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平成13年(行ケ)第205号 商標登録取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成13年9月6日
判          決
    原      告     株式会社ネオジャパン
    訴訟代理人弁理士     柳   田   征   史
同            佐 久 間       剛
同            渋   谷   淑   子
訴訟復代理人弁理士    中   熊   眞 由 美
   被      告     特許庁長官 及 川 耕 造
    指定代理人        宮   下   行   雄
同            大   橋   良   三
    被告補助参加人      マイクロソフト コーポレーション
    訴訟代理人弁護士     中   村   勝   彦
    訴訟代理人弁理士     稲   葉   良   幸
    同            内   田   佐 江 子
主          文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が異議2000-90496号事件について平成13年3月30日に
した決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,別紙決定書の写しの末尾の「本件商標」の欄に示され
た「iOffice2000」の文字と数字から成り,商品及び役務の区分第9類「電子計算機
用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ,その他の電子応
用機械器具」を指定商品とする商標(平成10年12月8日,商標登録出願,平成
12年2月10日,商標登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
平成12年5月11日,本件商標について登録異議申立てがなされ,特許庁
は,同異議申立てを2000-90496号事件として審理した結果,平成13年
3月30日に「登録第4360859号商標の商標登録を取り消す。」との決定を
し,その謄本は,同年4月16日,原告に送達された。
 2 決定の理由
決定は,別紙決定書の写しのとおり,本件商標は,小文字筆記体で表示され
た「i」の文字が付記的な文字として看取され,その構成中の「Office2000」の文
字をもって取引に資される場合が少なからずあること,登録異議申立人(本訴の補
助参加人。以下「マイクロソフト」という。)の「Office」シリーズのパソコ
ン用ソフトウエアの商標(以下「Officeシリーズ商標」という。)は,マイクロソ
フトの商品を表示するものとして取引者・需要者の間において広く認識されている
ことを認定し,この認定を前提に,本件商標はOfficeシリーズ商標と類似するこ
と,原告による本件商標の使用には不正の目的があることを認定し,これらの認定
に基づき,本件商標は,商標4条1項19号に違反して登録されたものであるか
ら,その登録を取り消すべきである,と判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定は,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標が日本国内又は外国における
需要者の間に広く認識されている商標であると誤って認定・判断し(取消事由
1),本件商標がOfficeシリーズ商標と類似していると誤って認定・判断し(取消
事由2),原告が不正の目的をもって本件商標を使用していると誤って認定・判断
したものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすこと
は明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り)
(1) 決定は,マイクロソフトがパソコン用ソフトウエアに使用している
Officeシリーズ商標が,本件商標の出願時において,既にマイクロソフトの業務に
係る商品を表示するものとして,取引者・需要者間において広く認識されていたも
のとみるのが相当である,と判断している。
  しかし,「Office」とは,そもそも,仕事,事務所,会社などを意味する
英語であり,日本では広く知られた英語である。そして,これに対する片仮名語で
ある「オフィス」も,「仕事をする場所」を意味する日本語(外来語)として,古
くから日本に定着しているものである。
  オフィスで仕事に使用するのに適した,ワープロ用ソフトウエア,表計算
用ソフトウエア,データベース用ソフトウエア,電子メール用ソフトウエア,スケ
ジュール管理用ソフトウエア等の異なる用途のソフトウエアをセットにしたパソコ
ン用ソフトウエアは,「オフィスソフト」として知られている。マイクロソフトの
Officeシリーズ商標は,正にこの「オフィスソフト」に使用されているのである
(オフィスソフトとしては,Microsoft Officeのほかに,ロータスの「Super
Office」,「SuperOffice2000」や「一太郎 Office8」,「Justsystem
Office9」などがある。)。したがって,オフィスソフトについて「Office」の表示
を使用するときには,この表示は,商品の用途・機能等の品質を表すものとして認
識理解されるにとどまり,これが自他商品識別機能を発揮することはあり得ない
(例えば,テニスシューズについて,「テニス」との文字を使用しても,この文字
が自他商品識別標識として機能することはないのと同様である。)。これに自他商
品識別機能を与える文字あるいは図形が結合して初めて,自他商品識別機能を有す
る商標となり得るのである。
  本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にあると考えられる商品を指定
して出願された商標であって,「Office」という文字をその構成に含む商標は,本
件商標の登録出願時である平成10年12月8日において,少なくとも120件が
登録又は出願され,少なくとも25種類のソフトウエアが11社によって既に発売
されて市場に流通しており,本件商標の設定登録時には,少なくとも102件が既
に商標登録され,少なくとも31種類のソフトウエアが11社から販売されて市場
に流通していた。なお,マイクロソフトの「Office95」よりも早い時期から販売さ
れていたソフトウエアとしては,富士通ビーエスジーの「MROfficeVer.1.0」(平
成3年),NECの「StarOffice」及びジャストシステムの「OfficeManager2」が
既にあった。また,オフィスソフトについては,前記の各商標のほかにも,富士通
のTeamWAREOffice,その他ImageOFFICE,StarOffice等の製品がある。このよう
に,オフィスソフトの取引者は,「Office」の文字をソフトウエアの機能,用途な
