弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
原告が被告に対して平成13年10月16日付けでした原告の平成12年分
所得税に係る更正の請求(以下「本件更正請求」という。)に対し,被告が同
年12月25日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通
知処分」という。)のうち総所得金額6051万7401円,納付すべき税額
793万9000円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,勤務先会社の親会社である米国法人から付与された譲渡制
限株式の譲渡制限が解除されたことにより受けた利益について,譲渡制限が解
除された平成12年分の給与所得に当たるものとして確定申告及び修正申告を
したが,これは誤りであり,その付与を受けた平成11年分の一時所得として
申告すべきであったとして本件更正請求をしたところ,被告から本件通知処分
を受けたため,同処分の取消しを求めた事案である。
1争いのない事実
(1)訴外米国法人ヒューレット・パッカード・カンパニー(以下「米国HP
社」という。)は,平成11年3月,訴外日本ヒューレット・パッカード株
式会社(以下「日本HP社」という。)の発行済全株式を取得した。原告は,
当時,同社の常務取締役として勤務していた。米国HP社は,平成11年3
月に日本HP社の発行済全株式を取得したが,その頃より,米国HP社から
訴外米国アジレント・テクノロジー社(以下「米国アジレント社」とい
う。)を,日本HP社から訴外日本アジレント・テクノロジー株式会社(以
下「日本アジレント社」という。)をそれぞれスピンオフの形式により分社
化する計画を有していた(以下「本件会社分割」という。)。
(2)原告は,同年4月30日,米国HP社より,同社の譲渡制限株式6470
株を付与され,更にその後,平成12年6月2日に同社の譲渡制限株式18
20株を付与された(以下,これらを併せて「本件付与」とい,これによっ
て付与された合計8290株の譲渡制限株式を併せて「本件リストリクテッ
ド・ストック」という。また,これらの株式のうち,当初付与された647
0株を「当初付与分」,追加付与された1820株を「追加付与分」とい
う。)。
(3)本件リストリクテッド・ストックのうち,当初付与分の付与契約(以下
「本件付与契約」という。)は,基幹従業員としての原告との雇用を継続す
るためのインセンティブを与えるために締結されたものであり,その付与契
約書(甲5)には,次のような記載があった。
ア株式の付与(1条)
米国HP社は,原告に対し,本件付与契約及び1995年社員持株制度
の条件に基づき,本件リストリクテッド・ストック6470株を付与する。
イ権利帰属条件及び日程(2条)
原告が①米国HP社の基幹的地位又は②本件会社分割業務に直接又は実
質的に関連する米国HP社における基幹的地位のいずれかに留まっている
場合で,平成12年9月1日に同分割が完了するまでの間,継続的にフル
タイムの勤務形態で雇用契約を維持した場合,同日(以下「帰属確定日」
という。)において同ストックに係る全ての権利は原告に帰属する。
ウ譲渡制限(3条)
(ア)(権利の帰属の確定)本件リストリクテッド・ストック又は本件付

契約に基づき付与された株式は,帰属確定日まで売却,入質又は移転す
ることができない(以下,本件付与契約締結日から帰属確定日までの期
間を「制限期間」という。)。
(イ)(没収)同ストックは,2条に基づく帰属確定前に,原告が死亡等
を除く理由で退職若しくは休職し,又は本件会社分割に関する職責を果
たすことなく同業務に直接又は実質的に関連しない別の地位に就いた場
合等には没収される。
エ株券の表示(4条)
株券には,「本株券で表章される株式につき米国HP社と原告との間の
契約の適用を受け,その契約書の写しは,同社の主たる事務所で保管する
ものとする」旨の表示を付する。
オエクスロー(5条)
本件リストリクテッド・ストック(当初付与分)を証する株券は,エク
スロー・エージェントとしての米国HP社の総務部長に交付・預託され,
更に原告名義で譲渡制限株式帳簿に記入・登録され得る。同株券又は帳簿
記入株式は,制限期間が満了するまでエクスロー・エージェントが保管し,
制限期間が満了したときは,同エージェント又は原告が保管する。
カ原告の株主権(6条)
原告は,制限期間中,本件リストリクテッド・ストック(当初付与分)
について,本件付与契約3条に定める売却,入質又は移転の権利を除き,
同ストックに係る全ての株主権(議決権及び配当受領権)を有する。
(4)本件リストリクテッド・ストックに付された譲渡制限は,平成12年9月
1日に解除された(以下「本件制限解除」という。)。同時点における同ス
トックの市場価格は合計102万6675.05ドル(為替レート106.
