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平成23年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年3月17日
判決
原告X
同訴訟代理人弁護士大津卓滋
原田活也
佐藤一誠
同補佐人弁理士麦島隆
被告ノーベル技研工業株式会社
同訴訟代理人弁護士勝又祐一
高橋敬一郎
同弁理士神保欣正
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2010−800012号事件について平成22年7月5日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係
る特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が,同請求を認め,本件特許
を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとお
り)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「法面の加工方法および法面の加工機械」とする特
許第2008978号(平成2年9月12日特許出願。同8年1月11日設定登録。
請求項の数は全9項。以下「本件特許」という。)に係る特許権者である(甲3)。
(2)被告は,平成22年1月19日,本件特許のうち請求項1,4及び5に係
る発明についての特許を無効とすることを求める審判請求をし,特許庁に無効20
10-800012号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成22年7月5日,「特許第2008978号の請求項1,
4及び5に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をし,同月15
日,その謄本が原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件出願に係る明細書(甲3)の特許請求の範囲の請求項1,4及び5の記載は
次のとおりである。以下,これらの請求項に係る発明を,請求項の番号に従って
「本件発明1」,「本件発明4」及び「本件発明5」といい,これらを併せて「本
件発明」という。
【請求項1】土砂等の切取り,掘削等の作業を行い法面を形成する部位の上部の地
面に所定間隔離間させて左右のアンカーを固定する左右のアンカー固定工程と,土
砂等の切取り,掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動される法
面の加工機械本体に前記左右のアンカーにワイヤーがそれぞれ取り付けられた左右
のウインチあるいは前記左右のアンカーに固定された左右のウインチのワイヤーを
前記法面の加工機械本体に取り付ける左右のウインチ取付け工程と,前記法面の加
工機械本体および前記左右のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切
取り,掘削等の作業を行う法面形成工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法
【請求項4】バックホウ等の油圧で走行したり作動する法面加工機械本体と,この
バックホウ等の法面の加工機械本体に取り付けられた左右のウインチと,この左右
のウインチから伸縮されるワイヤーを固定する法面を形成する部位の上部の地面に
所定間隔離間されて固定される左右のアンカーとからなることを特徴とする法面の
加工機械
【請求項5】バックホウ等の油圧で走行したり作動する法面の加工機械本体と,法
面が形成される部位の上部の地面に所定間隔離間されてアンカーで固定された左右
のウインチと,この左右のウインチから伸縮されるワイヤーを前記法面の加工機械
本体に取り付ける取付け金具とからなることを特徴とする法面の加工機械
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び
2に記載された各発明(以下,「引用発明1」及び「引用発明2」という。)等並
びに慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,
同特許は無効とすべきである,というものである。
ア引用例1:特開平2−144415号公報(平成2年6月4日公開。甲1)
イ引用例2:特開昭61−176703号公報(甲2)
(2)なお,本件審決が前記判断に当たって認定した引用発明1並びに本件発明
