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平成11年(行ケ)第364号審決取消請求事件(独立当事者参加事件・平成12
年2月14日口頭弁論終結)
判    決
平成11年(行ケ)第157号事件・脱退原告(被参加人)   イース
トマン ケミカルカンパニー
代表者   【A】
参加人   シール
ド エア コーポレイション
代表者   【B】
訴訟代理人弁理士   【C】
同          【D】
同          【E】
被告(被参加人)   特許庁
長官 【F】
指定代理人   【G】
同          【H】
主    文
 参加人の請求を棄却する。
 訴訟費用は参加人の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 参加人
 特許庁が平成9年審判第11411号事件について、平成10年12月25
日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 脱退原告は、平成6年8月23日、「EASTAPAK」の欧文字を横書き
してなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第1類「原料プラスチック」
を指定商品として商標登録出願をした(商願平6-84625号)が、平成9年4
月11日に拒絶査定を受けたので、同年7月10日、これに対する不服の審判の請
求をした。
 特許庁は、同請求を平成9年審判第11411号事件として審理した上、平
成10年12月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は、同11年2月3日、脱退原告に送達された。
2 審決の理由
 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標が、「INSTAPAK」
の欧文字を横書きしてなり、第34類「容器裏打ち用ポリエチレンシート及びプラ
スチックフォーム、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改
正前のもの)を指定商品とする登録第1750189号商標(以下「引用商標」と
いう。)と、称呼において類似し、かつ、その指定商品も引用商標中の指定商品に
包含されるものであるから、商標法4条1項11号に該当し、登録することができ
ないとした。
3 権利の承継
 参加人は、平成11年10月27日、脱退原告から本願商標に係る権利の譲
渡を受け、同年11月8日、その旨の出願人名義変更届を特許庁に対して提出し、
受理されたので、脱退原告が被告を相手方として提起していた上記審決に対する取
消訴訟(当裁判所平成11年(行ケ)第157号審決取消請求事件)に権利承継に
よる参加をした。なお、同事件は、脱退原告の訴訟脱退により終了した。
第3 参加人主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中、本願商標及び引用商標の構成態様及び指定商品の認定、本願
商標と引用商標との称呼の認定及びその対比の一部(審決書2頁16行~3頁12
行)は、いずれも認める。
 審決は、本願商標と引用商標とが称呼上類似すると誤って判断している(取
消事由1)上、上記権利移転の結果、両商標の商標権者が同一人に帰しており、本
願商標に対する拒絶理由は解消している(取消事由2)から、違法として取り消さ
れるべきである。
1 取消事由1(称呼上の非類似)
 本願商標より「イースタパック」の称呼のみが生じ、引用商標より「インス
タパック」の称呼のみが生じるものであり、両商標の称呼が、第2番目の音におい
て、前者が「イ」の長音(引っ張る音)であるのに対し、後者が撥音「ン」である
点で差異を有するにすぎないことは認めるが、審決が、「前者の『イ』に続く長音
は前音の『イ』に吸収されて必ずしも長音の一音として明確に聴取されず、また、
後者の『ン』の音も鼻音であって前音の『イ』に吸収され明確に聴取し難い音であ
る。」(審決書3頁13~17行)と判断したことは誤りである。
 すなわち、長音及び撥音それ自体は、独立した1音として必ずしも明確に聴
取される音といえない場合があるとしても、その位置する場所の如何によっては、
称呼全体に強い影響を及ぼすことがあるものである。
 本件の場合、本願商標の「イースタ」の部分は、第2番目の音が前音「イ」
を発音したままの状態で引っ張る音であることから、極く平坦に1音節のように発
音されるものであるのに対し、引用商標の「インスタ」の部分は、第2番目の音が
撥音であることから、語頭の「イ」の音にアクセントが置かれて強く発音され、
「イン」と「スタ」の間に明らかな段落(抑揚)が生じ、2音節のように発音され
るものである。
 そうすると、両商標は、称呼における識別上最も重要な要素を占める語頭部
において、それ自体判然と聴別できる「イー」と「イン」の音の顕著な差異を有す
るだけでなく、いずれも7音構成からなるそれほど冗長なものではないから、それ
ぞれを全体として称呼する場合も、この差異が称呼全体に及ぼす影響は極めて大き
く、その語調、語感が著しく相違したものとなるから、互いに聞き誤られるおそれ
がないものというべきである。
 したがって、審決が、「これらの差異が両称呼全体に及ぼす影響は少なく、
両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合には、全体の語調、語感が相近似し彼此聴き