65円,合計1億0949万4894円)であった(以下「本件利益」とい
う。)。
(5)原告は,別表のとおり,平成12年分(以下「本件年分」という。)の所
得税につき,平成13年3月8日,本件利益及び日本HP社からの給与額4
098万4676円の合計額1億5047万9570円を給与所得額として,
総所得金額1億4273万7489円,納付税額3816万8400円とす
る確定申告をした。原告は,同年6月19日に修正申告をしたが,総所得金
額に異同はない。
(6)その後,原告は,別表のとおり,本件利益は給与所得に該当しないとして
本件更正請求をしたが,被告は,平成13年12月25日付けで本件通知処
分をし,その後になされた異議申立及び審査請求も棄却された。なお,本件
通知処分に処分理由は附記されていない。
(7)原告は,平成15年7月11日,本件訴えを提起した。なお,原告は,本
件における主張額を別表「スピンオフ配当の場合」欄のとおり訂正した。
2争点
(1)本件利益の所得区分
(2)本件利益に係る所得の帰属年分
(3)理由附記の適否
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件利益の所得区分)について
(原告の主張)
本件リストリクテッド・ストックのうち当初付与分6470株は,原告が
勤務する日本HP社からではなく,その親会社である米国HP社から付与さ
れたもので,原告と同社との間には直接の雇用関係又はこれに類似する契約
もなく,同社の指揮命令に服して労務を提供したこともない。更に,制限期
間中の日本HP社に対する継続的勤務は本件制限解除の要件にすぎず,株式
を取得するための要件ではない。したがって,上記6470株に対応する利
益は,就労の対価としての給与所得ではなく,一時的・偶発的所得としての
一時所得に該当するものというべきである。
また,本件リストリクテッド・ストックのうち,追加付与分1820株は,
米国HP社の株主であった原告に対し,同社の子会社である米国アジレント
社の株式2467.658株が無償交付され,それを等価交換により米国H
P社の株式1820株に変換したものであるところ,米国アジレント社の株
式の交付は,会社分割によるものであるから,所得税法25条1項1号によ
って,その利益はみなし配当所得に該当する。
(被告の主張)
最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決(民集59巻1号64頁,
以下「最高裁平成17年判決」という。)は,ストックオプションの権利行
使益は給与所得に該当する旨の判断を示しているところ,本件利益も同判決
で問題とされたストックオプションに係る権利行使益と同性質のものという
べきであるから,給与所得に該当する。原告の主張は,同判決を無視した独
自の主張であって失当である。
仮に,同利益が給与所得に該当しないとしても,それは一時所得ではなく
雑所得に該当すると解すべきものである。
(2)争点(2)(本件利益に係る所得の帰属年分)について
(原告の主張)
各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は,その年において収入す
べき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合
には,その金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額)である(所得税
法36条1項)。
原告は,平成11年中に本件リストリクテッド・ストックのうち6470
株を付与され,同株式に基づく配当受領権,議決権も有していたのであるか
ら,少なくとも同ストックに関する限り,たとえそれが譲渡制限付であった
としても,これを保有する経済的利益は同年中に発生したものである。株式
の譲渡制限が解除されたことによる利益は,同条項にいう「経済的利益」に
は該当しない。
このことは,①権利等の換価可能性は必ずしも所得課税の要件とされてい
るものではないし,未実現の利益であってもみなし配当所得して課税される
ことがあること,②勤務会社から譲渡制限のない株式を付与された場合には,
その付与された時点での株価相当額が給与所得として課税されることとの均
衡,③我が国において,勤務会社から定款により譲渡制限が付された株式の
付与を受けた場合にも,その付与された時点での株価相当額が給与所得とし
て課税されることとの均衡等の諸点に照らしても明らかである。
原告は,平成11年分の所得税について,本件リストリクテッド・ストッ
クの付与に係る所得を申告していないが,それは,同ストックを売却するま
では所得の発生がないと理解していたからにすぎない。
また,本件リストリクテッド・ストックのうち,追加付与分1820株に
関しては,平成12年分の所得として所得計算がされるべきであることは,
原告も争うものではないが,その所得額は,原告が,米国アジレント社の株
式を付与された平成12年6月2日時点における同株式の価格(1株81.
