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裁判例


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平成11年(行ケ)第93号 審決取消請求事件
判    決
原      告コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニ
クス エヌ ヴィ
代表者          【A】
訴訟代理人弁護士加  藤  義  明
 同    弁理士      【B】
 同             【C】
 同             【D】
 被      告  特許庁長官 【E】
指定代理人         【F】
 同             【G】
 同             【H】
 同             【I】
主    文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事    実
第1請求
 特許庁が平成10年審判第1790号事件について平成10年11月19日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和61年7月28日にした特許出願(特願昭61-175839号。
1985年7月31日にドイツ連邦共和国でした特許出願に基づく優先権主張)か
らの分割出願として、平成8年7月10日、発明の名称を「移動無線局」とする発
明につき特許出願(特願平8-180985号)をしたが、平成9年10月31日
拒絶査定を受けたので、平成10年2月9日拒絶査定不服の審判を請求した。
 特許庁は、この請求を平成10年審判第1790号として審理した結果、平成1
0年11月19日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同
年12月9日に原告に送達された。
 2 本願特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「本願発明」とい
う。)の要旨
 1つの固定無線局(BS)から複数の移動無線局(MS)に時分割多重方式にし
たがって情報の伝送が行われるようになっている、デジタル無線伝送系に対する移
動無線局(MS)において、移動無線局に、時分割多重フレーム(ZMR)のチャ
ネル容量に対する時間割当て情報を受信しかつ該受信された時間割当て情報に依存
して利用可能な無線伝送チャネルを選択するための手段(26)が設けられている
ことを特徴とする移動無線局(MS)。
 3 審決の理由
審決の理由は、別紙1審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のと
おりであり、審決は、本願発明は、引用例(特開昭56-75741号公報。甲第
5号証)、及び周知技術(例えば、特開昭57-178448号公報-甲第6号
証)から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の
規定により特許を受けることができない旨判断した。
第3 審決の取消事由
1審決の認否
  (1)審決の理由1(手続の経緯・本願発明)は認める。
  (2)同2(引用刊行物)は認める。
  (3)同3(対比・判断)のうち、一致点・相違点の認定(審決書6頁17行な
いし8頁9行)は認める。ただし、相違点は他にもある。
 相違点①についての判断(同8頁11行ないし17行)は認める。
 相違点②についての判断(同8頁18行ないし9頁16行)及び効果についての
判断(同9頁17行ないし20行)は争う。
  (4)同4(むすび)は争う。
 2取消事由
審決は、相違点を看過し(取消事由1)、相違点についての判断を誤った結果
(取消事由2)、本願発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものと
して取り消されるべきである。
  (1) 取消事由1(相違点の看過)
 審決は、本願発明と引用例とのチャネル容量の割当方式の相違点を看過してい
る。
   ア 引用例
 引用例に記載された発明は、子局から親局への通信は、親局が各子局ごとに通信
量に見合ったチャネルを固定的に割り当てておく「固定割当」(Preassignment)方
式のものである。
    (ア) すなわち、引用例(甲第5号証)には、「第1図(別紙2参
照)・・・は本発明にかかる方式の適用される通信網の説明図」(3頁右上欄10
行、11行)と記載されているが、この通信網は、「各子局1、2、・・・、nに
おいては親局から送信されたPCM信号のうちの自局割当分1、2、・・・、nの
みを取出して受信する」(1頁右下欄3行ないし5行)。すなわち、子局による親
局からの信号の受信につき、各子局は、親局からの送信信号を自局(子局)に割り
当てられた時間の信号を受信するように、この通信系の運用開始前に、親局によっ
て設定され指示されている。
 また、引用例の特許請求の範囲請求項1は、「前記各子局は自局割当時間帯にお
