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判決 平成14年6月19日  神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1361号 
窃盗被告事件
           主      文
被告人を懲役1年に処する。
           理      由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年9月13日午後4時15分ころ,神戸市a区b町c字de
番地のf所在のAB店において,同店店長C管理の犬の餌10個と洗剤2本(販売
価格合計1万8860円)を窃取したものである。
(証拠の標目)
(省略)
(争点に対する判断)
1 検察官は,被告人が,ショッピングカートに猫砂のみを載せてレジでその支払
いをした後,再度店内に戻り,そのショッピングカートに犬の餌10個と洗剤2本
を載せた上,全ての商品の支払いが終っている振りをしてレジを通らずに店外に出
て,これらを窃取した旨主張するのに対し,弁護人は,被告人が,ショッピングカ
ートに猫砂とともに犬の餌10個と洗剤2本を載せてレジで支払いをしようとした
ところ,レジの店員が猫砂のみの代金の支払いを求め,犬の餌と洗剤については気
付かなかったことから,これらを盗もうと考え,そのまま店外に出て,これらを窃
取したにすぎない旨主張するので,この点について,当裁判所の判断を示すことと
する。
2 Dの警察官調書(甲8,9)及び証人Dの当公判廷における供述(以下「D証
言」という。)は,いずれも,Dが,被害店の警備員として勤務中,被告人の行動
を不審に思い注視していたところ,被告人が,ショッピングカートに猫砂のみを載
せてレジでその支払いをした後,再度店内に戻り,そのショッピングカートに別の
ショッピングカートに載せていた段ボール箱(後に犬の餌10個と判明)と陳列棚
から持ってきた洗剤2本を載せた上,全ての商品の支払いが終っている振りをして
レジを通らずに店外に出て,これらを窃取するところを目撃した旨いうものであっ
て,Dのこれらの供述は,上記の範囲においては符合しているし,またそのいうと
ころに特に不合理不自然な点は存しないから,信用に値するとみるべきである。
 弁護人は,Dの供述には変遷や矛盾する部分があるが,それは目撃していない
ことを目撃したと供述しているからであるなどと主張する。なるほど,Dの上記警
察官調書及びD証言を対比すると,被告人に対して不審を抱いた理由,被告人がシ
ョッピングカートに載せてレジでその支払いをした猫砂の数,被告人がショッピン
グカートを押すなどして移動した経路,被告人がショッピングカートに犬の餌の入
った段ボール箱と洗剤を載せた順序,Dがそれらの状況を目撃していた場所等につ
いていうところには,変遷や矛盾のあることが認められる。
 しかし,中心的で重要な部分の記憶が残り易いのに比べ,周辺的で重要でない
部分の記憶には変容が生じ易いことは経験則上明らかなところ,Dの供述のうち,
中心的で重要な部分については前述のように変遷はなく,周辺的で重要でない部分
について前記のような変遷等が生じているにすぎないのであるから,これをもっ
て,目撃していないことを目撃したと供述しているなどというのは失当であり,供
述の一貫している上記の中心的で重要な部分についての信用性までも疑うには至ら
ない。
3 また,被告人の警察官調書(乙3)は,本件当日に作成されたものであるが,
被告人が,ショッピングカートに猫砂4袋のみを載せてレジでその支払いをした
後,再度店内に戻り,そのショッピングカートに別のショッピングカートに載せて
いた犬の餌10個の入った段ボール箱と陳列棚から持ってきた洗剤2本を載せた
上,全ての商品の支払いが終っている振りをしてレジを通らずに店外に出て,これ
らを窃取したことを明確に認めており,そのいうところに特に不合理不自然な点は
存しないし,Dの上記警察官調書及びD証言のいうところともほぼ合致しているか
ら,その信用性は高いとみるべきである。
 弁護人は,被告人の警察官調書(乙3)について,警察官がDの警察官調書
(甲8)を見て作成したものであり,その内容についても,被告人は警察官から最
後まで読み聞けをされていないなどとして,その信用性がない旨主張する。
 しかし,被告人の警察官調書(乙3)には,被告人の当日の所持金や犯行の動
機等,Dの警察官調書(甲8)には記載されていないことが含まれている上,被告
人がショッピングカートを押すなどして移動した経路,被告人がショッピングカー
