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平成15年5月28日判決言渡
甲事件 平成14年(ワ)第77号 出資口数確認請求事件
乙事件 平成14年(ワ)第1238号 出資金持分引渡請求事件
口頭弁論終結日 平成15年3月5日
             判         決
  東京都葛飾区
    甲,乙事件原告         X
    同訴訟代理人弁護士       P
    同               Q
    同               R
  千葉県習志野市
    甲事件被告           有限会社Y
    同代表者代表取締役       C
  同所
    乙事件被告           B
  同所
    乙事件被告           C
  愛知県高浜市
    乙事件被告           D
  東京都北区
    乙事件被告           E
    上記5名訴訟代理人弁護士    S
  東京都葛飾区
    乙事件被告           F
             主         文
   1 甲事件被告有限会社Yは,甲,乙事件原告に対し,甲事件被告有限会
社Yの別紙社員名簿(省
    略,以下同じ)記載の出資の口数のうち,
(1)A相続人代表乙事件被告B名義の出資の口数400口のうち100

(2)乙事件被告B名義の出資の口数400口のうち100口
(3)乙事件被告C名義の出資の口数500口のうち125口
(4)乙事件被告D名義の出資の口数500口のうち125口
(5)乙事件被告E名義の出資の口数100口のうち25口
(6)乙事件被告F名義の出資の口数100口のうち25口
を,それぞれ甲,乙事件原告名義に名義書換えをせよ。
2(1)甲,乙事件原告と乙事件被告B,乙事件被告C,乙事件被告D,乙
事件被告E及び乙事件被告
  Fとの間で,別紙社員名簿記載のA相続人代表乙事件被告B名義の甲
事件被告有限会社Yの出資
  の口数400口のうち100口が,甲,乙事件原告に帰属することを
確認する。
(2)甲,乙事件原告と乙事件被告Bとの間で,別紙社員名簿記載の乙事
件被告B名義の甲事件被告
 有限会社Yの出資の口数400口のうち100口が,甲,乙事件原告
に帰属することを確認す
 る。
(3)甲,乙事件原告と乙事件被告Cとの間で,別紙社員名簿記載の乙事
件被告C名義の甲事件被告
 有限会社Yの出資の口数500口のうち125口が,甲,乙事件原告
に帰属することを確認す
 る。
(4)甲,乙事件原告と乙事件被告Dとの間で,別紙社員名簿記載の乙事
件被告D名義の甲事件被告
有限会社Yの出資の口数500口のうち125口が,甲,乙事件原告
に帰属することを確認す
る。
(5)甲,乙事件原告と乙事件被告Eとの間で,別紙社員名簿記載の乙事
件被告E名義の甲事件被告
有限会社Yの出資の口数100口のうち25口が,甲,乙事件原告に
帰属することを確認する。
(6)甲,乙事件原告と乙事件被告Fとの間で,別紙社員名簿記載の乙事
件被告F名義の甲事件被告
有限会社Yの出資の口数100口のうち25口が,甲,乙事件原告に
帰属することを確認する。
3 訴訟費用は,被告らの負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主位的請求
 主文同旨。
2 予備的請求
(1)甲事件
  甲,乙事件原告(以下「原告」という。)と甲事件被告有限会社Y(以
下「被告会社」という。)
 との間で,被告会社の別紙社員名簿記載の出資の口数のうち,
ア A(以下「A」という。)相続人代表乙事件被告B(以下「被告B」
という。)名義の出資の口
 数400口のうち100口
イ 被告B名義の出資の口数400口のうち100口
ウ 乙事件被告C(以下「被告C」という。)名義の出資の口数500口
のうち125口
エ 乙事件被告D(以下「被告D」という。)名義の出資の口数500口
のうち125口
