弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主       文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年2月に処する。
原審における未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
           理       由
第1 本件控訴の趣意は,検察官杉垣公基作成名義の控訴趣意書に,これに対する
答弁は弁護人名和田茂生提出の答弁書に各記載のとおりであるから,これらを引用
する。
 論旨は,要するに,原判決は,被告人の実行行為を認定するに足りる証拠が存し
ないとして,被告人に対して無罪を言い渡したが,その事実認定には,判決に影響
を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというものである。
 すなわち,本件公訴事実は,被告人は,平成12年12月10日午前9時46分
ころ,福岡県久留米市所在の財団法人A北側駐車場に駐車中の軽四輪貨物自動車内
からB所有の現金約6万2000円及び財布等8点在中のハンドバッグ1個(時価
合計約2万3880円相当)を窃取したというものであるところ,原判決は,被告
人の弁解や供述には不自然で曖昧な点は認められるが,他方で,本件被害品の一部
であるハイウェイカードは,JR博多駅のコンコースでホームレス風の男からもら
ったものであるという弁解を排斥できず,また,本件犯罪場所は被告人には馴染み
の薄いところであることなどからすると,贓物罪成立の可能性を否定できないこと
を理由に,犯罪の証明が不十分であるとして,被告人に対して無罪を言い渡した。
しかし,原判決は,原審で取り調べられた関係各証拠を十分検討しないまま,被告
人の前記弁解を軽信し,本件犯行場所についての被告人の土地勘の有無について,
何ら証拠に基づかないで恣意的に推論するという誤りを犯した結果,事実を誤認し
たもので,原審で取り調べられた関係各証拠によれば,被告人が本件の犯人である
ことは明らかである,というのである。
第2 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する
に,当裁判所は,関係各証拠を総合すると,被告人が,前記公訴事実記載の窃盗へ
の関与を一貫して否認するにもかかわらず,これを行ったことを認定することがで
きるものと判断したので,以下,補足して説明する。
1 関係証拠によれば,次の事実が認められる。
(1) Bは,平成12年12月10日午前9時46分ころ,前記財団法人A北側駐車
場に駐車中の軽四輪貨物自動車内から,同人所有又は管理の現金約6万2000円
及び札入れ1個(二つ折り,エンジ色,革製。以下,この札入れを「財布」とい
う。),小銭入れ(布製),キャッシュカード1枚(B名義),クレジットカード
2枚(B名義),会員カード1枚,ハイウェイカード1枚,テレフォンカード1枚
在中のハンドバッグ1個を盗まれた。
(2) 被告人は,同月9日昼ころ,当時の勤務先である有限会社C所有の軽四輪自動
車ダイハツミラ(車の色は赤,以下「ミラ」という。)を無断で持ち出した。同社
の従業員は,ミラを探すように指示されて探していたところ,同月10日午後10
時ころ,西鉄小郡駅近くのパチンコ店にいた被告人を発見し,同人からミラのカギ
を取り上げて,同車を確保し,同日午後10時30分過ぎころ,同社経理課長のD
と従業員のEの二人で,会社の駐車場までミラを運転して移動して駐車し,施錠し
た(当審E証言)。なお,当時,ミラの室内灯は点灯しなかった。
(3) 同月11日午前6時30分ころ,同社の従業員であるFは,仕事に行こうとし
て,ミラのドアを開けたところ,助手席前のダッシュボードの上に財布があるのを
発見した。その財布の中には,本件の被害品である前記キャッシュカード1枚,ク
レジットカード2枚及び会員カード1枚が入っていた。Fは,その財布等を社長の
妻に渡し,同月18日,それらは警察に任意提出された。
(4) 被告人は,平成13年1月15日,自転車の占有離脱物横領の疑いで逮捕され
たが,その際,本件の被害品であるハイウェイカードを所持していた。
(5) 被告人は,平成12年12月10日午前11時10分ころ,佐賀県鳥栖市所在
のホテルG119号室に入室した。本件犯行場所から同ホテルまでは,約7キロメ
ートルの距離である。そして,同日,午後0時56分ころ,被告人は,同ホテルを
退室した。
(6) 被告人は,愛知県内で知り合ったフィリピン人ダンサーHが同年4月12日こ
ろから小郡市に来て働き始めたため,同女に会うために,その後数回愛知県から久
留米市や小郡市に来ており,同年7月からは同地域で生活し,同女と週に4ないし
5回合計数十回も会っていた(Hの検察官調書)。
  以上の諸点,とくに,上記(2)ないし(4)の各事実,すなわち,本件窃盗により
被害者から盗まれた物のうち,一部は被害から間がない時期に被告人が使用してい
た自動車内から発見され,他の一部は日時場所を異にして被告人が所持した事実
