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平成12年(ワ)第27115号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成13年8月30日)
           判      決
原       告甲
同訴訟代理人弁護士    日 野 和 昌
同            大 井   暁
同補佐人弁理士      丹 羽 宏 之
同            野 口 忠 夫
     被       告株式会社ジャパンエナジー
同訴訟代理人弁護士    清 永 利 亮
同補佐人弁理士      藤 野 清 也
同            吉 見 京 子
同            藤 野 清 規
主      文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 原告の請求
  被告は,原告に対し,7920万円及びこれに対する平成13年1月18日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた。
 特許番号  第1365713号
 発明の名称  透過光と反射光兼用画像板およびその製造方法
 出願日  昭和56年4月4日
 出願番号  特願昭56-50958号
 出願公告日  昭和61年7月24日
 出願公告番号  特公昭61-32156号
登録日  昭和62年2月26日
(2)本件特許権の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決
末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件公報」という。〕参照)の特許請求の範囲
1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
「透明プラスチツク板1の上に画像を形成させた透明画像板Aを表側に,半透明白
色プラスチツク板4の上に画像を形成させた半透明白色画像板Bを内側に,かつ,
半透明白色プラスチツク板4の両側に画像があるようにして,この両画像3が完全
に一致したところで,透明画像板Aと半透明白色画像板Bを接着固定したものより
なる透過光と反射光兼用画像板。」
(3)本件特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,「構成
要件①」などという。)。
① 透明プラスチック板の上に画像を形成させた透明画像板を表側に,
② 半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた半透明白色画像板を
内側に,
③ 半透明白色プラスチック板の両側に画像があるようにして,
④ この両画像が完全に一致したところで,透明画像板と半透明白色画像板
を接着固定したものよりなる透過光と反射光兼用画像板。
(4)被告は,「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板(以下「被告
製品」という。)をその特約店であるガソリンスタンドにおいて使用させている。
被告製品の具体的な構造等は別紙「物件目録(原告提出)」(以下「原告目録」と
いう。)に記載のとおりである。
  そして,被告製品の構造を分説すれば,次のとおりである。
(ⅰ)透明プラスチック板11の裏側に画像31のある透明画像板aを表側
に,
(ⅱ)半透明白色体41の裏側に画像31のある半透明白色画像部bを内側
に,
(ⅲ)半透明白色体41の両側に画像31,31があるようにして,
(ⅳ)この両画像31,31を完全に一致させて,透明画像板aと半透明白色
 画像部bを一体とし,さらにその裏側に透明プラスチック板Pを配置した
  天地模様の透過光と反射光兼用画像板
(5)本件特許発明の構成要件と被告製品の構造とを対比すると,被告製品の構
造(ⅰ)~(ⅳ)は,本件特許発明の構成要件①~④をそれぞれ充足する。
  本件特許発明の構成要件②では「半透明白色プラスチック板」としている
のに対し,被告製品の構造(ⅱ)では「半透明白色体」となっているが,ここでい
う「半透明白色プラスチック板」は半透明白色物質であれば足り,材料を問わない
から,本件特許発明の構成要件②を充足する。
(6)以上のとおり,被告の前記(4)の行為は本件特許権を侵害するものである
が,原告は,これにより,本件特許発明の実施料に相当する損害を被った。この実
施料相当額は,被告製品の販売価格の5%を下らないところ,被告製品の価格は1