いてのみ時分割方式に前記親局に向けて送信を行なう時分割多方向通信網」と規定
しているが、このことは、子局から親局への送信に対しても、親局からの信号の受
信の場合と同様に行われることを意味している。
    (イ) そして、引用例の発明の詳細な説明には、「各子局1、2、・・・、
nからはまた親局へ向けて信号を自局に割当てられた時間帯においてかつ信号伝播
遅延時間について修正を加えて送信を行ない親局には各子局からの信号が送信順に
到着するようにする。
 すなわち親局において各子局からの受信信号が各々重ならず1、2、・・・、n
を時間軸上において整然と並ぶようにする。これは各子局が親局送信信号に含まれ
るフレームビットに同期して自局割当時間帯においてかつ遅延等化器を用いて親局
間の信号伝播遅延時間を修正して送信を行なえば親局では第1図に示すように各局
からの信号1、2、・・・、nを送信順に整然と受信することができる。」(1頁
右下欄5行ないし17行)と記載されているが、この記載も、原告の主張を裏付け
るものである。
    (ウ) さらに、引用例の発明の詳細な説明には、「第4図(a)(別紙2参
照)は10方向(子局数10局)とした時に付加ビット(図中ではPRと斜線で示
す)を決定しtビットとしたものである。」(2頁左上欄17行ないし19行)と
記載されているが、この記載は、この通信系では10の子局にそれぞれフレーム中
の1チャネルが固定的に割り当てられていることを示している。
 第3図(別紙2参照)は、子局2のみにチャネル数3を割り当て、その他の子局
にチャネル数1を割り当てた場合で、N(子局の数)=4の場合を示している。こ
れは、フレームFに割り当てる子局総数を10より小さな数(N<10)にして、
各子局にチャネルを必ず割り当てることを示している。
    (エ) 引用例に記載された発明では、運用途中でチャネル割当てを変更した
いときは、その運用を一旦中止し、改めて次の運用の開始前にチャネルを固定して
割り当てるものである。そのため、引用例には、親局から子局へのチャネル割当情
報を信号として伝送することは全く記載されていない。特に、通信系の作動中に信
号として伝送することは全く記載されていない。
 また、引用例には、通信系が運用されているときに、子局から親局に接続割当を
要求する信号を送信することも記載されていない。
   イ 本願発明
 これに対し、本願発明は、移動局からの要求に応じて固定局がその都度移動局
に、移動局から固定局への通信のためのチャネル容量を割り当てる「接続要求割
当」(demandassignment)方式に関するものである。
    (ア) すわなち、本願特許請求の範囲請求項1には、「移動無線局に、時分
割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割当て情報を受信しかつ該
受信された時間割当て情報に依存して利用可能な無線伝送チャネルを選択するため
の手段(26)が設けられている」と記載され、固定局から移動局に時分割多重フ
レームのチャネル容量に対する時間割当情報が伝送されている。このことは、チャ
ネルが接続要求割当方式であることを意味している。
    (イ) そして、上記特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明【001
4】の、「本発明によれば、移動無線局の瞬時の要求にしたがってチャネル容量の
割当てが最適に行われる無線伝送系に適した移動無線局が提供される。」との記載
とも合致している。
    (ウ) また、本願明細書の発明の詳細な説明【0016】に、「移動無線局
MSにおける受信機は、フレームおよびビット同期および当該移動無線局MSに割
当てられた時分割チャネルの第1ビットおよび最終ビットに関する情報のみを必要
とする。」と記載されているように、本願発明では、移動局から固定局への通信の
ために、移動局から固定局への時分割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対
する時間割当情報が固定局から伝送されるものである。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)
   ア 相違点②
 審決は、「相違点②については、1つの親局と複数の子局との間で時分割多重方
式にしたがって情報の伝送を行う情報伝送方式において、時分割多重フレームのチ
ャンネル容量に対する時間割当てを行う場合、前記1つの親局から前記複数の子局
に対し、前記チャンネル容量に対する時間割当て情報を伝送し、前記複数の子局
は、受信された時間割当て情報に依存して利用可能なチャンネルを選択することが
当業者に周知である・・(例えば、特開昭57-178448号公報参照)」(審
決書8頁18行ないし9頁7行)と認定するが、誤りである。その結果、審決の相
違点②についての判断は誤りである。
    (ア) すなわち、フレームのチャンネル容量に対する時間割当てを行う場
合、前記1つの親局から前記複数の子局に対しチャンネル容量に対する時間割当情
