弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
原告
一 本位的請求として、
原告が被告に対し、昭和三八年一二月三日付雇用契約に基づく職員たる地位にある
ことを確認する。
二 第一次予備的請求として、
原告が被告に対し、昭和三九年七月一日付雇用契約に基づく職員たる地位にあるこ
とを確認する。
三 第二次予備的請求として、
原告が被告に対し、昭和三九年八月二〇日付雇用契約に基づく職員たる地位にある
ことを確認する。
四 第三次予備的請求として、
原告が被告に対し、昭和四三年四月一日付雇用契約に基づく職員たる地位にあるこ
とを確認する。
被告
主文同旨。
第二 当事者の主張
(すべての請求について共通の原因)
東京国税局長は、昭和三八年一二月三日以降昭和四三年六月二七日までの間、国税
庁長官から、東京国税局および同局管内の各税務署に勤務する、用務員たる一般職
々員を含む一定範囲の職員に対する任命権を委任されていた。
(本位的請求の原因)
原告は昭和三八年一二月三日被告(東京国税局長代行江東税務署長)との間の雇用
契約により、江東税務署の用務員として、すなわち被告の一般職の職員として採用
された。しかるに被告は、原告が右契約に基づく職員たる地位にあることを争つて
いる。
(第一次予備的請求の原因)
原告は昭和三九年七月一日被告(東京国税局長代行江東西税務署長)との間の雇用
契約により、江東西税務署の用務員として、すなわち被告の一般職の職員として採
用された。しかるに被告は、原告が右契約に基づく職員たる地位にあることを争つ
ている。
(第二次予備的請求の原因)
原告は昭和三九年八月二〇日被告(東京国税局長)との間の雇用契約により、江東
西税務署の用務員として、すなわち被告の一般職の職員として採用された。しかる
に被告は、原告が右契約に基づく職員たる地位にあることを争つている。
(第三次予備的請求の原因)
原告は昭和四三年四月一日被告(東京国税局長代行江東西税務署長)との間の雇用
契約により、江東西税務署の用務員として、すなわち被告の一般職の職員として採
用された。しかるに被告は、原告が右契約に基づく職員たる地位にあることを争つ
ている。
(すべての請求原因に対する答弁)
全部認める。
(抗弁)
一 任期満了による退職その一
(一) 原告は非常勤の用務員として任用されたものである。右任用は、任期を一
日とし、任命権者が別段の意思表示をしない限り、任用が日々更新される期間とし
ての任用予定期間(以下において、任用予定期間というときは上述のような意味で
用いる。)を昭和三八年一二月二八日までとして、いわゆる日々雇用の形態で行な
われたものである。したがつて原告は、右任用予定期間の末日の任期満了により当
然退職したものである(但し本位的請求原因のみに対する抗弁)。
(二) 前記任期の定めは有効である。
非常勤の一般職々員を、その任期を一日に限つて任用すること、すなわち日々雇用
することは、国家公務員法(以下、国公法と略称)にこのような任用を禁止した規
定が存在しないこと、同法第六〇条の臨時的任用の規定は、同法が常勤官職に職員
を任用する場合は期限の定めのない任用をもつて建前とする関係上常勤職員の任用
の場合であつても特に必要がある場合には例外的に期限付任用を容認する趣旨を明
らかにしたものであつて、同条の存在をもつて、同法が日々雇用の非常勤職員の任
用を禁止しているものと解することはできないこと、同法附則第一三条、人事院規
則八-一四非常勤職員等の任用に関する特例第一条、人事院規則八-一二職員の任
免第七四条第一項第三号、第二項の各規定は、日々雇用の非常勤職員の存在を前提
としたものと解されること等に鑑みると、それは同法上当然に許されているものと
解すべきである。なお、日々雇用の非常勤職員が、国公法上の身分保障を奪われる
ことになるものではない。けだし国公法および人事院規則の身分保障に関する規定
の適用については、常勤職員と日々雇用の非常勤職員とでなんら区別はなく、唯日
々雇用の非常勤職員についてはその雇用形態に由来する当然の帰結として、身分保
障が日々の任期の範囲内にとどまるに過ぎないからである。
(二) 仮に前項の主張が採り得ないものとしても、原告の任用については、次に
述べるような事情があつたから、前記任期の定めは、有効である。
江東税島署は東京都江東区<以下略>に所在したが、同署の庁舎は、昭和二三年八
月ごろに建築したものであるため老朽化した。それで来署納税者に好感を与えると
共に部内職員の能率向上を図るため近代的な鉄筋コンクリート四階建の新庁舎を同
区<以下略>に建築することになり、昭和三九年一月から新庁舎の建築工事に着手
した。加えて、当時同署が従来取扱つていた税務事務は、管内の納税者の増加に伴
つて膨大な量となり、一署において処理することが困難となつたので、昭和三九年
七月一日同署を東と西の二者に分割することになつた。ところで同署の用務員は常
勤の行政職俸給表(二)の適用を受ける一般職々員であるAとBの二名であつた
