弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決中控訴人勝訴の部分を除きその他を取清す。
 東京都台東区a町b丁目c番地の三宅地の内二十二坪三合四勺について被控訴人
が借地権を有しないことを確定する被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、
二審共被控訴人の負担とするとめ判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判
決を求めた。
 当事者双方の事実並びに法律上の主張は原判決の三枚目裏十行目に被控訴人の陳
述として「同年十二月三十日」とあるのを「同年十一月三十日」と訂正する外結局
原判決の事実摘示と同一に帰するから之を引用する。
 証拠として、控訴代理人は甲第一乃至第八号証を提出し、当審証人A、B、Cの
各証言を援用し、乙第一、二号証、第九号証の一乃至三は不知と述べ、その他の乙
号証の成立を認め、被控訴代理人は乙第一乃至第八号証、第九号証の一乃至三を提
出し、当審証人Dの証言、原審並に当審に於ける各被控訴本人訊問の結果を援用
し、甲第三号証の成立は不知と述べ、その他の甲号証の成立を認め、第二号証、第
五乃至第八号証を援用した。
         理    由
 控訴人がその所有に属する東京都台東区a町b丁目c番地の三宅地の内二十二坪
三合四勺(以下本件土地と称する)を昭和十三年四月三十日訴外関西信託株式会社
に信託し、昭和十六年四月一日会社合併により三和信託株式会社が信託関係を承継
し、その後受託者は更に株式会社三和銀行東京支店信託部と変更せられたこと、昭
和二十二年二月十日信託解除により控訴人がその所有権を取得し同月二十七日その
旨の所有権移転登記がなされたことは執れも当事者間に争がない。而して当審証人
Dの証言によつてその眞正に成立したことが認められる乙第一号証、当審証人Cの
証言によつてその眞正に成立したことが認められる乙第二号証、成立に争のない甲
第五乃至第七号証、乙第七号証、当審における被控訴本人訊問の結果によりその真
正に成立したことを認め得べき乙第九号証の一乃至三、右石川D、Cの各証言、原
審並びに当審における各被控訴本人訊問の結果を綜合すれば、訴外Eは数十年前の
古くから控訴人より本件土地を建物所有の目的の卞に賃借し地上に建物を所有して
居たが信託によつて借地関係はその儘受託者に承継され株式会社三和銀行東京支店
信託部(以下単に信託部と呼ぶ)が受託者止して管理当時賃料は一ケ月金十九円八
十二銭にて毎月末日払の定めであつたこと、Eは昭和二十年一月二十九日死亡して
Dが家督を相続し本件土地の賃貸借契約を承継し爾来賃料もDが信託部に支払つて
来たが、Eの死亡によるDの家督相紡の事実はDから付記部に屈出でられなかつた
為め信託部は之に気付かす帳簿上の賃借人名義はEの儘として取扱われていたこ
と、本件地上の建物は昭和二十年三月十日の空襲によつて焼失したこと、被控訴人
は同年十一月三十日本件土地の借地権をDから信託部の承諾を受けて譲り受け、信
託部は帳簿上の賃借人E名義を直接被控訴人名義に変更したこと、被控訴人は同年
十二月中本件土地の昭和二十年十二日分以降昭和二十一年十一月分迄の一ケ年の賃
料合計金二百三十七円八十四銭を信託部に対して郵送したところ、手続上の手違に
よつて他の口に入金となり手続是正の上漸く昭和二十一年四月一日受領せられたこ
とを夫々認め得る。右認定を覆すに足る反証はない。次に被控訴人がDから本件土
地の借地権を讓り受けた際、新たに二十年乃至その他の賃貸借期間を約定したこと
は之を認むべき証拠がなく、却つて前認定に供した資料によれば被控訴人はDから
当時の残存期間の儘にて借地権を譲り受けたものと認められる。ところが当時の残
存期間が如何程であつたかは本件に顕れた凡ての資料によるも確認し難いがその後
昭和二十一年九月十五日から施行された罹災都市借地借家臨時処理法第十一条によ
れば同法施行の際現に罹災建物の敷地にある借地権の残存期間が十年未満のときは
これを十年とする旨定められてあるから、一応同条に従い本件借地権の期間も昭和
三十一年九月十四日迄と認定するを相当とする。然るに被控訴人が讓り受けた本件
借地権については登記なく、又本件地上に登記を経た建物を所有しないことはその
争わざるところであるから、被控訴人は本件借地権を以て第三者に対抗し得ないこ
とは明かであるが、控訴人がこの第三者に該るか否かを判断する。成立に爭のない
甲第四号証(本件不動産信託契約証書)によれば控訴人と関西信託株式会社との間
の信託契約に於ては、第六条に於いて受益者は委託者である控訴人とし、第九条に
於いて受託者は信託財産の賃貸その他管理保全に関する一切の行為を為すものと
す、但し賃貸料の決定変更訴訟行為その他重要なる事項にして受託者の必要と認め
たものは委託者と協議の上之を為すことと定められて居たことが認められる。而し
て当審証人Cの証言によれば本件借地権讓渡当時は、戦後の混雑中であり控訴人の
住所も判然しなかつたので、受託者たる信託部に於いては敢て控訴人の了解を必要
とせざるものと認めて控訴人の了解なくして本件借地権の讓渡を承認したことが認
められる。
 而して右第九条の文言の表面上は借地人の変更について控訴人の承認を必要とす
る趣旨であつたか否かは多少不分明であるが、これ等疑問の場合の制定は一応受託
者の裁量に任せ、その裁量の範囲内において受託者が控訴人の了解なくして為し得
るものと判断して為した賃貸、管理、保全に関する一切の行為は元より信託の趣旨
