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令和3年1月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成31年(ワ)第2034号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和2年11月11日
判決
原告和田工業株式会社5
同訴訟代理人弁護士神戸靖一郎
被告株式会社ニュートラル
同訴訟代理人弁護士原崇之
主文
1被告は,令和9年2月28日までの間,関東地方内に本店が所在し,同地方10
内に工場又は営業所を有する事業者に対し,食品用機械及びその部品の開発,
製造,加工,販売及びメンテナンスに関する営業を,自ら行い,又は第三者を
して行わせてはならない。
2被告は,令和9年2月28日までの間,関東地方以外の地域に本店が所在す
る事業者に対し,同事業者又は他の事業者の関東地方に所在する工場又は営15
業所に納品その他の行為をさせることを目的として,食品用機械及びその部
品の開発,製造,加工,販売及びメンテナンスに関する営業を,自ら行い,又
は第三者をして行わせてはならない。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担20
とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項及び第2項と同旨25
2被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成30年7月1日から
支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,食品用機械の開発,製造,加工,販売及びメンテナンスの事業を営5
む原告が,原被告間の事業譲渡契約に基づいて原告が被告の事業の譲渡を受
けた後に被告が関東地方における同種事業を再開したことは,同契約で定め
た競業避止義務に違反すると主張し,被告に対し,上記事業譲渡契約又は会社
法21条3項に基づき,令和9年2月28日までの間,関東地方等における原
告の事業と競合する被告の事業の差止めを求めるとともに,債務不履行責任10
に基づき,損害賠償金の一部である300万円及びこれに対する被告の事業
再開日である平成30年7月1日から支払済みまで商事法定利率(平成29
年法律第45号による改正前)年6分の割合による遅延損害金の支払を求め
る事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実及び文中掲記した証拠及び弁論の全趣15
旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特
に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者等
ア被告は,北海道を中心に食品用機械の開発,製造,加工,販売及びメン
テナンス等の事業を営む,平成6年2月に設立された株式会社であり,そ20
の本店は札幌市内に所在する。
被告は,同年3月,関東地方においても事業を展開するため,埼玉県所
沢市内に事務所(以下「被告所沢事務所」という。)を設け,関東事業部
(以下「旧関東事業部」という。)を開設した。その後,被告は,食品用
機械の受託開発及び生産並びにメンテナンス事業等に加え,海外メーカー25
製の食品用機械の輸入及び販売事業等も手がけることとし,平成15年,
本社に産業機械事業部(以下「産機事業部」という。)を開設するととも
に,平成23年11月,旧関東事業部と同一の事務所内に関東産機事業部
を開設した。(乙3)
イ原告は,平成28年12月に設立された機械装置等の設計,製作等を事
業目的とする株式会社である。原告代表者は,平成20年,被告に入社し,5
旧関東事業部の次長を経て,被告の取締役に就任したが,後記(2)の事業譲
渡に際し,原告を設立するとともに,平成29年2月28日付けで被告の
取締役を退任した。その後,原告は,関東地方を中心として,被告から譲
り受けた事業を行っている。
(2)事業譲渡10
原告は,平成29年1月15日,被告との間で,被告から1500万円(消
費税込み)の支払を受けることにより,旧関東事業部の事業を同年2月28
日をもって譲り受ける旨の契約(以下「本件事業譲渡契約」といい,同契約
による事業譲渡を「本件事業譲渡」という。)を締結した。
同契約に係る事業譲渡契約書(以下「本件事業譲渡契約書」という。甲1)15
には,以下の条項が置かれている(「甲」を被告,「乙」を原告と表記する。)。
ア第1条(目的)
被告は,本契約書に定める条項に従い,平成29年2月末日(以下「譲
渡日」という)をもって,被告の関東事業部(以下「本件事業」という)
を原告に譲渡し,原告はこれを譲り受ける。(以下省略)20
イ第2条(譲渡財産)
1.被告と原告は,本件事業に含まれる資産の内容は別紙資産目録記載
の通り…であることを確認する。
2.被告と原告は,本件事業に含まれる債務の内容は別紙債務目録記載
の通り(以下「本件債務」という)であり,原告が被告から承継する25
債務は,「本件債務」以外にないことを確認する。
