弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩本幹生の上告理由について
 原審の適法に確定した事実関係は、(一) 被上告会社は、昭和五〇年二月一日、
D産業株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、大要次のような根譲渡担
保権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結した、(1) 訴外会社は、被上
告会社に対して負担する現在及び将来の商品代金、手形金、損害金、前受金その他
一切の債務を極度額二〇億円の限度で担保するため、原判示の訴外会社の第一ない
し第四倉庫内及び同敷地・ヤード内を保管場所とし、現にこの保管場所内に存在す
る普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品の所有権を内外ともに被上告会社に移転し、
占有改定の方法によつて被上告会社にその引渡を完了したものとする、(2) 訴外
会社は、将来右物件と同種又は類似の物件を製造又は取得したときには、原則とし
てそのすべてを前記保管場所に搬入するものとし、右物件も当然に譲渡担保の目的
となることを予め承諾する、(二) 被上告会社は訴外会社に対し、普通棒鋼、異形
榛鋼、普通鋼々材等を継続して売り渡し、昭和五四年一一月三〇日現在で三〇億一
七八七万〇三一一円の売掛代金債権を取得するに至つた、(三) 訴外会社は、上告
会社から第一審判決別紙物件目録記載の異形棒鋼(以下「本件物件」という。)を
買い受け、これを前記保管場所に搬入した、(四) 本件物件の価額は五八五万四五
九〇円である、(五) 上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有してい
ると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特
権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)
第三二六五号)をした、というのである。
 ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量
的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の
集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当
裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五
日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間
に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその
構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその
占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在
する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保
権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の
効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれな
い限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解
すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の
目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産について
も引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右
先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三
三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許
を求めることができるものというべきである。
 これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構
成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範
囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外
会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのである
から、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として
効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の
占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する
旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、
被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと
解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右
集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に
欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつ
て第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件に
ついても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべ
きであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、
他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社
は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会
社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものという
べきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難す
るものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   島       敦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫

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