1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明1:破砕作業を行う傾斜した補強面の上方に,所定間隔離間させて,
左,中,右の位置に設置した3つの巻取機がそれぞれ取り付けられた基台をアンカ
ーにより地面に固着し,破砕作業を行う破砕機を搭載した台車に前記巻取機のワイ
ヤーを係止する工程と,巻取機を駆動させて破砕機を搭載した台車を所定位置まで
移動させ,破砕機で破砕作業を行う工程を含む傾斜した補強面の改修方法
イ一致点:法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させてアンカーを
固定するアンカー固定工程と,法面の加工機械本体に,前記のアンカーに固定され
たウインチのワイヤーを取り付けるウインチ取付け工程と,前記法面の加工機械本
体及び前記ウインチを作動させて法面を形成する作業を行う法面形成工程とを含む
法面の加工方法
ウ相違点1:法面を形成する作業及び法面の加工機械本体について,本件発明
1は,土砂等の切取り,掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動
されるものであるのに対し,引用発明1は,傾斜した補強面上を走行可能で,破砕
作業を行うものであり,破砕機が油圧で作動されるものであるものの,油圧で走行
するか不明な台車である点
エ相違点2:アンカー及びウインチについて,本件発明1は,法面及び加工機
械本体の「左右」,すなわち2つ設けられているのに対し,引用発明1では,補強
面及び台車の「左,中,右」,すなわち3つ設けられている点
オ相違点3:ウインチ取付け工程について,本件発明1は,法面の加工機械本
体にウインチを取り付けるか,あるいはアンカーに固定されたウインチのワイヤー
を法面の加工機械本体に取り付けるか,の二者択一となっているのに対し,引用発
明1は,巻取機に巻回されているワイヤーを台車に係止したものである点
4取消事由
相違点2についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)引用発明1について
ア本件審決は,引用発明1について,左右巻取機及びワイヤーの操作によって,
台車の左右方向への移動が行われていることが明らかであるとした。
イしかしながら,引用例1においては,主ワイヤーは台車のベースに設けられ
た固定連結具に係止されており主として台車の重量を支え,台車の昇降移動を受け
持つものであるところ,左ワイヤー及び右ワイヤーは事故等により主ワイヤーが緩
んだり切れたりしたような場合に台車の落下を防止することが記載されているだけ
であって,主ワイヤーが1本であることからすると,台車は,主ワイヤーによって
上下方向のみに牽引され,左右のワイヤーは台車の左右方向への牽引という機能を
有するものでないことが明らかであって,引用発明1では,左右巻取機及びワイヤ
ーの操作によって台車の左右方向への移動が行われることはあり得ない。
このことは,引用例1の第7図において,左右のワイヤー12b,12cは,台
車のベースに,軸により後端部が軸支された可動連結具9bの先端部の孔に係合さ
れ,この可動連結具9bは,左右の車輪を結ぶ車軸(舵取り機構)にピンにより連
結されており,左右のワイヤー12b,12cを左右に引っ張った場合,可動連結
具9bの先端部が軸を中心として左右に回動し,これに伴って車軸(舵取り機構)
が左右に動き,その結果,車輪の向きが所定角度(図面上,最高でも45度前後)
変化するにすぎないこと,すなわち,左右のワイヤー12b,12cは自動車のス
テアリング(ハンドル)の機能を果たすにすぎないものであって,台車自体を左右
に移動させる駆動力(牽引力)を発揮するものではないことからも明らかである。
また,引用例1には,「左右への移動は,台車(1)に設けられた舵取り機構を
別個の駆動源で操作して行うようにしてもよい。」との記載もあるが,これは,ま
さしく,左右のワイヤーが単なる舵取り駆動源であることの根拠ということができ
る。
ウなお,本件審決は,引用例1の「左右方向への方向転換は左右両ワイヤー
(12b)(12c)の張力バランスで行う。すなわち,例えば右ワイヤー(12
c)に比較して左ワイヤー(12b)の張力が大きくなるようにウインチモータ
(18b)による巻取量をより大きくすると,第7図に示すように,可動連結具
(9b)が反時計方向に回動し,舵取り機構(17)がこれに従動して車輪(3)
を左へ傾動させる」とし,左右巻取機及びワイヤーの操作によって,台車の左右方
向への移動が行われていることが明らかであるとする。
しかしながら,この説示は,上記イのとおり,「左右方向への移動」との解釈を
誤ったものである。
また,本件審決は,引用例1の「事故等により主ワイヤー(12a)が緩んだり