3.被告と原告は,本件事業に含まれる契約は別紙契約目録記載の通り
…であることを確認する。
4.被告は原告に対し,譲渡日において,本件事業に関わる営業上の秘
密,ノウハウ,顧客情報,営業手法など原告が必要又は有益と認める
すべての情報を譲渡する。5
ウ第5条(譲渡価額)
1.本件事業の対価…は金1500万円(消費税含む)とする。(以下
省略)
エ第10条(競業避止義務)
被告は,譲渡日後10年間は,原告の事業と競合する同種の事業を行わ10
ない。
オ別紙
1資産目録
・建物付属設備(建物附属設備・付属設備・附属設備)
・機械装置15
・車両運搬具
・器具備品
上記の全てを含む
2債務目録(確定債務)
・金融機関からの借入金20
・営業取引による買掛金・支払手形
・営業外取引により発生した未払金・預り金
上記の全てを含まず
3契約目録
・被告関東事業部の敷地及び建物(工場・事務所)の物品25
上記の全てを含む
(3)本件事業譲渡に関する挨拶状の送付
原告及び被告は,平成29年2月,旧関東事業部の顧客に対し,それぞれ
「新会社設立のご案内」,「関東事業部譲渡及び産機事業部移転のご連絡」
と題する連名の挨拶状(乙1の1)を送付し,顧客に対し,本件事業譲渡に
ついて報告した。5
(4)関東産機事業部の事業の再開
被告は,旧関東事業部の顧客に対し,平成30年6月付けの「関東産機事
業部再開のご案内」と題する葉書(甲2)を送付した。同葉書には「関東産
機事業部を7月1日より下記のとおり再開する運びとなりました。取扱品目
は食品工場様向けスライサー,異物除去クリーナーおよびほぐし装置等の販10
売を中心に営業展開を進めていく所存です。」などと記載されている。
被告は,同年7月1日,神奈川県大和市内に事務所を設け,関東産機事業
部の事業を再開した。これに対し,原告は,被告に対し,原告が譲り受けた
事業と競合する事業を行うことを中止するように求めたが(甲3,5,7),
被告は,「スーパースライサー,解し装置,クリーナー」を「営業品目」に15
掲げた上で,「当社は機械メーカーとして当社独自に開発した装置を販売す
ることに特化しておりますので…競業避止義務には違反はしておりません」
などと回答し,関東産機事業部の事業を中止することを拒否した(甲4,6,
8)。
2争点20
(1)本件事業譲渡契約書第10条(競業避止義務)違反の有無(争点1)
(2)会社法21条3項違反の有無(争点2)
(3)損害の有無及び損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件事業譲渡契約書第10条(競業避止義務)違反の有無)につい25

〔原告の主張〕
被告が本件事業譲渡契約後に再開した関東産機事業部の事業は,本件事業譲
渡契約書第10条にいう「原告の事業と競合する同種の事業」に当たるので,
被告の行為は同条に違反する。
(1)本件事業譲渡の対象5
ア本件事業譲渡契約の対象とされている資産,債務及び契約は,同契約書
に記載されたとおりであり,本件事業譲渡の対象は,関東産機事業部が取
り扱っていた海外メーカー製の食品用機械及び被告の開発,製造した食品
用機械を含め,関東地方に所在する食品加工業者及び食品工場向けの一切
の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス等の事業である。10
本件事業譲渡契約は,被告から契約書の文案の提示があり,双方で内容
を確認した上で,締結したものである。仮に,被告に関東産機事業部の事
業を競業避止義務の範囲から除外する意図があったのであれば,本件事業
譲渡契約書や覚書にその旨が明示されていてしかるべきであるが,そのよ
うな記載はない。また,本件事業譲渡契約の譲渡代金は,事業そのものの15
価値だけでなく,その事業について被告が競業しないことも含むのである
から,本件事業譲渡契約書に記載のない被告の意図により競業避止義務の
範囲を限定するのは不当である。
したがって,本件事業譲渡契約書第10条の競業避止義務は,契約書の
文言どおりの内容と解すべきであり,契約書に記載されていない被告の意20
図により同義務の範囲を制限すべき合理的な理由はない。
イこれに対し,被告は,本件事業譲渡の対象は,旧関東事業部の行ってい
た食品用機械のメンテナンス,付属部品及び資材等の販売などの事業に限
られ,関東産機事業部の行っていた海外メーカー製の食品用機械の販売及
び被告自身の開発,製造した食品用機械の開発,製造,加工,販売等の事25
業は含まれないと主張する。
(ア)しかし,本件事業譲渡契約の当時,関東産機事業部は事実上の休止状
態にあったのであるから,同事業部が海外メーカー製の食品用機械の販
売及び被告自身が開発,製造した食品用機械の開発,製造,加工,販売
等の事業を行っていたという被告の主張は事実に反する。
すなわち,被告は,平成23年11月,海外メーカー製の食品用機械5
の輸入及び販売を目的として,旧関東事業部と同一の事務所内に関東産
機事業部を立ち上げたが,平成27年,同事業部の責任者であるA(以
下「A」という。)が退職したため,関東産機事業部は休止し,その事
業は旧関東事業部が引き継いでいる。その後,被告は,平成28年10