は,それだけでも被告人が上記(1)記載の本件窃盗に関わっていたことを強く示唆す
るものである(被告人は,ハイウェイカードは平成12年12月ころホームレス風
の男から貰ったと弁解するが,上記認定各事実及び被告人の真実味の乏しい供述態
度(これは後記3の(1)からも十分窺われる)に照らして到底信用できるものではな
い。)。これに,被告人が本件犯行当時その犯行が可能な場所にいたこと(上
記(5)。なお,被告人のアリバイが認められないことは後に説示する。)及び被告人
には本件犯行場所付近の土地勘があること(上記(6))などを併せると,被告人が,
本件窃盗を行った事実は,優にこれを認定することができる。
2 弁護人は,被告人から,ミラを取り上げて,DとEがミラに乗って会社の駐車
場に移動し,駐車するまでの間に,財布の存在に気付かないのは不自然であるとし
て,被告人以外の者がミラの車内に遺棄した可能性を示唆している。
 しかし,当時,ミラの車内灯は点灯しなかったこと,また,被告人が駐車してい
た場所から,会社所定の駐車場までの経路の周辺は余り明るくないこと(E当審証
言),Dは,被告人からミラを取り上げた後,被告人が持ち出した最中に事故を起
こしていないかということを心配して車体の外側に傷がないか車回りを点検した
が,車内までは丹念に見なかったこと(D原審証言),車内に財布が置かれている
かもしれないということに関心がなかったこと(E当審証言),ミラの車検証が無
くなっていることにも,すぐには気付かなかったこと(D原審証言),車内には,
スーパーの買い物袋のようなものが乱雑に積載されていたことなど関係証拠から認
められる事実を総合すると,D及びEが助手席前のダッシュボード上の財布に気付
かなかったとしてもあながち不自然とはいえない。また,Dらは,ミラを確保した
後,会社所定の駐車場に駐車して施錠し,その翌日朝6時30分ころ,前記のとお
り,会社の従業員が,仕事に使用するためにミラのドアを開け,その際,財布の存
在に気付いたというのも,発見の経過として自然である。なお,弁護人は,10日
夜から11日朝Fがミラのドアを開けるまで,同車にはドアのカギがかかっていな
かった可能性があると主張するところ,ミラに施錠されていたことは前述のとおり
であるが,仮に,施錠していなかったとして考えてみても,被告人以外に犯人がい
て,犯人又は同人から財布を譲り受けた者が,わざわざ深夜から未明にかけてミラ
が置かれている有限会社Cの駐車場(同社から100メートルくらい離れている)
に来て,本件財布を被告人が使用したミラの車内に入れるというようなことは,特
別な意図目的がなければ到底考えがたいことであり,関係証拠を検討しても,その
ような事情は全く窺えない。よって,弁護人の前記主張は採用できない。
3 さらに弁護人は,被告人には,アリバイが成立し,本件は被告人の犯行たり得
ない旨主張し,被告人も原審及び当審公判廷において後記(1)のカ,キ記載のとおり
弁護人の主張に沿う供述をしている。
 (1) そこで,関係証拠により,被告人の本件当時の所在,ミラの運転状況,本件
現場の土地勘等に関する供述経過等をみると,以下のとおりである。
 ア 被告人は,本件当日(平成12年12月10日)午前11時30分ころ,西
鉄小郡駅から電車で久留米市に向かった。午後零時ころから久留米で,パチンコや
ゲームセンターにおり,午後4時ころ,仕事を探すためにJRで久留米から博多に
行った。元旦に彼女(Hのこと)に会うまでは,小郡には帰ってきていない(平成
13年1月26日付け警察官調書)。
 イ 12月9日から10日は,有限会社Cの寮で寝ていた。10日午前8時こ
ろ,寮の食堂で朝食をとった後,午前9時30分ころ,歩いて,スーパーI前のゲ
ームセンターに行き,しばらく遊んだ。そこから,西鉄小郡駅に直行した。ダイハ
ツミラ赤色は運転したことがない(平成13年2月1日付け警察官調書)。
 ウ ミラを会社に黙って乗り回したことは1回もない(平成13年2月2日付け
検察官調書)。
 エ ミラは,11月下旬から12月にかけて,1時間くらい1回だけ運転した
(平成13年2月8日付け警察官調書)。
 オ 名古屋から福岡市内に来て住み始めたのは,11月初めころからである。そ
れ以前に,福岡に来たのは,4月と7月の2回だけである(平成13年2月14日
付け検察官調書)。
 カ 12月10日午前7時30分ないし8時ころ,博多から小郡に着いた。会社
事務所からカギを持ち出し,ミラに乗って小郡市のHの所に行った。午前中にホテ
ルGに行って休憩し,昼までいた。午前中にHとホテルに行ったことは,初めて話
した。検察官に話さなかったのは,検察官が質問しなかったからである(原審公
判)。
 キ 12月10日,朝一番の電車で博多から戻り,会社からミラを持ち出した。
午前10時前後ころ,小郡市のコンビニから,Hの自宅に電話し,同女宅に行って
車に乗せた後,コンビニJに立ち寄って買い物をし,その後,午前11時10分こ
ろ,ホテルGに入った(当審公判)。
 (2) 上記のとおり,被告人の犯行当時の所在及び行動に関する供述は,数度にわ