オ 乙事件被告E(以下「被告E」という。)名義の出資の口数100口
のうち25口
カ 乙事件被告F(以下「被告F」という。)名義の出資の口数100口
のうち25口
が,それぞれ原告に帰属することを確認する。
(2)乙事件
ア 被告B,被告C,被告D,被告E及び被告Fは,原告に対し,被告会
社の別紙社員名簿に記載さ
 れたA相続人代表被告B名義の出資の口数400口のうち100口を引
き渡せ。
イ 被告Bは,原告に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載された被告B
名義の出資の口数400口
 のうち100口を引き渡せ。
ウ 被告Cは,原告に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載された被告C
名義の出資の口数500口
 のうち125口を引き渡せ。
エ 被告Dは,原告に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載された被告D
名義の出資の口数500口
 のうち125口を引き渡せ。
オ 被告Eは,原告に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載された被告E
名義の出資の口数100口
 のうち25口を引き渡せ。
カ 被告Fは,原告に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載された被告F
名義の出資の口数100口
 のうち25口を引き渡せ。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告会社の別紙社員名簿に記載された出資の口数のう
ち,①A相続人代表被告B名
義の出資の口数400口のうち100口,②被告B名義の出資の口数400
口のうち100口,③被告
C名義の出資の口数500口のうち125口,④被告D名義の出資の口数5
00口のうち125口,⑤
被告E名義の出資の口数100口のうち25口及び⑥被告F名義の出資の口
数100口のうち25口
が,それぞれ原告に帰属する旨主張して,
(1)被告会社に対し,主位的には上記各出資の口数のとおり被告会社を除く
その余の被告らから原告に
 対し別紙社員名簿の出資の口数の名義書換えをすること,予備的には上記
各出資の口数のとおり原告
 に各持分が帰属する旨の確認(以上,甲事件),
(2)被告B,被告C,被告D,被告E及び被告F(以下,この者らを「乙事
件被告ら」という。)に対
 し,主位的には上記各出資の口数のとおり原告に各持分が帰属する旨の確
認,予備的には上記各出資
 の口数のとおり各持分の引渡し(以上,乙事件)
を,それぞれ求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実については証拠を掲記しない。)
(1)被告会社は,昭和44年2月4日,設立された,不動産の賃貸及び観光
事業等を目的とする有限会
 社である。
 被告会社の設立当初の出資の口数は,2000口であり,被告会社の出
資一口の金額は,1000
円である。
(2)被告会社の設立当時の社員名簿上の出資の口数は,以下のとおりであっ
た。
ア A    400口
イ 被告B  400口
ウ 被告C  500口
エ 被告D  500口
オ 被告E  100口
カ 被告F  100口
(3)被告Bは,Aの妻であり,被告C,被告D,被告E及び被告Fは,Aの
子である。
 Aは,平成2年1月15日,死亡し,乙事件被告らがAを相続した。
(4)原告は,Aが死亡した平成2年1月15日以降,乙事件被告らとの間で
被告会社の持分について争
 いとなり,平成9年ころ,東京地方裁判所に被告会社の持分が原告とAと
の持分2分の1の準共有で
 あることの確認などを求める訴え(東京地方裁判所平成9年(ワ)第266
92号)を提起したが,請
 求を棄却されたので,控訴をし(東京高等裁判所平成12年(ネ)第542
3号土地建物持分移転登記