月頃,旧関東事業部の事業譲渡を検討し,当時同事業部の次長であった10
原告代表者に打診があり,同代表者がこれを引き受けて本件事業譲渡契
約の締結に至ったのである。
この点について,被告は,Aの退職後,被告代表者が関東産機事業部
の事業を引き継いだと主張するが,被告代表者が関東事務所に来訪する
ことはほとんどなく,Aの退職後,本件事業譲渡までの間,関東産機事15
業部の売上げはなかった。関東産機事業部の事業として被告が主張する
もののうち,①メッセ名古屋展示会の出展は被告名義であって,関東産
機事業部名義ではなく,②株式会社タップ(以下「タップ」という。)
への排水処理用スクリーンの販売については,旧関東事業部の顧客であ
る同社から営業担当の原告代表者に依頼があったので,北海道産機事業20
部に話を繋ぎ,北海道本部扱いで販売したものであり,③株式会社文明
堂東京村山工場(以下「文明堂東京」という。)へのカステラ用スライ
サーの販売も,被告のホームページ又は展示会を通じて問合せがあり,
被告代表者又は北海道産機事業部が担当したものであって,いずれも,
関東産機事業部が実質的に事業を行ったものではない。25
以上のとおり,本件事業譲渡は関東産機事業部の事業を旧関東事業部
が引き継いだ後に行われたものであり,本件事業譲渡契約の時点では関
東産機事業部は事実上休止状態にあったのであるから,譲渡された事業
には関東産機事業部が行っていた事業も含まれている。
(イ)また,被告は,旧関東事業部の行っていた事業は,食品用機械のメン
テナンス,付属部品及び資材の販売等の事業に限られていたと主張する5
が,これも事実に反するものである。
すなわち,旧関東事業部では,平成24年から平成28年にかけて,
食品用機械のメンテナンスのみならず,チーズ包装殺菌装置,サンドイ
ッチ袋詰め装置,ビスケット払出装置,チョコレートけがき装置,どら
焼き整列装置,パン焼き用グリッサー装置等の食品用機械を開発,製造10
し,顧客に納品しているのであり(甲9),その事業の範囲は,食品用
機械のメンテナンス,付属部品及び資材の販売等の事業に限定されてい
ない。
被告は,旧関東事業部で食品用機械を製造,販売等していたとしても,
それは,顧客の特定の要望に応じた独立・単発的なものであり,関東産15
機事業部が行っていたような同一製品を量産・量販する水平的な事業展
開とは異なると主張するが,そもそも,旧関東事業部に限らず,被告が
開発,製造等した食品用機械のほとんどは,機械のメンテナンス業務を
行う中,顧客の依頼に基づき,その都度,既存の機械装置に合う装置を
作成・加工し,設置したものである。他方,旧関東事業部においても,20
水平的な事業展開ができる場合には,同一製品を複数販売しており,実
際のところ,上記のチーズ包装殺菌装置は顧客に7台納品している。
また,被告は,原告代表者が被告に在職中,被告代表者との間で経営
方針の不一致があったことを強調するところ,そのような意見の相違が
あったことは確かであるが,これは,被告自身の企画,製造等する製品25
の販売を推進するという被告代表者の方針が非現実的であると原告代表
者が考えていたことによるものである。原告代表者は,食品用機械のメ
ンテナンスにより安定的な売上げを確保しつつ,顧客の具体的な要望を
汲み取り,製品の受託開発・生産に結びつけることが望ましいと考えて
いた。上記のとおり,実際上は,被告本体においても,旧関東事業部に
おいても,その製造,販売等に係る売上げの大半は,食品工場からの受5
託開発・生産であった。
ウ被告は,本件事業譲渡契約後の挨拶状(乙1の1)の文面をもって,関
東産機事業部の事業が本件事業譲渡の対象外であることの根拠とするが,
被告が挨拶状にあたかも関東産機事業部が実態をもって存在し,移転する
かのような記載をしたのは,被告が関東から撤退するという印象を薄め,10
営業上のダメージをコントロールするためにすぎない。
エ被告は,建設業法3条に基づく機械器具設置工事の建設業許可を得てい
ない原告が,関東産機事業部の事業を譲り受けることはないと主張するが,
同法における機械器具設置工事とは,機械器具等の組立て等により,土木
若しくは建築に関する工作物を建設し,又は工作物の一部を組成し若しく15
は一体となって効用を発揮する機械器具を工作物に取り付ける工事をい
うのであって,商品生産設備として工場又は事業所において使用される機
械器具(いわゆる投資財機械)を工作物に単に緊結する工事は,通常,機
械器具設置工事に該当しない(愛知県建設部建設業不動産業課建設業「許
可申請の手引(申請手続編)」27頁)。20
したがって,食品用機械の設置工事は,建設業法にいう「機械器具設置
工事」に当たらない。
(2)被告の競業避止義務違反行為
被告は,平成29年6月頃,文明堂東京に対し,カステラ用スライサーを
製造及び販売し,また,ハウス食品株式会社に対し,レーズンほぐし機を製25
造及び販売した。
また,被告は,平成30年6月,原告の取引先に対し,「関東産機事業部
再開のご案内」と題する葉書(甲2)を送付し,関東産機事業部の営業を再
開する旨を案内した上で,同年7月1日,神奈川県大和市内に「株式会社ニ
ュートラル関東産機事業部」の事務所を設け,旧関東事業部の取引先を含む