が、右庁舎の新築に伴う移転および署の分割に備えて、漸次書類備品等を大量に整
理することもあつて、用務員の清掃、雑役の業務量が急激に増大した。そこで江東
税務署長は、新庁舎完成の暁はその清掃業務を専門業者に委託する予定であつた
が、それまでの間、臨時的に用務員一名を非常勤職員として任用し、常勤の用務員
の右業務を補助させることにした。江東税務署長は、右用務員の任用が一時的なも
のであることから、何時でも退職し得るようその任用については、求職者の年令、
家庭の状況等を考慮することにし、亀戸職業安定所長に用務員の募集を依頼し、同
安定所から原告を含め三名を紹介されたが、面接の結果、当時年令五四才で他の家
族の収入もある原告を採用することとし、原告に対し、前述のとおり新庁舎の清掃
業務を業者に委託するまでの間臨時的に任用するものであることを話し、原告もこ
れを了承したので原告を非常勤の用務員として日々雇用の形態で任用したものであ
る。
二 任期満了による退職その二
(一) 被告は昭和三九年一月以降も、原告を、左記のとおり前後一六回にわた
り、その都度一定の任用予定期間を定めて、日々雇用の非常勤の用務員として断続
的に任用した(以下、左記の各任用は頭書の番号をもつて特定し、これによつて呼
称するものとする。)。

番号   任用年月日     任用予定期間末日
1  昭和三九年一月四日    同年二月 一日
2     同年二月三日    同年同月二九日
3  同   年三月 二日   同年   同月二八日
4  同   年四月 一日   同年   同月二五日
5  同   年四月二七日   同年   五月二三日
6  同   年五月二五日   同年   六月二〇日
7  同   年六月二二日   同年   同月三〇日
8  同   年七月 一日   同年   同月二五日
9  同   年七月二七日   同年   八月一九日
10 同   年八月二〇日   昭和四〇年三月二九日
11 昭和四〇年四月 一日   同年   六月三〇日
12 同   年七月 一日   昭和四一年三月二八日
13 昭和四一年四月 一日   同年   六月三〇日
14 同   年七月 一日   昭和四二年三月二八日
15 昭和四二年四月 一日   昭和四三年三月二八日
16 昭和四三年四月 一日   同年   六月二七日
〔備考〕
右1ないし7の任用は、東京国税局長代行江東税務署長、8、9および16の任用
は東京国税局長代行江東西税務署長、10ないし15の任用は東京国税局長がこれ
を行なつたものである。
(二) 右によつて明らかのとおり、原告は昭和三九年一月以降右任用予定期間の
末日の任期満了によつて当然退職し、その数日後に再び任用されるという経過が昭
和四三年四月まで繰り返され、同年六月二七日に最終的に退職した。なお、被告
(江東西税務署長)は、同年五月二三日原告に対し、同年六月二七日限り原告を任
用しない旨を告げて退職の予告をし、次いで同年六月二七日原告に対し同日限り任
用しない旨を通告したものである(以下前記各任用において定められた任用予定期
間の末日の任期満了による退職を、当該任用を特定する番号と同じ番号で特定し、
これによつて呼称するものとする。)。
以上に述べた退職の後の任用は、いずれも退職前の任用を継続したものではなく、
別個独立の手続により、新規になされたものであるが、万一裁判所によつてこの主
張が容れられず、退職後の任用は退職前の任用を継続したものと認められる場合に
備えて、被告は原告の前述の一連の退職の事実をすべて雇用関係終了の抗弁として
主張する(但し1ないし7の退職の主張は本位的請求原因のみに対する抗弁、8お
よび9の退職の主張は本位的および第一次予備的請求原因のみに対する抗弁であ
り、8のそれは第一次予備的請求原因に対しては本位的抗弁、10ないし15の退
職の主張は本位的、第一次予備的および第二次予備的請求原因のみに対する抗弁で
あり、10のそれは第二次予備的請求原因に対しては本位的抗弁、16の退職の主
張はすべての請求原因に対する抗弁であり、第三次予備的請求原因に対しては本位
的抗弁)。
(三) 非常勤の一般職の職員を日々雇用の形態で任用することが国公法上許され
るものであることは、既に述べたとおりであるから、前記1ないし16の各任用に
おける任期の定めはいずれも有効なものである。
(四) 仮に前項の主張が採り得ないものとしても、被告が原告を前述のように断
続的に任用するについては、次に述べるような事情があつたから、前記各任用にお
ける任期の定めは有効である。
江東税務署は、昭和三九年七月一日江東東税務署と江東西税務署に分割された。原
告はそれ以降は江東西税務署の用務員として任用されたのであるが、同署の用務員
としては、原告のほかに従来江東税務署に勤務していた常勤の一般職々員である前
記のAが配置された。同年一一月二五日新庁舎が完成し、同年一二月三日に同庁舎
の一、二階に江東西税務署、三、四階に江東東税務署がそれぞれ移転した。右移転