 手続等請求控訴事件),請求の趣旨を原告が被告会社の持分のうち2分の
1を有することの確認等に
 変更した。東京高等裁判所は,平成13年4月26日(口頭弁論終結日は
同年2月27日),1審判
 決を取り消し,上記(2)記載の各持分のうち,①A名義の出資の口数40
0口のうち200口,②被
 告B名義の出資の口数400口のうち200口,③被告C名義の出資の口
数500口のうち250
 口,④被告D名義の出資の口数500口のうち250口,⑤被告Eの出資
の口数100口のうち50
 口及び⑥被告Fの出資の口数100口のうち50口が,それぞれ原告に帰
属する旨,すなわち,原告
 に出資の総口数2000口のうち,合計1000口が帰属する旨を確認す
る判決を言い渡した。そし
 て,上記控訴審判決は,同年9月4日,確定した(甲1ないし3。以下,
上記判決を「本件前訴判
 決」という。)。
 なお,本件前訴判決は,被告会社の設立の際,原告は,Aとともに,1
00万円(出資の口数10
00口に相当する。)ずつ出資した旨の事実を認定し,上記(2)記載の持
分のうち2分の1に当たる
持分が実質的に原告に帰属すると認めることができるとした(甲1)。
(5)被告会社は,平成8年3月12日,出資の口数1口当たり0.5口の割
合で増資をし(以下「本件
 増資」という。),これにより被告会社の出資の総口数が3000口とな
ったが,原告に対し,本件
 増資の手続について,一切通知等をしなかった。
 そして,乙事件被告らは,本件増資がされたころ,それぞれ,上記(2)
記載の各持分に応じた増資
分,すなわち,被告Bは,200口分,被告Cは,自己に割り当てられる
べき250口分とA(当時
は既に死亡していた。)に割り当てられるべき200口分,被告Dは,2
50口分,被告Eは,50
口分,被告Fは,50口分の出資金額を払い込んだ。
(6)原告は,被告会社の本件増資は,本件前訴判決により原告が被告会社の
出資の口数合計1000口
 を有していることが認められたのであるから,その出資の口数合計100
0口に対応する500口分
 の増資が原告に割り当てられるべきであるとして,平成13年7月17
日,被告会社に対して,出資
の口数500口分の出資金50万円を送金するとともに(甲4。なお,被
告会社は,この原告から送
 金された50万円を供託した。),平成14年12月12日,被告Eに対
し,本件増資により増資さ
れた分のうち25口の出資金額に相当する2万5000円を,同日,被告
Fに対し,本件増資により
増資された分のうち25口の出資金額に相当する2万5000円を,同月
13日,被告Bに対し,本
件増資により増資された分のうち100口分の出資金額に相当する10万
円を,同日,被告Cに対
し,本件増資により増資された分のうち225口分の出資金額に相当する
22万5000円を,同月
17日,被告Dに対し,本件増資により増資された分のうち125口の出
資金額に相当する12万5
000円を,乙事件被告らが本訴において係争中のため受領しないことが
明らかであるとして,それ
ぞれ供託した(甲14ないし19。以下,原告の乙事件被告らに対する上
記供託を「本件供託」とい
う。)。
(7)被告会社の本件口頭弁論終結時の社員名簿上の出資の口数は,以下のと
おりである(乙ヘ1[別紙
社員名簿])。
ア A相続人代表被告B  400口
イ 被告B  400口
ウ 被告C  500口
エ 被告D  500口
オ 被告E  100口
カ 被告F  100口
キ 原   告 1000口
(8)なお,被告Fは,適式の呼出しを受けたにもかかわらず本件口頭弁論期
日に出頭しないし,答弁書
その他の準備書面を提出しないので,乙事件請求に係る原告の主張(請求
の原因)を争うことを明ら
かにしないものと認め,これを自白したものとみなす。
2 争点
 本件の争点は,本件増資により増資された被告会社の出資の口数1000
口のうち,合計500口分
が原告に帰属するか否かであり,争点に関する各当事者の主張は,以下のと
おりである。
(1)原告の主張