どを示す品質表示として認識しているのであり,自社のオフィスソフトの機能や内
容を記述するための表示としてその製品名の一部に「Office」を取り入れているの
である。複数の取引者が「Office」に他の文字を付加した商標を製品名として採択
していたことは,取引者が「Office」自体には自他商品識別力がないと認識してい
たことを裏付け,ひいては,「Office」の文字は,商標としての識別力を備えてい
ないこと,仮に備えているとしても,その識別力は格別に弱いことを意味する。
  マイクロソフトがそのオフィスソフトに使用する正式名称は,「Microsoft
 Office」である。同社は,他社の同種の商品とともにOfficeシリーズ商標を使用
するときは,これに「Microsoft」あるいは「MS」の文字を必ず付記して使用してお
り,他人がOfficeシリーズ商標を記事に掲記する場合も同様である。すなわ
ち,Officeシリーズ商標に接した取引者・需要者は,「Office」によってではな
く,これに付された「Microsoft」あるいは「MS」といった他の文字によって,初め
て,マイクロソフトの商品であると認識することができるのであり,「Office」の
みによってマイクロソフトの商品であると認識することはできないのである。
  このように,マイクロソフトの業務に係る商品を表示するものとして,取
引者・需要者間において広く認識されていた商標は,「Office」ではな
く,「Microsoft Office97」や「MS Office98」,あるいは,「Microsoft 
Office」や「MS Office」等である。決定は,上記周知商標の構成文字中の
Officeシリーズ商標部分のみを取り出してこれを周知商標であると認定したのであ
り,その認定・判断は誤りである。
(2) 本来的に自他商品識別力がない文字等であっても,使用によって識別力を
獲得することはあり得る。しかし,そのためには,特定の者によって相当期間かつ
独占的に使用されることが不可欠であるというべきである。マイクロソフトが
Officeシリーズ商標の使用を開始した時期は,平成7年暮れである。前記のとお
り,そのときには既に複数の取引者がソフトウエア業界で「Office」を製品名に使
用していたから,マイクロソフトが同業界において独占的に「Office」という文字
を含む商標を使用していた時期は存在しない。そのため,マイクロソフトは,自己
の商品を他社の商品と識別させるために,「Microsoft」あるいは「MS」
を,「Office」と一体化させて出所を表示してきたものである。このような経緯か
らすれば,Officeシリーズ商標が単独でマイクロソフトの商品の出所を識別する標
識として,取引者・需要者の間で広く認識されていた,とみることができないこと
は明らかというべきである。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断
の誤り)
(1) 決定は,本件商標の「語頭に位置する「i」の文字は,他の構成文
字「Office2000」とは明らかに相違する小文字筆記体により表示されているもので
あるから,該「i」の文字は付記的なものとして看取されるとみるのが相当であり,
本件商標は構成中の「Office2000」の文字をもって取引に資される場合が少なから
ずあるものというべきである。」(決定書6頁37行~7頁4行)と認定してい
る。
  しかし,本件商標の構成中,語頭に位置する「i」とこれに続く「O」は,
同じ大きさ及び太さで表されており,また,語頭に位置する「i」と中程に位置す
る「i」とは,大きさは異なるものの,全く同じ字体であり,全体として統一された
デザインの下でまとまりのよい一体不可分の構成となっているのである。また,本
件商標から生じる称呼「アイオフィス」は,5音からなり,比較的短いものである
から,これを一気一連に「アイオフィス」と発音するのを妨げる事情はなく,実際
の取引社会においても,「アイオフィス」とのみ称されている。
  本件商標の「i」の文字は,英語で,「私は」を意味する「I」と同じ文字
であって,需要者に最も親しまれている英単語である。また,近年では,「i」の文
字は,「e」の文字と同様に,インターネット等の情報通信技術を利用した商取引を
示唆する意味合いで用いられることも少なくなく,本件商標は,全体として,「イ
ンターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」といった
イメージを需要者に喚起するものである。「i」と「Office」の結合は,観念的に不
自然ではなく,上記イメージを想起させることによって,需要者に無理なく受容さ
れ記憶されるものである。そうである以上,本件商標における語頭の「i」の文字
は,自他商品識別標識として重要な役割を果たしているということができるのであ
り,商品の品質を表す語である「Office」と一体不可分に結合することによって,
一つの造語「iOffice」を構成し,本件商標に自他商品識別機能を生じさせているの
である。
  上述したところに,前記のとおり,①オフィスで仕事用に用いられるソフ
トウエアが「オフィスソフト」と呼ばれていること,②「Office」の文字は,ビジ
ネス用のソフトウエアを意味する表示としてメーカー各社によって多用されてお
り,本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある商品について,「Office」を
構成文字に含む商標が多数出願ないし登録されていること,③「Office」は,他の
語と一体的に結合して造語を作成する役割を果たしているにすぎず,自他商品識別
標識としての機能を具有していないことを,さらに,④ローマ字を商品の型番や種
別を表すための記号として使用する場合は,商標又は商標の主要部の後ろに表示す
るのが通常であり,商標の前に型番を表示する例は極めて稀であるため,本件商標
の語頭の「i」は,型式等を表す付記的な符号ではあり得ないことをも加えて,考察
すると,決定が,本件商標の語頭の「i」の文字を,付記的な表示と認定したのが,
誤りであることは,明らかというべきである。
(2) 原告は,平成11年2月から,会社の職場での作業の生産性を向上させる
ための,電子メールやデータベース等を使って社内情報を共有し又は交換するため
のソフトウエア(電子メール,電子会議システム,掲示板,共有データベース,ス
ケジュール管理,文書管理,共有アドレス帳などの機能を有するグループウエア)
に本件商標を使用し,これを販売している。本件商標は,原告により広告宣伝がな
される以外にも,日刊新聞や各種コンピュータ関連雑誌に相当数の紹介記事が掲載
されたり,インターネットで提供されるコンピュータ関連製品に関するニュース記
事にも度々取り上げられたりしており,遅くともその設定登録時までには,「アイ
オフィスニセン」又は「アイオフィス」という称呼で,取引者・需要者の間におい
て相当程度認知されていたと推認されるものである。したがって,本件商標中
