弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
一原告の請求を棄却する。
二訴訟費用は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1被告は原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月七日から支払ずみ
まで年五分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
31につき仮執行の宣言。
二請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一請求原因
1当事者らの地位
、(「」。)被告は高知県幡多郡<地名略>に高知県立大方商業高等学校以下本件高校という
を設置し、その管理をしているものであつて、同校教職員の使用者であり、原告は、昭和
五八年四月一日本件高校に入学し、昭和五九年九月当時、二学年に在籍していたものであ
、、、(「」。)り訴外Aは右当時本件高校の校長の地位にあつた同人を以下A校長という
ものである。
2無期停学処分
本件高校には、生徒の運転免許取得に関し「免許試験を受けるには学校の許可を得るこ、

を要する。学校の定める地域外の生徒には受験を許可しない」との校則(以下「本件校。
則」
という)があるが、原告は、右の許可を得ずに免許試験を受け(原告は、右の地域外の。

徒であつたから、許可を願い出ても容れられる筈はなかつたものである、昭和五九年。)

月一八日、原動機付自転車(以下「バイク」という)の運転免許(以下「原付免許」と。

う)を取得したところ、A校長は、同年九月一日、この校則違反行為に対する措置とし。
て、
原告を無期停学処分に付した。なお、同処分は、その後解除され、原告は、同月一七日か
ら登校を許された。
3処分の違法
(一)前記処分は、次のとおり、実体的に違法である。
(1)道路交通法八八条一項一号は、原付免許について一六歳未満の者を欠格者と定め
ているので、一六歳以上の者は、原付免許を取得する資格を有するところ、原告は、昭和
四二年四月二三日生で、昭和五九年二月には一六歳一〇か月であつたから、前記のとおり
原付免許を取得したことは適法である。
(2)原告が免許を取得したことは、形式的には校則違反行為であるが、そのことのみ
によつて、教育、学習上の実害が生じたなどとは、到底いえない。
(3)今日のモータリゼーシヨン時代といわれる社会情勢下において、法律上原付免許
を取得する資格を有するにもかかわらず、高校生であるが故に、その取得、
ひいてはバイクを生活上の便宜に供することを一般的に禁止することは不合理である。
(4)高校生に対し免許取得を禁止・制限する実質的理由として(イ)人命尊重(バ、

クの運転には、熱狂的にスピードを早めたいとする特異な興奮を誘う何物かがあつて、一
六歳段階の少年は、その誘惑に対する抵抗力が弱い、同運転の必要がないこと(高校。)

、、。、。)、は働いている青年と違つてバイク運転の必要がない通学勉学のための必要もない
ハ非行防止暴走族の仲間になるおそれがあるニ親の強い要求があることP()(。)、()(
TAで禁止要求を決議することもある)などが、一応考えられるけれども、これらは、。

校において一般的に禁止・制限措置をとる合理的な理由とはなり得ないものである。すな
わち(イ)について一般論として、この理由が正しいとすれば、ことは免許取得年齢の、

上げという法改正によつて解決されるべきである。そもそも、単に高校生であるが故に人
命尊重について思慮が不足していることはない筈である。
(ロ)について
運転の必要の有無は、学校生活の範囲内でのみ判断されるべきではない。そもそも、生徒
がバイクの運転を必要としているか否かは生徒自身が判断すべきものであつて、学校は、
生徒に代わつて右の判断をしたり、これを生徒に強制する権限を有せず、せいぜい助言を
なし得るにとどまるというべきである。
(ハ)について
一部に暴走族の仲間になるものがあるとしても、その比率が高校生であるが故に高いと
いうわけでもあるまいし、別途の生徒指導によつて克服できる問題である。
(ニ)について
バイクの運転によつて災いを起こすような特別な生徒に対する監督は、親の責任において
行われるべきであつて、学校には、生徒の家庭生活、校外生活まで親の代行をする義務は
なく、それをする能力もない。個別に特定の親が、その子について、運転免許を取得しな
いよう説得してほしいと学校に依頼することは自由であるが、PTAなどが学校に一般的
禁止を求めるのは筋違いである。学校はもとより、PTAにも、更には親にすら、生徒が
法によつて保障されている運転免許の取得を制限する権限はないというべきである。PT
Aの右要求は、本来、PTAや親が責任をもつべき事柄について、その責任を全うすると
いう正しい姿勢を捨て、学校の禁止令により、いわば臭いものに蓋をするという、
泥縄式のものである。
(5)以上を総合して考えれば、学校は、高校生であるが故に、運転免許の取得を禁止