関東地方の食品製造業者及び食品工場に対し,食品用機械の販売等の営業活5
動を開始した。
その後も,被告は,原告からの事業停止の要求に対し,「あくまでも当社
は機械メーカーとして当社独自に開発した装置を販売することに特化してお
ります」(甲4,6,8)などと回答し,原告の事業と競合する事業を継続
している。10
(3)競業避止義務の内容
本件事業譲渡契約書第10条により禁止されている事業は,関東地方にお
ける原告の営業を広く含むものであり,具体的には,①関東地方にある工場・
営業所との間の食品用機械,部品その他の物品の企画,開発,製造,加工,
販売,メンテナンスその他一切の取引及びその営業を自ら行い又は第三者を15
して行わせること,②関東地方以外の法人,工場,営業所その他の業者との
間で,関東地方に所在する工場又は営業所に納品その他の行為をする目的で,
食品用機械,部品その他の物品の企画,開発,製造,加工,販売,メンテナ
ンスその他一切の取引及びその営業を自ら行い又は第三者をして行わせるこ
とを含むものである。20
(4)小括
以上によれば,被告による関東産機事業部の事業の再開は,本件事業譲渡
契約書第10条に違反する。
〔被告の主張〕
被告が再開した関東産機事業部の事業は,本件事業譲渡の対象となった旧関25
東事業部の事業とは異なるものであるから,本件事業譲渡契約書第10条にい
う「競合する同種の事業」に該当しない。
(1)本件事業譲渡の対象
ア本件事業譲渡の対象は,旧関東事業部の食品用機械のメンテナンス及び
付属部品,資材の販売等の事業であり,産機事業部が行っていた海外メー
カー製の食品用機械の輸入,販売及び被告自身が開発,製造した食品用機5
械の開発,製造,加工及び販売等の事業は含まれていない。
イ本件事業譲渡の対象に食品用機械の開発,製造,加工,販売が含まれて
いないことは,本件事業譲渡契約書の記載から明らかである。すなわち,
本件事業譲渡契約書第1条には,「関東事業部」を譲渡すると規定されて
いるが,これは,その当時,関東産機事業部と旧関東事業部の2つの異な10
る事業部が被告に存在したことを前提として,旧関東事業部の事業のみを
譲渡の対象とすることを意味し,関東産機事業部の事業である食品用機械
の開発,製造,加工,販売等は譲渡の対象とされていない。
また,同契約書第9条には,被告は,その顧客が原告との取引を停止す
るなどしないように努めるとの規定が置かれているが,同規定は,被告が15
原告の顧客との間で取引を継続することを前提とするものである。
原告は,同契約書第10条の文言を根拠として,事業譲渡の対象には関
東産機事業部の事業も含まれると主張するところ,確かに,同契約書の文
案は被告が提示したものであり,その文言からは関東産機事業部の事業に
ついても競業を禁止しているようにも理解し得るが,契約条項の解釈に当20
たっては,その文言のみならず,目的,動機,経緯等の一切の事情を考慮
すべきである。
ウ被告代表者は,平成27年4月以降,関東産機事業部で行っていた被告
の開発,製造した量産・量販可能な食品用機械等の販売を旧関東事業部が
引き継ぐことを,同事業部の当時の責任者であった原告代表者に求めたが,25
原告代表者は,旧関東事業部はメンテナンスを中心にした事業を行いたい
として,これを拒否したため,旧関東事業部は,そのまま,食品用機械の
メンテナンス,付属部品及び資材の販売のみを継続して行い,食品用機械
の販売は関東産機事業部が継続して行うこととなった。
そもそも,被告において,事業部は,メンテナンス事務及び受託開発・
生産といった請負型の事業を行っていたのに対し,産機事業部は,独立・5
単体で用をなす機械であり,かつ,量産・量販可能な食品用機械を開発,
製造するなどの売買型の事業を行っていた。被告代表者は,将来的に,産
機事業部の事業を主幹とすることを企図していたが,原告代表者はこれに
反対して,協力しようとしなかった。このような経営方針の対立を背景と
して,被告は,原告に対し,旧関東事業部の行っていた事業を譲渡するこ10
ととしたのである。
エ原告は,本件事業譲渡当時,関東産機事業部は休止状態にあったと主張
するが,同事業部は,本件事業譲渡に伴い,移転することが予定されてい
た。原告と被告が本件事業譲渡契約後に連名で顧客に送付した挨拶状(乙
1の1)には,「関東産機事業部につきましては,只今移転準備中にて,15
決まり次第追ってご連絡させていただきます。」と記載されているが,こ
れは,関東産機事業部が本件事業譲渡後に存在することを前提として,そ
の移転後,同事業部が業としていた海外メーカー製の食品用機械及び被告
自身が開発,製造した食品用機械の開発,製造,加工,販売等の事業を再
開する旨予告するものであり,原告もそのことを十分に認識していた。20
オ関東産機事業部には,Aが被告を退職した後,専業の従業員は存在しな
かったが,被告代表者が引き継ぎ,営業を継続していた。もとより,被告
本社が札幌に存在する以上,被告代表者が頻繁に道外に出張することはで
きなかったが,関東の顧客から問合せがあれば,顧客先に出向いて機械の
説明をするなどして,関東産機事業部の事業を継続的に行っていた。25
実際,関東産機事業部は,平成27年11月にメッセ名古屋展示会(乙