たり合理的な理由の説明もなく変遷している。特に,捜査段階では,弁護人が被告
人のアリバイとして主張している,本件当日午前中にHと行動を共にし,ホテルG
にいたこと(前記(1)のカ,キ等)を述べておらず,原審公判において,ホテル側の
ミラのナンバープレートの番号及び入室時刻の記録から,本件犯行時刻の直後に,
被告人がその現場の近くにいた事実が証拠で明らかにされて初めて,事件当日の午
前11時10分ころ,ホテルGに入室したとの事実を認める前記(1)のカの供述をし
たことが窺われる。被告人は,原審公判において,その供述を当初からしなかった
のは,検察官が質問しなかったからだと述べているが,事件当日の被告人の行動に
ついて,捜査官から繰り返し質問されていることは,前記3の供述経過から明らか
である。そうすると,被告人が本件直後ホテルGにいたことは自己に不利益な事実
と判断していたものとも推測される。
   さらに,被告人は,ミラを無断で持ち出したのは事件当日であると一貫して
述べているが,原審証人Dの供述,当審証人Eの供述によれば,同車がなくなった
のは事件当日ではなく,その前日9日であり,被告人は9日は休みを取り,以後同
車が発見された10日夜まで会社に帰らなかったことが認められるのであって,被
告人の前記供述は信用できない。このように被告人の供述内容,供述の変遷を含む
供述態度に照らすと,被告人の原審及び当審公判廷におけるアリバイ供述((1)の
カ,キ)中他の証拠により裏付けられていない点は到底信用することができない。
したがって,弁護人の前記主張は採用できない。
4 原判決は,被害品のハイウェイカードの被告人による所持が,被害日時から1
か月余り離れていることを重視し過ぎ,かつ被告人が本件犯行当時使用していたミ
ラの中から盗品が発見された事実を十分検討せず,また,被告人には土地勘がある
ことを裏付けるH供述の評価を誤った結果,犯罪の証明がないとして無罪を言い渡
したものであって,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があ
り,全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
第3 よって,刑事訴訟法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法4
00条ただし書により,被告事件について更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成12年12月10日午前9時46分ころ,福岡県久留米市a町b
番地所在の財団法人A北側駐車場に駐車中の軽四輪貨物自動車内からB所有又は管
理の現金約6万2000円及び財布等8点在中のハンドバッグ1個(時価合計約2
万3880円相当)を窃取したものである。
(証拠の標目)
  略
(法令の適用)
 被告人の判示行為は刑法235条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告
人を懲役1年2月に処し,刑法21条を適用して,原審における未決勾留日数中1
30日をその刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用は,刑訴法181条1項
ただし書を適用して,被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者が一時駐車中の自動車内から現金約6万2000円及
び財布等が入ったハンドバッグを盗んだという事案である。本件の罪質,動機・態
様,結果,被告人の前科等をみると,被告人は,平成11年10月,本件と同種の
窃盗,同未遂の罪で懲役1年6月,3年間執行猶予に処せられ,社会内で自力更生
の機会を与えられたのに,行動に特に注意すべきその猶予期間中に本件を敢行した
もので,規範意識に乏しいといわざるを得ない。被害額も前記のとおり少ない額と
はいえない。被告人はその年の7月ころ,交際のあったフィリピン人女性の後を追
って福岡県に来て,無為徒食状態にあったところ,本件直前に就職したが,給料前
であったため遊興費など欲しさに本件を行ったと推測され,その動機に酌むべき点
は認められない。また,被告人は,捜査段階から当審に至るまで不合理な弁解に終
始し,法廷における態度からも反省の情を認めることができない。以上のような諸
点を考慮すると,被告人の犯情は良いものではなく,その刑事責任は軽いものとは
いえない。
 他方,被害品の一部が被害者に返還されていること,本件より前に犯した窃盗罪
で別に起訴され,実刑判決を受けていること等の事情も認められるので,以上の諸
事情を十分に考慮した上,主文掲記の刑を量定した。
  よって,主文のとおり判決する。
平成14年6月19日
福岡高等裁判所第一刑事部
裁判長裁判官  虎   井   寧   夫
裁判官     鈴   木   浩   美
裁判官     大   崎   良   信

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