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平成26年4月22日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第6750号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成26年3月7日
判決
原告株式会社山二
同訴訟代理人弁護士小田耕平
同髙須賀彦人
被告株式会社永光
同訴訟代理人弁護士牧隆之
同入倉進
同舟木一弘
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,商品名を「キューティーベアーチャビー(ブラウン)」とす
る別紙5記載の商品(JANコード:4994372129154)及び商品名
を「キューティーベアーチャビー(ベージュ)」とする別紙6記載の商品(J
ANコード:4994372129161)を販売し,又は,インターネット通
信販売ウェブサイトにその販売広告を掲載してはならない。
2被告は,前項の各商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成25年7月9
日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告による商品名を「キューティーベアーチャビー(ブラ
ウン)」とする別紙5記載の商品(JANコード:4994372129154,
以下「被告商品1」という。)及び商品名を「キューティーベアーチャビー
(ベージュ)」とする別紙6記載の商品(JANコード:4994372129
161,以下「被告商品2」といい,被告商品1及び被告商品2をあわせて「被
告商品」という。)の販売が,原告の商品の形態を模倣した商品を販売する不正
競争行為(不正競争防止法2条1項3号)に当たるとして,不正競争防止法3条
1項及び同2項に基づき被告商品の販売等の差止め及び廃棄を求めると共に,同
法4条に基づき,1100万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日
である平成25年7月9日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延
損害金の支払を求める事案である。
1判断の基礎となる事実
以下の各事実は当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨に
より容易に認められる。
(1)当事者
原告は,家庭用,工業用プラスチック製品及びその金型の製造販売,金物,荒
物,文房具等日用品雑貨の販売などを目的とする株式会社である。
被告は,家庭用電化製品,真珠,衣料品の卸及び小売などを目的とする株式会
社である。
(2)原告商品(甲1)
原告は,言葉を再生する機能を有しない小熊のぬいぐるみを開発して平成22
年9月に発表し,「シュエッテイーベア」の商品名でこれを販売した(以下「原
告ぬいぐるみ」という。)
原告は,原告ぬいぐるみの多角化商品として,音楽を再生する機能を有する商
品及び言葉を再生する機能を有する商品を開発し,後者について,平成23年1
2月から,商品名を「マネしておしゃべりぬいぐるみ:シュエッテイーベア(コ
コア)」とする別紙1記載の商品を製造販売し,平成24年11月から,商品名
を「天使のこぐま:マネしておしゃべりぬいぐるみ(ココア)」とする別紙2記
載の商品を製造販売している。前者の商品と後者の商品では,商品名及び商品外
装の記載は異なるものの,商品自体の形態及びJANコード(49441093
05948)は同じである(これらを以下「原告商品1」という。)。
また,原告は,原告商品1の色違い商品として,平成23年12月から,商品
名を「マネしておしゃべりぬいぐるみ:シュエッテイーベア(ミルクティ)」と
する別紙3記載の商品を製造販売し,平成24年11月から,商品名を「天使の
こぐま:マネしておしゃべりぬいぐるみ(ミルクティ)」とする別紙4記載の商
品を製造販売している。これについても,前者と後者で商品名及び商品外装の記
載は異なるものの,商品自体の形態及びJANコード(49441093059
31)は同じである(これらを以下「原告商品2」といい,原告商品1と原告商
品2をあわせて「原告商品」という。なお,原告ぬいぐるみと原告商品の形態の
同一性の有無,及び不正競争防止法19条1項5号イの適用に係る起算日につい
ては争いがある。)。
原告商品は,ぬいぐるみ胴体内に内蔵した装置により,電源を入れた状態で話