報を伝送し、子局は受信された時間割当情報に依存して利用可能なチャンネルを選
択する技術は、周知技術ではない。
 甲第6号証におけるチャンネル割当方法は、ある親局-子局区間で通信が始まる
ときに相手子局にチャンネルをその都度割り当て、通信が終了すると割当てを解除
する接続要求割当(demandassignment)方式に係るものであるが、この接続要求割
当方式を実施するために、子局にそれぞれ異なるチャンネル割当てを記憶する記憶
回路群を設けており、親局は子局に向けて選択信号を多重化して送信し、子局は受
信した選択信号によって、記憶回路群の1つの記憶回路を選択している。
 このように、甲第6号証では、各子局にチャンネル割当を記憶する記憶回路群を
設けており、チャンネル容量に対する時間割当情報は伝送されていない。
    (イ) さらに、本願発明における時分割フレーム(ZMR)のチャネル容量
に対する時間割当情報とは、発明の詳細な説明【0016】に記載されているよう
に、フレームFの中で各移動局のそのチャネル容量に対する「第1ビットおよび最
終ビット」、すなわち時分割多重フレームZMRの中のチャネルの開始時間位置及
び最終時間位置に関する情報を意味している。
 これに対し、周知例(甲第6号証)に記載の選択信号は、チャネル長を表す信号
を選択するもので、それがフレームZMRのどの位置からどの位置までかを示して
おらず、本願発明の時分割フレームのチャネル容量に対する時間割当情報に相当し
ないものである。
   イ 効果の点
 審決は、「本願発明の構成によりもたらされる効果も引用例及び上記周知技術か
ら当業者が容易に予測しうる程度のものであり、格別のものではない。」(審決書
9頁17行ないし末行)と判断するが、誤りである。
    (ア) 引用例に記載された発明は、子局割当時間を固定しているので、親局
に伝送するチャネルの容量が無駄になる。
 これに対し、本願発明は、例えば音声情報には音声情報に整合するように、デー
タ情報にはデータ情報に整合するようにして、チャネルの容量をその都度子局で随
時変化させるため、無駄になるチャネル容量がなくなり、多数の移動無線局が固定
無線局にアクセスすることができる時間が大きくなるという格別の効果を奏する。
    (イ) また、周知例(甲第6号証)おいては、子局にそれぞれ異なるチャネ
ル割当を記憶する記憶回路群を設けておき、親局からの子局の記憶回路群の1つの
記憶回路を選択する選択信号を送信するものであるため、子局に異なるチャネル容
量に対する記憶回路群を必要不可欠とするものであるのに対し、本願発明は、その
ような記憶回路群を必要としないものである。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1認否
   原告主張の審決の取消事由は争う。
 2反論
(1)取消事由1(相違点の看過)について
   ア 引用例について
 引用例に記載された発明は、チャンネルの割当方式について、固定割当方式であ
るか、接続要求割当方式であるかに限定されないものである。
    (ア) すなわち、引用例には、親局から時分割フレームの各子局に対するチ
ャネル割当てが通信系の運用開始前に行われ、運用開始後はこの割当チャネルが固
定されて時分割多重通信が行われる旨の記載はなく、「各子局のチャネル増減を親
局の指示に従い」という特許請求の範囲の記載によれば、ある子局のチャネルを減
らしたとき、チャネルに空きが生じるのは当然であり、その空いたチャネルはいつ
でも他の子局に割り当てることができることは明らかである。
    (イ) 原告が指摘する引用例中の各記載は、親局と子局1、2、・・・、n
との間で時分割多重方式にしたがってPCM信号を送受信する一般的な通信網、親
局と子局1、2、・・・、nとがPCM信号を送受信しているある時点でのチャンネ
ル割当状態及びPCM信号の送受信状態を示しているにすぎず、親局からの時分割
フレームの各子局に対するチャネル割当てを、運用開始前に行う固定割当方式に限
定するものではない。引用例に親局からのチャネル増減の指示をいつ行うかについ
て記載されていないことは、その指示を行う時が通信系の運用と関係がないという
ことにほかならない。
    (ウ) 原告は、引用例に記載された発明では、親局から子局へのチャネル割
当情報を信号として伝送することは記載されていない等と主張する。
 しかしながら、引用例の時分割多重チャンネルを増減するための指示は、時分割
多重フレーム内で時間割当てを行うための指示であるという点で、本願発明の時分
割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割当情報と差異はないもの
であり、原告の上記主張は失当である。
   イ 本願発明について
    (ア) 本願発明が接続要求割当方式に限定されないことは、その特許請求の
範囲請求項1に、上記接続要求割当方式に関する限定がないことから明らかであ
る。
 すなわち、接続要求割当方式であるためには、通信系の運用開始後において、移
