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平成21年第4801号,平成22年第7629号損害賠償請求事件
判決
主文
1被告は,原告X1に対し,79万2000円及び別紙第2遅延損害金
目録1の「認容額」欄記載の各金員に対する同「起算日」欄記載の各日
から支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告X2に対し,9万9000円及び別紙第2遅延損害金目
録2の「認容額」欄記載の各金員に対する同「起算日」欄記載の各日か
ら支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告X3に対し,56万1000円及び別紙第2遅延損害金
目録3の「認容額」欄記載の各金員に対する同「起算日」欄記載の各日
から支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
4原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,これを19分し,その1を被告の負担とし,その余を原
告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
被告は,原告X1に対し,1500万円及びうち60万円に対する平成2
1年4月28日から,うち60万円に対する同年6月5日から,うち60万
円に対する同年8月19日から,うち60万円に対する同年9月4日から,
うち60万円に対する同年10月16日から,うち60万円に対する同年1
1月5日から,うち60万円に対する同年11月12日から,うち60万円
に対する同年11月19日から,うち60万円に対する同年12月28日か
ら,うち60万円に対する平成22年2月8日から,うち60万円に対する
同年3月31日から,うち60万円に対する同年4月23日から,うち60
万円に対する同年4月30日から,うち120万円に対する同年5月6日か
ら,うち60万円に対する同年9月6日から,うち60万円に対する同年9
月28日から,うち60万円に対する同年11月5日から,うち60万円に
対する同年12月27日から,うち60万円に対する平成23年1月24日
から,うち60万円に対する同年2月16日から,うち60万円に対する同
年3月18日から,うち60万円に対する同年4月11日から,うち60万
円に対する平成24年2月10日から,うち60万円に対する同年3月29
日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被告は,原告X2に対し,180万円及びうち60万円に対する平成21
年4月28日から,うち60万円に対する同年10月16日から,うち60
万円に対する同年11月5日から各支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
被告は,原告X3に対し,1020万円及びうち60万円に対する平成2
1年6月5日から,うち60万円に対する同年8月19日から,うち60万
円に対する同年9月4日から,うち60万円に対する同年11月5日から,
うち60万円に対する同年11月12日から,うち60万円に対する同年1
1月19日から,うち60万円に対する同年12月28日から,うち60万
円に対する平成22年2月8日から,うち60万円に対する同年3月31日
から,うち60万円に対する同年4月23日から,うち60万円に対する同
年4月30日から,うち120万円に対する同年5月6日から,うち60万
円に対する同年9月6日から,うち60万円に対する同年11月5日から,
うち60万円に対する平成23年1月24日から,うち60万円に対する同
年2月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行宣言
2請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
仮に仮執行宣言を付する場合には
ア仮執行免脱宣言
イ執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とすること
第2事案の概要
本件は,①死刑確定者として名古屋拘置所に拘置されている原告X1並びに
その弁護人であった原告X2及び原告X3が,刑事訴訟における控訴の取下げ
の効力を争うための面会につき,同拘置所長が拘置所職員の立会いのない面会
(以下「無立会面会」又は「秘密接見」という。)を認めなかったのは,秘密
交通権の保障に反し,又は拘置所長の裁量権を逸脱濫用した違法なものである
として,②原告X1が,同拘置所長の上記職務執行の違法性を主張する本件訴
訟の準備のための弁護士との面会につき,同拘置所長が無立会面会を認めなか
ったのは,拘置所長の裁量権を逸脱濫用した違法なものであるとして,被告に
対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,各面会にお
ける同拘置所長の職務執行によって原告らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料
及び弁護士費用並びに職務執行の日(各面会の日)から支払済みまで民法所定
の遅延損害金の支払いをそれぞれ求めた事案である。
1前提事実(証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)
当事者等
ア原告X1は,平成21年3月18日,名古屋地方裁判所において営利
略取,逮捕監禁,強盗殺人,死体遺棄,窃盗未遂被告事件(以下「本件
被告事件」という。)につき死刑判決(以下「本件死刑判決」という。
甲1)の宣告を受け,後述の審理を経て,現在は死刑確定者として名古
屋拘置所で拘置されている者である。
イ原告X2及び原告X3は,いずれもA弁護士会所属の弁護士で,原告X
1の本件被告事件一審の国選弁護人であった者である。
弁護士B及び弁護士Cは,いずれもA弁護士会所属の弁護士であり,原
告X2及び原告X3とともに,原告X1の本件訴訟の訴訟代理人である。
ウ被告は,名古屋拘置所を設置運営している。
原告X2及び原告X3は,平成21年3月18日,原告X1に対する本件
死刑判決に対し控訴を申し立てた。また,原告X1は,同月24日,本件死
刑判決に対し控訴を申し立てた。
その後,原告X1は,同年4月13日,名古屋高等裁判所に対し,控訴取
下申立書を提出し,控訴を取り下げた(以下「本件控訴取下げ」という。)。
名古屋地方検察庁検察官は,同月24日,名古屋拘置所長に対し,原告X
1の本件死刑判決が同月13日に確定した旨の死刑判決確定通知書を送付し,
同拘置所処遇部長は,同月27日,原告X1に対して,同通知書に基づき本
件死刑判決の確定を告知した(乙1,2)。
原告X1は,同日,原告X2及び原告X3を本件被告事件控訴審の私選弁
護人に選任する旨の弁護人選任届に署名押印し,原告X2及び原告X3は,
同日,名古屋高等裁判所に対し,同弁護人選任届及び本件控訴取下げが真意
に基づかない無効なものであり,控訴審における審理を求める旨の期日指定
申立書を提出した(以下「本件期日指定申立て」という。甲2,3)。
原告X2及び原告X3は,同月28日から平成23年2月16日までの間,
20回にわたり,名古屋拘置所において,本件期日指定申立てに関する準備
のため原告X1との無立会面会を申し出たが,無立会面会は認められず,平
成22年4月15日の1回を除き,いずれも拘置所職員立会いの下,面会を
行った(拘置所職員立会いの下で行った19回の面会を,以下「本件弁護人
面会」という。)。
原告X2及び原告X3は,平成21年8月12日,名古屋拘置所長が,原
告X1との無立会面会を認めなかったのは違法であるとして,原告X2及び
原告X3に対する慰謝料等の支払を求める旨の訴えを提起した(本件訴訟の
併合前の平成21年第4801号)。
名古屋高等裁判所は,本件期日指定申立てにつき,原告X1に対する事実
取調べ及び鑑定人による鑑定等の審理を行った後,平成22年9月9日,
「本件控訴は,平成21年4月13日取下げにより終了した」旨の訴訟終了
宣言の決定をした(甲31)。
原告X2及び原告X3は,同決定に対し,平成22年9月13日付け異議
申立書により異議を申し立て,同年11月15日付け異議申立理由補充書を
提出したが,名古屋高等裁判所は,平成23年2月10日,異議申立てを棄
却する決定をした(平成22年第16号。甲32ないし34)。
原告X2及び原告X3は,同決定に対し同月14日付け特別抗告申立書に
より特別抗告を申し立てたが,最高裁判所は,同年3月2日,同申立書には
具体的な抗告理由の記載がなく,抗告提起期間内に理由書の提出もないので,
同申立ては不適法であるとして,同抗告を棄却する決定をした(平成23年
第66号。甲35,36)。
原告X1は,平成22年11月4日,名古屋拘置所長が,原告X2及び原
告X3との無立会面会を認めなかったのは違法である旨主張し,原告X1に
対する慰謝料等の支払を求める訴えを提起した(本件訴訟の併合前の平成2
2年第7629号。以下「本件X1国賠訴訟」という。)。
原告X3,弁護士B及び弁護士Cは,同年9月28日から平成24年3月
29日までの間,6回にわたり,名古屋拘置所において,本件X1国賠訴訟
の準備のため原告X1との無立会面会を求めたが,無立会面会は認められず,
いずれも拘置所職員立会いの下,面会を行った(以下「本件訴訟代理人面
会」といい,本件弁護人面会と併せて「本件各面会」という。)。
2争点
本件弁護人面会における秘密交通権の保障の有無,刑事収容施設及び被収
容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)121条の
適用の有無(以下「争点」という。)
本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用されない場合,名古屋拘
置所長の職務上の注意義務違反の有無(以下「争点」という。)
本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用される場合,立会いを省
略しなかった名古屋拘置所長の裁量権の逸脱濫用の有無(以下「争点」と
いう。)
本件訴訟代理人面会の立会いを省略しなかった名古屋拘置所長の裁量権の
逸脱濫用の有無(以下「争点」という。)
原告らの損害額(以下「争点」という。)
3争点に対する当事者の主張
争点(本件弁護人面会における秘密交通権の保障の有無,刑事収容施設
法121条の適用の有無)について
(原告らの主張)
控訴取下げの効力を争っている原告X1には,刑訴法39条1項の適用な
いし準用,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」と
いう。)14条3項の適用又は憲法32条の趣旨により,弁護人との秘密交
通権が保障され,死刑確定者の面会の立会いに関し拘置所長の裁量権を認め
る刑事収容施設法121条は適用されないから,本件弁護人面会に立会いを
付すことは違法である。
ア刑訴法39条1項の適用ないし準用について
最高裁は,被告人が上訴取下げの意義を理解し,自己の権利を守る能力
を喪失していた場合のみならず,自己の権利を守る能力を著しく制限され
ていた場合にも,上訴取下げは無効である旨判示している(最高裁平成7
年6月28日第二小法廷決定・刑集49巻6号785頁。以下「最高裁平
成7年決定」という。)。審理の続行の申立てについて刑訴法の規定はな
く,期日指定申立ては形式的には職権発動を促す申立てにすぎないが,上
訴取下げを有効と認めた場合には訴訟終了宣言の決定をし,これに対する
不服申立てが認められるという実務上の運用が定着しており,最高裁も訴
訟終了宣言の決定に対する不服申立てを認めている(最高裁昭和61年6
月27日第三小法廷決定・刑集40巻4号389頁。以下「最高裁昭和6
1年決定」という。)。
このような最高裁の厳格かつ慎重な立場は,同決定の「訴訟終了宣言の
裁判に対してその取消しと爾後における上訴審の手続の続行を求める利益
が被告人側に存することは明らかであり,しかも,その利益は,刑事訴訟
の本案そのものの帰結にかかわるものであつて,単なる訴訟手続上の裁判
所の職権裁量事項についてその職権発動を求める場合と到底同日に論ずる
ことはできない」旨の補足意見が示しているように,上訴取下げという訴
訟行為が決定的な重要性を有することに着目して,形式論を乗り越え,実
質論に依拠したものである。
そして,上訴取下げの能力のうちの自己の権利を守る能力の有無につい
ては,当該訴訟行為のもたらす法律効果の重大性,意思決定過程に作用し
た精神障害の有無及びその程度,精神障害の原因と訴訟手続との関係,当
該訴訟行為をした動機又は目的等の諸事情を総合考慮して判断する必要が
あり,また,特に本件のように死刑判決を宣告された事件においては,刑
訴法の保障する上訴権の行使を事実上制限することのないよう,判決宣告