の「Office」又は「Office2000」の部分のみが全体から分離して把握され,そこか
ら独立の称呼又は観念が生まれ,これが独立の自他商品識別標識として認識されて
いる,というような事情は存在しないということができる。
  特に,本件商標の指定商品は,「電子計算機用プログラムを記憶させた電
子回路・磁気ディスク・磁気テープ,その他の電子応用機械器具」であるか
ら,「Office」との部分は,指定商品との関係において,商品がオフィス用といっ
た品質を表すものとして認識理解されるにとどまり,独立して商品の出所識別標識
として機能することはない。したがって,本件商標の語頭の「i」の文字は,自他商
品識別力を発揮する部分として重要な役割を担っているのであり,語頭の「i」の文
字を省略した「Office」又は「Office」の部分のみが独立して取引に資されること
はない。
  このように,本件商標からは,「アイオフィス2000」という称呼が生
じるのであり,本件商標から「i」のみが切り離されて,「Office」あるい
は「Office2000」の文字のみが取引に資される場合はないと考えられる。したがっ
て,本件商標から「i」のみを切り離し,「Office2000」の文字のみが独立して自他
商品識別標識として機能すると認定し,この認定を前提に,本件商標とOfficeシリ
ーズ商標とが類似するとした決定は,類似性の判断を誤るものである。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り)
(1) 決定は,「商標権者は申立人使用商標が,本件商標の出願前より世界的に
周知・著名であった事実を知りながら,申立人使用商標である「Office」と同一の
文字をその商標中に含み,申立人使用商標と商標において類似する本件商標を出願
したものであり,商標権者が本件商標を採択使用する行為には不正の目的があった
ものと推認せざるを得ない。」(決定書7頁24行~28行)と認定判断してい
る。
  しかし,商標法4条1項19号において,不正の目的とは,「不正の利益
を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう」と規定されてお
り,具体的には,外国では周知であるものの我が国では知られていない他人の商標
と同一又は類似の商標を,その外国の権利者に高額で買い取らせる目的,その権利
者の国内参入を阻止する,若しくはその権利者に代理店契約締結を強制する目的,
あるいは,日本国内で全国的に知られている他人の商標と同一又は類似の商標につ
いて,出所表示機能を希釈化させたり,その名声を毀損させたりする目的が,審査
基準に例として挙げられている。しかし,原告による本件商標の使用は,明らか
に,これらには該当しない。原告は,前記のとおり,原告自身が商品を開発し,販
売する目的で,本件商標を出願し,使用しているものであり,そのために,マイク
ロソフトのOfficeシリーズ商標とは区別された状態で本件商標を使用しており,上
記のような不正な目的は全く有していない。
  本件商標が商標法4条1項19号の規定に該当するか否かは,本件商標の
出願時を基準に判断しなければならない。マイクロソフトが「Microsoft 
Office2000」や「MS Office2000」を採択して使用しだしたのは,本件商標の登録
出願時よりも後であり,本件商標の登録出願時には,上記各商標は,全く知られて
いなかった。本件商標の登録出願は,「Microsoft Office97」や「MS Office98」
が周知商標であったとしても,「Microsoft Office2000」あるいは「MS 
Office2000」が次世代のオフィスソフトの商標として使用されることは,予測でき
ないことであった。まして,同オフィスソフトの発売時期がいつになるかなどは,
全く不明であった。
  原告が本件商標を登録出願した平成10年(1998年)12月8日ころ
は,まもなく訪れる西暦2000年を迎える祝祭的な雰囲気が社会に高揚し,「2
000年」や「NewMillenium」にちなんだ記念商品や行事が競って企画された時期
と重なる。実際に,このころは,「2000」を含む商標が相当数集中して出願さ
れている。平成2年(1990年)から平成13年(2001年)までの12年間
に出願された「2000」を構成文字に含む商標全体のうち,その約60%が平成
10年(1998年)1月1日から平成12年(2000年)12月31日までの
期間に出願されている。これを本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある商
品であるコンピュータ・ソフトウエア,同ハードウエア,同周辺機器及びコンピュ
ータによって制御される各種産業機器に関してみると,いわゆる2000年問題
(コンピュータの誤作動問題)を克服していることを需要者に簡明に伝えるため
に,「2000」という表示を商標に使用する必要があったことから,「200
0」を構成文字に含む商標のうち,約68%が前記期間に登録出願されている。
  本件商標は,語頭の「i」の文字を,太く,筆記体で記し,「Office」
の「O」の文字と一体性を持たせてデザインし,語尾に4桁の数字を付してなるもの
であり,マイクロソフトの「Microsoft Office97」あるいは「MS Office97」等と
は明確に区別される商標であって,「i」と「Office」とは一体不可分であることか
ら,「アイオフィス2000」とのみ称される商標であって,「Microsoft 
Office97」等を希釈化させるおそれもないのである。
(2) マイクロソフトのオフィスソフトである「Microsoft Office2000」は,
本件商標の出願時から約6か月後の平成11年6月に米国で販売され,同年7月9
日に日本で販売が開始されたものであり,本件商標の出願時には,市場には存在し
ていない。実際に商品の販売が開始されていない名称について,数点の報道記事が
存在することのみを根拠として,同業者であれば当然に知っていたと推定される程
度に周知になっていたと認定することは困難である。このような状況の下で,原告
が「Office」や「2000」という文字を使用したからといって,これらの文字には,自
他識別力もなく,周知性や著名性もない以上,原告の使用に不正の目的がなかった
ことは明らかである。また,「Office」と「2000」は,いずれも取引者による自由
な使用が認められるべきものであり,これらを特定人に独占させることが,公正な
競業秩序と流通秩序の維持形成によって国民経済活動の発達を図ることを旨とする
商標法の目的に反することは,明白である。
第4 被告の反論の要点
決定の認定・判断は正当であり,決定に原告主張の違法はない。
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り)に
ついて
  「Office」は,「事務所,会社,仕事場」を意味する英語であり,この語
が,原告の主張するように,仕事をするのに適したパソコン用ソフトウエアの用途
や品質等を表示する語として認識されているという事実はない。この語は,実際の