しかけると,直ちにその言葉を再生しながら,頭部等を上下に動かす機能を有し
ている。
(3)被告の行為
被告は,平成25年5月から,ウェブサイトなどにおいて,被告商品を販売し
ている。
被告商品も,原告商品同様,ぬいぐるみ胴体内に内蔵した装置により,電源を
入れた状態で話しかけると,直ちにその言葉を再生しながら,頭部等を上下に動
かす機能を有している。
2争点
(1)被告商品1は,原告商品1の形態を模倣したものか(争点1)
(2)被告商品2は,原告商品2の形態を模倣したものか(争点2)
(3)原告商品は,日本国内において最初に販売された日から起算して3年
を経過した(不正競争防止法19条1項5号イ)といえるか(争点3)
(4)善意無重過失による譲受け(不正競争防止法19条1項5号ロ)
(争点4)
(5)原告の損害(争点5)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(被告商品1は,原告商品1の形態を模倣したものか)について
【原告の主張】
(1)原告商品1の形態
原告商品1の形態は,以下のとおりである。
【全体的形態】
A1全体が毛で被われた熊様の動物の座った状態をかたどったぬいぐる
みである。
B1暗調子の茶色(ダークブラウン)をした蝶々結びをしたリボンが,
正面側の首付近に設けられている。
C1毛は,暗調子の茶色(ダークブラウン),長さは約10㎜であり,
緩い巻(薔薇ボア加工)がかかっている。
D1商品の大きさは,高さが約145㎜(頭部の高さは約70㎜,胴体
部の高さは約75㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約120㎜,頭部の奥行きは
約105㎜である。
E1底面部は,略円形で白色のプラスチック部が露出しており,ネジ止
めされた電池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが設けられている。
【目】
F1両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて
2つ設けられて形成されている。
G1目の大きさは,直径約13㎜である。
H1両目の中心の間隔は,約45㎜である。
【口・鼻】
I1両目中央のやや下方部分が正面側に約30㎜突出して,口鼻部が形
成されている。
J1鼻は,黒色の刺繍により,口鼻部先端付近の上面側に形成されてお
り,その形状は横長の長方形である。
K1口は,黒色の刺繍により,鼻の中央部分から下方に伸びる逆Y字形
状(三点星状)に形成されている。
【胴体部】
L1両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,
固定されていない態様で設けられている。
M1両腕の先端部内側には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無
毛(サテン)の生地部分が設けられている。
N1両脚は,胴体部の左右の下端付近に,固定されていない態様で設け
られており,左右斜め外方向に向いている。
O1両脚の先端部には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無毛
(サテン)の生地部分が設けられている。
(2)被告商品1の形態
被告商品1の形態は,以下のとおりである。
【全体的形態】
a1全体が毛で被われた熊様の動物の座った状態をかたどったぬいぐる
みである。
b1暗調子の茶色(ダークブラウン)をした蝶々結びをしたリボンが,
正面側の首付近に設けられている。
c1毛は,暗調子の茶色(ダークブラウン),長さは約12㎜であり,
緩い巻(薔薇ボア加工)がかかっている。
d1商品の大きさは,高さが約130㎜(頭部の高さは約65㎜,胴体
部の高さは約65㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約110㎜,頭部の奥行きは
約100㎜である。
e1底面部は,それぞれの角を丸くした略長方形で白色のプラスチック
部が露出しており,ネジ止めされた電池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが
設けられている。
【目】
f1両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて
2つ設けられて形成されている。
g1目の大きさは,直径約13㎜である。
h1両目の中心の間隔は,約40㎜である。
【口・鼻】