切れたような場合に台車(1)の落下を防止する」との記載から,ワイヤー操作で
台車の左右方向への移動が可能であるとした。
しかしながら,単に主ワイヤーが切れた際,左右のワイヤーが台車の重量を受け
持つことができるということから,ワイヤー操作で左右の移動が可能であるとする
ことは論理の飛躍である。引用例1は,単に,主ワイヤーが切れるなどし,いわば
宙吊りに近い状態になった際に,左右のワイヤーが台車を落下させない機能を果た
すということをいうものにすぎず,左右のワイヤーが牽引力を有することは述べて
いない。左右のワイヤーは,あくまでも可動連結具を動かして車輪の角度を変更す
るためのハンドルにすぎないものである。
(2)引用発明2について
ア本件審決は,引用発明2について,法面の左右方向の広い範囲にわたって加
工機械を移動させるものではないとしつつも,本件発明1と同様に,左右のウイン
チを作動させ,ワイヤロープの長さを調整することにより,左右方向に移動させる
ことができるものであるとした。
イしかしながら,引用例2には,「巻上装置は,法面処理用作業車を法面に沿
って巻上げ・巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウイ
ンチに巻かれるワイヤロープを前記作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそ
れぞれ接続し」,「ワイヤロープ19a,19bを巻き取り,…本体7を舗装作業
の一列分移動させる」との記載があり,また,第3図によると,作業車の幅と左右
のウインチの幅は同じなので,左右のワイヤロープは平行であって,このような作
業車を左右のウインチの幅,すなわち作業車の幅を超えて左右方向に移動させるこ
とは不可能であるから,引用発明2では,左右のウインチを作動させ,ワイヤロー
プの長さを調整することによって,左右方向に作業車を移動させるということはあ
り得ない。
すなわち,引用発明2は,加工機械であるアスファルトフィニシャをワイヤロー
プによって左右に移動させる牽引力を発揮させるものではない。
(3)本件発明1と引用発明との対比判断について
本件発明は,法面の左右方向の広い範囲にわたって加工機械を移動させることが
できる点に特徴があるのであって,このような広範囲の移動を実現するための必須
要件は,引用例1及び2のいずれにも記載されていない。本件発明における「左右
方向への移動」と比べると,引用発明1及び2における「左右方向への移動」の可
動範囲は極めて小さく,せいぜい「左右斜め方向への移動」又は「上下方向への移
動に伴う左右方向への微細な方向転換」というべきものにすぎない。
すなわち,引用発明1は主ワイヤー1本によって,引用発明2は平行な2本のワ
イヤロープにより,いずれも上下に移動するにすぎないものであって,車輪の角度
調整がされることで,上下に移動する行程の中で多少斜め方向に移動するにすぎな
いものである。引用発明1及び2を組み合わせたとしても,2本の平行なワイヤー
で上下に移動するものであり,かつ,左右のワイヤーで車輪の向きを変化させるハ
ンドルの役目を果たす発明がされるだけであって,「加工機械本体を,加工機械本
体よりも幅の広い左右のアンカーの幅寸法間にわたって左右及び上下方向に移動さ
せる」という本件発明特有の構成に至ることはあり得ない。
したがって,引用発明1及び2から本件発明を想到することは困難であり,本件
発明についての特許は,特許法29条2項に違反してされたものではない。
〔被告の主張〕
(1)引用発明1について
ア原告は,引用発明1では,左右巻取機及びワイヤーの操作によって台車の左
右方向への移動が行われることがあり得ないと主張する。
イ原告の上記主張は,左右のワイヤーの牽引力のバランスにより台車を左右に
移動させる作用と,ワイヤーにより車軸(舵取り機構)を左右に動かし台車を左右
に移動させるという2つの作用について,一方の作用が他方の作用を排斥する二者
択一的なものであるとの前提に立つものである。
しかしながら,左右のワイヤーの牽引力のバランスにより台車を左右に移動させ
る作用が生じた時に,仮に舵取り機構による車軸の左右方向がそれと相反する場合
(例えばワイヤーの牽引力のバランスにより台車を右方向に移動させようとしてい
る時に,車軸は中央方向を向いている場合)は台車は相反する方向に誘導されるこ
ととなり,台車は所望の方向に移動できないだけでなく,ワイヤーや舵取り機構に
反対方向の無理な力が加わりワイヤーの折損や舵取り機構の破損を招来することと
なるから,このような場合は,ワイヤーによる引っ張り方向に舵取り機構による車
軸の方向も合致させることが,当業者にとっては自明な技術常識である。引用例1