個当たり約15万円であり,被告の系列のガソリンスタンドは全国で約5280店
舗ある。そして,被告製品である看板は各店舗に少なくとも2個以上設置されてい
るから,被告製品は少なくとも1万0560個使用されていることになる。
  したがって,本件の実施料相当額は,7920万円を下らない。
 (計算式 10,560×150,000×0.05=79,200,000)
(7)よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として79
20万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年1月18日から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1)請求原因に対する認否
請求原因(1),(2),(3)の各事実は認める。
  請求原因(4)のうち,被告がその特約店であるガソリンスタンドにおいて被
告製品(「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板)を使用させているこ
とは認めるが,その構造は否認する。被告製品の具体的な構造等は,別紙「物件目
録(被告提出)」(以下「被告目録」という。)に記載のとおりである。
  請求原因(5)は否認する。被告製品は,後記のとおり,本件特許発明の技
術的範囲に属しない。
  請求原因(6)は否認し,争う。
(2)被告の主張 
ア 被告製品は,本件特許発明の構成要件を充足しない。これを各構成要件
についてみると,次のとおりである。
(ア)構成要件①について
  本件特許発明の構成要件①は「透明プラスチック板の上に画像を形成さ
せた透明画像板を表側に」となっているのに対し,被告製品の構成は,「表側に位
置する透明アクリル板1の内側に透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,透明プラ
イマー層4,着色インキ層5がその順にあり」というものである。
  被告製品の「透明アクリル板1」が構成要件①の「透明プラスチック
板」に該当するとしても,「透明アクリル板」の上に「画像」を形成していない。
  すなわち,被告製品の「透明アクリル板1」と「着色インキ層5」との
間には,「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」が介
在している。このうちの「透明粘着剤層2」は,「透明アクリル板」と「透明塩ビ
フィルム3」とを接着するため,「透明塩ビフィルム3」に塗布しているのであ
り,また,「透明塩ビフィルム3」は,「着色インキ層5」「白色インキ層6」な
どの支持体ともいうべきものである。このような支持体を必要とするのは,上記各
層がミクロン単位の極めて薄い層であるからである。さらに,「透明プライマー層
4」は,「透明塩ビフィルム3」と「着色インキ層5」との密接性を上げるため
に,「透明塩ビフィルム3」の上に形成したものである。印刷技術を用いて被告製
品のような電飾看板を製造するには,このような層が必要となる。
  被告製品は,上記のとおり極めて薄い「着色インキ層5」を用いている
ので,そのほかの層を必要としたのであるが,本件特許発明は,被告製品の「透明
塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」に相当するものを必要としない。
  以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件①を充足しない。
(イ)構成要件②について
  本件特許発明の構成要件②は,「半透明白色プラスチック板の上に画像
を形成させた半透明白色画像板を内側に」となっているのに対し,被告製品は「ま
た,その内側に白色インキ層6,着色インキ層5と同じ色の着色インキ層5’があ
り」というものである。
  構成要件②の「半透明白色プラスチック板」にいう「板」は,被告製品
の「白色インキ層6」にいう「層」に該当しない。
  すなわち,本件明細書は「板」という用語について別段の定義をしてい
ないので,その有する普通の意味でこれを用いているものと解される。そこで,一
般の用語例をみると,「板」とは「材木を薄く平たくひきわったもの。金属や石な
どを薄く平たくしたもの。」をいうところ(広辞苑第4版140頁),その点か
ら,「板」には「固いもの」という意味もある(小学館・新選国語辞典61頁)。
それゆえ,構成要件②の「半透明プラスチック板」は,それ自体で一定の形体を保
持し得るような固さを有するものであることを意味すると解すべきである。
