弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
一 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し五四〇万二二五四
円及びこれに対する昭和六〇年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金
員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに
仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示のとお
りであり、証拠の関係は、本件記録中の第一、二審書証目録及び証人等目録記載の
とおりであるから、これを引用する。
(原判決の付加部分)
 原判決五枚目裏三行目「措置」の次に「(退職手当の支給割合に差を設けないも
の。以下同じ。)」を加える。
(当審における主張)
一 控訴人
1 被控訴人は、A校長が、昭和四九年二月二六日並びに昭和五〇年二月二六日
頃、控訴人に対し退職勧奨をしたと主張するが、控訴人は、退職勧奨書も受け取つ
ておらず、右の事実はない。
2 そもそも、退職勧奨の権限は、教育委員会にあり、学校長は、その意思表示を
伝達する機関にすぎないのであつて、同人に独自の退職勧奨をする権限はないもの
である。
3 退職勧奨に応ずると否とは、被勧奨者の自由であると被控訴人も主張している
ところである。しかるに、改正条例附則に基づき、勧奨に応ずると否とにより退職
金支給額を差別することは、憲法一四条一項、地公法一三条、一四条、労基法三条
に違反するものである。
二 被控訴人
 控訴人に対する退職勧奨の経緯は、以下のとおりである。
1 被控訴人は、その公立学校男子教員の退職勧奨年齢を昭和四八年度は五九歳、
昭和四九年度は勧奨年齢延長の経過措置として五九歳及び六〇歳とした。
2 そこで、退職勧奨権限者たる岡山県教育委員会(以下「県教委」という。)
は、控訴人が当時在職していた岡山県立玉島商業高等学校(以下、「玉商」とい
う。)の校長A(以下、「A校長」という。)を通じて、控訴人に対し次のとおり
退職を勧奨した。
(一)昭和四八年度については、昭和四九年二月二六日、A校長が玉商校長室にお
いて控訴人(当時五九歳)に対し退職勧奨書を渡して退職を勧奨したが、控訴人
は、これを拒否し同書面を同校長に返した。
(二)昭和四九年度についても、A校長が、昭和五〇年二月二六日頃、再度書面又
は口頭により退職を勧奨したが、控訴人(当時六〇歳)によつて拒否された。
3 被控訴人は、昭和五〇年度以降は勧奨年齢を六〇歳として退職勧奨をしてきた
が、昭和五九年四月一日以降、定年即ち六〇歳に達した者は、原判決事実摘示請求
原因1のとおり昭和六〇年三月三一日に自動的に退職することとなるので退職勧奨
は行つていない。
 したがつて、昭和五九年四月一日以降の在職者で同年三月三一日以前に六〇歳に
達していた者は、過去において退職勧奨を受けたが、これを拒否した者である。
 そこで、被控訴人は、昭和五九年四月一日以降六〇歳に達した者、つまり、在職
中に退職勧奨を受けていない者については、改正条例附則第二項(従来の勧奨退職
による退職手当)を適用し、一方、昭和五九年三月三一日以前に六〇歳に達した
者、つまり、過去に退職勧奨を受けたがこれを拒否して在職を続けた者には、政正
条例附則第三項(普通退職による退職手当)を適用したものである。
 したがつて、被控訴人の控訴人に対する退職手当の支給につき何ら違法不当な点
はない。
       理   由
一 当裁判所は、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のと
おり削除、附加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用
する。
1 原判決七枚目裏四行目冒頭の「二」から八枚目表一二行目の「検討する。」ま
でを削り、同表末行の「(一)」を「二 ところで、」と改める。
2 同九枚目裏五行目の次に改行して以下のとおり加え、一三枚目表三行目冒頭の
「三」を「四」と改める。
「三 そして、前記のとおり、被控訴人は、控訴人に対し改正条例附則三項により
旧条例四条一項を適用して退職手当を支給したことは当事者間に争いのないところ
である。
 これに対し、被控訴人は、改正条例附則三項は高齢者に対し同じ定年による退職
