弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     参加人の請求をいずれも棄却する。
     参加人と控訴人との間に生じた訴訟費用は参加人の負担とする。
         事    実
 参加人訴訟代理人は「控訴人は参加人に対し金二五〇万円およびうち金一〇〇万
円に対する昭和三四年一二月二六日から、うち金一五〇万円に対する昭和三五年一
月三一日から、それぞれ支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費
用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は「参加人の請求を棄却
する。」との判決を求めた。
 各当事者の事実上の主張および証拠の関係は、左記のほかは原判決の事実摘示と
同一であるから、これを引用する。ただし、第四、立証の(二)のうち、「被告組
合は乙第一ないし第三号証」(原判決九枚目裏五行目)とあるのは「被告組合は甲
第一ないし第三号証」の、同じく「その余の乙号証の各成立」(同所八行目)とあ
るのは「その余の甲号証の各成立」の誤記と認められるから、そのように訂正す
る。
 参加人訴訟代理人は、被控訴人が本件(イ)、(ロ)の各手形を満期に支払場所
に呈示したとの点を除き、原判決事実摘示の被控訴人の主張と同一に請求の原因た
る事実上の主張ならびに控訴人の抗弁に対する答弁をなし、なお「本件(イ)の約
束手形は、被裏書人たる被控訴人が昭和三四年一〇月二〇日訴外株式会社北海道相
互銀行に裏書譲渡し、右訴外銀行において満期に支払場所に呈示したが、その支払
を拒絶されたととろ、右訴外銀行は満期後の昭和三五年一月二〇日右手形を被控訴
人に戻裏書し、被控訴人は昭和三六年一〇月二日参加人に右手形を裏書譲渡し、参
加人は現に右手形の所持人である。本件(ロ)の約束手形は被裏書人たる被控訴人
が昭和三四年一〇月二九日訴外株式会社北洋相互銀行に裏書譲渡し、右訴外銀行に
おいて満期に支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたところ、右訴外銀行は
満期後の昭和三五年二月六日右手形を被控訴人に戻裏書し、被控訴人は昭和三六年
一〇月二日参加人に右手形を裏書譲渡し、参加人は現に右手形の所持人である。本
件(ハ)の約束手形は満期当時の所持人である被控訴人において満期に支払場所に
呈示したが、その支払を拒絶されたところ、被控訴人は満期後の昭和三六年一〇月
二日右手形を参加人に裏書譲渡し、参加人は現に右手形の所持人である。なお被控
訴人は参加人会社の代表取締役であるが、右各手形の参加人への裏書譲渡について
は、取締役会の承認があつたものである。」と述べ、立証として丙第一号証の一、
二、同第二ないし第五号証を提出し、当審での参加人会社代表者A尋問の結果を援
用し、被控訴人の提出援用にかかる証拠をすべて援用し、かつ乙第一ないし第一七
号証につき被控訴人と同一にその成立の認否に関する陳述をなし、当審で提出され
た乙号各証の原本の存在および成立を認めた。
 控訴代理人は「参加人が本件(イ)(ロ)(ハ)の各約束手形を被控訴人から裏
書譲渡を受けたこと、右裏書譲渡につき参加人会社の取締役会の承認があつたこと
は認めるが、右は満期後の裏書であるから、控訴人は被控訴人に対する抗弁をもつ
て参加人に対抗し得るものである。なお控訴組合は中小企業等協同組合法にもとづ
く信用協同組合である。」と述べ、立証として新たに乙第一八号証の一、二、同第
一九号証、同第二〇号証の一ないし三、同第二一号証を提出し、当審での証人B、
C、Dの各証言および控訴人代表者E尋問の結果を援用し、丙第一号証の一、二の
成立を認める。丙第二ないし第四号証の各表面については成立を否認するが、振出
人D名下の印影が控訴人の印によるものであることは認める、裏面の各裏書部分の
成立は不知、丙第五号証の成立は不知、と述べた。
 被控訴人は控訴人の承諾を得て本訴訟から脱退した。
         理    由
 D名下の印影が控訴人の印顆により顕出されたものであるものにつき争いがな