  一方,被告製品の「白色インキ層6」は厚さ1~3μm程度の極めて薄
いものであって,構成要件②の「板」には該当しないというべきである。
  また,同様に,被告製品の1~3μm程度の極めて薄い「白色インキ層
6」の上に同じく厚さ2~8μm程度の極めて薄い「着色インキ層5’」を印刷し
たものは,構成要件②の「半透明白色画像板」にいう「画像板」に該当しない。
  以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件②を充足しない。
(ウ)構成要件③について
  本件特許発明の構成要件③は,「半透明白色プラスチック板の両側に画
像があるようにして」となっているのに対し,被告製品は前記(イ)のとおり「半透
明白色プラスチック板」を有するものではないので,その両側に「画像がある」も
のにはなり得ない。
  したがって,被告製品は,本件特許発明の構成要件③を充足しない。
(エ)構成要件④について
  本件特許発明の構成要件④は,「この両画像が完全に一致したところ
で,透明画像板と半透明白色画像板を接着固定したものよりなる」となっているの
に対し,被告製品はそのような構造を有しない。
  すなわち,構成要件④にいう「透明画像板」は,「透明プラスチック板
の上に画像を形成させた」ものであるのに対し,被告製品は,前記(ア)のとおり,
「透明プラスチック板1」の上に「画像」を形成していない。そして,構成要件④
にいう「半透明白色画像板」は,「半透明白色プラスチック板の上に画像を形成さ
せた」ものであるのに対し,被告製品は,前記(イ)のとおり,本件特許発明のよう
に「半透明白色プラスチック板」の上に「画像」を形成していない。
  また,本件特許発明の構成要件④は,「透明画像板と半透明白色画像板
を接着固定した」ものであるところ,仮に,被告製品の「透明アクリル板1の内側
に透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,透明プライマー層4,着色インキ層5が
その順にあり」という構造が「透明画像板」に,被告製品の「また,その内側に白
色インキ層6,着色インキ層5と同じ色の着色インキ層5’があり」という構造が
「半透明白色画像板」にそれぞれ対応しているとしても,被告製品においては,こ
の両者は「接着固定」されていない。
  すなわち,本件明細書は,「接着固定」の用語について別段の定義をし
ていないので,用語の普通の意味についてみるに,「接着」とは「くっつけるこ
と」(広辞苑第4版1446頁)をいい,「固定」とは「動かないようにするこ
と」(同945頁)をいうところ,本件特許発明の透過光と反射光兼用画像板を製
造する方法に係る特許請求の範囲2の発明につき,その特許請求の範囲には「透明
画像板A半透明白色画像板Bを透明接着剤で接着固定する」(本件公報1欄26行
~27行)と記載され,本件特許発明に関しても,本件公報の第1図に,実施例と
して透明画像板と半透明白色画像板とが透明接着剤で接着し一体となった構造が図
示されている。
  一方,被告製品では,「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透
明プライマー層4」「着色インキ層5」がある「透明アクリル板1の内側」に「白
色インキ層6」が印刷され,その内側に「着色インキ層5’」が,更にその内側に
「透明保護クリアー層7」が順次印刷されているにすぎない。
  このように,被告製品においては,構成要件④にいう「接着固定」する
という技術手段は採用していない。
  さらに,本件特許発明では「透明画像板」と「半透明白色画像板」との
間に必然的に接着剤が介在するところ,被告製品では接着剤は介在していない。
  以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件④を充足しない。
イ 本件特許権に基づく原告の請求は,権利濫用に当たり許されない。
  本件特許発明は昭和56年4月4日に出願されたものであるところ,出
願前の公知技術として次のものがある。
(ア) 昭和46年10月6日に出願公告された実公昭46-28803号実
用新案公報(乙1)記載の考案(以下「乙1考案」という。)
(イ) 昭和49年10月5日に公開された実開昭49-116993号のマ
イクロフィルム(乙2の1)記載の考案(以下「乙2考案」という。)
(ウ) 昭和51年6月29日に出願公告された実公昭51-25574号実
用新案公報(乙3)記載の考案(以下「乙3考案」という。)
(エ) 昭和53年11月17日に公開された特開昭53-131838号公