商品取引においては,マイクロソフトの「事務用アプリケーションソフトウエアパ
ッケージ」であるMicrosoft Officeを称するものとして用いられているのである。
  原告は,Officeシリーズ商標に接した取引者・需要者は,「Office」によっ
てではなく,これに付記された「Microsoft」あるいは「MS」といった他の文字によ
って,初めて,マイクロソフトの商品であると認識することができるのであ
り,「Office」のみによってマイクロソフトの商品であると認識することはできな
い,と主張する。
  しかし,「日経パソコン新語辞典 2001年版」や同99年版に
は,「Office97」の項にマイクロソフトのオフィスソフトである旨の説明があり,
また,平成9年2月27日付け日経産業新聞でも,「マイクロソフト・・・統合ソ
フト最新版「オフィス97日本語版」・・・現行版の「オフィス95」は日本で最
も売れているパソコン用アプリケーションソフト」等の記載があり,平成9年2月
2日付けの毎日新聞(大阪朝刊)にも,「マイクロソフトは・・・ビジネスソフト
を統合したソフト「オフィス」の最新版「97」を3月14日発売する」等の記載
がある。さらに,平成10年9月7日付けの日経産業新聞には,「マイクロソフト
は4日・・・統合ソフト「オフィス98マッキントッシュ版」を発売した」との記
載がある。このように,Microsoftのような周知性の高い代表的出所表示部分を省略
して,個別商標部分のみをもって称呼し,商品を識別していくことは,よくあるこ
とであり,マイクロソフトのソフトウエアにおいても,「Microsoft」という商標を
使用することなく,「Office」や「Office97」等のみが使用されることは多いので
ある。
  何よりも着目すべきことは,マイクロソフトの「Office」シリーズのソフト
ウエアは,全世界で非常に高額の売上げを達成し,高いシェア(市場占有率)を維
持してきているという事実である。この事実の当然の結果として,取引者・需要者
は,パソコンのソフトウエアに「Office」や「Office95」,「Office97」等の商標
が使用されたときに,マイクロソフトの商品であると認識する状況が生まれていた
のである。
  このよう状況の下で,マイクロソフトは,近く「Office2000」を発売するこ
とを,平成10年6月に米国において公表しており,また,同年6月ないし7月に
は,マスコミにより日本においてもその旨が紹介されている。また,マイクロソフ
ト株式会社(日本法人)は,平成10年11月11日に,Office2000の発表会を開
催した。さらに,同年11月10日発行の日経パソコン新語辞典(99年版)に
も,「Office2000」の項に「米マイクロソフトが99年発売を予定しているオフィ
スソフトの次期バージョン」との記載が既になされている。
  このように,マイクロソフトの「Office」シリーズのパソコン用ソフトウエ
アは,バージョンアップ(優れたものへの改訂)とともに着実にユーザーを増や
し,個人ユーザーから企業まであらゆる場面において使用されるビジネス用ソフト
ウエアの定番としての地位を築くまでに至っており,「オフィス」,「オフィス 
95」,「オフィス 97」,「オフィス 9
8」,「Office」,「Office95」,「Office97」,「Office98」等の商標は,本件
商標の出願時においては,マイクロソフトの業務に係る商品を表示するものとし
て,取引者・需要者の間において広く認識されるに至っていたのであ
り,「Office2000」という商標も,平成10年6月には公になり,マイクロソフト
の人気商品である「Office」シリーズの最新商品として,発売のかなり前から注目
を集め,遅くとも本件商標の出願より前には,マイクロソフトの業務に係る商品で
あることを示す商標として,著名なものとなっていたことが明らかである。
  なお,原告は,Officeを含む商標は,本件商標の登録出願時には,120件
が登録又は出願され,本件商標の設定登録時には,102件が設定登録されてい
た,と主張する。しかし,原告が指摘する商標は,いずれも構成文字中
に「Office」を含むというだけで,そのほとんどが「Office」とは類似性が認めら
れないような商標である点に留意すべきである。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断
の誤り)について
(1) マイクロソフトの「Office2000」の商標は,前記1のとおり,本件商標の
出願前には,マイクロソフトがそのオフィスソフトに使用する商標として,取引
者・需要者間において広く認識されるに至っていたものである。
  本件商標は,「iOffice2000」である。その語頭の「i」と「Office」の文
字は,書体が異なることから,視覚上一体的に看取されず,語頭の「i」の文字は,
付記的なものとして看取されることになる。加えて,その11文字は,全体として
熟語的意味合いを有するものではない。そして,語頭の「i」の文字を除い
た「Office2000」の文字は,上述のとおり,マイクロソフトの商標として,取引
者・需要者の間で広く認識されているものであるから,本件商標
は,「Office2000」の文字を含む商標であることを容易に理解させるものである。
そうである以上,本件商標は,「Office2000」の文字部分をもって取引に資される
場合が決して少なくないというべきであり,「オフィスニセン」の称呼をも生じる
ものとみるのが相当である。したがって,本件商標とマイクロソフトのOfficeシリ
ーズ商標の一つである「Office2000」とは,称呼を共通にする類似の商標であると
いうべきである。
  また,本件商標の語頭の「i」の文字を除いた部分は,マイクロソフトの著
名な商標である「Office2000」と同一の綴り字からなるものであって,両者は,外
観及び観念においても,互いに紛らわしいものである。
(2) 原告は,「i」の文字がインターネット等の情報通信技術を利用した商取
引を示唆する意味合いで用いられることも少なくなく,本件商標は,全体として
「インターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」とい
ったイメージを喚起するものであるから,「i」の文字と「Office」の文字とが一体
不可分に結合し,一つの造語を構成する,旨主張する。しかし,「iモード」及
び「imode」等の文字であれば,「インターネットを利用した情報提供等を受けられ
るサービス」を認識させるとしても,本件商標の「i」の文字が,単独で,「インタ
ーネット等の情報通信技術を利用した」商取引を示唆する意味合いを有するとは,
到底認められない。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項19号は,主として,外国で周知となっている商標につい
て不正の目的をもってなされる商標登録出願を排除すること,及び,全国的に著名
