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平成14年(ヨ)第52号 産業廃棄物最終処分場建設差止等仮処分命令申立事件
              決         定
              主         文
        1 本件申立てをいずれも却下する。
        2 申立費用は債権者らの負担とする。
              事 実 及 び 理 由
第1 本件請求
   債務者は,別紙2「設置場所目録」(省略,以下同じ)記載の各土地におい
て,産業廃棄物最終処分
  場を建設,使用及び操業してはならない。
第2 事案
 1 前提事実(争いのない事実のほか,疎明資料により容易に認定できる事実)
  (1)当事者
   ア 債務者は,産業廃棄物の運搬収集業,産業廃棄物処理業などを営業目的
とする株式会社である。
   イ 債権者らは,千葉県海上郡海上町,同県銚子市,同県香取郡東庄町の1
市2町に居住している者
    である。
  (2)産業廃棄物処理施設設置計画
債務者は,千葉県海上郡海上町,同県銚子市,同県香取郡東庄町の1市2
町にまたがる別紙2「設
置場所目録」記載の各土地(以下「本件予定地」という。)において,別紙
3「本件処分場の概要」
記載の内容の管理型産業廃棄物最終処理施設(以下「本件処分場」とい
う。)を設置することを計画
しており,平成13年3月1日,千葉県知事より,別紙4「許可の条件」
(省略,以下同じ)記載の
条件付きで本件処分場の設置許可を得て,同年12月10日,建設工事に着
手した。
なお,本件処分場の建設工事は,本件仮処分命令の申立てがなされたこと
から,債務者において,
防災工事を除き一時中断している。
  (3)本件処分場の概要
   ア 本件処分場の基本的な設計思想は,重金属類,化学物質等の有害物質が
水に溶け込み水とともに
移動することから,産業廃棄物と接触した水(以下「浸出水」という。)
を処分場の外に漏らさな
い遮水システムを構築することによって,本件処分場に持ち込まれた産業
廃棄物により周辺環境
(河川,地下水等)が汚染されることを防止するというものである。
   イ 上記設計思想を受けて実際に設計された本件処分場施設の遮水システム
の概要は次のとおりであ
り(別紙3「本件処分場の概要」の5 施設概要参照),施設の複合的機
能により,遮水を目指す
    ものである。
     すなわち,本件処分場は,(ア)本件予定地に横たわる沢状(谷間)の地
形を利用し,谷底の地盤
    を約10メートル程度掘削して,その底部及び法面部(法面勾配1:1.
0)を二重の遮水シート
    及び難透水性の粘性土ライナー等で構成され,かつ,電気的漏水検知シス
テムを組み込んだ遮水工
    (シートに破損等の不具合が生じても,漏水検知システムの作動により早
期にこれを探知して補修
    することにより,遮水工の遮水性機能を維持する。)で覆い,これを産業
廃棄物の埋立区域とする
    とともに,(イ)遮水工が地下水によって浸食等されることがないよう,処
分場周辺には地下水集排
    水管を張り巡らせ,地下水を集めて排水することにより,地下水位を強制
的に下げて地下水が遮水
    工に接触するのを防止し,(ウ)遮水工内に張り巡らせた集水管によって浸
出水を集め,処分場が冠
    水して浸出水が遮水工によって包まれた埋立区域外に溢れ出ることを防止
し,他方,(エ)集めた浸
    出水を貯留槽で蓄え,順次,水処理設備で浄化し(以下,水処理設備によ
って浄化処理された水を
    「処理水」という。),更に,処理水を全て蒸発散装置等によって蒸発処
理するという構造であ
    る。そして,(オ)浸出水全量の浄化,蒸発処理を可能とするために,浸出
水の発生量を抑制する。
    具体的には,埋立区域の外周に沿って高さ1メートル以上(地中の深さ1
5メートル以上)のコン
    クリート製遮水壁及びこれに沿ってその外側に外周U字側溝を設置するこ
とにより,上記埋立区域
    外に降り注ぐ雨水が表層水となって埋立区域内に流入するのを防止すると
ともに,埋立区域内の法
    面部に階段状の小段を等間隔に4段形成し,各小段に設置される場内小段
側溝により,埋立区域内
    に降り注ぐ雨水のうち,法面部への降雨を産業廃棄物に接触させずに防災
調整池へと誘導して排水
    し,かつ,後述するとおりの埋立手順をとり,埋立作業を5000平方メ
ートル以下のブロックに
    細分化して行い,埋立区域内に降り注ぐ雨水のうち,埋立作業未着手部分
への降雨は廃棄物に接触
    させずに浸出水集排水管(雨水切替管)によって雨水排水室を経て防災調
整池へと誘導し,また,
    埋立が終了したブロックの上部を雨水遮水シートで一時的に覆い,このブ
ロックへの降雨を横断勾
    配により地下に浸透させずに側方へと流し,法面部の小段側溝によって廃
棄物に接触させずに防災
    調整池へと誘導するなどの措置により,浸出水の発生する面積を常時50
00平方メートル以下に
    限定するというものである。
   ウ なお,本件埋立区域全ての埋立完了後は,最終覆土として,砂と礫等の
天然素材を用いたキャピ
    ラリーバリアー型覆土をするとともに,地表面に樹木等を植栽することが
計画されている。
(4)本件処分場の埋立手順の概要
 本件処分場における廃棄物の埋立処理は,ア 本件埋立区域を2つの工区
に分け,まず,第1工区
を,底部から順次,埋立作業を行うブロックと他の部分とを区分する仕切土
堰堤(各ブロックは50
00平方メートル以下)を築造しながら,1ブロックずつ埋立てを行い,1
層目の埋立が終わると,
上層階の埋立てをするということを繰り返した後,第2工区を底部から上記
同様に埋め立てること,
イ 1つのブロックの埋立てが終了すると,中間覆土をした後,その上部を
雨水遮水シ-トで一時的
に覆い,埋立てが終了したブロックの上層部分の埋立作業に移行する場合に
は,上記のとおり敷設し
た雨水遮水シ-トを新たな仕切土堰堤の築造後に除去して,その上に廃棄物
を埋立処理し,更に当該
ブロックの埋立てが終了すると,その上部を雨水遮水シ-トで一時的に覆う
こと,以上の手順を繰り
返して実施する計画である。
  (5)産業廃棄物の有害性
 本件処分場に搬入が予定されている産業廃棄物には,以下のとおり,人体
に有害な物質が含まれて
いる。なお,これら有害物質が水に溶ける程度に差があるにしても,溶解す
ること自体については,
債務者も特に争わない。
   ア 煤じん(焼却煤,飛煤)
 煤じんには,ダイオキシン類(ダイオキシン,ダイベンゾフラン,コプ
ラナ-PCBの総称)が
含まれるところ,ダイオキシン類は,急性毒性,発ガン性,生殖毒性等を
有している。
   イ 廃プラスチック類
 廃プラスチック類には,フタル酸化合物(プラスチックに添加される可
塑剤として汎用されてい
る。)が含まれるところ,フタル酸化合物には,発ガン性があるほか,生
殖,発生毒性,免疫毒性
等がある。また,廃プラスチック類には,活性剤や安定剤として用いられ
るノニルフェノール,ビ
スフェノールAが含まれ,これら物質は発ガン性を有している。プラスチ
ックにはカドミウムや鉛
が安定剤として,シアンが添加剤の原料としてそれぞれ使用されており,
人体に中毒症状を引き起
こす。
   ウ 金属くず
 金属くずには,鉄,銅が多く含まれるところ,これらも一定限度を超え
て摂取されると人体に中
毒症状を引き起こす。また,金属くずには,カドミウム,鉛,合金に添加
されるヒ素,水銀,シア
ンが含まれており,これらは人体に中毒症状を引き起こす。また,ニッケ
ルは,肺ガンの原因とな
る。
   エ がれき類,木くず,紙くず
 がれき類,木くずは主として建築廃材であるところ,鉄などの金属や,
塩化ビニール製品等が使
用されているから,金属くず,廃プラスチック類と同様の有害物質が含ま
れている。また,建築廃
材には,シロアリ駆除剤や防腐剤等に使用されるヒ素が付着していること
が多い。
 2 争点の概要
  (1)債権者らは,本件予定地に本件処分場が建設され,その使用,操業が開始
されると,本件予定地内
に大量の産業廃棄物が持ち込まれることから,産業廃棄物の搬入のためのト
ラック等により,交通事
故という急迫の危険に曝されるほか,産業廃棄物に含まれる有害物質が,大
気,河川,地下水等の周
辺環境を汚染して拡散し,債権者らが生活し,又は農業を営む地域に到達す
ることにより,債権者ら
の生命,身体(健康)を害し,債権者らに回復困難な著しい損害を及ぼす等
と主張して,何人も生
命,身体(健康)を害されず,平穏な生活を侵害されないという人格権に基
づき,上記急迫な危険及
び著しい損害の発生を避けるために,本件処分場の建設,操業等の差止めを
求めている。
    そして,債権者らは,本件処分場の安全性は債務者において主張,立証す
べきである旨主張すると
ともに,本件処分場の遮水システムには様々な問題がある旨指摘し,かつ,
埋立完了後の本件処分場
の維持管理体制の不十分及び本件事業計画の経済的基盤の脆弱性を強調す
る。
  (2)他方,債務者は,本件処分場の建設,操業等にあたっては,十分な安全管
理及び最先端の技術を採
用した極めて信頼性の高い環境汚染対策等を講じるから,埋立期間中はもち
ろん,埋立完了後,処分
場閉鎖後においても,産業廃棄物に含まれる重金属や化学物質等の有害物質
が処分場外に漏れ出す危
険性は一切ないため,本件予定地周辺の環境を汚染することはなく,したが
って,有害物質が債権者
らの生活圏等に到達することも,債権者らの生命,身体(健康)を害するこ
ともない等と主張すると
ともに,本件埋立事業の採算性等を根拠に,上記万全の対策を講じるための
経済的裏付けも確保され
ている旨主張する。
 (3)双方当事者の主張の要旨は上記のとおりであって,本件の争点は,ア 本
件処分場の建設,使用及
び操業による債権者らの人格権侵害の具体的可能性の有無,すなわち,(ア)
交通事故による危険の存
否のほか,(イ)本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物に含まれる有害物質が
本件処分場から流出し,
本件予定地周辺の大気,河川,地下水等の環境を汚染するか,仮に本件処分
場から有害物質が流出し
た場合,大気,河川,地下水等を経由して,実際に債権者らの元に到達する
ことがあるか,(ウ)債務
者に本件事業計画を遂行するに足りる経済的基盤があるか,イ 保全の必要
性の存否である。
 3 主要な争点に関する当事者の主張
  (1)交通事故の危険性について
   ア 債権者らの主張
 本件処分場の操業が開始されると,産業廃棄物を搬入する大型車両が,
センターラインもなく,
幅員4ないし5メートル程度の狭い地域の県道,町道を1日に48台余り
往復する状況になるた
め,これら道路を通学または生活のために利用しているEグループの債権
者ら(別紙1「債権者目
録」(省略,以下同じ)グループ欄中「E」と記載されている者,すなわ
ち,全債権者。以下,同
目録グループ欄の記載により,債権者らを,A,B,C,D,Eの5つの
グループに分けて呼称す
る。)は,交通事故の危険にさらされ,平穏な生活を営む権利を侵害され
る。
   イ 債務者の反論
 本件処分場の建設,操業等によって,交通量が増加することになるから
といって,直ちに,許容
し難い危険が生じるとはいえない。
(2)大気汚染の可能性について
   ア 債権者らの主張
(ア)大気汚染の可能性
 本件予定地に産業廃棄物を搬入するトラックから,産業廃棄物が落下
することにより,日常的
に大量の有害物質が周辺地域に飛散することになるし,産業廃棄物の積
み降ろしや埋立作業の際
などには,特に,焼却煤に多量に含まれているダイオキシン類が本件予
定地の周辺地域に飛散す
る。また,埋立後も,覆土が風雨によって剥がされ,産業廃棄物が地表
にあらわれる事態となる
ことから,焼却煤等が風に乗って地上に飛散し,いずれにしても大気が
汚染される。
    (イ)被害発生の可能性 
 Eグループの債権者ら(全債権者)は,本件予定地の周辺において,
居住し又は農業に従事し
ている者であって,有害物質によって汚染された大気を日々吸入するこ
とになり,自己の生命,
身体(健康)を害される危険性が高い。
   イ 債務者の反論
    (ア)大気汚染が生じないこと
 産業廃棄物を運搬する車両には,有蓋車を使用し,あるいは産業廃棄
物を積載した荷台をシー
トで覆うとともに,飛散し易い煤じん等は,予め,加湿,固化を行うほ
か,積み降ろしや埋立作
業の際には,散水や覆いをする等の飛散防止の措置をとる予定であるか
ら,大気中に有害物質が
飛散,拡散することはなく,本件予定地に持ち込まれる産業廃棄物によ
って大気が汚染されるこ
とはない。
    (イ)被害発生の可能性がないこと
 煤じんのうち,ダイオキシン類が特に多く含まれる飛煤については,
特別管理処分場において
処理されることが法定されており,本件処分場の受入品目ではないか
ら,債務者が本件処分場に
受け入れることはないし,煤じんのうち,焼却煤については,発生元で
ある焼却炉の機能と管理
が十分になされている事業者からのみ受け入れる。つまり,焼却炉が連
続して800度を超える
温度で焼却するとダイオキシンは発生しないところ,受入先は,このよ
うな管理がされている焼
却炉のみに限定するから,本件予定地に持ち込まれる焼却煤にダイオキ
シン類が含まる可能性が
あるとしても,微量であり,万一大気中にダイオキシン類が飛散し,債
権者らの生活圏に到達す
るとしても,大気中で希釈されることをも考慮すれば,債権者らの健康
を害することはない。
  (3)河川汚染について
 ア債権者らの主張
    (ア)河川汚染の可能性