5)に排水処理装置を出展し,平成28年10月にタップに対して排水処
理場用スクリーンを販売し,文明堂東京に対してカステラ用スライサーを
販売しているのであるから(乙12),同事業部の活動が休止していたと
の原告の主張は誤りである。
また,原告は,旧関東事業部が食品用機械を製造及び販売し,顧客に納5
品したと主張するが,旧関東事業部は,顧客からの依頼に応じて,その都
度,単発的に,現場に存する機械装置に合うような簡易な装置を作成・加
工・設置したものであるのに対し,関東産機事業部が開発,製造等する食
品用機械は,既存の機械装置の存在を前提としない独立・単体で用をなす
機械であり,かつ,量産・量販可能な食品用機械であり,両事業部の取り10
扱う機械は全く異なる。
カ原告は,建設業法3条に基づく機械器具設置工事業の許可を受けておら
ず,製品代金を含め税込500万円以上の機械設置業務は行うことはでき
なかったので,原告が関東産機事業部の事業を譲り受けることはできなか
った。15
(2)被告の競業避止義務違反行為
被告は,本件事業譲渡契約後,旧関東事業部の取引先を含む関東地方の食
品製造業者等に対し,食品用機械の販売等を行っていない。
(3)小括
以上によれば,被告による関東産機事業部の事業の再開は,本件事業譲渡20
契約書第10条に違反しない。
2争点2(会社法21条3項違反の有無)について
〔原告の主張〕
(1)「同一の事業」の該当性
前記1のとおり,本件事業譲渡の対象となった事業は,関東産機事業部の25
事業と同一であるので,被告が再開した関東産機事業部の事業は,会社法2
1条3項にいう「同一の事業」に該当する。
(2)「不正の競争の目的」の有無
被告は,本件事業譲渡契約書第10条により,原告の事業と競合する同種
の事業を行わない旨を約しているにもかかわらず,関東地方において食品用
機械の営業を行っているのであるから,不正の競争の目的をもって関東産機5
事業部の事業を再開したものである。
〔被告の主張〕
(1)「同一の事業」の該当性
前記1のとおり,本件事業譲渡の対象は,旧関東事業部の事業のみであっ
て,関東産機事業部の事業とは内容が異なるので,被告が再開した関東産機10
事業部の事業は,会社法21条3項にいう「同一の事業」に該当しない。
(2)「不正の競争の目的」の有無
本件事業譲渡の対象は,旧関東事業部の事業のみであって,関東産機事業
部の事業は含まれないのであるから,被告が関東産機事業部の事業を再開し
たとしても,不正の競争の目的によるものではない。15
3争点3(損害の有無及び損害額)について
〔原告の主張〕
(1)被告による競業行為による損害としては,本件事業譲渡当時の旧関東事業
部の売上金額7726万4593円(平成28年2月度)の20分の1に当
たる386万3229円を下らない。20
原告は,被告に対して,その内金300万円及びこれに対する被告が関東
産機事業部の事業を再開した日である平成30年7月1日から支払済みまで
商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2)被告は,本件事業譲渡後に,原告の承諾を得ずに,文明堂東京に1台80
0万円程度のカステラ用スライサーを2台販売し,本件事業譲渡前に文明堂25
東京に販売したカステラ用スライサー1台も含め,文明堂東京との間でカス
テラ用スライサーのメンテナンス契約を締結してメンテナンスを行い,原告
に承諾料相当額の損害を与えた。
被告の販売したカステラ用スライサーの価格は,1台当たり800万円程
度である。また,上記カステラ用スライサーのメンテナンスによる売上げは,
1台当たり200万円を下回らないから,本件事業譲渡契約後3年分の額は5
1800万円(200万円×3台×3年)となる。そうすると,文明堂東京
との取引による被告の売上げは,3400万円程度となる。
本件事業譲渡契約書第10条は,関東地方の工場等との間での一切の取引
について原告の商権を設定しているものと解することができるから,上記承
諾料は,商権を有する商社に対して支払う口銭と同じであるところ,食品用10
機械の専門商社は売上げの10%程度を口銭とするから,被告の競業取引に
より原告が受けるべき承諾料率は,売上高の10%とするのが相当である。
以上によれば,被告の競業取引により原告の受けた損害は,340万円(3
400万円×10%)に消費税10%を加えた374万円となり,これは,
上記(1)の損害額と概ね一致する。15
(3)仮に,損害額の立証が困難な場合でも,被告が本件事業譲渡契約書第10
条に違反して事業を行ったことにより,原告に何らかの売上減少に伴う逸失
利益が発生しているので,民訴法248条により相当な損害が認められるべ
きである。
〔被告の主張〕20
争う。
被告は,本件事業譲渡後,文明堂東京との間で,カステラ用スライサーの販
売をしたことや,メンテナンス契約を締結してメンテナンス作業をしたことは
なく,他の関東地方の食品製造業者等に対しても,食品用機械の販売等はして
いない。25
また,承諾料率に関する原告の主張は独自の見解に基づくものであり,これ
に基づいて算定された額を損害とすることはできない。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件事業譲渡契約書第10条(競業避止義務)違反の有無)につい