後の新庁舎の清掃は、そのうち窓ガラスおよび床面のワツクス清掃だけは専門業者
に委託され、毎日の清掃は用務員によつて行なわれることになり、江東西税務署で
は前記Aと原告がこれを行なうことになつた。ところが昭和四〇年九月ごろ同庁舎
南側隣地に生コンクリートを製造することを業とする東協生コン株式会社の深川工
場が完成し、完成と同時に操業を開始したが、生コンクリートを製造する過程にお
いて飛散するセメント粉末が大量に庁舎に飛来し、庁舎の机上や床の隅々までセメ
ント粉末の塵埃が蓄積し、近時操業が激しくなるに従つてその量も多大となつたの
で、到底原告ら二名の用務員をもつてしては充分な清掃が行なえない状態となつ
た。一般に近代化されたビル庁舎の清掃は、清掃機具あるいは化学薬品等の使用を
必要とし、従来の用務員による清掃方法では果たし得ないものがあり、専門の業者
に委託して行なわなければ庁舎の適切な維持管理に万全を期することはできないの
である。また、行政機関は行政事務を執行するに当たり、最少の経費をもつて最大
の効果を挙げるような措置を講ずることが国民に対する責務であり、この経費の面
からも庁舎の清掃を専門業者に委託するのが合理的である。江東東および西税務署
は、当初から完成後の新庁舎の清掃は専門の業者に委託する方針であつたが、前述
のとおり隣地工場のセメント粉末の飛来による庁舎の汚れも甚しくなつたので、昭
和四三年七月一日から専門の業者に庁舎の清掃を委託することを決定した。それで
用務員の従来の主な仕事であつた毎日の事務室、廊下、階段、便所、洗面所の掃除
ぽ、右業者によつて行なわれることになり、右以外の業務は用務員一名で充分行な
うことができることになつたので江東西税務署としては、常勤用務員であつたAを
そのまゝ用務員として残し、原告は不要となつたので当初任用時の事情や年令等を
も考慮して同年六月二七日限り任用しないことにしたのである。
三 任意退職
(一) 原告は昭和四〇年三月二九日被告から退職手当の支給を受けて任意退職し
た。仮にしからずとしても昭和四一年三月二八日被告から退職手当の支給を受けて
任意退職した。仮にしからずとしても、昭和四二年三月二八日被告から退職手当の
支給を受けて任意退職した。仮にしからずとしても昭和四三年三月二八日被告から
退職手当の支給を受けて任意退職した。
(二) 右任意退職については原告はその都度被告(東京国税局長)から退職を示
す辞令の交付を受けた(以上いずれも、本位的および第一、第二次予備的請求原因
に対する抗弁)。
(抗弁に対する答弁)
一 任期満了による退職その一について
(一) 抗弁(一)の事実中、原告が形式上非常勤の用務員として任用されたこと
は認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 仮に原告の任用が被告主張のとおりになされたものとしても、その主張の
ような任期の定めは、次の理由によつて国公法上許されないものであるから無効で
ある。
1 国公法の任用に関する原則は、期限の定めのない任用である。これは国家公務
員の身分を保障するためのものである。
2 国公法は、同法第五九条の条件付任用と同法第六〇条の臨時的任用の二つの場
合だけ期限付任用を認めている。そして臨時的任用については、これをなし得る場
合を厳格に定め、任用更新も一回だけしか認めていない。国公法は右二つの期限付
任用を、前記の任用に関する原則の例外として限定的に明示したものと解される。
したがつて国公法は条件付任用でも臨時的任用でもない日々雇用の任用を禁止して
いるものと解するのが正当である。原告の前記任用は条件付任用でも臨時的任用で
もない。
3 国公法附則第一三条は、職務と責任の特殊性に基づき国公法の特例を規定する
場合も「この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。」 としてい
る。公務員の身分保障は同法第一条でも明らかなように同法の定める根本基準の一
つである。それ故国公法附則第一三条をもつてしても同法上の身分保障の原則を破
壊するような無制限な期限付任用を認める特則を規定することはできない。同条は
非常勤職員についてであつても、その身分保障を奪う根拠とはなり得ない。同条に
基づく人事院規則八-一四それ自体は、職員の採用の方法の問題であつて、競争試
験や選考によらない方法で任用された者が身分保障を奪われてよいという根拠には
ならない。また人事院規則八-一二第七四条も国公法の身分保障の原則を破る根拠
とはなり得ない。同条の存在をもつて非常勤職員の日々雇用容認の根拠であるとす
るのは、筋道を逆転させた論理であつて、若しそのように解されるのであれば、同
条は国公法に違反した無効のものである。
4 非常勤の一般職の職員について日々雇用による任用が許されるものとすれば、
かかる職員は公務員としての義務は課されるにかかわらず、身分保障の点で国公法
の保護が得られず、さりとて公務員であるが故に労働基準法第二一条但書の適用も
受けられないことになる。これでは非常勤の一般職の職員は、同じ仕事をしている
