弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
(控訴人)
一 原判決を取消す。
二 被控訴人Aは原判決添付別紙イ号図面及び説明書記載の水耕栽培用ベツトを使
用してはならない。
三 被控訴人株式会社サンスイは原判決添付別紙イ号図面及び説明書記載の水耕栽
培用ベツトを製造販売及び使用してはならない。
四 被控訴人株式会社サンスイは控訴人に対し、その製造にかかる前項記載の物件
を廃棄せよ。
五 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
六 第四項につき仮執行の宣言
(被控訴人ら)
 主文同旨
第二 当事者の主張及び証拠関係
 当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に付加するほか、原判決事実
摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決九枚目表二行目の「公告
され」の次に「る」を加入し、同一一枚目裏五行目の「防上」を「防止」と改め
る。)。
(控訴人)
一 本件考案の構成要件(3)の密閉構造につき、本件登録請求の範囲には掩被密
閉の具体的手段の記載がない。原判決は明細書の考案の詳細な説明の項及び図面の
記載を参酌して、その具体的手段は、袖縁4の付いた覆蓋5を基体内側上方の段2
に当嵌させることにあると認められるとする。しかし、これによれば本件考案の技
術的範囲は実施例に限定されてしまうことになるから、これは登録請求の範囲の解
釈を誤つたものである。登録請求の範囲には密閉構造の特色構造が記載されていな
いのであるから、この点につき本件考案には公知の蓋付の箱と比べて相違するよう
な特異な構造はないものとみるべきである。
二 第三者が実用新案の作用効果を低下させる以外に何らすぐれた作用効果を伴わ
ないのに、専ら権利侵害の責任を免れるために、考案の構成要件のうち比較的重要
性の少い事項を省略した技術を用いるときは、その行為は考案の構成要件にむしろ
有害な事項を付加してその技術思想を用いるにほかならず(不完全利用)、考案の
保護の範囲を侵害するものと解すべきである。
 被控訴人は、イ号物件は本件考案の構成要件(1)のうち「段2」を欠いている
と主張するところ、右「段2」は基体に覆蓋をするため(覆蓋を支持するため)の
手段であるが、イ号物件は右「段2」を省略して、基本底部にわざわざ突出部を設
けてこの部分で覆蓋を支持する方法をとつている。これは被控訴人株式会社サンス
イにおいて専ら本件実用新案権侵害の責任を免れるためにとつた構成であり、右突
出部を新たに設けることによつて特異な作用効果を発揮するわけではない。また、
イ号物件においては覆蓋と基体との嵌着の仕方が本件考案におけるよりも若干緩い
のであるが、イ号物件におけるこのような構成は、本件考案の作用効果を低下させ
る以外何らのすぐれた作用効果を伴わないものである。結局イ号物件は本件考案の
構成要件にむしろ有害な事項を付加して本件考案の技術思想を用いるものであり、
本件考案の保護範囲を侵害するものである。
(被控訴人)
一 控訴人の不完全利用の主張は争う。
二 被控訴人株式会社サンスイは本件考案について無効審判を請求しており、その
理由の要旨は、本件考案の構成要件(1)及び(2)は出願前公知であること、構
成要件(3)は「掩被密閉」による細菌の侵入防止の作用効果がないことを控訴人
自身が認めていること、右(1)(2)(3)の構成の組合せは当業者がきわめて
容易に考案できる(実用新案法三条二項)ものであることである。そして、本件考
案は無効とされる蓋然性が高いから、本件考案の技術的範囲はその明細書(実用新
案公報)に記載されている字義どおりの内容をもつものとして最も狭く解するのが
相当である。具体的には本件考案の技術的範囲は実施例に限定されるので、明らか
にこれから外れるイ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。
       理   由
一 当裁判所も、控訴人が本件実用新案権を有するところ、被控訴人らが製造、販
売、使用するイ号物件は本件考案の構成要件(1)(正面背面の内側上方に段2を
設けた発泡スチロールの基体1を次々と継ぎ合わせたものであること)のうち「発
泡スチロールの基体1を次々と継ぎ合せたものであること」という部分及び構成要
件(2)(基本1の内側をビニールシーツで掩つたものであること)を具備する
が、構成要件(1)のうち(基本の正面背面の内側上方に段2を設けた」との部分
及び構成要件(3)(基本1に発泡スチロールの覆蓋5を当嵌し、ベツトに内装し
たビニールシーツの周縁で覆蓋の外縁を掩被密閉したものであること)を具備して
いないと認めるが、その理由は、次のとおり改めるほか、原判決理由説示(原判決
一四枚目裏九行目から一七枚目裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用す