な商標について,出所の混同のおそれがないときにも,出所表示機能の希釈化から
保護することを,目的としているものである。
  これを本件商標についてみれば,本件商標の構成中「Office2000」の文字
は,マイクロソフトが使用する「Office2000」と同一である。そして,マイクロソ
フトは,平成10年6月16日には,ニューヨークにおいて開催されたPCExpoに
おいて,「Office2000」の名称を公表し,同年6月あるいは7月には,日本におい
ても,マイクロソフトにより「Office2000」の商標が採択されたことが,マスコミ
により紹介されている。マイクロソフト株式会社(日本法人)も,本件商標の登録
出願前である平成10年11月11日に,「Office2000」をOfficeシリーズ商標シ
リーズの商標として採択したことを公表している。このように,マイクロソフト
の「Office2000」商標は,平成10年6月に公になり,同社の人気商品である
Officeシリーズの最新商品として,発売のかなり前から世間の注目を集め,遅くと
も原告が本件商標を出願する前に,既に取引者・需要者間に広く認識されるに至っ
ていたものである。
  これに対し,本件商標は,全体として特定の意味合いを有する熟語ではな
く,取引者・需要者の間に広く認識されている「Office2000」の文字を含む商標で
あると容易に理解させ得るものである。
  原告は,ソフトウエアの開発・販売等を行っている業者として,マイクロ
ソフトがそのオフィスソフトに使用する商標である「Office2000」の情報に当然に
は,精通しているはずである。そうである以上,原告は,この情報を知りながら,
これと酷似する本件商標を出願したものというべきであって,マイクロソフトが使
用する著名なOfficeシリーズ商標にただ乗り(フリーライド)しようとしたものと
いわざるを得ず,原告による本件商標の使用は,不正の目的をもってするものであ
ることが明らかである。
(2) 原告は,「Office」又は「2000」をその構成文字に含む登録商標が多数存
在する,と主張する。しかし,「Office」と「2000」を共に含む商標は,登録されて
いないことに留意すべきである。原告は,「Office」と「2000」を共に含む商標を,
単に「i」という文字を語頭に付しただけで,「電子計算機用プログラムを記憶させ
た電子回路,磁気ディスク,磁気テープ,その他の電子応用機械器具」を指定商品
として出願し,登録を得ているのであって,原告の上記行為が,「Office」又
は「2000」を構成文字に含む商標を使用する他の第三者の行為と質的に大きく異なる
ことは明らかであり,原告がマイクロソフトのOfficeシリーズ商標の周知性にただ
乗り(フリーライド)しようとした意図は容易に看取できる。原告の本件商標の使
用により,マイクロソフトがこれまで多大な費用をかけて築き上げてき
た「Office」や「Office2000」等のOfficeシリーズ商標の周知性・著名性が希釈化
され,顧客吸引力が失われることは明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り)に
ついて
(1) 決定は,決定書7頁5行ないし19行において,マイクロソフトのビジネ
ス統合ソフトである「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ
版及び「Office2000」の売上等について認定したうえで,「申立人(判決注・マイ
クロソフト)の使用に係る商標「Office」(・・・)シリーズのパソコン用ソフト
は,本件商標の出願時においては既に,申立人の業務に係る商品を表示するものと
して,取引者・需要者の間において広く認識されていたものとみるのが相当であ
る。」(決定書7頁20行~23行)と認定判断している。ここで,「申立人の使
用に係る商標「Office」シリーズのパソコン用ソフト」とは,上記
の「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ版及
び「Office2000」を意味していることは明らかであるので,マイクロソフトの上記
各商標の,本件商標の出願時における周知性について,次に判断する。
(2) 括弧内に記載した各証拠によれば,次の事実が認められる。
① マイクロソフトは,ワープロソフトのワードや表計算ソフトのエクセル
などを組み合わせたオフィスソフト(パッケージソフトないしはビジネス用統合ソ
フトともいう。米国では,オフィス・スイートともいわれる。)であ
る「Office95」を平成7年(1995年)11月に発売した。「Office95」は,パ
ソコン用のオペレーティングシステムであるウインドウズ95やウインドウズNT
上で稼動するソフトウエアであり,わずか1年余りで300万本以上が販売され,
オフィスソフトとしては,日本において最も多く販売され,極めて高いシェア(市
場占有率)を有するオフィスソフトとなった。(乙5の1,乙6の1,乙10の
1,乙13)
② マイクロソフトは,平成9年3月14日,上記「Office95」をバージョ
ンアップ(より優れたものへの改訂)したオフィスソフト「Office97」を発売し
た。Office97は,Office95の改訂版であり,これには,ワープロソフトの「ワード
97」,表計算ソフトの「エクセル97」,プレゼンテーションソフトの「パワーポイン
ト97」,電子メールなどの共同作業用ソフトの「アウトルック」等が組み込まれ
た。Office97は,Office95と同様にマスコミ等でも取り上げられて,反響を呼
び,Office97を学習するためのビデオソフトがNECなどから販売されたりした。
(乙4の1・2,乙5の2・3,乙6の1~3,乙7の1・2,乙10の1)
③ マイクロソフトは,平成10年(1998年)9月,アップルコンピュ
ータのマッキントッシュ用の「ワード98」や表計算ソフト「エクセル98」,ブ
ラウザーソフトの「インターネット・エクスプローラー4」等を収録したオフィス
ソフト「Office98」マッキントッシュ版を発売した。(乙8,乙9の1・2,乙1
0の2)
④ マイクロソフトは,平成10年(1998年)6月16日に米国で開催
されたPCExpoで,「Office97」の次のバージョン(改訂版)のソフトウエアの名
称が「Office2000」となることを公式に認め,これがその翌日以降日本でもインタ
ーネットその他のマスコミを通じて知られるようになり,同年11月11日には,
マイクロソフト株式会社(日本法人)が,日本において,「Office2000」の概略や
新機能を説明する発表会を開催した。また,平成10年10月1日発行の日経パソ
コン新語辞典99年版には,既に「Office2000」について,「米マイクロソフトが
99年発売を予定しているオフィスソフトの次期バージョン。」との解説が掲載さ
れている。(乙11~乙16)
⑤ マイクロソフトは,平成11年(1999年)7月に,「Office2000」
の発売を開始した。(丙1)
⑥ マイクロソフトのオフィスソフトであ