常勤の一般職の職員や民間の労働者に比較して、非常勤の一般職の職員という身分
の故に不当に差別されることになる。これは明らかに憲法第一四条の法の下の平等
に反し、憲法第二七条の労働の権利を侵害するものであつて憲法違反である。
(三) 抗弁(三)前段は争う。仮に国公法が例外的に期限付任用を、前記二つの
場合以外に認めるものとしても、原告の前記任用については、任用の事情および仕
事の性質上その例外の場合には該当しないから、原告の任用に付せられた任期の定
めは法律上許されないものであつて無効である。したがつて原告は、いずれにせ
よ、期限の定めなしに任用されたものというべきである。
抗弁(三)後段の事実中、江東税務署の新庁舎建築ないし同署の分割の関係、同署
の用務員として常勤の行政職俸給表(二)の適用を受ける一般職々員が二名いたこ
とおよび原告が亀戸職業安定所を通じて応募し、面接の結果採用されたものである
ことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。原告は用務員の定員に
欠員が生じたのでこれを補充するために任用されたのである。清掃業務下請化まで
臨時的に常勤の用務員の仕事を補助するために任用されたのではない。このことは
次のような事実に徴しても明らかである。
1 昭和三八年一二月、原告が亀戸職業安定所を通じ応募した際、同所係官の話で
は「一年もたてば賃金は二万円になるし、本採用にもなる。」 ということであ
り、面接の際も、同趣旨のことを言われた。
2 分割前の江東税務署の用務員の定員は四名であつたが、一名欠員のまま三名の
用務員で仕事をやつてきた。しかるに昭和三六年ないし同三六年ごろ右の内の一名
が死亡したので、欠員が二名になつてしまつた。しかし当局は欠員を補充しなかつ
たので二名の用務員の仕事は極めて忙しく、残つた用務員の方からも欠員を補充す
るよう強い要求が出されていた。
3 清掃業務の下請化の問題は、原告が任用された当初のころ、被告の当局におい
ては全く予想していないことであつた。昭和三九年一二月に庁舎移転が行なわれた
際ですら問題になつていなかつた。
4 原告が任用された直後江東税務署のC副署長が原告の本採用の件で国税局と交
渉している事実があり、原告は同署会計係長からも「署が分割になれば本採用にな
るでしよう。」と言われていた。また、その後歴代の署長、総務課長が再三にわた
つて「本採用になるよう努力している。」と原告に述べてきているし、労働組合と
当局との団体交渉の中でも、本採用の約束があることを前提として当局から「努力
している。」との回答を得ている。
5 原告の勤務形態ないし仕事の内容は、常勤用務員と全く同じものであり、まさ
しく、恒常的なものであつた。すなわち原告は朝六時に出勤し、床、廊下の掃除、
玄関、便所の掃除、庁舎の周囲の掃除ないし環境整備および署長、副署長室の掃除
を行なつた。また、勤務時間中にはガラスふき、郵便物の発送、銀行への使い、屑
紙の回収、焼却、物品購入、修繕等の部品購入等の仕事を行なつた。また、午後五
時から六時までの間は、また掃除を行なつてから帰宅した。
二 任期満了による退職その二について
(一) 抗弁(一)の事実中、被告がその主張の日、原告を前後一六回にわたり、
非常勤の用務員として任用する手続をしたことは認めるが、その余は争う。
(二) 抗弁(二)の事実中、被告が昭和四三年六月二七日原告に対し、同日限り
原告を任用しない旨通告したことは認めるが、その余は全部争う。
(三) 仮に原告の任用が被告主張のとおりになされたものとしても、その主張の
ような任期の定めは、前述のような理由によつて許されないものであるから無効で
ある。
(四) 抗弁(四)前段は争う。仮に国公法が例外的に期限付任用を条件付任用の
場合と臨時的任用の場合以外に認めるとしても、原告の右任用については、任用の
事情および仕事の性質上、その例外の場合に該当しないから、原告の右任用に付せ
られた任期の定めは法律上許されないものであつて無効である。
抗弁(四)後段の事実中、江東税務署が昭和三九年七月一日被告主張のとおり分割
され、それ以後原告は江東西税務署の用務員となつたこと、同署の用務員としては
原告のほかに常勤の一般職々員であるAが配置されたこと、昭和三九年一一月二五
日に新庁舎が完成し、同年一二月三日同庁舎一、二階に江東西税務署、三階(新庁
舎は三階建)に江東東税務署がそれぞれ移転したこと、移転後の江東西税務署の庁
舎の清掃は窓ガラスおよび床面のワツクス清掃については専門業者に委託され、毎
日の清掃については、原告ら二名の用務員によつて行なわれることになつたこと、
新庁舎の隣地に生コンクリート製造工場が完成し、操業が開始されるにおよび庁舎
がセメント粉末で汚れるようになつたことおよび庁舎清掃業務を専門業者に委託す
ることに伴う職員の配置転換が被告主張のようになされたことは、いずれも認める
が、その余の事実は否認する。専門業者の行なう清掃は床、廊下の掃除、玄関、便