る。
 原判決一七枚目裏一行目から五行目の「認められるところ、」までを次のとおり
改める。
「そして、本件登録請求の範囲中「(基体の)正面背面の内側上方に段2を設け
た」との記載及び「基本1に発泡スチロールの覆蓋5を当嵌し、」との記載によれ
ば、構成要件(3)にいう掩被密閉の具体的手段は、段2によつて覆蓋5を支持す
ることを内容とするものであることが明らかなところ、」
二 (均等の主張について)
 控訴人は、本件考案の構成要件のうち構成要件(1)の「発泡スチロールの基体
を次々と継ぎ合わせたものであること」が必須的要件であり、その余は付随的要件
に過ぎないから、イ号物件が右の必須的要件を具備する限り、構成要件(3)の密
閉構造を欠いても、本件考案の技術的範囲に属し、そうでないとしても本件考案と
均等である旨主張する。
 しかし、実用新案法五条四項によれば、登録請求の範囲には「考案の構成に欠く
ことができない事項のみを記載しなければならない」のであるから、実用新案の登
録を受けた者は登録請求の範囲の記載の全部が考案の構成に欠くことができないも
のとして実用新案権を取得したものというべきである。従つて、登録実用新案の技
術的範囲は登録請求の範囲記載の構成要件の全部に基いて定めなければならず(実
用新案法二六条、特許法七〇条)、たとえ実用新案権者が登録請求の範囲に考案の
構成に欠くことができない事項でない事項を記載した場合であつても、その記載が
付随的要件に過ぎないことを理由として、これを具備しない物品が考案の技術的範
囲に属することは許されないといわなければならない。そうだとすると、本件考案
の構成要件(3)の密閉構造が付随的要件に過ぎないことを理由として、これを欠
くイ号物件が本件考案の技術的範囲に属し、または本件考案と均等であるとする控
訴人の主張は主張自体失当である。
 ところで、一般に或る物品が登録実用新案(にかかる物品)と均等であるという
ためには、両者の構成が技術的目的を同じくし、相違する構成は互に置換してみて
も同一の作用効果を生じ、その置換が登録出願時において通常の専門家の当然なし
得る程度のものであることを要する。そして、本件考案の構成要件(1)のうち
「基体の正面背面の内側上方に段2を設けた」構成及び構成要件(3)が細菌の侵
蝕防止という課題の解決を目的としそれに副う作用効果を生ずるものであることは
前認定(原判決引用)の明細書の記載特に「ビニールシーツで掩被密閉するため
に、細菌の侵蝕を防ぎ、」との記載に照らし明らかであるところ、イ号物件は前認
定(原判決引用)のとおり、基体の正面背面の内側上方に段を欠き、基体の底部に
突出部を設けて覆蓋をこれに乗架し、基体に内装したビニールシーツの周縁を基体
の上端部に引掛けてその外側に垂下されており、これで覆蓋の外縁を掩被密閉する
構造になつていない。そうすると、本件考案とイ号物件の右各構成はその目的、作
用効果が異なることが明らかであるから、本件において均等論を適用する余地はな
い。
 従つて、控訴人の均等の主張は採用の限りではない。
三 (不完全利用の主張について)
 第三者が実用新案権侵害の責任を免れるために、考案の構成要件のうち比較的重
要性の少い事項を省略し、その代りに考案の作用効果を低下させる以外に何らの作
用効果を伴わない事項を付加した技術を用いて登録実用新案の類似品を製造、販
売、使用するときは、右の行為がいわゆる不完全利用として考案の保護の範囲を侵
害すると解すべきことは控訴人主張のとおりである。
 そして、控訴人は、本件考案の構成要件(1)のうち「基体の正面背面の内側上
方に段2を設け」る構成は右段2によつて覆蓋を支持する手段であるところ、イ号
物件は右段2を省略して、基体底部にわざわざ突出部を設けてこの部分で覆蓋を支
持する構成をとつているが、右突出部を設けることは本件考案の作用効果を低下さ
せる以外に何らの作用効果を伴わない旨主張する。しかし、原審における被控訴人
株式会社サンスイ代表者本人尋問の結果によれば、イ号物件の基体低部に突出部
(畝)を設けこれによつて覆蓋を支持することにより、(1)突出部(畝)の間を
水が流れるので水耕液が少量で足りる、(2)水耕液を間欠的に供給して覆蓋と基
体底部との間に空気層を形成させ、苗の根が直接空気から酸素を吸収することを可
能にする、(3)基体両端上縁で支持するのに比ベ苗の重量によつて覆蓋が割れる
ことを少なくする等の本件考案にはない独自の作用効果が生ずることが認められ
る。
 従つて、控訴人の不完全利用の主張はこの点において既に失当であるから採用で
きない。
四 よつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である
から、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して
主文のとおり判決する。
(裁判官 瀧川叡一 早瀬正剛 玉田勝也)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