 豪雨などの際には,浸出水の浄化処理及び処理水の蒸発処理の能力が
追いつかなくなり,処分
場内に浸出水が貯留された挙げ句,浸出水が場外に溢れ,表層水となっ
て地上を伝わり,本件予
定地付近を水源地とする忍川等の河川に流入してこれを汚染する。
 また,浸出水処理設備の能力は不十分であり,有害物質を完全に除去
することはできないか
ら,蒸発処理能力が追いつかない場合,有害物質が残存した処理水が放
流されることになり,忍
川等の河川を汚染する。 
    (イ)被害発生の可能性
 Cグループの債権者らは,忍川その他の河川を農業用水に利用してい
るから,上記のとおり汚
染された河川水を使用した農作物の販売ができなくなり(風評被害も深
刻である。),生活の基
盤である収入源を奪われる上,自ら作った農作物を家庭内において食用
することから,自己の生
命,身体(健康)を害される危険性が高い。
 Dグループの債権者らは,銚子市水道事業団が供給する水道水を使用
しているところ,同事業
団が忍川を将来水道水源とすることを予定しているから,上記のとおり
汚染された忍川を水源と
する水道水の供給を受けた場合,自己の生命,身体(健康)を害される
危険性が高い。
   イ 債務者の主張
    (ア)河川汚染が生じないこと
 浸出水の処理施設及び処理水の蒸発散装置については,過去20年間
の降雨データ等をもとに
余力をもたせて設計しているから,処理能力は十分である。浸出水を浄
化処理するまでの間,浸
出水をためておく貯留槽及び処理水を蒸発処理するまでの間,処理水を
ためておく貯留槽の各容
量についても,十分余裕をもたせて設計しているから,処分場内に浸出
水が24時間以上滞留す
ることはなく,本件処分場が冠水する可能性は全くない。
    (イ)被害発生の可能性がないこと
 松ヶ谷地区には,利根川から農業用水が引かれているが,Cグループ
の債権者らは,忍川の河
川水を農業用水として利用しているという農地を特定していないから,
同グループの債権者らの
耕作する農地に忍川の河川水が到達する可能性を認めることはできな
い。
 また,忍川は,水質の悪化により10年以上前から法的に水道水源で
はなく,将来において
も,水道水源になる可能性はないから,Dグループの債権者らが,将
来,忍川を水道水源とする
水道を利用する可能性はおよそない。
  (4)地下水汚染について
   ア 債権者らの主張
    (ア)地下水汚染の可能性
      産業廃棄物が本件予定地に搬入されると,埋立処理の過程及び埋立後
も永久に雨水等と接触す
     るから,産業廃棄物に含まれているダイオキシン類,鉛及びカドミウム
等の重金属類等の有害物
     質がいずれも水に溶け出し,浸出水となって本件予定地外に漏れ出し
て,本件予定地を包み込む
     ように存在している透水性の高い地層の中で地下水に混入し,地下水を
汚染する。
    (イ)被害発生の可能性
      本件予定地を包むように存在する上記透水性の高い地層は,A,Bグ
ループの債権者らの多く
     が居住し又は耕作する農地が所在する地域全体をも包み込んでおり,処
分場周辺の地下水とこれ
     ら地域の地下水は一体の関係にあるから,汚染された地下水が,A,B
グループの債権者らが使
     用している井戸に到達することになる。
      したがって,生活用水及び飲料水を井戸水に依存しているAグループ
の債権者らは,汚染され
     た井戸水の摂取により,生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
また,農業用水として地
     下水を使用しているBグループの債権者らは,Dグループの債権者らと
同様に,収入源を奪われ
     るとともに,自己の生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
      なお,債務者は,本件処分場西側において行った地下水位測定の結
果,A,Bグループの債権
     者らの多くが居住し又は耕作する農地が所在する松ヶ谷地区側の地点に
おける測定値が,同測定
     地点より東側(本件処分場側)に位置する地点における測定値より高か
ったことを根拠にして,
     本件処分場と債権者らの多くが居住し又は農業に従事している松ヶ谷地
区との間には,地下水の
     分水嶺が存在する旨主張するのであるが,そのような測定の結果は部分
的な難透水層の上にある
     地下水溜まり(宙水)の存在により矛盾なく説明できる程度のものであ
り,分水嶺の存在を証す
     る理由にはなり得ない。
   イ 債務者の主張
    (ア)地下水汚染が生じないこと
 本件処分場の埋立期間中はもちろん,埋立完了後も処分場閉鎖までの
間(事業計画上,少なく
とも10年間を予定)は,遮水システムを維持し,浸出水及び地下水等
の処理を続けるととも
に,漏水検知システムの機能を保持して,徹底した安全管理を実施する
から,本件処分場内で産
業廃棄物に接触した浸出水が本件処分場外に流出する可能性は一切な
い。
 また,積極的に散水や送風を施し,本件処分場を空気と水が循環する
準好気性の環境に置くこ
とにより,産業廃棄物に含まれる有害物質の安定化を促進し,浸出水の
水質を遅くとも10年以
内には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃掃法」とい
う。)に定められている最
終処分場の廃止時における都道府県知事の確認制度における基準(共同
命令により,ガスの発生
量の増加が2年以上認められないこと,浸出水の水質が2年以上排水基
準に適合していることな
ど,具体的な基準が示されている。)を充たす状態となるよう対策を講
じるほか,埋立完了後の
最終覆土には半永久的な機能を有するキャピラリーバリアー型覆土を採
用することにより,処分
場の閉鎖後に浸出水が発生しないようにする計画である。つまり,水処
理システム等の維持管理
を止める処分場閉鎖後においては,キャピラリーバリアー型覆土の効果
により浸出水が発生しな
いから,浸出水が本件処分場外に流出することはないし,万一流出する
ことがあっても,有害物
質は排水基準を充たす状態にまで十分に安定化しており,人体を害する
ほどの有害性はなくなっ
ている。
    (イ)被害発生の可能性がないこと
     a 水道への切り替えの必要性及び容易性
  Aグループの債権者らの多くが居住している松ヶ谷地区の地下水
は,周辺住民の社会生活
 (農業,畜産業)によって既に飲料には適さない状態にまで汚染され
ている上,松ヶ谷地区に
 は既に水道が引かれており,多くの住民が水道を利用している状況に
あって,水道への切り替
 えが容易なのであるから,同債権者らは,地下水を利用する必要性は
ないし,利用すべきでは
 ない。同債権者らが既に汚染されている地下水の利用を止めさえすれ
ば,本件処分場に持ち込
 まれる産業廃棄物の影響により,債権者らの生命,身体(健康)が害
される可能性などもとよ
 り考える余地はないのである。
b 本件予定地から松ヶ谷地区に向かう地下水の流れがないこと
  A,Bグループの債権者らの多くが居住し又は農業に従事している
と主張する松ヶ谷地区は
 本件予定地の西側に位置しているところ,本件予定地の西側約150
メートル付近からは,東
 側(松ヶ谷地区とは反対側)に向かって地下水位が低下しているか
ら,地下水は,本件処分場
 に向かって流れていることが明らかである。つまり,本件予定地と松
ヶ谷地区の間には,地下
 水位の最も高い部分があることが確認されており,これが地下水のい
わゆる分水嶺となってい
 る。
  したがって,本件予定地を通過した地下水が重力に反して松ヶ谷地
区に向かって流れていく
 ことはあり得ないし,万一浸出水が処分場外に漏れ出し,周辺の地下
水を汚染することがあっ
 たとしても,汚染された地下水が松ヶ谷地区に所在する井戸に到達す
ることなどない。
  (5)本件処分場施設の安全性・信頼性について
   ア 債権者らの主張
 本件処分場の事業計画には,次のとおりの問題点が存在しており,有害
物質が浸出水とともに処
分場外に流出することは明らかである。
    (ア)遮水工関係
     a 粘性土ライナーについて
  粘性土ライナーは地下水(湧水)によって容易に洗い流されるほ
か,酸又はアルカリによっ
 て溶解するから,粘土層中の空隙が増加して透水性が増大し,遮水機
能を喪失する。また,粘
 性土ライナーに混合されるベントナイトは水に触れると膨潤するか
ら,水に接触する部分と接
 触しない部分が生じることにより,粘性土層の間に空隙や亀裂を生じ
るし,水にほとんど触れ
 ない部分については乾燥によって亀裂が生じ,遮水機能を失う。
     b 遮水シートについて
 遮水シートは早期に破損するか,シートの接合部分が剥離して遮水
性機能を失う可能性が高
い。すなわち,遮水シートは,現段階では10年程度の耐久性しかな
い上,埋立作業中は重
機,産業廃棄物等との接触により,埋立後は自然状態における熱,圧
力,湿度,紫外線,流出
した可塑剤,産業廃棄物や埋立場所に存在する様々な化学物質による
化学的作用,生物的作用
等に曝されることにより,破損する。また,遮水工の支持地盤が不等
沈下を起こし,遮水シー
トを破損する可能性があるほか,上記の様々な要因が複合的に作用
し,破損を招く。
 遮水シートは,遮水性はあっても,ある種の有害物質を通すから,
地下水汚染の防止には効
果がない。
     c 漏水検知システムについて
  漏水検知システムが作動した時点では,漏水が発生しているのであ
るから,既に有害物質が
 浸出水とともに処分場外に漏れ出し,地下水を汚染していることにな
る。広大な処分場に敷設
 された遮水シートのどの部分が破損したのかを正確に特定することが
できるかは甚だ疑問であ
 る上,特定できたとしても,産業廃棄物が埋め立てられた後に遮水シ
ートの破損を修復するこ
 とは到底不可能である。結局,漏水検知システムは,地下水汚染の防
止には効果がない。
  また,漏水検知システムが故障したり,システムの劣化により機能
を十分に発揮することが
 できない状況もあり得る。
    (イ)水処理システム関係
     a 浸出水処理施設について
 浸出水処理施設の設計の前提となった降雨量の設定に誤りがあるほ
か,浸出係数(降雨量と
天然蒸発の割合)も低めに算定されているから,本件処分場に溜まる
浸出水全量を処理するこ
とはできない。
 なお,浸出水処理施設により,ダイオキシン類,フタル酸,重金属
類等を完全に除去するこ
とは不可能であるし,そもそも,施設設計の前提とされた原水(浸出
水)の水質設定に誤りが
あるから,その浄化性能はあてにならない。
     b 蒸発散装置について
 蒸発散装置は,設計の前提とされた水収支に誤りがある上,浸出水
処理設備の処理能力が日
量20立方メートルであるのに対し,蒸発散装置の処理能力は日量1
5立方メートルしかな
く,処理水全量を蒸発処理する能力がない。蒸発散装置が目詰まりを
起して機能しなくなるお
それもある。
 また,債務者の事業計画上,蒸発処理に必要な経費が確保されてい
ないから,処理水全量を
蒸発処理することはできない。
  (ウ)施設の施工及び維持管理体制関係
   本件処分場施設の設備等の施工及び維持管理にミスがあれば,いかな
る設備も役に立たないこ
  とになるが,過去の事故事例からも明らかなように,施工及び維持管理
等にミスがないことなど
  あり得ないから,本件処分場が環境汚染を招かないとは到底いえない。
    (エ)キャピラリーバリアー型覆土関係
 債務者は,本件処分場の埋立作業が完了し,処分場を閉鎖した後の維
持管理については,キャ
ピラリーバリアー型覆土をもって処分場内への雨水の浸透を防ぐ旨強調
するのであるが,完全に
雨水の浸透を防ぐことなどできるはずもないから,遮水シートが破損し
ない場合には,歳月の経
過により,いずれは処分場内に浸出水が溢れ,表層水となって河川に混
ざり,又は地下に浸透し
て地下水に混入することになる。
 また,本件処分場を準好気性の環境状態とすることにより有害物質の
安定化を図ることができ
る旨をも強調するが,現代のゴミは,生ゴミ主体の時代とは異なり,ダ
イオキシン類,重金属類
等の他,未知の様々な物質が含まれているのであって,時が経っても無
害化ないし安定化するこ
とはない。本件予定地に持ち込まれた産業廃棄物の有害性が喪失し,無
害化したことを確認した
上で管理を打ち切るというのであれば格別,そのような説明はなく,債
務者は,埋立完了後の維
持管理期間を10年と想定して,10年分の維持管理費用の積み立てを
するとの説明に終始して
いる。
イ 債務者の主張
(ア)遮水工関係
a 粘性土ライナーについて
  本件処分場においては,前記第2の1(3)説示のとおり,地下水の
排水処理を行うから,遮
 水工に地下水が接触することはなく,地下水によって粘性土ライナー
が流出することはない。
 また,ベントナイトが酸やアルカリの影響を受けるのは,ベントナイ
トそのものの膨潤性に依
 存して遮水性を発揮するいわゆるジオセンティックライナーについて
であるところ,本件処分
 場で使用する粘性土ライナーは,難透水性の現地で採取される土にベ
ントナイトを混合して作
 出される別種のものであるから,酸又はアルカリによって粘性土ライ
ナーが遮水機能を失うと
 の債権者らの批判はあたらない上,受入審査等の管理を徹底すること
により,強酸や強アルカ
 リが本件処分場に持ち込まれることを防止することを予定している。
  乾燥によるひび割れの懸念についても,粘性土ライナーの敷設の際
に水分に十分配慮して施
 工することができる上,遮水工の最下部として地中に埋め込まれる粘
性土ライナーが,全くの