の衝撃や公判審理の重圧といった訴訟手続に必然的に伴う精神的苦痛が上
訴取下げに与える影響についても考慮する必要があるとされ,期日指定申
立て手続においては,事実取調べや鑑定などの手続も行われる。当該事実
取調べ等に対し適切に防御権を行使し,訴訟終了宣言等の決定に対して不
服申立ての手続を適切に行うためには,弁護人の有効な援助なしでは,上
訴取下げの有効性を効果的に争うことは不可能で,弁護権の保障が不可欠
であり,自由なコミュニケーションを確保するため,申立人と弁護人との
間の秘密交通権が保障されなければならない。
加えて,上訴取下げが無効と認められれば,上訴裁判所の審理が続行さ
れ,被告人の防御権が保障されるところ,期日指定申立て手続における秘
密接見が保障されなければ,接見内容が探知され,被告人の防御にとって
回復不可能な不利益が及ぶことになる。そのため,期日指定申立て手続に
おける秘密交通権を保障しないことは,その後の上訴裁判所の審理手続に
おける有効な弁護をも実質的に阻害しうることとなるのである。
したがって,上訴の取下げの効力を争う手続においては,上訴取下げの
能力の認定には「疑わしきは被告人の利益に」の証明基準が適用され,能
力の存在について「疑い」が払拭されたときに上訴取下げが有効とされる
のであり,期日指定申立人の法的地位については,無罪推定の原則により,
訴訟終了宣言の決定が確定するまでは,その上訴取下げが無効であること
を前提とし,「被告人」の地位にあると解するべきである。
控訴取下げの効力を争っている原告X1も,訴訟終了宣言の決定が確定
するまでの間は被告人として処遇され,その弁護人である原告X2及び原
告X3との面会には,刑訴法39条1項が直接適用される。
仮に同項が直接適用されないとしても,同項の秘密交通権は憲法34条
の弁護権に由来し,憲法34条の弁護権は,司法的コントロールを通じて,
あらゆる身体的拘束下にある人を違法拘束から保護するための手続保障と
しての性格を有する。死刑確定者か被告人かが未だ確定していない地位で
拘禁下にある原告X1の弁護権も,憲法34条によって基礎付けられてい
るから,刑訴法39条1項の準用により,秘密交通権を内包するものと理
解すべきである。
イ自由権規約14条3項について
自由権規約14条3項(b)は,「刑事上の罪の決定について」「弁護
人と連絡する権利」を保障している。
自由権規約14条に関する規約人権委員会の一般的意見32,欧州人権
条約における解釈,自由権規約委員会の日本政府の第5回定期報告書に対
する総括所見(以下「総括所見」という。),条約及び確立した国際法規
の誠実な遵守を求める憲法98条2項の趣旨にも照らすと,自由権規約1
4条3項(b)の被告人と弁護人とのコミュニケーションの保障には,弁
護人の援助の実効性を確保するために極めて限定された例外的状況がある
場合を除き自由と秘密性が保障されると解すべきで,自由権規約14条3
項(b)(d)の弁護権の保障は「刑事上の罪の決定」そのものに関する
手続でなくとも,手続全体としての裁判の公正を確保するために不可欠と
認められた場合には,準用されるべきである。
原告X1は,本件控訴取下げの効力を争う期日指定申立て手続の係属中
で,公判審理が続いており,再審請求手続以上に「刑事上の罪の決定」に
関する手続と同視すべき場合であるから,自由権規約14条3項により,
原告X1には秘密交通権が保障される。
ウ憲法32条を根拠とする裁判にアクセスする権利について
憲法32条が保障する裁判を受ける権利は,市民が裁判にアクセスする
権利を保障するものと解すべきところ,上訴取下げの無効を理由とする期
日指定申立て手続における秘密交通権の保障は,有罪判決の見直しを求め
て,裁判所にアクセスする権利を実効化するものとして憲法32条の保障
の趣旨に合致する。
(被告の主張)
控訴取下げの無効を理由とする期日指定申立てを行い,この点に関する裁
判所の判断がされていない死刑確定者と弁護人との間の面会には,秘密交通
権が保障されていないというべきであり,刑事収容施設法121条が適用さ
れ,拘置所長に職員の立会いに関する判断について裁量権が認められる。
ア刑訴法39条1項の適用ないし準用について
刑訴法39条1項が身体の拘束を受けている「被告人又は被疑者」(未
決拘禁者)に関する規定であることは文理上明らかであるところ,死刑確
定者は,死刑確定者を有罪とし死刑を言い渡した確定判決の効力により拘
束されており,また,死刑の執行のために必然的に付随する手続として,
一般社会とは厳重に隔離してその身柄を確保されるべき者として収容され
ているのであり(最高裁平成11年2月26日第二小法廷判決・訟務月報
45巻10号1926頁参照),被告人又は被疑者とは異なる法的地位に
ある。
したがって,刑訴法39条1項を死刑確定者に適用ないし準用すること
はできないというべきである。
刑事被告事件において,上訴を申し立てた後それを取り下げれば事件は
直ちに終了するから,上訴取下げにより原判決が一旦確定したにもかかわ
らず,その後の上訴取下げの無効を理由とする不服申立ての手続を行うこ
とにより,死刑確定者が直ちに被告人の地位に復するとすれば,著しく訴
訟手続の確実性が害されると共に,刑事施設における処遇にも著しい影響
を及ぼすことになる。したがって,明文の規定もなく,そのように解する
ことはおよそ許されるものではない。
現在の死刑判決確定後の事務手続をみても,死刑判決の確定により,未
決拘禁者から死刑確定者に法的地位が変更された場合,検察官が,死刑判
決確定通知書に判決謄本を添えて死刑の言渡しを受けた者が収容されてい
る刑事施設の長にその旨通知することとし,当該通知をもって刑事施設に
おける事務処理に支障が生じないよう措置されている。
最高裁昭和61年決定は訴訟終了宣言の決定に対する不服申立ての道を
開いたものにすぎず,同決定が,死刑判決の言渡しを受けた被告人が上訴
を取り下げた後,その上訴取下げの無効を理由とする期日指定申立てを行
ったからといって,直ちに刑事公判手続における被告人と同様の法的地位
を認める趣旨のものではないことは明らかである。
したがって,死刑判決の言渡しを受けた被告人が上訴を取り下げた後,
その上訴取下げは無効であっていまだ被告人の地位にある旨主張したとし
ても,当該刑事事件を審理する裁判所が上訴取下げを無効と判断しない限
り,飽くまで死刑確定者として処遇されるべきである。
最高裁平成7年決定は「疑わしきは被告人の利益に」の証明基準の適用
を肯定したものではなく,「疑わしきは被告人の利益に」の原則は,刑事
裁判手続における挙証責任や証明の程度についての原則を定めたものに過
ぎない。無罪推定の原則は,「疑わしきは被告人の利益に」の原則と同様,
被疑者ないし被告人に係る原則である。したがって,名古屋拘置所長が死
刑確定者として処遇されるべき原告X1との面会に立会いを付す措置につ
いてこれらの原則を及ぼす余地がないことは明らかである。
憲法34条は,当事者主義構造を採る刑事手続の下,捜査・訴追を受け
る被疑者に対して,弁護人に依頼することにより,弁護人から援助を受け
る機会を持つことを保障したものと解されている。他方,死刑確定者は,
死刑を言い渡した確定判決の効力により拘束されており,もとより被告人
又は被疑者ではなく,また,死刑の執行のために必然的に付随する手続と
して,一般社会とは厳重に隔離してその身柄を確保されるべき者として収
容されているのであるから,かかる死刑確定者について,被疑者の権利を
保障した憲法34条の適用及び準用を論じるのが相当ではないことは明ら
かである。
イ自由権規約14条3項の適用について
自由権規約14条3項を条約法に関するウィーン条約(昭和56年条約
第16号)31条1に従って解釈すれば,自由権規約14条3項(b)は
被疑者ないし被告人の弁護人との接見交通権を,同条(d)は被疑者ない
し被告人の弁護人依頼権や防御権をそれぞれ保障したものであり,憲法3
4条と同様に未決拘禁者を対象とする趣旨と解される。
総括所見は締結国に対して,法的拘束力を含めいかなる義務的拘束力を
もつものではない。また,我が国が欧州人権条約の当事国でないことはい
うまでもない。
以上によれば,自由権規約14条3項により,本件弁護人面会に秘密交
通権の保障が及ぶものではない。
ウ憲法32条を根拠とする裁判にアクセスする権利の侵害について
死刑確定者に対して憲法32条の裁判を受ける権利の保障が及ぶとして
も,同権利は,刑事事件に関しては,裁判所の裁判によるのでなければ刑
罰を科せられないという憲法31条の定める適正手続の当然の要請を意味
するものと解され,死刑確定者に対し,上訴取下げの無効を理由とする期
日指定申立て事件の弁護人である弁護士と立会人なく面会し,打ち合わせ
をする権利ないし自由まで直接的に保障したものと解することはできない。
そもそも,未決拘禁者と弁護人等との秘密交通権は,飽くまでも憲法34
条の弁護人に依頼する権利の保障に由来する刑訴法39条1項から導かれ
るものであり(最高裁昭和53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻
5号820頁,同平成3年5月10日第三小法廷判決・民集45巻5号9
19頁,同平成3年5月31日第二小法廷判決・裁判集民事163号47
頁参照),それ以外に,憲法32条を根拠として,未決拘禁者と弁護人等
以外の者についても同様に秘密交通権が認められると解する余地はない。
争点(本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用されない場合,
名古屋拘置所長の職務上の注意義務違反の有無)について
(原告らの主張)
本件弁護人面会に立会いを付すことが違法である以上,名古屋拘置所長に
は,原告X1が上訴の取下げの効力を争っている事実を裁判所に確認し,原
告らの権利を侵害することのないようにすべき職務上の法的注意義務があり,
また,確認がされたのであれば,原告X1の訴訟の準備という正当な利益の
保護の必要性が高いことに鑑み,面会に立会いを付さない旨の判断を下し,
その旨の措置を指揮下にある拘置所職員らに執らせるべき職務上の法的注意
義務があった。
本件弁護人面会の時点でも,最高裁平成7年決定等により,上訴取下げの
無効が認められることは明らかにされており,かつ,上訴取下げの無効が原
始的無効であることは確立した解釈であるから,死刑確定者を拘禁する拘置
所の長としては,上訴取下げ無効を理由とした弁護人と死刑確定者との面会
は単なる死刑確定者と弁護士との面会ではなく刑事被告人もしくはこれに準
ずる者と弁護人との面会として処遇すべきことは判断が可能であった。
そして,名古屋拘置所長は,原告X2及び原告X3が原告X1との面会を
申し入れた時点において,原告X2及び原告X3が名古屋高等裁判所に弁護
人選任届を提出し,期日指定の申立てを行った旨告げたにもかかわらず,原
告X1が一旦控訴取下げをなした以上,死刑確定者として扱えば足りると判
断し,指揮下にある拘置所職員らに,原告X1が真に控訴取下げの効力を争
っているのか否かを名古屋高等裁判所に確認させるなどせず,原告らの面会
に立会いを付すことを決め,統括矯正処遇官(以下「統括」という。)ら指
揮下の拘置所職員らに対し,その旨指揮したもので,故意に上記注意義務に
違反した。
(被告の主張)
国賠法1条1項の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上
の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたことをいうのであって,当該
公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該法令の
解釈適用を行ったと認めうるような事情がある場合に限り,違法と評価され
るに過ぎない。
仮に,本件のような場合に,刑訴法39条1項の適用ないし準用が認めら
れるとしても,本件弁護人面会当時,同条項の適用ないし準用を認める見解
を根拠付ける明文規定や判例もなく,確定した実務慣行あるいは解釈といえ
るものではないのであるから,本件において,名古屋拘置所長が執った措置
が職務上の義務に違反したということはできない。
争点(本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用される場合,立
会いを省略しなかった名古屋拘置所長の裁量権の逸脱濫用の有無)及び争点
(本件訴訟代理人面会の立会いを省略しなかった名古屋拘置所長の裁量権
の逸脱濫用の有無)について
(原告らの主張)
ア本件弁護人面会について
仮に本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用されるとしても,
原告X2及び原告X3が原告X1との面会を申し入れた時点において,原
告X1は,原告X2及び原告X3を弁護人に選任し,期日指定の申立てを
行っていたから,刑事収容施設法121条ただし書きの「死刑確定者の訴
訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録