に適合するものとして後日敢て信託違反なりとして間責し得ない趣旨の約定であつ
たことは第九条全文の精紳から認め得べきところであるから、本件借地権讓渡に於
ける前記特種の事情により信託部が控訴人の了解なくして為し得るものと判断して
為した本件借地権讓渡の承認は元より信託の趣旨に副つたもので何等これに違背し
たものではない。甲第八号証の記載内容中又当審証人Bの証言中右認定に反する部
分は採用しない。
 惟うに信託は委託者が受託者に財産権の移転その他の処分をして受託者をして委
託の目的に従つて財産の管理又は処分を為さしむるものであつて、財産権は完全に
受託者に移転するものであつて委託者との内部関係に於いて権利が委託者に留保せ
られて居るものでなく、従つて信託解除の場合に信託財産が受益者その他の権利者
に移転するのは信託財産が旧権利者に復帰するものでは元よりたく、新たに権利の
移転が行われるものであつて、このことは委託者に権利が移転する場合と雖も、原
則として委託者が受益者としての資格に於て新たに権利の移転を受けるものと解す
べく、本件に於いては前記信託契約書第六条によれば控訴人は受益者たる資格にお
いて本件土地の所有権の移転を受けたものと認めるのを相当とする。然らばこのよ
うに新たに権利の移転を受けた受益者その他の権利者(本件に於ける控訴人も同
様)は権利取得の点から見れば第三者ではないとは<要旨>云えない。然しながら信
託中受託者が信託の趣旨に従つて為した行為は有効であつて、信託財産の移転を受
た受益者その他の権利者は信託中受託者が為した行為を否定し得ざると上
は信託法全般の法理を貫く根本自明の観念であつて、とのととは本件における控訴
人の如くに委託者が受益者たる資格に於いて信託解除によつて信託財産の移転を受
けた場合と雖も異るものではない。右は信託法第六十条に信託の解除は將来に向つ
てのみその効力を生する旨規定してあること並に第三十一条、第三十三条に信託の
本旨に反した財産の処分は相手方又は転得者に故意又は重大な過失のあつた場合に
限つて、然も取消原因のあつたことを知つてから一ケ月行為の時から一年以内の制
限内に於いてのみ受益者に於いて取消し得る旨規定してあること等より明かであ
る。
 従つて信託解除により信託財産の移転を受けた受益者その他の権利者は受託者が
信託中為した管理処分の行為の効力を否定するを許されず、これ等の行為の効力が
発生した侭の法律関係を信託解除の当時承継すべきものであり、仮に受託者が為し
た信託違反の管理、処分行為と雖も前段の制限の下に取消さない限り依然之が効果
を甘受せざるを得ないものである。即ち信託解除により信託財産の移転を受けた受
益者その他の権利者は受託者が信託中為した行為による権利変動に付ては元より第
三者ではあるが、通常の取引における第三者とは異つて信託の本質から生ずる特異
の法律上の立場に立つて之と異なる取扱を受くるは当然であつて、信託中受託者の
為した行為によつて相手方が取得した権利についてはその対抗要件の欠缺を主張す
る正当の利益を有しないものと云わねばならない。
 よつて信託部の為した本件借地権の讓渡に対する承認は控訴人に於いて信託解除
により本件土地の所有権の移転を受けた際、この法律関係の附着した侭の状態に於
いて、承継したものと認むべく、仮に一歩を讓り控訴人主張の如くに右承認に付て
控訴人の了解を必要とし、これなくして行われた讓渡が信託違反であるとしても、
前段設述のとおり当然無効であるのではなく、控訴人に於いて前記第三十一条、第
三十三条の要件を具備する限り之を取消し得るに過ぎないものであるところ、控訴
人は本件に於いて右承認行為について被控訴人が悪意であつたこと乃至重大な過失
があつたこと並に右制限の期間内に取消の意思表示をしたことに付ては何等主張、
立証をしない。(控訴人が昭和二十二年四月被控訴人に対し取消の意思表示をした
ことを主張するも右は行為の後一年を経過して居るから効力はない)されば控訴人
は結局孰れの点に於いても信託部の為した本件借地権の讓渡の承認行為に拘束せら
れ、これが対抗要件の備わらないことをも主張出来ない立場にある結果、被控訴人
の取得した本件借地権の存在を否定出来ないものである。
 尚控訴人の弟Bが被控訴人から昭和二十二年三月中昭和二十一年十一月分以降昭
和二十二年十二月分迄の賃料として合計金二百七十七円四十八銭を受取つたこと並
に控訴人が同年中一月頃之を被控訴人へ返金したことは控訴人の認めるところであ
り、当審証人Bの証言によれば控訴人は病身の為め弟Bに於いて控訴人の所有土地
を宛かも地主同様に全部を管理していたことが認められるから右事実と、このよう
な金員を受取り且かく長期間留保して居たことは、控訴人に於いて暗黙に被控訴人
の借地権を承認して居たものと認めるを妨げざるべく、又この点に控訴人の主張の
ように錯誤があつたことは之を肯認するに足る丈の証拠がない。当審証人Bの証言
中叙上各認定に反する部分は採用しない。然らば控訴人は一旦被控訴人の借地権を
承認した以上この点に於ても最早後日その対抗要件の不存在を主張するてとは許さ
れないものと云うべきである。
 よつて控訴人の本訴借地権不存在確認の請求は理由がなく、被控訴人の反訴借地
権存在確認の請求は期間の点は前段認定の限度に於て、その他は全部理由があると
ころ、当裁判所とその所見を一つにした原判決は相当であるから民事訴訟法第三百
八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 牛山要 裁判官 山田要治)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