制限すべきではなく、免許を取得した生徒に対して交通安全教育や特別の生活指導等が必
要であれば、そのための手段を講じて問題の解決を図るべきであつて、そういう努力を、
右の禁止・制限によつて回避しようとする姿勢は、到底、正しい教育的観点に立脚してい
るものとはいえないので、本件校則は、いわば学校の生徒に対する助言を明文化したもの
で、単なる訓示的な意味を有するにすぎないとみるのが相当であるから、これに違反した
ことを理由とする前記処分は、校長の裁量権を考慮しても、これを大きく逸脱しており、
社会観念上著しく妥当を欠くものであるといわなければならず、明らかに違法である。
(二)前記処分は手続的にも違法である。すなわち、A校長は、前記処分を行うに当た
り、原告に対し、処分理由を告知せず、弁明の機会も与えなかつたから、同処分は、教育
的公正処分手続の最低要件すら充足していないものとして、違法である。
4被告の責任
A校長は、原告に対し懲戒をなすべき理由がないことを容易に知り得たのに安易にこれが
あるものと判断して、公共団体としての被告の公権力を行使するにつき又は被告の被用者
としてその事業の執行につき、少なくとも過失により違法な前記処分を行つたものである
から、被告は、国家賠償法一条一項又は民法七一五条一項により、原告が前記処分によつ
て被つた損害を賠償すべき責任がある。
5原告の損害
原告は、前記処分を受けたため、両親及び友人らから非難されるなどの屈辱を忍ぶことを
余儀なくされ、学業の遅れなどもあつて、多大な精神的苦痛を被つたが、これに対する慰
謝料は金一〇〇万円が相当である。よつて、原告は、被告に対し、右慰謝料一〇〇万円と
これ対する不法行為の後である昭和五九年一二月七日(訴状送達の日の翌日)から支払ず
みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二請求原因に対する認否
1請求原因1の事実は認める。
2同2の事実のうち、A校長の行つた措置が無期停学処分であることは否認し、その余
は認める。A校長は、校則に違反して原付免許を取得した原告に対し、その反省を促す懲
戒的性質を含んだ生活指導措置である無期家庭謹慎の措置を行い、
二週間後の昭和五九年九月一四日にこれを解除したものである。
3同3の事実のうち、原告が昭和四二年四月二三日生であつて、その原付免許取得が道
路交通法上適法であることは認め、その余は争う。
4同4の事実は争う。
5同5の事実は争う。
三被告の主張
1本件校則(バイク規制措置)の適法性と合理性
(一)高知県では、概ね昭和四〇年頃から、いわゆるモータリゼーシヨンの傾向を帯び
始め、高校生にもその傾向が及び、特にバイク及びオートバイ(自動二輪車)の使用が年

増加したため、交通・生命の安全保持、非行防止、学業専念等の観点から、その使用が社
会問題として論議されるようになつた。
(二)そして、昭和五一年二月、高知県高等学校PTA連合会において、運転免許を取
得するに際しては事前に学校へ届け出てその了解を得るべきこととするなどの決議がなさ
れ、更に、高知県教育委員会主催の同年度生徒指導主事連絡協議会において、運転免許の
取得につき許可制をとること、すなわち(1)運転免許の取得に当たつては事前に父兄、

名で学校に届け出させる(2)届出のあつたもののうち、学校が検討し、原則として通、

用に必要であると認めろ場合にのみ許可する(その細則は学校で定め、許可したときは許
可証を発行する(3)許可証は全県的に統一した様式のものを使用する(4)運転で)、、