の第7図において,左右のワイヤー12b,12cを左右に引っ張った場合,可動
連結具9bの先端部が軸を中心として左右に回動し,これに伴って車軸(舵取り機
構)が左右に動き,その結果,車輪の向きを所定角度変化させる機構を採用したの
は,ワイヤーの牽引方向に対し車輪の向きを自動的に変えようという一挙両得的な
工夫であって,これをもって台車自体を左右に移動させる駆動力(牽引力)が否定
されるものではない。
(2)引用発明2について
ア原告は,引用発明2でも,左右のウインチを作動させ,ワイヤロープの長さ
を調整することによって,左右方向に移動させるということはあり得ないと主張す
る。
イしかしながら,引用例2によると,引用発明2の加工機械は,「曲線をなす
境界線」に沿って移動される,すなわち,左右方向に移動されるものであると認め
られ,引用発明2について,左右のウインチを作動させ,ワイヤロープの長さを調
整することによって,左右方向に移動させて作業させることができるものであると
した本件審決に誤りはない。
ウなお,原告は,引用発明2について,作業車を左右のウインチの幅,すなわ
ち作業車の幅を超えて左右方向に移動させることは不可能であると主張するが,引
用例2において,巻上機上の左右に搭載されるウインチ間の間隔に特段の限定はな
く,第3図においては,左右のウインチのワイヤロープの巻取り部分の外側端部間
の幅は明らかに作業車の幅を超えている。
(3)本件発明1と引用発明との対比判断について
上記(2)のとおり,引用例2には,巻上機上の左右に搭載されるウインチ間の間
隔が加工機械本体より幅狭であるとの記載はなく,第3図においては左右のウイン
チのワイヤロープの巻取り部分の外側端部間の幅は作業車の幅を超えている。
また,引用例1の第6図には,法面の左右方向の広い範囲にわたって加工機械を
移動させることが記載されている。
したがって,相違点2に係る本件発明の構成は,当業者において,引用発明1及
び2から容易に想到することができたものである。
第4当裁判所の判断
1取消事由について
(1)引用発明1について
ア引用例1には,以下の記載が認められる。
(ア)この発明は,道路沿いの法面における土砂の崩壊を防止するためのモルタ
ル吹き付け等による傾斜した地山補強面につき,長年月のうちの劣化に応じて改修
工事をする際,新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕して除去する必
要があることについて,そのために使用する装置の発明である。
(イ)従来の地山補強面の破砕は,作業者が傾斜する補強面上に立ち,破砕機を
直接その手で支持して操作する方法によっていたことから,作業上危険が伴うとと
もに,多くの人手を要し,人件費や工事期間が増大するなどという問題点があった。
(ウ)この発明は,上記のような問題点を解消するためのもので,安全でかつ大
幅な省力化と工期の短縮とが可能となる地山補強面破砕装置を得ることを目的とす
る。
(エ)この発明に係る補強面破砕装置は,補強面上を走行可能な台車と,この台
車に姿勢調整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置され
た基台と上記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動することに
より,上記台車を補強面上で移動させる台車移動装置とを備えたものである。
(オ)実施例についてみると,第5図及び第6図は,破砕装置を現場で動作させ
ている場合の状況を説明する側面図及び正面図である。これらの図において,台車
を補強面上で移動させるためのワイヤー12a,12b,12cは,補強面の上方
にそれぞれアンカーにより地面に固着された基台13a,13b,13cに取り付
けられたウインチに巻回されている。
第7図は,ワイヤー12a,12b,12cにより台車を牽引する場合の各ワイ
ヤーと台車との連結構造を示す説明図である。図において,主ワイヤー12aは,
台車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量
を支え,台車の昇降移動を受け持つ。左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,
台車のベースに軸を介して回動自在に取り付けられた可動連結具9bの先端に係止
されており,台車の左右方向への移動を受け持つとともに,事故等により主ワイヤ
ー12aが緩んだり,切れたりしたような場合に,台車の落下を防止する。また,
可動連結具9bの回動に応じて車輪の軸を水平面内で回動させる舵取り機構が存在
する。