画をさせないことを適当とする事情がある場合」に該当する。
本件死刑判決が果たして確定したのか否か,刑事裁判そのものの帰結に
関わる争いを行っていた原告X1が,その弁護人である原告X2及び原告
X3と無立会面会をし,弁護人と十分な意思疎通を図り,実質的かつ効果
的な弁護人の援助を受ける正当な利益は,これを保護する必要性が極めて
高く,他の利益に比して優越的価値を有する利益であったと認められる。
イ本件訴訟代理人面会について
本件訴訟代理人面会は,本件弁護人面会について秘密接見を認めない名
古屋拘置所長の処遇に関する本件X1国賠訴訟の準備のための面会であり,
刑事収容施設法121条ただし書きの「死刑確定者の訴訟の準備その他の
正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないこと
を適当とする事情がある場合」に該当する。
同法の立法過程における法務大臣の答弁及び被収容者が自己が受けた刑
事施設における処遇に関して救済等を求めるために弁護士と面会する場合
には,刑事施設はその処遇に関する紛争の直接の相手方に他ならず,拘置
所職員が立ち会って面会の際の発言内容を逐一聴取される状況では情報伝
達や意思疎通に対する萎縮的効果も甚だしく,明らかに不公平であること
等をふまえれば,原告X1が,本件弁護人面会の秘密接見を認めない名古
屋拘置所における処遇に対し不満を抱いて救済を希望し,かかる処遇に関
する本件X1国賠訴訟の準備のため打ち合わせをしようと名古屋拘置所に
赴いた弁護士と無立会面会をし,十分な意思疎通を図り,法律専門家たる
弁護士から実質的かつ効果的な援助を受ける正当な利益もまた,これを保
護する必要性が極めて高く,他の利益に比して優越的価値を有する利益で
あったと認められる。
ウ刑事収容施設法32条1項は,死刑確定者が自ら「心情の安定」を得ら
れるよう適切な援助を与え,又は心情の安定が害されるような外的条件を
排除するよう処遇上の配慮がなされるべきであることを明らかにしている。
「心情の安定」は,個人の主観に関わる内心の問題であり,基本的に強制
するような事柄ではなく,心情の安定を図ることを理由に何らかの義務を
課し,保障されるべき権利を制約するのは適当ではなく,このことは,立
法時の経過からも明らかであり,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する
法律の一部を改正する法律」の衆議院及び参議院の各法務委員会における
附帯決議において,「心情の安定を死刑確定者の権利を制限する原理であ
ると考えてはならない」旨決議されている。
そうであるとすると,心情把握の必要性を理由とした立会い等は許され
ず,死刑確定者のかかる希望を尊重し,かつ援助するため,原則として,
拘置所職員の立会いは行わせるべきではない。
また,原告X1は,平成21年3月18日に死刑判決を受ける前から精
神安定剤や睡眠薬を服用し続けており,精神安定剤や睡眠薬の服用と死刑
判決を受けたこととは全く無関係であった。
したがって,死刑確定者の正当な利益を制限する根拠として心情の安定
や心情把握の必要性を持ち出すこと,原告X1が睡眠薬や精神安定剤を服
用し続けていることは,拘置所側の都合や論理で心情の安定を図ることを
理由に死刑確定者に保障されるべき正当な権利利益を制約することに他な
らない。
エ他方,原告X2や原告X3は,原告X1の本件被告事件一審の国選弁護
人であり,原告X1が平成19年12月5日に名古屋拘置所に収容されて
から平成21年4月までの1年4か月あまり,弁護人として同拘置所にお
いて原告X1と多数回,長時間の接見を繰り返し,信頼関係を十分に形成
していた。そして,原告X1が接見に起因して精神的に不安定な行動に及
んだ旨の指摘はなく,原告X1の精神的に不安的な行動と原告X2と原告
X3との接見ないし面会とは全く関連性が認められなかった。これらの事
実は,名古屋拘置所長も知悉していた。
オしたがって,名古屋拘置所長が本件弁護人面会及び本件訴訟代理人面会
に拘置所職員の立会いを付した措置は,本来考慮すべきでない事項を考慮
に入れ,本来過大に評価すべきでない事項を過大に評価したものであり,
他方,考慮すべき事項を考慮しない又は過小に評価したものであり,裁量
権の逸脱濫用にあたる。
(被告の主張)
ア刑事収容施設法は,死刑確定者の面会における職員の立会いについて,
受刑者(同法112条)とは異なり,同法121条本文において,刑事施
設の長に対し,死刑確定者の面会に職員を立ち会わせるなどの措置を義務
付け,例外的に同条ただし書きに定める要件を満たす場合,すなわち,職
員の立会い等の措置を取らないことを適当とする事情があり,かつ刑事施
設の長が相当と認めるときに限って,上記義務を解除している。
イ平成21年10月16日までの本件弁護人面会について
死刑確定者と死刑判決確定の効力を争う代理人たる弁護士との面会につ
いては,一般的には立会い等の措置の省略を適当とする事情があると考え
られるが,実際には訴訟の準備はしていないのに,訴訟の準備の名の下に
支援活動を行っていると評価される場合などもあり,刑事施設の長は,当
該死刑確定者と弁護士との面会の頻度や状況に照らして,真に当該控訴審
手続について具体的な訴訟準備を行っているものか等を検討して判断する
こととなる。
原告X1に対する本件死刑判決の確定が告知された平成21年4月27
日の職員面接において,原告X1に控訴取下げの有効性を争う主体的かつ
明確な意思は全くうかがわれなかった。実際にも,同年10月16日の面
会までは,面会用件は刑事事件の控訴審手続の準備等とされていながら,
面会表からうかがわれる面会状況は,安否伺い,雑談,名古屋拘置所の対
応に対する不満,事務連絡といった内容が中心であり,控訴審手続につい
ての具体的な協議がされているとは認められず,立会いを省略するのに適
当な事情があるとは認められない状況にあった。
ウ職員の立会い等の措置の省略を適当とする事情が認められる場合にも,
更にこれに加えて,立会い等の措置の省略が相当であると認められること
が必要である。刑事施設の長が職員の立会い等の省略を相当と認めるか否
かを判断するにあたっては,死刑確定者の処遇の原則を踏まえつつ,死刑
確定者の収容に責任を有し,刑事施設内の実情に通暁し,刻々と変化する
死刑確定者の動静と微妙な精神状態を迅速かつ的確に把握でき,それぞれ
の死刑確定者の個別具体的な事情を常時総合的に把握しうる立場にある刑
事施設の長において,慎重に判断されるべき事柄であり,その判断にあた
っては,刑事施設の長の専門的・技術的な裁量に委ねられていると解され
る。
死刑確定者の面会につき無立会面会の権利は認められておらず,刑事施
設の長が立会いを省略するか否かを判断するに当たり,自殺及び逃走等の
保安事故を防止する観点や,適切な処遇方針の決定等のために,死刑確定
者の心情把握の必要性を考慮することは当然である。なお,刑事施設の長
が,保安事故防止等の観点から,死刑確定者の心情を適切に把握する必要
性を考慮して面会等を制約したとしても,それは死刑確定者の心情に配慮
した結果としてそうなったにすぎず,これをもって死刑確定者の心情の安
定を,権利を制限する原理としたなどと評価されるものではない。
原告X1は,本件死刑判決の前後を通じて,心情が安定せず,とくに本
件死刑判決後は,死の恐怖や不安等から心情が極めて不安定と認められる
状態にあり,名古屋拘置所は,原告X1が名古屋地方裁判所により死刑判
決の言渡しを受けてから,他の死刑確定者ではない被収容者と比して特に
その動静に注意を要する者,要注意者として,処遇に当たる拘置所職員に
おいて心情の把握に努めていた。
エ死刑確定者の置かれた特殊な状況やその心情における特徴,これらを考
慮した刑事収容施設法121条の趣旨を踏まえると,刑事施設の長が,立
会い等の措置を省略することを相当と認めるとの裁量権を行使するにあた
っては,死刑確定者の処遇の原則に反しないほどに,その心情の不安定さ
が認められないこと及び面会におけるその心情やこれに影響を与える言動
を把握しなくても,自殺,自傷,逃走その他の刑事施設の規律及び秩序を
害する行為に及ぶおそれがないと確信できることが必要と解すべきである。
原告X1のその心情の安定を図り,自殺などの事故を防止するために,
面会における同人の心情把握の必要性が高かったことは明らかであるから,
本件各面会について,職員の立会いを行わないことが相当と認められる場
合ではなかった。
したがって,立会いの省略が相当であると認めなかった名古屋拘置所
長の判断は正当である。
争点(原告らの損害額)について
(原告らの主張)
ア原告X1
慰謝料合計1250万円(1回につき50万円)
原告X1は,本件各面会につき,名古屋拘置所長の秘密接見の拒否及
び妨害により,弁護人や訴訟代理人に対し心理的抵抗なく十分な情報を
伝達し,弁護人や訴訟代理人からそれに応じて適切な助言を受けるとい
った自由かつ円滑な意思疎通を阻害され,これにより,実質的かつ効果
的な弁護人や訴訟代理人の援助を受けることができず,多大な精神的苦
痛を被った。
その損害を金銭に換算すれば1回の秘密接見の拒否及び妨害につき,
慰謝料として50万円の損害が生じたものであり,その回数は25回で
あるから,合計1250万円の損害が生じた。
弁護士費用合計250万円(1回につき10万円)
弁護士費用は1回の違法行為あたり10万円は下らないのであり,そ
の回数は25回であるから,合計250万円の損害が生じた。
合計1500万円
イ原告X2
慰謝料合計150万円(1回につき50万円)
本件弁護人面会のうち原告X2が行った各接見につき慰謝料50万円
の損害が生じ,その回数は3回であるから,合計150万円の損害が生
じた。
弁護士費用合計30万円(1回につき10万円)
合計180万円
ウ原告X3
慰謝料合計850万円(1回につき50万円)
本件弁護人面会のうち原告X3が行った各接見につき慰謝料50万円
の損害が生じ,その回数は17回であるから,合計850万円の損害が
生じた。
弁護士費用合計170万円(1回につき10万円)
合計1020万円
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3争点に対する判断
1本件各面会の経緯
上記前提事実,証拠(甲41,乙59及び後掲の証拠。ただし,以下の認定
に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
なお,本件弁護人面会に「本件第1面会」ないし「本件第19面会」の,本
件訴訟代理人面会に「本件第①面会」ないし「本件第⑥面会」の略称を付し,
各面会について述べる項の冒頭に略称を記載する。
本件被告事件一審判決(本件死刑判決)までの経緯
ア原告X1は,平成19年8月26日,死体遺棄被疑事件の被疑者として
逮捕され,愛知県千種警察署留置施設に留置された。原告X2は,同月2
8日,上記事件につき,刑事被疑者弁護援助制度により原告X1の私選弁
護人に選任された(甲38,42)。
原告X1は,同年9月中旬ころ,営利略取,逮捕監禁,強盗殺人被疑事
件で逮捕,勾留された。同事件につき,原告X3が被疑者国選弁護人に選
任された(甲39)。
原告X2及び原告X3は,原告X1が起訴された後,本件被告事件一審
国選弁護人に選任された。
イ原告X2は,原告X1の私選弁護人又は本件被告事件一審国選弁護人と
して,同年8月28日から同年11月18日までの間,計14回,合計約
6時間33分千種警察署留置施設又は名古屋地方検察庁構内において原告
X1との面会を行った。
原告X3は,原告X1の被疑者国選弁護人又は本件被告事件一審国選弁
護人として,同年9月20日から同年11月19日までの間,計9回,合
計約3時間56分千種警察署留置施設又は名古屋地方検察庁構内において
原告X1との面会を行った。
原告X1は,同年12月5日に名古屋拘置所に移送された。原告X2は,
同月7日から平成21年3月18日までの間,計18回,合計約15時間
52分,原告X3は,平成20年3月11日から平成21年3月18日ま
での間,計35回,合計約39時間18分,それぞれ原告X1の本件被告
事件一審国選弁護人として名古屋拘置所において原告X1との面会を行っ
た(以上,甲42,43)。
ウ原告X1は,平成20年7月20日午前2時11分ころ,居室内におい
て,布団に横臥しながら,靴下を首に巻き付け,両手で引っ張っている状
態を発見され,拘置所職員が入室すると,顔面が蒼白で白目をむいている
状態であった。原告X1は,医師による診察を受け,頚部に靴下で絞めた
際にできた擦過傷はあるが,治療の必要はないとされたが,診察中も「ま
だ死にたい。」と申し立て,自殺のおそれが認められるとして,保護室に
収容された。その後,同日午前3時31分ころには,同室内でノースリー
ブシャツを首に巻き付けていたところを拘置所職員に発見された。
また,原告X1の毛布から,貸与された金属製の膳板を切ったり,折っ
たりして作成したと思われるナイフ様のもの1本が発見され,居室内から