所の掃除だけである。それ以外の場所すなわち署長室、副署長室、印刷室、分析室
などは外部の業者に清掃を行なわせることはできず、従前どおり用務員がやらなけ
ればならない。また特に倉庫、書庫の整理などは、税務署の性格から言つて外部の
業者にできるものではない。その他、発送や銀行への使いなども用務員のなすべき
重要なしかも恒常的な仕事として残つている。したがつて専門業者に清掃業務を委
託することにより原告の任用が不要になつたという被告の主張は全く根拠のないも
のである。
三 任意退職について
(一) 抗弁(一)の事実中原告が被告主張の日に被告から退職手当の支給を受け
たことは認めるが、その余は否認する。
(二) 抗弁(二)の事実は争う。
(再抗弁)
原告は昭和三八年一二月三日に任用されて以降、昭和四三年六月二七日被告からそ
の主張のような通告を受けて就労を拒否されるまでの間、常勤の一般職々員と全く
同様に勤務した。この間原告の任用予定期間なるものが、被告主張のとおりのもの
として断続的に設定されたとしても、任用予定期間と任用予定期間とに挿まれた中
間の日は、毎年年度末すなわち三月末の一日を除いては、すべて日曜日その他の休
日であつて、常勤の一般職々員であつても勤務を要しない日である。それ故右任用
予定期間の設定ないしその末日の任期満了による退職および再任の手続(但し各予
備的請求の原因としてのそれを除く)は、全く形式的なものであつて、紙の上の操
作に過ぎない。したがつて、
一 仮に原告が被告主張のとおり、日々雇用の用務員として任用されたものとして
も、原告の仕事の実態ないし内容は民間の日雇のそれと同様のものであり、勤務先
が税務署であるからといつて民間の日雇と差別される合理的理由は全くないから、
労働基準法第二一条但書を準用して、当初任用された日から、同条但書所定の国公
法第五九条所定の条件付任用期間である六か月を加えた計七か月を経過した日以降
は、原告の任用は、期限の定めのないものに転化したものというべきである(但
し、任期満了による退職の抗弁のうち、当初任用の日から七か月を経過した日以降
に退職の日が到来するものに対する再抗弁)。
二 仮に一般職の職員を日々雇用という形態で任用することが許されるものとする
ならば、それは国公法第六〇条所定の臨時的任用の一形態と見るほかない。そうだ
とすると、そのままの形態で一年を超えて勤務させることは、同条によつて許され
ないところである。若しかかる形態で任用された職員が一年を超えて勤務するに至
つた場合は、同条の趣旨に鑑み、該職員は正規の職員として任用されたもの、すな
わち期限の定めなしに任用されたものと看なされるべきである。したがつて仮に原
告が日々雇用の職員として任用されたものとしても、原告は当初任用された日から
一年を経過した日に期限の定めなしに任用されたものと看なされるべきである(但
し任期満了による退職の抗弁のうち、当初任用の日から一年を経過した日以降に退
職の日が到来するものに対する再抗弁)。
三 仮に原告が日々雇用の職員として任用されたものとしても、原告の日々雇用
は、昭和三八年一二月四日以降実に四年七か月にもわたつて更新されてきたのであ
るから、かかる度重なる更新により、少くとも昭和四三年六月二七日当時には、原
告の任用は、期限の定めのないものに転化していたものというべきである(すべて
の抗弁に対する再抗弁)。
(再抗弁に対する答弁)
再抗弁事実中、原告が昭和三八年一二月三日以降昭和四三年六月二七日までの間に
おいて被告主張の前後一七回にわたる任用予定期間を断続的に勤務したことは認め
るが、その徐はすべて争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一 本位的および第一、第二次予備的請求についての判断
一 右各請求の原因たる事実(各請求に共通の原因たる事実を含む)は、当事者間
に争いがない。
二 成立に争いのない乙第四号証の三、七、一一および一四、証人Cの証言ならび
に原告本人の供述によれば、原告は、任命権者である東京国税局長から、昭和四〇
年三月二九日に退職手当として金八、七六〇円の支給を受け、「退職した、退職手
当額八、七六〇円を支給する」旨の人事異動通知書の交付を受け、昭和四一年三月
二八日に退職手当として金八、〇〇〇円の支給を受け、「退職した、退職手当額
八、〇〇〇円を支給する」旨の人事異動通知書の交付を受け、昭和四二年三月二八
日に退職手当として金五、一六〇円の支給を受け、「昭和四二年三月二九日以後任
用を更新しない、退職手当額五、一六〇円を支給する」旨の人事異動通知書の交付
を受け、また昭和四三年三月二八日に退職手当額五、六四〇円の交付を受け、「退
職手当額五、六四〇円を支給する」旨の人事異動通知書の交付を受けたこと、そし
て右人事異動通知書には、いずれも任命権者として東京国税局長の記名押印があ
り、また発令の年月日を記載していることが認められる(以上の事実中退職手当の
支給を受けたことは、当事者間に争いない。)。その後今日に至るまで原告が被告
