弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人の本件訴えを却下する。
     訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人香川保一、同斉藤健、同伴喬之輔、同鎌田泰輝、同上野至、同東光宏
の上告理由第一について。
 論旨は、要するに、国民健康保険の保険者は、自己のした保険給付等に関する処
分が国民健康保険審査会(以下、審査会という。)の裁決によつて取り消された場
合でも、審査会を被告としてその裁決の取消しを求める訴訟を提起することはでき
ないと解すべきであるのに、これと反対の見解に立つて本訴を適法と認めた原判決
には、行政不服審査制度の建前に反し、国民健康保険事業の法的性格を誤解した違
法がある、というのである。
 よつて按ずるに、国民健康保険法(以下、法という。)は、市町村(特別区を含
む。以下同じ。)又は法の規定に従つて設立された国民健康保険組合を国民健康保
険の保険者と定め(三条)、保険者のした保険給付に関する処分(被保険者証の交
付の請求に関する処分を含む。)又は保険料その他法の規定による徴収金に関する
処分(以下、これらの処分を一括して保険給付等に関する処分という。)に不服が
ある者は、審査会に審査請求をすることができ(九一条)、更に、審査会の裁決を
経たうえでその処分の取消訴訟を提起することができるものと定めている(一〇三
条)。これによれば、国民健康保険の保険者たる市町村又は国民健康保険組合は、
保険給付等に関する処分を行なう関係では、行政庁として規定されているものとい
うことができるが、他面、これらの保険者は、いずれも独立の法人であつて(市町
村につき地方自治法二条一項、国民健康保険組合につき法一四条)、保険事業を経
営する権利義務の主体たる地位を有するのであるから、みずからのした保険給付等
に関する処分が審査会の裁決によつて取り消されるときは、右の事業経営主体とし
ての権利義務に影響を受けることとなるのを避けられない。しかし、そのことから
直ちに、審査会の裁決によつて不利益を受ける保険者は、一般の事業主体と同様に、
訴訟によつてその裁決を争うことができると解するのは早計であつて、このことが
認められるかどうかは、国民健康保険事業の性格に照らし、その運営について法が
いかなる建前を採用しているかを検討したうえで決しなければならない。
 思うに、国民健康保険事業は、国の社会保障制度の一環をなすものであり、本来、
国の責務に属する行政事務であつて、市町村又は国民健康保険組合が保険者として
その事業を経営するのは、この国の事務を法の規定に基づいて遂行しているものと
解される。法が、市町村に国民健康保険事業の実施を義務づけ(三条一項)、国は
国民健康保険事業の運営が健全に行なわれるようにつとめなければならないものと
し(四条一項)、都道府県には右事業の健全な運営についての指導責任を負わせ(
同条二項)、更に、国又は国の機関としての都道府県知事に保険者の業務に対する
強力な監督権を認める(一〇八条、一〇九条等)、とともに、国民健康保険事業に
要する費用につき国庫補助を規定し(六九条ないし七四条)、保険者の行なう滞納
保険料等の徴収については強制徴収の権能を認め(七九条の二、八〇条)、また、
前記のように、保険給付等に関する保険者の措置を行政処分と構成してその効力の
早期安定を期していることなどは、国民健康保険事業の右のような性格を示すもの
にほかならない。そうであるとすれば、現行法上、国民健康保険事業は市町村又は
国民健康保険組合を保険者とするいわゆる保険方式によつて運営されているとはい
え、その事業主体としての保険者の地位を通常の私保険における保険者の地位と同
視して、事業経営による経済的利益を目的とするもの、あるいはそのような経済的
関係について固有の利害を有するものとみるのは相当でなく、もつぱら、法の命ず
るところにより、国の事務である国民健康保険事業の実施という行政作用を担当す
る行政主体としての地位に立つものと認めるのが、制度の趣旨に合致するというべ
きである。
 また、審査会は、保険者のした保険給付等に関する処分に対する不服申立を審査
するために、都道府県知事の附属機関として各都道府県に設置されるもので(法九
二条、地方自治法一三八条の四第三項、同法別表第七の一参照)、形式上は保険者
たる市町村とは別個の行政主体に属し、その構成も被保険者、保険者及び公益の三
者の代表より成る合議制の機関である(法九三条一項)。法が保険者の処分につい
てこのような審査会を審査機関としたのは、保険者の保険給付等に関する処分の適
正を確保する目的をもつて、行政監督的見地から瑕疵ある処分を是正するため、国
民健康保険事業の実施という国の行政活動の一環として審査手続を設けることとし、
その審査を右事業の運営について指導監督の立場にある都道府県に委ねるとともに、
その審査の目的をいつそう適切公正に達成するため、都道府県に右のような特殊な
構成をもつ第三者的機関を設置して審査に当たらせることとしたものであつて、審
査会自体が保険者に対し一般的な指揮命令権を有しないからといつて、その審査手
続が通常の行政的監督作用たる行政不服審査としての性質を失い、あたかも本来の
行政作用の系列を離れた独立の機関が保険者とその処分の相手方との間の法律関係
に関する争いを裁断するいわゆる行政審判のごとき性質をもつものとはとうてい解
されないのである。法が審査会における審査手続について行政不服審査法をそのま
ま適用することとしている(法一〇二条)のも、右の趣旨に出たものと考えられる。
 以上のような国民健康保険事業の運営に関する法の建前と審査会による審査の性
質から考えれば、保険者のした保険給付等に関する処分の審査に関するかぎり、審
査会と保険者とは、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合
と同様の関係に立ち、右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認めら
れ、保険者はこれによつて拘束されるべきことが制度上予定されているものとみる
べきであつて、その裁決により保険者の事業主体としての権利義務に影響が及ぶこ
とを理由として保険者が右裁決を争うことは、法の認めていないところであるとい
わざるをえない。このように解しても、保険者の前記のような特別な地位にかんが
みるならば、保険者の裁判を受ける権利を侵害したことにならないことはいうまで
もなく、もしこれに反して、審査会の裁決に対する保険者からの出訴を認めるとき
は、審査会なる第三者機関を設けて処分の相手方の権利救済をより十分ならしめよ
うとしたことが、かえつて通常の行政不服審査の場合よりも権利救済を遅延させる
結果をもたらし、制度の目的が没却されることになりかねないのである。以上の理
由により、国民健康保険の保険者は、保険給付等に関する保険者の処分について審
査会のした裁決につき、その取消訴訟を提起する適格を有しないものと解するのが
相当である。
 ところで、本訴は、国民健康保険の保険者である被上告人市がJから被保険者証
の交付を請求されたのに対し、住所要件を欠くことを理由にこれを拒否したところ、
同人からの審査請求に基づき、上告人審査会が右処分を取り消して同人を被上告人
市の被保険者とする旨の裁決をしたので、これを不服とする被上告人市が上告人審
査会を被告として右裁決の取消しを求めるものであり、第一審及び原審は、この訴
えについて被上告人市の請求を認容する本案の判決をしていることが明らかである。
しかし、かかる訴えが許されないことは上記のとおりであつて、これを適法と認め
た第一審及び原審の判断は誤りというほかなく、論旨は理由がある。
 よつて、その余の上告理由に対する判断を省略して原判決を破棄し、第一審判決
を取り消したうえ、本件訴えを却下することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法四
〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