弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 債権者らが債務者の組合員の地位にあることを仮に定める。
二 申請費用は債務者の負担とする。
       理   由
第一 当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
主文第一項同旨
二 申請の趣旨に対する答弁
債権者らの本件申請をいずれも却下する。
第二 当裁判所の判断
一 債務者は「日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下、「全金」とい
う。)が、個人加盟の全国単一組織であり、債務者はその下部組織として全金の一
構成部分にすぎないところ、債権者らは昭和六三年一月七日全金中央委員会から脱
退勧告の統制処分を受け、同年二月二三日全金大会によって右処分に対する抗告が
棄却されたことにより、全金の組合員資格を喪失し、これにより債務者の組合員と
しての地位も失ったものである。」旨主張し、
 債権者らは「債務者はそれ自体独立した労働組合であり全金は支部組合という名
称の企業別単位組合の連合体の性格を有するもので、全金の一構成部分にすぎない
ということはない。」と反論する。
二 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によると以下の事実を一応認めること
ができる。
1 債務者は、戦後間もなく、株式会社日本抵抗器製作所(以下、「日本抵抗器」
という。)の従業員らによって設立され、上部団体に加入することなく独自の活動
を行っていた労働組合であるが、昭和四五年ころ全金に加入し、昭和六〇年一二月
一八日債務者名義による法人登記を了したこと、
 債権者のうち、A、Bは有限会社福光製作所、(以下、「福光」という。)の従
業員、その余の債権者らは、日本抵抗器の従業員として債務者の組合員となったこ
と、
2 債権者らは、昭和六三年一月七日付け通知によって全金から脱退勧告等の統制
処分を受け、不服申立をして争ったが棄却され、右処分が確定したこと(ただし、
債権者らは別訴において右処分の効力を争っている。)、
3 債務者は、全金のなした右処分の確定により債権者らが債務者の組合員たる資
格も失ったとして、債権者らの組合員たる資格を否定していること、
 なお、債務者は日本抵抗器及び福光との間でユニオンショップ協定を締結してい
ること、
4 全金と債務者はそれぞれ別個の規約を有し、全金規約(以下、「規約」とい
う。)によると、全金は全金の綱領、規約に賛同する金属機械産業及びこれに関連
する労働者で構成され、工場、事業所に支部を置き、支部組織に関する事項につい
ては中央執行委員会が指示し、支部は独自の機関を有するものの全金の指示に従っ
て支部所属組合員の指導と統制を行い、規約の支部の規約に対する優越を認めるな
ど全金の支部が全金の一下部組織にすぎないと解し得る条項も存するが、他方、規
約中には、全金に加入するについて全金所定の加入申込をしたうえ、中央執行委員
会の承認を要するものとされ、全金の最高決議機関である全金大会は組合員の直接
無記名投票で選出された代議員と役員で構成するとされ、債権者らが当然に出席資
格を有するものではなく、全金の組合員たる地位と債務者の組合員たる地位とが異
なるものであることを示す条項も存在すること、
 債務者の規約(以下、「支部規約」という。)は、債務者は日本抵抗器、福光及
びその関連企業に働く労働者で組織され、資格の得喪について、全金とは異なる独
自の定めを有し、その運営機関として大会、評議委員会、執行委員会があり、上級
団体への加盟脱退及び上級団体への派遣役員、代議員の選出が大会付議事項である
ことをそれぞれ定め、会計についても全金とは別個の独立した財源により賄われる
べきことを、定めている。
三 そこでまず被保全権利について判断する。
 右認定の事実によれば、規約の中には債務者が全金の下部組織にすぎないと解し
得る条項の存在することは認められるけれども、債務者は戦後まもなく設立され、
昭和四五年ころ全金に加入するまでは独自の活動を行い、昭和六〇年一二月一八日
債務者名義の法人登記を経由した法人格を有する労働組合であり、構成員の範囲は
日本抵抗器、福光の二社及びこの関連企業の従業員に限られ、債務者自体としての
運営機関を備え、組合員の除名等構成員に対する独自の統制権を有すること、会計
も全金とは別個に処理されていることに加え、債務者と全金ではその組合員資格得
喪の要件が異っており、債務者組合員が全金に加入するためには、全金への加入申
し込みをしたうえ、全金執行委員会の承認を経る必要があり、債務者の組合員たる
資格と全金組合員たる資格とは必ずしも一致しないこと、さらには債務者の組合員
は当然には全金の最高決議機関である全金大会への出席権を有するものではないこ
となどを総合すれば、債務者の組合員たる地位と全金の組合員たる地位は別個のも
のであり、債権者らは全金及びその支部たる債務者それぞれの組合員たる地位にあ
ったものと解するのが相当である。
 むしろ支部規約一六条一二号は組合単位による上級団体からの脱退を想定し、規
約五八条は組合単位での全金への加盟を想定していることからすると、実質的にみ
れば債務者が組合単位で全金に加盟したものと解する余地もある。
 なお、全金の債権者らに対する統制権、規約の支部規約に対する優越も右判断を
左右するものではない。
 したがって、債権者らに対し、全金の統制処分がなされたのみである本件におい
ては債権者らは未だ債務者の組合員たる地位を失わないものであるから、債権者ら
は依然債務者の組合員たる地位を有するものであるというべきである。
 そこで、保全の必要性について判断する。
 前記認定のとおり、日本抵抗器及び福光の間の労働協約でユニオンショップ協定
が締結されているところからすると、債務者が債権者らの組合員資格を争っている
本件においては保全の必要性が存することは明らかである。
四 結論
 以上の次第で、債権者らの本件仮処分申請は理由があるから、事案の性質上保証
を立てさせないで認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文
のとおり決定する。
(裁判官 井筒宏成 林道春 丸地明子)

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