開特許公報(乙4)記載の発明(以下「乙4発明」という。)
  上記の公知技術を総合すると,本件特許発明は,特許出願前に日本国内
において頒布された刊行物に記載された発明と実質的に同一であるか,仮にそうで
ないとしても,本件特許発明の出願前に当業者が前記公知技術に基づいて容易に発
明をすることができたものというべきである。
  そして,当該特許に無効理由が存在することが明らかなときは,その特
許権に基づく差止め,損害賠償の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当
たり許されないと解されるところ,本件特許発明は前記公知技術と実質的に同一で
あるか,又は公知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであって,本
件特許には特許法123条1項2号所定の同法29条の規定に違反して特許された
という無効理由が存在することが明らかであり,上記特段の事情も存しない。
  したがって,本件特許権に基づく原告の本訴請求は,権利濫用に当たり
許されない。
ウ 仮に,本件特許に無効理由が存しないとしても,上記の乙1ないし4の
考案・発明の存在を前提として本件特許発明の構成要件を解釈すると,被告製品は
本件特許発明の技術的範囲に属しない。
  すなわち,本件特許発明の構成と乙1考案の構成とを対比すると,両者
の相違は,本件特許発明では「透明プラスチック板」と「半透明白色プラスチック
板」を用い,かつ,「(透明プラスチック板の上に画像を形成させた)透明画像板
と(半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた)半透明白色画像板を接着
固定」する構成を採用したのに対して,乙1考案では,「半透明プラスチツクス,
フィルムの表裏両面にインキ皮膜を形成」する構成を採用した点にある。
  そうすると,公知技術である乙1考案との関係においては,本件特許発
明は上記の構成を採用したことのみに特徴があるものといわざるを得ない。
  これに対して,被告製品の構造は,別紙被告目録のとおりであり,本件
特許発明にいう「半透明白色プラスチック板」を用いておらず,また,「透明画像
板と半透明白色画像板を接着固定」するという構造を有しない。
  次に,前記公知技術のうち,乙3考案を参酌することとして,本件特許
発明の構成と乙3考案の構成とを対比すると,両者の相違は,本件特許発明では
「透明プラスチック板」「半透明白色プラスチック板」を用い,かつ,「透明画像
板と半透明白色画像板を接着固定」する構成を採用したのに対して,乙3考案で
は,「透明プラスチックシート」「合成紙」の構成を採用した点にある。
  そうすると,公知技術である乙3考案との関係においては,本件特許発
明は上記の構成を採用したことのみに特徴があるものといわざるを得ない。
  これに対して,被告製品の構造は,別紙被告目録のとおりであり,本件
特許発明の「透明プラスチック板」に相当する「透明アクリル板1」は用いている
が,「半透明白色プラスチック板」を用いること及び「透明画像板と半透明白色画
像板を接着固定」するという構造を有しない。
  以上のとおり,出願前の公知技術との関係で本件特許発明の構成を解釈
すると,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 3 被告の主張に対する原告の反論
(1)被告目録記載の構造を前提にしても,被告製品は本件特許発明の技術的範
囲に属する。
  すなわち,被告目録のⅢ図面を基に被告製品の構造を分説すると,次のと
おりである。
 (ⅰ')透明アクリル板1の裏側に,透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,
透明プライマー層4,画像を構成する着色インキ層(画像)5がその順に配置され
た,透明画像板aを表側に
 (ⅱ')半透明白色インキ層6の裏側に,着色インキ層(画像)5’のある半
透明白色画像部bを内側に
 (ⅲ')半透明白色インキ層6の両側に,着色インキ層5,5’があるように
して,
(ⅳ')着色インキ層5,5’の両画像を完全に一致させて,透明画像板aと
半透明白色画像部bを一体とし,さらにその裏側に,透明保護クリアー層7を配置
した透過光と反射光兼用画像板
 (なお,被告製品の6の部分につき,被告は「白色インキ層」というが,原
告の主張においては「半透明白色インキ層」の語を用いる。)
  そして,上記の被告製品の構造と本件特許発明の構成要件とを対比すると
以下のとおりである。
