弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
 1 原告らの請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
被告は,Aに対して,2106万5100円を請求せよ。
第2 事案の概要
本件は,犬山市の住民である原告らが,同市が都市基盤整備公団(以下「公
団」という。)との間で締結した業務委託契約が,地方自治法(以下「法」とい
う。)234条2項,地方財政法(以下「地財法」という。)4条1項などに違反
した違法なものであり,同契約に基づく委託代金の支払も違法であると主張して,
法242条の2第1項4号に基づき,同市の市長(執行機関)である被告に対し
て,公金を支出した市長個人に同代金相当額の損害賠償を請求することを求めた住
民訴訟である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事
実)
(1) 原告らは犬山市の住民であり,被告は,犬山市を代表する執行機関である。
(2) 犬山市犬山駅西地区(名鉄犬山駅西南にあって,愛知県犬山市大字犬山字富士
見町地内を含む別紙図面の赤線で囲まれた地域。約3.044ヘクタール。以下
「駅西地区」という。)を含む中心市街地は,かつては城下町として文化,経済の
中心であったが,近年はモータリゼーションの進展等に伴い,にぎわいが失われつ
つあったところ,平成11年8月,大型ショッピングセンターの「ユニー犬山店」
が閉店したことをきっかけとして,平成12年1月21日,「犬山駅西再整備事業
(以下「本件事業」という。)推進協議会」(以下「駅西推進協議会」という。)
が組織された。
(3)犬山市は,平成12年7月,公団に対し,「犬山駅西地区市街地再開発事業基
本計画策定業務」を委託した(以下「基本計画策定委託契約」という。)。
(4) 次いで,犬山市は,平成12年8月,駅西地区にある犬山市庁舎の建て替えを
検討するため,「犬山市新庁舎建設事業推進協議会」(以下「新庁舎推進協議会」
という。)を組織した。
(5) 犬山市は,平成13年2月,駅西推進協議会の意向を踏まえて,「犬山駅西地
区再整備の提案」(以下「再整備の提案」という。乙3)を作成,公表し,公団
も,同月末ころ,基本計画策定委託契約に基づく成果物として,報告書(以下「基
本計画報告書」といい,その内容を「基本計画」という。乙10)を作成し,犬山
市に引き渡した。
(6) 犬山市は,平成13年3月,新庁舎推進協議会の提案を受けて,犬山駅東南方
向にある橋爪・五郎丸地区を新庁舎の候補地とする「犬山市新庁舎建設基本構想」
(以下「新庁舎基本構想」という。乙2)を発表し,さらに,同月,「犬山市中心
市街地活性化基本計画」(乙1)を策定した。
(7)平成13年3月期の犬山市議会において,一部議員から,本件事業に対する反
対意見が出され,これとともに,犬山市が公団との間で締結することを予定してい
た「犬山駅西地区再整備事業事業化検討業務の委託に関する協定(以下「本件委託
契約」という。)」に関する予算の削減を求める修正動議が提出されたが,修正案
は議会において否決された。
(8) 地元の商店街をもって組織された「協同組合犬山駅前通り発展会」(以下「発
展会」という。)は,平成13年7月10日,犬山市議会に対し,市庁舎の他地区
への移転に反対する旨の要望書を提出した(甲9)。
(9) 犬山市は,平成13年8月20日,公団との間で,委託代金を2106万51
00円(消費税等を含む。)と定めて,本件委託契約を随意契約の方式で締結した
(甲3)。
(10) 公団は,平成14年3月20日,本件委託契約に基づく業務を完了し,同月
27日,犬山市の検査を受けた後,成果物として「13-犬山駅西地区再整備事業
事業化検討調査業務報告書」(以下「本件報告書」という。乙8)を引き渡した。
そして,犬山市は,同年4月15日,前記委託代金を公団に支払った(以下「本件
支出」という。)。
(11) 原告らは,平成14年7月19日,犬山市監査委員に対して,前記委託代金
相当額を犬山市に返還するよう求める住民監査請求を行ったが,同委員は,同年9
月13日,請求人らの請求は理由がないとの決定を行い,そのころ,原告らに通知
した。
2 争点
(1) 本件委託契約及び本件支出は,地財法4条1項に反するか。
ア 基本計画策定委託契約との重複の有無
イ 本件事業の実現可能性の有無
ウ 地権者らの同意形成を外部委託することの是非
(2) 本件委託契約は,法施行令167条の2の定める随意契約の要件を満たさず,
法234条2項に反するか。
 3 当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)について
   (原告ら)
本件委託契約は,以下のとおり,必要性のないものであり,本件支出は,必要最少
限度の支出とはいえず,地財法4条1項に反し,その原因となる本件委託契約も違
法である。
ア基本計画策定委託契約との重複について
犬山市は,平成12年7月,公団との間で,委託代金約1500万円との約定で基
本計画策定委託契約を締結し,平成13年2月末,地元及び地権者の一部から出さ
れていた要望を踏まえた本件事業の内容等についての専門家の検討結果を内容とす
る基本計画報告書を得ていた。ここに記載された基本計画は,犬山市庁舎の全面移
転を前提とするものであったところ,本件委託契約は,基本計画を推進するため,
その事業化についての調査検討を委託するものである。
この点につき,被告は,本件事業を実施する場合,どのようなプランが最良なのか
という点を含めて幅広い視点で検討することを目的として本件委託契約を締結した
ものであると主張するが,そのようなものでないことは,本件報告書が「平成13
年度検討目的」として「昨年度の基本計画をタタキ台として」事業化の検討を進め
ることであると述べていること,その内容が基本計画報告書の引き写しであること
からも明らかである。
したがって,本件委託契約は,屋上屋を重ねるものであり,何らの必要性がないも
のである。