、。()、るのは排気量五〇CC以下のバイクとし免許の種類は原付とする5この許可制は
県下全高等学校において、同年四月から実施する、との決議がなされた。
(三)本件高校では、その所在地が、国鉄及びバスの両方が利用できて通学の便の良好
な場所であつたことから、右各決議より五年余前の昭和四五年一二月、通学に使用できる
のは排気量五〇CC以下のバイクとし、<地名略>地区など近距離から通学している生徒
にはバイク通学を許可しない旨を定め、更に、昭和四六年以降は、これらの事項に許可後
の厳守事項及び罰則を加えた交通安全規定を制定し生徒手帳に登載していたが、右各決議
がなされたことから昭和五二年一一月その趣旨に則り右交通安全規定に受験規定許、、、(
可証を発行すること、排気量五〇CCを超える車両については原則として免許取得を許可
しないこと)を加えた。
(四)このようなバイク規制措置により、高知県下における高校生による二輪車の交通
事故は、昭和四六年度以降、順次、四五二件、
三七五件、三六八件、二七六件、一八四件、一七九件、一六〇件と次第に減少し、同五三
年度には一三八件となつていたが、同五四年度には一七〇件にも達した。そのため、本件
高校では、昭和五五年度に、それまでの交通安全規走を補足した運転免許取得・モーター
バイク使用規定を設けて、安全教育及び事故防止対策を実施することとした。そして、そ
の後も事故が増減を繰り返している状況であり、昭和五七年八月には、全国高等学校PT
A連合会全国大会において、バイク及びオートバイの免許取得並びに運転を原則として全
面禁止する旨の決議がなされたため、本件校則が維持されてきた。なお、高知県立の各高
等学校の生徒に対するバイク規制措置の状況は、別表のとおりであつて、ほとんど全校に
おいて本件校則と同旨及びそれ以上の規制がなされている。
()、、、、五以上の次第で本件校則は生徒の安全保持事故防止等を目的としていること
一律全面禁止ではなく地域指定による許可制であること、PTA関係団体及び生徒指導主
事連絡協議会の決議に立脚し他校とも歩調を合わせたものであること、事故が減少するな
、。、、ど一定の成果があがつていること等に照らし合理性があるそして公立学校の校長は
当該学校の設置目的を達成するために必要な事項を校則として定め、これによつて在学す
、。る生徒の行動を学校の内外にわたつて規制する権能を有するから本件校則は適法である
2家庭謹慎措置の適法性と合理性
(一)(1)生徒の問題行動や校則違反行為に対する処遇は、教育の一環として生活
指導のなかに位置づけられ生徒の人間的成長と学習成果を保障するように行うべきである
が、それを全うするためには、家庭、学校及び生徒本人の三者が一体となる協力的基盤に
、、。立たなければならずその基盤がない限りいかなる懲戒を課してもその実は挙がらない
そして、学校教育法一一条、同法施行規則一三条二項の規定に徴すると、生徒に対する懲
戒には、定型的な退学、停学及び訓告の処分以外にも様々なものがあり得ることが明らか
であるから、校長は、懲戒として、右の三つの処分のほかに、教育上適切と思われる非定
型的な措置を行うことができるというべきである。
(2)本件高校では、これらをあわせ考え、右の処遇として、定型的な懲戒処分ではな
く、生徒本人に強く反省を促すという懲戒的性質を含み家族ぐるみの反省、
指導を求める生活指導措置である家庭謹慎の措置を行うこととしている。
(3)家庭謹慎の措置の手続及び方法は次のとおりである。
(イ)手続
ホーム担任及び生徒指導部において事実を確認したうえ、ホーム担任が父兄に連絡をとつ
て家庭待機させ、直ちに職員会議を開催し、生徒指導部からの調査に基づく事実説明及び
ホーム担任からの生徒本人の生活面や学業成績等に関する補足説明がなされた後、職員相
互間で討議して指導措置を決定する。そして、生徒本人、父兄を学校に召喚したうえ、ホ
ーム担任、生徒指導部が再度事実を確認して懇談し、今後の指導等について校長から申渡
しをする。
(ロ)方法
ホーム担任、生徒指導部が、謹慎期間中、家庭での生活点検・学習点検と内面的意識改革
について指導する。具体的には、家庭訪問をした際に生徒の書いた反省日誌に基づき問題
行動に対する反省及び今後の生活全般について把握指導し、また、教科のプリント、毎日
の授業におけるノートを届けて学習の遅れに対する手当をし、更に、家庭学習で不明の個
所があれば謹慎解除後に登校してから各教科担任に質問して補充するよう指示する、など
の方法をとる。
(二)(1)昭和五九年四月、本件高校の生徒間に無許可で免許を取得している者がい
るとの噂が出始め、同年六月には生徒がバイクを運転中接触事故を起こしたので、調査を
進めたところ、同年八月までに、原告を含も一五名の生徒が無許可で原付免許を取得して
いることが判明した。
(2)本件高校では、同年九月一日、右一五名を集め、事実を確認して説諭し、待機の
ため帰宅させ、同日午後職員会議を開催し、前記のような説明がなされた後、会議を続行
することとした。このことは、同日、ホーム担任から電話で原告の父親に通知した。そし
て、同月三日職員会議が続行され、慎重に討議した結果、右一五名全員に対し無期家庭謹
慎(通常一四日間で解除される例である)の措置を行うことが決定された。。
(3)ところが、原告を除く一四名及びその父兄は右措置を受け入れたが、原告の父親
、、、、は右措置が不服であるとして指導のための召喚に応じずA校長や生徒指導部長から
再度にわたつて話合いをするよう求められたのに、一度は面会に応じたものの、実質的な
話合いに入らず「免許は親の責任で取らせた」と言明し、右措置は違法であるから裁、。

