弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決中上告人の敗訴部分を取り消す。
     被上告人らの請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人安倍正三、同山岸長嘯の上告理由第五点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 上告代理人中村三次、同林晃司、同菊池政八、同西尾澄男、同宮岸富美雄の上告
理由第一点及び上告代理人安倍正三、同山岸長嘯の上告理由第四点について
 一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1(一) 富山警察署外勤課自動車警ら係巡査D、同E、同Fは、昭和五〇年五月
二九日午後一〇時五〇分頃、警ら用無線自動車(パトカー富山一一号。以下「本件
パトカー」という。)に乗車して富山市a町b丁目方面から同市d町b丁目c番方
面に向い北進して機動警ら中、富山警察署d警察官派出所前の交差点付近にさしか
かつた際、国道八号線(現国道四一号線)を高岡市方面から魚津市方面に向け走行
中のG運転の普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)が速度違反車であるこ
とを現認したので、直ちに約三八〇メートルの間追尾してその時速が同所の指定最
高速度時速四〇キロメートルを越える七八キロメートルであることを確認した。そ
こで、本件パトカーは、加害車両を停止させるため赤色灯を点灯しサイレンを吹鳴
して同車の追跡を開始した。
 (二) 加害車両は、時速約一〇〇キロメートルに加速して逃走し、同市ef番地
付近で停車したので、本件パトカーも同車の前方約二〇メートルの地点に斜めに同
車の進路を塞ぐように停止したが、その間に同車の車両番号を確認した。
 (三) F、E両巡査が本件パトカーから下車し、事情聴取のため加害車両に歩み
寄つたところ、同車は突如ユー・ターンして高岡市方面に向け時速一〇〇キロメー
トルで西進し逃走を開始した。右両巡査の乗車をまつて、D巡査は直ちに本件パト
カーの赤色灯をつけサイレンを吹鳴して再び追跡を開始し、同時に富山県警察本部
通信司令室を介して県内各署に加害車両の車両番号、車種、車色、逃走方向等の無
線手配を行つた。そして、本件パトカーは、加害車両との車間距離約二〇メートル
ないし五〇メートル、時速約一〇〇キロメートルで追跡を続行したが、途中ユー・
ターン地点から約九五〇メートル西進したH株式会社前付近で「交通機動隊が検問
開始」との無線交信を傍受した。ユー・ターン地点から同市g町交差点までの国道
八号線は、東西に延びる延長約二キロメートルの四車線であるところ、加害車両は、
右区間は時速一〇〇キロメートルで逃走を続けたが、その間途中トラツク一台を反
対車線にはみ出して追い越し、当時同区間に設置されていたh町、i町、j町の各
交差点の信号機のうち、少なくとも一か所は赤信号を無視して走行した。
 (四) 加害車両は、g町交差点にさしかかるや、同所の左折車線及び直進車線に
は先行車が信号待ちのため停車していたのに、減速しつつ右折車線から大回りで、
赤信号を無視して左折逃走し、本件パトカーも同様の方法で左折し追跡を継続した。
左折後本件事故現場に至る道路は、g町交差点からほぼ南北に延びる約一・七キロ
メートルの通称k通りという市道であつて、l町交差点までは四車線、その後は二
車線で歩道を含む道路の幅員が約一二メートルであり、最高速度は時速四〇キロメ
ートルに指定され、道路両側には商店や民家が立ち並び、また、交差する道路も多
いという状況であつた。加害車両を運転するGは、g町交差点を左折後時速約九〇
キロメートルに加速して逃走したが、m町交差点付近で自車後方視界に本件パトカ
ーが入らなくなつたので、同車を振り切つたものと考えて一たん時速を七〇キロメ
ートルに減速した。本件パトカーは、g町交差点の左折の辺りでは加害車両との距
離が開いたが、左折後時速約八〇キロメートルに加速して追跡を続行したため、加
害車両との車間距離を縮め、また、D巡査は、左折直後加害車両の逃走方向を無線
で手配した。
 (五) ところが、Gは、右減速後しばらくして後方に本件パトカーの赤色灯を認
め、追跡が続行されていることに気付き、再び時速約一〇〇キロメートルに加速し
て進行し、n町交差点の黄色点滅信号、l町及びo町b丁目の各交差点の赤色点滅
信号を無視して進行したが、本件パトカーは、l町交差点からは道路が片道一車線
になつているうえ前方のo町b丁目交差点から道路が右にカーブしていて加害車両
が見えなくなつたため、赤色灯は点灯したまま、サイレンの吹鳴を中止し、減速し
て進行した。
 2 Gは、赤信号を無視して富山市o町p丁目q番q号地先交差点に加害車両を
進入させたため、同日午後一〇時五七分頃、同交差点内において、同交差点を同市
s町方面から同市t方面に向つて青信号に従い進行中のI運転の普通乗用自動車に
加害車両を衝突させ、そのため、右I運転の普通乗用自動車が折から同交差点をt
方面からs町方面に向い青信号に従つて進行してきた被上告人B1運転、同B2及
び同B3同乗の普通乗用自動車に激突して、被上告人B2は顔面挫傷等の、同B1
は骨盤骨折等の、同B3は大腿骨骨折等の各傷害を負つた(以下「本件事故」とい
う。)。
 3 以上の事実関係のもとにおいて、被上告人らは、上告人に対し、上告人の警
察官の追跡が違法であつたとして、国家賠償法一条一項に基づき、本件事故による