   イ 本件事業の実現可能性について
(ア) 本件事業が前提とする基本計画は,土地区画整理法及び都市再開発法に基づ
く事業を基本的内容としているところ,土地区画整理組合の設立認可には,地権者
の3分の2以上の同意が必要である(土地区画整理法18条)。
ところが,基本計画及びこれを前提として策定された再整備の提案に対しては,地
権者の大半に強い反対意見があり,地元の商店街で組織されている発展会も,平成
13年7月10日に犬山市庁舎の移転に強く反対する要望書を提出している。この
ように,基本計画について地権者らの基本的コンセンサスを欠く状況の下では,事
業の具体化のための検討等を委託しても,将来,基本計画の大幅見直しや計画の中
止等という事態になれば,その検討作業は全く無駄なものとなってしまう可能性が
大きいし,仮に,基本計画に沿って犬山市が本件事業を進めようとしても,いずれ
土地区画整理組合の設立自体が不可能となり,事業は初期の段階で頓挫する蓋然性
があることは明らかである。
(イ) また,本件事業における建物整備については,都市再開発法の定める市街地
再開発事業の手法によることを予定しているが,基本計画による事業対象区域は,
同法3条3号,4号所定の要件を満たしていない。
すなわち,同条3号は,「土地の利用状況が著しく不健全」であることを要件とす
るが,これは,施行区域内に十分な公園がなく子供たちにとって遊ぶ場所がほとん
どないとか,施行区域内の道路では自動車の通過交通が頻繁であるにもかかわらず
歩道が全くなく,買い物,通学,通勤に際し危険度が高いというように,必要な公
共施設を欠いている場合をいうところ,対象区域である駅西地区は,住宅街ではな
いから,公園等を必要とせず,自動車の通過が頻繁な駅前道路には両側に歩道が設
置され,他に交通頻繁な道路はなく,密集市街地でもないから,「利用状況が著し
く不健全」な区域とはいえない。
また,同条4号は,「当該区域内の土地の高度利用を図ることが,当該都市の機能
の更新に貢献すること」を要件としているところ,ここでの都市機能更新とは,都
市を構成する各部分の機能更新をいうが,ユニー犬山店の撤退は,駅西地区の店舗
は採算が取れないという市場原理に基づくものであって,さらに市役所が移転すれ
ば,駅西地区の集客能力はますます低下し,犬山駅西口にテナントビルを整備する
等の枠組みを用意したところで,採算が取れないことは明らかである(このことは
ユニー犬山店閉鎖後のビルへのテナント募集が芳しくなかったことからも裏付けら
れる。)。したがって,駅西地区の都市機能は,市役所の移転によって低下するこ
とが避けられず,テナントビル整備等の再開発をしても,都市機能の更新にはつな
がらない。また,本
件報告書は,B病院の建て替えが都市機能の更新に貢献すると述べるが,現状でも
B病院の建物は十分に機能しており,その建て替えが都市機能の更新につながらな
いことは明らかであるし,そもそも一民間病院の近代化は,これを経営する医療法
人自らが行うべきである。
   ウ 地権者の同意形成を外部委託することについて
本件委託契約は,地権者の同意形成を公団に委託するものであるが,都市再開発を
実施するに際し,住民に情報を提供し,住民間の討論を組織し,意見調整を行うこ
とは,地方公共団体自身の業務であって,外部事業者に業務委託することは許され
ない。
(被告)
原告らの主張は,以下のとおり,主張自体失当である。
ア基本計画策定委託契約との重複について
本件委託契約は,公団からの基本計画報告書の成果も参考にして,基本計画を基
に,仕様書(甲4)記載の整備区域の可変性,土地区画整理事業及び都市再開発事
業の区域の可変性,全体事業の成立性,一体施行の事業スケジュール等の具体的事
項について,事業化の検討を委託することを内容とするものであり,本件報告書
も,基本計画の問題点を整理した上で,地権者意向を踏まえた整備計画及び事業費
の抑制方策を基本方針として,そのために必要な検討を行っているものである。
原告らは,本件委託契約が調査検討の対象とする事業内容は,基本計画と同様,犬
山市庁舎の全面移転を前提とする点で確定しているかのごとく主張するが,本件事
業は,その内容が確定されているわけではない。本件委託契約は,本件事業を行う
場合には,どのようなプランで行うのが最良なのか,多くの地権者の合意できる可
能性の高いプランはどのようなものか等の点を含め,幅広い視点で具体的に検討す
ることを目的として締結されたものである。
したがって,本件委託契約は,基本計画策定委託契約と重複するものではない。
イ 本件事業の実現可能性について
(ア) 本件事業を実施する場合には,土地区画整理法及び都市再開発法等の活用が
柱となるが,その際には,可能な限り,地権者の同意を得ることが望ましい。確か
に,発展会は市庁舎の移転に反対する旨の要望書を提出しているが,同会も本件事
業そのものに反対しているものではない。市庁舎は,庁舎そのものの老朽化,狭あ
い,耐震性能などの諸問題を抱えており,その移転は,全市民の問題であって駅西
地区の地権者だけがその決定権を有しているものでもない。
また,地権者の3分の1の反対があれば,土地区画整理組合の設立はできないが,
土地区画整理事業や都市再開発事業は,組合施行の方法に限られるものではなく,
種々の施行者による方法もあるから,法的に不可能ということはない。そもそも,
明日にでも土地区画整理事業や都市再開発事業が始まるというものでもない。本件
委託契約は,駅西地区の将来の再整備事業を行うために,種々の具体的問題につい
て検討を行う目的のものであり,これによって得られた成果は,貴重かつ重要なも
のである。
(イ) 客観的にみて土地の利用状況が著しく不健全であれば,都市再開発法3条3
号の要件に該当するというべきであり,原告ら主張のような例示の場合に限られる
ものではない。また,「公共施設」は,原告らが理解する内容のようなものではな
い。
ウ地権者の同意形成を外部委託することについて
本件事業のように権利関係の複雑な地区における事業化を検討するに際し,事業内
容そのものの検討とともに,採算性等についても,専門家の意見に耳を傾け,地元