ア 被告製品の構造(ⅰ')について
  被告製品の「透明アクリル板1」「着色インキ層5」は,本件特許発明
の構成要件①の「透明プラスチック板」「画像」にそれぞれ該当する。 そして,
被告製品の「着色インキ層」は,「透明アクリル板1」の「裏側」に配置され,
「透明画像板a」を構成している。
  被告製品では,「透明アクリル板1」と「着色インキ層5」との間に,
「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」が存在する
が,本件公報の第1図では「透明接着剤2」は存在するものの,「透明塩ビフィル
ム3」「透明プライマー層4」は存在しない。
  しかし,「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」は,「透明ア
クリル板1」の裏側に「着色インキ層5」を配置,固定,印刷するための付加的構
造にすぎず,本件特許発明が解決した技術的課題とは無関係であるから,本件特許
発明の技術的範囲を定めるに当たって何ら意味を有しない。
  したがって,被告製品の構造(ⅰ')は,本件特許発明の構成要件①を充
足する。
イ 被告製品の構造(ⅱ')について
  被告製品の「着色インキ層5’」は,本件特許発明の構成要件②の「画
像」に該当する。「着色インキ層5’」は,「半透明白色インキ層6」の「裏側」
に配置され,「半透明白色画像部b」を構成し,前記透明画像板aの「内側に」配
置されている。
  被告製品では「半透明白色インキ層6」となっているのに対し,本件特
許発明の構成要件②では「半透明白色プラスチック板」となっており,この点にお
いて相違するようにもみえる。しかし,本件特許発明は,両画像の間に,透過光を
適切に透過し,同時に反射光を適切に反射することのできる半透明白色プラスチッ
ク板が存在する点を特徴とするものであり,半透明白色プラスチック板と同等の効
果を有する半透明白色体であれば,たとえその素材がインキであったとしても,本
件特許発明の技術的範囲に属するというべきである。
  そして,本件特許発明における「半透明白色画像板」の「板」とは,薄
く平らかなものを正面からみた場合の表現であるのに対し,「インキ層」の「層」
とは断面を見た場合を指しており,見る方向による表現の差異にすぎない。被告製
品の「インキ層」も板状のものであり,「板」の概念に包含される。
  したがって,被告製品の構造(ⅱ')は,本件特許発明の構成要件②を充
足する。
ウ 被告製品の構造(ⅲ')について
  被告製品では,「半透明白色インキ層6」の「両側に」,「着色インキ
層5」と「着色インキ層5’」が配置されている。
  前記イのとおり,「半透明白色プラスチック板」か「半透明白色インキ
層」かは,本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断に当たっては重要な意
味を有しないから,被告製品の構造(ⅲ')は,本件特許発明の構成要件③を充足す
る。
エ 被告製品の構造(ⅳ')について
  被告製品では,「着色インキ層5」と「着色インキ層5’」の両画像は
完全に一致するように配置される。そして,透明画像板aと半透明白色画像部bを
一体として,さらにその裏側に「透明保護クリアー層7」が配置され,天地模様の
透過光と反射光兼用の画像板を形成する。
  本件特許発明の構成要件④では,透明画像板と半透明白色画像板とが
「接着固定」されるものであるところ,被告は,被告製品では「板」を「接着固
定」することはないと主張する。
  しかし,この点の相違は,被告製品では「半透明白色インキ層」を印刷
により他の層と接着するという製造方法を採っていることに起因するものであり,
構造上の差異には当たらない。
  なお,被告製品では「透明保護クリアー層7」が配置されているが,単
なる保護層にすぎないから,構造上重要な意味を有しない。
  したがって,被告製品の構造(ⅳ')は,本件特許発明の構成要件④を充
足する。
(2)本件特許発明は,両画像の間に「半透明白色プラスチック板」を配置する
ことにより,従来の技術とは異なり,透過光反射光兼用画像板として,極めて顕著
な効果を発揮する点に進歩性が認められた発明である。
  被告は,前記2(2)イ記載の考案等を挙げてこれを公知技術と称し,本件
特許発明が無効である旨主張するが,以下のとおり理由がない。
ア 乙1考案について
  乙1考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲には「透明または半透
明プラスチツクス,フイルムの表裏両面にオフセツト耐候(光)性速乾性インキ皮