i1両目中央のやや下方部分が正面側に約15㎜突出して,口鼻部が形
成されている。
j1鼻は,黒色の各先端部は丸く加工した上辺を長くした下方中心に尖
のある二等辺三角形の部材(幅は約14.5㎜で,高さは約10㎜)が設けられ
形成されている。
k1口は,黒色の刺繍により,鼻の中央部分から下方に伸びる逆Y字形
状(三点星状)に形成されている。
【胴体部】
l1両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,
固定されていない態様で設けられている。
m1両腕の先端部内側には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無
毛(サテン)の生地部分が設けられている。
n1両脚は,胴体部の左右の下端付近に,固定されていない態様で設け
られており,左右斜め外方向に向いている。
o1両脚の先端部には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無毛
(サテン)の生地部分が設けられている。
(3)原告商品1と被告商品1の共通点
原告商品1の形態と被告商品1の形態を対比すると,以下の形態において共通
している。
ア全体が毛で被われた熊様の動物の座った状態をかたどったぬいぐるみ
であること(A1,a1)
イ蝶々結びをしたリボンが正面側の首付近に設けられており(B1,b
1),毛の色とリボンの色が同系色(B1,b1)にされていること
ウ毛の長さが約10~12㎜前後で,緩い巻(薔薇ボア加工)がかって
いること(C1,c1)
エ毛の色が暗調子のダークブラウンであること(C1,c1)
オ底面部は,白色のプラスチック部が露出しており,ネジ止めされた電
池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが設けられていること(E1,e1)
カ両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて2
つ設けられて形成されていること(F1,f1)
キ目の大きさは,直径約13㎜であること(G1,g1)
ク両目の中心の間隔は,約45~40㎜であること。(H1,h1)
コ口と鼻は,両目中央のやや下方部分が正面側に突出して口鼻部を形成
していること(I1,i1)
サ口は,黒色の刺繍により,鼻の部材の下側中央部分から逆Y字形状
(三点星状)に形成されていること(K1,k1)
シ両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,固
定されていない態様で設けられていること(L1,l1)
ス両腕の先端部内側には,毛と同系色をした無毛(サテン)の生地部分
が設けられていること(M1,m1)
セ両脚は,胴体部の左右の下端付近に,固定されていない態様で設けら
れており,左右斜め外方向に向いていること(N1,n1)
ソ両脚の先端部には,毛と同系色をした無毛(サテン)の生地部分が設
けられていること(O1,o1)
(4)原告商品1と被告商品1の相違点
原告商品1の形態と被告商品1の形態を対比すると,以下の形態において相違
している。
ア原告商品1は,「商品の大きさは,高さが約145㎜(頭部の高さは
約70㎜,胴体部の高さは約75㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約120㎜,
頭部の奥行きは約105㎜」(D1)であるのに対し,被告商品1は「商品の大
きさは,高さが約130㎜(頭部の高さは約65㎜,胴体部の高さは約65
㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約110㎜,頭部の奥行きは約100㎜」(d
1)である。
イ原告商品1は,「両目中央のやや下方部分が正面側に約30㎜突出し
て,口鼻部が形成されている。」(I1)に対し,被告商品1は,「両目中央の
やや下方部分が正面側に約10㎜突出して,口鼻部が形成されて」(i1)お
り,突出している程度に僅かな相違がある。
ウ原告商品1の鼻は,「黒色の刺繍により,口鼻部先端付近の上面側に
形成されており,その形状は横長の長方形である。」(J1)のに対し,被告商
品1の鼻は,「黒色の各先端部は丸く加工した上辺を長くした下方中心に尖のあ
る二等辺三角形の部材(幅は約14.5㎜で,高さは約10㎜)が設けられ形成
されている。」(j1)
(5)まとめ
以上の事情に加え,原告商品1と被告商品1とで身体各部の比率がほとんど同
じであり,両者を並べて比較すれば,その相違を見つけことはできるものの,各