 乾燥状態となることなどあり得ない。
b 遮水シートについて 
  本件処分場で使用する遮水シートは,紫外線等に対する耐性を十分
有するものであり,その
 耐久性が10年程度という根拠は全くなく,考えられるあらゆる破損
原因に対する防止対策を
 徹底して実施する計画であるから,遮水シートが破損する可能性は極
めて低い上,仮に破損し
 ても,十分な検査体制及び漏水検知システムにより早期に発見できる
から,これを補修するこ
 とによって,シートの遮水性能を維持することができる。
  また,遮水シ-トが有害物質を透過する旨の債権者らの主張は,特
殊な条件下の実験結果を
 基にしているのであって,本件処分場において,そのような条件を充
たすことはおよそないか
 ら,債権者らの懸念はあたらない。
     c 漏水検知システムについて
       漏水検知システムは,二重の遮水シート及び粘性土ライナーを挟み
込むように電流源電線を
      配するとともに,二重のシートの間にリード線(抵抗線)を配し,遮
水シートが絶縁物質であ
      ることを利用して,シートの破損等により絶縁性が損なわれて電流が
流れる原理をもって検知
      するというシステムであるから,仮に腐食等により一部の線が機能し
なくなる事態があるとし
      ても,これを補完することは,技術的に十分可能である。
    (イ)水処理システム関係
  浸出水処理設備の有害物質除去性能については問題はないし,処理能
力並びに浸出水貯留槽及
 び処理水貯留槽の容量についても,厚生省水道環境部監修「廃棄物最終
処分場指針解説」(社団
 法人全国都市清掃会議)に準じ,過去20年間(1976年~1995
年)の銚子気象台観測の
 降水量データを基礎としながらも,本件処分場より数値が高くなる東京
の浸出係数を用いて,よ
 り安全性に配慮するように設計されているのであって,十分な能力を有
している。
  なお,蒸発散装置の処理能力については,計画散水,強制蒸発装置の
運転により補完される部
 分がある。
    (ウ)施設の施工及び維持管理体制関係
      遮水工の施工については,各層毎に千葉県の確認検査を受けることが
設置許可の条件となって
     いること,処分場施設の完成後は,千葉県による使用前検査を受け,こ
れに適合すると認められ
     た後でなければ営業許可を受けることができないこと等によって,本件
処分場施設が適切に施工
     されることについては担保されている上,施設の維持,運転管理につい
ては,本件処分場の設
     計,施工を担当しているX株式会社に業務委託する等の方法をもって,
徹底することが予定され
     ている。
    (エ)キャピラリーバリア-型覆土関係
  キャピラリーバリア-型覆土が雨水浸透抑制効果を有し,かつ,有害
物質の安定化に資する準
 好気性の環境を維持するのに有効であることは,多くの研究によって実
証され,放射性廃棄物処
 理場において実用化されている上,その素材が半永久的に変質しない天
然の土,石等であること
 から,長期的安定性を十分に有している。
  (6)事業計画遂行能力(経済的基盤)について
 ア 債権者らの主張
    (ア)債務者には,合計24億0500万円もの簿外債務があるところ,債
務者は,現在本件処分場
     の設置事業を行っているのみで収入がないのであるから,上記債務の利
息等をも考慮すると,本
     件処分場の操業開始時点においては,さらに巨額の債務を負担している
状況となることは必至で
     あり,債務者が主張する金融機関からの事業資金の借入れが仮に実現で
きたとしても,上記債務
     の弁済にあてられるなどして資金が尽きる可能性が極めて高く,結局
は,計画どおりの施設を建
     設することができず,不完全な施設が出来上がることとなる可能性が極
めて高い。
    (イ)また,債務者の主張する本件処分場事業の収支計算は何度も訂正され
ている点でそもそも信用
     できない上,仮に本件処分場事業によって一定の利益を上げることがで
きたとしても,上記負債
     の状況に鑑みれば,処分場事業による利益の大半は上記負債の返済にあ
てられることになるか
     ら,債務者は,施設の維持管理及び環境汚染対策等の安全管理等のため
に必要な費用を捻出する
     ことができず,結局は,適正な施設の維持管理及び環境汚染対策等の安
全管理を実行することが
     できなくなる可能性が極めて高い。
    (ウ)しかも,本件予定地に設定されている抵当権等の担保権に係る被担保
債権の合計額は57億円
     を超えるまでに至っているところ,当該被担保債権の主債務者が債務の
履行をしない場合には,
     債務者においてこれを肩代わりせざるを得ない事態も予想され,埋立完
了後の維持管理に必要と
     される管理費用を内部留保することもできず,本件処分場は,埋立完了
後,何の維持管理も行わ
     れないままに放置されることとなる。
   イ 債務者の主張
     債務者は,現時点において,合計約22億円の債務を負担しているのみ
であり,これらは,主と
    して工事費及び本件予定地の買収費等である。
     本件予定地には,債務者が土地の買収作業等を依頼したY株式会社が,
土地の買収過程等におい
    て,同社の都合により抵当権等を設定して資金調達を図っていたこと等か
ら,本件予定地には同社
    等を債務者とする多額の担保権が設定されているが,これらはいずれも物
上保証にとどまってお
    り,連帯保証債務を負担しているものはない上,同社との間で,債務者が
本件処分場の営業許可を
    受けるまでに上記各種担保権を抹消することが合意されている。しかし,
債務者としては,事業計
    画の確実な実現のため,最悪の場合には上記担保権の抹消費用等を負担す
ることもあり得ることを
    想定した上で,必要な総事業費を99億2000万円とする事業計画及び
キャッシュフローを作成
    したが,現時点までに負担している工事費等の負債返済資金,施設の施工
及び維持管理費並びに埋
    立事業に関する安全管理等の費用や不測の事態に対応できるようにするた
めの保険加入に要する費
    用のほか,埋立完了後処分場閉鎖までの間に必要な維持管理費(積立金)
等を十分に確保した上
    で,採算のとれる事業計画となっており,債権者らの批判はあたらない。
 4 保全の必要性
 (1)債権者らの主張
 本件処分場が建設され,使用,操業が開始されると,本件予定地に有害物
質を含む産業廃棄物が次
々と埋め立てられることになるが,一度埋め立てられた産業廃棄物を後日除
去することは,経済的・
物理的におよそ不可能である上,有害物質が流出した場合には,生命,身体
(健康)に深刻な被害を
及ぼすことになるが,これを後日において回復することもまた困難であるか
ら,本案訴訟による審理
・判断を待つ時間的余裕はない。
 よって,債権者らには,有害物質を含んだ産業廃棄物の本件予定地への持
ち込みの原因となる本件
処分場の建設,使用及び操業自体を,事前に差し止める必要性がある。
  (2)債務者の主張
 本件処分場の建設すらなされていない現時点において,処分場の建設,使
用及び操業を差し止めな
ければならないような差し迫った必要性はない。
第3 当裁判所の判断
 1 差止要件と立証責任について  
  (1)高度に発達した現代社会においては,社会生活を営む上で産業廃棄物が発
生することは避けられ
ず,産業廃棄物の減量化や再資源化の取り組みが進められているとはいえ,
産業廃棄物を全く出さな
い社会を構築するには相当の歳月を要するのであって,現時点においては,
本件処分場のような埋立
処理施設の社会的必要性を認めざるを得ず,また,廃棄物処理事業の必要性
についても,これを認め
ざるを得ない。
    他方,埋立処理施設が建設され,その操業が開始された場合には,持ち込
まれた産業廃棄物は地中
深くにとどまることになるから,廃棄物に含まれる有害物質が流出しない措
置が講じられない限り,
環境汚染を招き,周辺地域を生活圏とする住民らに対し健康被害を及ぼし続
ける事態となることが,
埋立処理施設の宿命である。そのため,埋立処理施設の操業等が開始された
後の事後的禁止措置で
は,人の生命・身体(健康)という最も尊重すべき権利を害する原因となる
環境汚染を阻止すること
ができない合理的根拠が認められる場合には,周辺住民らは,その生命,身
体(健康)を害されない
権利としての人格権に基づき,埋立処理施設の建設,操業自体を事前に差し
止めることができるもの
と解するのが相当である。
  (2)ところで,本件申立ては,債権者らの生命,身体(健康)を害される具体
的危険性があることを理
由として,本件処分場の建設,操業等の差止めを求めるものであるから,本
件処分場の建設,操業等
によって債権者らの生命,身体(健康)が害される具体的危険性があること
については,その合理的
根拠をもって,債権者らにおいて主張,立証するべきであり,環境汚染によ
る健康被害を理由とする
事前差止めの事案においては,ア 人体に有害な物質を特定した上,同物質
が処分場に搬入されるこ
と,イ 搬入された有害物質が処分場から外部に流出又は拡散すること,ウ
 流出・拡散した場合に
は,有害物質が債権者らの生活圏に達し,債権者らの体内に吸収される状態
が発生することを主張・
立証しなければならないのを原則とする。
    しかしながら,本件処分場については,設置者である債務者がその施設の
設計内容,構造等を最も
よく知り,多くの技術的・専門的資料を手中にしているのに対し,債権者ら
は周辺住民に過ぎず,施
設の設計・施工及び管理等の具体的内容を詳細に知り得る立場にはないこ
と,しかも,一度搬入され
た有害物質が流出した場合には,人の生命・健康という最も尊重すべき権利
に対する,半永久的,か
つ,継続的侵害行為となること,一度生じた環境汚染を除去することは極め
て困難であること等の事
情に鑑みれば,当事者間の実質的な公平を図るためには,環境汚染防止のた
めの措置が専ら施設の構
造・内容自体にかかわることとなる河川汚染,地下水汚染を理由とする主張
に関しては,債権者らに
おいて,上記ア及びウの事実,すなわち,債務者が有害物質を本件処分場内
に持ち込む可能性がある
こと,万一有害物質が処分場外に流出した場合には,有害物質が債権者らの
元に到達し,体内に摂取
される具体的可能性があることを立証した場合には,債務者において,有害
物質が本件処分場外には
流出しないこと,すなわち,本件処分場の安全性を高度の蓋然性をもって立
証すべきであり,これが
尽くされない限り,本件申立てを許容するのを相当とする。
  (3)本件では,債権者らは健康被害を生じる原因として,交通事故の危険のほ
か,大気,河川及び地下
水等の環境汚染を主張しているので,上記に従い,これらについて,順次検
討する。
 2 交通事故の危険を主張する債権者らについて(Eグループの債権者ら関係)
   Eグループの債権者らは,本件処分場の建設工事,埋立事業が開始された場
合,頻繁に工事車両や運
搬車両が往来することになり,交通事情が悪化する旨主張するところ,前記第
2の1(2)説示のとおり,
本件処分場の事業計画上,産業廃棄物の運搬だけでも,本件処分場への出入り
は10トン車両で1日あ
たり48台の往復(年間9600台)が予定されていることが一応認められる
から,本件処分場の建
設,操業等により,本件予定地の周辺道路の交通量が増加するであろうことは
容易に予測することがで
きる。しかし,交通量の増加という交通事情の変化に対しては,交通整理員を
配置するとか,債務者が
協力を予定しているという道路の整備拡張等の措置を講じるなどの方法によっ
て対処することが可能と
いうべきであり,本件処分場の建設,操業等自体を事前に禁止しなければなら
ないほどの回復困難な損
害が発生することを窺わせるべき特段の事情は疎明されていないというほかな
い。また,そもそも,同
債権者らが交通事故の危険に曝されると主張する道路についての具体的な特定
はなされておらず,その
具体的状況及び同債権者らの当該道路の利用状況等を疎明すべき資料はなく不
明であるから,交通量の
増加によって交通事故の危険に曝されることを前提とする同債権者らの主張
は,その余の点について検
討するまでもなく,是認することができない。
 3 有害物質の特定及び本件処分場への搬入可能性について
 本件処分場に受入予定の産業廃棄物には,前記第2の1(5)説示のとおり人
体に有害な物質が含まれ
る可能性が高く,本件処分場が操業を開始すると,産業廃棄物とともに上記有
害物質が本件処分場内に
搬入されることになることは,容易く認めることができる。
 なお,債権者らは,本件処分場に搬入される産業廃棄物には,上記以外にも
未知の物質を含め,多種
多様の有害物質が混入する可能性がある旨主張するが,特定されていない物質
についての有害性を論じ
ることはできないし,債権者が有害であると主張する前記第2の1(5)に説示
した物質以外のものにつ
いては,人体に有害であることの疎明は不十分である(以下においては,上記
有害性を認めた物質をも
って,「有害物質」という。)。
 4 大気汚染による健康被害を主張する債権者らについて(Eグループの債権者
ら関係)
  (1)本件予定地周辺の大気が有害物質によって汚染された場合には,有害物質
が風に運ばれるなどして
債権者らの生活圏に到達し,債権者らの健康被害を引き起こす可能性を否定
することはできない。 
    ところで,債権者らは,大気の具体的な汚染物質としてダイオキシン類を
挙げているところ,審尋
の全趣旨(債務者の説明)によると,焼却煤その他の産業廃棄物について
は,予め加湿するか又は固