ア 本件増資においては,前記1,(5)記載のとおり,乙事件被告らに対
し,その名義上の各持分割
合に従い,出資引受権が割り当てられ,払込がされたが,社員の出資引
受権は,社員が増資による
持分比率の低下によって会社支配権が侵害されることや,従来有していた
持分の財産的価値が減少す
ることから保護されるために,本来,実質的な社員に当然に割り当てられ
るべきものである(有限会
社法51条参照。)。
イ 原告は,被告会社の設立に当たって出資金200万円のうち100万
円を出資し,本件増資がさ
れた時点において,被告会社の出資の口数合計1000口を有していた
ものであり,乙事件被告ら
は,それぞれ,被告会社の出資の口数をA名義で200口,被告B名義
で200口,被告C名義で
250口,被告D名義で250口,被告E名義で50口,被告F名義で
50口を有していたにすぎ
ない。このことは,本件前訴判決により確定されている。
ウ 上記イ記載のとおり,本件増資前の被告会社の出資の総口数2000
口のうち1000口につい
ては,原告が,実質的な持分権者であったのだから,この出資の口数1
000口に対する500口
分,すなわち,被告会社の社員名簿に記載されたA相続人代表被告B名
義の出資の口数400口の
うち100口,被告B名義の出資の口数400口のうち100口,被告
C名義の出資の口数500
口のうち125口,被告D名義の出資の口数500口のうち125口,
被告E名義の出資の口数1
00口のうち25口,被告F名義の出資の口数100口のうち25口の
出資引受権は,原告に帰属
していたものである。
エ そうであるならば,乙事件被告らが,上記ウ記載の原告に割り当てら
れるべき出資引受権につい
て,割当てを受け,払込をし,被告会社から持分の付与を受けたのは,
法律上の原因なくして原告
に帰属すべき財産権を取得したものと評価すべきものであるから,不当
利得の法理により,原告
は,乙事件被告らに対し,払い込まれた出資金を支払うことと引き換え
に,乙事件被告らに帰属し
ている本件増資により増資された分の持分を取得することができるとい
うべきである。
オ 原告は,前記1,(6)記載のとおり,乙事件被告らに対し,それぞれ
本件供託をした。
カ したがって,別紙社員名簿記載の出資口数のうち,A相続人代表乙事
件被告B名義の出資の口数
400口のうち100口,被告B名義の出資の口数400口のうち10
0口,被告C名義の出資の
口数500口のうち125口,被告D名義の出資の口数500口のうち
125口,被告E名義の出
資の口数100口のうち25口,被告F名義の出資の口数100口のう
ち25口,合計500口
は,それぞれ原告に帰属する。
(2)被告Fを除く被告らの主張
ア 上記(1)記載の原告の主張は争う。
イ(ア)被告Fを除く被告らは,被告会社の本件増資前の原告の持分につい
て,確定した本件前訴判決
が判示する原告に出資の総口数2000口のうち,合計1000口が
帰属する旨を争うものでは
ない。
(イ)しかし,本件増資により割り当てられた出資引受権及び払込後の持
分の帰属を論じるに当たっ
ては,原告は,乙事件被告らの持分の帰属を争うことはできないとい
うべきである。
 すなわち,原告は,被告会社が設立された際,Aとともに100万
円を出資したと主張する
が,そうであるならば,原告は,被告会社の社員名簿に真実の記載が
されていないことを知りな
がらこれを放置し,乙事件被告らは,それぞれ自己に前記1,(2)記
載のとおりの持分が帰属す
る旨信じていたのであるから,原告は,被告会社の社員名簿に記載さ
れた前記1,(2)記載のと
おりの持分比率と異なる主張をすることはできないというべきであ
る。
(ウ)また,乙事件被告らは,被告会社が設立された昭和44年2月4
日,それぞれ自己に前記1,
(2)記載のとおりの持分が帰属する旨過失無く信じ,社員権を行使する
などして上記各持分を準占
有してきたのであるから,昭和54年2月3日の経過をもって,それ
ぞれ本件増資前の原告の持
分を時効取得したものである。