は,遺言書(ナイフで胸を突こうとしたが出来なかった旨の文言を含
む。),乾電池の表皮部分を剥がしてナイフ状にしたもの及び三角形をし
た石ころ2個が発見された。
さらに,原告X1は,同月22日,保護室内において,自己の前頭部を
室内壁に打ち付け,再三の制止にも従わず,同様の行為を続け,「どんな
ことをしても死ぬ。頭をかち割るのなんか簡単だ。」等と涙を流しながら
訴え,拘置所職員の判断で,頭部保護のためのヘッドギアを装着の上,第
2種手錠(第1種金属手錠併用)が使用された(乙9ないし10<枝番含
む>)。
エ名古屋地方裁判所は,平成21年3月18日,本件被告事件につき,原
告X1に死刑判決を宣告した(本件死刑判決)。
原告X1は,本件死刑判決前後,持病の群発頭痛の発作が起こり,薬を
服用していた(甲25)。
本件死刑判決から本件控訴取下げまでの経緯
ア原告X2及び原告X3は,本件死刑判決宣告当日の平成21年3月18
日,原告X1と面会した後,原告X1の本件死刑判決に対し控訴を申し立
てた。
原告X1は,同日午後8時20分ころ,居室内で箸1本の先端を小机の
下部分で削っていたところをテレビモニターにより視察中の拘置所職員に
発見され,居室の検査により遺書らしき内容が書かれた便箋が捨てられて
いるのが発見された。原告X1は,拘置所職員の事情聴取に対し,「死刑
という判決は最初から受け入れています。弁護士が控訴しましたが,取り
下げます。今の気持ちを正直に書いたメモですが,そんなことをするつも
りはありません。」,「馬鹿なことはしません。」等と申し立てたが,先
端が削られた箸を示されるや,目線を落として無言になり,自殺のおそれ
が顕著に認められるとして,同日から同月22日まで保護室に収容された
(乙11の1・2)。
原告X1は,同月24日,本件死刑判決に対し控訴を申し立てた。
イ原告X1は,控訴を申し立ててから控訴を取り下げるまでの間に,報道
関係者及び交際相手と面会し,交際相手に信書を発信した(甲25,2
8)。なお,この間に原告X2又は原告X3と原告X1との面会はなかっ
た。
原告X1は,同年4月10日,拘置所職員に対し控訴を取り下げたい旨
述べた(乙12)。
原告X1は,同月13日,名古屋高等裁判所に対し,控訴取下申立書を
提出し,控訴を取り下げた(本件控訴取下げ)。
ウ原告X3は,同月17日及び同月22日,原告X1と面会した(甲4
3)。
検察官は,同月24日,名古屋拘置所長に対し,原告X1の本件死刑判
決が同月13日に確定した旨の死刑判決確定通知書を送付した(乙1)。
エ原告X3は,同月27日午前10時43分ころから午前11時3分ころ
までの間,原告X1と面会し,原告X1から,拘置所職員を介して,原告
X2及び原告X3を本件被告事件控訴審の私選弁護人に選任する旨の弁護
人選任届を受け取った(甲2,43)。なお,原告X3は,同日の面会ま
では,原告X1と無立会面会をしていた。
原告X2及び原告X3は,同日,名古屋高等裁判所に対し,同弁護人選
任届及び本件控訴取下げが真意に基づかない無効なものであり,控訴審に
おける審理を求める旨の期日指定申立書を提出した(本件期日指定申立
て)。
オ名古屋拘置所処遇部長は,同日午前11時7分ころから同時10分ころ
までの間,原告X1に対して,上記死刑判決確定通知書に基づき本件死刑
判決の確定を告知した(乙2)。
本件第1面会
原告X2は,平成21年4月28日午前11時ころ,名古屋拘置所に赴
き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,拘置所職員から,
原告X1は昨日指揮書が来て死刑の既決囚の扱いになっており,立会人の
ない弁護士面会はできない旨及び一般面会であれば用意する旨伝えられ,
引き続き応対した統括から,原告X1は死刑判決確定直後の死刑確定者で
あり,心情の安定を図る必要があることから無立会面会を認めることはで
きない旨説明された。原告X2は,名古屋高等裁判所に弁護人選任届を提
出し,期日指定申立てを昨日行っており,原告X1との面会は刑事事件に
関連する以上,秘密交通権が認められ,拘置所職員の立会いは必要ない旨
述べたが,立会いは省略されなかった。
原告X2は,同日午前11時56分ころから同日午前11時59分ころま
での間,拘置所職員立会いの下で原告X1と面会し,同原告の体調を尋ね,
原告X3が控訴取下げの件について手続きしている旨伝えた(乙7)。
本件第2面会
原告X3は,平成21年6月5日午前9時50分ころ,名古屋拘置所に赴
き,弁護人として原告X1との面会を申し出た。その際,今回の面会は,原
告X1の刑事裁判における控訴の取下げが無効であることを主張する準備の
ため行うものであり,原告X1は刑事被告人の立場にあると思われることか
ら,拘置所職員の立会いなく原告X1と面会したい旨申し出た。
これに対し,拘置所職員は,原告X3に,原告X1は死刑確定者であるか
ら無立会面会を認めることはできない旨説明し,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午前10時ころから午前10時20分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下で原告X1と面会し,同原告の体調を尋ね,同原告の上
訴取下げ能力に関する医師との相談状況や本件被告事件の共同被告人につい
ての審理状況に関する話をした(乙8)。
原告X2及び原告X3は,本件期日指定申立てに関し,原告X1の私的精
神鑑定のために必要な措置又は裁判所による精神鑑定を求める旨の平成21
年6月12日付け意見書を名古屋高等裁判所に提出した。
原告X2及び原告X3は,平成21年8月12日,本件訴訟のうち同人ら
を原告とする本件第1面会及び本件第2面会に関する請求に係る訴えを提起
した。
本件第3面会
原告X3は,平成21年8月19日午前9時55分ころ,名古屋拘置所に
赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
応対した統括は,原告X3に対し,心情把握のためには立会いが必要であ
る旨,この方針は今後も変わることはない旨及び他の施設においても同じ扱
いである旨述べた。
これに対し,原告X3は,立会人のいる中で今後も原告X1と被告人質問
の打合せをしなければならないのはおかしい旨,再審であっても弁護人が立
会いなしで面会できるのにそれと異なる点は具体的にどこがあるのか旨述べ
たが,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午前10時30分ころから午前11時1分ころまで拘置
所職員立会いの下で原告X1と面会し,面会の立会いが省略されないことに
対する対応方針に関する話をした(乙20)。
本件第4面会
原告X3は,平成21年9月4日午前9時43分ころ,名古屋拘置所に
赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
原告X3は,同年8月19日の際の統括が話の途中で申入れを無視した
まま説明を放棄して弁護人控え室から立ち去ったことについて遺憾に思っ
ている旨告げた上,再度無立会面会を申し出たが,拘置所職員は,他の統
括を連れてきて説明することは構わないが,拘置所のスタンスは変わるこ
とはない旨回答し,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午前11時41分ころから午前11時54分ころまで
の間,拘置所職員立会いの下で原告X1と面会し,本件期日指定申立てに
おける精神鑑定に関する話をした(乙21)。
本件期日指定申立てに関し,検察官は平成21年8月17日付け意見書を,
原告X2及び原告X3は同年9月4日付け意見書及び同日付け鑑定申出書を,
検察官は同月14日付け意見書を,それぞれ名古屋高等裁判所に提出した
(甲21ないし24)。
原告X2及び原告X3は,同月,名古屋拘置所及び法務大臣に対し,本件
期日指定申立ての上記審理状況を説明し,改めて原告X1との無立会面会を
認めるよう求める申入書を送付した(甲9の1ないし4)。
名古屋高等裁判所は,同年10月上旬ころ,原告X2及び原告X3との間
で,原告X1に対する事実取調べの日程を打ち合わせた。
本件第5面会
原告X2は,平成21年10月16日午後1時17分ころ,名古屋拘置
所に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。その際,原
告X2は,「名古屋高等裁判所で期日指定申立手続の関係で,被告人質問
の期日が入ったので立会人なくして弁護士面会をしたい。」旨述べた。こ
れに対し,拘置所職員ができない旨回答したため,原告X2は,以前送付
した申入書を見た上での対応か尋ねたが,そうである旨回答され,立会い
は省略されなかった。
原告X2は,同日午後1時42分ころから午後1時47分ころまで,拘
置所職員立会いの下で原告X1と面会し,名古屋高等裁判所において事実
取調べがある旨及びその日程を伝えた(乙22)。
名古屋高等裁判所は,平成21年10月23日ころ,同年11月20日午
後1時30分に同裁判所法廷で原告X1に対する事実取調べを実施する旨を,
同年10月30日ころ,同事実取調べの場所を名古屋拘置所に変更する旨を
決定し,その旨記載した各事務連絡を原告X1に送付した(甲10,11)。
本件第6面会
原告X2及び原告X3は,平成21年11月5日午後3時45分ころ,名
古屋拘置所に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
原告X3は,拘置所職員から,上司と相談した結果いつもどおり立会人付
きでの面会のみ認めるとの回答を受けたのに対し,裁判所が具体的に事情を
聞くという正規の裁判手続と変わらない状況であるのに,秘密交通権が侵害
されるのは不当である旨,拘置所内で事実取調べが行われるのだから拘置所
としても知っているはずで無立会面会を認めるべきである旨申し入れた。
拘置所職員は,原告X2及び原告X3に対し,事実取調べが行われるのも
裁判手続になっているのも分かった上での措置である旨回答し,立会いは省
略されなかった。
原告X2及び原告X3は,同日午後3時57分ころから午後4時27分こ
ろまでの間,拘置所職員立会いの下で原告X1と面会し,同原告に対する事
実取調べで予想される質問に関する話をした(乙25の1・2)。
本件第7面会
原告X3は,平成21年11月12日午後1時36分ころ,名古屋拘置
所に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは
省略されなかった。
原告X3は,同日午後1時54分ころから午後2時47分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下で原告X1と面会し,本件死刑判決から本件控訴取下
げまでの事実経過や同原告の心境の推移を聴取した(乙26の1・2)。
本件第8面会
原告X3は,平成21年11月19日午後3時14分ころ,名古屋拘置所
に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
原告X3は,拘置所職員に対し,名古屋高等裁判所から原告X1に送付さ
れた事務連絡を示して本件期日指定申立てが裁判所で受け付けられており,
刑事裁判手続中であることを改めて説明し,無立会面会を求めた。
これに対し,拘置所職員は,上司には裁判所で事件として受け付けられて
いることも伝えたが,従前どおり立会人付きでの面会しか認められない旨回
答し,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午後3時29分ころから午後5時7分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下で原告X1と面会し,本件死刑判決から本件控訴取下げ
までの事実経過や同原告の心境の推移を聴取した(乙27の1・2)。
名古屋高等裁判所は,平成21年11月20日午後1時30分ころから約
2時間,名古屋拘置所において,本件期日指定申立てにつき,原告X1に対
する事実取調べを行った(甲25)。
名古屋高等裁判所は,同年12月7日,原告X1の控訴取下申立書作成当
時の精神状態や控訴取下げの意義を理解し自己の権利を守る能力の著しい制
限の有無等につき鑑定の実施を決定し,鑑定人を選任した(甲12)。
本件第9面会
原告X3は,平成21年12月28日午後2時26分ころ,名古屋拘置
所に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,拘置所職
員は,従前どおり,立会人付きでの面会しか認めない旨回答し,立会いは
省略されなかった。
原告X3は,同日午後3時33分ころから午後4時ころまでの間,拘置所
職員立会いの下,原告X1と面会し,名古屋高等裁判所に提出した意見書や
鑑定の実施決定に関する話をした(乙28の1・2)。
原告X1は,平成22年1月20日,執行猶予の取消しに係る書類を受け
取った際,極度に興奮して居室内の扉を十数回足蹴りし,「所長呼べ。お前
