弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、宇都宮地方検察庁検察官検事正代理次席検事金沢清作成名義
の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用し、これに対し、当裁判所は事実
の取調をした上、次のとおり判断する。
 論旨第一は、要するに本件放火既遂の公訴事実に対し、これを放火未遂と認定し
た原判決の事実誤認を主張する一点に尽きる。
 よつて先ず原判決が認定した本件放火の方法及び右放火による焼燬の程度を見る
と、被告人は本件放火当時たまたま不在中の原判示の家族寮第a寮b階c号室A方
居室の前(北側)廊下から右居室の廊下掃出口(縦約三〇糎、横約八〇糎のベニヤ
板張りの引戸二枚によつて開閉されるもの)の向つて左側の引戸を約五糎引き開
け、同居室前廊下にある右A方炊事場に有り合せたマツチを擦り、点火した軸木を
右手に持ちながら、左手でラツカー用シンナー液二五〇C・C入りの壜を右掃出口
の隙間から居室内に差し入れ、その周辺の畳(表の毀損している古畳の上に茣蓙一
枚と更にその上に薄縁一枚を重ねて敷いたもの、以下同様)及び引戸の敷居に同液
約八〇C・Cを注ぎかけた上、これに右点火したマツチの軸木を近づけて引火せし
め、もつて前記第a寮に放火したが程なく同寮に居住するBらに発見消火されたた
め、右A方の前記掃出口東側引戸の一部(縦約二五糎、横約二五糎)及びこれに接
する畳の一部(縦約四五糎、横約三五糎)をそれぞれ燃焼燬損させたほか、右引戸
に接する柱の部分を約一粍の深度に、右引戸の敷居南縁のうち前記柱より約二五糎
西方に至るまでの部分を約三粍の深度に、同鴨居南縁のうち、右柱より約三四糎西
方に至るまの部分を約三粍の深度にそれぞれ炭化せしめたというのであつて、原審
が本件を未遂と認定した理由は原判決において説示するとおりであるが、これを要
するに、BがCの急報を受けて前記放火現場に馳けつけた時には、A方居宅内は煙
で充満していたが、その廊下掃出口引戸のうち前記燃焼部分は既に燃え尽きてい
て、その燃え残り口には殆んど火の気はなく、また右引戸の敷居、鴨居、柱のうち
前記炭化部分にも格別炎があがつていた気配はなく、僅かに同人方居室の畳のうち
前記燃焼部分が炎をあげないで燻つていたこと及び火災の発見者であるDや、同女
から急を聞いてかけつけたCの両名が右浅川の消火行為以前に、特段の消火活動を
した形跡がなく、被告人もまたなんら消火の挙に出ていないことが証拠上認められ
ることから、たとえA方掃出口の引戸の敷居、鴨居、柱が前記の部位、程度に炭化
していても、これは媒介物たるシンナー液、畳、引戸の燃焼に伴う燃焼炭化であつ
て、これら媒介物の燃焼が自然鎮火すると共に、右掃出口の引戸の敷居、鴨居、柱
等も自然に鎮火したものではないかと推認する余地が多分にあつて、右媒介物が自
然鎮火した後もなおこれとは独立に燃焼を開始するに至つたものと肯記するに足る
確証がないことにあるのであつて、畢竟本件放火の媒介物である前記液体の燃焼が
自然に鎮火すると共に本件建物の一部である前記掃出口の敷居、鴨居、柱を燃焼し
た火も自然に鎮火したものと認められることが、原審において本件放火を未遂と認
定した理由となつているのである。
 <要旨>凡そ、放火による火勢が放火の媒介物を離れて、家屋が独立して燃焼する
程度に達したときは放火の既遂をもつて論ずべきであつて、そのことは、既
に最高裁判所屡次の判例が示すところである(最高裁判所刑事判例集第二巻第一二
号一四四三頁、同第四巻第五号八五四頁参照)。そして一旦燃焼の程度が右の程度
に達した以上、その後火が人為的に消火せられようと、或いは自然に鎮火しよう
と、それは放火既遂罪の成立に何ら消長を及ぼさないものと解するのが相当であつ
て、右の独立して燃焼する程度に達したか否かは、燃焼による物質的損傷の程度に
よつて認定せられるべきものである。
 しかるところ、本件放火によつて前記A方居室の掃出口東側引戸に接する柱と右
引戸の敷居及び鴨居が燃焼し、それぞれ前記の範囲と程度において石柱等が炭火し
ていることは前記のように原判決が認定しているところであつて、また当審におけ
る事実取調の結果に徴しても優にこれを認め得るのであるが右燃焼による柱等の損
傷の状態から勘案すれば、本件放火による火勢がその媒介物を離れて、既に独立し
て燃焼する程度に達したものと認めるのが相当である。さすれば本件放火は既遂と
認めるべきであるのにかかわらず、原審がこれを未遂に終つたものと認定したの
は、その認定を誤つたもので、もとより右認定の誤が判決に影響を及ぼすことは明
らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。
 よつて本件控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条に
則り原判決を破棄し、論旨第二(量刑不当の主張)についての各所論を考慮し、同
法第四〇〇条但書により、更に次のとおり自判する。
 当裁判所が認定した犯罪事実及び証拠の標目は、原判示の罪となるべき事実中、
「もつて現に人の住居に使用する前記第a寮に放火したが、程なく同寮に居住する
B等に発見消火されたため」とあるのを「もつて現に人の住居に使用する前記第a
寮に放火し、」と、また「夫々炭化せしめたに止まり、同寮焼燬の目的を遂げなか
つたものである。」とあるのを「夫々炭化せしめ、もつて被告人その他の者が現に
居住する前記第a寮を焼燬したものである。」とそれぞれ訂正するほか、原判決と
同一であるからこれを引用し、原判決の「本件放火を未遂と認定した理由」の項を
削除し、被告人の本件所為に対し次のとおり法律を適用する。
 被告人の所為は刑法第一〇八条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、犯
状憫諒すべきものがあるので同法第六六条、第七一条、第六八条第三号により酌量
減軽をした刑期範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、原審における未決勾留日数
中六〇日を同法第二一条に従い右本刑に算入し、原審及び当審の訴訟費用は刑事訴
訟法第一八一条第一項但書に則り、全部被告人に負担させないこととする。
 なお本件犯行当時、被告人が心神耗弱の状態にあつた旨の原審弁護人の主張は、
証拠上被告人が犯行当時に是非、善悪を弁別する能力を著しく缺如していたものと
は到底認められないからこれを採用しない、
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 小林健治 判事 松本勝夫 判事 太田夏生)

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