別に見たときには,その区別は容易ではなく,とりわけインターネット上の掲載
写真では区別がつかないこと,両者の布型がほとんど同一であることも考慮すれ
ば,被告商品1の形態は,原告商品1の形態と実質的に同一である。口鼻部分の
突出の程度の差は,主に縫製の手間を省くことを主眼に,左右の顔の布型と顔前
頭の布型の3つの部分で構成させた結果生じたに過ぎないなど,上記各相違点
は,実質的同一の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって,被告商品1は,原告商品1の形態を模倣したものといえる。
【被告の主張】
(1)原告商品1と被告商品1の共通点について
原告の指摘する原告商品1と被告商品1の共通点は,いわゆるテディーベアタ
イプの熊のぬいぐるみに共通するありふれた形態に過ぎず,外形に共通点がある
のは当然であり,不正競争防止法上の保護対象となるものではない。
(2)原告商品1と被告商品1の相違点について
一方で,原告商品1と被告商品1には以下のような相違点がある。
ア身体各部の大きさ
原告も認めるとおり,原告商品1と被告商品1は大きさが異なる。なお,原告
は,原告商品1の大きさ(高さ)について145㎜としているが,実際は150
㎜である。
イ身体各部の比率
原告は,原告商品1と被告商品1の身体各部の比率が同一であるかのような主
張をするが,下記のとおり異なっている。
①(頭・前後)/(座高)
原告商品1は0.700であるところ,被告商品1は0.769である。
②(目の間隔)/(頭・幅)
原告商品1は0.428であるところ,被告商品1は0.400である。
③(目の大きさ)/(目の間隔)
原告商品1は0.288であるところ,被告商品1は0.325である。
ウ鼻の仕様が,原告商品1は刺繍であるが,被告商品1はパーツを取付
ける仕様であり光沢を帯びたものとなっている。
エ鼻の形状が,原告商品1は横長長方形に近い形となっているが,被告
商品1は逆三角形に近い形となっている。
オ口鼻部の突出長さが,原告商品1は約30㎜であるが,被告商品1は
約10㎜である。
カ脚の方向について,原告商品1は正面方向に向けられているが,被告
商品1は左右斜め外方向に向けられている。
キ毛の質について,原告商品1は毛が細かい印象となっているのに対し
て,被告商品1は毛が無造作に固まっており,乱雑な印象となっている。
ク毛の長さについて,原告商品1は10㎜であるが,被告商品1は20
㎜となっている。
(3)布型について
原告も認めるとおり,原告商品1と被告商品1の布型は同一ではなく,顔面部
分の布型について原告商品1は4つの部分で構成され,被告商品1は3つの部分
で構成されている。原告は,この相違点について,被告が裁縫の手間を省くこと
により製造コストを安価にしたためと主張するが,邪推に過ぎず,布型が異なる
ことは被告商品1が原告商品1に依拠していないことの表れである。
(4)まとめ
以上からすれば,原告商品1と被告商品1は,商品の印象として一番影響を与
える顔の部分において,口鼻部の突出の有無,毛並み及び毛の長さの違いにより,
別の熊という印象を与えている。具体的には,原告商品1は口鼻部の突出や毛の
長さ及び毛並みからして立体的(実物的)な熊の印象を与えるのに対し,被告商
品1は口鼻部の突出がほとんどなく平面的な顔面であること,毛が長く無造作に
乱れていることからして平面的で無造作な熊の印象を与えるものであり,両形態
は実質的に同一ではない。
したがって,被告商品1は,原告商品1の形態を模倣したものとはいえない。
2争点2(被告商品2は,原告商品2の形態を模倣したものか)について
【原告の主張】
原告商品2は,原告商品1と形状を同じくしており(原告商品1の各構成態様
に対応した原告商品2の各構成態様を「A2」などとする。),ただ,色彩とし
て,正面側の首付近に設けられた蝶々結びをしたリボンが「明調子の茶色(ライ
トブラウン)」であること(B2),毛の色が「明調子の茶色(ライトブラウン
・ベージュ)」であること(C2),両腕の先端部内側に設けられた無毛(サテ
ン)の生地部分が「明調子の茶色(ライトブラウン)であること(M2),両脚
の先端部に設けられた無毛(サテン)の生地部分が「明調子の茶色(ライトブラ
ウン)」であること(O2)に違いがある。
一方,被告商品2も,被告商品1と形状を同じくしており(被告商品1の各構
成態様に対応した被告商品2の各構成態様を「a2」などとする。),色彩とし
て,正面側の首付近に設けられた蝶々結びをしたリボンが「明調子の茶色(ライ