者でありながら単に高齢者というだけで不利益な取扱いを定めたものであり、右取
扱いは、それに応ずる義務のない退職勧奨を拒否した事実が仮にあつたとしても合
理化できず(そもそも、控訴人は、被控訴人から退職勧奨を受けたことはな
い。)、また、改正前の旧条例を適用することは、法の一般原則にも反する(同様
に、定年制が導入された国家公務員については、退職手当の支給に関し本件の如き
差別的扱いはされていない。)から、改正条例三項は、憲法一四条一項、地公法一
三条、一四条及び労基法三条に違反し無効である旨主張する。」
3 同九枚目裏六行目の「(二)ところで」を「(一)そこで判断するに、」と改
め、七行目の「一般的には」の次に「加齢に伴い」を、八行目の「かかわらず、」
の次に「年功序列型給与体系の下では」を、末行の「応じて」の次に「自発的に」
を各加え、同一〇枚目表初行の「支給する」の次に「(なお、右勧奨による退職で
ない場合でも、相当年齢に達した後はできるだけ早期に退職することが一般には右
人事上望ましいことであつて、旧条例四条三項は二五年以上三〇年以下の期間勤続
して退職した者につき右勧奨によらない場合でも退職手当に相当高率の割増をする
ことを定めており、この点は改正条例四条三項でも同様に定められており、また、
定年制施行後の国家公務員等退職手当法五条の二でも相当年齢以上の者の定年前早
期退職につきなお若干の優遇措置を定めている。)」を加え、二行目の「である」
を「であり、特に、定年制が施行されていない状況下ではその必要制が十分に肯認
される」と改める。
4 同一〇枚目裏初行の「しかしながら、」の次に「当審証人Aの証言と弁論の全
趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五ないし第七号証及び同証言並び
に」を加え、一二行目の「四月一日以後」から同一一枚目表初行の「また、」まで
を「四月一日より前に定年(満六〇歳)に達していた者は一般には過去に右退職勧
奨を受けていたものであり、したがつて、その勧奨に応じて退職することにより当
時既に二五年以上勤続していた者は、旧条例五条一項(改正条例五条一項と同じ割
合)による改正後の一般の定年退職者と同様の退職手当の支給も受けることができ
た者であつて、それにもかかわらず本人の事情により右退職勧奨を拒否して勤続し
た者であるのに対し、他方、右同日以降に定年に達した者は、右退職勧奨を受ける
こともなく(したがつてこれを拒否したこともなく)、また、一般の」と改め、二
行目「のであるから」の次に「(なお、右昭和五九年四月一日より前に定年に達し
た者で、その職務の特殊性等から右退職勧奨を受けることがなかつた者について
は、その退職手当の支給につき、改正条例附則二項の「これらの者との権衡上同等
の取扱いが必要と認められる者で任命権者が知事の承認を得て定めるもの」として
右昭和五九年四月一日以降に定年に達した者と同様に取扱うことができることとな
るものと解される。)を加え、同一一枚目裏九行目の「支給しているが」の次に、
「しかし、成立に争いのない乙第二ないし第四号証及び当裁判所に顕著な事実によ
ると、国家公務員と地方公務員の給与体系は一様ではなく、また、その各退職勧奨
制度の運用状況及び退職手当の支給割合(被控訴人の場合、その者の給料月額に乗
ずべき三一年以上の勤続期間についての割合は国家公務員の方がかなり低率であ
る。)等も必ずしも同一ではないことが明らかなのであるうえ、元来各地方公共団
体の職員の退職手当の内容については各地方公共団体においてその各条例で定める
べきものとされている(地方公務員法二四条六項)ものであるところ、各地方公共
団体は、その規模、人事計画、財政状態等を総合的に勘案して独自に職員の退職手
当の支給率等を定め得るものであつて、もとより右諸点等から合理的に首肯し得る
理由があれば相当な範囲内で国や他の地方公共団体と異なる内容の退職手当の支給
率等を定めることも可能なものと解されるのであり、現に、」を加える。
5 同一二枚目裏一一行目の次に改行して以下のとおり加える。
「(二) なお、控訴人は退職勧奨を受けた事実はないと主張しているので、控訴
人に対する退職勧奨の有無について以下判断する。
 前掲乙第五ないし第七号証、成立に争いのない甲第四号証、第八ないし第一〇号
証、当審証人Aの証言、当審における控訴人本人尋問の結果(一部措信しない。)
並びに甲第五号証の存在を総合すると、控訴人が在職していた玉商のA校長は、昭