動局からの要求に応じて固定局がその都度移動局から固定局への通信のためのチャ
ネル容量を割り当てるための構成が必要となるが、本願特許請求の範囲請求項1に
は、そのような構成は記載されていない。
    (イ) また、原告が指摘する発明の詳細な説明【0014】の記載は、発明
の詳細な説明における記載であって、特許請求の範囲請求項1における構成事項を
限定するものではない。
 さらに、原告は、本願特許請求の範囲請求項1の記載、及び発明の詳細な説明
【0016】の記載を根拠とする主張をする。
 しかしながら、時分割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割当
情報を固定局から伝送することは、接続要求割当方式の場合だけではなく、固定割
当方式においても構成可能なことであり、上記構成の存在をもって、本願発明が接
続要求割当方式であるということはできない。
  (2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
   ア 相違点②について
    (ア) 周知例(甲第6号証)では、子局の記憶回路群の中のどの記憶回路を
選択すべきかの選択信号を、親局から子局へ伝送している。そして、この選択信号
は、子局の記憶回路群の中のどの記憶回路を選択するかを指定することによって、
記憶回路群の中の各記憶回路に記憶されたチャンネル割当て、すなわち時間割当情
報を指定するものである。したがって、この選択信号は、本願発明における「時間
割当て情報」に相当するものである。
    (イ) 本願発明の「時間割当て情報」は、特許請求の範囲請求項1の記載か
ら明らかなように「時分割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割
当て情報」というのみであり、原告主張のようにそれが時分割多重フレームZMR
の中のチャネルの開始時間位置及び最終時間位置に関する情報に限定的に解釈され
るべき根拠はない。
 したがって、周知例に記載された発明における「選択信号」は、本願発明におけ
る「時間割当て情報」に相当するものである。
   イ 効果の点
 原告主張の効果は、明細書に明示されていないものである上、本願発明は接続要
求割当方式、引用例は固定割当方式であるとの誤った前提に基づくものであり、特
許請求の範囲の請求項1に記載された発明に基づくものではない。
 したがって、原告の効果についての主張は、失当である。
理    由
1 争いのない事実
 本願発明と引用例に記載された発明との一致点・相違点の認定(ただし、原告
は、相違点は他にもあると主張する。)及び相違点①についての判断は、当事者間
に争いがない。
2 取消事由1(相違点の看過)について
 (1)本願発明について
 本願発明が接続要求割当(demandassigment)方式のものに限定されると認めるこ
とはできない。
  ア すなわち、本願特許請求の範囲請求項1には、接続要求割当方式との文言
は記載されていない。
 しかも、本願特許請求の範囲請求項1には、チャネル容量に関して、「移動無線
局に、時分割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割当て情報を受
信しかつ受信された時間割当て情報に依存して利用可能な無線伝送チャネルを選択
するための手段(26)が設けられている」と記載されていることが認められる
が、接続要求割当方式であるために必須の要件であると認められる「通信系の運用
開始後において、移動局からの要求に応じて固定局がその都度移動局から固定局へ
の通信のためのチャネル容量を割り当てるための構成」について記載されていない
し、それを示唆する記載もない。
 したがって、本願発明は、接続要求割当方式だけに限定されるものでなく、固定
割当方式をも含む発明であると認められる。
  イ(ア) 原告は、本願特許請求の範囲請求項1に記載されている「時分割多重フ
レーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割当て情報を受信し」との構成は、
本願発明が接続要求割当方式であることを示している旨主張している。
 しかしながら、「時分割多重フレーム(ZMR)のチャネル容量に対する時間割
当て情報」を固定局から伝送することは、固定割当方式のものであっても、チャネ
ル容量可変型のものにおいては必要な事項であると認められるから、上記記載のみ
をもって、本願発明が接続要求割当方式のものに限定されると認めることはできな
いから、原告の上記主張は採用することができない。
   (イ) 原告は、本願明細書の発明の詳細な説明【0014】の「本発明によれ
ば、移動無線局の瞬時の要求にしたがってチャネル容量の割当てが最適に行われる
無線伝送系に適した移動無線局が提供される。」との記載に基づく主張をする。
 しかしながら、前記のとおり、本願特許請求の範囲請求項1に、接続要求割当方
式であるために必須の要件であると認められる「通信系の運用開始後において、移