らじゃ話にならん。」等と大声を出したため,拘置所職員が処遇部門調室に
連行したところ,「ここから出してください。検察庁の奴らを殺したい。」,
「検察庁と拘置所が一緒になって私に嫌がらせしているとしか思えませ
ん。」,「今日,名古屋地方裁判所から求意見書が届いたのですが,東京地
検で起訴された別件の罪で執行猶予5年(懲役3年)の取消求意見書がです
よ。」,「何で東京地裁での事件が名古屋地裁から求意見書が届くのです
か。」,「名古屋の女の検察官が私に対して嫌がらせしているとしか思えま
せん。」,「それで完全に堪忍袋の尾が切れてしまいました。」,「周りの
人に迷惑がかかることは分かっていましたが,どうしても自分を抑えきれな
くなって扉を蹴ってしまいました。正直言って居室扉が壊れると思い,多少
加減しました。」等と申し述べ,検察官に対する不平不満を述べた。
その後,原告X1は,素直に自己の非を認め,居室に戻った後すいません
でしたと拘置所職員に頭を下げ,以後動静に異常は認められなかった(乙2
3,24)。
本件第10面会
原告X3は,平成22年2月8日午後3時56分ころ,名古屋拘置所に赴
き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
拘置所職員は,原告X3に対し,原告X1は死刑確定囚になっているので,
現在行っている刑事裁判で確定が覆らない限り,取扱いを変更する予定はな
い旨告げ,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午後4時34分ころから午後5時4分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下,原告X1と面会し,執行猶予の取消しに係る書類に関
する話をした(乙29の1・2)。
本件期日指定申立てにつき,鑑定人は,平成22年3月29日,名古屋
高等裁判所に対し,精神鑑定書を提出した。鑑定人は,同鑑定書において,
本件控訴取下げの申立書作成当時,原告X1は,群発頭痛の発作期にあり,
身体的,精神的に十全な状態ではなかったが,意識の変容を伴うもうろう
状態や,現実吟味力を損なう認知の歪みを伴う精神症状を認めず,原告X
1は,控訴取下げの手続きに関して誤解があったことは否定できないが,
控訴取下げの意義を理解し,自己の権利を守る能力が著しく制限されてい
たとはいえない旨報告した(甲28)。
本件第11面会
原告X3は,平成22年3月31日午後3時22分ころ,名古屋拘置所
に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省
略されなかった。
原告X3は,同日午後4時22分ころから午後4時40分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,本件期日指定申立ての進行の
見込みに関する話をした(乙30の1・2)。
原告X3は,平成22年4月15日午後3時25分ころ,名古屋拘置所に
赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。
原告X3は,拘置所職員から,立会人付きの面会になる旨伝えられたが,
同日午後3時30分ころから午後4時40分ころまでの間,拘置所職員の立
会いのない状態で原告X1と面会し,鑑定人が提出した原告X1の精神鑑定
書の内容の確認及び打合せを行った。
なお,上記面会については,誤って拘置所職員が立ち会わずに面会を実施
した旨の統括の報告書が作成されている(乙18,19)。
本件第12面会
原告X3は,平成22年4月23日午前10時39分ころ,名古屋拘置
所に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出た。拘置所職員
は,同月15日の面会は手違いで無立会面会となった旨説明し,無立会面
会を認めることができない旨回答し,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午前10時50分ころから午後零時ころまでの間,拘
置所職員立会いの下で原告X1と面会し,鑑定人が提出した原告X1の精
神鑑定書に関する話をした(乙31の1・2)。
本件第13面会
原告X3は,平成22年4月30日午後1時29分ころ,名古屋拘置所
に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省
略されなかった。
原告X3は,同日午後1時49分ころから午後1時55分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下で原告X1と面会し,本件控訴取下げ時の原告X1
の精神状態に関する話をした(乙32の1・2)。
本件第14面会,本件第15面会
原告X3は,平成22年5月6日午前9時42分ころ(本件第14面
会)及び同日午後零時7分ころ(本件第15面会),名古屋拘置所に赴き,
弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,いずれも立会いは省
略されず,同日午前9時55分ころから午前11時59分ころまでの間
(本件第14面会)及び同日午後0時56分ころから午後2時56分ころ
までの間(本件第15面会),それぞれ拘置所職員立会いの下で原告X1
と面会し,鑑定人が提出した原告X1の精神鑑定書や本件死刑判決の宣告
から本件死刑判決の確定の告知までの事実経過に関する話をした(乙33
の1ないし4)。
本件期日指定申立てにつき,原告X2及び原告X3は平成22年5月31
日付け意見書を,検察官は同年6月30日付け意見書を,それぞれ名古屋高
等裁判所に提出した(甲29,30)。
原告X1は,同原告が叔母と申告する者宛てに,平成22年7月22日,
「最近またうつ気味です」と記載した信書を,同月28日,「頭痛が治まら
ず心身共にちょっと疲れました。でも我が身の銹仕方ありませんなんとか
薬でコントロールしていますので安心してね!」等と記載した信書を,同年
8月4日,「俺の方は・・・めずらしく頭痛の発作で寝んでしまい手紙も一
行書いては,ひと休みしながら書いてます」等と記載した信書をそれぞれ発
信した(乙50ないし52)。
本件第16面会
原告X3は,平成22年9月6日午後3時57分ころ,名古屋拘置所に赴
き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省略され
なかった。
原告X3は,同日午後4時4分ころから午後4時37分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下,原告X1と面会し,同原告の近況や本件X1国賠訴訟
の提起手続に関する話をした(乙34の1・2)。
名古屋高等裁判所は,平成22年9月9日,本件控訴取下げが有効である
として,「本件控訴は,平成21年4月13日取下げにより終了したもので
ある。」との訴訟終了宣言の決定をした(甲31)。
原告X2及び原告X3は,同決定に対し,平成22年9月13日付け異議
申立書により異議を申し立てた(甲32)。
本件第①面会
原告X3及び弁護士Bは,平成22年9月28日午前9時34分ころ,名
古屋拘置所に赴き,本件X1国賠訴訟の訴訟代理人の予定者として同人との
無立会面会を申し出たが,立会いは省略されなかった。
原告X3及び弁護士Bは,同日午前10時ころから午前10時25分ころ
までの間,拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,原告X1の本件X1
国賠訴訟の提起及び委任の意思を確認した(乙35の1ないし3)。
原告X1は,平成22年11月1日,同原告が叔母と申告する者宛てに
「31日,日曜の夜です薬で少し落ち着いています。今,新しく国賠訴訟
をしたので色々と精神的に疲れます。」,「もう一度母さんの顔が見たい。
本当はみんなと逢いたいけど,薬で頭が回らなくなってきました続きは明
日ね」等と記載した信書を発信した(乙53)。
原告X1は,平成22年11月4日,本件X1国賠訴訟を提起した。
本件第17面会
原告X3は,平成22年11月5日午前9時32分ころ,名古屋拘置所に
赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省略さ
れなかった。
原告X3は,同日午前9時39分ころから午前10時10分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,訴訟終了宣言の決定に対する異
議申立ての進行方針に関する話をした(乙36の1・2)。
原告X1は,平成22年11月18日午前7時35分ころ,居室内におい
てゴムひもをつないで縄状にしたものを所持していたため,拘置所職員がこ
れを居室から引き上げた(乙49[180丁])。
本件第②面会
弁護士Bは,平成22年12月27日午後2時7分ころ,名古屋拘置所に
赴き,原告X1との面会を申し出た。その際,弁護士Bは,本件X1国賠訴
訟についての打合せである旨告げ,無立会面会を要請したところ,拘置所職
員は,死刑確定者は単なる受刑者とは異なり原則として立会いが必要であり,
訴訟の準備のための訴訟代理人との面会であっても,その訴訟が名古屋拘置
所内の処遇を問題とするものであっても,その原則は変わらない旨回答し,
立会いは省略されなかった。
弁護士Bは,同日午後2時51分ころから午後3時7分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下,原告X1と面会し,原告X1に送付した書類に関する
話をした(乙37の1・2)。
平成23年1月6日午後3時30分ころから同日午後3時40分ころまで
の間,拘置所職員が原告X1の居室を検査した際,電気カミソリの収納袋に
睡眠薬,痛み止め薬等の処方薬を不正に隠し持っていたため,拘置所職員が
これを居室から引き上げた(乙49[229丁])。
本件第18面会
原告X3は,平成23年1月24日午後2時31分ころ,名古屋拘置所
に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省
略されなかった。
原告X3は,同日午後3時34分ころから午後4時4分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,原告X3と原告X1の面会の
際の立会いの有無に関する話をした(乙38の1・2)。
原告X2及び原告X3は,訴訟終了宣言の決定に対する異議申立てにつき,
平成22年11月15日付け異議申立理由補充書を提出したが,名古屋高等
裁判所は,平成23年2月10日,異議申立てを棄却する決定をした。
原告X2及び原告X3は,同決定に対し同月14日付け特別抗告申立書に
より特別抗告を申し立てた。
本件第19面会
原告X3は,平成23年2月16日午前11時27分ころ,名古屋拘置所
に赴き,弁護人として原告X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省略
されなかった。
原告X3は,同日午前11時40分ころから午後零時ころまでの間,拘置
所職員立会いの下,原告X1と面会し,名古屋高等裁判所の異議申立て棄却
決定やこれに対する特別抗告申立てに関する話をした(乙39の1・2)。
最高裁判所は,平成23年3月2日,訴訟終了宣言の決定に関する異議申
立て棄却決定に対する特別抗告申立てにつき,特別抗告申立書には具体的な
抗告理由の記載がなく,抗告提起期間内に理由書の提出もないので,同申立
ては不適法であるとして,同抗告を棄却する決定をした。
なお,原告X2及び原告X3は,同決定後に同月4日付け特別抗告申立
理由書を提出した(甲37)。
原告X1は,平成23年2月中旬ころから同年3月中旬ころまで,横臥が
許可されている時間でないにもかかわらず,しばしば偏頭痛等による体調不
良を訴え,許可を得て横臥することがあった(乙49[262丁ないし29
8丁])。
なお,原告X3は,同月7日午前9時31分ころから午前10時35分こ
ろまでの間,名古屋拘置所において,拘置所職員立会いの下,原告X1と面
会し,最高裁判所の特別抗告棄却決定や再審請求に関する話をした(乙40
の1・2)。
本件第③面会
弁護士Bは,平成23年3月18日午後3時11分ころ,名古屋拘置所に
赴き,原告X1との無立会面会を申し出た。その際,弁護士Bは,面会申込
表に「拘置所内の処遇に関する訴訟についての打合せですので,立会なしで
お願いします」旨記載したが,立会いは省略されなかった。
弁護士Bは,同日午後3時35分ころから午後4時5分ころまでの間,拘
置所職員立会いの下,原告X1と面会し,拘置所の処遇に関する話をした
(乙41の1・2)。
原告X1は,平成23年4月7日午後8時ころ,居室内において,うつ伏
せの状態で倒れたまま,絞り出すような低い声で「心臓が苦しい。AED」
と訴えたため,拘置所職員数名で開室したところ,同原告は,立ち上がって,
仰山来てくれたね。ありがとよ」と述べた上,「じゃあな。」「やかまし