トに犬の餌の入った段ボール箱と洗剤を載せた順序等については,被告人の警察官
調書(乙3)とDの警察官調書(甲8)とでは異なっているのであるから,被告人
の警察官調書(乙3)がDの警察官調書(甲8)を見て作成されたものでないこと
が明らかであるし,また,被告人が公判供述において,警察官から最後まで読み聞
けをされていないなどというのも,そのままには信用することができず,弁護人の
主張するところから,被告人の警察官調書(乙3)の信用性を疑うには至らない。
4 被告人の検察官調書(乙4)及び被告人の公判供述は,いずれも,ショッピン
グカートに猫砂とともに犬の餌10個と洗剤2本を載せてレジで支払いをしようと
したところ,レジの店員が猫砂のみの代金の支払いを求め,犬の餌と洗剤について
は気付かなかったことから,これらを盗もうと考え,そのまま店外に出て,これら
を窃取したにすぎない旨いうものである。
 しかし,被告人のこの供述のとおりであれば,Dにおいて,被告人が万引きを
したのではないかとの疑いを抱くような状況があったとは思われないし,レジの店
員は,ショッピングカートに載せられていた猫砂に精算シールを貼付しているので
あるから,被告人の公判供述のいうように,ショッピングカートの下段に犬の餌,
上段の猫砂の下に洗剤が載せられていた場合はもちろん,被告人の検察官調書(乙
4)のいうように,ショッピングカートの下段に犬の餌と洗剤が載せられていた場
合であっても,それに容易に気付くであろうと考えられる上,猫砂4袋,犬の餌1
0個,洗剤2本の代金合計は2万円以上であって,被告人の供述する所持金1万2
~3000円では到底買えない額であるところ,被告人の公判供述は,犬の餌をも
っと単価の安いものと思っていたというのであるが,いかにも後から考えた弁解の
感をぬぐえないのであるから,被告人の検察官調書(乙4)及び被告人の公判供述
のいうところは,結局,不自然不合理であって,その信用性は乏しいというほかな
い。
5 してみると,被告人は,ショッピングカートに猫砂4袋を載せてレジでその支
払いをした後,再度店内に戻り,そのショッピングカートに犬の餌10個と洗剤2
本を載せた上,全ての商品の支払いが終っている振りをしてレジを通らずに店外に
出て,これらを窃取したものと認めるのが相当である。
(法令の適用)
罰条           刑法235条
宣告刑          懲役1年
訴訟費用の不負担     刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の事情)
 本件は万引き窃盗の事犯であるが,被告人は,これまでたびたび万引き窃盗を繰
り返し,平成4年9月には窃盗(書籍の万引き)の罪により懲役10月,3年間刑
執行猶予判決を受け,平成11年12月には窃盗(ビール,食料品等の万引き2
回)の罪により懲役2年,4年間刑執行猶予判決を受けておりながら,後者の判決
の刑の執行猶予期間中に,本件に及んだものであって,被告人には万引き窃盗の常
習性が窺えること,被告人は,ショッピングカート2台を利用し,嵩高くて価格の
安い商品の代金を支払った後,それを隠れ蓑にして他の比較的高額な商品を万引き
しており,犯行は計画的で巧妙なものであること,本件被害総額は1万8860円
と決して少ない額ではないことなどを考え併せると,犯情はよくなく,被告人の刑
事責任は軽くないといわざるを得ない。
 また,被告人は,本件当日こそ犯意の発生時期や犯行の具体的な態様について事
実を認める供述をしていたものの,その後,それを覆し,不自然不合理な弁解を繰
り返して,自己の刑事責任を軽減しようとしており,真摯な反省悔悟の情に乏しい
ことも,量刑上看過できないところである。
 してみると,本件被害は被害品の還付により回復していること,被告人も窃盗を
したこと自体については反省の弁を述べていること,本件で服役することになる
と,執行猶予中の前記の刑の執行も併せて受けなければならないであろうこと,そ
の他被告人の家庭の状況等の,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は
再度の刑執行猶予の言渡しをなすべき情状の事案とは認められず,主文の刑はやむ
を得ないところである。
(検察官の科刑意見 懲役2年)
よって,主文のとおり判決する。
    平成14年6月19日
      神戸地方裁判所第12刑事係甲
 
            裁判官  森   岡   安   廣

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