ウ なお,資本増加の手続きによらずして増資に係る出資口数を取得する
ことはあり得ないところ,
本件増資の際,被告会社から社員名簿に従い,出資引受権の割当てを受
け,払込をし,被告会社か
ら持分を付与されたのは乙事件被告らであり,原告ではないから,たと
え,本件前訴判決が判示す
るとおり,被告会社の本件増資前の原告の持分について,原告に出資の
口数合計1000口が有効
に帰属していることを前提としても,原告に本件増資による増資分合計
500口の持分は帰属しな
いというべきである。
第3 当裁判所の判断
1(1)原告は,本件増資において,社員の出資引受権は,実質的な社員に当然
に割り当てられるべきもの
であるから,本件増資前の被告会社の出資の総口数2000口のうち,1
000口について実質的な
持分権者であった原告に,これに対する500口分の出資引受権が当然に
割り当てられるべきであ
り,乙事件被告らが,その名義上の各持分割合に従い出資引受権の割当て
を受け,払込をし,被告会
社から持分を付与されたのは,法律上の原因なくして原告に帰属すべき財
産権を取得したものと評価
すべきものであり,したがって,原告は,不当利得の法理により,乙事件
被告らに対し,払い込まれ
た出資金を支払うことと引き換えに,乙事件被告らに帰属している増資さ
れた分の各持分を取得する
ことができるところ,原告は,払い込まれた出資金に相当する金員を乙事
件被告らに対し供託したか
ら,本件増資分の乙事件被告ら名義の出資の口数のうち合計500口は原
告に帰属する旨主張するの
で,以下検討する。
(2)ア前記第2,1記載の前提事実(以下「前提事実」という。)に基づき
判断する。
イ本件増資により増資された持分の帰属について
(ア)出資引受権の帰属
a前提事実によれば,①本件増資前の被告会社の社員名簿上の出資の
口数は,Aが400口,被
告Bが400口,被告Cが500口,被告Dが500口,被告Eが1
00口,被告Fが100口
とされていたが,②確定した本件前訴判決は,A名義の400口のう
ち200口,被告B名義の
400口のうち200口,被告C名義の500口のうち250口,被
告D名義の500口のうち
250口,被告E名義の100口のうち50口及び被告F名義の10
0口のうち50口,合計1
000口の実質的権利は,原告に帰属するとし,③被告会社は,本件
前訴判決後,社員名簿上の
原告の出資の口数が1000口である旨被告会社の社員名簿を書き換
えたことが認められるか
ら,原告は,本件増資前,A名義の400口のうち200口,被告B
名義の400口のうち20
0口,被告C名義の500口のうち250口,被告D名義の500口
のうち250口,被告E名
義の100口のうち50口及び被告F名義の100口のうち50口,
合計1000口の持分につ
いて,実質的権利を有していたということができる(なお,被告Fを
除くその余の被告らは,本
件増資前,原告が被告会社の出資の口数1000口を実質的に有して
いた事実を争わない。)。
b次に,本件増資の際に,原告が実質的権利を有していた合計100
0口の持分に対して割り当
てられた出資引受権が,実質的権利者である原告に帰属したのか,あ
るいは,名義上の持分権者
であった乙事件被告らに帰属したのかについて検討するに,①有限会
社は,閉鎖的な性質を有し
ていることから,社員相互間の信頼関係が重視され,各社員間の持分
比率の維持が社員の重要な
権利とされており,有限会社の社員は,法律上,原則として,増加す
る資本につき自己の持分に
比例して出資引受権を有するとされていること(有限会社法51条本
文),②乙事件被告らは,
原告が実質的権利を有していた合計1000口の持分について,本件
増資がされた当時,社員名
簿上においては社員とされていたものの,実質的には社員としての権
利を何ら有していなかった
のであり,本件増資による出資引受権を割り当てられるべき正当な根
拠がないこと,③社員名簿
の記載は,単に,被告会社が社員名簿上の記載に従って社員に対する
通知などをした場合に被告