損害賠償を求めたものである。
 二 原審は(一) パトカー乗務の警察官としては、交通法規違反者の追跡に当た
つては、追跡行為により被追跡車両が暴走するなどして交通事故をひき起こす具体
的危険があり、かつ、これを予見できる場合には、追跡行為を中止するなどして交
通事故を未然に防止すべき注意義務があるところ、(二) 本件においては、加害車
両の運転速度及び逃走態様、道路交通状況に照らすと、本件パトカーが追跡を続行
したならば、加害車両の暴走により通過する道路付近の一般人の生命、身体等に重
大な損害を生ぜしめる具体的危険が存し、また、D巡査らも右危険を予見できたも
のというべきであり、しかも、追跡を続行しなくても交通検問その他の捜査により
これを検挙することも十分可能であつたから、D巡査らとしては、追跡を中止する
などの措置をとつて第三者の損害の発生を防止すべき注意義務があつたのに、これ
を怠り、高速度かつ至近距離で追跡を続行するという過失を犯したものであり、(
三) 右追跡行為は、第三者の生命、身体に対し危害を加える可能性が高く、他の
取締方法が考えられるから、被上告人らに負わせた傷害の重大性に鑑み、被上告人
らに対する関係では違法性を阻却されないと判断して、被上告人らの各請求の一部
を認容した。
 三 しかしながら、およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に
判断してなんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて
質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職
責を負うものであつて(警察法二条、六五条、警察官職務執行法二条一項)、右職
責を遂行する目的のために被疑者を追跡することはもとよりなしうるところである
から、警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパト
カーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被つた場合
において、右追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行
する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測
される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しく
は追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。
 以上の見地に立つて本件をみると、原審の確定した前記事実によれば、(一) G
は、速度違反行為を犯したのみならす、警察官の指示により一たん停止しながら、
突如として高速度で逃走を企てたものであつて、いわゆる挙動不審者として速度違
反行為のほかに他のなんらかの犯罪に関係があるものと判断しうる状況にあつたの
であるから、本件パトカーに乗務する警察官は、Gを現行犯人として検挙ないし逮
捕するほか挙動不審者に対する職務質問をする必要もあつたということができると
ころ、右警察官は逃走車両の車両番号は確認したうえ、県内各署に加害車両の車両
番号、特徴、逃走方向等の無線手配を行い、追跡途中で「交通機動隊が検問開始」
との無線交信を傍受したが、同車両の運転者の氏名等は確認できておらず、無線手
配や検問があつても、逃走する車両に対しては究極的には追跡が必要になることを
否定することができないから、当時本件パトカーが加害車両を追跡する必要があつ
たものというべきであり、(二) また、本件パトカーが加害車両を追跡していた道
路は、その両側に商店や民家が立ち並んでいるうえ、交差する道路も多いものの、
その他に格別危険な道路交通状況はなく、u交差点からl町交差点までは四車線、
その後は二車線で歩道を含めた道路の幅員が約一二メートル程度の市道であり、事
故発生の時刻が午後一一時頃であつたというのであるから、逃走車両の運転の前示
の態様等に照らしても、本件パトカーの乗務員において当時追跡による第三者の被
害発生の蓋然性のある具体的な危険性を予測しえたものということはできず、(三)
 更に、本件パトカーの前記追跡方法自体にも特に危険を伴うものはなかつたとい
うことができるから、右追跡行為が違法であるとすることはできないものというべ
きである。してみると、かかる状況のもとにおける本件パトカーの乗務員の追跡行
為に伴う具体的危険性及び右追跡行為の必要性の有無についての判断を誤り、右追
跡は違法であつたとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあり、右の違法
が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。そして、
右に説示したところによれば、前記確定事実のもとにおいては、被上告人らの請求
は理由がないことに帰するから、原判決を破棄し、被上告人らの各請求の一部を認
容した第一審判決中右請求認容にかかる上告人の敗訴部分を取り消したうえ、被上
告人の請求を棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    大   内   恒   夫

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