で決着をつけると言い張り、
謹慎による指導方法である家庭訪問を拒否した。そのため、本件高校としては、原告に対
し、前記のような家庭謹慎の方法による指導が十分にできず、わずかに、学友を通じて又
は郵便をもつてノート、プリント類を届けたのみであつた。
(4)A校長は、同年九月一四日、右措置が一応の目的を遂げたと判断して右一五名全
員につきこれを解除した。そして、原告は、その後二日間が休日であつたから、同月一七
、、。日登校しホーム担任及びA校長から今後の注意指導を受け平常どおりの授業に入つた
(三)以上の次第で、A校長が原告に対して行つた家庭謹慎の措置は、その理由となる
校則違反行為が存在し、行為と措置との間及び他の違反者との間での均衡もとれており、
手続的にも適正であるから、適法かつ合理的である。
四原告の反論
1本件校則は、請求原因3の1(一)のとおり、合理的理由を欠くものであつて、せい
ぜい訓示的な意味を有するにすぎない。
2停学と謹慎とを、同質のものとみるか、異質のものとみるかは、強制力を伴う問答無
用式のものをも謹慎に含めるか、生徒の同意を要する生活指導のみを謹慎というのかとい
う、謹慎という言葉で表現されているものの実態から帰結されるべきものであつて、強制
力を伴う謹慎は、停学と全く同質のものであり、生活指導としての謹慎であれば、生徒は
登校しようと思えばそれができるし、学校の助言に従わなかつた責任を問われることはな
い筈のものである。これを本件についてみると、原告ら一五名の生徒に対する措置は、そ
の同意を得ることなく、校長が強制力をもつて行つたものであるし、本件高校側は、右措
置を行うに際して、召喚に応じた一四名の生徒及びその父兄に対し、無期停学処分とする
旨を言い渡しているし、原告及びその父兄は、召喚に応じなかつたが、右措置がなされた
ことを知り、原告の父において、本件高校側に対し、処分理由書の交付を求めたところ、
拒絶されたので、それなら原告を登校させると告げたけれども、本件高校側はこれを拒否
したし、本件高校の生徒指導部長Bは、右一四名のうちの一人の叔母(飲食店経営)に対
し「甥を無期停学にしてやつた」と言明しているし、本訴提起時の新聞報道に際して、。
も、
本件高校側は無期停学処分であることを認めていたし、なお、本件高校は、右措置を解除
するまでの間、原告に対し、
学習上の配慮をほとんどしなかつた(一度だけ同級生がコピーしたものを持参したのみで
ある)から、右措置は、懲戒としての無期停学処分であるというべきである。。
第三証拠関係(省略)
○理由
一当事者らの地位
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二家庭謹慎措置
1請求原因2の事実のうち、A校長の行つた措置が無期停学処分であること以外は、当
事者間に争いがなく、その争いのない事実と、証人B、同Aの各証言並びに弁論の全趣旨
によれば、A校長は、校則に違反して原付免許を取得した原告に対し、その反省を促す懲
戒的性質を含んだ生活指導措置である無期家庭謹慎の措置を行い、二週間後の昭和五九年
九月一四日にこれを解除したものであることが認められる。
2右の証拠によれば、本件高校では、従来、法令上明記された懲戒である退学、停学及
び訓告(学校教育法一一条、同法施行規則一三条一が、それ自体では必ずしも懲戒の実を
挙げることができないし、それを行えばその旨を生徒指導要録に記入しなければならない
ので生徒にとつて不利益となるから、これを避けるのが相当であるとの考えと、生徒の問