(カ)実施例における動作について説明すると,準備作業が終了すると,操作盤
の操作ボタンを操作して,まず台車を補強面の所定位置まで移動させる。
この場合,傾斜面の登坂は主ワイヤー12aの牽引力により行い,左右方向への
方向転換は左右両ワイヤー12b,12cの張力バランスで行う。すなわち,例え
ば右ワイヤー12cに比較して左ワイヤー12bの張力が大きくなるようにウイン
チモータ18bによる巻取量をより大きくすると,第7図に示すように,可動連結
具9bが反時計方向に回動し,舵取り機構がこれに従動して車輪を左へ傾動させる。
(キ)最初の位置における破砕作業が終了すると,再びウインチモータ18a等
の操作スイッチを操作することにより,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止
位置で破砕動作を再開する。以上の操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破
砕を,わずかの操作員により高能率に短期間に行うことが可能となる。
(ク)上記実施例では,台車を3本のワイヤーで牽引して昇降,左右移動するよ
うにしたが,1本のワイヤーで昇降させ,左右への移動は,台車に設けられた舵取
り機構を別個の駆動源で操作して行うようにしてもよい。
(ケ)この発明の効果として,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調
整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置された基台と上
記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動して上記台車を移動さ
せる台車移動装置とを備えたので,作業の安定が確保されるとともに,大容量の粉
砕機を使用することができ,大幅な省力化と工事期間の短縮が可能となる。
(コ)第6図には,台車から上方の3つの基台に向けてつながれたワイヤー12
a,12b,12cが描かれており,このうち左右のワイヤー12b,12cは,
台車からみて,広範囲に広がった形で左右の基台につながれている。
イ以上によると,引用発明1の地山補強面破砕装置については,台車に連結さ
れた各ワイヤーのうち,主ワイヤーは,台車の重量を支えるだけであって,台車の
昇降移動を受け持つものであるのに対し,左右のワイヤーは,台車の左右方向への
移動を受け持つものであって,左右巻取機の回動及びこれに基づく左右ワイヤーの
操作によって,台車は,広大な補強面の移動が可能となるものということができる。
ウなお,原告は,主ワイヤーが,台車のベースに設けられた固定連結具に係止
されており主として台車の重量を支え,台車の昇降移動を受け持つものであって,
主ワイヤーが1本であることなどからすると,台車は,主ワイヤーによって上下方
向のみに牽引され,左右のワイヤーは台車の左右方向への牽引という機能を有する
ものではなく,左右のワイヤー12b,12cはステアリングの機能を果たすにす
ぎず,左右巻取機及びワイヤーの操作によって台車の左右方向への移動が行われる
ことはあり得ないと主張する。
しかしながら,①引用例1の記載によると,引用発明1は,最初の位置における
破砕作業が終了すると,ウインチモータ等の操作スイッチを操作することによって
左右のワイヤーの張力を調整し,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止位置で
破砕動作を再開するとの操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破砕を行うこ
とが可能となるものであって,左右のワイヤーの張力バランスによって広大な補強
面の左右を移動できるようにするものであり,これは,主ワイヤー1本の牽引力の
みでは不可能であること,②引用例1の記載によると,「主ワイヤー12aは,台
車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量を
支え,台車の昇降移動を受け持つ」とされ,主ワイヤーによる台車の重量支持は
「主として」というものであって,左右のワイヤーが台車の重量の支持を全くしな
いとはされていないことから,主ワイヤーによる牽引力が台車に働くと,舵取り機
構の従動によって車輪が傾いた方向に動こうとし,例えば,第7図のように左に車
輪が傾動している場合には,主ワイヤーの牽引力によって,基台13cを中心に右
ワイヤー12cにも牽引力が掛かりつつ,この右ワイヤー12cを半径にして,台
車は登坂しつつ,左方向へ移動できること,③仮に左右のワイヤーが純粋にステア
リングに係る機能しか果たさず,左右巻取機及び左右のワイヤーの操作によって台