トブラウン)」であること(b2),毛の色が「明調子の茶色(ライトブラウン
・ベージュ)」であること(c2),両腕の先端部内側に設けられた無毛(サテ
ン)の生地部分が「明調子の茶色(ライトブラウン・ベージュ)であること(m
2),両脚の先端部に設けられた無毛(サテン)の生地部分が「明調子の茶色
(ライトブラウン・ベージュ)」であること(o2)に違いがあるのみである。
そのため,原告商品2と被告商品2の形状については,原告商品1と被告商品
1の対比と同じ共通点及び相違点が指摘でき,また,上記各色彩についても,原
告商品2と被告商品2の共通点ということができる。
したがって,前記1【原告の主張】欄記載と同じ理由により,被告商品2の形
態は,原告商品2の形態と実質的に同一であり,被告商品2は原告商品2の形態
を模倣したものといえる。
【被告の主張】
原告商品2と被告商品2の形態については,前記1【被告の主張】欄記載と同
様の指摘ができる上,手の平・足の裏の生地の色目について,原告商品2は毛の
色よりも暗目の茶色であるのに対し,被告商品2は,毛の色よりも明るめの黄色
に近い色であることも考慮すれば,被告商品2の形態は,原告商品2の形態と実
質的に同一ではなく,被告商品2は原告商品2の形態を模倣したものとはいえな
い。
3争点3(原告商品は,日本国内において最初に販売された日から起算し
て3年を経過した(不正競争防止法19条1項5号イ)といえるか)について
【被告の主張】
原告商品の形態は,原告ぬいぐるみの形態から若干の変更が加えられているも
のの,顔の構成や毛の質感など両者は実質的に同一の形態であり,原告もこの点
は認めている。そのため,原告商品について,「日本国内において最初に販売さ
れた日」(不正競争防止法19条1項5号イ)は,原告ぬいぐるみが「第70回
東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2010」に出展された平成22年
9月7日であり,既に3年が経過している。
そのため,原告の差止請求は棄却されるべきであるし,損害賠償請求に関して
も,平成25年9月8日以降の販売分については,損害額算定の基礎とはならな
いといえる。
【原告の主張】
原告は,原告ぬいぐるみと同一のコンセプトで原告商品を開発したに過ぎず,
原告ぬいぐるみと原告商品の形態は異なっている。特に腕や足の大きさ,太さの
相違は一見して明らかである。
そのため,原告ぬいぐるみの販売開始日をもって,原告商品の「日本国内にお
いて最初に販売された日」(不正競争防止法19条1項5号イ)と解すべき理由
はない。
4争点4(善意無重過失による譲受け(不正競争防止法19条1項5号
ロ))について
【被告の主張】
被告は,被告商品を自ら製造したことはなく,譲り受けたに過ぎないが,譲受
け当時原告商品の存在を知らなかったし,また,原告から,被告商品が原告商品
の形態を模倣している旨の内容証明郵便を受領する以前に被告商品を譲り受けた
のであるから,善意の譲受けといえる。
そして,原告商品は有名ではなく,形態として顕著な特徴もないこと,話しか
けた言葉をオウム返しする同種商品が多数存在すること,被告は,ぬいぐるみ,
玩具の専門業者ではなく,被告商品は多種多様な取扱商品の1つに過ぎないこと
からすれば,被告商品の譲受時において,被告に重大な過失はなかったといえる。
したがって,被告による被告商品の譲渡等について,不正競争防止法3条及び
4条の適用はないというべきである(19条1項5号ロ)。
【原告の主張】
原告は,原告商品につき,平成23年12月の販売開始から平成25年7月ま
での1年8か月間に22万2495個を販売し,同年4月時点で既に18万個を
超える販売をしていた。この期間,原告自身のほか,原告から原告商品を購入し
た販売店が店頭やインターネット上でその広告,販売活動を展開していた。
このような状況を考えれば,被告は,被告商品の輸入販売を開始した平成25
年4月時点において,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることを認
識していたか,仮に認識していなかったとしても容易に認識し得たことは明かで
あり,少なくとも無重過失とはいえない。
5争点5(原告の損害)について
【原告の主張】
(1)被告による被告製品の販売数量は,少なくとも1万個と考えられる。
また,被告商品の販売価格は1個当たり2000円前後であり,被告の粗利益は
その約50%の1000円と考えられる。
そのため,原告が被告の不正競争行為により,1000万円(=1000円×