く、その余の表面部分は原審証人Dの証言により、裏面ならびに付箋部分はその記
載の趣旨および方式から真正の成立を認め得る甲第一ないし第三号証およびこれと
同一のもので被控訴人から参加人への裏書の記載が附加されている丙第二ないし第
四号証によれば、控訴組合F営業所営業所長Dおよび訴外(一審被者)C両名の共
同振出にかかる原判決添付目録記載(イ)、(ロ)、(ハ)の約束手形三通を参加
人が所持していること、右各約束手形については、それぞれ受取人から参加人まで
参加人主張のような連続した裏書の記載があること、(イ)、(ロ)の手形につい
ては、それぞれ満期当時の所持人であつた株式会社北海道相互銀行および株式会社
北洋相互銀行から支払場所に呈示したところ、支払を拒絶されたこと、(ハ)の手
形については満期当時の所持人であつた被控訴人から株式会社富士銀行、株式会社
北海道銀行に順次取立委任裏書がなされ、被取立委任銀行から支払場所に呈示した
ところ、支払を拒絶されたこと、が認められ、右各手形の参加人への裏書は、いず
れも満期後支払拒絶証書作成期間経過後になされたものであることは当事者間に争
いがない。
 しかして昭和三四年当時、Dが控訴組合F営業所の営業所長であつたことは当時
者間に争いがないところ、本件各手形の「空知商工信用組合F営業所営業所長D」
なる振出人の表示は、控訴組合のために手形行為の代理がなされたことの表示とし
て十分である。しかしながら、原審ならびに当審での証人Dの証言および控訴組合
代表者E尋問の結果を総合すれば、営業所長たるDは控訴組合を代理して約束手形
を振出す権限を有していなかつたことが認められる。
 参加人は、本件各手形振出の当時、控訴組合のF営業所は実質的に控訴組合の支
店であり、その営業の主任者たることを示すべき名称を付した使用人たるDは商法
第四二条にいう表見支配人に当り、同人がなした本件各手形の振出行為の効果は控
訴組合に及ぶと主張するところ、本件口頭弁論の全趣旨によれば、控訴組合は中小
企業等協同組合法にもとづく信用協同組合であることが認められ、同法第四四条は
同法にもとづく組合の参事につき商法第四二条の規定を準用しているから、右主張
はDが前記法条の表見参事に当るとの<要旨>主張と解される。しかして成立に争い
のない甲第一五号証によれば、右F営業所は控訴組合の「従たる事務所」と
して登記されていることが認められるが、同法にいう「従たる事務所」とは、同法
第四四条等の法意に照らせば、商法第四二条にいう支店が、名称のいかんを問わず
支店の実質を備えることを要するのと同様、一定の範囲内において主たる事務所か
ら離れて独自に当該協同組合の事業に属する取引を決定施行し得る組織の実体を有
することを要するものと解するのが相当であつて、単に主たる事務所の指揮命令に
従い、機械的取引をするにすぎないものは従たる事務所であるということはでき
ず、右のような登記が存することから直ちに同法上の従たる事務所の実質が存する
ものとすることはできない(中小企業等協同組合法にもとづく登記は商業登記では
ないから、これにつき商法第一四条の適用がないことはもとよりである)。原審お
よび当審での証人Dの証言および控訴組合代表者E尋問の結果を総合すれば、控訴
組合は美唄市内には我路に営業所長ほか六名の事務員を配置し従たる事務所として
の実体を有するG営業所があり、F営業所には嘱託の身分である営業所長Dのほか
事務員二名が配置されているだけで本店営業部の所管に属し、主たる事務所の指揮
命令に従い美唄市字a一円における控訴組合の預金の受払事務を行なうのみで、貸
付については同営業所を経由する場合でも主たる事務所において決定施行され、什
器備品等の購入も一〇〇〇円以内のものについて営業所長に支出が認められている
にすぎないことが認められ、前記のとおり営業所長には手形振出の権限も与えられ
ていないのであるから、右認定の事実からは同営業所が同法上の「従たる事務所」
にあたると解する余地はないし、他にこの点に関する参加人の主張事実を認めるに
足りる証拠は存在しない。よつて本件各手形振出の効力が控訴組合に及ぶことを前
提として控訴人に対し手形金の支払を求める参加人の主たる請求は、爾余の点につ
いて判断するまでもなく失当である。