誤るおそれが多いものと認められる。」(審決書3頁18行~4頁1行)と判断し
たことも誤りである。
2 取消事由2(拒絶理由の解消)
 本願商標は、前示のとおり、平成11年10月27日、出願人である脱退原
告から参加人へ権利移転され、同年11月8日、その旨の出願人名義変更届が、特
許庁に対して提出され、これが受理されたものである。
 他方、審決での引用商標は、参加人の名義になるものである。
 したがって、本願商標の出願人と引用商標の商標権者とは、同一人に帰した
こととなり、本願商標は、商標法4条1項11号所定の「他人の登録商標又はこれ
に類似する商標」に該当しないこととなるから、審決時における本願商標に対する
拒絶理由は解消されたものである。
 被告は、審決取消訴訟が、既になされた審決について違法であるとしてその
取消しを求めるものであるから、審決の違法の有無を判断する基準は審決のなされ
た時点と解すべきであると主張するところ、仮に、審決時には拒絶理由が存在した
としても、審決取消訴訟が係属中に拒絶理由が解消された場合には、審決後に生じ
た事情を考慮し、「瑕疵の治癒」の法理により、審決の違法性判断の基準時は、当
該取消訴訟を担当する東京高等裁判所の口頭弁論終結時とすべきである。
 しかも、本願商標が登録されたと仮定しても、直接、第三者の権利、利益
(例えば、商標選択の範囲が制限されるとか、商品の出所について混同を生じさ
せ、商標権者や需要者の利益が害されるなど)を害するものでなく、商標法の趣旨
に反するものでもない。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は正当であって、参加人主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
1 取消事由1について
 本願商標より生じる「イースタパック」の称呼と、引用商標より生じる「イ
ンスタパック」の称呼とは、長音を含む6音構成よりなるところ、「イ」「ス」
「タ」「パッ」「ク」の5音を同じくし、第2音目において、前者が「イ」の長音
(ー)であるのに対して、後者が「ン」と相違するものである。そして、前者の
「イ」の長音は独立した1音として明確に聴取され得ないものであり、また、後者
の「ン」の音も、「前舌面を軟口蓋前部に押しあて、又は後舌面を軟口蓋後部に押
しあてて、有音の気息を鼻から漏らして発する鼻音」であるから、それらの音が第
2音目に位置するような場合には、聴者に語頭の「イ」と後半部の「スタパック」
の音のみが聴取され、相違する部分の「イ」の長音(ー)及び「ン」は、極めて微
弱で聴取され難い。
 したがって、両商標を一連に称呼した場合、全体の語調、語感が極めて近似
し、これらを互いに聴き誤る場合が少なくないから、この点に関する審決の判断
(審決書3頁13行~4頁1行)に誤りはない。
2 取消事由2について
 本願商標が、脱退原告から参加人へ権利移転され、引用商標の商標権者と同
一人に帰属するに至ったことは認める。
 しかし、審決取消訴訟は、あくまで既になされた審決が違法であるとしてそ
の取消しを求めるものであるから、審決の違法の有無を判断する基準時は、審決の
なされた時点と解すべきであり、その後の後発的事由によって判断すべきものでは
なく、審決時に合法であったものが、後日起因した特殊な事情によりその判断が覆
るものでもない。従前の判例においても、審決の違法性判断の基準時は、審決の時
点であると解されてきた(参考資料1~7)。
 そして、参加人の行った当該名義変更は、その効力が遡及するものでないか
ら、本願商標に対する拒絶理由が消滅するものではなく、その事実によって、適法
になされた先の審決が違法となるものでもない。
 したがって、本願商標の出願人が、本願商標と引用商標とが類似であると判
断した場合には、本願商標に関する審判の判断が下される前に、商標権の譲渡等を
済ませ拒絶理由の解消に努めるべきであり、審決後の譲渡手続によって審決が遡及
して違法になるものではなく、原告の主張は、時期に遅れたものであり失当であ
る。今回のように、審決後に本願商標と引用商標の権利者が同一人に帰したという
ことであれば、参加人としては、再出願によって対処すべきでないかと考える。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(称呼上の非類似)について
 審決の理由中、本願商標及び引用商標の構成態様及び指定商品の認定は、当
事者間に争いがなく、本願商標の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されるも
のと認められる。
 また、本願商標より「イースタパック」の称呼が生じ、引用商標より「イン
スタパック」の称呼が生じるものであり、両商標の称呼が、ともに6音構成よりな
るところ、「イ」「ス」「タ」「パッ」「ク」の5音を同じくし、異なるところ
は、前者が語頭音の「イ」に長音が伴うのに対して、後者が語頭音の「イ」に続く
第2番目の音が「ン」である点にすぎないこと(審決書2頁16行~3頁12行)
も当事者間に争いがない。
 上記の相違点について検討するに、本願商標の「イ」に続く長音は、前音の
「イ」を長く引き延ばしただけであって、独立の1音として明確には聴取されず、
また、引用商標の「ン」の音も、母音を伴わずに有音の気息を鼻から発するにすぎ
ない鼻音であって、前音の「イ」に吸収され、同様に独立の1音として明確に聴取