る「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ
版,「Office2000」は,「Microsoft」あるいは「MS」と併記されて紹介されたり,
引用されたりすることも多く,マイクロソフト自身,「MICROSOFTOFFICE2000」と
の商標登録を得ている(甲49~甲65,甲67の1・2,甲241~甲248,
甲254,甲257,甲262,甲265~甲277,甲284の1~6)。
  しかし,上記「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッ
シュ版,「Office2000」は,「Microsoft」あるいは「MS」との商標と離れて,単独
で紹介されることも多く,例えば,「わかりやすいコンピュータ用語辞典」(株式
会社ナツメ社・平成8年1月15日発行)では,「Office」との項目につい
て,「Microsoft社の事務用アプリケーションソフトウェアパッケージ。」との説明
が付されており,日経パソコン新語辞典99年版(日経BP社平成10年10月1
日発行)では,「Office97」との項目について,「マイクロソフトが97年3月に
発売したWindows95/NT用のオフィスソフト。」との説明が付されており,同新語辞
典2001年版(平成12年10月2日発行)には,「Office2000」との項目につ
いて「マイクロソフトが1999年7月に発売したオフィスソフトの最新バージョ
ン。」との説明がある(乙3,乙5の2・3)。そして,新聞やパソコン関連の雑
誌の記事やインターネットのホームページ等においても,マイクロソフトのオフィ
スソフトを示す語として,「Microsoft」や「MS」と離れて,「オフィ
ス」,「Office95」,「オフィス95」,「Office97」,「オフィス
97」,「Office98」,「オフィス98」及び「Office2000」,「オフィス2000」等が
それぞれ単独で記載されることも極めて多い(甲249~甲253,甲255,甲
256,甲259,甲261,甲263,乙4の1・2,乙6~乙16(各枝番を
含む。),丙5~丙12,丙21~丙23,丙27~丙34)。
(3) 前記(2)認定の事実及び前記(2)⑥に記載した各証拠によれば,マイクロソ
フトのオフィスソフト(ワープロソフトや表計算ソフトその他のビジネスに必要な
ソフトを統合したソフト)であるOffice95とそのバージョンアップ版(改訂版)で
あるOffice97及びOffice2000は,米国及び日本並びにその余の世界各国において普
及している,パソコンのオペレーティングシステムであるウインドウズ上で稼動す
るオフィスソフトの中で,最も大量に販売され,極めて高いシエア(市場占有率)
を有するビジネス用ソフトウエアであると認められ,また,その商標である
Office95,Office97,Office2000の語は,Officeという文字と西暦とを組合せたも
のであるから,それだけでは,本来,オフィスソフトにおける商標として,自他商
品識別力が十分であるとは認められない性質のものであるものの,前記(2)のよう
な,宣伝,広告,マスコミによる情報伝達,雑誌等の各種の記事等,及び,それに
よって表示されるオフィスソフトの爆発的な売上げ自体から,取引者・需要者の間
において,それら単独でも極めて著名な商標となっていったものであることが認め
られる(Office98マッキントッシュ版も,既にOffice95及びOffice97が著名であっ
たことから,同オフィスソフトのマッキントッシュ版として,同様に著名となった
ものと認められる。)。また,その著名となった時期については,Office95は,そ
の発売された平成7年11月から1年以内に300万本以上が販売されたものであ
るから,遅くとも平成8年初めころには,マイクロソフトのオフィスソフトを表す
商標として著名となったものと認められ,そのバージョンアップ版である
Office97及びマッキントッシュ版であるOffice98も,遅くとも平成9年3月及び平
成10年9月にそれぞれ発売されるころには,既に著名であったOffice95のバージ
ョンアップ版あるいはマッキントッシュ版として,Office95の著名性をそのまま承
継し,著名な商標となったものと認められる。そして,Office2000については,そ
れによって表示される商品の発売自体は,平成11年7月であるものの,既に平成
10年6月には,マイクロソフトにより,著名なOffice97のバージョンアップ版と
して,「Office2000」の名称で発売されることが,少なくとも米国において公式に
発表されており,その後,日本においても次期バージョンアップ版の正式名称
が「Office2000」となることが様々なマスコミを通じて伝えられ,また,マイクロ
ソフト株式会社(日本法人)が同年11月11日には,日本におい
て「Office2000」の発表会を正式に開催していることからすれば,商標としては,
遅くとも本件商標が出願された平成10年12月8日よりも前には,米国及び日本
において,マイクロソフトの著名なオフィスソフトであるOffice95及びOffice97の
バージョンアップ版の商標として,Office95及びOffice97の著名性を承継し,既に
著名な商標となっていたものと認められる。
  以上によれば,マイクロソフトのOfficeシリーズ商
標(Office95,Office97,Office98マッキントッシュ版,Office2000)は,本件商
標の出願時において,同社の業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要
者の間において広く認識されていたものとみるのが相当である,旨の決定の認定・
判断は,何ら誤りではない。
  原告は,オフィスソフトにOfficeとの文字を使用しても自他商品識別機能
がない,本件商標の出願時等においてOfficeをその構成中に含む商標は多数登録な
いし出願されている,Officeシリーズ商標は,MicrosoftあるいはMSの文字が必ず付
記されて使用されているとして,Officeシリーズ商標の周知性を争う。しかし,上
述のとおり,Officeシリーズ商標は,オフィスソフトについての,Officeとの文字
と西暦を表す数字とを組み合わせた商標であることから,本来ならば,自他商品識
別機能が十分ではない性質のものではあるものの,マイクロソフトのオフィスソフ
トの商標として,MicrosoftないしはマイクロソフトあるいはMSの文字とともに使用
され,宣伝広告され,あるいは,マスコミ等により各種の記事及びホームページ等
で取り上げられたこと,これによって表示されるオフィスソフト自体が爆発的な売
行きとなったことから,少なくとも米国及び日本において,マイクロソフトのオフ
ィスソフトを表す商標として著名になったものであることは,上記に認定したとお
りであり,原告の上記主張は,いずれも採用し得ない。
  また,原告は,本来的に自他商品識別力がない文字等が使用によって識別
力を獲得するためには,特定の者によって相当期間かつ独占的に使用されることが