の要望や地権者の意向をも踏まえて,事業計画の策定をすべきことは当然であると
ころ,犬山市は,その一環として,本件委託契約を締結したのであって,何ら違法
ではない。
(2) 争点(2)について
(原告ら)
法234条2項は,地方公共団体が請負等の契約を締結しようとする場合には,原
則として一般競争入札により行うことを義務づけ,例外的に政令で定める要件を満
たす場合に限り随意契約によることを認めているところ,以下のとおり,随意契約
の方式によった本件委託契約は,法施行令167条の2の定める要件を満たさな
い。
ア 被告は,公団が随意契約によらねば本件委託契約の締結ができないことを理由
に,その性質又は目的が競争入札に適しない旨主張するが,公団が随意契約によら
ねばならないことは,あくまで公団側の事情にすぎないから,このことは何ら本件
委託契約が競争入札に適しないことの根拠とならない。そもそも都市基盤整備公団
法28条は,民業を圧迫することを避けるのが基本的趣旨である。しかも,公団が
手掛けた都市再開発事業は,JR稲沢駅前の旧国鉄操車場跡地やJR勝川駅前の再
開発事業のように,見通しの甘さから各地で失敗している。
イ また,被告は,公団が法律に基づく特殊法人であり,資本金は政府,地方公共
団体の出資によるものであることから,資力,信用について全く心配がないと主張
するが,公団は,1兆8654億円の債務超過の状態にあり,近い将来において廃
止が予定されているなど,資力・信用共にない。
代金についても,十分な積算を行い,地方公共団体にとって有利な価格で締結すべ
きところ,本件委託契約においては,これらが尽くされているとはいえない。
ウ 民間であっても,都市再開発事業のノウハウと実績を有する業者は少なくな
く,むしろ,競争入札によって民間の業者に委託した方が,地方公共団体にとって
有利な価格が実現する可能性が高いというべきである。
(被告)
公団は,都市基盤整備公団法に基づき,都市地域等における居住環境の向上,都市
機能の増進を目的として,国等の出資により設立されている特殊法人であり,十分
な資力,信用を有する法人である。しかも,市街地再開発事業について,①直接施
行,②再開発組合又は地方公共団体との協調施行の双方の事例を合わせると,全国
で111地区の実績を有しており,多くのノウハウを蓄積していることに照らす
と,本件委託契約において犬山市が仕様書によって期待する成果をもたらすことが
現実に可能な技術,経験等を持ち合わせた組織であることは明らかである。
しかるところ,公団は,地方公共団体等の委託を受けて初めて業務を行うことがで
き(都市基盤整備公団法28条),入札に参加することはできないと解されてい
る。そのため,公団に業務を委託しようとすれば,随意契約の方法をとるしかない
ところ,被告は,公団に業務を委託することが,その目的を達成する上で,より妥
当であり,犬山市の利益に適うと判断して,本件委託契約を締結したのであり,法
施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものを
するとき」に該当するから,法234条2項に反しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件委託契約及び本件支出は,地財法4条1項に反するか。)につ
いて
(1) 一般に,地方公共団体が,都市部の再開発もしくは土地区画整理等の事業を実
施するには,ある程度の長期的な予測に基づいて,一定の目標を設定し,それを施
行する地域を確定し,それにふさわしい手法,実施形態等を選択することを要す
る。そのためには,どのような目標が適当か,どのような内容にすべきか,対象地
域をどのように定めるか,地権者等の意向をどのように反映させるか,どのような
施行方法によるか等について,事前に十分な調査・検討を尽くすことが必要である
ことはいうまでもない。そして,地方公共団体自らが,上記の各事項について調
査・検討することができるのは当然であるが,事柄の性質によっては,専門的知見
を有する外部の団体等に調査・検討を委託することができるし,あるいは,かかる
方法がむしろ適切と考え
られる場合もあり得る。その場合,地方公共団体は,しかるべき団体等に調査・検
討業務を委託する旨の契約を締結することになる。
ところで,法138条の2は,普通地方公共団体の執行機関が,その事務を誠実に
管理・執行すべき義務を負う旨定め,同法2条14項は,その事務を処理するに当
たって,最少の経費で最大の効果を挙げるべきことを定めている。また,地財法4
条1項は,地方公共団体の経費は,その目的を達するために必要かつ最少の限度を
超えて支出してはならない旨規定している。これらは,いずれも地方公共団体の財
政の健全化確保という趣旨から規定されたものと考えられるところ,法2条16
項,17項の法意に照らすと,単に会計事務担当職員に対して訓示的に事務の在り
方を示すにとどまるものではなく,地方公共団体にとって不必要あるいは過大な経
費負担をもたらす契約が締結された場合には,その契約締結行為は違法と評価され
ることがあり得るとい
うべきであり,その程度が更に著しく,当該契約の法的効力を否認しなければ前記
各法条の趣旨を没却すると考えられる場合には,当該契約は無効となり,したがっ
てその履行としての公金の支出も違法と判断されることがあり得ると解するのが相
当である。
もっとも,いかなる契約が不必要であるのか,あるいは過大な経費負担をもたらす
というべきかは,第一次的には,当該地方公共団体が,意図した行政目的実現の見
地から,当該契約の目的,性質,給付内容,締結に至った経緯等を総合的に考慮し
て判断すべきものであるから,上記のように違法であるとの評価をするためには,
その裁量権の範囲を逸脱し,あるいはこれを濫用したと認められる場合に限られる
というべきである。
以下,かかる見地から,本件委託契約及び本件支出の違法性の有無について検討す
る。
(2) 前記前提事実及び証拠(甲3,4,9,10,16,乙1ないし3,6の1及
び2,7ないし11)並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ
る。
ア 犬山市は,元々,国宝の犬山城のある名鉄犬山駅の西側地域を中心に発展して
きた町であり,中でも犬山城周辺は,犬山文化ともいうべき町衆文化を築き上げた
中心地であって,現在も歴史を感じさせる町並みが残っている。しかし,近年,犬
山駅の西側は,その東側に新興住宅街ができたこと,犬山城以外の観光施設がいず
れも同駅の東側にあること,基盤整備の立ち後れがあることなどから,住環境とし
ての魅力が低下し,人口は減少傾向にあり,商業活動も沈滞傾向で,商店街として
の魅力が乏しくなりつつあった。
駅西地区においては,その北西部分にB病院があり,その南には大型ショッピング
センターのユニー犬山店があり,その更に南に犬山市庁舎があったが,同地区にお
いても,上記の傾向は免れず,シャッターが閉まった廃業店舗が目立つようにな
り,平成11年8月29日には,ユニー犬山店が閉店した。
イ そこで,犬山市は,平成12年1月21日,衰退した駅西地区の再開発が必要
であるとの観点から,土地開発公社が買い取ったユニー犬山店の跡地の活用を中心
課題として,駅西推進協議会を組織した。同協議会は,本件事業の計画の策定及び
整備の推進について必要な事項を協議するため設置された協議会であり(乙6の
2),同協議会の委員には,犬山議会議長,同副議長,犬山商工会議所の代表者,
発展会の代表者5名,地域住民の代表者4名が含まれていた(乙6の1)。
さらに,犬山市は,同年4月25日,駅西地区を含む中心市街地約94・7ヘクタ
ールの活性化を図るため,犬山市中心市街地活性化推進協議会(以下「中心市街地
推進協議会」という。)を設置し,同協議会は,6回の幹事会,11回の連絡協議
会,意識調査,検討会,意見交換会等を開催した。
ウ他方,犬山市は,既存の犬山市庁舎の規模・機能は共に限界を超え,耐震性の
点からも問題があるとして,平成12年4月,新庁舎建設事業に関わる計画策定に
ついて必要な事項を調査・研究するためのワーキンググループを設置した。
そして,犬山市の同年3月期市議会において,新庁舎建設等の案件が検討され,市
庁舎を現在の場所で建て替えるか,あるいは郊外に移転するかを十分に調査する必
要があるとして,調査のための予算が承認されたことから,犬山市は,同年7月,
公団との間で,基本計画策定委託契約を締結した。その契約書添付の仕様書に記載
された委託業務の内容は,以下のとおりである。
①都市計画に係る検討
② 施設建築物の概略計画の検討
③ 住宅に係る計画の検討
④ 地区施設に係る概略設計の検討
⑤ 施設需要調査
⑥ 権利変換計画の概略の検討
⑦ 事業スケジュールの概略の検討
⑧ 資金計画の概略の検討
エ その後,新庁舎建設に向けた検討を深めるため,平成12年8月,新庁舎推進
協議会が組織された。同協議会は,同月9日から平成13年3月21日までの間,
合計8回の会議を開き,現地見学も行った上で,新庁舎は,長期的な展望の下に,
犬山市の自治と文化のシンボルとしての内容を持ち,新しいまちづくりにつなが
る,市民が誇ることのできる魅力的な都市空間を作り出すものでなければならず,
しかも,社会の変化に対応しつつ行政の簡素化,効率化に資するものであるととも
に,21世紀における市民共有の財産として,幅広い市民に親しまれ,長期間にわ
たり積極的に活用される良質さを備えたものにすることが必要であるという観点か
ら,「行政・情報・防災・交流の総合拠点として新しいまちづくりの核となるシテ
ィホール」との理念を
まとめ,これを基に,現状の市庁舎敷地が狭あいなため,その機能が複数に分散し
ていること,緊急防災時などに対応できるスペースがないことなどの理由により,
新しい敷地の確保が必要であると判断して,建設候補地として11地区を検討し
た。そして,新庁舎推進協議会は,平成13年2月,新庁舎を犬山駅の南東方向に
位置する橋爪・五郎丸地区に移転することを犬山市に提案し,同年3月,犬山市
は,同地区を最終候補地とする新庁舎基本構想をまとめた(乙2)。
オ 駅西推進協議会は,7回の協議会,6回の勉強会等を開催して,再整備基本計
画の調査区域の協議,駅西地区に求められる機能等の検討を行った。犬山市は,平
成13年2月,同協議会の検討結果を踏まえて,再整備の提案を作成,公表した
(乙3)。
同提案は,駅西地区は犬山城や城下町への入り口らしくないこと,ユニー犬山店の
閉鎖によって買い物が不便になり,にぎわいがないこと,道路が整備されていない
こと,緑が少ないこと,老朽化した建物が多いことなどが現状の問題点であると指
摘し,駅前から市庁舎周辺までを含めた駅西地区を,中心市街地に暮らす人たちの
生活を支え,地域の情報や文化を発信する地区として,商業・医療・公益などの
「生活拠点」としての機能を再構築し,併せて国際観光都市犬山の玄関として,歴
史的・文化的資産の蓄積を生かしたまちづくりを行うことを提言している。その提
言には,駅西地区の北西部分に生活文化・観光及び地域密着商業施設を置くにぎわ
いゾーンを,犬山駅に連なる北東部分に駐車場ゾーンを,にぎわいゾーンの南側に
公益・市民サービス地
区を,その更に東南側付近に医療・福祉・公益・居住機能を置くやすらぎゾーンを
それぞれ配置したイメージ図が添付されている。
カ 犬山市は,平成13年3月,中心市街地推進協議会の検討結果を踏まえて,基
本計画を策定した(乙1)。同計画は,「歩いて暮らせるまち・歩いて巡るまち」
をビジョンとして示し,中心市街地を6つのゾーンに分けて,それぞれの将来像の
イメージを描いている。そのうち,駅西地区については,「まちの生活を支えるゾ
ーン」として,駅前の利便性を生かした「公益・市民サービス機能」や「駐車場機
能」を有し,地域密着型商業施設や新しい生活文化を創り出す「にぎわい」があ
り,医療・福祉・居住等のやすらぎのあるまちとしてイメージされている。
キ 公団は,基本計画策定委託契約に基づいて,上記各協議会に対して資料を随時
提供してきたが,平成13年2月末,それをまとめた成果物として,基本計画報告
書(乙10)を作成し,犬山市に引き渡した。