に対し右退職手当を支給されたことまたは人事異動通知書を交付されたことについ
て異議を述べるとか、その返還を申し出るとかした形跡は、本件全証拠によるも、
全く窺われない。
これによれば、原告の昭和三八年一二月三日、昭和三九年七月一日および同年八月
二〇日の任用形態が、原告主張のように期限の定めのない任命であろうと、または
被告の主張するように任用予定期間を限つた日々雇用のものであろうとも、原告
は、遅くとも昭和四三年三月二八日までには、被告と合意の上任意退職し、前記任
命に基づく一般職の国家公務員たる地位を失つたものと認めざるを得ない。また以
上のような事実関係の下においては、原告が同日までに退職したことを争うのは、
少くとも、信義則に反するものであつて許されないものといわなければならない。
人事院規則八-一二(職員の任免)第七五条第十号は、職員の辞職を承認した場合
は人事異動通知書を交付しなければならないことを規定している。これは国家公務
員の辞職の有無とその日時の不明確を避けるために、辞職の形式を要式化したもの
であつて、人事異動通知書の交付が辞職の効力発生要件と解される余地があるとし
ても、その記載は、必ずしも辞職を承認するという文言を用いる必要はなく、辞職
という事実が文言から常識的に窺えるようなものであれば足りると解する。原告が
交付を受けた人事異動通知書には、被告が原告の辞職を承認した旨の明示の記載は
なかつたが、それら一連の通知書の文言を素直に善解すれば、そこには原告が退職
した事実を承認する旨の表示が含まれているものとみることができるし、しかも任
命権者の記名押印と発令年月日の記載に欠けるところはないのであるから、これら
の人事異動通知書は、人事院規則の要件に適合するものと認めることができる。
三 右のとおりであるから、原告の本位的および第一、第二次予備的請求は、じ余
の判断をまつまでもなく、いずれも理由がないものといわなければならない。
第二 第三次予備的請求についての判断
一 右請求の原因たる事実(すべての請求に共通の原因たる事実を含む)は、当事
者間に争いがない。
二 最終的退職の抗弁について考察する。
(一) 原告の任用形態
成立に争いのない乙第五号証の三の記載、証人Cの証言および原告本人の供述によ
れば、昭和四三年四月一日なされた原告の任用は、原告の同意を得て、非常勤の用
務員としてなされたもので、任期を一日とし、任命権者が別段の意思表示をしない
限り、任用が日々更新される期間すなわち被告主張の任用予定期間を昭和四三年六
月二七日までとして、いわゆる日々雇用の形態で行なわれたものであることが認め
られる。
(二) 期限付任用の許否
1 国公法には、一般職に属する国家公務員を任用する場合、任期を定めることが
できるか否かについて明示的に規定するところがない。
同法第六〇条のいわゆる臨時的任用の規定は、恒常的に置く必要がある官職に充て
るべき常勤の職員を任命する場合の特則と解せられるが、それは、必ずしも原告が
主張するような意味における特則、すなわち職員の任用は期限の定めなしになされ
るのが原則であつて、同法第六〇条はこれに対する特則である、と解することはで
きない。むしろ、それは、同法第三三条第一項が任免の根本基準として、「すべて
職員の任用は、この法律及び人事院規則の定めるところにより、その者の受験成
績、勤務成績又はその他の能力の実証に基いてこれを行う。」ものとしていること
に対する特則であると解する余地が多分に存するのである。けだし、緊急の必要が
あつて職員を臨時に任用する場合など、事柄の性質上、採用について成績主義の原
則によるいとまがない場合もあるので、その例外を許容した規定とみられるのであ
る。そうすると、この採用についての成績主義の原則に準拠しなかつた職員を無期
限に公務員たる地位にとどめることは、成績主義の原則を紊り、任用制度の正席な
運用を阻害する虞れがあるので、特に臨時的任用の期間を厳格に法定して、その弊
を避けようとしたものである。したがつて、同法第六〇条の規定が存するからとい
つて、一般職の国家公務員の期限付任用が原則として禁止されているという論理的
必然性はない。採用について、成績主義によらない職員の期限の定めのない任用を
許さないということと、成績主義に則つた職員にも期限付任用を認めるということ
は、論理的に両立し得るからである。また、同法第五九条のいわゆる条件付任用期
間の規定は、職員の職務遂行能力判定のために六か月間の条件付採用を認めたもの
で原告の主張するような意味での特則と解し得ないことは敢えて説明するまでもな
い。
国公法は、職員の分限免職および懲戒免職の事由を明定して(同法第七五条第一
項、第七八条、第八二条参照)、職員の身分を保障している。しかし、一般職の国
家公務員の任用に任期の定めをすることが同法の定める身分保障を奪うものである
とする原告の主張も、必ずしも当を得たものではない。何よりも先ず、国公法の定
める身分保障とは、公務員が法定の事由および手続によらずして、分限または懲戒
処分を受けることのないのを担保するためのものである。公務員の任命行為の性質