不可欠であるというべきであるのに,マイクロソフトが同業界において独占的
に「Office」という文字を含む商標を使用していた時期は存在しない,旨主張す
る。しかし,マイクロソフト以外の多数の者が,「Office」をその構成中に含む多
数の様々な商標を使用し,あるいは,商標登録ないし出願していることは認められ
るものの,これらの商標は,いずれも「Office」ないし「オフィス」という文字に
何らかの特徴的な文字を組み合わせた商標であると認められ(甲4~甲48,甲1
13~甲223),「Office」という文字に単純に西暦を組合せたマイクロソフト
の商標とは十分に区別され得るものがほとんどであり,そのような商標が多数存在
していたとしても,そのことは,マイクロソフトがOfficeシリーズ商標について著
名性を獲得したと認定することについての障害となるものではない。原告の主張
は,採用することができない。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断
の誤り)について
  決定は,本件商標の「語頭に位置する「i」の文字は,他の構成文
字「Office2000」とは明らかに相違する小文字筆記体により表示されているもので
あるから,該「i」の文字は付記的なものとして看取されるとみるのが相当であり,
本件商標は構成中の「Office2000」の文字をもって取引に資される場合が少なから
ずあるものというべきである。」(決定書6頁37行~7頁4行)と認定・判断し
ている。そこで,本件商標と「Office2000」との類似性について判断する。
  本件商標中の語頭に位置する「i」の文字は,これに続く他の構成文字であ
る「Office」と比べたとき,小文字筆記体を大きく表示したところに特徴があり,
本件商標は,外観上も観念上も,「i」と「Office」と「2000」の3つの部分から構成
されるものであると認められる。また,その称呼としては,「アイオフィスニセ
ン」,「アイオフィスニゼロゼロゼロ」,「アイオフィス」,「イオフィス」等が
あり得るが(甲3),この中では,「アイオフィスニセン」がもっとも一般的な称
呼となると認められる(弁論の全趣旨)。
  しかし,「i」の文字は,単独では,ローマ字のアルファベットの「i」であ
り,それ自体では特有の意味を有しないこと,「Office2000」の部分は,前記1認
定のとおり,マイクロソフトの著名なオフィスソフトの商標である「Office2000」
と同一であることからすると,本件商標がその指定商品に使用されるときは,多く
の場合,「Office2000」の部分に一般人の注意が集まることになるとみるのが自然
であり,その結果,本件商標をみた取引者・需要者は,場合によっては,語頭にあ
る「i」の文字に気付かず,本件商標から「Office2000」のみを看取し,これ
を「Office2000」と誤認し,あるいは,気付いてもこれを軽視し
て,「Office2000」のように観念するおそれがあると認められる。また,称呼にお
いても,「アイオフィスニセン」の称呼は,比較的冗長であること,「アイ」自体
では,特段の意味を有しないことからすると,「アイオフィスニセン」のうち,
「アイ」と「オフィスニセン」とが分離して理解され,後半部分が著名なマイクロ
ソフトの「Office2000」と同一の称呼であるため,前同様に「アイ」の部分が省略
され,「オフィスニセン」との称呼をも生じ得るものと認められる。したがって,
上述のとおり証拠上認められる,マイクロソフトの商標である「Office2000」の著
名性を前提にする限り,本件商標と「Office2000」との類似性を肯定した決定の判
断に誤りはない。
  原告は,本件商標の中ほどにある「i」は,語頭の「i」と同じ字体であり,
全体としてまとまりのある一体不可分の構成となっている旨主張する。しかし,中
程にある「i」が語頭の「i」と同じ字体であるとしても,本件商標については,語
頭の「i」と「Office2000」とが分離して理解され,認識され得ることは前記のとお
りであり,一体不可分の構成でのみ理解され認識され得るものということはできな
い。
  原告は,本件商標の「i」の文字は,「私は」を意味する英単語であり,ある
いは,インターネット等の情報通信技術を利用した商取引を示唆する意味合いで用
いられることも少なくなく,本件商標は,全体として,「インターネット等の情報
通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」といったイメージを需要者に喚
起するものであり,語頭の「i」の文字は,自他商品識別機能として重要な役割を果
たしている,旨主張する。しかし,英語で「私は」を意味するのは,大文字の
「I」であり,また,「I.T.」とか「iモード」とかの言葉が,それぞれインフ
ォメーションテクノロジー(情報通信産業),あるいは,NTT移動通信網が携帯
電話向けに開始したインターネット情報サービスを意味する(乙17)として
も,「i」の文字が,それ単独でインターネット等の何らかの意味を有するものと認
めることはできず,「iOffice」から直ちに「インターネット等の情報通信技術を利
用した仮想現実空間における仕事場」とのイメージを需要者に喚起するものと認め
ることもできない。
  原告は,①原告は,平成11年2月から本件商標をグループウエアに使用し
てきており,本件商標は,遅くとも設定登録時(平成12年2月10日)までに,
「アイオフィスニセン」又は「アイオフィス」の称呼で,取引者・需要者の間にお
いて相当程度認知されている,②本件商標中の「Office」との部分は,その指定商
品との関係において,商品がオフィス用のものであることを示すものとして,すな
わち,商品の品質を表すものとして理解され,認識されるにとどまり,独立して商
品の出所識別標識として機能することはなく,独立して取引に資されることはな
い,旨主張する。確かに,原告が「iOffice2000」の販売を開始したことが,平成1
1年3月3日付けの日本経済新聞,同月24日付けの日経産業新聞に掲載され,そ
の後,NTTドコモのiモードを利用したスケジュール管理ができるように改良し
た「iOffice2000」を販売する予定であることが,同年5月27日付けの日経産業新
聞と同年7月26日付けの日本経済新聞,同年11月19日付けの日経産業新聞に
各1回掲載されたこと,及び,原告の「iOffice2000」がパソコン関連の雑誌やイン
ターネット等で,グループウエアとして適宜紹介されていること,並びに,原告が
日経産業新聞やパソコン関連の雑誌に各数回「iOffice2000」についての宣伝広告を
掲載していることは認められる(甲70~甲90,甲92~112)。しかし,原
告の証拠上認められる「iOffice2000」の宣伝広告等の回数は上記のとおりそれほど
多いものではなく,また,売上高に関しては,主張も証拠の提出もない。そして,
東京地方裁判所は,平成11年6月に,原告の「iOffice2000」バージョン2.43
について,訴外サイボウズ株式会社の著作権を侵害するものとして,その頒布や使