い。」等と語気荒く放言しながら,数名の拘置所職員を押しのけて出室しよ
うとした。そこで,上記職員らが,事情聴取を行うため原告X1を処遇部門
調室へ連行したところ,同原告が右手に多数のホチキスの針の付いた黒手袋
を着用しており,「やかましい。」等と大声を発し,椅子に座らせようとし
ている拘置所職員をにらみつけながら,全身に力を込めて座ろうとしなかっ
たため,他人に危害を加えるおそれがあるとして,保護室に収容された。
拘置所職員が,同月7日午後10時25分ころ,保護室に収容されていた
原告X1に「少しは落ち着いたか。」と問いかけると,原告X1は「俺に明
日はない。俺の部屋の聖書の一番後ろの頁を見てくれ。」と述べた。原告X
1の居室を確認した拘置所職員は,居室内の聖書の表紙裏面に「我は人の成
りをした鬼成り」「鬼故に人情の有難み夢々忘るべからず」「我は血肉を喰
う莫迦な鬼成り」「しかし心は人で在る者成り」「※私物は全て処分願いま
す。」と記載され,一番最後の頁に「おやじへすいませんやっぱり自分
の“ケツ”は自分で取ります。みなへありがとう」と記載されているのを
発見した。
さらに,原告X1は,保護室収容中の同月8日,隣室の保護室に収容され
ていた刑事被告人と通声し,その際,「脱獄」うんぬんと発言し,同月9日,
拘置所職員が落ち着いて生活できるか問いかけたのに対し,「私はいずれ死
刑になります。腐った心は自分で根を絶たなければならない」などと発言し,
同月10日,拘置所職員の同様の問いかけに対し,「初めから落ち着いてる
じゃない。」などと話し始め,次第にまくし立てるような口調で,原告X1
に対する扱いが法令に違反している旨や72時間以上保護室に収容する理由
を記載した書面を所長が直接持って来るべき旨を発言した。
原告X1は,同月11日午前9時30分ころ,保護室収容を解除され,居
室に戻った(乙54ないし55<枝番含む>,61ないし63)。
本件第④面会
原告X3は,平成23年4月11日午後2時6分ころ,名古屋拘置所に赴
き,本件X1国賠訴訟の訴訟代理人として原告X1との無立会面会を申し出
たが,立会いは省略されなかった。
原告X3は,同日午後2時21分ころから午後3時23分ころまでの間,
拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,拘置所の処遇に関する話をした
(乙45の1・2)。
なお,上記約65分間の面会の途中,午後2時55分ころから,拘置所職
員が,原告X3及び原告X1に対し面会打ち切りを要請したため,約5分間
中断した。
原告X1は,平成23年4月22日及び同月25日,黒手袋の不正製作に
対する事情聴取の際,同月7日に多数のホチキスの針を黒手袋に付けた動機
について「外に出てから,とりあえず警察官二人くらいをおそって,けん銃
と手錠を盗んでみようかなと思いました。」などと述べ,同月6日に聖書に
遺書らしき文面を記載した心情について「ことが公になれば,自分の役目が
終わるので,その役目が終わったときに死ぬつもりでした。」などと述べた
(乙63)。
原告X1は,同年7月14日,拘置所職員による原告X1の居室検査にお
いて,前月に処方された総合感冒薬6包を私物保管ケース内の靴下に入れて
所持しているのを発見され,同月22日,物品不正所持により閉居7日の懲
罰が科された(乙64の1・2)。
原告X1は,同年9月1日,居室内でたたんだ布団にもたれて不体裁な着
座姿勢を取っている原告X1の姿を発見した拘置所職員が,姿勢を改めるよ
う指示し,「この指示に従わなければ指示違反のため調査に付する。」旨告
知したのに対し,上体を起こし,「うそつき」などと発言し,同月12日,
拘置所職員に対する粗暴言辞により閉居7日の懲罰が科された(乙65の
1・2)。
原告X1は,同年10月12日午後2時30分ころから午後3時10分こ
ろまで,原告X1の拘置所長に対する苦情の申出の出願に基づいて行われた
統括の聴取において,本件期日指定申立てにおいて検察官が原告X1の精神
状態の安定を主張しているにもかかわらず,原告X1と弁護士との面会につ
いて拘置所が原告X1の精神状態の不安定を理由として立会いを省略しない
ことに対する不満,同不満があったので「うそつき」などと発言したところ
直ちに調査に付されたことに対する不満,本件被告事件一審の出廷のための
護送中の原告X1の発言に関する拘置所の回答に対する不満,原告X1と弁
護士との面会の面会時間に関する処遇に対する不満等を述べた(乙66)。
原告X1は,同日午後3時53分ころ,拘置所職員による原告X1の居室
検査において,居室内の天井に傷が付いていることが確認されたため,調査
の告知を受けた原告X1が天井に傷を付けたことを否認したのに対し,拘置
所職員が原告X1に対し再度調査の告知を行ったところ,スリッパを居室内
の畳に投げ捨てた上,「ふざけるんじゃねぇ。せっかく第二統括と面接して
すっきりしていたのに。」などと大声を発し続けたため,同月21日,静穏
阻害により閉居7日の懲罰が科された(乙67の1ないし3)。なお,原告
X1に対し居室天井の損壊につき懲罰が科された事実は窺われない。
統括は,同月18日,原告X1に対し,同人の無立会面会をしてもらいた
いとの苦情の申出について,理由がないため不採択とする旨回答した。
原告X3及び弁護士Bは,平成24年2月3日,名古屋拘置所長及び法務
大臣に対し,本件X1国賠訴訟に関する準備のために同月10日午前9時に
予定している原告X1との面会につき,少なくとも1時間の面会時間を確保
し,拘置所職員の立会い等をさせないよう書面により申し入れた(甲40の
1ないし3)。
本件第⑤面会
原告X3及び弁護士Bは,平成24年2月10日午前9時19分ころ,
名古屋拘置所に赴き,本件X1国賠訴訟の訴訟代理人として無立会面会を
申し出たが,立会いは省略されなかった。なお,原告X3らは,1時間の
面会時間を確保するよう申し出たが,面会時間は30分しか認めることが
できない旨回答された。
原告X3及び弁護士Bは,同日午前9時26分ころから午前10時7分
ころまでの間,拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,本件訴訟に提
出する原告X1の陳述書に関する話をした(乙68の1・2)。
本件第⑥面会
原告X3,弁護士B及び弁護士Cは,平成24年3月29日午前10時2
8分ころ,名古屋拘置所に赴き,本件X1国賠訴訟の訴訟代理人として原告
X1との無立会面会を申し出たが,立会いは省略されなかった。なお,原告
X3らは,1時間の面会時間を確保するよう申し出たが,面会時間は30分
しか認めることができない旨回答された。
原告X3,弁護士B及び弁護士Cは,同日午前10時44分ころから午前
11時14分ころまでの間,拘置所職員立会いの下,原告X1と面会し,拘
置所の処遇に関する話をした(乙69)。
原告X1は,平成19年12月に名古屋拘置所に移送された当初から不眠
を訴えて,少なくとも平成21年3月からはほぼ毎日のように睡眠導入剤を
服用し,また名古屋拘置所に移送された当初からしばしば,苛立ちを訴えて
抗不安剤を服用していた(甲14ないし19,乙12,23,42,43,
49,56,57)。
2争点(本件弁護人面会における秘密交通権の保障の有無,刑事収容施設法
121条の適用の有無)について
刑訴法39条1項の適用ないし準用について
ア死刑確定者は,確定した死刑判決の効力により,死刑の執行を目的とし
て刑事施設に収容されているのであり,その地位の法的性質が,刑訴法3
9条1項が適用を予定している被告人又は被疑者とは異なることは明らか
である。
もっとも,死刑判決の宣告を受けて上訴をした者が上訴を取り下げても,
上訴取下げが無効である場合には,死刑判決は確定していないから,その
者は,死刑確定者の地位になく,被告人の地位にあると解される。
そこで,本件控訴取下げの効力を検討すると,上記1認定の事実及び証
拠(甲25,28,乙12,42,56)によって認められる本件控訴取
下げの前後の時期における原告X1の言動及び医師の診察状況,この時期
の事実経過や内心についての原告X1の事実取調べ及び鑑定人の聴取にお
ける供述,精神病性障害に関する医学的知見等に照らして,名古屋高等裁
判所の訴訟終了宣言の決定(甲31)及び異議申立て棄却決定(甲34)
を総合すると,当裁判所としても,原告X1は,本件控訴取下げ当時,上
訴取下げの意義を理解し,自己の権利を守る能力を有していたもので,本
件控訴取下げの意義に関する錯誤もなかったものと認める。
したがって,本件控訴取下げは有効であり,本件死刑判決は本件控訴取
下げがされた平成21年4月13日に確定し,これ以降,原告X1は被告
人の地位になく,死刑確定者の地位にあると認められる。
よって,原告X1に刑訴法39条1項は適用されない。
イこれに対し,原告らは,上訴取下げが無効である場合には被告人の地位
が認められるところ,無罪推定の原則により,上訴取下げの効力を争って
期日指定を申し立てた者には被告人の地位が認められ,刑訴法39条1項
が直接適用される旨主張する。
しかしながら,上訴取下げの効力を争う期日指定申立ては,法的には職
権発動の促しに過ぎないと解され,その申立ての時期等を制限する規定が
存在しないことにも鑑みると,有効に上訴を取り下げた者が,上訴取下げ
の効力を争って期日指定を申し立てたからといって,直ちに被告人の地位
が認められると解することはできない。
ウ憲法34条は,憲法33条の逮捕における令状主義の保障を受け,逮捕
に続く拘束の継続である抑留及び拘禁に関する弁護人選任権の保障を規定
したものであると解され,上訴取下げの効力を争って期日指定を申し立て
た者の法的地位を規定したものとは解されないから,憲法34条を根拠と
して,有効に上訴を取り下げたが上訴取下げの効力を争って期日指定を申
し立てた者に,刑訴法39条1項が準用されると解することはできない。
自由権規約14条3項について
自由権規約14条3項は,「刑事上の罪の決定について」保障される権利
を規定しており,未決拘禁者を対象としていると解するのが相当であり,同
項が,有効に上訴を取り下げたが上訴取下げの効力を争って期日指定を申し
立てた者について,弁護人との秘密交通権を保障したものと解することはで
きない。
憲法32条について
憲法32条が,その定める「裁判を受ける権利」の具体的内容として,有
効に上訴を取り下げたが上訴取下げの効力を争って期日指定を申し立てた者
について,弁護人との秘密交通権を保障したものとは解されない。
以上によれば,本件弁護人面会において,原告X1と原告X2及び原告X
3との秘密交通権が保障され,刑事収容施設法121条の適用が排除される
とは解されない。
ところで,被告人の上訴取下げが有効であるためには,被告人において上
訴取下げの意義を理解し,自己の権利を守る能力を有することが必要であり,
その能力を著しく制限されていた者の上訴取下げは無効と解される(最高裁
平成7年決定)。
無効の上訴取下げをした者が,上訴取下げの無効を前提とする公判審理の
続行の利益を受けるには,上訴取下げの無効を主張して期日指定を申し立て
るなど,上訴審裁判所が公判審理の続行の要否を検討する契機を生じさせる
必要がある場合が多い。また,上訴審裁判所は,期日指定又は訴訟終了宣言
の決定をするについて必要がある場合には,上訴を取り下げた者等の関係者
に対する事実取調べや証人尋問,鑑定等の審理を行うことが可能であり(刑
訴法43条3項,刑訴規則33条3項),上訴取下げによる訴訟終了宣言の
決定に対しては,不服申立ての手続が認められている(最高裁昭和61年決
定)。
上訴取下げの効力の審理について,以上のような運用が取られていること
に鑑みれば,刑事手続において,上訴取下げの効力の有無が適正に判断され
るには,上訴を取り下げた者が,上訴審裁判所の期日指定や上訴取下げの効
力の審理を促し,その審理において自己の利益を防御し,不服申立て等の手
続を履践するなどの活動を的確に行う機会が確保される必要があるが,これ
らの活動を弁護人なくして的確に行うことは極めて困難である。上訴取下げ
の効力の有無が,上訴を取り下げた者がこれらの活動を的確に行うことによ
ってはじめて判明する場合もありうることに鑑みると,上訴取下げの効力を
争う者に対して,その効力の有無が判明する前であっても,弁護人選任権が
保障されるべき要請は高い。
上訴取下げの効力の審理については,実務上の法解釈によって運用が確立
されてきたところであり,上訴取下げの効力を争う者の弁護人選任権を直接
定めた法律上の規定は存在しないが,確定した有罪判決の効力を争う点にお
いて再審請求手続に類似しているところ,再審の請求を行う者について再審
の請求の理由の有無にかかわらず弁護人選任権を保障する刑訴法440条の
趣旨に照らして,上訴取下げの効力を争う者の弁護人選任権が保障されるも
のと解するのが相当である。
そして,死刑判決に対する上訴の取下げの効力が争われている場合には,
その効力の有無について適正な審理を実現する要請がとりわけ高いところ,
上訴取下げの効力を争う死刑確定者に対する弁護人選任権の保障の趣旨を実