 次に参加人の予備的請求について判断する。
 参加人は、Dが控訴組合F営業所長として本件各手形を振出した行為は控訴組合
の事業の執行につきなされたものであり、また、昭和三四年一〇月二二日株式会社
北海道相互銀行帯広支店から本件手形の一部について信用調査があつた際、あたか
も信用があるかの如き報告をなしたことも同じく事業の執行につきなされたもので
あつて、その結果参加人は控訴組合が当然右各手形の支払をなすべきものと誤信し
て裏書譲渡を受けたものであるから、Dの使用者である控訴組合は、これによつて
参加人の蒙つた損害を賠償すべき義務があると主張する。
 控訴組合F営業所長たるDが、控訴組合を代理して約束手形を振出す権限を有し
ていなかつたにも拘わらず、訴外Cと共同して、本件各約束手形を振出したことは
前段認定のとおりであり、原審証人Dの証言およびこれにより成立を認め得る甲第
八号証を総合すると、Dは昭和三四年一〇月二二日株式会社北海道相互銀行帯広支
店長から控訴組合F営業所長あてになされた、本件(イ)の手形と同時に振出され
た約束手形に関する信用調査に対し、手形決済の見込懸念なしとする回答を同営業
所名義をもつてなしたことが認められる。
 しかしながら前掲甲第一ないし第三号証(丙第二ないし第四号証)、同甲第八号
証、各その成立に争いのない乙第二号証、乙第一五号証、乙第一八号証の一、二、
乙第一九号証、乙第二〇号証の二、乙第二一号証、原審証人Dの証言により各その
成立を認め得る甲第四号証、甲第一二号証の一、二、乙第一号証、乙第三号証、乙
第一一、第一二号証、乙第一七号証、原審証人Hの証言(第二回)により成立を認
め得る乙第一三号証、原審証人Bの証言により成立を認め得る乙第四号証、同乙第
一四号証、原審証人H(第一、二回)、原審ならびに当審証人B、Dの各証言、C
の原審における被告本人としての供述および当審における証人としての証言(ただ
し証人Hの証言については後記採用しない部分を除く。)を総合すると、次の各事
実を認めることができる。
 (一) 昭和三四年一〇月中旬頃訴外HはBを介して訴外(一審被告)Cに対
し、帯広財務局からb町所在の山林立木約二万七〇〇〇石を代金二五〇万円で払下
げを受けられることになつているが、右立木は同財務局に払下代金を納入すれば同
月二六日までに確実に引渡しを受けられるから、Cが資金を作つてくれるなら共同
の事業としてこれを買い受け造材して利益を得ようと申し向けたところ、Cはかね
てより親密の間柄であるDに依頼すれば控訴組合の手形保証が得られるから、その
手形の割引を得て資金に充てることができるとしてこれに応じた。
 (二) そこで同月二〇日右HおよびBは右取引のためCの住所地である美唄市
峰延に赴いたが、脱退被控訴人A(参加人会社代表取締役)はHの義弟にあたり、
かねて同業者として木材の取引もあつて懇意の関係にあり(本件手形振出の直後H
が設立した有限会社内田木材の取締役に就任)かつ右払下木材の製材を引き受ける
関係もあつたのでHと同行した。そして右三名はCと共に控訴組合F営業所を訪ね
たところ、Dは右営業所の近くの料理店峰月に同人らを案内して応待した。同所に
おいてHは、前記帯広財務局からの立木の払下げが確実なものであり、とれによつ
て相当の利益を挙げ得る理由を説明したうえ、Cと共にDに対し、右払下げを受け
るための資金を得る必要上、控訴組合のF営業所長名義をもつて約束手形を振出し
てくれるよう要求し、Dが営業所長として手形を振出す権限がなく、左様なことを
して知れたら自分が大変なことになるからできないとして拒絶したのに対し、その
手形は右立木払下げによる利益をもつて期日に必ずHおよびCにおいて決済し、控
訴組合には決して迷惑をかけないと述べて遂にこれを承諾させた。
 (三) かくて即日同所において、有限会社内田木材社長Hを売主、Cを買主と
し、目的物は前掲帯広財務局所有の立木二万七〇〇〇石、代金二五〇万円、受渡期
限同月二六日とする売買契約書が作成され(Dは立会人としてこれに署名押印し
た。)、CおよびDは本件(イ)の約束手形およびこれとは別に各金額一〇〇万
円、受取人内田木材、その他の手形要件は支払期日を除き(イ)と同じの、手形番