化した上で,有蓋車両を使用するか,又は荷台をシートで覆って運搬し,運
搬中の産業廃棄物の落
下,飛散を防止する対策を講じること,加湿するにあたっても,水分が過剰
となって汚水が漏水しな
い配慮もすること,埋立作業中には適宜散水して産業廃棄物の乾燥を防止す
ること(この散水に処理
水を用いることにより,蒸発処理のコストを削減することができる。),産
業廃棄物を場内に投入し
た当日には覆土すること等の対策をとる計画であることが一応認められる。
また,前記第2の1(3)
 (4)に説示したとおり,埋立作業を終えたブロックについては,その都度中
間覆土の上に雨水遮水シ
   ートをかけること,埋立区域全体の埋立完了後は,厚さ1.5メートル以上
の最終覆土を施した上
   で,樹木を植栽する計画であること,埋立完了後も処分場閉鎖までの維持管
理期間中(少なくとも1
   0年間)は場内の点検が続けられるから,植栽された樹木等が安定するまで
の間に覆土が剥がれ,産
   業廃棄物が露出するようなことがあれば,点検時に発見して再覆土等の措置
をとることができるので
   あって,以上の事実を総合すれば,埋立完了後に焼却煤が大気中に飛び散る
可能性は極めて乏しいも
   のというべきである。
    なお,大気汚染の原因が,主として産業廃棄物の搬入及び埋立作業の方法
に由来するものである以
   上,搬入及び埋立作業を監視し,債務者に対し,これら作業,方法等の改善
を求めていくことも可能
   であり,本件処分場の建設,操業等自体を現時点において禁止しなければな
らないほどの深刻な損害
   の発生を疎明する資料もない。
  (2)債権者らは,ダイオキシン類が常温で気化する旨を強調するが,これを裏
付けるべき疎明資料はな
く,かえって,審尋の全趣旨によると,ダイオキシンの融点は150℃,沸
点はそれ以上の400℃
であることが一応認められるのであって,ダイオキシン類が産業廃棄物の搬
入,埋立等の過程におい
て,気体となって大気に混合する可能性はないものというべきである。ちな
みに,ダイオキシン類が
多量に含まれる飛煤については,特別管理処分場への廃棄が法定されてお
り,本件処分場の受入品目
から除外されているのであるから,飛煤が本件処分場に持ち込まれる可能性
は乏しいものと推測でき
る。
  (3)以上によれば,大気汚染が生じることを理由とするEグループの債権者ら
の主張は,是認すること
ができない。
    なお,債権者らは,処分場施設の建設工事中にも大気汚染が生じる旨主張
するようであるが,一件
記録を精査しても,その具体的根拠を見出すことはできないから,理由がな
い。
  (4)Eグループの債権者らは,これまで,多数の希少種が生息する忍川の水質
環境という豊かな自然を
生活の一部として享受してきたのであり,忍川の水質を汚染されない権利と
しての環境権を有してい
るから,忍川が汚染されることによって環境権を侵害されるとも主張するの
であるが,Cグループの
債権者らが忍川の河川水を農業用水として使用しているというほかには,各
債権者らと忍川との日常
的な関わり合いについては,何ら具体的な主張及び疎明はないから,上記主
張も理由がない。
 5 河川汚染による健康被害を主張する債権者らについて(C,Dグループの債
権者ら関係)
  (1)Cグループの債権者らについて
 Cグループの債権者らは,有害物質により汚染された河川水を農業用水と
して利用した農作物を食
することにより,健康被害を受ける旨主張する。しかし,汚染された河川水
を農業用水として利用す
ることにより,農作物にいかなる有害物質が取り込まれ,どのような影響を
及ぼすかについての具体
的主張及び疎明はいずれもないから,同債権者らの主張は,その余の点につ
いて判断するまでもな
く,理由がない。
 (2)Dグループの債権者らについて
 Dグループの債権者らは,将来,有害物質により汚染された忍川を水道水
源とする水道水の供給を
受けることにより,健康被害を受ける旨主張する。しかし,提出された疎明
資料を検討しても,忍川
が将来水道水源となる具体的可能性を裏付ける根拠を見出すことはできない
から,同債権者らの主張
は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
 6 地下水汚染による健康被害を主張する債権者らについて(A,Bグループの
債権者ら関係)
(1)Bグループの債権者らについて
  Bグループの債権者らは,有害物質により汚染された地下水を農業用水と
して利用した農作物を食
することにより,健康被害を受ける旨主張する。 しかし,汚染された地下
水を農業用水として利用
することにより,農作物にどのような有害物質が取り込まれ,どのような影
響を及ぼすかについての
具体的主張及び疎明はいずれもないから,同債権者らの主張は,その余の点
について判断するまでも
なく,理由がない。
  (2)Aグループの債権者らについて
   ア 被害発生の可能性(有害物質が債権者らの使用する井戸に到達する可能
性)
     疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件予定地は,飯岡台地(周囲を
急崖に囲まれ,台地面の
高度は全体として南側から北西側に傾いている。)と呼ばれる洪積台地が
忍川によって開析された
沖積低地に向かう谷の部分に該当し,その西側にAグループ債権者らの多
くが居住する松ヶ谷地区
が所在すること,松ヶ谷地区の地下水は,本件処分場方向の台地中核部か
ら供給されていることが
一応認められる。
 債務者は,本件処分場西側450メートル地点及び300メートル地点
において行ったボーリン
グ調査の資料を基礎として,後者の水位が前者の水位より低いこと,債権
者らも認めるように宙水
が存在すること等を主たる根拠として,松ヶ谷地区と本件予定地の間には
地下水の分水嶺が存在す
る旨主張するのであるが,債務者の主張を前提とした場合,松ヶ谷地区に
湧く地下水の供給源は分
水嶺以西の約300ないし400メートル程度の狭い帯状地域に降った雨
に限定されることになる
が,疎明資料から認められる松ヶ谷地区の豊富な井戸水及び崖端にみられ
る湧水の状況に照らせ
ば,債務者が主張するような分水嶺の存在を認めることは困難というべき
であり,他に上記認定を
左右する疎明資料はない。
     従って,Aグループ債権者らのうち,松ヶ谷地区に居住し,かつ,地下
水を飲用していることが
疎明資料によって一応認められる債権者ら61名(別紙1「債権者目録」
備考欄○印記載の者)に
ついては,本件処分場から有害物質が流出した場合には,これが到達し,
有害物質が吸収される具
体的可能性があるというべきであり,上記以外の債権者らの主張は,有害
物質が吸収される具体的
可能性についての疎明がないから,その余の点について判断するまでもな
く,理由がない。
   イ 本件処分場の安全性(地下水汚染対策について)
  本件処分場の浸出水が場外に流出した場合には,地下水を飲用等に使用
している上記61名の債
権者らの生命,身体(健康)に深刻な影響を与えることになるから,債務
者においては,前記第3
の1(2)に説示したとおり,有害物質が処分場の外部に流出しないこと,
すなわち,本件処分場が
安全であることについて,高度な蓋然性をもって立証する必要がある。
  そして,本件処分場施設の概要は,前記第2の1(3)説示のとおりであ
り,本件処分場施設が計
画どおり建設され,埋立区域を遮水しつつ,浸出水を集めて浄化処理し,
これを放流せずに全量蒸
 発処理するという施設が当初予定どおりに機能すれば,有害物質が処分場
外に流出する具体的可能
 性はないものということができる。したがって,本件の最大の争点は,本
件処分場施設が計画どお
 り建設され,予定どおり機能を発揮するか否かということになるところ,
双方当事者が,前記第2
 の3に摘示したとおり,本件処分場施設を構成する諸設備の安全性及び信
頼性,施設の維持管理体
 制や埋立事業等における安全管理体制等について主張を展開しているの
で,順次検討を加える。
 (ア)遮水工の安全性
     a 粘性土ライナーについて
      (a)本件処分場で遮水工として設置する粘性土ライナーについては,
現地のDs2層(難透水
       層)を母材とし,ベントナイトを添加したものを使用することが予
定されているところ,疎
       明資料(乙56)及び審尋の全趣旨によると,現設計の透水係数1
×10(-6乗)㎝/
       secの性能を充たすものを製作することは可能であることが一応認
められる。
      (b)債権者らは,粘性土ライナーは地下水によって浸食されて流出
し,遮水性を維持できない
       旨主張するが,前記第2の1(3)イに説示したとおり,埋立区域を
包み込むように地下水集
       排水管が枝状に敷設される計画であり,地下水を処分場中央の集水
塔へ集め,埋立期間中は
       もちろん,埋立完了後も処分場閉鎖までの間は排水ポンプによる排
水管理を続けて地下水位
       を強制的に低下させ,地下水が粘性土ライナーに直接接触させない
ようにすることによっ
       て,浸食を防止することができることが一応認められる。そして,
疎明資料及び審尋の全趣
       旨によると,粘性土ライナーを埋立区域の底部及び法面部に敷設す
る際には,地下水集排水
       管の敷設工事後に地下水位を計測し,かつ,湧水及び地下水が処理
できることを目視確認し
       た上で(不完全な場合には,地下水排水工の設計を見直して,施工
し直す。),粘性土ライ
       ナーを施工する手順をとる予定であること,毎分0.8立方メート
ルの処理能力を有する排
       水ポンプ2台を設置し,交互に運転する予定が組まれており,地下
水量の予測が毎分0.5
       立方メートル程度であることが一応認められることに鑑みても,排
水能力不足等の問題を窺
       わせる事情もなく,これらの事実からすると,債権者らの主張する
事態を想定することは困
       難である。
        債権者らは,パイピング現象によって粘性土ライナーが損傷する
旨主張するが,その趣旨
       は,地中に水が通りやすい鬆(穴)が存在しており,その鬆を水が
勢いよく流れる現象を指
       称するものと解されるから,上述のとおり,地下水が粘性土ライナ
ーと接触しないよう地下
       水位を強制的に下げる措置をとることによって,防止することがで
きるというべきである。
       排水ポンプが故障するとの懸念については,予備ポンプ,予備電源
を設置することによって
       対応可能であり,審尋の全趣旨によれば,本件処分場においてもこ
れら設備の設置が計画さ
       れていることが一応認められる。
(c)処分場閉鎖後,排水ポンプが停止された場合には,地下水位が上
昇することになるから,
 粘性土ライナーが地下水と接触する事態も想定されるが,本件処分
場において使用される粘
 性土ライナーは,前述のとおり,Ds2層(難透水層)を母材とす
るベントナイト混合土で
 あり,かかる混合土については,地下水による浸食量は1万年でベ
ントナイト混合土の厚さ
 2メートルの内2センチメートル程度に止まると算定されるとの報
告があることが疎明資料
 により一応認められるのであって,粘性土ライナーが地下水により
浸食されて遮水性を失う
 可能性は極めて低いというべきである。なお,債権者らは,排水ポ
ンプの停止による地下水
 の上昇(水圧)によって遮水工が破壊されるとも主張するのである
が,埋立完了時点では遮
 水工内の圧力も増大しているのであるから,上記主張のような事態
が生じる具体的可能性は
 想定し難いというべきである。
(d)債権者らは,粘性土ライナーに亀裂を生じた場合には遮水性が損
なわれる旨主張するが,
       疎明資料及び審尋の全趣旨によると,ベントナイト混合土について
は,変形することがあっ
       たとしても,ベントナイトが有する膨潤性自己修復作用により遮水
性が維持されることが確
       認された旨の実験報告があることが一応認められ,遮水性が損なわ
れることはないというべ
       きである。
      (e)債権者らは,浸出水が酸又はアルカリであると,粘性土ライナー
の成分が破壊される旨強
       調するが,前述のとおり,粘性土ライナーは遮水工の最下層に敷設
されるのであって,浸出
       水に直接接触する構造ではないし,遮水シートが2枚とも破損した
事態を想定しても,本件
       処分場に持ち込まれる産業廃棄物は前記第2の1(2)に説示したと
おりであり,強酸,強ア
       ルカリ,有機溶剤等の液状の産業廃棄物を本件処分場に受け入れる
ことはそもそも許され
       ず,後記(ウ)bに説示するとおり受入審査等を実施することによっ
て,液状の産業廃棄物が
       持ち込まれることを防止することができるから,粘性土ライナーが
酸,アルカリの影響を受
       けることはないというべきである。
  なお,疎明資料によると,全国7カ所の最終処分場の事例におい
ては,浸出水の水質が強
 酸(pH2以下)や強アルカリ(pH12.5以上)を示したデー
タは見当たらない。
     b 遮水シートについて
      (a)債権者らは,紫外線,オゾン,温度上昇等により遮水シートが劣
化し,遮水機能を喪失す
       る旨主張する。
        しかし,疎明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び加硫
ゴム系シート共に,約2
       4年間に相当する4800時間までにおいては大きな物性変化を起
こさない耐候性紫外線劣