会社が免責され得るにすぎないものであり(有限会社法24条4項,
商法224条1項ないし3
項),乙事件被告らを合計1000口の持分を有する社員であるとす
る社員名簿の記載をもっ
て,乙事件被告らに対し実質的権利が付与されるものではないこと,
以上を総合的に考慮する
と,本件増資の際に,原告が実質的権利を有していた合計1000口
の持分に対して割り当てら
れた出資引受権は,被告会社の社員名簿の記載にかかわらず,実質的
権利を有していた原告に帰
属したものと解すべきである。
(イ)持分の帰属
a上記(ア)記載のとおり,本件増資の際に,原告が実質的権利を有し
ていた合計1000口の持
分に対して乙事件被告らに割り当てられた出資引受権は,実質的には
原告に帰属したものと解す
べきであるが,乙事件被告らが払込をし,被告会社から付与された増
資分の合計500口の持分
が原告に帰属するか否かを検討する。
bこの点,上記(ア)記載のとおり,本件増資の際に,原告が実質的権
利を有していた合計100
 0口の持分に対して割り当てられた出資引受権は,実質的権利者であ
る原告に帰属するものであ
るから,乙事件被告らが,社員名簿に従い乙事件被告らに形式的に割
り当てられた出資引受権を
行使して,本件増資による増資分合計500口の持分を取得したこと
は,実質的には,何ら法律
上の原因なくして,原告に帰属すべき財産権を取得したものと評価す
ることができる。
 そして,閉鎖会社である有限会社においては,社員にとって,通
常,外部者を排除して社員相
互の信頼を維持し,かつ,既存の持分比率が維持されることが重要な
権利であるから(有限会社
法51条参照。),増資の際,名義上の社員が,出資引受権の割当て
を受け,払込をし,会社か
ら持分の付与を受けた場合,実質的な社員と名義上の社員との間の実
質的な公平を図るために不
当利得の法理を適用し,実質的な社員は,名義上の社員に対し,名義
上の社員により払い込まれ
た増資分の出資金を支払うことと引き換えに,名義上の社員に付与さ
れた持分それ自体の取得を
求めることができると解すべきである。
 したがって,本件増資において,乙事件被告らが,社員名簿上の記
載の各持分割合に従い,出
資引受権の割当てを受け,払込をし,被告会社から持分を付与された
のは,法律上の原因なくし
て,原告に帰属すべき増資分の合計500口の持分を得たものであ
り,これにより原告は損失を
被ったということができるから,不当利得の法理を適用し,原告は,
乙事件被告らに対し,乙事
件被告らにより払い込まれた各出資金を支払うことと引き換えに,本
件増資により原告が実質的
権利を有していた合計1000口に対して被告会社から付与された増
資分の合計500口の持分
を取得することができるものと解すべきである。
 被告Fを除く被告らは,資本増加の手続きによらずして増資に係る
出資口数を取得することは
あり得ないところ,本件増資の際,社員名簿に従い,出資引受権の割
当てを受け,払込をし,被
告会社から持分を付与されたのは乙事件被告らであり,原告ではない
から,たとえ,本件前訴判
決が判示するとおり,被告会社の本件増資前の原告の持分について,
原告に出資の口数合計10
00口が有効に帰属していることを前提としても,原告に本件増資に
よる増資分合計500口の
持分は帰属しないと主張するが,上記判示に照らし,採用することが
できない。
c原告は,前提事実のとおり本件供託をしたのであるから,乙事件被
告らに対し,本件増資のた
め乙事件被告らにより払い込まれた各出資金を支払ったものというこ
とができる。
dしたがって,本件増資の際に,原告が実質的権利を有していた合計
1000口の持分につい
て,乙事件被告らが,出資引受権の割当てを受け,払込をし,被告会
社から付与された増資分の
合計500口の持分,すなわち,被告会社の別紙社員名簿に記載され
たA相続人代表被告B名義
の出資の口数400口のうち100口,被告B名義の出資の口数40
0口のうち100口,被告
C名義の出資の口数500口のうち125口,被告D名義の出資の口