1万個)の損害を被ったといえる(不正競争防止法5条2項)。
(2)原告は,上記(1)の10%に相当する弁護士費用100万円の支払を約
したが,この弁護士費用も被告の不正競争行為により原告が被った損害といえる。
(3)以上より,原告の損害額の合計は1100万円である。
【被告の主張】
争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告商品1は,原告商品1の形態を模倣したものか)について
(1)はじめに
不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を
不正競争行為と定めるところ,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従っ
た使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並
びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいい(同条4項),「模倣
する」(同条1項3号)とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同
一の形態の商品を作り出すことをいうとされる(同条5項)。
前記商品形態の模倣を不正競争行為と定める趣旨は,資金,労力を投入して新
たな商品の形態を開発した者を,資金,労力を投入せず,形態を模倣することで
その成果にただ乗りしようとする者との関係において保護しようとする点にある
から,前記不正競争行為が成立するためには,保護を求める商品の形態が,従前
の同種の商品にはない新たな要素を有し,相手方の商品がこれを具備するもので
あると同時に,両者の商品を対比し,全体としての形態が同一といえるか,また
は実質的に同一であるといえる程度に酷似していることが必要であり,これらが
認められる場合に,後者が前者に依拠したといえるかを検討すべきものと解され
る。
以下,このような観点から,被告商品1が原告商品1の形態を模倣したものと
いえるかを検討する。
(2)原告商品1の形態
原告商品1の形態は,別紙1及び2のとおりであり,以下の構成を備えるもの
である(甲10の1⑬から⑯まで,甲11の1①から⑤まで)。
【全体的形態】
A1全体が毛で被われた熊様の動物の座った状態をかたどったぬいぐる
みである。
B1暗調子の茶色(ダークブラウン)をした蝶々結びをしたリボンが,
正面側の首付近に設けられている。
C1毛は,暗調子の茶色(ダークブラウン),長さは約10㎜であり,
緩い巻がかかっている。
D1商品の大きさは,高さが約145㎜(頭部の高さは約70㎜,胴体
部の高さは約75㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約120㎜,頭部の奥行きは
約105㎜である。
E1底面部は,略円形で白色のプラスチック部が露出しており,ネジ止
めされた電池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが設けられている。
【目】
F1両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて
2つ設けられて形成されている。
G1目の大きさは,直径約13㎜である。
H1両目の中心の間隔は,約45㎜である。
【口・鼻】
I1両目中央のやや下方部分が正面側に約30㎜突出して,口鼻部が形
成されている。
J1鼻は,黒色の刺繍により,口鼻部先端付近の上面側に形成されてお
り,その形状は横長の長方形である。
K1口は,黒色の刺繍により,鼻の中央部分から下方に伸びる逆Y字形
状(三点星状)に形成されている。
【胴体部】
L1両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,
固定されていない態様で設けられている。
M1両腕の先端部内側には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無
毛(サテン)の生地部分が設けられている。
N1両脚は,胴体部の左右の下端付近に,固定されていない態様で設け
られており,略正面方向に向いている。
O1両脚の先端部には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無毛
(サテン)の生地部分が設けられている。
(3)被告商品1の形態
被告商品1の形態は,別紙5のとおりであり,以下の構成を備えるものであ
る。
【全体的形態】