同報告書は,「第1章 現況および基礎的条件調査」,「第2章 概略整備構想の
策定」,「第3章 施設計画策定」,「第4章 事業計画の検討」,「第5章 今
後の検討課題」の5章にわたる本文と,「生活文化・観光ゾーンの提案」及びイメ
ージパース6枚,合計70頁から構成されている。その内容は,第1章において
は,駅西地区及び周辺の状況を実地調査し,地権者ヒアリング,商業需要調査及び
住宅需要調査を行った上で,駅西地区の約3万0400平方メートルを計画対象地
区に設定するとともに,地域の土地建物権利関係を明らかにし,第2章において
は,駅西地区の開発コンセプト(中心市街地の生活を支えるまち)に基づき,その
実現に必要な機能として,①商業の再構築,②行政サービス機能の整備,③医療・
福祉機能の充実,④居住
機能の整備,⑤都市環境整備の5項目を整備目標とすべきことを提案した上,事業
手法としては,計画対象地区全域で土地区画整理事業を施行し,一部の地区で市街
地再開発事業を施行する,いわゆる一体的施行を提案し,第3章においては,道路
や公園の基盤施設整備計画と,地域商業棟,医療・福祉棟,駐車場棟,住宅棟から
成る施設建築物の概略計画(規模,配置等)を提示し,第4章においては,土地区
画整理事業と市街地再開発事業について,対象面積を基にした具体的な収支計算の
試算と分析結果を提示し,第5章においては,基盤施設整備上及び事業成立上の課
題を要約して提示している。
ク平成13年3月期の犬山市議会において,一部議員から,本件事業についての
反対意見が出され,これとともに,本件委託契約に関する予算の削減を求める修正
動議が提出されたが,修正案は議会において否決され,本件委託契約に係る予算原
案が可決された。
ケ 新庁舎推進協議会は,平成13年度になって,基本構想を踏まえた事業計画の
検討を公開で行い,市民の意見を求めるべく,平成14年7,8月,市内の4地区
で市民会議を開催するなどの活動を行った。これらの活動の集大成として,同協議
会は,同年9月18日,犬山市に対して事業計画への提案を行っている。
コ 基本計画報告書の公表を受けて,駅西地区の地権者らは,平成13年5月25
日,駅西地区のまちづくりを検討することを目的として「駅西を考える会」を設立
した。同会は,勉強会を重ねる中でワークショップによる整備計画づくりを企図
し,後記のとおり,公団の参加も得て,同年8月から作業を本格化させ,合計12
回の会合を経てワークショップ案をまとめた。
他方,駅西地区の地元商店街で組織する発展会は,平成13年7月10日,犬山市
議会議長あてに,市庁舎の他地区への移転に反対する旨の要望書を提出した(甲
9)。同要望書には,「市庁舎建替えによる移転はあくまで駅西再整備事業の中で
考えていくことを再三提言して参りました。しかし,市庁舎建替え問題が単独プロ
ジェクトとして扱われる様になると市庁舎のみの理想像を実現する手順に従えば新
天地への移転の答えに到達するのは必然でありましょう。現在,我が犬山市はその
中心市街地をいかに活性化させるかに直面しており,特に駅前地区の商業も含めた
再開発の方法にはその命運がかけられております。…犬山市庁舎移転が既成の事実
のごとく報じられたりましてや私どもが移転に賛成しているとの噂が伝わるなど論
外で犬山市庁舎移転に
は断固として反対を表明いたします。」と記載されている。
サ 犬山市は,平成13年8月20日,公団との間で,業務に要する費用(委託
費)の金額を金2106万5100円,委託期間を協定締結日の翌日から平成14
年3月20日までとそれぞれ定めて,本件委託契約を締結した。その協定書添付の
仕様書に記載された委託業務の概要は,以下のとおりである。
(ア)業務委託名 犬山駅西地区再整備事業事業化検討業務
(イ) 業務内容 
  ① 権利者の合意形成の支援
      ⅰ 権利者の会等への支援 
  権利者の会の内容,資料等の検討及び作成,視察先の選定を行
う。また,権利者の会にオブザーバー参加し,専門的事項の助言等を行う。
      ⅱ 権利者へのアンケート調査の実施  
  ② 事業化検討
  平成12年度に策定した基本計画を基に,権利者の意向等を斟酌
し,事業化検討を行う。
  ⅰ 事業全体の具体化検討
  a 整備区域の可変性検討
  権利者の意向等による整備区域を検討する。
       b 区画整理事業及び再開発事業の区域の可変性検討
         権利者の意向等による区画整理事業及び再開発事業区域を検討
        する。
  c全体事業の成立性の検討
  整備区域,区画整理及び再開発事業区域の変更に伴う事業成立
性を検討する。併せて,民間活力の導入による事業手法を検討する。
 d 一体施行の事業スケジュール等の検討
区画整理事業,再開発事業の一体施行を進めていくための調査,都市計画決定,事
業計画認可等の事業スケジュールを検討する。
 e 都市計画内容の検討
法定事業を実施する場合の都市計画関係事項の検討を行う。
  ⅱ 施設建築物の具体化検討
ⅲ 権利者対応策及び権利変換モデルの作成
ⅳ 今後の課題整理
シ 公団は,本件委託契約に基づき,駅西を考える会等を通して意見を収集,分析
した上で,平成14年3月20日,委託された業務を完了し,同月27日,成果物
として本件報告書を犬山市に引き渡した。
同報告書は,「第1章 調査実施基本方針」,「第2章 ワークショップ計画案の
検討」,「第3章 まちづくり構想の策定」,「第4章 施設建築物計画の検
討」,「第5章 事業計画の検討」,「第6章 今後の検討課題」の6章,合計7
8頁から成り,その冒頭の「はじめに」には,「本調査は,平成12年度に実施し
た「…基本計画策定業務」を受けて事業推進のための検討調査を行ったものであ
る。…基本計画は,犬山市が,まちづくりを進める立場で,権利者や市民に対して
議論のたたき台を提供しようとして検討したものである。その性格上,計画の合理
性を優先してつくられたもので,必ずしも権利者意向が十分に反映されたものでは
なかった。犬山市では,…市役所内部,市議会,…推進協議会,駅西を考える会等
に説明し,意見を聞き,今