       化性能があることが促進暴露試験によって裏付けられいること,本
件遮水工の構造は前記第
       2の1(3)に説示したとおりであり,上層の遮水シート(高密度ポ
リエチレンシート:HD
       PEシート)の上には保護層(法面部は遮光性短繊維不織布〔遮光
率95パーセント以
       上〕,底盤部は500ミリメートルの保護覆土)が敷設され,下層
の遮水シート(加硫ゴム
       系シート:EPDMシート)については,上層のHDPEシート及
びこれと下層のEPDM
       シートとの間に敷設される保護層(法面は短繊維不織布,底盤部は
300ミリメートルの砂
       層)によって更に紫外線の影響が低減されることが認められるので
あるから,敷設工事中に
       一時的に遮水シ-トが陽光に曝される可能性があることを考慮して
も,紫外線が原因で遮水
       シートが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
        債権者らは,温度上昇により遮水シートの強度が失われるとし
て,気温の上昇や産業廃棄
       物が処分場内で化学反応を起こして発熱することを懸念する。しか
し,気温の上昇は摂氏4
       0度程度が上限であること,本件処分場に埋め立てられる産業廃棄
物は,焼却煤等の無機物
       が主であって,後述するとおり受入審査等の搬入管理を行うことに
より,熱源となるような
       生ゴミ及び有機汚泥等の許可品目外の産業廃棄物の持込みを防止す
ることができること,疎
       明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び加硫ゴム系シート
については,熱安定性試
       験(試験片を80℃に保持された恒温槽に240時間静置した後,
引張試験を実施)の結果
       では,規格値80パーセント以上の性能を保持したことが確認され
たことが一応認められる
       こと等をも併せ考慮すると,温度上昇により遮水シートが劣化する
可能性は極めて低いとい
       うべきである。
        また,債権者らは,オゾンによる劣化の可能性をも指摘するが,
遮水シートが上記手順で
       施工され,長時間外気に曝される可能性がないことに照らせば,そ
のような可能性は否定せ
       ざるを得ない。
 (b)債権者らは,pH4を下回る酸性雨が降ることはめずらしくな
く,これによりシートが硬
化して引っ張り強度,伸び,剪断強度を失って破損し易くなる旨主
張する。しかし,本件予
定地周辺において,どの程度の酸性雨がどの程度の頻度で降るのか
についての具体的な主張
はないところ,疎明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び
加硫ゴム系シートについ
ては,耐薬品性(酸)試験(試験片をpH3の酸試験液に浸漬さ
せ,240時間静置した
後,引張試験を実施)の結果,規格値80パーセント以上の性能を
保持したことが確認され
たことが一応認められる上,前記第2の1(3)及び後記c(a)に説示
するとおり,遮水工の動
       水勾配及び集排水管によって,浸出水は速やかに排出される構造で
あることからすると,遮
       水シートが酸性雨によって破損する可能性は極めて低いというべき
である。
  なお,債権者らは,様々な物質により遮水シートが溶解すると
か,微生物により生物分解
 される等とも主張するが,具体的な物質なり生物の特定もなされて
いない以上,そのような
 可能性を論じることはできないというべきである。
      (c)遮水シートは,遮水工設置工事中や埋立作業中の重機や産業廃棄
物の接触により損傷する
       可能性があるところ,審尋の全趣旨によると,敷設工事に際して
は,下地の突起物は除去す
       る予定である上,遮水シートの設置作業中の事故については,シー
トに作業機械等を載せな
       いこと,慎重に作業すること等の施工管理を徹底することによって
防止できること,埋立作
       業中の破損事故についても,後記(ウ)bに説示するとおり受入審査
等を徹底して行うことに
       より,廃プラスチック及び金属くず等の産業廃棄物は小さく破砕し
たものに限定することが
       できるから,遮水シートの上部に設置される保護層(法面部では保
護不織布,底盤部では5
       0センチメートルの砂層)を突き抜けるような長めの突起物が混入
するとは想定し難いこ
       と,車両の走行による破損の可能性に対しては,車両の走行の際
に,法面部では保護布の上
       に古畳を,底盤部では50センチメートルの保護砂層の上に更に鉄
板を敷くことにより荷重
       を分散させるという防止策をとることが計画されている。
        また,遮水シートがカラス等の動物や昆虫類等によって損傷され
る旨主張するが,前記
       (a)に説示したとおり,底盤部には50センチメートルの保護砂層
が,法面部には保護不織
       布が設けられることからすると,動物による損傷の可能性は低い
し,仮にそのような事態が
       生じたとしても,敷設作業は,作業員が目視しながら,手作業で行
うことが予定されている
       から,表面部を日常的に点検することにより容易に発見し,修復す
ることができる。土中に
       生息するモグラ等の動物や植物の根による損傷の懸念についても,
遮水工の設置にあたって
       は,前記第2の1(3)説示のとおり,地盤を約10メートル程度掘
削するから表土は除去さ
       れた状態になる上,埋立区域全体を囲むコンクリート製遮水壁が地
下15メートル以上埋め
       込まれるのであるから,遮水工の周囲に遮水シートを破損させるよ
うな動物や昆虫類等が生
       息したり,植物の根によって損傷を受けるような事態は想定し難い
というべきである。
      (d)債権者らは,遮水工支持地盤の強度不足により,不等沈下が起こ
り,遮水シートに過剰な
       負担を与え,遮水シートの引き裂き,接合部の剥離等の原因となる
とも主張する。
  疎明資料(によると,本件予定地は前記6(2)に説示したとお
り,忍川によって開析され
 た谷の部分にあたり,付近一帯の地質は,第3紀中新世から鮮新世
にかけて堆積した三浦層
 群を基盤とし,上位には第4紀洪積世に堆積した上総層群,成田層
群が分布し,表層には関
 東ローム層や段丘堆積物等が分布すること,開析谷低地においては
開析作用により関東ロー
 ム層や段丘層,成田層上部が欠層となり,これにかわって第4紀沖
積世に堆積した沖積層が
 分布すること,沖積層には,一部軟弱な腐食土層(Ap層)がみら
れること,その下層に
 は,洪積砂質土層(Ds1層,Ds2層)が厚く分布しているこ
と,本件処分場建設工事の
 際には谷底の部分を更に10メートル程度掘削し,上記沖積層を除
去する計画であること,
 これにより,遮水工の支持地盤はDs2層となり,法面部はDs1
層に囲まれることが見込
 まれること,以上の事実が一応認められる。
  そして,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,債務者が実施した
孔内水平載荷試験(ボー
 リング孔内載荷試験-掘削前に地盤の支持力を推定する試験)の結
果によると,本件遮水工
 の支持地盤となる底部計画高さ(標高27メートル)付近に対応す
るDs2層における地盤
 強度は,降伏圧が112.5t/㎡を示しており,埋立高75メー
トルの産業廃棄物の加重
 に耐えられる計算になること,本件処分場埋立完了時における荷重
をかけた場合の沈下量は
 0.14ミリメートルと推定されるところ,本件処分場における埋
立高は25メートルとな
 る計画であり,限界加重の3分の1程度に止まる見込みであること
が一応認められる。さら
 に,疎明資料によると,掘削後床付け完了時点で,千葉県立会いの
下で平板載荷試験(地盤
 に設置した円状の鉄板に荷重を加え地盤の沈下量を測定するという
作業を,荷重を増やしな
 がら繰り返し行い,そのデータから地盤の支持力を算定する試験)
を実施し,地盤強度及び
 沈下量を直接測定して確認する予定であること,平板載荷試験の結
果,孔内水平載荷試験に
 よる予測に反し,強度不足等の問題があることが確認されれば,良
質土に置き換える等の補
 強工事を行い,必要な強度及び連続性を確保した支持地盤を構築す
ることが可能であること
 が一応認められるのであって,上記の事実を総合すると,遮水工の
支持地盤の安定性につい
 ては立証されたものというべきであり,遮水シートの破損を引き起
こすほどの不等沈下が起
 きる可能性は極めて低いといわざるを得ない。また,Ds1層に囲
まれる法面部の安定性に
 ついても,疎明資料により一応認めることができる。
(e)疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場では,遮水シー
トの接合は熱溶着接合施
 工により行うこと,溶着部については全箇所負圧試験を行って溶着
状況を検査することが予
 定されているほか,遮水シートを貫通する集水管との接合部分には
工場加工の一体成型品
 (シルクハットの上部が開口したようなシート)を使用すること,
遮水シートとコンクリー
 ト,遮水シートと貫通管との接合には接着剤及び固定金具を用いる
こと,遮水シートと岩盤
 との接合は処分場で行わないこと等,接合部分の弱点となるような
特殊箇所についての対応
 策も計画されていること,以上の事実が一応認められ,かかる対策
を実施することによって
 遮水シ-トの接合不良をなくし,剥離事故を防止できるというべき
である。
      (f)なお,債権者らは,実験報告を示す書面をもとに,遮水シートが
化学物質を透過する旨主
       張するようであるが,同書面においても,本件処分場で使用予定の
HDPEシートとEPD
       Mシートの組み合わせにおいて双方を透過する化学物質はないこと
が示されている上,化学
       物質が遮水シートを透過するには,化学物質が溶け込んだ浸出水の
圧力が長時間シートにか
       かることを前提条件(実験の設定条件は,シートの片側が真空であ
る。)としているとこ
       ろ,本件処分場においては,浸出水が長時間処分場内部に貯留され
ることがないように設計
       されていることは前記(b)に説示したとおりであって,上記のよう
な前提条件が充たされる
       状態は想定し難く,他に,化学物質がHDPEシート又はEPDM
シートを透過する可能性
       を示唆するような疎明資料もない。なお,ダイオキシン類がHDP
Eシート又はEPDMシ
       ートを透過するとの債権者らの主張についても,その具体的根拠は
不明である。
c 漏水検知システムについて
      (a)債権者らは,漏水検知システムが作動した時点では,既に浸出水
が処分場外に流出してい
       ることになるから,地下水汚染の防止には効果がない旨主張する。
        しかし,遮水工の構造は,別紙3「本件処分場の概要」5(2)の
とおりであって(別添図
       面⑧参照),浸出水が処分場外に流出するためには,浸出水が上層
遮水シート破損部からシ
       ート間にある保護層に流入し,その後下層遮水シート破損部に到達
し,更に粘性土ライナー
       を通過するという経過を辿らなければならないところ,各遮水シー
トの上層にある保護層
       (底盤部は砂層,法面部は不織布)は透水性が高いため,遮水シー
ト双方に破損が生じた場
       合,浸出水は,上層のHDPEシート破損部からシート間にある保
護層に流入することにな
       るが,下層のEPDMシートの破損部に到達した浸出水は,粘性土
ライナーへは浸透せず,
       はるかに透水性の高い保護層を動水勾配に沿って流れ,底盤に敷設
された遮水シート集水管
       へと集水されると考えられる上,集排水管及び遮水工の勾配により
速やかに排出されること
       から,粘性土ライナーを通過する圧力が働く可能性は低く,双方の
遮水シートが近接する場
       所において同時に破損した場合を想定しても,浸出水が直ちに外部
に漏れ出すことはないと
       推測することができる。
        そして,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件漏水検知シス
テムは,上層の遮水シー
       トの上側及び下層の遮水シートの下側のそれぞれに電線源電極線を
張り巡らせるとともに,
       双方のシートの間に抵抗線(リード線)を配する構造となってお
り,電流源の電力端子(線
       電極)と抵抗線が電気的に短絡したときに抵抗線の両端に発生する
電圧が短絡位置から測定
       端までの距離に比例する性質及び遮水シートの絶縁性を利用して,
上記のとおりシートを挟
       むような形で配された電線源電極線と抵抗線がセンサーとなって,
絶縁体である遮水シート
       の破孔等による漏電を感知し,線方向の短絡位置を電気抵抗によっ
て直接検出するシステム
       構成であること,複数の電圧測定箇所のデータをコンピュータ解析
することによって,上下
       いずれのシートのどの部分が破損したかを特定することができるこ
と,本件遮水工と同様の
       素材を用いて模擬処分場で行われた実験では,漏水状態を生じさせ
た場合において,約1.