現するためには,弁護人に相談し,その助言を受けるなどの弁護人からの援
助を受ける機会を確保する必要が高いから,上訴取下げの効力を争う死刑確
定者は,死刑確定者の身柄拘束の目的や性質,弁護人選任権が認められる趣
旨に抵触しない限度において,弁護人と立会人なくして面会する法的利益を
有し,弁護人も死刑確定者と立会人なくして面会する固有の法的利益を有す
るものと解するのが相当である。
もっとも,上訴取下げの効力を争う死刑確定者とその弁護人が立会人なく
して面会する法的利益は上記の限度で認められるものであり,刑事収容施設
法121条の適用を排除するものではないから,これに反する原告らの主張
は認められない。
3上記のとおり,本件弁護人面会には刑事収容施設法121条が適用されるか
ら,争点(本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用されない場合,
名古屋拘置所長の職務上の注意義務違反の有無)については判断を要しない。
4争点(本件弁護人面会に刑事収容施設法121条が適用される場合,立会
いを省略しなかった名古屋拘置所長の裁量権の逸脱濫用の有無)について
刑事収容施設法120条及び121条は,死刑確定者においても,訴訟の
遂行等の死刑確定者の法律上の重大な利害に係る用務の処理のため面会する
ことが必要な者との面会は許されるものとした上で,重大な利害に係る用務
の処理のために外部交通による意思連絡が必要になる場合において,面会の
際の発言の内容を職員に知られないことに正当な利益(以下「職員の立会い
の省略を適当とする事情」という。)がある場合には,職員の立会いを行う
必要性との比較考量により,職員の立会いを行わせない旨を規定した趣旨で
あり,死刑確定者がこれらの面会を職員の立会いなく行う法的利益を有する
ことを前提としていると解される。
そして,職員の立会いを行わせるか否かの判断(以下「相当性の判断」と
いう。)は,死刑確定者の正当な利益を保護する必要性,死刑確定者の身柄
拘束の目的や性質,該刑事施設内の規律及び秩序を阻害するような死刑確定
者の動静ないし心理状況がみられるか等を総合考慮して行うべきであるから,
具体的場合における相当性の判断には,刑事収容施設内の実情に通じた刑事
施設の長の裁量が認められているものと解されるが,刑事施設の長の相当性
の判断が,裁量権を逸脱濫用したもので,これにより死刑確定者又は弁護人
の職員の立会いなく面会する法的利益を害した場合には,国賠法1条1項の
違法が認められると解される。
職員の立会いの省略を適当とする事情の有無について
ア原告X1は,原告X2及び原告X3を本件被告事件控訴審の私選弁護人
に選任し,原告X2及び原告X3は,名古屋高等裁判所に対し,本件控訴
取下げが無効であるとして期日の指定を申し立てており,原告X2及び原
告X3は,本件弁護人面会当時,本件控訴取下げの効力を争う原告X1の
弁護人の地位にあり,本件弁護人面会は本件期日指定申立て又は訴訟終了
宣言の決定に対する不服申立てにつき,打ち合わせを行うことを目的とし
ていたものと認められる。
したがって,上述の上訴取下げの効力を争う死刑確定者の弁護人選任権
の重要性に鑑みて,本件弁護人面会には職員の立会いの省略を適当とする
事情があったものと認められる。
イ被告は,原告X1に本件控訴取下げの効力を争う主体的かつ明確な意思
はなかった旨や,本件第5面会までの面会状況からは控訴審手続について
の具体的な協議がされているとは認められない旨を主張する。
しかしながら,原告らは原告X1の上訴取下げ能力の欠如及び錯誤を主
張して本件控訴取下げの効力を争ったものであるところ,死刑判決に対す
る控訴を取り下げるという行為は一般に合理的な行動であるとは言えない
こと,原告X1は弁護人の控訴申立ての後に自ら控訴を申し立てたにもか
かわらず,弁護人と面会することなく,自らの控訴申立てのわずか20日
後に控訴を取り下げていること並びに原告X1の拘置所内における言動及
び薬剤の服用状況に照らすと,実質的な審理を経るまでもなく本件控訴取
下げの有効が明白であったと言うことはできず,上訴取下げ能力の程度や
本件控訴取下げの意義に対する認識内容に疑問が呈されている原告X1の
言動によって,原告X1の真意が直ちに明らかになると言うこともできな
い。本件期日指定申立て及び訴訟終了宣言の決定に対する不服申立てにお
ける原告X3及び原告X2の活動状況や本件弁護人面会における原告らの
談話内容に照らすと,原告らが,本件控訴取下げの効力を争う真意がない
にもかかわらず,他の目的のために本件控訴取下げの効力を争ったものと
も解されない。弁護人の面会における活動は,審理に関する具体的な打ち
合わせにとどまるものではなく,拘置所職員の立会いによる萎縮的効果の
おそれのある状況下で行われた面会の談話内容を根拠として,職員の立会
いの省略を適当とする事情の有無を判断すること自体,相当とは言えない。
したがって,被告の主張を採ることはできない。
ウ以下,上記1認定の事実に基づき,本件弁護人面会に関する名古屋拘置
所長の相当性の判断における裁量権の逸脱濫用の有無について検討する。
本件第1面会(平成21年4月28日)について
ア被告は,原告X1が,収容期間中ほぼ毎日のように睡眠薬を服用し,ま
た,自殺を企図して保護室に収容される等しており,本件死刑判決を受け,
死の恐怖や不安等から心情が極めて不安定と認められる状態にあり,その
心情の安定を図り,自殺などの事故を防止するために,面会における心情
把握の必要性が高いこと等から,立会いを付した名古屋拘置所長の判断に
裁量権の逸脱・濫用は認められない旨主張する。
イこの点,上記1認定の事実のとおり,原告X1が,名古屋拘置所に移送
された当初から不眠や苛立ちを訴えていたこと,平成20年7月20日に
自ら靴下で首を締め付け,保護室内でノースリーブシャツを首に巻き付け,
保護室内の壁に前頭部を打ち付けるなどの自傷行為に及んだこと,平成2
1年3月18日の本件死刑判決宣告当日の夜,箸の先端を削っており,そ
の前に便箋に遺書らしき内容を記載していたこと等が認められる。これら
の事実に照らすと,名古屋拘置所における身柄拘束の期間を通じて原告X
1の心情は安定しておらず,本件死刑判決の宣告の直後には自らの生存の
価値を否定する言動をしていたもので,原告X1が本件死刑判決を確定さ
せる本件控訴取下げを自ら行ったことにも照らすと,本件控訴取下げ後の
期間を通じて,原告X1の心情を把握する一般的な必要性があったと言う
ことができる。
しかしながら,原告X2及び原告X3は,名古屋拘置所において,本件
被告事件につき,原告X1と約2年余り面会を繰り返し,原告X3は本件
控訴取下げから本件第1面会までにその前日を含む3回原告X1と面会し,
いずれの面会においても,面会に起因して,原告X1が自傷行為に及び,
又は刑事施設内の規律及び秩序を阻害する結果を生じさせるなど,心情の
安定を著しく欠く状態になったことは窺われず,本件第1面会の実施によ
る原告X1の心情への影響を特に把握する必要性があったとは認められな
い。また,原告X1が,本件第1面会に近接した時期に,上記のような心
情の安定を著しく欠く状態になったことは窺われず,原告X1が本件第1
面接の実施中に自傷行為等の制止すべき行動に及ぶ具体的可能性があった
とも,本件第1面会の時点の原告X1の心情を把握する高い必要性が生じ
ていたとも認められない。
ウ他方,上訴取下げの効力を争う死刑確定者が弁護人を選任し,弁護人の
援助を受ける機会を確保する必要が高いことは先に述べたとおりであるが,
加えて,本件期日指定申立てにおいては,原告X1の上訴取下げ能力の程
度及び本件控訴取下げの意義に対する認識内容が審理されていたのであり,
原告X2が,原告X1との間において,本件控訴取下げに至る事実経過や
原告X1の心情について具体的に事情を聴取する上で,拘置所職員の立会
いによる心理的影響を排除する必要性は非常に高い。
エ以上によれば,原告X2と原告X1との無立会面会が相当でないとの名
古屋拘置所長の判断には,合理的な理由がない。
したがって,本件第1面会につき,職員の立会いの省略を適当とする事
情があり,これを相当でないと判断すべき理由がなかったにもかかわらず,
職員の立会いを付した名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したも
のであり,国賠法1条1項の違法があると認められる。
本件第2面会(平成21年6月5日)について
本件第2面会においても,原告X1の心情を把握する一般的な必要性があ
ったと言うことはできるが,本件第2面会の実施による原告X1の心情への
影響を特に把握する必要性があったとは認められないことは本件第1面会と
同様である。本件第1面会後の事情について検討するに,本件第1面会後に,
原告X1が心情の安定を著しく欠く状態になったなど,相当性の判断におい
て特に考慮すべき事情は発生していないから,本件第1面会について述べた
ところと同様に,無立会面会が相当でないとの名古屋拘置所長の判断は,裁
量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項の違法がある。
本件第3面会ないし第9面会(平成21年8月19日から平成21年12
月28日まで)について
本件第2面会後の事情について検討するに,原告X1が心情の安定を著し
く欠く状態になったなど,相当性の判断において職員の立会いを付すべく特
に考慮すべき事情は発生していない。かえって,上記1認定の事実のとおり,
本件第5面会の時点で原告X1に対する事実取調べの実施が予定され,本件
第6面会前に原告X1に対する事実取調べの実施が決定され,本件第9面会
前に精神鑑定の実施が決定されるなど,本件期日指定申立てに関する審理は
充実を増し,原告X3及び原告X2が原告X1と立会人なくして打合せを行
う必要性は高まっており,名古屋拘置所もその審理状況の概要を把握してい
たものである。したがって,無立会面会が相当でないとの名古屋拘置所長の
判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項の違法がある。
本件第10面会(平成22年2月8日)について
本件第9面会後の事情について検討するに,上記1認定の事実のとおり,
原告X1は,平成22年1月20日,執行猶予の取消しに係る書類を受け取
った際,極度に興奮して居室内の扉を十数回足蹴りし,「所長呼べ。」等と
大声を出し,「検察庁の奴らを殺したい。」等と申し述べた事実が認められ
るが,他方,検察官に対する不平不満を述べた後は素直に謝り,居室に戻っ
た後は動静に異常は認められないのであり,原告X1は,執行猶予の取消し
に係る書類を送付されたことで一時的に興奮したに過ぎない(原告X1の発
言内容に照らすと,検察官が本件死刑判決の確定を理由として前刑である懲
役刑の執行猶予の取消しを名古屋地方裁判所に請求し,原告X1の異議の有
無を聴取する書面が送付されたことに感情を害したものと推測される。)も
ので,拘置所職員もその経緯を把握していたものと認められる。
そうすると,原告X1の上記言動をもって,相当性の判断において特に考
慮すべき事情であるとは言えず,本件第9面会後,他に相当性の判断におい
て特に考慮すべき事情は発生していないから,無立会面会が相当でないとの
名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1
項の違法がある。
本件第11面会ないし第17面会(平成22年3月31日から平成22年
11月5日まで)について
本件第10面会後の事情について検討するに,相当性の判断において特に
考慮すべき事情は発生していない(原告X1が,叔母と申告する者宛てに上
記1認定の信書を発信した事実は,相当性の判断において特に考慮すべき事
情とは言えない。)から,無立会面会が相当でないとの名古屋拘置所長の判
断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項の違法がある。
本件第18面会(平成23年1月24日)について
本件第17面会後の事情について検討するに,上記1認定の事実のとおり,
原告X1が平成22年11月18日ゴムひもをつないで縄状にしたものを所
持していた事実及び原告X1が平成23年1月6日処方薬を不正に所持して
いた事実が認められるが,現に自傷行為に及び,又は多量の薬剤を服用した
などの事実は認められず,また,本件第18面会が処方薬の不正所持が発覚
してから18日後であることにも照らすと,原告X1が本件第18面会の実
施中に自傷行為等の制止すべき行動に及ぶ具体的可能性があったとも,本件
第18面会の時点の原告X1の心情を把握する高い必要性が生じていたとも
認められない。そうすると,原告X1の上記言動をもって,相当性の判断に
おいて特に考慮すべき事情であるとは言えず,本件第17面会後,他に相当
性の判断において特に考慮すべき事情は発生していないから,無立会面会が
相当でないとの名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,