後の進め方について検討を重ねてきた。その結果,…事業費縮減が必要であるこ
と,権利者意向を反映したものに改定することが必要な段階に至ったことが指摘さ
れた。こうした事情をふまえて,平成13年度には,①権利者意向をふまえた整備
計画を検討すること,②事業費を抑制する方向で検討することの二点を基本方針と
して,本調査を実施することとなった。」との記載がある。
その内容は,第1章においては,事業手法について,基本計画報告書の段階から特
段の変更がないので,そこで提言したように,地区全体を土地区画整理事業によっ
て基盤整備し,その一部で再開発事業によって建物整備を行う一体的施行を前提と
すべきこと,権利者意向については,事業の進捗状況等によって可変的であるた
め,事業初期の段階で一律に個別ヒアリングを行うことは得策ではないとして,駅
西を考える会等を通して意見を収集,分析して計画に反映させる手法を採用したこ
と,事業成立性については,事業対象区域の検討,工事費等の削減策,民間活力導
入制度の紹介と分析などが示されており,第2章においては,平成13年5月25
日に発足した駅西を考える会における12回の勉強会に参加して整備計画の検討
(ワークショップ)を協
同で行った成果であるワークショップゾーニング案(駅西地区の北側部分に地域商
業ゾーンを置き,その南側に,自走式駐車場と住宅棟を置き,その南側に緑地公
園,更に南側に病院棟,その東側に岩田洗心館の美術館を置くというもの)が図面
によって提示され,第3ないし第5章においては,基本計画報告書における開発コ
ンセプトを基に,ワークショップで提案されたコンセプト(Fresh Town
 Inuyama)を構成するキーワードを取り入れて,①中心市街地に暮らす人
たちの生活拠点を整備する,②国際観光都市犬山の玄関をつくる,③緑と憩いと安
らぎのある人が主役のまちをつくる,を基本方針とすべきであり,導入機能につい
ては,基本計画報告書で示したものと変わりはないが,ワークショップでは公園,
広場を大きく取りたい
との要求が鮮明になったことを受けて,基盤整備計画及び土地利用計画について
は,全域に道路を均等に配置する案と道路率を最小にする案の2つのケース(それ
ぞれに派生案あり。)を想定し,それぞれの場合における商業棟の延べ床面積や駐
車場台数,道路幅員等を示し,各ケースについて比較検討の上,最適と考えられる
案を基に,施設建築物の具体的検討や都市再生土地区画整理事業採択要件及び市街
地再開発事業の要件の具体的検証を行い,さらには,資金計画,完了後の土地利用
計画,権利変換のモデルを提案し,第6章においては,①犬山市として,事業に対
する財政負担について,14億円程度の負担が生じるが,議会も含めて全庁的な合
意形成が必要であること,行政財産である市庁舎用地と建物を商業施設等に権利変
換することについての
事務的な問題点の整理と具体的処理方針について全庁的合意が必要であること,②
B病院の取扱い,③減歩率均等化のための方策を検討すること,④事業に伴って発
生する商業・公益施設保留床11億円強を管理する認定構想推進事業者(TMO)
の設立及び委託について権利者の合意形成や,商業テナントの確保をする必要があ
ることなどを今後の課題として指摘している。
(3) 以上を前提に,まず,本件委託契約が基本計画策定委託契約と重複するもので
あるかについて判断するに,前記認定事実によれば,犬山市は,平成13年2月に
公団から基本計画報告書を得ているところ,同報告書は,対象地区の設定,開発コ
ンセプトと実現すべき機能,採用すべき事業手法,基盤施設整備計画と施設建築物
の概略計画,これらの事業の収支計算の概略等を含んでおり,本件事業の基本計画
の概略を示すものとしては十分な内容となっていることが明らかである。
しかしながら,本件報告書でも自認しているとおり,基本計画は,一定の地権者ヒ
アリング等を踏まえて作成されたとはいうものの,議論のたたき台を提供するとの
性格上,計画の合理性を優先し,地権者意向を十分に反映したものとはいえなかっ
たところ,その公表を受けて,一方ではまちづくりに積極的に関わろうとする地権
者らによって駅西を考える会が結成され,活動が開始されたこと,他方では市議会
の一部が本件事業の実施に反対する意向を示したり,発展会が市庁舎の移転に反対
の意思を表明するなどの動きが見られたことなどから,基本計画を基にしつつも,
地権者らの意向等を十分に考慮して本件事業の事業化を検討する必要性が生じたと
認められ,実際にも,本件報告書が,駅西を考える会への参加とそこでのワークシ
ョップの成果を取り
込んで作成されたことは明らかである。
また,前記認定事実によれば,基本計画報告書に記載された内容は概略のものであ
ったことから,それをより具体的に明らかにし,本件事業の成立可能性についても
より精密に検討し,その結果を地権者らに提示する必要があったと認められるとこ
ろ,実際にも,本件報告書では,基本計画報告書とは異なり,地域全体に道路を均
等に配置する案と道路率を最小にする案の2つのケースにおけるそれぞれの商業棟
の延べ床面積や駐車場台数,道路幅員等が具体的に示され,その最適と思われる案
について具体的な資金計画等が示されている。
これらを総合すれば,本件委託契約は,基本計画策定委託契約を前提としつつも,
その後の事情を考慮するとともに,内容をより深化して具体的な検討資料を提示す
る目的を有していたというべきであるから,両者が重複するものであるとはいえな
いことは明らかである。
(4) 次に,本件委託契約が対象とした本件事業の実現可能性について判断する。
ア 前記認定事実によれば,基本計画報告書及び本件報告書のいずれもが,事業手
法として,計画対象地区全域で土地区画整理事業を施行し,一部の地区で市街地再
開発事業を施行する,いわゆる一体的施行を提案しているところ,土地区画整理組
合の設立認可を受けるには,定款及び事業計画について,施行地区となるべき区域
内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権
を有するすべての者のそれぞれ3分の2以上の同意を得なければならない(土地区