       0メートルの精度をもってシートの破損位置を特定することができ
たこと等の事実が一応認
       められ,以上のシステム内容に照らすと,広大な範囲の遮水シート
を常時リアルタイムで監
       視することや,目視では発見困難な小さな異常を検出することも可
能というべきであるか
       ら,本件漏水検知システムは,遮水シートの破損箇所の早期発見に
有効なシステムであり,
       粘性土ライナーの遮水性により外部漏出が防止されている間に速や
かに破損個所を補修する
       ことと相俟って,浸出水の外部漏出を防止し,地下水汚染を防止す
る効果があるものと認め
       ることができる。
      (b)債権者らは,遮水シートの破損箇所が特定できたとしても,その
補修は物理的及び経済的
       に不可能である旨主張するが,遮水シートの破損が埋立初期段階で
発見された場合には,破
       損箇所も埋立作業も半ばであり浅いのであるから,補修が困難とい
うべき理由はないし,他
       方,埋立完了後に破損が発見された場合などで,破損箇所が深い位
置にある場合について
       も,疎明資料によると,下水道工事で一般的に使用されているライ
ナープレート工法を用い
       て埋立区域を掘削することが技術的に可能であり,かつ,後記ウ
(ア)に説示するとおり,こ
       の工法を採用し得るだけの費用についても,事業計画上確保されて
いる(処分場閉鎖前稼働
       中については年間1400万円の予備費による。閉鎖後については
後述の維持管理積立金に
       よる。)ことが一応認められるから,補修は実現可能であると判断
することができる。
        漏水検知システムが導線の腐食等により故障する事態があり得る
ことは否定できないが,
       遮水シートの破損を検知する原理が上記のとおりであり,電極線及
び抵抗線が張り巡らされ
       る状況となることに照らすと,一部の配線に支障が生じても,他の
線により補完することが
       できるし,抵抗線の支障については,新たな抵抗線を突き入れる方
法により補完することも
       可能である。
        なお,債権者らは,漏水検知システムにより遮水シ-トの破損が
検知されたとしても,こ
       れを早期に修復をせずに放置される事態が生じる旨懸念するようで
あるが,このような事態
       は,後記(ウ)に説示する安全管理を徹底することによって防止する
ことが可能である。
     d まとめ
 以上のとおりであって,遮水工に用いられる粘性土ライナー,遮水
シート自体の品質,耐久
性については格別の問題はなく,十分性能的に信頼できること,遮水
工の施工にあたっても,
不等沈下の障害を除去するため支持地盤の確認調査等が予定されてい
ること,粘性土ライナー
の機能を保護するために地下水の集排水管を埋立区域の周囲に張り巡
らし,地下水による浸食
を防止すること,粘性土ライナーの乾燥防止策が講じられること,遮
水シートの敷設作業も,
粘性土ライナーを敷き詰めた後に手作業で慎重に実施すること,シー
トの溶着箇所について不
具合が生じていないかを全箇所負圧検査をして確認すること等が予定
されており,更に,各層
毎に千葉県による確認検査を受けることが設置許可の条件として義務
づけられているため,そ
の適切な施工についての担保があるものといえること,埋立作業にお
いても,搬入車両,埋立
作業用重機等との接触によって遮水シートが破損しないよう十分な注
意を払う一方,万一遮水
シートが破損した場合であっても,破損箇所を早期に探知できるよう
漏水検知システムが構築
され,破損箇所を迅速に修復できる態勢がとられる予定であること等
が認められるほか,遮水
工の構造についても,浸出水が破損箇所に滞留しないよう遮水工自体
に緩やかな勾配を設ける
ほか遮水シートと透水性の高い保護層を組み合わせるなどの工夫がさ
れており,埋立区域に枝
状に敷設された集排水管により速やかに一箇所に導く構造を採用する
など,遮水部材について
は十分信頼できる上,同部材の機能低下,破損事故の発生を防止する
ような配慮が予定されて
いるのみならず,破損した場合の早期発見,修復を可能とする措置が
構築されていること等の
諸事情からすると,安全性に対しては,二重,三重の対策が講じられ
ているとみることがで
き,遮水工の信頼性は極めて高いものと評価することができる。
    (イ)水処理システムの安全性
 a 浸出水発生量の抑制について
       埋立区域の外周部に,地上高さ1メートル以上の連続遮水壁(鉄筋
コンクリート製鉛直壁)
      が設置されるほか,遮水壁を囲むように場外U字側溝(雨水排水用管
渠)が設けられること,
      埋立区域の法面部には,階段状の小段が形成され,各小段ごとに雨水
排水用の場内U字側溝が
      設けられること,これにより,埋立区域内への直接降雨以外の水は埋
立区域に流入せず,法面
      部への降雨も産業廃棄物に接触することなく場内U字側溝により防災
調整池へと誘導されるこ
      と,埋立作業が5000平方メートル以下のブロックに分割(土堰堤
によって埋立完了及び着
      手区画と埋立未着手区画を分離する。)して,1ブロックずつ順次埋
め立てる方式を採用し,
      埋立作業未着手のブロック部分への降雨は産業廃棄物に接触させずに
浸出水集排水管(雨水切
      替管)によって雨水排水室を経て防災調整池へと誘導すること,埋立
が完了したブロックは雨
      水遮水シートで上部を覆い,このブロックへの直接降雨を側方へと流
し,法面部の小段に設け
      られた側溝によって産業廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導す
ること等が予定されてい
      ることは既に認定したとおりであり,これによって,浸出水の発生面
積を,現に埋立作業中の
      1ブロック(5000平方メートル以下)部分に限定することができ
るというのであり,以上
      の計画を前提とした本件処分場における浸出水の発生見込量は,1日
平均13.2立方メート
      ル(Q=〔1/1000〕×I×C×A)。Q:浸出水発生量〔立方メートル
/日〕,A:産業廃棄物
      が雨水と接触する面積〔㎡〕,C:浸出係数,I:降雨量〔㎜/日〕。
浸出水発生量の算定にあ
      たっては,1976年から1995年までの銚子気象台の降水量デー
タ及び厚生省水道環境部
      監修「廃棄物最終処分場指針解説」P125表Ⅱ-31中の東京の月別浸出
係数を採用。)となるこ
      とが一応認められる。
       債権者らは,上記側溝(雨水排水用管渠)の設計において前提とさ
れた降水量の設定に誤り
      があるから,豪雨の際には側溝が溢れ,浸出水発生量の抑制は計画ど
おりにはならない旨主張
      するが,1887年から2000年までの114年間の銚子市の降水
量データによると,1時
      間あたりの最大降水量は1947年8月28日の140.0ミリメー
トルであって,埋立区域
      内法面部の小段側溝の排水能力は毎時180.5ミリメートルである
ことから,排水能力は十
      分であるといえる。
       また,審尋の全趣旨によれば,場外側溝及び埋立完了時の場内側溝
の排水能力は毎時10
      4.0ミリメートルのところ,これを超える降雨は上記データによれ
ば過去109年間に3回
      あり,希有な豪雨の際に側溝が溢れる可能性があることは否定できな
いが,上記データによる
      1日あたりの最大降水量が311.4ミリメートルであることを考慮
すれば,側溝が溢れる
      (すなわち,浸出水の発生面積を現に埋立作業中の小分けブロックに
限定できない事態とな
      る)のは,109年間に3回程度の確率で起こりうる極めて希なこと
であり,起きたとしても
      一時的な現象に止まると予測されるから,浸出水発生量の抑制を目的
とする設備としては,そ
      の排水能力は十分であるというべきである。なお,場外U字側溝(場
外雨水排水管渠)につい
      ては,仮にこれが溢れたとしても,高さ1メートル以上の外周遮水壁
があることから,処分場
      周辺が冠水して,埋立区域外への降雨が埋立区域内に流入してくる事
態はおよそ想定し難い。
       以上のとおりであって,本件処分場施設の構造からすると,浸出水
発生量の抑制措置は十分
      に効果を発揮するものであると認めることができる。
     b 浸出水処理施設について
       債権者らは,本件水処理施設では,有害物質が完全には除去できな
い旨主張する。
  しかし,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場において
採用予定の水処理設備
 は,管理型産業廃棄物最終処分場における浸出水処理設備の納入実績
を有するZ株式会社が設
 計・施工するシステムであること,本件処分場の操業前に水処理設備
の試運転調整を行い,後
 記(ウ)において説示するとおり,千葉県知事による使用前検査におい
てその性能を確認するこ
 とが予定されていること,操業開始後の水処理設備の運転管理につい
ては,同社の関連会社が
 X株式会社とともに担当する計画であること,前記第2の1(3)に説
示したとおり,処理水の
 水質については継続的に確認し,その結果を常時公開できるようにす
ることが本件処分場の設
 置許可の条件となっており,債務者がこれを遵守する義務があること
等に照らすと,放流基準
 水質(廃掃法15条の2第1項1号並びに一般廃棄物の最終処分場及
び産業廃棄物の最終処分
 場に係る技術上の基準を定める省令参照)を充たせないような性能の
まま,水処理施設が稼働
 する具体的可能性は極めて低いというべきである。
       そもそも,本件処分場では処理水を河川に放流せず,全量を自然蒸
発,人工蒸発する計画と
      なっており,後記dに説示するとおり,処理水貯留層の容量も十分と
いえるから,処理水の蒸
      発処理が追いつかずに処理水が河川に放流される可能性は極めて低い
というべきであって,処
      理水の水質を問題にする債権者らの主張は前提を欠き,採用できな
い。
   c 蒸発処理設備について
       疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場において設置が予
定されている蒸発処理設
      備は,水処理施設の場合と同様にZ株式会社が設計・施工を担当する
自然エネルギーによる蒸
      発散装置であり,直径100ミリメートル(送水管)及び直径300
ミリメートル(送風管)
      のメッシュ状のパイプを1.5メートル間隔で配置し,送風設備4台
を備えた蒸発散面積(地
      表部)を2500平方メートルとする仕様であり,同設備内に雨が降
り注ぎ蒸発を要する水量
      が増加することを防止するため,透光性の自働開閉式屋根を伴うもの
であること,地表面及び
      地中管内への送風による蒸発量の合計として,1日あたり年間平均
4.5リットル/㎡を処理
      する能力があることが一応認められる。
       債権者らは,本件蒸発散装置では,処理水を処理しきれない旨主張
するが,疎明資料及び審
      尋の全趣旨によると,本件処分場では,上記蒸発散装置による蒸発処
理に加え,計画散水(晴
      れて日照エネルギー,風力エネルギーの大きい時に埋立対象ブロック
へ処理水を散水するこ
      と)を行うとともに,1日あたり15トンの蒸発処理能力を有する強
制蒸発設備(電力を利用
      したドライヤー方式)を併設して,上記蒸発散装置による蒸発処理を
補完する計画であるこ
      と,また,後述のとおり,十分な容量を確保した処理水貯留槽が設置
されること等が一応認め
      られ,これらの事実に照らすと,蒸発処理が追いつかなくなる可能性
は極めて低いというべき
      である。
       また,債権者らは,蒸発散装置が目詰まりして機能しなくなる旨主
張するところ,塩類等の
      付着が予想されなくはないが,かかる付着物は水溶性が高いので水を
かけることにより除去す
      ることが考えられるほか,保守管理を行うことにより性能を維持する
ことは十分可能というべ
      きであり,蒸発散装置の致命的な問題とはならない。
     d 浸出水貯留槽,処理水貯留槽について
       審尋の全趣旨によると,本件浸出水処理設備の設計規模算定におい
て用いられた過去20年
      間(1976年から1995年)の平均降水量1640.5ミリメー
トルを前提とすると,必
      要となる最大浸出水調整量は992.8立方メートルとなることが一
応認められるところ,そ
      の4倍程度にあたる4070立方メートルの貯留槽が本件処分場にお
いては確保されているこ
      とは前記第2の1(3)に説示したとおりであるから,上述した浸出水
発生量の抑制措置を行う
      前提で本件処分場における浸出水の発生量を計算すると,1日平均1
3.2立方メートル,年
      間平均4818立方メートルとなることに加え,疎明資料により一応
認められる過去114年
      間(1887年から2000年)の銚子市の降水量データ(年間最大
降水量2352ミリメー
      トル,日最大降水量311.4ミリメートル等)及び浸出水集排水管
の能力(本件直径600
      ミリメートル)等に照らすと,埋立区域内に浸出水が滞留することは
ないものというべきであ
      り,また,処理水貯留槽の容量も3990立方メートルが確保されて
いるのであって,上述し
      た蒸発処理の能力及び降水量データと対比した場合,容量は十分なも
のといえる。
       なお,債権者らは,債務者が施設設計の際に採用した浸出係数(浸
出係数とは,降雨量の
      内,覆土や産業廃棄物中の水分が日照や風によって蒸発する量を考慮
し,実際に埋立区画に浸
      透して浸出水となる水量を算定する為の係数であり,降水量を分母と
し,降水量から蒸発量を
      差し引いた量を分子として求められる数値である。)は不当に低く,
0.9の数値を使用すべ
      きであって,同数値を基礎とした場合には,本件水処理設備では埋立
区域内に浸出水が滞留す
      ることになる旨主張する。しかし,疎明資料によると,2000年の
東京都における年間降雨
      量1603.0ミリメートルに対して,蒸発量は911.8ミリメー
トルであり,降雨量の約
      56パーセントは自然蒸発することが一応認められること,埋立てに
あたっては,容量を有効