用許諾の差止めを認める仮処分決定を下している(丙24,25)。これらの事実
をも総合すると,原告の本件商標が「アイオフィスニセン」ないし「アイオフィ
ス」の称呼で,取引者・需要者の間において相当程度認知されていると認めるに
は,上記認定事実及び証拠では十分ではないという以外にない。また,前記認定の
とおり,本件商標中の「Office2000」の部分がマイクロソフトの著名商標であ
る「Office2000」と同一であり,「i」の文字が,それ単独で何らかの意味を有する
ものと認めることができない以上,本件商標中の「Office2000」の部分が独立して
出所識別標識として機能し,この部分が独立して取引に資されるおそれがあるとい
うべきである。これに反する原告の主張は,いずれも採用することができない。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り)について 
 決定は,「商標権者は申立人(判決注・マイクロソフト)使用商標が,本件
商標の出願前より世界的に周知・著名であった事実を知りながら,申立人使用商標
である「Office」と同一の文字をその商標中に含み,申立人使用商標と商標におい
て類似する本件商標を出願したものであり,商標権者が本件商標を採択使用する行
為には不正の目的があったものと推認せざるを得ない。」(決定書7頁24行~2
8行)と認定判断している。
 マイクロソフトのOfficeシリーズ商標が著名な商標であり,Officeシリーズ
商標のうちの「Office2000」についても,本件商標の出願時には,少なくとも日本
及び米国においてその著名性が認められること,及び,本件商標が上
記「Office2000」と類似していることは,前記1及び2で認定したとおりである。
  これに対し,原告は,平成10年12月8日に本件商標の出願をし,平成1
1年2月から,会社の職場での作業の生産性を向上させるための,電子メールやデ
ータベース等を使って社内情報を共有し又は交換するためのソフトウエア(電子メ
ール,電子会議システム,掲示板,共有データベース,スケジュール管理,文書管
理,共有アドレス帳などの機能を有するグループウエア)に,本件商標を使用して
いる(甲2,甲3,甲70~甲75)。
  マイクロソフトが,その「Office97」の次期のバージョンアップ版であるオ
フィスソフトに「Office2000」との名称を使用することを米国において公式に発表
したのが,平成10年6月16日であり,それが日本でもマスコミ等で伝えられた
後,マイクロソフト株式会社(日本法人)が日本において「Office2000」の発表会
を開催したのが,平成10年11月11日であることは前記1認定のとおりであ
り,この事実に,原告が,パソコンのソフトウエアの一種であるグループウエアを
開発し,これを販売することを業とする会社であることを併せて考えれば,原告
は,遅くとも本件商標の出願時である平成10年12月8日の一か月以上前には,
マイクロソフトの次期オフィスソフトが近く「Office2000」として発売されるこ
と,これが既に著名な商標となっていることを十分に知りながら,これと類似する
本件商標を出願し,その後これを使用したものであることを優に認めることができ
る。そして,この認定の下では,原告は,マイクロソフトの商標であ
る「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で,本件商標の出願をし,オフィス
ソフトと密接に関連することが明らかなグループウエアにこれを使用したものと認
めざるを得ず,また,原告が本件商標を使用する結果として,マイクロソフト
の「Office2000」の著名性が希釈化されるおそれが大きいと認めざるを得ない。し
たがって,原告がその商品であるグループウエアに本件商標を使用することには,
商標法4条1項19号にいう「不正な目的」があったものという以外になく,これ
と同旨の決定の認定・判断には,何ら誤りはない。
  原告は,原告自身が開発したグループウエアを販売するために本件商標を使
用しており,不正な目的は全くない,旨主張する。しかし,原告が自ら開発したグ
ループウエアを販売するために本件商標を使用しているとの事実は,何ら,上記不
正の目的の存在の認定の妨げとなるものではない。原告が販売しているグループウ
エアがマイクロソフトが販売しているオフィスソフトと密接な関連性を有するソフ
トウエアであることは前記のとおりであり,原告がマイクロソフトの著名なオフィ
スソフトである「Office2000」と類似する本件商標を付したグループウエアを販売
することにより,他人の商標の著名性にただ乗りする意図があると認められること
は,前記認定のとおりである。原告の上記主張は採用し得ない。
  原告は,本件商標出願時においては,「Office2000」が次世代オフィスソフ
トの名称となるとは予測できなかったし,コンピュータ・ソフトウエア等では,2
000年問題があったため、「2000」をその構成中に含む商標が多数あった,旨主張
する。しかし,マイクロソフトの次期オフィスソフトの名称が「Office2000」とな
ることは,本件商標の出願の数か月前から正式に公表されており,少なくともパソ
コン関連業界の業務に従事する者の間においてはこれが周知となっていたことは前
記認定のとおりである。また,当時、「2000」をその構成中に含む商標が多数出願・
登録されていたとしても,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標のよう
に,「Office」と「2000」を組み合わせただけの商標が存在していたことを認め得る
証拠もない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
  原告は,本件商標の出願時には,マイクロソフトの「Office2000」は発売さ
れておらず,周知性も著名性もなかった旨主張するが,本件商標の出願時におい
て,マイクロソフトの「Office2000」が,それによって表示される商品の発売前で
あるとはいえ,「Office95」及び「Office97」のバージョンアップ版として,その
著名性を承継し,既に著名な商標となっていたことは,前記認定のとおりである。
原告の上記主張も採用することができない。
4 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その
他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴
訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
        裁判長裁判官  山   下   和   明
        
           裁判官    設   樂   隆   一
           裁判官    阿   部   正   幸

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