画整理法14条,18条前段)。
しかるところ,地元商店街で組織する発展会が,平成13年7月10日,犬山市議
会議長あてに,市庁舎の他地区への移転に反対する旨の要望書を提出していること
は前記認定事実のとおりであり,かつ,事業対象区域内の地権者の大半の者が基本
計画に反対しているとの原告らの主張に沿う証拠(甲10)も存在する(もっと
も,反対の意見を有しているとされる地権者らは,本訴の原告らに加わってはいな
い。)。
しかしながら,土地区画整理事業を施行することができるのは,土地区画整理組合
に限られるわけではなく,市町村等も施行主体となることができる(土地区画整理
法3条3項,52条以下)ところ,その場合には,上記要件は問題とならないこ
と,前記認定事実のとおり,上記要望書は,市庁舎建て替え問題が単独プロジェク
トとして扱われ,その結果移転の結論が出されることに反対し,その中で市庁舎建
て替え問題を本件事業の中で考えて欲しいと述べていることから明らかなように,
本件事業自体に反対する趣旨ではないこと,駅西地区は,住環境としての魅力が低
下し,人口も減少傾向にあり,商業活動も沈滞気味で,商店街としての魅力が乏し
くなりつつあるなど,ユニー犬山店の跡地を含めて,再開発をする必要性が高いと
ころ,地権者らの意向
は,提示される再開発計画の内容,資金計画等によって左右されるものであるか
ら,現時点で本件事業に反対しているからといって,これが将来も不変であるとは
限らないことなどを考慮すると,本件事業が確定的に実施不可能なものであると断
ずることはできない(現に,地権者らによって組織された駅西を考える会が,公団
の協力を得るなどして,ワークショップ案をまとめたことは前記のとおりであ
る。)。
イ さらに,本件事業の対象地域が都市再開発法の定める要件を充足するかについ
て判断するに,前記認定事実によれば,本件報告書及び基本計画報告書で検討され
ている施設建物の建築計画は,都市再開発法の定める市街地再開発事業の手法によ
ることを予定しているところ,同法3条は,その要件として,「当該区域内に十分
な公共施設がないこと,当該区域内の土地の利用が細分されていること等により,
当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること。」(3号)及び「当該区
域内の土地の高度利用を図ることが,当該都市の機能の更新に貢献すること。」
(4号)を定めている。
しかるところ,同条3号の「土地の利用状況が著しく不健全であること」とは,施
行区域内に公園や道路などの公共施設が整備されておらず,生活に支障を来してい
る場合や,小規模住宅が密集しているなど,客観的にみて土地の利用状況が好まし
くないことが明らかな場合を広く指すと解されるところ,証拠(乙3,8,10)
によれば,駅西地区においては,その北側を東西に走る駅前道路には両側に歩道が
設置されているものの,ユニー犬山店跡地へのアクセス道路等の地区内区画道路は
幅員が狭く,車両の通行に支障を来していること,老朽化した建物が多く存在する
こと,駅前に位置しながら,大型店舗跡の遊休地が存在していること,以上の事実
が認められ,これに照らせば,駅西地区が上記要件を満たすことは明らかというべ
きである。
また,同条4号の「都市の機能の更新に貢献すること」とは,都市全体でなくとも
それを構成する部分の機能が向上することが見込まれることをいうと解されるとこ
ろ,本件事業においては,駅前地区にふさわしい,地域密着型店舗を整備し,行政
サービス機能を持たせ,既存の老朽化した病院を建て替えて,新たなニーズに適応
できる態勢を整備し,アクセス道路及び駐車場の整備を行うことなどが提案されて
いることに照らすと,上記要件を満たすことが明らかである。この点につき,原告
らは,市庁舎の移転によって駅西地区の集客能力は更に低下することや,ユニー犬
山店閉店後のビルへのテナント募集が芳しくなかったことを理由に,上記要件の充
足を否定するが,仮に本件事業の実施に伴い市庁舎が移転する事態となっても,こ
れを上回る効果をも
たらす事業計画を立案,提示することは可能というべきであるから,上記主張は採
用できない。
(5) 最後に,地権者の同意形成を外部委託することの是非について判断するに,前
記認定事実のとおり,本件委託契約は,権利者の合意形成の支援を業務内容の一つ
としているが,そもそも,事業を推進する地方自治体が,その事業内容を検討する
に当たって,関係者の意向聴取及び同意形成の支援を専門的知識を有する外部の者
に委託することを禁止する趣旨の法令は見当たらない。
かえって,本件の都市再開発事業のように,関係者の意向を無視しては円滑な実施
が期待できない場合,委託された事業内容の調査,検討過程に関係者の意向が反映
されていくことは,ある意味では当然のことであって,その結果,関係者の合意が
形成されることは,望ましいことではあっても,決して不当なものとはいえない。
(6) 以上のとおり,本件委託契約は,基本計画策定委託契約と重複するものとはい
えず,また,調査・検討の対象とした本件事業が実現不可能なものとはいえないの
で,必要性を欠くものであったと認めることはできず,まして,地権者の意向を踏
まえて,実現可能な再開発事業を具体的に探求することを主目的の一つとする本件
委託契約を締結することが,被告の裁量権の範囲を逸脱ないし濫用するものである
とは到底認め難いので,そのための本件支出が地財法4条1項に反するとの原告ら
の主張は採用できない。
2争点(2)(本件委託契約は,法施行令167条の2の定める随意契約の要件を 
 満たさず,法234条2項に反するか。)について
(1)法234条2項は,地方公共団体が請負等の契約を締結しようとする場合,政
令で定める要件を満たす場合でなければ随意契約の方式によることができない旨定
め,これを受けた法施行令167条の2第1項2号は,随意契約の方式によること
のできる場合として,「契約の性質又は目的が競争入札に適しない場合」を掲げて
いるところ,これは,契約の内容からして相手方が自ずから特定の者に限定された