      に利用する意味合いもあるが,空隙の大きい産業廃棄物群には焼却煤
を組み合わせるなどして
      埋め立てることが予定されている上,前記第2の1(3)において説示
したとおり,2メートル
      の産業廃棄物層に対して50センチメートルの中間覆土を繰り返す埋
立計画であるから,埋立
      区域内の透水性が特別高いとはいえないこと,債権者らが主張する上
記数値は,北海道旭川市
      から南は那覇市までの主要23都市の毎月の浸出係数の内最も高いも
のを月別に採用して1年
      の平均浸出係数を求めているものであって,安全性に十分配慮して算
定するという要請がある
      とはいえ,日照時間,風速,気温等の気象条件を全く異にしている地
点の数値を採用して算定
      している点において,本件処分場に適用すべき浸出係数としての合理
性を見出すことができな
      い。債務者は,東京の数値を採用しているが,日照時間,風速,気温
等の気象条件に鑑み,東
      京における浸出係数が銚子におけるよりも大きくなるといえる点にお
いて,安全側に配慮した
      ものといえ,合理的なものと一応認めるべきである。
     e まとめ
       以上のとおりであって,埋立手順等を含めて計画されている浸出水
の発生量の抑制措置は十
      分に効果を発揮することが認められ,これを前提にすると,本件処分
場における浸出水処理設
      備,蒸発処理設備,浸出水貯留槽及び処理水貯留槽等の能力もかなり
余裕をもって設けられて
      いるものといえるのであって,本件水処理システムは,本件処分場に
おいて発生する浸出水全
      量の浄化,蒸発処理を可能にしているものというべきであり,その信
頼性は高いものと評価で
      きる。      
    (ウ)施設の施工,事業運営における管理体制について
     a 本件処分場施設が計画どおりの性能を発揮するためには,施設の施
工,維持管理及び埋立事
      業の運営管理等がいずれも適切になされることが必要不可欠であると
ころ,産業廃棄物最終処
      分場の設置許可を受けた者は,当該許可にかかる施設について都道府
県知事の検査を受け,そ
      の設置に関する計画に適合していると認められた後でなければ,これ
を使用してはならない旨
      法定されており(改正廃掃法15条の2第5項),本件処分場施設に
ついても,債務者が千葉
      県知事による使用前検査を受ける必要があることは明らかである上,
特に,遮水工の施工につ
      いては,粘性土ライナー,漏水検知システム,二重シート,不織布ま
たは保護土層の5層構造
      の各層の施行毎に千葉県の確認検査を受けること,産業廃棄物の埋め
立てにあたっても,覆土
      厚及び施工高について,千葉県の確認検査を受けること等が本件処分
場の設置許可の条件とな
      っていることは,前記第2の1(3)において説示したとおりであっ
て,かかる事実からする
      と,本件処分場は,計画どおり適正に施工されない限り,操業を開始
することができない等と
      いう規制を受けているものといえる。
     b また,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場の維持,運
転管理は,最終処分場技
      術管理者の資格を有する技術者を長とした組織で行い,運営管理の主
たる業務である技術関連
      業務(計画・調査・設計・施工に関する資料の管理,産業廃棄物搬入
管理,埋立作業管理,施
      設の点検・維持管理,モニタリング等の環境管理,埋立完了後の維持
管理,上記の管理に関し
      て必要なデータの計測等を行い,これを整理・保管しておくための情
報管理)は,すべて本件
      処分場の設計及び施工を担当しているX株式会社へ業務委託する予定
であること,本件処分場
      においては,受入基準(営業許可申請時点で決定する。少なくとも,
法的に特別管理産業廃棄
      物に該当する飛煤,pH2以下の強酸及びpH12.5以上の強アルカリ
を受け入れることがない
      のはもとより,汚泥等の含水率については,85パーセント以下に脱
水したものに限定するこ
      と,燃えがら及び可燃性の産業廃棄物〔木くず,紙くず等〕は熱しゃ
く減量10パーセント以
      下に焼却したものに限定すること,物理的に遮水工を損傷する可能性
のある廃プラスチック及
      び金属くず等の産業廃棄物は小さく破砕したものに限定すること等が
予定されている。)を設
      ける計画であること,また,産業廃棄物の受入れについても,マニュ
フェスト制度を採用し,
      排出事業者からの申告を受けて審査を行い,申告時に産業廃棄物の種
類,量,サンプル及び受
      入基準に適合していることを証明する分析結果(公的機関による証
明)を提示させること,継
      続して受け入れる場合は,排出事業者に上記分析結果を定期的に提出
させること,事前検査と
      して,排出事業者に対する書類検査,立入検査を行うほか,搬入管理
を徹底すること,すなわ
      ち,受入管理職員を4名置き,処分場入口に設置する管理棟受付にお
いて,目視検査,展開検
      査,抜き取り性状検査を行い,事前申告と異なる産業廃棄物が搬入さ
れていないかを確認し,
      違反の疑いが生じた場合には,当該産業廃棄物の受入れを留保した上
で公的機関による産業廃
      棄物の分析試験を行い,違反が確認されれば,当該産業廃棄物の受入
を拒否するとともに,以
      後は当該排出事業者からの産業廃棄物の受入れを拒否すること,GP
S車両運行システムを採
      用することにより,産業廃棄物の積換えという違反行為を予防する計
画であること,搬入され
      た産業廃棄物毎に埋立位置を特定して記録するシステムを採用するこ
とにより,後日違反が発
      覚し産業廃棄物を除去する必要が生じた場合にも対応できるようにす
ること等,埋立事業に関
      する運営管理体制をとる計画であること,以上の事実が一応認めら
れ,これによると,遮水工
      を物理的又は化学的に損傷する可能性のある産業廃棄物の持ち込みを
予防することができると
      いうべきである。
       また,平成9年6月の法改正により,生活環境の保全上利害を有す
る者(付近住民)に対す
      る,搬入産業廃棄物の種類,量,浸出水水質試験結果及び地下水水質
試験結果等の維持管理情
      報の開示制度が法定されているところ,本件処分場については,浸出
水,処理水,地下水の水
      質を常時観測し(モニタリング設備として,集水塔及び地下水観測井
戸6箇所が設置される計
      画である。),その結果を常時公開できるようにすることが設置許可
の条件となっていること
      は前記第2の1(2)説示のとおりであって,債務者はこれを遵守する
義務があり,遮水工及び
      水処理システムの状況を第三者が監視する体制も整備されること,埋
立作業についても,債務
      者において,地元住民等の見学を積極的に受け入れる用意がある旨述
べていること,後記ウ
      (ア)に説示するとおり,適正な維持管理を行うに足りる資金的な裏付
けもあること,以上の事
      実を一応認めることができる。
     c まとめ
       以上のとおりであって,本件処分場については,計画に従った処分
場施設の適切な建設,施
      工が実践され,かつ,施設の適切な維持管理及び埋立事業の適切な運
営管理が行われるものと
      の立証があったというべきである。
    (エ)処分場閉鎖後の対策
     a キャピラリーバリアー型覆土について
  本件処分場においては,埋立区域全ての埋立てが完了した後は,上
部を遮水シートで覆うこ
 とをせず,最終覆土にキャピラリーバリアー型覆土を施し,地表面に
樹木等を植栽する計画で
 あることは前記第2の1(3)において説示したとおりである。ところ
で,疎明資料及び審尋の
 全趣旨によると,キャピラリーバリアー型覆土とは,境界面の間隙水
圧が一定数値以下の不飽
 和領域では「礫よりも砂の方に水が流れる」という性質に基づき,異
なる土質材料(粗粒土,
 細粒土,粘性土)を用いて覆土を構築し,覆土中間層を通じて雨水を
排水することにより,遮
 水性を発揮することを目的とする覆土であり,二,三十パーセント程
度の浸出水を発生させる
 粘性土覆土と比較した場合,その4パーセント程度に浸出水の発生量
を抑制できることが実証
 実験によって裏付けられていること,実際に原子力の廃棄物管理施設
等において実用段階にあ
 ることが一応認められるのであって,このキャピラリーバリアー型覆
土に樹木等の蒸発効果を
 併用することにより,キャピラリーバリアー型覆土の下層にある産業
廃棄物群への雨水の浸
 入,すなわち浸出水の発生を防止することを目指す上記計画は,その
効果を否定する疎明資料
 も見あたらないから,相応の有効性を有するものと評価することがで
きる。
     b 有害物質の安定化について
       疎明資料によると,これまで埋立てがされた産業廃棄物処分場にお
ける浸出水を測定した結
      果から,経年変化により,浸出水のpH,BOD,COD,NH4-
N等の数値がいずれも基
      準値以下に減少する傾向が見られとの報告があることが一応認めら
れ,他方,経年変化の観察
      結果として,浸出水の水質が顕著な悪化傾向を示したことを疎明する
資料はない。上記傾向の
      原因については,重金属類は硫化物や炭酸塩を形成し埋立地内に固定
するとの説明,大気から
      の焼却煤層への炭酸ガス侵入の結果である可能性があるとの説明等が
されていることが一応認
      められ,有害物質が無害化することはないとしても,歳月の経過とと
もに,産業廃棄物中の有
      害物質の溶出量が低減する傾向にあることは否定しがたく,本件処分
場においても,歳月の経
      過とともに,浸出水中の有害物質の量が次第に減少し,安定化に向か
うものと推測することが
      できる。
       そして,最終処分場の設置者は,当該処分場の状況が一定の基準
(廃止基準)を充たしてい
      ることについて都道府県知事の確認を受けたときに限り,処分場を廃
止することができる旨法
      定されている(廃掃法15条の2の4第3項,同法9条5項)とこ
ろ,管理型処分場に関する
      廃止基準については,平成10年6月16日付総理府・厚生省令(一
般廃棄物の最終処分場及
      び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の一部改
正について。以下「共同
      命令」という。)により,地下水などの水質部分については,「5 
地下水等の水質検査の結
      果,次のいずれにも該当していないこと。ただし,水質の悪化が認め
られない場合においては
      この限りではない。イ 現に地下水質が基準に適合していないこと。
ロ 検査結果の傾向に照
      らし,基準に適合しなくなるおそれがあること。」,「6 保有水等
集排水設備により集めら
      れた保有水等の水質が,次ぎに掲げる項目・頻度で2年以上にわたり
行った水質検査の結果,
      排水基準等に適合していると認められること。(1) 排水基準等6月
に1回以上,(2) BO
      D,COD,SS3月1回以上」と規定されており,事業者の都合の
みでは処分場を閉鎖する
      ことができず,上記排水基準を充たさない場合には,その後も浸出水
の処理等を含む施設の維
      持管理が義務づけられること,後述のとおり,埋立完了後処分場閉鎖
までの相当期間に必要と
      される維持管理費用については,廃掃法に基づく維持管理積立金制度
及び埋立完了までに内部
      留保された資金によってこれを確保でき,かつ,適切に使用されるよ
う管理できる見通しであ
      り,財政的基盤の裏付けもあること等に照らすと,本件処分場につい
ては,浸出水の水質が排
      水基準を充たさないような状態のまま閉鎖されたり,維持管理費用が
ないために水処理システ
      ムが停止されるような事態が生じる可能性は極めて低い上,排水基準
を充たしてもなお,人体
      への有害性があるものと認めるべき疎明はないから,結局,本件処分
場が閉鎖され,水処理シ
      ステム等の機能が停止される時点においては,埋め立てられた産業廃
棄物は十分に安定化して
      いることが見込まれるというべきである。
     c まとめ
       以上のとおりであって,埋立完了後に浸出水の発生防止を目的とす
るキャピラリーバリアー
      型覆土が採用され,樹木等の植栽効果が定着していくことにより,処
分場閉鎖までの10年間
      に浸出水の発生がなくなる状態に向かって,外部流出の可能性は極め
て低いものになるものと
      推測される上,処分場閉鎖の時点においては,本件処分場の浸出水水
質は排水基準を充たして
      いることが予測されるから,処分場閉鎖後においても,本件処分場か
ら人体を害するほどの有
      害物質が流出することはないとの立証があったものと認めるのが相当
であり,将来的な安全性
      も確保されていると評価することができる。
   ウ 債務者の経済的基盤について
  (ア)施設の設計,施工,維持管理及び運営管理等がいずれも適切に行われ
るためには,これを支え
   る資金的な裏付けが必要不可欠であるところ,疎明資料及び審尋の全趣
旨によると,債務者は,
   現在,本件処分場設置の事業を行っているのみで収益事業には着手して
おらず,本件事業計画の
   遂行過程において,主として工事費及び土地関連費用(本件予定地の買
収費用等)の債務合計2
   2億0408万5890円を負担している状況であること,その内訳
は,甲相続人に対する債務
   2億8300万円,V株式会社に対する債務2000万円,乙に対する
債務2億円,株式会社W
   に対する債務2億円,Y株式会社に対する債務3億4108万5890
円,丙に対する債務11
   億6000万円であること,これに匹敵する積極財産を有していないこ
とが一応認められる。
    他方,疎明資料によると,千葉県を含め首都圏では産業廃棄物の排出
量に比して最終処分場が
   不足している現状があること,産業廃棄物の減量化や再資源化が進んで
いることを考慮しても,
   今後も本件処分場のような管理型最終処分場の需要がなくなることはな
く,本件処分場について
   は,安定した売上高(収入)が見込まれる社会事情があること,本件処
分場における有償による