a1全体が毛で被われた動物の座った状態をかたどったぬいぐるみであ
る。
b1暗調子の茶色(ダークブラウン)をした蝶々結びをしたリボンが,
正面側の首付近に設けられている。
c1毛は,暗調子の茶色(ダークブラウン),長さは約20㎜であり,
緩い巻がかかっており,正面視及び側面視で,後記iの突出態様が識別しにくい
程度の毛深さで顔部を覆っている。
d1商品の大きさは,高さが約130㎜(頭部の高さは約65㎜,胴体
部の高さは約65㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約110㎜,頭部の奥行きは
約100㎜である。
e1底面部は,それぞれの角を丸くした略長方形で白色のプラスチック
部が露出しており,ネジ止めされた電池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが
設けられている。
【目】
f1両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて
2つ設けられて形成されている。
g1目の大きさは,直径約13㎜である。
h1両目の中心の間隔は,約40㎜である。
【口・鼻】
i1両目中央のやや下方部分が正面側に約15㎜突出して,口鼻部が形
成されている。
j1鼻は,黒色の各先端部は丸く加工した上辺を長くした下方中心に尖
のある二等辺三角形の部材(幅は約14.5㎜で,高さは約10㎜)が設けられ
形成されている。
k1口は,黒色の刺繍により,鼻の中央部分から下方に伸びる逆Y字形
状(三点星状)に形成されている。
【胴体部】
l1両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,
固定されていない態様で設けられている。
m1両腕の先端部内側には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無
毛(サテン)の生地部分が設けられている。
n1両脚は,胴体部の左右の下端付近に,固定されていない態様で設け
られており,左右斜め外方向に向いている。
o1両脚の先端部には,暗調子の茶色(ダークブラウン)をした無毛
(サテン)の生地部分が設けられている。
(4)原告商品1と被告商品1の共通点
原告商品1と被告商品1の形態は,以下の点で共通することが認められる。
ア全体が毛で被われた動物の座った状態をかたどったぬいぐるみであ
る。
イ蝶々結びをしたリボンが正面側の首付近に設けられており,毛の色と
リボンの色が同系色にされている。
ウ毛には緩い巻がかっており,毛の色が暗調子のダークブラウンであ
る。
エ底面部は,白色のプラスチック部が露出しており,ネジ止めされた電
池収容部の蓋とON/OFFのスイッチが設けられている。
オ両目は,頭部正面部に,黒色の円形部材が水平方向に間隔を空けて2
つ設けられて形成されており,目の大きさは直径約13㎜で,両目の中心の間隔
もほぼ同一(原告商品1は約45mm,被告商品1は約40㎜)である。
カ口と鼻は,両目中央のやや下方部分が正面側に突出して口鼻部を形成
しており,口は,黒色の刺繍により,鼻の部材の下側中央部分から逆Y字形状
(三点星状)に形成されている。
サ両腕は,胴体部の左右側面において,頭部と胴体部の境界付近に,固
定されていない態様で設けられており,両腕の先端部内側には,毛と同系色をし
た無毛(サテン)の生地部分が設けられている。
シ両脚は,胴体部の下端付近に,固定されていない態様で設けられてお
り,両脚の先端部には,毛と同系色をした無毛(サテン)の生地部分が設けられ
ている。
(5)原告商品1と被告商品1の相違点
原告商品1と被告商品1の形態は,以下の点において相違することが認められ
る。
ア口鼻部である正面側突出部分(共通点カ)が,原告商品1では約30
㎜の突出であるのに対し,被告商品1では約15㎜の突出であり,突出の程度に
違いがある。
イ原告商品1の毛の長さが約10mmであるのに対し,被告商品1の毛の
長さは約20mmと長い上,正面視及び側面視で口鼻部の突出態様が識別しにく
い程度の毛深さで顔部を覆っている。
ウ原告商品1の鼻は,「黒色の刺繍により,口鼻部先端付近の上面側に
形成されており,その形状は横長の長方形」であるのに対し,被告商品1の鼻
は,「黒色の各先端部は丸く加工した上辺を長くした下方中心に尖のある二等辺
三角形の部材(幅は約14.5㎜で,高さは約10㎜)が設けられ形成」されて
いる。
エ原告商品1は,「高さが約145㎜(頭部の高さは約70㎜,胴体部