車の左右方向への移動が行われるということがあり得ないとすると,牽引の機能を
有するものは上下方向へ牽引する主ワイヤー1本だけということになるが,この場
合,台車に掛かる牽引力は,鉛直方向のみであるから,たとい舵取り機構の従動に
よって車輪が斜め方向を向いていたとしても,車台は,斜めに進行することはなく,
車軸の傾きの坑力に関わらずに車輪を回転させずに鉛直方向に移動するか,又は車
軸の傾きが坑力となって進行しないかのいずれかの結果となるもので,引用例1記
載の左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,「台車の左右方向への移動を受け
持つ」ことが実現されないこととなること,以上のとおりいうことができることか
らすると,原告の主張は採用することができない。
(2)引用発明2について
ア引用例2には,以下の記載が認められる。
(ア)本発明は,例えばダム,水路,道路,護岸等の工事での法面を舗装する場
合において,舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような作業車を法面に沿
って巻上げ・巻下げするウインチでなる巻上装置に関するものである。
(イ)例えば法面舗装によってダムを建設する場合,法面にこれを横切るように
設けた通路に自走式巻上機を置き,巻上機に搭載したウインチによりアスファルト
フィニッシャ等の作業車を巻き上げつつ法面を舗装し,1列の舗装が終わったら,
巻上機を移動させて舗装すべき法面の最低位置まで作業車を巻き下げ,再び巻き上
げつつ舗装するという作業を繰り返すことによって舗装を行う必要がある。しかる
ところ,既舗装面と未舗装面との間の境界線は,直線とは限らず,曲線の場合もあ
るが,従来の技術では,単にウインチによって巻上げ・巻下げをするだけであった
ことから,曲線の場合の境界線に沿って作業車を巻き上げることが困難で,舗装面
が重なったり,舗装材を舗装できない部分が生じたりするとの問題があった。
(ウ)本発明は,作業車を巻上機上のウインチによって巻上げ・巻下げする場合,
既処理面と未処理面の境界線に沿って作業車を巻き上げ,巻き下げることが可能と
なり,かつ,作業車を処理開始点にまで巻き下げる際に,真直に目的値にまで巻き
下げることのできる構成の法面処理用作業車の巻上装置を提供しようとするもので
ある。
(エ)本発明の巻上装置は,法面処理用作業車を法面に沿って巻上げ・巻下げす
る2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウインチに巻かれるワイヤ
ロープを作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続し,上記ウイン
チの駆動用油圧モータの油圧回路には,両油圧モータに供給する作動油の流量を等
流量とする分流装置を設けるとともに,この分流装置と油圧モータとの間の各油圧
モータ対応の回路間に,両回路間を連通,遮断する2位置切換弁を設けることを特
徴とする。
そして,本発明の巻上装置においては,左右のウインチを巻上げ方向に作動させ
る場合には,上記2位置切換弁を左右のウインチモータへの回路が連通する位置と
し,作業車上のオペレータのハンドル操作によって,作業車の向きが変えられるよ
うにすることにより,境界線に沿って作業車が移動できるようにする。
(オ)実施例についてみると,第2図及び第3図は,本発明の巻上装置を搭載し
た巻上機を使用して法面舗装を行っている状態を示している。アスファルトフィニ
ッシャの巻上装置である巻上機本体上の左右に搭載されるウインチ9A,9Bは,
同型の油圧モータとドラムをそれぞれ有するもので,各ウインチ9A,9Bにそれ
ぞれ巻き取り・繰り出しされるワイヤロープ19a,19bは,アスファルトフィ
ニッシャの前部に設けた牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続される。
(カ)実施例における動作については,この装置において法面の舗装を行う場合,
巻上機本体の運転室内のオペレータが,ウインチ9A,9B等を運転することによ
って,アスファルトフィニッシャをゆっくりと巻き上げて舗装する。この場合,運
転室のオペレータは,ウインチ9A,9Bを作動させる油圧モータの流量を変える
ことによって,上記2台のウインチのワイヤロープの巻上げ量を変え,アスファル
トフィニッシャの向きを変えることができ,アスファルトの舗装済みの領域と未舗
装領域との間の境界線に沿って,上昇方向にアスファルトフィニッシャを移動させ
ることができる。
イ以上によると,引用発明2は,アスファルトフィニッシャである処理用作業