動局からの要求に応じて固定局がその都度移動局から固定局への通信のためのチャ
ネル容量を割り当てるための構成」について記載されていない以上、発明の詳細な
説明中の上記記載に基づき本願発明が接続要求割当方式のものに限定されると解す
ることはできない。
   (ウ) さらに、原告は、本願明細書の発明の詳細な説明【0016】の記載に
基づく主張をするが、上記記載は実施例についての記載であると認められるから、
この記載をもってしても、本願発明が接続要求割当方式のものに限定されると解す
ることはできず、原告の上記主張は採用することができない。
 (2) 引用例
 引用例に記載された発明は、固定割当方式のものに限定されない。
  ア(ア) すなわち、引用例(甲第5号証)には、固定割当方式であるとの文言は
記載されていない。
 さらに、引用例には、「チャンネルを固定的に通信していないときでも常に割当
てておく」等チャンネル容量の増減情報を子局に伝達する時期についての記載や、
「チャンネル配分はネットワーク構成の際既に確定されている」旨の記載やそれを
示唆する記載はない。さらに、フレーム構成をみても、「チャンネル配分はネット
ワーク構成の際既に確定されている」ことを特定する構成についての記載や示唆は
ない。
   (イ) かえって、引用例に記載された発明においては、その特許請求の範囲に
「各子局のチャンネル増減を親局の指示に従い・・・増減する」、「各子局は自局
割当時間帯において」と記載されているように、子局に自局割当時間に関する情報
を何らかの手段により伝達することは明らかである。そして、情報伝達手段とし
て、時分割多重通信は本願の優先権主張日当時、周知の情報伝達手段であると認め
られ、複数の子局に対する割当時間情報の伝達手段として、時分割多重通信を採用
することができない理由も認められない。
   (ウ) さらに、前記のとおり、引用例にはチャンネル容量の増減情報を子局に
伝達する時期が明示されていないこと、後記3のとおり、本願の優先権主張日当時
の周知の割当方式として、親局-子局間で通信が始まるときに相手子局にチャンネ
ルを割り当てる方式があったことを考慮すると、引用例に記載された発明は、本願
優先権主張日当時周知の割当方式であった固定割当方式、接続要求割当方式の双方
に対応可能な発明であると認められる。
  イ(ア) 原告は、引用例の詳細な説明における第4図(a)についての記載は1
0の子局にそれぞれフレーム中の1チャネルが固定的に割り当てられていることを
示しており、第3図についての記載は、子局2のみにチャネル数3を割り当て、そ
の他の子局にチャネル数1を割り当てた場合、フレームFに割り当てる子局総数を
10より小さな数(N<10)にして、各子局にチャネルを必ず割り当てることを
示している旨主張する。
しかしながら、原告指摘の上記の点は、1フレームの総ビット数が一定であるた
め、チャンネル数が足りている場合は各子局にチャンネルを割り当て、ある子局が
多くのチャンネル数を必要とする場合には、チャンネル割当てのない子局が存在す
ることもあることを意味しているにすぎないものと認められ、上記記載のみから、
引用例に記載された発明が、通信系の運用の開始前にチャンネル割当てが行われ、
運用開始後はチャンネルが固定されて変更できない固定割当方式のものであると認
めることはできない。
   (イ) 原告は、通信系の作動中に信号として伝送することは、全く記載されて
いない点からも、引用例は各子局にチャネルを固定的に割当てておく固定割当方式
に関するものである旨主張する。
 しかしながら、通信系の作動中に信号として伝送することが記載されていないこ
とは、固定割当て、接続要求割当てのような割当方式によって限定されていないこ
とを示しているにすぎないものと解することもできるから、原告の上記主張は理由
がない。
   (ウ) 原告は、引用例第1図に関する記載中の「自局割当分」、「自局割当時
間帯」等の記載を根拠に、引用例に記載された発明が固定割当方式である旨主張す
る。
 しかしながら、時分割多重方式のものでは、子局はフレーム中の「自局割当
分」、「自局割当時間帯」を認識できなければ受信不能であることは明白であり、
当該認識を必要とすることは、時分割多重方式を採用している以上、固定割当方
式、接続要求割当方式いずれにおいても同じであるから、当該記載を根拠に、引用
例に記載刺された発明が固定割当方式であると認めることはできず、原告の上記主
張は採用することができない。
 (3) まとめ
 以上によれば、本願発明は、接続要求割当方式のものに限定されず、引用例に記
載された発明も、固定割当方式のものに限定されないものであるから、原告の主張
するように、両発明は、本願発明が接続要求割当方式のものであるのに対し、引用
例に記載のものは固定割当方式のものであるとの点で相違する、と認めることはで
きず、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
 (1) 相違点②について
  ア 甲第6号証によれば、同号証には、1つの親局と複数の子局との間で時分