   処理容量は63万7480立方メートルであるところ(不法投棄された
産業廃棄物を中間処理後
   に無償で受け入れることを予定している5万5520立方メートルを除
いた分),千葉県におけ
   る管理型処分場の廃棄物処理料金は事業計画当初において想定していた
より若干上昇しており,
   平成13年10月から11月当時において1立方メートルあたり2万円
から3万5000円(平
   均2万7500円)となっていることが一応認められ,上記平均値2万
7500円を受入単価と
   し,インフレ率を1パーセントとして試算すると,総収入は181億9
255万2000円に達
   する(上述の事情に鑑みれば,上記平均値を採用することには合理性が
ある。)。そして,債務
   者は,本件事業遂行過程において,次のとおりの各種保険,すなわち,
土木工事保険及び請負賠
   償責任保険のほか,天災・不可抗力による施設の保全や補修のためな
ど,天災により施設の稼動
   ができない場合の収入を補填する天災保険・不稼動保険(年間保険料2
000万円程度の見込
   み),営業開始後処分場閉鎖までの間の雨による有害物質の漏出や有害
物質汚染による実害発生
   に対する補償,汚染を浄化するための費用や汚染防止の補修費用につい
て,補償額5億円を限度
   とする環境保険(埋立完了後は30年間を想定。年間保険料は埋立期間
中は1200万円,埋立
   完了後は300万円から100万円に漸減する見込み。)等に加入して
事業資金を保全するとと
   もに,環境事業団積立(廃掃法15条の2の3,8条の5に基づき,最
終処分場の設置者が埋立
   完了後も必要となる維持管理費用を埋立期間中に積み立てるもの。埋立
金額は都道府県知事が決
   定し,積立金の管理は環境事業団が行うため,処分場設置者が事由に処
分することはできない仕
   組みとなっている。)が法律上義務付けられていることから,これによ
っても埋立完了後処分場
   閉鎖までの間の維持管理資金(事業計画上8億4000万円を予定)を
保全し,更に,平成3年
   度税制改正により創設された租税優遇措置のある特定災害防止準備金制
度を利用して,10年間
   の埋立期間中に年間3000万円宛て総額3億円を事業準備金名目で積
み立て,かつ,事業準備
   金として総額3億円を開業後の6年間に年間5000万円宛て積み立て
ることによって,上記保
   険と合わせて危険防止,環境汚染防止のための原資とすることを計画し
ているところ,これを前
   提として,上記総収入額を基礎に債務者が作成した事業計画書及びキャ
ッシュフローの内容によ
   れば,10年で埋立を完了をした時点において,負債を全部返済した上
で9億4470万100
   0円が残るほか,災害防止準備金としての積立金3億円,事業準備金3
億円,環境事業団積立金
   8億4000万円が残る見通しであることが一応認められ,上記事業計
画の内容については,本
   件処分場の規模,施設内容,事業内容及び管理体制等,本件一件記録か
ら疎明される一切の事情
   に鑑み,施設の補修等を含む維持管理費,安全管理のための費用等の事
業経費が過小であるとは
   いえず,収支の採算性のある合理的な計画であると評価することができ
る。
    (イ)なお,上記事業計画は,債務者が金融機関から99億2000万円の
一括借入れを起こすこと
     が前提となっているところ,審尋の全趣旨によると,かかる事実を一応
認めることができる。債
     権者らは,債務者が借入先の金融機関を明らかにしない以上,そのよう
な健全な低利の借入れが
     可能であるとの裏付けがなく,信用できない旨主張するが,疎明資料及
び審尋の全趣旨により一
     応認められる事実,すなわち,債権者らのうちの一部の者が,債務者が
かつて本件事業資金の借
     入れのために融資交渉をしていた金融機関を訪れた際の経緯等に鑑みれ
ば,債務者が借入先の金
     融機関を直ちに公表しないことをもって,上記認定を左右するものでは
ない。
  (ウ)また,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件予定地には,現在,
債務者が本件事業のため
   に本件予定地の買収等を依頼したY株式会社等を債務者とする抵当権等
の担保権(被担保債務元
   本合計20億7500万円)が設定されていること,他方,債務者は,
当該被担保債権の主債務
   者でも連帯保証人でもないこと,債務者とY株式会社の間では,債務者
が土地代金の支払いをす
   るのと引き換えに,同社において債務者に対し,担保権の設定登記を抹
消した上で土地所有権の
   移転登記をする旨の合意が成立していることが一応認められる上,債務
者は,Y株式会社が上記
   担保権の設定登記の抹消をしなかった場合に備え,その抹消費用とし
て,元本合計額に相当する
   20億7500万円の予備費を事業計画中に計上して,これを確保して
いるのであるから,上記
   担保権の存在が,本件事業計画に支障を与えるようなことはないものと
の評価するのが相当であ
   る。この点につき,債権者らは,上記被担保債務には当然利息が発生し
ていることをも考慮する
   と,上記元本合計額が確保されているというだけでは不十分である旨主
張するが,債務者は上記
   債務を支払う法的な義務はない上,担保権が設定されていることにより
直ちに土地の利用が阻害
   されるものではなく,更に,本件処分場の営業を開始して産業廃棄物の
搬入をするためには,千
   葉県の使用前検査を受けた後,千葉県知事の営業許可を得る必要がある
のであって,その際,事
   業遂行能力に関連して経済的審査もなされ,上記担保権の設定登記の抹
消状況等についても考慮
   されることが見込まれるのであるから,債権者らの批判をそのまま採用
することはできない。
  (エ)以上に加え,疎明資料によると,債務者は,本件処分場の事業運営,
本件処分場施設の設計及
   び施工を担当し,かつ,技術関連業務の委託を予定しているB株式会社
から,資本参加を前提と
   して適正な運転維持管理体制の確立に協力する旨の確約を得ていること
が一応認められること,
   債務者は,債権者らの不安を解消するために,埋立完了後処分場閉鎖ま
での間の維持管理費の経
   済的裏付けとなる財団法人環境事業団積立金について,10年間の埋立
期間中に毎年8400万
   円ずつ積み立てることを予定している合計8億4000万円を,営業許
可を受けた後,本件処分
   場への産業廃棄物受入開始前までに,千葉県と協議の上,財団法人環境
事業団又はこれと同等の
   信用力,拘束力を有する機関に一括して積み立てること,この積立てが
完了するまでは,本件処
   分場に産業廃棄物を受け入れないことを約束する趣旨の確約書を当裁判
所に提出していること等
   の一切の事情を総合すると,債務者は,本件事業計画を十分に遂行する
に足りる経済的な基盤を
   有しているものと評価するのが相当である。
    (オ)まとめ
  以上のとおりであって,本件処分場事業は,採算性を保ちながらも,
必要な処分場施設の維持
 管理費,埋立作業等の安全管理費等を賄うことができるものといえる。
エ Aグループの債権者らについてのまとめ
  以上説示したところを総合すると,本件処分場については,計画どおり
の施設が建設,施工さ
 れ,施設の適切な維持管理及び埋立事業に関する安全管理がなされるもの
との立証がされたものと
 認めることができるから,前記Aグループの61名の債権者らの,本件処
分場の建設,使用,操業
 により生命,身体(健康)を害されるとの主張については,理由がない。
第4結論
 本件処分場の建設,操業,使用によって発生すると債権者らが主張する生
命,身体(健康)に対する
被害の可能性について,交通事故の危険に基づく主張については,被害発生の
具体的可能性を裏付ける
主張及び疎明がなく,大気汚染に基づく主張については,債務者において大気
汚染防止策を講じるので
あって,債権者らにおいて生命,身体(健康)を害される可能性を認めること
ができず,河川汚染に基
づく主張については,債権者らにおいて有害物質を摂取する具体的可能性につ
いての疎明がない。ま
た,地下水汚染に基づく主張については,地下水を介して健康被害を被る可能
性が認められた61名の
債権者らに関し,本件処分場の操業,使用による地下水汚染の可能性の有無,
すなわち,本件処分場か
ら有害物質が流出するか否かを,本件処分場施設の構造,処理能力等の観点か
ら考察を加え,さらに債
務者の経済的基盤及び事業計画における収支の内容についても検討した結果,
本件処分場施設が計画ど
おりに建設,施工され,かつ,施設の適切な維持管理及び埋立作業等における
適切な安全管理がなされ
ること,施設の維持管理を停止する処分場閉鎖時においては,浸出水の水質が
人体に対する有害性を喪
失したことが確認される制度的保障があること等の立証がなされたので,かか
る事実を総合し,本件処
分場の操業,使用等により有害物質が処分場外に流出し,地下水が汚染される
可能性はないものと認め
るのが相当である。したがって,債権者らの本件申立ては,被保全権利が認め
られないから,いずれも
理由がないものとして,これを却下することする(なお,本件処分場施設が付
帯設備を含めて計画どお
り建設,施工されることはもとより,各施設の適切な維持管理及び産業廃棄物
の受入審査等の安全管理
等が適切になされ,搬入作業管理等の環境汚染防止対策が確実に履行され,か
つ,これらを担保する情
報公開等の監視システムが機能すること等の全てが本件処分場の安全性の根幹
をなすものである以上,
上記のいずれかでも履行されず,または不十分であった場合には,本件処分場
の安全性の根拠,すなわ
ち,有害物質が外部流出しないことについての根拠を失うことになるから,改
めて,本件処分場の操業
等の差止めが認められる場合があり得ることを付言しておく。)。
   よって,主文のとおり決定する。
      平成15年6月4日
        千葉地方裁判所民事第4部
          裁判長裁判官 井 上   稔
             裁判官安 藤 裕 子
             裁判官木目田 玲子
別紙3 「本件処分場の概要」
1 施設の種類 
    産業廃棄物最終処分場(管理型)
2 処理する産業廃棄物の種類
    汚泥,燃え殻,ばいじん,鉱さい,がれき類,金属くず,廃プラスチック
類,ガラスくず及び陶磁
   器くず,木くず,紙くず,上記の廃棄物を処分するために処理したもの
3 設置場所 本件予定地
4 処理能力  埋立面積 4万7854平方メートル
 埋立容量 74万2838立方メートル
5 施設の概要(別添図面①ないし⑦参照)
 (1) 貯留構造物  
    土堰堤(高さ5メ-トル4段嵩ね)高さ18メ-トル
    他に中仕切堰堤1箇所
 (2) 複合型遮水工(別添図面⑧参照) 
    <5層構造部>
      底盤部   保護覆土(砂層。厚さ500ミリメートル)
            高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメー
トル)
            砂層(厚さ300ミリメートル)
            加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメー
トル)
            粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル,透水係数1
×10(-6乗)㎝/
            sec以下)
      法面部   保護層(厚さ10ミリメートル)
            高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメー
トル)
            不織布(厚さ10ミリメートル)
            加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメー
トル)
            粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル,透水係数1
×10(-6乗)
            ㎝/sec以下)
    <漏水検知システム>
      電流源電極線
      リード線
      解析用モニター等一式
 (3) 雨水排水設備
   場内小段側溝,外周U字側溝,場内U字側溝
    洪水調整池(本設1箇所,仮設1箇所),放流施設一式
    仮設沈砂池
 (4) 浸出水集排水設備
    浸出水集排水管本管(口径600ミリメートル)
    浸出水集排水管その他
 (5) 水処理施設
    処理施設一式(集水塔,送水設備,水処理装置,蒸発処理施設,浸出水・
処理水調整槽)
     水処理装置(方式)1工程:第1凝集沈殿処理
              2工程:生物処理(接触ばっ気)
              3工程:第二凝集沈殿処理
              4工程:砂濾過処理
              5工程:活性炭吸着処理
              6工程:キレート樹脂吸着処理
              7工程:滅菌処理
          (処理量)水収支計算に用いる処理水量
                       20.0立方メートル/日
     地下式貯留槽  浸出水原水貯留槽  4070立方メートル
   浸出水処理水貯留槽 3990立方メートル
     蒸発散装置   基準とする面積負荷 4.5リットル/㎡以下
          (蒸発量)        11.25立方メートル/日
          (処理量)水収支計算に用いる処理水量
                       15.0立方メートル/日
 (6) 外周遮水壁
    コンクリート製連続遮水壁
      地上高1.0メートル以上,地中部分深さ15メートル以上
 (7) 地下水集排水設備
 地下水集排水管本管(口径1000ミリメートル)
 底盤部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
 底盤部外周地下水集排水管(口径250ミリメートル)
 法面部地下水集排水管(口径200ミリメートル)
 小段部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
 (8) 管理施設
    管理塔
    地下水観測施設 集水塔1カ所,地下水観測井戸6カ所の合計7カ所
 (9) その他付帯施設一式
6 計画搬入量  10トントラックで1日あたり48台往復(年間9600台)
        (以
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