数500口のうち125
口,被告E名義の出資の口数100口のうち25口は,原告が本件供
託をしたことと引き換えに
取得したものであり,原告に帰属する。
ウ 社員名簿の書換え請求について
 上記イ記載のとおり,原告は,乙事件被告らに対し,それぞれ出資金
額に相当する本件供託をし
たことをもって,本件増資による増資分合計500口の持分を取得した
ものであるから,被告会社
に対し,被告会社の別紙社員名簿に記載されたA相続人代表被告B名義
の出資の口数400口のう
ち100口,被告B名義の出資の口数400口のうち100口,被告C
名義の出資の口数500口
のうち125口,被告D名義の出資の口数500口のうち125口,被
告E名義の出資の口数10
0口のうち25口,被告F名義の出資の口数100口のうち25口,合
計500口について,被告
会社の別紙社員名簿の書換えを請求することができる。
2(1)なお,被告Fを除く被告らは,被告会社の本件増資前の原告の持分につ
いて,確定した本件前訴判
決が判示する原告に出資の総口数2000口のうち合計1000口が帰属
する旨を争うものではない
としながらも,本件増資により割り当てられた出資引受権及び払込後の出
資持分の帰属を論じるに当
たっては,原告は,乙事件被告らの持分の帰属を争うことはできないとし
て,①原告は,被告会社の
社員名簿に真実の記載がされていないことを知りながらこれを放置し,乙
事件被告らは,自己に持分
が帰属する旨信じていたのであるから,原告は,社員名簿に記載された前
記第2,1,(2)記載とお
りの持分比率と異なる主張をすることはできない,②乙事件被告らは,被
告会社が設立された昭和4
4年2月4日,自己に前記第2,1,(2)記載のとおりの出資の口数が帰
属する旨過失無く信じ,社
員権を行使するなどして上記持分を準占有してきたのであるから,昭和5
4年2月3日の経過をもっ
て,本件増資前の原告の持分を時効取得したものであると主張する。
(2)しかし,被告Fを除く乙事件被告らが自己に持分が帰属する旨信じたと
の的確な証拠は存在しない
し,そもそもこれらの者は,社員名簿上の名義貸与者にすぎず,虚偽の外
形について新たな利害関係
を作った者に当たるとは認められないから,原告が被告Fを除く乙事件被
告らに対し社員名簿に記載
された持分比率と異なる主張をすることができなくなるとは認められず,
また,被告会社は,原告と
被告Fを除く乙事件被告らとの間で社員名簿に記載された持分比率と異な
る比率で出資の口数が確認
される以上,原告がその確認されたところに基づき社員名簿の名義書換え
を求めた場合にはこれを拒
絶することができないというべきであるから,上記(1),①記載の主張は,
採用することができない。
さらに,被告Fを除く乙事件被告らの上記(1),②記載の主張は,被告F
を除く乙事件被告らとの関
係では本件前訴判決で争点とされた事項を蒸し返して争っているといわざ
るを得ないものである上,
被告Fを除く被告らは,被告会社の本件増資前の原告の持分について,本
件前訴判決が判示する原告
に出資の総口数2000口のうち合計1000口が帰属する旨の事実を争
うものではないとしている
のであり,それにもかかわらず,何故,本件増資による持分の帰属を論じ
るに当たって原告に合計1
000口の持分が帰属する旨の上記事実と矛盾する主張をすることができ
るのか理解困難であり,被
告Fを除くその余の乙事件被告らの上記(1),②記載の主張は独自の見解
といわざるを得ず,採用す
ることはできない。
3 よって,原告の主位的請求は理由があるから主文のとおり判決する。
   千葉地方裁判所民事第1部
     裁判長裁判官     小   林       正
        裁判官     深   野   英   一
 裁判官瀬木比呂志は,転補のため,署名押印することができない。
    裁判長裁判官     小   林       正

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