を公法上の契約と解すると否とを問わず、公務員となるべき者の同意のない任命は
無効である。任命に期限の定めをすることについても、任命権者が一方的に設定で
きるものではなく、相手方の同意を要件とするのである。自らの任命に期限を定め
ることを同意しながら、後にその期限が身分保障の制度に反するから無効であると
主張するのは、それ自体背理であるといわなければならない。のみならず、およそ
任命行為に期限の定めをすることは、制度的には、身分保障とは全く別個な問題で
ある。公務員の任命も、公務員が労務に服し、使用者たる政府がこれに報酬を支払
うことを約することにおいて、私法上の雇用契約と異ならないのである。そして、
私法上の雇用契約においては、使用者と労働者の法形式的平等を実質的平等に高め
るために、民法の特別規定として労働基準法が設けられた。この労働者保護立法で
ある同法が、雇用期間を認めながら、かえつて一年を越える長期の雇用契約を禁止
しているのである(一四条)。雇用(公務員の場合は任用)に期間の定めをするこ
とが、労働者(公務員)の保護と矛盾しないことは、これによつて明らかである。
しかも、右の規定は、一般職の国家公務員にも準用されるのである(国公法第一次
改正法律附則第三条)。すなわち、任期の範囲内においては、国公法ないし人事院
規則による身分保障の規定が、特段の定め(国公法第八一条参照)ある場合のほか
は、等しくその職員にも適用されるのであるから、身分保障に欠けるところはない
のである。したがつて、身分保障の関係で該職員が他と不当に差別されているとの
主張ないしこれを前提として任期の定めが憲法第一四条、第二七条に違反している
との主張は採ることができない。
以上検討したところによれば、恒常的に置く必要のある常勤の一般職の公務員を任
用する場合であつても、国公法第五九条、第六〇条所定の場合以外に、任期を定め
ることは、同法上必ずしも禁止されていないものと解すべき余地が充分に存するの
である。なお、念のため付言すれば、被告主張のように国公法附則第一三条や人事
院規則八-一四や同八-一二の第七四条の各規定が一般職の公務員の期限付任用が
原則として禁止されないとの解釈の根拠となるものではない。ところで、常勤の一
般職公務員の任用について右に述べたとおりである以上、非常勤の一般職公務員を
任用する場合においては、右の「非常勤」が字義どおりのものである限り、任期を
定めてこれを任用することは、国公法上少しも妨げられないものと解さざるを得な
い。
しかしながら、国公法第一条第一項がうたう同法制定の目的に鑑みれば、少くとも
恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員については、職員の身分を保
障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させ、以つて公務の能率的運営に資す
るため、期限の定めなしに任用するのが同法の建前であり、したがつて職員の任期
を定めた任用は、それを必要とする特段の事由が存し、且つ任期を定めることがそ
の建前の由つて立つ右の趣旨に反しない場合に限つて許される、との解釈も充分に
成り立つのである(最判昭和三八年四月二日、民集第一七巻第三号四三五頁参
照)。ちなみに、人事院規則八-一二職員の任免第一五条の二(期限付任用禁止の
原則、但し昭和四三年一二月一六日施行であるから、本件には適用がない。)の規
定は、右のような解釈を前提として設けられたものと解される。そして右解釈の根
拠が右に説示したところに存する以上、その解釈は、恒常的に置く必要のある常勤
の一般職公務員についてのみならず、いわゆる非常勤の公務員であつても、勤務の
実態が常勤の職員と同様であるような職員については、等しく妥当するものとしな
ければならない。よつて以下においては、右のような解釈を前提として考察を進め
ることにする。
2 成立に争いのない乙第二〇号証の一、二の記載、証人Dの証言および原告本人
の供述ならびに弁論の全趣旨によれば、用務員としての原告の勤務時間その他の勤
務態様ないしその従事する仕事の内容は、江東西税務署の常勤の用務員であつたA
のそれと同様のものであつたことが認められる。原告が「非常勤」の用務員として
任用されたものであることは、前判示のとおりであるが、右認定の事実によれば、
「非常勤」というのは、単なる名目に過ぎず、実質的には原告は常勤の用務員であ
つたと認めざるを得ない。そうだとすると、原告の前示任用に付せられた任期の定
めについては、前項の末段に判示したところに従い、それが国公法上許されるもの
であつたか否かを検討しなければならない。
3 任期ないし任用予定期間設定の事情
江東税務署が昭和三九年七月一日に江東東税務署と江東西税務署に分割されたこ
と、それ以降原告は江東西税務署の用務員として任用されてきたのであるが、同署
の用務員としては原告のほかに従来江東税務署に勤務していた常勤の一般職公務員