割多重方式に従って情報の伝送を行う情報伝送方式において、親局-子局間で通信
が始まるときに時分割多重フレームのチャンネル容量に対する時間割当てを行う場
合、前記1つの親局から前記複数の子局に対し、前記チャンネル容量に対する時間
割当情報を伝送し、前記複数の子局は、受信された時間割当情報に依存して利用可
能なチャンネルを選択することが記載され、このことは、本願優先権主張日当時、
当業者に周知のことであったものと認められる。
  イ(ア) 原告は、本願発明における「時間割当て情報」は、「時分割多重フレー
ム(ZMR)の中のチャネル開始時間位置および最終時間位置に関する情報」を意
味しているのに対し、周知例(甲第6号証)に記載された「選択信号」は、「時分
割多重フレームの中のサブフレームS1~Snのそれぞれの長さに相当する信号」で
あり、それがフレームFの中でどの時間位置に来るかを表す時間情報ではないので
あるから、周知例の「選択信号」は、本願発明における「時間割当て情報」に相当
しない旨主張する。
 しかしながら、本願特許請求の範囲請求項1には、「時間割当て情報」を「チャ
ネル開始時間位置および最終時間位置に関する情報」と限定して解すべき根拠とな
る記載は認められないばかりでなく、技術上の観点からしても、そのように解釈す
べき必然性は認められないから、原告の主張は、その前提において理由がない。
 しかも、本願特許請求の範囲請求項1には、「時間割当て情報」の「受信」につ
いての具体的構成は記載されていないから、子局は、自局の受信部が時分割多重フ
レームの中のどの部分に自局割当てが存在するか分かれば足りるものであり、多重
フレームが時間で分割されている場合には、自局割当ては、当然時間で規定される
こととなるところ、時間規定の仕方として、初めと終わりの時刻を設定すること
も、時間の始まりからの長さを規定することも、規定手段としては周知の事項であ
ると認められるから、当該時間の規定の仕方は、単なる設計的事項であると認めら
れる。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
   (イ) さらに、原告は、甲第6号証におけるチャンネル割当方法は、子局にそ
れぞれ異なるチャンネル割当てを記憶する記憶回路群を設けており、親局は子局に
向けて選択信号を多重化して送信し、子局は受信した選択信号によって、記憶回路
群の1つの記憶回路を選択しているものであり、親局は子局に対してチャンネル容
量に対する時間割当情報を伝送していない旨主張するが、チャネル情報の具体的伝
送手段が本願特許請求の範囲請求項1において限定されていないから、この点の原
告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、理由がない。
  ウ 上記周知技術を勘案すれば、引用例に記載された発明における、1つの無
線局からの指示を、時分割多重フレーム(ZMR)のチャンネル容量に対する時間
割当情報とし、時分割多重フレーム内での時間割当てを行うチャンネル選択手段
を、その時間割当情報を受信し、その受信された時間割当情報に依存して利用可能
な無線伝送チャンネルを選択するためのものとすることは、当業者が容易になし得
ることであると認められ、審決の相違点②についての判断に誤りはない。
 (2) 効果の点
  ア 原告は、本願発明には、チャンネル容量を音声情報、データ情報に整合す
るようにするため、親局からの時分割多重フレームにチャンネル容量を適切に選択
することによって無駄になるチャンネル容量がなくなり多数の移動無線局が親局に
アクセスできる時間が大きくなり、しかも、甲第6号証の周知例における記憶回路
群を必要としないという引用例にない格別の効果がある旨主張する。
   (ア) しかしながら、甲第5、第6号証に見られるように、チャネル割当てを
変更することは、各子局の通信量に合うチャネル割当量にして、通信効率を上昇す
るさせるためであることは当業者ならば当然に認識できる事項であるから、無駄に
なるチャンネル容量がなくなり多数の移動無線局が親局にアクセスできる時間が大
きくなるとの効果は、格別のものではない。
   (イ) 記憶回路群を必要としないとの効果については、前記のとおり、チャネ
ル情報の具体的伝送手段が本願特許請求の範囲請求項1において限定されていない
から、この点の効果に基づく原告の主張は、本願特許請求の範囲の記載に基づかな
い主張であり、理由がない。
  イ よって、効果の点についての原告の主張も理由がない。
4結論
 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文の
とおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成12年3月16日)
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 市  川  正  巳

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