号五二号(支払期日昭和三五年二月一五日)、同五三号(支払期日昭和三五年一月
二〇日)の約束手形二通、額面合計三〇〇万円を振出してHに交付した。その際、
右手形の割引によりHが金融を得た場合、売買代金を超過する五〇万円はHからC
に交付し、Cにおいて使用し得る旨の約定がなされた。なおAは料理店峰月におけ
る右売買契約および手形振出の交渉に終始同席していた。
 (四) Hは右五二号と五三号の約束手形を株式会社北海道相互銀行帯広支店に
持参して割引を求めたところ、五二号の手形は支払期日が長期のため割引困難であ
るとして返戻され、五三号の手形については信用調査のうえ確実なものであるなら
割引に応ずるが、現金は差当り五〇万円のみしか交付できないということであつた
(そして同銀行は右五三号の手形につき前認定のとおり控訴組合F営業所に信用調
査の照会をなし、懸念なしとの回答を得たので割引に応ずることとした)。そこで
HはDに電話して、払下を受ける山林の面積が増大して代金の額が五〇万円増えた
から、前同様の額面五〇万円の約束手形を別に振出して貰いたいと申し入れ、同月
二六日前記Bを使者としてDのもとに赴かしめ、前に振出して貰つた五二号の約束
手形は支払期日が長期にわたり銀行の割引が困難であるから支払期日を昭和三四年
一月二〇日頃に書き替えて貰いたいと要求した。かくてDはこれに応じ右五二号の
手形の返戻を受けるとともに本件(ロ)、(ハ)の各約束手形を振出し(Cの関係
部分は署名代理により、その名下の印はCから預かつていた同人の印を押捺し
た)、Bを通じてHに交付した。
 (五) 本件(イ)の手形は同年一〇月二六日有限会社H木材社長Hから被控訴
人Aに裏書譲渡され、同日Aにおいて株式会社北海道相互銀行帯広支店に裏書して
割引を受け、本件(ロ)の手形は同月二九日Hから被控訴人Aに裏書譲渡され、同
日Aにおいて株式会社北洋相互銀行帯広支店に裏書して割引を受け、本件(ハ)の
手形は同月二六日HからA木材有限会社取締役社長Aに裏書譲渡された。
 以上の各事実が認められ、原審証人Hの証言及びAの原審における被控訴本人と
しての、当番における参加人本人としての各供述中、右認定に反する部分は採用で
きず、他に右認定を左右すべき証拠はない。
 右認定の事実によれば、Dが控訴組合のF営業所所長として本件各手形に振出人
としての署名をしたこと及び銀行からの信用調査に対し懸念なしとの回答をしたこ
とは、本来手形振出の権限がないにも拘わらず、権限にもとづいて正当に振出され
たものであるような外形を作出し、受取人たるHに控訴組合の信用を利用して右手
形の割引による金融を得させる目的で、Hと意思を通じ控訴組合の代理人資格を冒
用してなしたものであるというべく、このこと及びDにはそもそも控訴組合を代理
して約束手形を振出す権限のなかつたことは、右手形振出の際終始同席していたA
においても十分に承知していたものといわなければならない。参加人会社はAから
本件各手形の裏書譲渡を受けたものであるが、同人は参加人会社の代表取締役であ
るばかりでなく右裏書譲渡は期限後しかも本訴提起後になされたものであるから、
参加人会社もまた前記事実を知つて本件手形を取得したものというを妨げない。
 そうだとすればDのなした本件各手形の振出行為及び信用調査に対する回答が外
形上金融機関である控訴会社の事業の執行につきなされたものと認められるにして
も、民法第七一五条は上記認定のように被用者の権限外の行為であることにつき悪
意の第三者までも保護する趣旨と解することはできず本件各手形の裏書譲渡を受け
たことによつて参加人が損害を被つたとしても、それは自ら招いた損害であるとい
うべく、民法第七一五条に基いて控訴組合に対し不法行為による損害賠償を求め得
べきものではないから、参加人の予備的請求も結局理由がない。
 よつて参加人の各請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき
民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 田中恒朗 裁判官 島田礼介)

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