の高さは約75㎜),横幅(両耳の先端の幅)は約120㎜,頭部の奥行きは約
105㎜」であるに対し,被告商品1は「商品の大きさは,高さが約130㎜
(頭部の高さは約65㎜,胴体部の高さは約65㎜),横幅(両耳の先端の幅)
は約110㎜,頭部の奥行きは約100㎜」である。
(6)実質的同一性の判断
ア前記(4)のとおり,原告商品1と被告商品1は,全体が毛で被われた
動物の座った状態をかたどったぬいぐるみであり(共通点ア),首付近に設けら
れたリボンの形状及び色彩(共通点イ)や全身を覆う毛の色や巻の態様(共通点
ウ)のほか,目の位置,形状及び色彩(共通点オ),口鼻の位置及び形状(共通
点カ)に共通点が認められる。しかし,これらの点は,原告商品1の販売に先立
って市場に存在した同種商品にも認められるものであり(乙1~9),これらの
点が共通することを理由に,原告商品1の形態と被告商品1の形態が実質的に同
一であるとすることはできない。
イ原告商品1では,口鼻部の突出が約30mmと比較的大きく,需要者
は正面視及び側面視のいずれでもこの突出を容易に認識することができ,この点
を捉えて,原告商品1を熊のぬいぐるみとして認識するものと思われる。ところ
が,被告商品1は,口鼻部の突出の程度が原告商品1と比べて元々小さいことに
加え,顔部全体を毛が深く覆っているため,需要者において,正面視及び側面視
のいずれからも,原告商品において熊であることを認識させる要素となる口鼻部
の突出を容易には認識することができない態様であり,顔部全体が平坦な印象を
与える。また,被告商品1の顔部は,目,口,鼻が長い毛である程度覆われてい
るため,原告商品1を含め,熊のぬいぐるみとして一般に商品化されているもの
とは(乙1~9),異なる印象を与える。結果として,被告商品1の形態につい
ては,毛むくじゃらの種類不明の動物と認識しうるものではあるとしても,当然
にこれを熊と識別しうるようなものではないといわざるをえない。
ウ被告商品1は,熊を意味する言葉(ベアー)を商品名に使用し,言語
を再生する機能を有することから,外装等に接した需要者はこれを熊と認識する
ため,実質的に原告商品1と競合することが考えられる。しかしながら,不正競
争防止法が形態模倣を規制する前記趣旨に照らすと,両者の同一性の問題は,商
品に付された表示や商品の機能を考慮することなく,商品の形態それ自体の対比
により,判断すべきものである。
エ原告商品1と被告商品1は,いずれも動物のぬいぐるみであり,その
顔部は需要者が特に注意を払う部位であるが,そのような部位において特徴的な
共通点が認められない一方で,上記のように需要者への印象を異にさせる差異が
存在する以上,両商品を対比して,その形態が同一である,あるいは実質的に同
一といえるほど酷似しているということはできない。
オ以上によれば,原告商品1の形態において,従前の同種の商品にはな
い新たな要素は何であり,被告商品1がこれを具備しているか,あるいは,被告
商品1が原告商品1に依拠するものであるかを論じるまでもなく,被告商品1が,
原告商品1の形態を模倣したということはできない。
2争点2(被告商品2は,原告商品2の形態を模倣したものか)について
原告商品2の形態は別紙3及び4のとおり,被告商品2の形態は別紙6のとお
りであり,原告商品2と原告商品1,被告商品2と被告商品1は,それぞれ形状
を同じくしており,リボン,毛,両足及び両腕先端部の無毛の生地部分に係る色
彩が,原告主張(前記第3の2【原告の主張】欄)のとおり異にするにとどまる。
そして,原告商品2と被告商品2のこれら部分に係る色彩は,動物のぬいぐるみ
としてありふれたものというべきであるから(乙1~9),この点が共通するこ
とをもって,両者の形態が実質的に同一と即断することはできない。
そのため,原告商品1の形態と被告商品1の形態との実質的同一性を否定した
前記1の判断は,原告商品2の形態と被告商品2の形態との対比判断においても
そのまま当てはまるものである。
したがって,被告商品2についても,原告商品2の形態を模倣したものという
ことはできない。
3結論
以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないというべきであるから,これらを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官谷有恒
裁判官松阿彌隆
裁判官松川充康は,転補のため署名,押印することができない。
裁判長裁判官谷有恒

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