弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成15年5月28日宣告
平成14年(わ)第379号 殺人被告事件
              主       文
被告人を懲役11年に処する。
未決勾留日数中320日をその刑に算入する。
              理       由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,平成11年3月に大学を卒業した後,しばらく就職できずにいたと
ころ,叔父の紹介により,
平成13年11月19日,同人の勤務先会社の取引先であり,かつ被告人の父と
高等学校の同級生であった
Aが理事長を務める社会福祉法人Bにパソコンを扱える事務員として就職し,以
後,千葉市a区b町c番地
d所在の軽費老人ホーム「B」(以下,単に「B」という。)で勤務するように
なった。
 ところが,被告人は,当初は黙々とパソコンに向かって前向きの姿勢で勤務し
ていたものの,間もなく,
Aがコンピュータの知識に乏しく,パソコンを使った事務に関し,被告人に対し
毎日のようにあいまいなあ
るいは実行不可能な内容の指示をするとしてAに対し強い不満を抱くようにな
り,そのほかにも,同人が,
入所者の居室のストーブが老朽化により故障したため買い換えた方がよい旨職員
から進言を受けたにもかか
わらず,修理すれば足りると言ってこれを聞き入れようとせず,職員が入所者を
引率して買い物に行った際
入所者が万引きをしたことから,その防止策について職員から相談を受けたにも
かかわらず,何ら対処しよ
うとせず,宿直勤務中に入所者の具合が悪くなった場合の対応に関するマニュア
ルを作成することなく,宿
直勤務者にその際の判断を委ねるとともに,宿直勤務者を複数人に増員しようと
もせず,千葉市からの助成
金を不正に取得するため,施設の入所人員を水増しした報告書を市に提出するよ
うに職員に指示し,その一
方で,勤務時間中に外出し,飲酒して夕方戻ることが度々あったなどとして,A
を職員や入所者に対する思
いやりを欠いた身勝手な人間であると思い込み,Aに対する不信感や憎悪の念を
急速に強め,平成14年1
月15日ころにはもはや同人の下では働きたくないと思う一方,ようやく被告人
が就職できて喜んでいる両
親の手前,2か月もたたないうちに辞めるわけにはいかないと思い悩み,いっそ
Aが死んでくれたらと思う
こともあった。
 そのような折,同月19日ころ,Aから料理屋まで自動車で送迎させられたこ
とから,私用で職員を使っ
たとしてAの考えに強い憤りを覚え,さらに,同月20日午前1時過ぎころBで
ぼやが発生したため自宅か
ら呼び出された際,Aが,職員らが奔走しているのに十分な指示をしないまま早
々に帰宅したとして,Aが
職員や入所者のことを考えずに無責任な対応をしていると感じて憤激し,遂に
は,自分がBを辞めるかAを
殺害するか,そのいずれかしかないと考えるに至り,同月24日ころから,確実
にAを殺害でき,しかも犯
人が被告人であることが発覚しない方法はないかなどと殺害方法等について考え
を巡らすうち,Aが宿直勤
務の際,宿直室で飲酒して一人で眠っているところを襲い,包丁で頸部を突き刺
して殺害した上,犯跡隠ぺ
いとアリバイ作りのため,時限発火装置を使用して死体を焼きすればよいと確信
し,犯行に使用する柳刃包
丁,指紋を残さないようにするための手袋,時限発火装置に使用するろうそくや
タッパーウェア等を購入し
た上,同月29日ころ,Aの宿直予定日であり,その日の夕方から友人とゲーム
センターで遊ぶ約束をして
いたことからアリバイの立証が可能である同年2月2日の夜にAの殺害を実行し
ようと決意した。
 そして,被告人は,同月2日夕方から,上記友人とゲームセンターで遊興し,
レストランで食事をした
後,同日午後8時ころ,友人と別れて自己の乗用車でBに向かい,その付近で同
車を停止させ,Bの宿直室
の明かりが消えており,Aが既に就寝中であることを確認した上,柳刃包丁を携
帯して,同日午後9時30
分ころ,同宿直室に入った。
(罪となるべき事実)
 被告人は,自己の勤務する社会福祉法人Bの理事長であるA(当時66歳)が
コンピュータの知識に乏し
く,被告人の主たる職務であるパソコンを使った事務に関し,被告人に対し,毎
日のようにあいまいなある
いは実行不可能な内容の指示をするとしてAに強い不満を抱くとともに,同人の
職員や入所者に対する対応
等が思いやりを欠いた身勝手で無責任なものであると思い込み,Aに対し不信感
や憎悪の念を募らせた挙げ
句,同人を殺害しようと企て,平成14年2月2日午後9時30分ころ,千葉市
a区b町c番地d所在の軽
費老人ホーム「B」宿直室において,就寝中の同人に対し,所携の柳刃包丁で,
その頸部,頭部等を多数回
突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を頸部刺創により失血死させ
て殺害したものである。
(証拠の標目)
 省略
(法令の適用)
 省略
(量刑の理由)
 本件は,軽費老人ホームに勤務していた被告人が,その経営母体である社会福
祉法人の理事長(当時66
歳の男性。以下「被害者」という。)を殺害したという事案である。
 被告人は,判示の経緯により,自己の主たる職務であるパソコンを使った事務
に関し,コンピュータの知
識に乏しい被害者が被告人に対し毎日のようにあいまいなあるいは実行不可能な
指示をするとして被害者に