され難い音であると認められる。したがって、両者はいずれも、音声上、明瞭に区
別されるものではなく、その差異は称呼全体に大きな影響を及ぼすものではないと
いわなければならない。
 参加人は、本願商標の「イースタ」の部分は、第2番目の音が前音「イ」を
発音したままの状態で引っ張る音であることから、極く平坦に1音節のように発音
されるものであるのに対し、引用商標の「インスタ」の部分は、第2番目の音が撥
音であることから、語頭の「イ」の音にアクセントが置かれて強く発音され、「イ
ン」と「スタ」の間に明らかな段落(抑揚)が生じ、2音節のように発音されるも
のであるから、この差異が称呼全体に及ぼす影響は極めて大きいと主張する。
 しかし、6音構成中、語頭の「イ」と後半部の「スタパック」の音を共通に
する両商標は、これを一連に称呼する場合、その語調、語感が極めて類似したもの
となることが明らかであり、参加人主張のような若干の相違が、発音の面において
生じるとしても、その程度の相違が前示の称呼上における多くの共通点を凌駕し
て、両商標が明瞭に区別できるものとは到底認められないから、この主張を採用す
る余地はないものといわなければならない。
 したがって、この点に関する審決の判断(審決書3頁13行~4頁1行)に
誤りはなく、両商標が称呼において類似する商標とする審決の判断は正当なものと
いうべきである。
2 取消事由2(拒絶理由の解消)について
 本願商標が、平成11年10月27日、出願人である脱退原告から参加人へ
権利移転され、同年11月8日、その旨の出願人名義変更届が特許庁に対して提出
され、これが受理されたこと、審決での引用商標は、参加人の名義になるものであ
ること、したがって、現時点において、本願商標の出願人と引用商標の商標権者と
が、同一人に帰していることは、当事者間に争いがない。
 参加人は、上記の結果、本願商標が、商標法4条1項11号所定の「他人の
登録商標又はこれに類似する商標」に該当しないこととなり、審決時における本願
商標に対する拒絶理由は解消されたものであると主張する。
 ところで、審決取消訴訟は、既に行われた行政処分である審決が違法である
としてその取消しを求めるものであるから、審決の違法の有無を判断する基準時
は、行政処分である審決のなされた時点と解すべきであり、原則として、処分後の
後発的事情を斟酌してその当否を判断すべきではないものと認められる。ただし、
審決後に生じた事由であっても、例えば、特許権の無効審決取消訴訟の係属中に、
当該特許権について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決(特許法126
条)が確定したことに伴い、出願時に遡って当該発明の要旨認定が誤りとなる場合
(最高裁判所平成11年3月9日第3小法廷判決・民集53巻3号303頁、同平
成11年4月22日第1小法廷判決・判例時報1675号115頁参照)のよう
に、当該事由の効力が、少なくとも処分時である審決時まで遡及する性質のものに
ついては、これに基づいて審決の当否が影響を受けることがあるものといわなけれ
ばならない。
 しかしながら、本件のように商標に関する権利の承継は、その旨の届出がな
されることにより効力が生じるものであり、その権利承継の効力が審決時ないし出
願時まで遡及するものではないから、既に行われた行政処分である審決の当否を左
右するに足る事由と認めることはできない。
 したがって、審決後において、本願商標が出願人である脱退原告から参加人
へ権利移転され、その旨の出願人名義変更届が特許庁に提出されてこれが受理さ
れ、本願商標の出願人と引用商標の商標権者とが同一人となったからといって、審
決時における本願商標に対する拒絶理由が解消されるものではなく、審決の違法性
判断の基準時が、当該審決取消訴訟を担当する東京高等裁判所の口頭弁論終結時で
あるとする点を含めて、参加人の主張を採用する余地はない。
 また、参加人は、本願商標が登録されたと仮定しても、直接、第三者の権
利、利益を害するものでなく、商標法の趣旨に反するものでもないと主張するが、
審決取消訴訟の性質及び構造は前示のとおりのものであり、個別的な利害関係の有
無によってこれが左右されるものでもないから、上記の主張も採用することができ
ない。
3 以上によれば、審決が「本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当
し、登録することができない。」(審決書4頁6~7行)と判断したことに誤りは
なく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵はない。
 よって、参加人の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴
訟費用の負担及び上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政
事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決す
る。
   東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官   田   中   康   久
       裁判官   石   原   直   樹
       裁判官   清   水       節

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