題行動や校則違反行為に対する処遇を全うするためには、家庭、学校及び生徒本人の三者
が一体となる協力的基盤を確保することが必要であるとの見地に立つて、右の明記された
懲戒は行わず、家庭謹慎の措置を行うこととしていること、同措置は、生徒及び保護者の
同意に基づく純然たる任意の指導措置ではなく、生徒側に異論があつても、学校側が極力
説得して生徒側に従わせるものであつて、無期家庭謹慎の場合、原則として二週間後に解
除することとしているけれども、その間、当該生徒に授業その他の正規の教育過程の履修
は行わせないし、登校して学校の施設を利用することも認めず、ただ、そのまま放置せず
に、ホーム担任や生徒指導担当の教師が家庭訪問をし、生徒に書かせた反省日誌を点検し
て生活指導を行うとともに、教科のプリントや毎日の授業のノートを届けて学習の遅れに
対する手当をするなどの教育的指導を伴わせていることが認められる。この事実に徴する
と、A校長が原告に対して行つた家庭謹慎措置は、非公式的色彩があつて生徒指導要録に
は記入せず教育的指導をも伴つている点において停学より軽いといえるが、登校を認めな
い点において停学と同じであるから、
停学そのものであるとはいえないけれども、これに準ずる懲戒であるといわざるを得ず、
その結果、原告は、入学許可によつて取得した、本件高校の教育施設を利用し授業その他
の正規の教育課程を履修することができるという地位を、一時的にもせよ、失わしめられ
たことになるというべきである。
3なお、原告は、A校長が原告を無期停学処分に付した旨主張しているところ、そうい
う事実、すなわち、法令に明記された定型的な懲戒処分である停学処分がなされたことは
認められないが、弁論の全趣旨からして、原告は、本訴において、校則に違反して原付免
許を取得した原告に対しA校長が行つた懲戒そのものを問題としており、したがつて、右
認定の家庭謹慎措置の適法性をも争う趣旨であることが明らかである。
三本校校則(バイク規制措置)の当否
1高等学校は、生徒の教育を目的とする公共的な施設(営造物)であるから、その校長
は、法令上の根拠がなくても、生徒の生活指導、学校施設の利用関係など学校の設置目的
を達成するために必要な事項を、行政立法たる営造物規則(内規)として、校則、生徒心
得等の形式で制定し、これによつて在学する生徒を規律する包括的権能を有すると解せら
れる。そして、校則等の内容については、事柄の性質上、校長が教育的・専門的見地から
の裁量権を有するというべきであるから、その定めは、学校の設置目的を達成するのに必
要な範囲を逸脱し著しく不合理である場合には、行政立法として無効になると考えられる
が、そうでない限り、生徒の権利自由を束縛することとなつても、無効とはいえず、生徒
はこれに従うことを義務づけられるのであつて、校則等の具体的規定が裁量権の逸脱、濫
用に当たるかどうかは、校長がその規定を設けた趣旨、目的と社会通念に照らし、それが
学校の設置目的との間に合理的関連性を有するかどうかによつて決せられるというべきで
ある。
2そこで、本件校則の趣旨、目的等について検討するに、成立に争いのない甲第二、第
三号証、乙第一ないし第一一及び第一四号証、証人B、同Aの各証言、原告本人尋問の結
果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(一)本件高校は、商業科の全日制高校で「教育基本法の趣旨にのつとり進展する時、