国賠法1条1項の違法がある。
本件第19面会(平成23年2月16日)について
本件第18面会後の事情について検討するに,相当性の判断において特に
考慮すべき事情は発生していないから,無立会面会が相当でないとの名古屋
拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項の違
法がある。
5争点(本件訴訟代理人面会の立会いを省略しなかった名古屋拘置所長の裁
量権の逸脱濫用の有無)について
職員の立会いの省略を適当とする事情について
本件第①面会当時,原告X3及び弁護士Bは,提起する予定の本件X1国
賠訴訟において原告X1の訴訟代理人となることが予定されており,本件第
②面会ないし本件第⑥面会当時,原告X3,弁護士B及び弁護士Cは,提起
された本件X1国賠訴訟において原告X1の訴訟代理人の地位にあったもの
で,本件訴訟代理人面会は,本件X1国賠訴訟につき,打ち合わせを行うこ
とを目的としていたものと認められる。
本件X1国賠訴訟は,本件弁護人面会につき,無立会面会を認めない名古
屋拘置所長の判断が違法である旨主張するものであり,紛争の相手方である
名古屋拘置所の職員が立会いを行えば,原告X1の利益を害するおそれがあ
り,職員の立会いの省略を適当とする事情があったものと認められる。
以下,上記1認定の事実に基づき,本件訴訟代理人面会に関する名古屋拘
置所長の相当性の判断における裁量権の逸脱濫用の有無について検討する。
本件第①面会(平成22年9月28日)について
ア本件第1面会について述べたように,本件控訴取下げ後の期間を通じて,
原告X1の心情を把握する一般的な必要性があったと言うことができる。
しかしながら,原告X3は原告X1の弁護人でもあったところ,本件第①
面会までの原告X3の弁護人としての面会に起因して,原告X1が心情の
安定を著しく欠く状態になったことが窺われないことも既に述べたとおり
であり,本件第①面会の実施による原告X1の心情への影響を特に把握す
る必要性があったとは認められない。本件第①面会に近接する時期におい
て,相当性の判断において特に考慮すべき事情は見当たらず,原告X1が
本件第①面会の実施中に自傷行為等の制止すべき行動に及ぶ具体的可能性
があったとも,本件第①面会の時点の原告X1の心情を把握する高い必要
性が生じていたとも認められない。
イ他方,本件第①面会が拘置所内における原告X1の処遇に関する救済を
目的とする訴訟に関するものであり,原告X3及び弁護士Bが,原告X1
との間において,処遇に関する事実経過や原告X1の心情及び訴訟提起の
意思の有無を聴取する上で,拘置所職員の立会いによる心理的影響を排除
する必要性は高く,その聴取内容を拘置所職員が把握することにより上記
訴訟における審理の適正に対する信頼が害されることを回避すべき要請も
強い。
ウ以上によれば,原告X3及び弁護士Bと原告X1との無立会面会が相当
でないとの名古屋拘置所長の判断に合理的な理由は認められず,本件第①
面会につき,職員の立会いの省略を適当とする事情があり,これを相当で
ないと判断すべき理由がなかったにもかかわらず,職員の立会いを付した
名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条
1項の違法がある。
本件第②面会(平成22年12月27日)について
本件第②面会においても,原告X1の心情を把握する一般的な必要性があ
ったと言うことができるが,弁護士Bが原告X3とともに行った本件第①面
会に起因して,原告X1が心情の安定を著しく欠く状態になったことは窺わ
れず,本件第②面会の実施による原告X1の心情への影響を特に把握する必
要性があったとは認められないことは,本件第①面会と同様である。本件第
①面会後の事情について検討するに,上記1認定の事実のとおり,原告X1
が,平成22年11月18日ゴムひもをつないで縄状にしたものを所持して
いた事実が認められるが,現に自傷行為に及んだなどの事実は認められず,
また,本件第②面会が上記縄状にしたものの所持が発覚してから39日後で
あることにも照らすと,原告X1が本件第②面会の実施中に自傷行為等の制
止すべき行動に及ぶ具体的可能性があったとも,本件第②面会の時点の原告
X1の心情を把握する高い必要性が生じていたとも認められない。本件第①
面会後,他に相当性の判断において特に考慮すべき事情は発生していないか
ら,無立会面会が相当でないとの名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫
用したものであり,国賠法1条1項の違法がある。
本件第③面会(平成23年3月18日)について
本件第②面会について述べたところと同様に,本件第②面会後の事情につ
いて検討するに,上記1認定の事実のとおり,原告X1が平成23年1月6
日処方薬を不正に所持していた事実が認められるが,現に多量の薬剤を服用
したなどの事実は認められず,また,本件第③面会が処方薬の不正所持が発
覚してから71日後であることにも照らすと,原告X1が本件第③面会の実
施中に自傷行為等の制止すべき行動に及ぶ具体的可能性があったとも,本件
第③面会の時点の原告X1の心情を把握する高い必要性が生じていたとも認
められない。本件第②面会後,他に相当性の判断において特に考慮すべき事
情は発生していない(原告X1がしばしば体調不良を訴えた事実は,相当性
の判断において特に考慮すべき事情とは言えない。)から,無立会面会が相
当でないとの名古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,
国賠法1条1項の違法がある。
本件第④面会(平成23年4月11日)について
本件第③面会後の事情について検討するに,上記1認定の事実のとおり,
原告X1は,平成23年4月6日,聖書に遺書らしき文面を記載し,同月7
日,ホチキスの針を黒手袋に付け,これを右手に着用し,体調不良を装って
拘置所職員に居室の扉を開けさせ,これに乗じて出室しようとし,拘置所職
員の指導に従わなかったことから,同月11日まで保護室に収容され,保護
室収容中においても心情の安定を著しく欠く状態が継続していたことが認め
られる。本件第④面会は保護室収容の解除の約4時間30分後に実施された
もので,本件第④面会の時点においても,原告X1の心情を把握する高い必
要性がなお継続していたと言うべきであり,また,面会の相手方が訴訟代理
人である弁護士であっても,面会時における不測の事故が発生する可能性が
低いとは言えず,これを制止する必要性もあるから,本件第④面会について
拘置所職員の立会いを行う必要性は非常に高かったと認められる。
以上によれば,原告X3と原告X1の無立会面会が相当でないとの名古屋
拘置所長の判断に合理的な理由がないとは言えず,裁量権の逸脱濫用はない
から,国賠法1条1項の違法は認められない。
本件第⑤面会(平成24年2月10日)について
本件第⑤面会は本件第④面会の約10か月後に実施されたもので,本件第
④面会当時の拘置所職員の立会いを行う高い必要性がなお継続していたとは
言えない。また,本件第④面会後の事情について検討するに,上記1認定の
事実のとおり,原告X1は,平成23年7月から同年10月までの間,物品
不正所持,粗暴言辞,静穏阻害により,閉居7日の懲罰を3回科されたこと
が認められるが,その後は相当性の判断において特に考慮すべき事情は発生
していないことに照らすと,本件第⑤面会について拘置所職員の立会いを行
う必要性が高かったとは認められないから,無立会面会が相当でないとの名
古屋拘置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項
の違法がある。
本件第⑥面会(平成24年3月29日)について
本件第⑤面会後の事情について検討するに,相当性の判断において特に考
慮すべき事情は発生していないから,無立会面会が相当でないとの名古屋拘
置所長の判断は,裁量権を逸脱濫用したものであり,国賠法1条1項の違法
がある。
6争点(原告らの損害額)について
原告X1の損害
ア慰謝料合計72万円(1回につき3万円)
本件控訴取下げの効力を争う原告X1が拘置所職員の立会いなく弁護人
と面会する法的利益を侵害されたこと,及び原告X1が拘置所職員の立会
いなく本件X1国賠訴訟の訴訟代理人と面会する法的利益を侵害されたこ
とによる精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は,名古屋拘置所長の職務執
行の違法が認められる面会1回につき3万円とするのが相当であり,その
回数は24回であるから,慰謝料の合計は72万円である。
イ弁護士費用合計7万2000円(1回につき3000円)
原告X1が負担する弁護士費用のうち,名古屋拘置所長の違法な職務執
行と相当因果関係の認められる額は,1回の職務執行につき3000円と
するのが相当である。
ウ合計79万2000円
原告X2の損害
ア慰謝料合計9万円(1回につき3万円)
原告X2が,拘置所職員の立会いなく原告X1と面会する弁護人固有の
法的利益を侵害されたことによる精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は,
名古屋拘置所長の職務執行の違法が認められる面会1回につき3万円とす
るのが相当であり,その回数は3回であるから,慰謝料の合計は9万円で
ある。
イ弁護士費用合計9000円(1回につき3000円)
原告X2が負担する弁護士費用のうち,名古屋拘置所長の違法な職務執
行と相当因果関係の認められる額は,1回の職務執行につき3000円と
するのが相当である。
ウ合計9万9000円
原告X3の損害
ア慰謝料合計51万円(1回につき3万円)
原告X3が,拘置所職員の立会いなく原告X1と面会する弁護人固有の
法的利益を侵害されたことによる精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は,
名古屋拘置所長の職務執行の違法が認められる面会1回につき3万円とす
るのが相当であり,その回数は17回であるから,慰謝料の合計は51万
円である。
イ弁護士費用合計5万1000円(1回につき3000円)
原告X3が負担する弁護士費用のうち,名古屋拘置所長の違法な職務執
行と相当因果関係の認められる額は,1回の職務執行につき3000円と
するのが相当である。
ウ合計56万1000円
第4結論
以上のとおり,原告らの被告に対する損害賠償請求は,原告X1は79万2
000円,原告X2は9万9000円,原告X3は56万1000円及びこれ
らに対する各不法行為の日である面会の日から遅延損害金の支払いを求める限
度で理由があるから認容し,その余の請求についてはいずれも理由がないから
これを棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言の申し
立ては相当でないから却下する。
名古屋地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官德永幸藏
裁判官光野哲治
裁判官荻野文則
(別紙第2)
遅延損害金目録
1原告X1
(認容額)(起算日)
3万3000円平成21年4月28日
3万3000円同年6月5日
3万3000円同年8月19日
3万3000円同年9月4日
3万3000円同年10月16日
3万3000円同年11月5日
3万3000円同年11月12日
3万3000円同年11月19日
3万3000円同年12月28日
3万3000円平成22年2月8日
3万3000円同年3月31日
3万3000円同年4月23日
3万3000円同年4月30日
6万6000円同年5月6日
3万3000円同年9月6日
3万3000円同年9月28日
3万3000円同年11月5日
3万3000円同年12月27日
3万3000円平成23年1月24日
3万3000円同年2月16日
3万3000円同年3月18日
3万3000円平成24年2月10日
3万3000円同年3月29日
2原告X2
(認容額)(起算日)
3万3000円平成21年4月28日
3万3000円同年10月16日
3万3000円同年11月5日
3原告X3
(認容額)(起算日)
3万3000円平成21年6月5日
3万3000円同年8月19日
3万3000円同年9月4日
3万3000円同年11月5日
3万3000円同年11月12日
3万3000円同年11月19日
3万3000円同年12月28日
3万3000円平成22年2月8日
3万3000円同年3月31日
3万3000円同年4月23日
3万3000円同年4月30日
6万6000円同年5月6日
3万3000円同年9月6日
3万3000円同年11月5日
3万3000円平成23年1月24日
3万3000円同年2月16日

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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