弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人草光義質の上告理由第一点について。
 所論は、原審の認定しない事実または原審で主張しない事実を前提として原判決
を非難するものであつて、採用しがたい。
 同第二点について。
 所論の点の原判決の判断は、その挙示の証拠関係に照らし是認しえないわけでは
ない。
 原判決には、所論のような判断遺脱の違法はなく、所論は、結局、原審の専権に
属する証拠の取捨判断事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第三点について。
 所論は、まず、共有者からその共有にかかる不動産を買い受けた者が他の共有者
に対し所有の意思のあることを表示しないときにも、所有の意思をもつて占有する
ものと解した原判決の判断は不当であるという。
 売買の目的物件が共有に属する場合において、売主がその物件の共有者でなく全
くの無権利者であるときに、買主は、全共有者に対しとくに単独所有の意思で占有
する旨を表示しなくても、右物件を所有の意思をもつて占有するものと解されると
ころ、これと同様に、売買の目的物件が共有に属していても、共有者の一人におい
て右物件が単独所有に属するものとして売り渡した以上、右物件の買受人は、引渡
を受けた目的物件について所有の意思をもつて占有していると解するのが相当であ
る。そして、この場合において、買受人は、内部の共有関係にある者と異なり、外
部の第三者であるから、他の共有者に対しとくに単独所有の意思をもつて占有する
ことを表示しなくても、所有権の取得時効の要件たる所有の意思をもつて占有をは
じめたものと解すべきであり、この点の原判決の判断は、当審も正当としてこれを
支持しうる。
 この点の所論は、独自の見解であつて失当である。
 次に、所論は、被上告人およびその先代が目的物件の占有について善意無過失の
要件を欠くのにこれを認めた原判決は失当である旨主張する。
 しかし、原判決の判文によると、被上告人の本件物件の時効による取得は満二〇
年の占有に基づくことが明らかであるから、民法一六二条一項の規定により被上告
人の取得時効の成立を認めているのである。したがつて、同条二項の規定による取
得時効の成立を前提とする論旨は、失当として排斥を免れない。
 最後に、所論は、上告人らにおいて共有持分取得の登記をしている第三者である
のに、被上告人は時効取得による所有権取得の登記をしていないから、その所有権
取得を対抗しえないという。
 しかし、原判決の適法に認定したところによると、上告人らは、本件山林につい
てなんら権利を有しないというのである。このような無権利者たる上告人らが権利
取得の登記を経たからといつて、いわゆる登記の欠缺を主張する正当な利益を有す
る第三者にあたるといえないことは明らかであり、被上告人は時効取得による所有
権の取得についてその旨の登記を経なくても、上告人らに対し所有権を主張しうる
ことは当然である。所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、
採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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