の要請と地域社会の要望に即応した実践的産業教育を行ない、身体強健で、
独立の精神に富み、勤勉誠実で礼儀正しく、困難を克服して国家社会に貢献し得る清新気
鋭の産業人育成に努める」ことを教育方針の基本としており、昭和五九年四月現在の生。

数は約四二〇名であつた。
(二)高知県では、昭和四〇年頃から、いわゆるモータリゼーシヨンの傾向が生じ、そ
れがやがて高校生にも及んで、特に高校生のバイクやオートバイの使用が年々増加し、そ
れに伴い交通違反や事故が多くなつたため、生徒の生命身体の安全保持、非行及びその広
域化の防止、学業専念等の観点から、その使用が問題とされ、これに対する対策が議論さ
れるようになつた。右事故は、昭和四六年には四五二件(死者五名・負傷者四一二名、)

四七年には三七五件(死者九名・負傷者三四四名)に及んでいた。
(三)本件高校では、その所在地が、国鉄及びバスの両方が利用できて通学の便の良好
な場所であつたこと及び右の問題にかんがみ、昭和四五年に、通学に使用できるのは排気
量五〇CC以下のバイクに限り、入野地区など近距離から通学している生徒にはバイク通
学を許さない旨を定めて、バイク使用を規制し、昭和四六年以降、その規制事項にバイク
通学を許されている生徒の厳守事項及び罰則を加えた交通安全規定を制定し生徒手帳に登
。、、、。載したそして他の高等学校でも程度の差はあれバイク規制措置が行なわれていた
(四)その後、高知県下における高校生による二輪車の事故は、バイク規制の影響もあ
つて、次第に減少したが、それでも、昭和四八年には三六八件(死者一二名・負傷者三四
九名、同四九年には二七六件(死者七名・負傷者二六三名、同五〇年には一八四件(死))
者四名・負傷者一六二名)と、かなりの件数に及んでいる。
(五)このような状況の下で、次のとおり、PTA関係団体等の決議ないし申し合わせ
がなされた。
(1)高知県高等学校PTA連合会は、昭和五一年二月、運転免許を取得するに際して
は事前に学校に届け出てその了解を得るべきこととするなどの決議をし、更に、昭和五三
年三月、バイク規制を徹底し、これに違反した生徒については、学校が免許証を預かるな
ど、厳格な指導を行うべき旨の決議をした。
(2)昭和五〇年度の高知県高等学校盲聾養護学校生徒指導主事連絡協議会において、
昭和五一年四月から高知県下の全高等学校で運転免許の取得につき許可制(運転免許を取
得しようとするときは、
事前に父兄連名で学校に届け出させ、原則として通学用に必要であると認める場合に原付
、、。)免許についてのみ許可し許可するときは全県的に統一した様式の許可証を発行する
をとるとの申し合わせがなされ、昭和五一年度の同協議会において、無届けで免許を取得
した生徒に対しては、学校において厳しい指導を行うとの申し合わせがなされた。
(3)全国高等学校PTA連合会は、昭和五七年八月、現今の高校生のバイク等による
事故の激増を憂え「免許を取らない「乗らない「買わない」の三ない原則の趣旨を徹、」」