(1)本件事業譲渡の対象について5
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者
及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス
の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の
対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品,
資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。10
ア本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す
る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11,
12)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,平成23年11月,海外メ
ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関
東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,②その後,関東産機15
事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所
沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい
た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ
うになったこと,③平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予
定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予20
定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況
等が記載されていること,の各事実が認められる。
上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実
上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと
んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第25
1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた
事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け
の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的
に含むものと解するのが相当である。
イまた,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には,
関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ5
って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置,
器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務
所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する
営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を
譲渡すると規定されている。10
被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと
主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに
ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機
事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい
て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被15
告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし
かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一
部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。
そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し,
被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,20
製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包
括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウさらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1
2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲
渡を考えています。…関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円25
くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買
う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録
には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ
いての記載は存在しない。
このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお
ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販5
売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ
る。
エこれに対し,被告は,以下のとおり主張するが,いずれも理由がない。
(ア)被告は,本件事業譲渡当時,旧関東事業部は,メンテナンス事務及び
受託開発・生産といった請負型の事業を行っていたのに対し,関東産機10
事業部は,量産・量販可能な食品用機械を開発,製造するなどの売買型
の事業を行っており,本件事業譲渡契約の対象は,旧関東事業部が行っ
ていた事業に限定されると主張する。
しかし,被告の産機事業部がもともと海外メーカー製の食品用機械の
輸入及び販売並びに被告自身が開発,製造した食品用機械の開発,製造,15
加工及び販売等の事業を展開することを目的として立ち上げられたとし
ても,前記判示のとおり,平成27年にAが被告を退社した後,関東産
機事業部の担当者は不在になり,関東産機事業部が行っていた事業は,
旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うようになったものと認められ,
本件事業譲渡当時,旧関東事業部と関東産機事業部がそれぞれ独立して20
事業を展開していたということはできない。
この点,被告は,関東産機事業部の事業の実績として,平成27年1
1月にメッセ名古屋展示会に排水処理装置を出展したこと,平成28年
10月にタップに対して排水処理場用スクリーンを販売したこと,文明
堂東京に対してカステラ用スライサーを販売したことを挙げるが,証拠25
(甲11,12,乙11)によれば,これらの事業は,被告の本社と旧
関東事業部が協力しつつ行っていたものと認めるのが相当であり,これ
らの事業による売上げが関東産機事業部の売上げとして計上されてい
たことを示す証拠は存在しない。このため,これらの事業をもって,関
東産機事業部が旧関東事業部とは別に独自の異なる事業を行っていた
と認めることはできない。5
また,仮に,上記事業が北海道産機事業部の関東地方における事業で
あると解したとしても,前記判示のとおり,本件事業譲渡契約書には,
北海道産機事業部が関東地方で行うべき事業やそのための資産,契約,
顧客情報等についての規定は置かれていないことに照らすと,本件事業
譲渡契約の対象が食品用機械のメンテナンス及び付属部品,資材の販売10
等の事業に限定されていたと解することはできない。
さらに,被告は,原告代表者が産機事業部の事業に非協力的であった
ことから,食品用機械のメンテナンス及び付属部品,資材の販売のみを
行っていた旧関東事業部の事業を原告に譲渡するに至ったと主張するが,
原告代表者と被告代表者との間に経営方針をめぐる意見の対立があった15
としても,そのことから本件事業譲渡の対象が食品用機械のメンテナン
ス及び付属部品,資材の販売に限られていたと推認することはできない。
(イ)被告は,原告と被告が本件事業譲渡契約後に連名で顧客に送付した挨
拶状に「関東産機事業部につきましては,只今移転準備中にて,決まり
次第追ってご連絡させていただきます。」と記載されていることをもっ20
て,同事業部は,海外メーカー製の食品用機械及び被告自身が開発,製
造した食品用機械の開発,製造,加工,販売等の事業を再開することが
予定されており,原告もそのことを十分に認識していたと主張する。
しかし,同挨拶状の文面には,本件事業譲渡後に関東産機事業部が関
東地方内に事務所を移転することや,同事業部が食品用機械の開発,製25
造,販売等に関する事業を再開する旨の記載はなく,原告が送付した挨
拶状にこれに類する記載は存在しないことにも照らすと,被告の送付し
た挨拶状の文面をもって,同事業部が,海外メーカー製の食品用機械及
び被告自身が開発,製造した食品用機械の開発,製造,加工,販売等の
事業を再開することを予定しており,原告もそのことを了承していたと