強い不満を抱くとともに,同人の職員や入所者に対する対応等が職員や入所者に
対する思いやりを欠いた身
勝手で無責任なものであると思い込み,被害者に対する不信感や憎悪の念を募ら
せた挙げ句,周囲の者に悩
みを相談することもなく,自分が仕事を辞めるか被害者を殺害するか二つに一つ
しかないという考えに陥
り,両親の手前仕事を辞めるわけにはいかないと考えて本件犯行を敢行したもの
であるところ,被害者はい
わゆるワンマン経営者であり,職員がときに被害者に対する不満を漏らすことは
あったものの,高等学校の
同級生の子である被告人に対しては気遣いながら接していた上,熱意を持って上
記老人ホームの経営に携わ
っていたもので,被害者を尊敬していた職員がいることに照らしても,被害者の
職員や入所者に対する対応
等が老人ホームの経営者としての適格性を欠くようなものであったなどとは到底
いえず,まして,それが被
害者の殺害に結び付くほどのものであったといえないことは明白である。パソコ
ンを使った事務に関する指
示の件については,果たして被告人においてコンピュータの知識に乏しい被害者
に十分な説明をしたかどう
か疑問があり,被告人が被害者に対する不満を持ったその余の件は,主として,
立場の違い,人生経験の違
い等による一般的な考え方の相違に基づくものと思われる上,被告人は,人の生
命と両親への気遣いを天秤
に掛け,後者を優先させるというおよそ常識とはかけ離れた選択をしたのであっ
て,本件は,問題場面に直
面したときに責任を他人に押し付けて自らその解決に努力しようとせず,感受性
や共感性あるいは社会性に
乏しい上,思考の柔軟性を欠くなどといった被告人の性格特性や思考傾向,更に
はその社会経験の乏しさが
色濃く反映した誠に独善的かつ短絡的な犯行であり,その動機に酌量の余地は全
くない。
 また,被告人は,本件犯行を企図した後,殺害場所や殺害方法のほか,犯跡隠
ぺい手段,アリバイ等につ
いても事前に検討した上,友人と遊びに行く約束がありアリバイを主張しやすい
上,被害者の宿直予定日で
もある本件犯行日に,被害者が一人で就寝中に包丁で刺殺し,時限発火装置によ
り犯行現場に放火して犯跡
を隠ぺいすることとし,あらかじめ殺害に使用する柳刃包丁,指紋を残さないよ
うにするための手袋,時限
発火装置に使用するろうそくやタッパーウェア等を購入して本件犯行に及んだも
ので,計画内容にやや現実
感に乏しい面はあるものの,被告人なりに細かく計画した上で敢行しており,そ
の意味で本件は周到に計画
された犯行であるということができる。しかも,犯行当夜は,そのような重大な
犯罪をまさに実行しようと
していることなど全く表情や態度に出すことなく,夕刻から友人とゲームセンタ
ーで遊興し,食事を共にし
た後犯行現場に向かうなど,平然と計画を遂行しており,そこにも被告人の感受
性や共感性の乏しさがうか
がわれる。
 犯行態様は,被害者が寝入ったのを確認した上,鋭利な柳刃包丁を携帯して宿
直室に至り,就寝中で無防
備な被害者の頸部を同包丁で一気に突き刺し,さらに,起き上がった被害者の頸
部,頭部,顔面及び背部を
被害者が身動きしなくなるまで多数回にわたって突き刺すなどして,その場で失
血死させたというもので,
被害者の負った刺切創等は上記部位に大小二十数個に及ぶなど,本件犯行は,誠
に凶悪なものであり,被害
者の尊い一命を奪った結果が極めて重大であることはいうまでもない。
 加えて,被告人は,被害者を殺害した後,結果的には発火せず失敗したもの
の,当初の計画に従って,灯
油やろうそくを使用した時限発火装置を作って設置した上,犯行に供した用具を
殊更に別々の場所に投棄す
るなどといった犯跡隠ぺい工作に及び,さらに,犯行の際包丁で右手小指に負っ
た傷について帰宅後家族に
対し自動車のドアに挟んだ旨弁解し,その不自然さを叔父に追及されるや,外国
人風の男数名に脅されて被
害者を殺害する手引きをし,その際包丁を握らされてけがをした旨虚構の説明を
するなど,犯行後の情状も
極めて悪質である。
 被害者は,66歳と高齢ではあったものの,本件老人ホームのほかにも複数の
社会福祉施設を手掛け,今
後も事業を拡大させる計画をするなど充実した活動を続けていた上,平成14年
3月には建築家としての研
究成果が認められて工学博士の学位を授与されることとなっていた矢先に,突如
高等学校の同級生の子とし
て気を遣っていた被告人に惨殺されたもので,その無念さは筆舌に尽くし難く,
被害者の妻ら遺族の深い心
痛と悲嘆の念は察するに余りあり,被告人に対して極刑を望む遺族の心情は十分
理解できる。
 以上の諸点にかんがみると,被告人の刑事責任は誠に重大である。
 そうすると,被告人が反省・悔悟していること,前科前歴がなく,若年である
こと,被告人の父が被害者
の遺族に対し見舞金として300万円を支払ったことなど被告人のため酌むべき
諸情状を十分考慮しても,
被告人に対し主文掲記の刑を科すのはやむを得ない。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役15年)
平成15年5月28日
千葉地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官   金   谷       暁
   裁判官   土   屋   靖   之
   裁判官   齊   藤   貴   一

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