膜を密着形成せしめたことを特徴とする立体的デイスプレイ効果を有する印刷
物。」と記載されている。
  被告は,このうち「半透明プラスチツクス」を用いた場合が本件特許発
明と同一であるかのように主張する。
  しかし,「半透明プラスチツクス」は,正面からの太陽光を透過させて
しまうため,乙1考案では反射光による鮮明な画像を見ることはできない。 ま
た,「半透明プラスチツクス」は,背面からの透過光の光源(例えば蛍光灯)まで
透過して見せてしまうことがあり,使用に耐えない。
  これに対し,本件特許発明は,両画像の間に「半透明白色プラスチック
板」を用いるため,太陽光すなわち反射光を適切に反射するだけでなく,透過光の
光源が透過して見えることもない。
  以上のとおり,乙1考案と本件特許発明は全く異なるものである。
イ 乙2考案について
  乙2考案に係る明細書(ただし,補正後のもの)の実用新案登録請求の
範囲には「光源1を内装した匣体2の開放正面3に,紙葉或いは合成樹脂シートに
印刷または焼付けた多色刷り印刷,写真片4を,2枚重ね合せて張設した写真片ま
たは印刷シートの装飾灯。」と記載されている。
  乙2考案では,写真片4が2枚重ねて張設されているだけで,画像の間
に半透明白色体は全く用いられていない。その上,この考案は,透過光の光源に関
する考案であり,透過光反射光兼用画像板に関する技術ではない。 さらに,写真
が不透明な紙等に印刷されている場合は,背後からの光が透過せず,透明なシート
等であれば反射光によって画像を見ることができず,考案としては未完成,不完全
というほかはない。
  以上のとおり,乙2考案は本件特許発明とは著しく異なるものである。
ウ 乙3考案について
  乙3考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲には「光を透過した場
合両面の印刷図柄が一致するように粗面化した合成紙の両面に印刷を施し,少くと
も片方の表面に透明プラスチックシートを貼合したことを特徴とする装飾シー
ト。」と記載されている。
  乙3考案で用いられる「粗面化した合成紙」は,本件特許発明における
「半透明白色プラスチック板」とは著しく異なる。
  すなわち,この考案は「粗面化した合成紙」を用いることにより,パル
プ紙印刷物の場合にパルプ繊維が見えるという欠陥を改善したものとされている。
  しかし,合成紙もあくまで紙であるため,半透明であったとしても透過
光の透過率は極めて低いものにとどまる。その結果,合成紙を用いて透過光反射光
兼用画像板を作っても,透過光による画像がほとんど見えず,実施不能である。
  本件特許発明における「半透明プラスチック板」は,反射光を適切に反
射する一方,透過光を適切に透過する点において画期的発明となっている。
エ 乙4発明について
  乙4発明に係る明細書の特許請求の範囲1~8には,写真乳剤層とリジ
ン層を形成する2枚の印画部を接着する方法が述べられているが,リジン層は,不
透明白色であり透過光でこれを見ることは著しく困難である。
  本件特許発明は,これと異なり,半透明白色プラスチック板を用いるこ
とにより,透過光と反射光との兼用を可能としたものであり,両者は著しく異なる
ものである。
  以上のとおり,本件特許発明は,被告が指摘する乙1考案~乙3考案及び
乙4発明とは技術的に見て全く異なるものであり,本件特許発明には被告の主張す
るような無効理由は存在しない。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(原告が本件特許権の特許権者であったこと),同(2)(本件
明細書の特許請求の範囲の記載),同(3)(構成要件の分説)については,当事者
間に争いがない。
2 請求原因(4)のうち,被告がその特約店であるガソリンスタンドにおいて被
告製品(「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板)を使用させているこ
とは,当事者間に争いがない。被告製品の構造については,証拠(乙5の1,2,
検乙1)によれば,6の層を「白色インキ層」と表記するか「半透明白色インキ
層」と表記するかの点を除き,被告目録のⅢ図面のとおりと認められる。
  そこで,被告製品の構造が被告目録のⅢ図面のとおりであることを前提とし
て,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に含まれるかどうかを検討する。
  証拠(乙5の1,2,検乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成