り,契約締結を秘密にすることが当該契約の目的達成上必要である場合など,競争
入札の方法によることが不可能又は著しく困難な場合だけではなく,当該契約の目
的・内容に相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定してその者と
の間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目
的を達成する上でよ
り妥当であり,ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると判断される場
合もこれに該当するものと解される。そして,右のような場合に該当するか否か
は,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約
の締結方法に制限を加えている法及び同施行令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約
ごとに当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,当該地方公共
団体の契約担当者の合理的な裁量に基づいて判断されるべきものと解される(最高
裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)。
(2) しかるところ,前記認定事実のとおり,本件委託契約は,権利者の合意形成の
支援と,平成12年度に策定された基本計画を基にした事業化検討を行うという業
務内容を委託するものであるところ,これを的確に遂行するためには,地権者の率
直な意向を聴取し,対象地区の現状を正確に把握し,その問題点と原因を発見・分
析し,あるべき将来像を描き,これを実現する方法を精密に検討し,最も合理的な
手法を策定・提示するという作業が必要になるが,そのためには,都市の再開発事
業に関する幅広い経験と,法的側面及び財務面の双方にわたる十分な専門知識を備
えていることが必要不可欠と考えられる(このような経験と専門知識に裏付けられ
ない事業計画は,いかに明るい将来像を描こうとも,絵に描いたもちに終わる可能
性が高いことはいう
までもない。)。
そうすると,本件委託契約は,不特定多数の者に入札への参加を求め,競争原理に
基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当でない性質の契約であると解
されるところ,公団は,地方公共団体,民間事業者等との協力及び役割分担の下
に,都市地域における健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の基盤整備と
して居住環境の環境の向上及び都市機能の増進を図るための市街地の整備改善に関
する業務を行うことを目的としており(都市基盤整備公団法1条),本件委託契約
は,その業務として定める「委託に基づき,市街地の整備改善に必要な調査,調整
及び技術提供を行うこと」(同法28条1項10号)の範囲に含まれること,公団
は,市街地再開発事業の施行主体たる資格を与えられていること(都市再開発法2
条の2第4項,58条
以下),現に,直接施行と組合ないし地方公共団体との協調施行の両者を合わせる
と,全国で111地区の市街地再開発事業に携わった実績を有し,この数は他の民
間業者の追随を許さないものであること(乙4),以上に照らせば,公団は,都市
再開発事業に関し,比類のない技術,知識,経験を蓄積していると推認することが
できる。これに加えて,先行した基本計画策定委託契約の相手方が公団であり,本
件委託契約との連続性を確保することが望ましいと考えられること,公団の性格か
ら一般の民間業者に比較して営利性が高いとはいえないことなどを総合的に考慮す
ると,被告が,本件委託契約の目的を達成する上で,公団に上記業務を委託するの
がより妥当であると判断したことは,その合理的裁量の範囲内にあるものと認める
のが相当である。し
たがって,被告が随意契約の方式によって本件委託契約を締結したことが,法23
4条2項に反して違法であるとはいえない。
(3) この点について,原告らは,公団が債務超過の状態にあり,将来廃止されるこ
とが決定されていること,公団が関与した都市再開発事業の中に,いくつかの失敗
例があること,民間業者でも都市計画等の調査業務を行う能力,経験を有するこ
と,適正な積算を経ていないことなどを理由に,法施行令167条の2第1項2号
の場合に該当しない旨主張し,これに沿う証拠(甲6,7,11ないし16)もあ
る。
  しかし,公団は,国及び地方公共団体等の出資によっているから,債務超過の
状態にあり,あるいは将来の廃止が決定されていた(もっとも,甲7によれば,廃
止は特殊法人改革に関連して行われるものであり,廃止後も都市再開発事業につい
ては新たな独立行政法人に引き継がれることが合意されている事実が認められ
る。)としても,委託された業務が履行されないおそれは考え難く,現に,6章7
8頁から成る本件報告書が成果物として提出されており,その内容に照らしても,
委託された業務内容を履行したと認められること,原告らが主張する失敗例は,不
動産価格の下落が主たる原因と認められるところ,民間の業者によって事業化が行
われた場合は,かかる事態が避けられたことを認めるに足りる証拠はないこと,本
件報告書の内容,基本計
画報告書の内容及び積算の経緯(乙11)に照らせば,本件委託代金が過大である
とは認められないこと,これらを総合すれば,原告らの上記主張は採用できない。
3 結論
以上の次第で,原告らの本訴請求は理由がないので棄却することとし,訴訟費用の
負担につき,行訴法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとお
り判決する。
名古屋地方裁判所民事9部
  裁判長裁判官   加  藤  幸  雄
  裁判官   舟  橋  恭  子
  裁判官   富  岡  貴  美

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