車を法面に沿って巻上げ・巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭
載し,各ウインチに巻かれるワイヤロープが処理用作業車の前部に設けた牽引フレ
ームの左右の端部にそれぞれ接続され,巻上機本体上のオペレータの操作によって,
左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させながら
上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であると認め
ることができる。
ウなお,原告は,引用発明2について,作業車の幅と左右のウインチの幅は同
じなので,左右のワイヤロープは平行であって,このような作業車を左右のウイン
チの幅,すなわち作業車の幅を超えて左右方向に移動させることは不可能であるか
ら,左右のウインチを作動させ,ワイヤロープの長さを調整することによって,左
右方向に作業車を移動させることはあり得ないと主張する。
確かに,上記アのとおり,引用例2によると,巻取機本体にウインチが搭載され
るものであるから,作業車の左右への移動について,おのずから2台のウインチ同
士の間隔による制約が存在するものと考えられるが,他方,引用例2の記載におい
て,巻上機本体に搭載されるウインチ同士の間隔に特段の規定はなく,巻上機本体
からはみ出してウインチを設置することも可能であることを考えると,巻上機本体
や作業車の幅までしか,作業車が左右に移動できないとまでいうことはできない。
そして,上記イのとおり,引用発明2は,巻上機本体上のオペレータの操作によ
って,左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させ
ながら上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であっ
て,左右2台のウインチの巻上げ量を変えることで,この2台のウインチからの作
業車を牽引する2本のワイヤロープの長さを調整することにより,作業車を左右に
移動させるものであるとの発明であること自体が否定されるものではなく,特に,
引用発明2においては,引用例2の記載において特段規定されていないウインチ同
士の間隔を広げることによって,作業車を左右に大きく移動させることもできると
ころのものであって,引用発明2につき,左右のウインチを作動させ,ワイヤロー
プの長さを調整することによって,左右方向に作業車を移動させるものではないと
する原告の主張は,ウインチ同士の間隔を引用例2の図面のものに限定する失当な
ものである上に,引用発明2においては,作業車が左右に移動するものであること
自体を看過するものであって,採用することができない。
(3)本件発明1と引用発明との対比判断について
ア原告は,本件発明は,法面の左右方向の広い範囲にわたって加工機械を移動
させることができる点に特徴があるのであって,このような広範囲の移動を実現す
るための必須要件は,引用例1及び2のいずれにも記載されておらず,引用発明1
及び2から本件発明を想到することはできないと主張する。
イしかしながら,前記(1)のとおり,引用発明1は,主ワイヤー及び左右の2
本のワイヤーの3本によって台車がつながれており,左右のワイヤーは台車の左右
方向への移動を受け持つことによって,台車の左右方向を含めた広大な補強面の移
動が行われるものであるところ,この引用発明1に,前記(2)のとおりの2台のウ
インチを作動させてワイヤロープの巻上げ量を変えながら作業車を境界線に沿って
左右に移動させることができるようにするとの引用発明2を適用することにより,
当業者において,引用発明1の「左,中,右」の3つのアンカー及びウインチを,
「左右」の2つのアンカー及びウインチとすることに困難はなく,本件発明1の相
違点2に係る構成に至ることは容易に想到し得たものということができる。
引用発明1及び2に係る原告の主張は上記(1)及び(2)のとおり採用することがで
きず,相違点2に係る原告の主張も採用することができない。
(4)小括
したがって,相違点2に係る本件発明1の構成は,引用発明1及び2に基づいて
当業者が容易に想到することができたものということができ,取消事由は理由がな
い。
2本件発明4,5について
原告は,本件発明4,5が無効とされるべきであるとした本件審決の判断に係る
取消事由を主張しない。
3結論
以上の次第であるから,本件請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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