のうち「透明塩ビフィルム3」,「透明プライマー層4」及び「透明保護クリヤー
層7」は,印刷インキを定着し,インキ層を保護するために配置された付加的な構
成であると認められる。
  これらを除いた構成と本件特許発明とを対比した場合,被告製品の「透明ア
クリル板1」,「着色インキ層5」,「(半透明)白色インキ層6」及び「着色イ
ンキ層5’」が,本件特許発明の「透明プラスチック板」,「画像」「半透明白色
プラスチック板」及び内側の「画像」(本件公報の第1図参照)とその配置及び光
学的な機能に関して一応の対応関係にあることは,当事者間に争いがない。そし
て,上記構成のうち,「透明アクリル板1」と「透明プラスチック板」及び「着色
インキ層5,同5’」と「両画像」がそれぞれ対応するものであることも,当事者
間に争いがない。
  以上によれば,構成要件充足性における争点は,被告製品の「(半透明)白
色インキ層6」が本件特許発明の「半透明白色プラスチック板」に該当するかとい
う点である。
3 そこで,この点について検討すると,本件明細書における特許請求の範囲の
記載及び発明の詳細な説明欄の実施例の記載からすれば,本件特許発明の画像板
は,「半透明白色プラスチック板」の上に画像を形成させた半透明白色画像板が,
透明画像板に形成された画像と一致したところ(位置)で透明画像板と接着固定さ
れてなるものであるから,「半透明白色プラスチック板」についても,半透明で白
色であるという光学的な性質を有することに加えて,少なくとも所定の厚みを有
し,それ自体単独で存在し得る性状の部材であると解するのが相当である。
  一方,被告製品における「(半透明)白色インキ層6」は,厚みがあるとい
っても数μm程度の印刷層であり(乙5の1,2により認められる。),板状の部
材として単独で存在し得るものではないと考えられ,「(半透明)白色インキ層」
の上に「着色インキ層」が形成されたものが単独で存在し,着色インキ層の画像が
一致したところで透明画像板と接着固定されている,といえるものでもない。
  したがって,被告製品の「(半透明)白色インキ層6」は,本件特許発明の
「半透明白色プラスチック板」に該当せず,被告製品は,少なくとも本件特許発明
の構成要件②,同③を充足しないものというべきである。
4 上記の判断は,以下のとおり,本件特許権の出願前の公知技術である乙1な
いし4の考案・発明(乙1~4によれば,これらの考案・発明が,本件特許権出願
前に頒布された刊行物に記載されていることが認められる。)と本件特許発明を対
比して検討した結果に照らしても,是認できるところである。
(1)乙1考案について
  乙1考案は,立体的ディスプレイ効果を有する印刷物に係るものである。
従来,透明紙印刷物の肉乗りの悪い欠点を補い,透視のときに2倍濃厚な模様等を
顕現するために,セロハン紙等の透明紙の両面の同一位置に模様等を印刷したもの
があった。しかし,この従来技術では,色再現性等の特性を発揮させること及び反
射光,透過光の両方によって立体的にディスプレイの効果を顕現させることができ
ない。そこで,乙1考案は,透明又は半透明プラスチックス,フィルムの表裏両面
にオフセット耐候(光)性速乾性インキ皮膜を密着形成させたものである(乙1
〔実用新案公報〕により認められる。)。
(2)乙2考案について
  乙2考案は,写真片又は印刷シートの装飾灯に係るものである。
  従来,写真フィルムを用いて裏側から光を当てる装飾灯があったが,光源
が消灯したときは暗く,両面がはっきりしないという欠点があった。そこで,乙2
考案は,光源を内装した箱体正面に,紙葉あるいは合成樹脂シートに印刷又は焼き
付けた多色刷り印刷,写真片を2枚張り合わせて張設したものである。これによ
り,裏面からの光を受けても写真の色彩が薄くなることがなく,光源を利用しない
とき,すなわち反射光で見たとき,写真は特に濃く印刷していないので天然色を維
持することができる(乙2の1~3〔マイクロフィルム,手続補正書〕により認め
られる。)。
(3)乙3考案について
乙3考案は,装飾宣伝用シートに係るものである。
  従来,装飾・宣伝用等のパネルには,パルプ紙印刷物,パルプ紙印刷物と
プラスチックシートとの貼合物,透明プラスチックシートの印刷物が使用されてい
るが,光を透過して装飾効果を得ようとする場合に,パルプ紙の印刷物であるとパ
ルプ繊維が見えて基材の不均一性が目立ち,透明プラスチックシートの印刷物であ
ると裏面に光を乱反射させる基材を用いないと効果が得られないという問題点があ
った。
