弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決を取り消す。
     二 被控訴人らの請求を棄却する。
     三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
         事実及び理由
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 主文同旨
 二 被控訴人ら
 控訴棄却
 第二 事案の概要
 事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決記載のとおりである。
 (控訴人の当審における主張)
 原判決は、死因受贈者であり限定承認者である被控訴人らと相続債権者である控
訴人は対抗関係に立ち、相続に先立ち仮登記を取得した被控訴人らは死因贈与によ
る所有権の取得を控訴人に主張できるから、本件土地は民法九二二条の相続によっ
て得た財産に含まれない固有財産であると判断した。しかし、これは、被控訴人ら
が、相続人としての資格と死因受贈者としての資格を併有し、しかも限定承認して
いる事実、及び限定承認者は相続債務につきその全部を承継することを全く考慮し
なかったもので、判断を誤ったものである。本件土地は民法九二二条の「相続によ
って得た財産」に含まれ、被控訴人らと控訴人は対抗関係に立たず、当事者の関係
に立つというべきである。控訴人の権利と被控訴人らの権利には有償、無償の本質
的な差異があることや、相続債権者が受遺者に優先することが明定されている民法
九三一条の趣旨をふまえれば、単なる対抗関係として判断できないことは明らがで
ある。また、原判決が、本件死因贈与が子である被控訴人らへの扶養を含むから、
被控訴人らか本件土地の所有権を主張することについては公平の観点から許されな
いとすべき事情もないとしている点も何ら根拠がなく、被控訴人らが仮登記に基い
て第三者ではなく自らに対し本登記をした利己的行為、被控訴人Aが相続財産に属
する預金を引き出した行為を、法定単純承認とみなすべき処分に該当するとせず、
右各行為を相続財産の管理、保存行為と認定した点も失当であるといわなければな
らない。
 (被控訴人らの当審における主張)
 本件死因贈与については、被相続人Bの死亡前に始期付所有権移転仮登記がなさ
れており、死因贈与者の死亡と同時に所有権移転の効力が生じ、本件土地は民法九
二二条の「相続によって得た財産」の範囲からは離脱することになるもので、右仮
登記に基き本登記が経由されたときは、仮登記の順位保全の効力により、死因受贈
者はすべての相続債権者に優先することになる。また、本件死因贈与の目的である
本件土地は特定物であり、特定物の遺贈には民法九三一条は適用されないから、特
定物の死因贈与に同法の適用がないことは明らかである。本件相続について、限定
承認の効力を否定するような、単純承認とみなすべき事由も存在しない。
 第三 当裁判所の判断
 一 当裁判所は、本件土地は民法九二二条の「相続によって得た財産」に該当
し、控訴人が東京法務局所属公証人C作成昭和六二年第三〇八号の執行力ある公正
証書正本に基き平成六年一一月二九日に本件土地に対してした強制執行は適法であ
って、被控訴人らの本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり
である。
 <要旨>限定承認の手続は、相続債務が相続財産を超過するいわゆる債務超過又は
その可能性がある場合に、相続債権者間において公平に相続財産を分配する
手続であって、一種の清算手続である。限定承認がなされると、限定承認者は「相
続によって得た財産」の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すること
とされ(民法九二二条)、同法九二九条、九三〇条の規定によって債権者に弁済し
た後でなければ、受遺者に弁済することができないとされ(同法九三一条)、受遺
者は相続債権者に劣後する地位に置かれている。これは遺贈は無償行為であること
に加え、権利変動の効力発生が遺贈者の死亡にかかり、遺贈者の生前は取消(撤
回)が自由であること(民法一〇二二条)によるものである。ところで、死因贈与
も無償行為であり、しかもその権利変動は贈与者の死亡にかかっており、民法一〇
二二条は方式に関する部分を除いて死因贈与に準用されるものと解されるので、死
因贈与の取消(撤回)も贈与者がその生前自由になしうるものである(仮登記後に
死因贈与が取り消されれば、その仮登記は抹消すべきものである)。そうであると
すると債務超過を念頭においた清算手続である限定承認において、遺贈と死因贈与
とを別異に扱うべき合理的理由はないものといわねばならない。
 そして、死因贈与には、贈与者の死亡を始期とする期限付贈与と贈与者の死亡当
時受贈者が生存することを条件とする停止条件付贈与とがあるが、いずれにせよ、
贈与者の死亡によって初めて権利変動の効力が生じるものであり、贈与の対象物は
被相続人の死亡の時まで贈与者である被相続人の財産に帰属していたものである。
特定不動産の死因贈与について仮登記がなされ、贈与者の死亡後に本登記がなされ
たとしても、右不動産は贈与者の死亡時、すなわち相続開始の時に贈与者から受贈
者に権利が移転するのであり、まさに、相続財産を減少することによって、死因贈
与に基づく権利移転の効果が生ずるのである。法律効果の発生を当事者の死亡にか
からせることのない、始期付き又は停止条件付きの法律行為について仮登記がなさ
れ、始期の到来又は条件成就が偶々行為者の死後発生し、仮登記に基づく本登記が
なされた場合には、仮登記の順位保全の効力により、仮登記の対象である不動産
は、相続開始時点においてすでに相続財産から離脱したものとして取り扱われる
が、これは、当該法律行為の効果が行為者の死亡とかかわりがないことによるもの
であり、行為者の死亡により効果の発生する死因贈与の場合とは事態が異なるもの
ということができる。
 したがって、被控訴人らのような推定相続人が被相続人との間で被相続人所有の
不動産について死因贈与を受ける契約を結び、その仮登記を取得しても、一種の清
算手続である限定承認の手続では、右の不動産を相続財産から離脱した財産であっ
て、被控訴人らの固有財産であると主張することはできず、右の不動産は、民法九
二二条の「相続によって得た財産」に該当し、相続債務の引当てになるものと解す
るのが相当である。
 二 したがって、被控訴人らの請求を認容した原判決は不当で、本件控訴は理由
がある。
 よって主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 篠田省二 裁判官 淺生重機 裁判官 小林登美子)

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