である前記のAが配置されたこと、同年一一月二五日に新庁舎が完成し、同年一二
月三日に同庁舎一、二階に江東西税務署、三階に江東東税務署がそれぞれ移転した
こと、右移転後の右庁舎の清掃については、そのうち窓ガラスおよび床面のワツク
ス清掃だけは専門業者に委託され、毎日の清掃は用務員が行なうものとし、江東西
税務署では、前記Aと原告の二名がこれを行なつてきたこと、昭和四〇年九月ごろ
同庁舎南側の隣地に生コンクリート製造工場が建設され、その操業が開始され、生
コンクリート製造過程で飛散するセメント粉末のため庁舎が汚れるようになつたこ
と、以上の事実は当事者間に争いがない。右争いのない事実と証人Dおよび同Cの
各証言、原告本人の供述、証人Cの証言により真正に成立したものと認められる乙
第六ないし第八号証、成立に争いのない乙第二一号証、第二二号証の一、二、官署
作成部分の成立について争いなく、その余の部分については弁論の全趣旨によつて
真正に成立したものと認められる乙第二三号証の一ないし一二の各記載ならびに弁
論の全趣旨によると、原告が任用された昭和四三年四月一日当時、被告は、前記庁
舎の清掃全部を能率的且つ経済的に行なうため、これを外部の専門業者に委託する
予定でいたものであるが、これが実施されると江東西税務署としては、用務員は常
勤の一般職々員であるA一名で足り、原告は不要となるので、原告のためも考慮
し、その実施を同年七月一日からとし、原告を前判示のとおり、従前同様、任期を
一日とし、任用予定期間を右委託清掃実施予定の直前である同年六月二七日までと
定めて任用したものであることが認められる。
右認定の事実によれば、原告を任用するに当たり前示のような任期ないし任用予定
期間を定めるについては、これを必要とする特段の事由があつたものというべきで
あり、また右認定の事実と用務員の職務が公務とはいつても、庁舎の清掃その他の
単純な肉体的労務を内容とするものであつて、直接に公務の運営にたづさわるもの
ではないことを考慮すると、原告を任用するに当たり、前示のような任期ないし任
用予定期間を定めたことは、いまだもつて国公法のとる前記のような建前に反する
ものではないと思料される。
右のとおりとすると、原告の任用に付せられた任期の定めは、国公法上許されるも
のであつて、有効なものといわなければならない。
(三) 任期満了による退職
1 国公法第一次改正法律附則第三条によつて準用される労働基準法第二一条但
書、第一号、第二〇条第一項本文の規定により、原告のように日々雇用された職員
が一か月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、被告が該職員との日雇契約の
締結を拒否しようとするときは、少くとも三〇日前にその予告をするか、または三
〇日分以上の平均賃金を支払わなければならないものと解される。そして、原告本
人の供述、右供述と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二
号証の一ないし三の各記載ならびに弁論の全趣旨を総合すると、被告(江東西税務
署長)は、昭和四三年五月二三日ごろ原告に対し、同年六月二七日限り、任用更新
はしない旨告げたことが認められる。
2 再抗弁について
1 期限付任用が期限の定めのない任用に転化するという原告のいわゆる転化論が
いかなる事実主張であるかは朋確を欠くが、期限付任用が長期間継続されるという
事実があれば、これを間接事実として、期限の定めのない任用という要証事実の存
在が推認さるべきであるという主張と善解しても、この主張は理由がない。公務員
の任用は、厳格なる要式行為であつて、任用が期限付であるか否かは、通知書の記
載によつて決定される。期限付任用を長期間更新したとしても、このことから期限
の定めのない任用の存在を推認し得るものではないからである。また右の主張を期
限付任用が七か月または一年間継続したときは、これを法律要件として、期限の定
めのない公務員関係という法律関係が発生するという主張と善解しても、この主張
は理由がない。労働基準法第二一条但書、国公法第五九条および第六〇条も、この
ような法律効果発生の要件を規定したものではないし、また解釈によつてそのよう
な理論を導き出すこともできないからである。したがつて、原告の右主張は採るこ
とができない。
3 以上のとおりであるから、原告は昭和四三年六月二七日の経過をもつて、同日
の任期満了により、当然退職したものといわなければならない。
三 右のとおりであるから、原告の第三次予備的請求も理由がない。
第三 結び
よつて原告の本訴請求は、いずれもこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につ
いては、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩村弘雄 宮崎富哉 飯塚 勝)

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