  乙3考案は,光を均一に散乱させる組織を有する半透明ないし不透明な粗
面化した合成紙を用い,光を透過した場合に両面の印刷図柄が一致するように,合
成紙の両面に印刷を施し,少なくとも一方の面に透明プラスチックシートを貼合し
たものである。これにより,パルプ紙を用いた場合のようにパルプの繊維が見える
ことがなく,透明プラスチックシートのように印刷物の裏側に光を散乱させる材料
を用いる必要がないという作用効果を奏することができる(乙3〔実用新案公報〕
により認められる。)。
(4)乙4発明について
乙4発明は,透過光及び反射光両用写真及びその成形方法に係るものであ
る。
  一般に,写真には,透過光を利用して鑑賞できる透明なガラス板又はフィ
ルム面に印刷したものと,反射光を利用して鑑賞できる印画紙の感光面に印刷した
ものがあるが,この両者を兼用できる写真はなかった。
  乙4発明は,同一画像を有する2枚の写真の各印刷面を形成する写真乳剤
層とリジン層を印画紙から剥離し,前記画像が一致するように互いに接着したもの
である。これにより,昼間は反射光利用の写真となり,また夜間は点灯された電源
による透過光利用の写真となる。そして,いずれの場合も鮮明な画像を提供できる
という作用効果を奏する(乙4〔公開特許公報〕により認められる。)。
  上記(1)~(4)を前提に,本件特許発明の画像板と乙1考案~乙3考案及び乙
4発明の画像板とを比較するに,両者は透過光及び反射光のいずれを利用しても鮮
明な画像が得られるという効果において共通する。
  そして,その完成時の構造をみると,本件特許発明は,「透明プラスチック
板-画像-半透明白色プラスチック板-画像」というものであるのに対し,乙1考
案においては「画像-半透明プラスチック板-画像」,乙2考案においては「画像
-合成樹脂シート-画像-合成樹脂シート」,乙3考案においては「透明プラスチ
ック板-画像-半透明合成紙-画像」,乙4発明においては「透明プラスチックフ
ィルム-画像-透明プラスチックフィルム-画像」となっており,一見すると類似
しているようにみえる。
  しかし,本件明細書の特許請求の範囲及び実施例の記載からすれば,本件特
許発明にいう画像板は,「透明プラスチック板上に画像を形成した透明画像板」と
「半透明白色プラスチック板上に画像を形成した半透明白色画像板」を備え,この
2つの画像板を「半透明白色プラスチック板の両面に画像があるようにして接着固
定」して構成したものと認めることができる。
  すなわち,乙1考案~乙3考案及び乙4発明の存在にもかかわらず本件特許
発明が特許されたことからすれば,本件特許発明は,画像板を形成する層の性状
(機能,材質)やその並べ方で特定された構造のみに特徴がある発明というわけで
はなく,製造方法(作成手順)によっても特徴づけられた(特定された)物の発明
と理解するべきである。
  この点について,乙1,3の各考案においては,画像板は,半透明プラスチ
ック板(合成紙)の両面に画像を印刷して形成されたものであり,それぞれに画像
が形成された2つの画像板を接着固定するという技術思想がない。また,乙2の考
案における画像板は表面に画像が形成された2枚の合成樹脂シート(半透明シー
ト)を張り合わせて形成したもの,乙4の発明における画像板は表面に画像が形成
された2枚の透明プラスチックフィルムを張り合わせて形成したものであって,そ
れぞれに画像が形成された2つの画像板を接着するという点では本件特許発明と共
通するものの,それが透明のプラスチック板と半透明白色のプラスチック板という
異なった種類の画像板であるという点については示唆されていない。
  以上のとおり,本件特許発明は透明プラスチック板と半透明白色プラスチッ
ク板の両方に画像が形成されたものを接着して形成した構成に特徴があるところ,
被告製品においては,画像板は透明プラスチック板に印刷層であるところの画像イ
ンキ層,(半透明)白色インキ層を重ねて形成(印刷)したものであり,半透明プ
ラスチック板を備えているということができないので,本件特許発明の構成要件を
充足しているとは認められない。
5以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は
理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官  三  村  量  一
裁判官  和久田 道 雄
裁判官  田  中  孝  一
物件目録(原告提出) 図面 
物件目録(被告提出) 図面

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