存しないことも明らかといわざるを得な
い。
 さらに、被告は、シマモトが設定した抵当権等から求償を受ける可能性がある旨
指摘するが、シマモトは、事実上、被相続人の財産を所有するための会社であった
ことは被告も認めているところであって、そこからの求償可能性を主張すること
は、実質的には原告らに自らの資産をさらに処分せよと主張するに等しく、それが
果たして求償を意味するものか否かにも疑問が生ずるところである。また、シマモ
トの主な資産は、上記のとおりオリックスに担保として供した3棟の建物に尽きる
ところ(甲496)、被告はこれらの建物所有権に付属する借地権に相当の価値が
あると主張するが、同社と亡Eとの関係及び両者間で昭和59年に締結された土地
賃貸借契約においては権利金等の金員の授受が全くされていないことからすると
(甲75)、その敷地を亡Eらの相続人らが所有している限りは、地上建物を買い
取るのみで容易に土地賃借権を解消し得る状態にあったと認めるのが相当であっ
て、当該土地賃借権の価値を通常の借地権のように高額に評価することについては
疑問があり、この賃借権及び建物所有権を代物弁済させたとしても求償債権の利息
を上回る額と評価し得ないと考えられる。これをあえて通常の借地権付き建物とし
ての価格で他に処分させることは、その前提として、原告らがシマモトの借地権を
それまでのぜい弱なものから強力なものへと無償で変更するという莫大な損失を伴
う行為を行っていることを意味するのであって、仮にシマモトから相当額の求償金
を受けたとしても、上記損失を差し引くと原告らの実質的な取り分はごく限られた
ものであり、やはり求償債権の利息にも達しないものと認めるのが相当である。な
お、原告らは、その相続税の申告に当たって、上記各建物の敷地の価格につき更地
価格から通常の借地権価格相当額(約1億5000万円)を控除した額としており
(乙76、77)、シマモトもまたその会計書類に借地権価格を4000万円計上
している(甲496)。これらからすると、原告らがシマモトの借地権の価格が相
当高額なものとみえないでもないが、相続財産の評価は相続人がこれを保有し続け
ることを前提とするものではなく、客観的な交換価値によるべきものであって、上
記敷地の客観的な交換価値は、シマモトと人的関係のない第三者がこれを購入する
ことを前提として評価すべきこととなり、そのような第三者は通常の借地人として
の権利を主張し得るものとして買値を決定することとなるから、相続税の申告に当
たって上記のような評価をすることに何ら問題はなく、そのことと、シマモトへの
求償可能性を検討する際に借地権価格を低廉に評価することは何ら矛盾するもので
はない。そして、シマモト自体も前記のように高橋興業から2億2000万円の貸
付金の弁済を受けられず、これを貸倒処理した結果、大幅な債務超過の状態に陥
り、同貸付金の原資となったと考えられるDからの2億1000万円余りの借入金
及び同女への9400万円余りの未払金についても返済の目途がない状態となって
いるのであるから(甲496、497)、同社に求償し得る可能性はないというべ
きである。
(6) 結論
 以上によれば、平成3年8月1日及び平成5年3月15日の時点において、高橋
興業は、その業績、資力の観点から、原告らが代位弁済した求償権を弁済する可能
性はなかったというべきであり、また、原告らが他の方法により求償権の満足を得
られる方法もなかったといえるものである。
 そうすると、上記(1)で検討した「事実上債権の回収ができない状況にあるこ
とが客観的に認められる」場合に該当すると認められるから、本件債務についての
債務の控除は認められるべきである。また、上記(2)で検討した「求償権の行使
が不可能となる場合」に該当するとも認められるから、本件特例の適用は認められ
るべきである。
3 争点3(理由附記の違法)
 上記2のとおり、争点2に関する原告らの主張には理由があるから、本件各所得
税更正処分及び本件各第1、2賦課決定についての原告らの本訴請求は全て理由が
あることとなるが、本件各相続税更正処分についての本訴請求については、争点2
に関する原告らの主張のみでは、そのすべてを認めることができないので、さら
に、本件各相続税更正処分に関する限りにおいて、争点3についても判断すること
が必要となる。
 そこで検討するに、国税通則法(本件相続税更正処分後に施行された平成5年1
1月12日号外法律89号による改正後のもの)74条の2第1項は、本件各更正
処分を含む「国税に関する法律に基づき行われる処分」について行政手続法の理由
附記に関する規定の適用を排除しているし、行政手続法制定の前後を通じて、本件
各更正処分について理由附記を義務付ける法令の規定は見当たらないので、本件各
相続税更正処分に理由附記を義務付ける法令上の明文の根拠は、本件処分時はもと
より、現時点においても存在しないこととなる。なお、憲法13条の趣旨及び行政
手続における一般法としての行政手続法が施行されて、不利益処分一般について処
分理由の明示が要求されるに至ったこと、並びに上記国税通則法の規定が行政手続
法の適用を排除している点について首肯し得るに足りる理由があるか否かには疑問
の余地があると考えられることなどからすると、当該事案の内容によっては、法令
上、理由附記が義務付けられていない更正処分においても、理由附記を欠くこと自
体が当該更正処分の違法事由となる場合もないとはいえないと考えられる。しか
し、本件各相続税更正処分は、先にされた原告らの更正の請求に理由がないとの本
件各通知処分と同時にされているから、少なくとも更正の請求に理由がないことが
更正処分の理由となっていることは原告において容易に知り得ると考えられるし、
原告らが本件で主張している点は、上記更正の請求で主張したところに尽きるもの
であるから、結局、上記各更正処分に理由附記を欠いたことは、原告らに実害を与
えなかったことが明らかである。このように実害がないことが既に明らかになって
いる以上、この点を違法事由として取り上げることはできない。
 したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない。
4 税額の計算
 以上に基づいて、原告ら及びDの相続税額及び所得税額を計算すると、相続税に
ついては別表11、所得税については別表12の記載のとおりとなる。原告は、本
件各相続税更正処分について、当初、相続税法13条1項の適用と相続財産である
土地の評価が高額にすぎることをそれぞれ主張していたが、第19回口頭弁論にお
いて、後者の違法事由を主張しない旨述べたため、相続税額は原告らがした更正の
請求の額を上回る税額となる。
第5 結論
 したがって、原告らの訴えのうち、本件各通知処分の取消しを求める部分は不適
法であるからこれを却下することとし、原告らの請求のうち、Dに対する相続税更
正処分及び相続税過少申告加算税賦課決定並びに原告ら及びDに対する本件各所得
税更正処分、本件第1賦課決定処分及び本件第2賦課決定処分に係る各取消請求は
その全部について、原告らの相続税更正処分に係る各取消請求は主文掲記の範囲で
いずれも理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないから
これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟
法61条、65条1項、64条本文を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 廣澤諭

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