し親の責任を促すために実施すべきであるとして、高校生のバイク等の免許取得及び運転
を原則として全面禁止し、特別な理由があつて運転する場合に限り、保護者の申請により
学校長がPTA会長と協議のうえ許可することとすることなどの決議をした。
(六)右決議等の前後における高知県での高校生による二輪車の事故は、昭和五三年一
三八件(死者四名・負傷者一一五名)と減少したものの、翌五四年には一七〇件(負傷者
一五一名)と増加するなど、増減を繰り返しており、昭和五七年までに一三〇件を割つた
ことはない。
(七)本件高校では、右の各決議等を受け、右のとおり事故が憎減状態であることをも
考慮して、昭和五五年までの間に、前記交通安全規定を再度にわたり補足して、運転免許
取得・モーターバイク使用規定を設け、安全教育及び事故防止対策を実施し、更に、昭和
五八年七月、前記のとおり通学の便が良好であることから、バイク通学(免許取得)を認
める基準を距離から地域に変更し、通学距離自体は長くても交通期間を利用することに支
障のない地域の生徒には、免許取得を許可しないこととした(本件校則。なお、原告は、
本件校則により、許可を受けられない地域に居住していたものであるが、当時の国鉄を利
用して通学することに格別の支障はなく、居住地の駅から学校所在地の駅までの乗車時間
は一〇分程度であつた。。)
(八)本件校則については、生徒手帳への登載、文書の交付、父兄との懇談会での説明
等の方法により、生徒及び保護者に周知徹底を図つているが、これに異論を唱える保護者
はほとんどなく、むしろ、規制を望みこれを歓迎する保護者が多い。
(九)高知県立の各高等学校の生徒に対するバイク規制措置の状況は、別表のとおりで
あつて、
ほとんど全校において本件校則と同旨及びそれ以上の規制がなされている。
3右認定の事実に徴すると、本件校則の趣旨、目的は、生徒が自由に免許を取得してバ
イク等を運転すれば、事故を惹起したり、非行に陥つてそれが広域化したり、バイク等に
気を奪われて学業に専念できず生徒の本分に反する結果となるなどの恐れがあることか
ら、
免許取得を規制して、バイク等の使用を必要最小限にとどめ、もつて、生徒の生命身体の
安全を保持し、非行及びその広域化を防止し、学業に専念させて生徒の本分を尽くさせる
ことにあると考えられる。そして、右の事故等の恐れのあること自体は否定し難いし、生
徒の生命身体の安全、学業専念の確保等が、本件高校の教育方針の基本に合致し、学校の
設置目的を達成するのに必要であることはいうまでもないところである。また、本件校則
は、免許取得を一律全面禁止するのではなく地域指定による許可制であり、しかも、PT
A関係団体の決議や生徒指導主事連絡協議会の申し合わせに立脚し高知県下の他校とも歩
調を合わせたものであることが明らかである。更に、本件校則のようなバイク規制は、高
知県下のみならず、全国的にも行なわれていることが窺われる。そのうえ、本件校則は、
保護者に周知徹底してその多くから支持されており、しかも、前記認定の事故件数の推移
からして、かなりの成果をあげているものと認められる。
これらの諸点を総合して判断すると、本件校則は、校長の教育的・専門的見地からの裁量
の範囲を逸脱した者しく不合理なものであるとはいえず、その趣旨、目的と社会通念に照
らし、学校の設置目的と合理的関連性を有するものといわざるを得ない。
4この点に関する原告の主張にかんがみ付言するに、本件校則は、免許取得を一律全面
、、禁止しているものではないとはいえ法律上は免許取得が認められているにもかかわらず
かなり広範囲にわたりこれを禁止しているので、その当否については、両論があり得ると
ころであり、原告の主張も一の見解として傾聴に値する。しかし、高校生のバイクの運転
には常に前記のような事故等の恐れが伴うものであつて、規制をしなければ事故等が増加
する実情であることは否定し難いから、もしバイク規制を廃止して免許取得及び運転を自
由に認めるとすれば、多数の生徒に対し、学校側が事故防止等のため特別の指導を行わな
ければならなくなるが、証人B、
同Aの各証言によれば、本件高校はもとよりのこと、他校においても、予算及び人的物的
な制約があつて、そのような特別の指導を行い事故防止等を確保できるほどの態勢にはな
く、保護者も学校の規制に頼つていることが認められるので、そういう現状からして、本
件校則を不合理であると断ずることはできない。
四家庭謹慎措置の当否
1前掲の乙第一四号証、証人B、同Aの各証言及び原告本人尋問の結果によれば、昭和
五九年四月、本件高校の生徒間に無許可で免許を取得している者がいるとの噂が出始め、
その後間もなく校外からもその旨の通報があつたこと、そこで、本件高校は、校内放送や
全校集会等で、無許可取得者は申し出るよう呼びかけたが、これに応じる者がなかつなの
で、調査を進めたところ、同年八月までに原告を含む一五名の者が無許可で原付免許を取
得していることが判明したこと、本件高校では、慣例に従い、職員会議で右一五名に対す
る措置を検討したところ、無期家庭謹慎の措置を行うのが相当であるとの結論に達したこ
と、そこで、A校長は、その結論どおりに行うこととしたが、原告を除く一四名及びその
父兄はこれに応じたけれども、原告の父親は応じず、家庭訪問も嫌い、裁判で争うなどと
言つたため、原告に対し、右措置自体は行つたものの、前記のような教育的指導は十分に
できなかつたこと、以上のとおり認められる。
2ところで、本件校則が合理性を有するものであることは前記のとおりであり、原告は
これに違反して免許を取得したのであるから、これについて校長が懲戒を行うことができ
るのは当然である。そして、懲戒が必要であるかどうか及び必要であるとしてどの程度の
懲戒を行うかについては、やはり校長が裁量権を有するものというべきところ、右認定の
事実及び前記の家庭謹慎の内容等に徴すると、A校長が原告に対してした家庭謹慎措置が
裁量権を逸脱した違法なものであるとは認め難い。なお、右の証拠並びに弁論の全趣旨に
よれば、A校長は、自ら及びホーム担任教師らを通じ、原告及びその父親に対し、原告が
本件校則に違反して免許を取得したことを理由に家庭謹慎措置を行う旨を告知し、かつ、
これに応じるよう原告の父親を説得しようとしたことが明らかであるから、右措置につき
原告主張のような手続的違法があつたともいえない。
五結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、
その余の点について判断するまでもなく、理由がないことに帰するから、これを棄却する
こととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官山脇正道前田博之佐久間政和)

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