弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消す。
     被上告人らの本件請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 職権をもつて、被上告人らの本件差止請求を認容すべきものとした原審の判断の
適否について判断する。
 一 原審は、(一)(1) 第一審判決別紙物件目録記載(一)ないし(五)の土地(以
下併せて「本件土地」という。)は、かつて大阪府泉南郡a町及びb町(昭和四七
年一〇月二〇日合併によりc町となつた。)の共有地であつたが、山の谷あいの最
も奥地にある水源地であり、近畿圏の保全区域の整備に関する法律九条にいう近郊
緑地保全区域内で、かつ、森林法二五条による保安林の指定のされている地区内に
あり、一部採石が行われているほか主として松の植林に供されており、今後とも宅
地などとしての開発が期待できない土地である、(2) 本件土地のうち同目録記載
(四)の土地(以下「本件(四)の土地」という。)は、通称「ヌク原」と呼ばれてい
て、山の南側斜面に位置して日当りがよく、本件土地のなかでは比較的樹木が育ち
やすい良い土地である、(3) 本件土地はかつて地元各部落の共有林である一筆の
土地の一部であり、地元各部落の村民に植林のための権利が与えられていたが、昭
和一五年七月期間三〇年の樹木所有を目的とする地上権が設定されることとなり、
本件(四)の土地については、同月一一日Dが右内容の地上権の設定を受けた、(4)
本件土地に設定された右各地上権は、昭和四五年存続期間の満了を迎えることとな
つたが、F町長は、折から小学校の増改築のための財源確保に迫られていたので、
本件土地を各地上権者に売却しようと考え、本件土地を含むa町とb町との共有林
野の管理を目的として設立されたa町b町林野組合(以下「林野組合」という。)
の議員らに意向を打診した、(5) 右議員らは、いずれもa町又はb町の町議会議
員のうち林野関係に通じた者が選出されているものであるが、本件土地の管理は専
らa町が行つていたので、本件土地の売却については同町側の議員らのみで協議し、
その結果右売却に同意することとなつた、(6) 右協議に際しては売却価格につい
ても併せて協議がされ、専らこの地域の山林に詳しい議員らにおいて概算見積りで
価格評価を行つた結果、本件(四)の土地については三〇〇万円が相当であるとの結
論に達した、(7) 林野組合は、昭和四五年九月一四日、右議員らの協議の結果に
そう提案を承認した、(8) そこで、F町長は地上権者らに対し本件土地を売却す
ることとしたが、本件(四)の土地の売却については、地上権者Dが最終的に六〇万
円以上の価格で買い受けることを拒絶したため、同町長において苦慮していたとこ
ろ、これを聞いたEが前記評価価格の三〇〇万円で買い受けることを申し込んだの
で、同町長は右Eとの間で、随意契約の方法により、右土地のa町持分(一〇〇万
分の五七万〇四七九)を土地全体の価格三〇〇万円の持分相当額一七一万一四三七
円で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(なお、b町
も同時にその持分を売却しており、両町の売却価格の合計はちようど三〇〇万円と
なる。)、との事実を認定した上、(二) 本件売買契約は、地方自治法施行令(昭
和四九年政令第二〇三号による改正前のもの。以下「令」という。)一六七条の二
第一項三号にいう「競争入札に付することが不利と認められるとき」及び同項四号
にいう「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあ
るとき」のいずれにも該当せず、結局随意契約の方法により契約を締結することが
できる場合に該当しないから違法であるとして、地方自治法(以下「法」という。)
二四二条の二第一項一号に基づき右契約の履行として行われる所有権移転登記手続
の差止めを求める被上告人らの請求を認容した。
 二 しかしながら、本件売買契約が随意契約の制限に関する法令に違反すること
を理由に被上告人らの本件差止請求を認容すべきものとした原審の判断は、是認す
ることができない。その理由は、次のとおりである。
 すなわち、法二三四条二項は、普通地方公共団体が締結する契約の方法について
「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限
り、これによることができる。」と規定し、これを受けて令一六七条の二第一項は、
随意契約によることができる場合を列挙しているのであるから、右列挙された事由
のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべ
きことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に
違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かか
る違法な契約であつても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によるこ
とができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何
人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契
約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力
を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没
却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解
するのが相当である。けだし、前記法及び令の規定は、専ら一般的抽象的な見地に
立つて普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ることを目的として右契約の締
結方法について規制を加えるものと解されるから、右法令に違反して契約が締結さ
れたということから直ちにその契約の効力を全面的に否定しなければならないとま
でいうことは相当でなく、他方、契約の相手方にとつては、そもそも当該契約の締
結が、随意契約によることができる場合として前記令の規定が列挙する事由のいず
れに該当するものとして行われるのか必ずしも明らかであるとはいえないし、また、
右事由の中にはそれに該当するか否かが必ずしも客観的一義的に明白とはいえない
ようなものも含まれているところ、普通地方公共団体の契約担当者が右事由に該当
すると判断するに至つた事情も契約の相手方において常に知り得るものとはいえな
いのであるから、もし普通地方公共団体の契約担当者の右判断が後に誤りであると
され当該契約が違法とされた場合にその私法上の効力が当然に無効であると解する
ならば、契約の相手方において不測の損害を被ることにもなりかねず相当とはいえ
ないからである。そして、当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して
締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場
合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行す
べき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法
ということはできず、このような場合に住民が法二四二条の二第一項一号所定の住
民訴訟の手段によつて普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行と
して行われる行為の差止めを請求することは、許されないものというべきである。
 三 そうすると、随意契約の方法によつて締結された本件売買契約の私法上の効
力を確定することなく、単に同契約が随意契約の制限に関する法令に違反し違法で
あるとして、それに基づく債務の履行として行われる所有権移転登記手続の差止め
を求める被上告人らの本件請求を認容した原審の判断は、法令の解釈を誤りひいて
は理由不備の違法を犯すものというほかなく、上告論旨の検討に入るまでもなく原
判決はこの点において破棄を免れないこととなる。そして、本件においては、本件
売買契約を随意契約の方法によつて締結したことが仮に違法であるとしても、原審
の適法に確定した前記事実関係に照らして、随意契約の方法による契約の締結が許
されないことが何人の目にも明らかであるとか契約の相手方であるEにおいて随意
契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得べきであつたなど右契約
を無効とすべき前記特段の事情があるということはできないから、本件売買契約は
私法上当然に無効であるということはできず(なお、本件売買契約が法九六条一項
七号(昭和六一年法律第七五号による改正前のもの)、令一二一条の二第二項、別
表第二に違反する旨の被上告人らの主張に理由がないことは原判決の判示するとお
りであり、また、原審の適法に確定した前記事実関係によれば、本件(四)の土地の
売却価格が不当に廉価であつて地方財政法八条に違反する旨の被上告人らの主張に
理由がないことも明白である。)、したがつて、上告人に対し右契約に基づく債務
の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの本件請求
は理由のないことが明らかであるから、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審
判決中右部分を取り消した上、被上告人らの右請求を棄却すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、
八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

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