和四八年三月一日項、控訴人(当時五八歳)に対し、来年以降のことではあるがと
前置きしたうえ(前記のとおり、当時、被控訴人の定めていた退職勧奨年齢は五九
歳であつて、控訴人は、翌年その対象となるものであつた。)、退職の年齢が来て
いるので後進に道を譲つて欲しい旨告げて翌年の退職勧奨を示唆したこと、翌昭和
四九年二月、被控訴人は、控訴人を対象者に含めた教職員勧奨退職計画案を立案
し、勧奨権限者たる県教委は、同月二二日付控訴人宛の退職勧奨書(乙第五号証、
退職を勧奨する旨とその場合の退職手当の支給については旧条例五条を適用する旨
の記載がある。)をA校長に送付して、これを控訴人に伝達するよう指示したこ
と、そこで、同校長は、同月二六日頃、校長室に控訴人を呼び、右退職勧奨書を交
付しようとしたところ、控訴人は、退職勧奨の話であることは了知していて勧奨の
理由が示されていない書面は正式なものとは解されないとして、その受領を拒み、
雑談としてなら話に応ずる旨述べたため、A校長は、口頭で右退職勧奨書の内容を
伝えたが、控訴人は、前年の一月、控訴人宛に、退職を迫る内容の匿名による中傷
的文書が郵送されてきた問題等が解決しない限り退職しない旨答えたこと、そこ
で、A校長は、右の経緯を県教委に報告したこと、さらに、被控訴人は、昭和五〇
年二月にも、控訴人(当時六〇歳)を対象者に含めた教職員勧奨退職計画案を立案
し、県教委は、同月末頃、前年と同様に退職勧奨書を送付してA校長を通じて控訴
人に対し右退職勧奨書を伝達しようとした(A校長において右退職勧奨書が来てい
る旨伝えた)が、控訴人は、前年と同様にその受領を拒んだことが認められ、これ
に反する当審における控訴人本人尋問の結果は措信できず、他に右認定に反する証
拠はない。
 右事実によれば、県教委は、昭和四九年二月及び昭和五〇年二月(昭和四八年、
同四九年各学校年度)の二回にわたり控訴人に対し各退職勧奨をなしたが、控訴人
は、これらをいずれも拒絶したものということができる。
 右について、控訴人は、A校長に退職勧奨の権限はなく、また、控訴人は退職勧
奨書も受け取つていないのであつて、被控訴人から退職勧奨を受けた事実はないと
主張する。しかし、前記認定事実からして、昭和四九年、五〇年とも、控訴人に対
し退職を勧奨する旨の任命権者(退職勧奨の権限者)たる県教委の意思の通知は、
その命を受けたA校長(校長は県教委の指揮監督の下に校務をつかさどり、所属職
員を監督する。)を介して控訴人に到達したものと認めるに十分で、控訴人もその
内容を十分了知したうえで、結局これを拒絶したものと認めることができる。たし
かに、前認定のとおり退職勧奨書は控訴人に手交されておらず、また、控訴人は、
雑談であるならと断つたうえでA校長との話に応じたような事実が窺われるが、し
かし、退職勧奨という行為は、その者の退職を勧奨しているという趣旨が相手方に
伝わればよいのであつて、この伝達に必ずしも書面の交付を必要とするものではな
く、また、当時A校長としては単なる雑談でなく県教委の命を受けて真に退職勧奨
の趣旨を伝達しているものであることは前記認定に照らし明らかで、かつ控訴人も
このことは了知していたものとみられるところ、控訴人の殊更雑談としてと断つた
趣旨は右退職勧奨を受容しない趣旨をあらかじめ強く表明したとみられるにすぎ
ず、このことにより右伝達がなかつたとはいえず、控訴人に対し退職を勧奨する旨
の県教委の意思通知は、控訴人に到達し、結局、控訴人は右勧奨を拒絶したものと
いわざるを得ない。
 したがつて、控訴人の右主張はいずれも理由のないものである。
 そうすると、結局、控訴人は、改正条例附則二項所定の昭和五九年四月一日以後
に六〇歳(定年)に達した者ではないのみならず、右以後に定年に達した者との権
衡上同等の取扱いが必要と認められる者にも該当しないものというべく、したがつ
て同附則三項によりその退職手当については旧条例四条一項が適用されるべきこと
となる。」
6 同一二枚目裏一二行目の「については」の次に「改正条例附則二項、三項によ
り」を加える。
二 よつて、原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却することと
し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり
判決する。
(裁判官 渡辺伸平 相良甲子彦 廣田聰)

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