認めることはできない。5
(ウ)被告は,本件事業譲渡契約書第9条は,被告が原告の顧客との間で取
引を継続することを前提とするものであると主張する。
しかし,同条項は,被告が,本件事業譲渡後に,その顧客に対し,原
告との取引を中止し,又はその取引の量を減らすように働きかけをする
などして,原告の事業の妨害をしないようにすることを趣旨とするもの10
であり,被告が関東地方内において原告と競合する事業を行うことを前
提とするものとは解し得ない。
(エ)被告は,原告が建設業法3条に基づく機械器具設置工事業の許可を受
けていなかったので,原告が関東産機事業部の事業を譲り受けることは
できなかったと主張するが,建設業法第3条に基づく機械器具設置工事15
業の許可の有無及び要否は,本件事業譲渡契約の効力や各条項の解釈に
影響を及ぼすものではなく,本件事業譲渡の対象に関する上記判断を左
右しない。
オしたがって,本件事業譲渡契約の対象は,被告の関東地方における食品
加工業者及び食品工場等の顧客向けの食品用機械の開発,製造,加工,販20
売又はメンテナンスの事業等を包括的に含むと解するのが相当である。
(2)被告の競業避止義務違反行為について
前記前提事実(第2の1(4))のとおり,被告は,①旧関東事業部の顧客に
対し,平成30年6月付けの「関東産機事業部再開のご案内」と題する葉書
を送付し,関東産機事業部を7月1日から再開する旨の告知をしたこと,②25
同年7月1日,神奈川県大和市内に関東産機事業部の事務所を設けたこと,
③原告からの事業中止の要請に対し,「スーパースライサー,解し装置,ク
リーナー」を「営業品目」に掲げた上で,「当社は機械メーカーとして当社
独自に開発した装置を販売することに特化しておりますので…競業避止義務
には違反はしておりません」などと回答し,関東産機事業部の事業を中止す
ることを拒否したこと,の各事実が認められる。5
上記各事実によれば,被告が本件事業譲渡後に実際に食品用機械を製造・
販売等しなかったとしても,被告は,本件事業譲渡後にスーパースライサー,
解し装置,クリーナー等の食品用機械の製造,販売等の事業を開始し,これ
を継続して行っていたものと認められる。
被告の再開した上記事業は,原告が譲渡を受けた事業と同種の事業に当た10
るということができるので,被告は,譲渡日後10年間は,原告の事業と競
合する同種の事業を行わないとの本件事業譲渡契約書第10条の定める競業
避止義務に違反する。
(3)差し止めるべき行為について
前記判示のとおり,原告が被告から譲渡を受けた事業は,被告の関東地方15
における食品加工業者及び食品工場等の顧客向けの食品用機械の開発,製造,
加工,販売又はメンテナンスの事業等であると解されるが,被告が関東地方
以外に所在する法人等との間で,関東地方に所在する工場等に納品する目的
で,食品用機械の開発,製造,販売に関する営業等を自ら行い又は第三者を
して行わせるおそれがあることも考慮すると,本件において差し止めるべき20
行為は,①関東地方内に本店が所在し,同地方内に工場又は営業所を有する
事業者に対し,食品用機械及びその部品の開発,製造,加工,販売及びメン
テナンスに関する営業を,自ら行い,又は第三者をして行わせること(主文
第1項)及び②関東地方以外の地域に本店が所在する事業者に対し,同事業
者又は他の事業者の関東地方に所在する工場又は営業所に納品その他の行25
為をさせることを目的として,食品用機械及びその部品の開発,製造,加工,
販売及びメンテナンスに関する営業を,自ら行い,又は第三者をして行わせ
ること(主文第2項)と解するのが相当である。
2争点3(損害の有無及び損害額)について
原告は,被告による競業行為により,本件事業譲渡当時の旧関東事業部の売
上金額7726万4593円(平成28年2月度)の20分の1に当たる385
6万3229円を下回らない損害を受けたと主張するが,これを認めるに足り
る証拠はない。
また,原告は,本件事業譲渡後,被告が,文明堂東京に対し,カステラ用ス
ライサーを販売し,また,そのメンテナンスを行ったと主張するが,この事実
についても認めるに足りる客観的な証拠はない。10
さらに,原告は,被告が本件事業譲渡契約書第10条に反して事業を行った
ことにより,何らかの売上減少に伴う逸失利益が生じたとも主張するが,原告
の主張に係る損害が生じたこと自体を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の競業避止義務違反の行為により原告に損害が生じたとは
認められないから,原告の損害賠償請求は理由がない。15
3結論
以上のとおり,原告の請求は,主文第1項及び第2項の限度で理由があるか
らこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,仮執行免脱宣言は相
当でないので付さないこととし,よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部20
裁判長裁判官
佐藤達文
裁判官
三井大有
裁判官
齊藤敦

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