弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文と同旨
第二 事案の概要
 以下に付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」
に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一五頁末行の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 そもそも、本条例によると、都議会は実施機関とされていないのであるが、こ
のことは、東京都においては、都議会が作成し又は取得した公文書は、本条例によ
ってではなく、都議会の自主的な判断に基づいて、都議会が独立してその公開、非
公開を決定すべきことを本条例自身が認めたことを意味するというべきである。し
たがって、都議会が作成した文書については、その開示、非開示の意思決定は都議
会自身が行うべきものであって、実施機関である控訴人が取得した都議会の作成し
た文書の開示を求められた場合であっても、その開示、非開示の決定は都議会の意
思を尊重して行うべきものである。
 また、本件各文書が開示されるとすれば、控訴人により一方的に都議会議員等の
海外出張の旅費(金額)に関する情報及び出張先(旅行経路)のみが開示されるこ
ととなるが、他方、その海外出張の必要性を根拠づける旅行命令簿等の原議は都議
会の管理する文書として公開されない結果、都議会議員の海外出張についての十分
な情報の公開とならないため、都民に対して金額と出張先のみによって当該海外出
張の一方的な解釈や誤解を与えかねないのである。もし、本件各文書を開示したこ
とにより、右の誤解が生じた場合、都議会にとっては、この誤解を招来した原因
は、一に議会局の回答を無視して、控訴人が本件各文書を開示したことによるもの
であるとの考えに至ることが容易に想定され、その結果、控訴人と都議会の信頼関
係が損なわれるといわざるを得ない。」
2 同一六頁末行の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 そして、このような信頼関係は、もともと当事者間の主観的な関係の中で成立
するものであるから、この関係を客観的に判断するのは相当ではない。すなわち、
信頼関係を損なうか否かは、すぐれて主観的な関係であるから、当事者間におい
て、これを非開示にしてほしい旨の要望があった場合には、その非開示とする要望
が客観的にみて合理的理由があるか否かを問うことなくこれがあるものとして、そ
の要望を尊重してその要望に従うことが信頼関係を維持するためには必要なことで
ある。仮に、都議会が当該公文書の開示を望まないにもかかわらず、その意思に反
して、控訴人がこれを開示するとすれば、その文書を開示したということのみによ
って、控訴人と都議会の信頼関係の維持は困難となるのである。」
3 同二○頁三行目の「追求」を「追及」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由
は、以下に付加するほかは原判決の事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判断」に
記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三二頁五行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 この点について、控訴人は、本条例が都議会を実施機関から除外していること
は、都議会が作成した公文書については、都議会の自主的な判断に基づいて、都議
会が独立してその公開、非公開を決定すべきことを本条例自身が認めたことを意味
するから、都議会が作成した文書の開示、非開示の意思決定は、都議会自身が行う
べきものであり、実施機関である控訴人が取得した都議会の作成した文書の開示を
求められた場合であっても、その開示、非開示の決定は都議会の意思を尊重して行
うべきものである旨主張するけれども、本条例は、右のとおり、公文書開示の対象
となり得る都議会において作成された文書についても、都議会が実施機関でないこ
とのゆえに特別な取扱いを認める規定は設けていないのであるから、都議会が実施
機関でないことから直ちに、都議会が作成した文書の開示、非開示を都議会の自主
的判断に委ね、その意思に従うべきであるということはできず、控訴人の右主張は
採用することができない。」
2 同三四頁三行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 控訴人は、このような信頼関係は、もともと関係当事者間の主観的な関係の中
で成立するものであるから、この関係を客観的に判断するのは相当ではなく、信頼
関係を損なうか否かは、すぐれて主観的な関係であるから、当事者間において、こ
れを非開示にしてほしい旨の要望があった場合には、その非開示とする要望が客観
的にみて合理的理由があるか否かを問うことなくこれがあるものとして、その要望
を尊重してその要望に従うことが信頼関係を維持するためには必要なことである旨
主張するけれども、前記のような本条例の制定目的、本条例の解釈及び運用につい
ての指針等に照らすと、当該文書が「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認め
られるもの」であるか否かの判断は、都民からみて客観的に合理性をもったもので
なければならず、関係当事者の主観的な関係のみを尊重した右の判断は、到底都民
を納得させ得るものではないから、控訴人の右主張を採用することはできない。
 なお、以上の考えによると、都議会が当該文書につき非開示の要望をしても、客
観的に右開示によって関係当事者間の信頼関係が損なわれるとは認め難い場合に
は、控訴人はこれを開示しなければならず、それによって都議会の要望は容れられ
なくなる事態も生ずるが、仮に都議会がそのことのゆえに控訴人に対しことさらに
非協力、対立の姿勢をとるなどすれば、そのような都議会の態度は、まさに本条例
の趣旨に反するものであり、その法的な責任はともかく、都議会がむしろ都民の厳
しい非難を受けることになる。」
3 同三九頁八行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 控訴人は、本件各文書の開示によって、都議会議員等の海外出張の旅費(金
額)及び出張先(旅行経路)が明らかとなるにとどまり、その海外出張の必要性を
根拠づける旅行命令簿等の原議が公開されない結果、都議会議員の出張についての
十分な情報が公開されないため、都民に対して当該海外出張についての誤解を与え
かねないのであり、もし、本件各文書の開示によって右の誤解が生じた場合、都議
会にとっては、この誤解を招来した原因は、控訴人が本件各文書を開示したことに
よるものであるとの考えに至ることが容易に想定され、その結果、控訴人と都議会
の信頼関係が損なわれる旨主張する。しかしながら、本条例に基づいて本件各文書
が開示されることによって都議会議員等の海外出張の旅費(金額)及び出張先(旅
行経路)が明らかとなるにとどまり、右海外出張に関するそれ以上の情報が開示さ
れることがないとしても、それは本条例の限界によるものであって、仮に右誤解を
与えかねない事態が生じるとしても、そのときは、むしろ都議会のこれに対する適
切な対応が求められるのであって、これをもって直ちに、本条例九条八号にいう
「関係当事者間の信頼関係が損なわれる」場合ということはできず、本件各文書を
非開示とすべき事由となるものではない。したがって、控訴人の右主張も採用する
ことができない。」
二 よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第一民事部
裁判長裁判官 河野信夫
裁判官 宮崎公男
裁判官 坂井満

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