875ドル)と,その時点における為替相場(1ドル107.90円)をも
とに計算されるべきであり(米国アジレント社の株式と米国HP社の株式の
交換は,等価交換であるから,この交換による利得は発生していない。),
その結果は,次のとおり2180万0061円となる。
81.875(ドル)×2467.658(株)×107.90(円)
=2180万0061円
(被告の主張)
所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」とは,実現した収益,すな
わち,いまだ収入がなくとも収入すべき権利の確定した金額をいい,いわゆ
る権利確定主義を表明した規定である。ここにいう権利の確定とは,権利の
発生と同義ではなく,権利の発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性
が増大したことを客観的に認識することができるようになったときを意味す
る。
本件付与時点においては,本件リストリクテッド・ストックには譲渡制限
が付され,株券も米国HP社総務部長に預託されており,原告が一定期間日
本HP社に勤務するという条件が成就しなければ没収される権利であって,
原告は本件制限解除時まで同ストックを自由に処分することはできなかった
のであるから,同付与時点で所得税の課税関係が発生すると解することは相
当ではない。したがって,本件制限解除時をもって現実収入の発生ないし権
利の確定時期ととらえて本件利益を収入計上するのが権利確定主義からの帰
結である。
なお,本件付与に係る契約書によれば,本件リストリクテッド・ストック
を原告が取得するのは,本件付与時ではなく本件制限解除時であると解する
方が素直な解釈である。
(3)争点(3)(理由附記の適否)について
(原告の主張)
本件通知処分には処分理由が附記されておらず,違法である。
(被告の主張)
更正すべき理由のない旨の通知処分に理由を附記することは法令上要求さ
れていないから,本件通知処分に処分理由が附記されていないからといって
同処分が違法となるものではない。
第3当裁判所の判断
1事実認定
前記争いのない事実に証拠等(甲2,3,5,9ないし11,14,15,
乙1ないし7,9,弁論の全趣旨)を総合すると,次の事実が認められる。
(1)米国HP社は,平成11年3月に日本HP社の発行済全株式を取得したが,
その頃より,米国HP社から米国アジレント社を,日本HP社から日本アジ
レント社をそれぞれスピンオフの形式により分社化する計画を有していた
(本件会社分割)。
なお,スピンオフとは,会社の一部門を切り離し独立させる分社化の一方
式であり,各企業の中で事業運営を実際に行っている事業部門の担当管理職
が自ら事業の経営者となることにより,その者や管理職ら従業員等の会計責
任意識やコミットメントの向上を期待することができるものとして,近年米
国で活発に利用されている。
(2)米国HP社は,同年4月30日,原告との間で,原告が本件会社分割に従
事する基幹従業員として継続して参加することが同分割を適切な時期に完了
させるために必須であるとの認識の下に,基幹従業員として原告との雇用を
継続するためのインセンティブを付与するために,本件リストリクテッド・
ストック6470株を付与する合意をした(本件付与契約)。その際の条件
は,前記第2の1(3)記載のとおりであった。
(3)米国HP社は,平成11年5月5日,原告に対し,本件付与契約による本
件リストリクテッド・ストック(当初付与分)の付与に関する文書を送付し
た。同文書の記載内容は,概ね次のとおりである。
ア本件会社分割を成功させるためには,原告のように米国HP社の全般的
な成功に大きく貢献した実績を有する主要な基幹従業員の役割が重大であ
り,その特別な尽力が必要であって,同社は,原告が更なる重責と増加す
る職務を引き受けて同分割を成功させることを期待する。
イ米国HP社は,本件会社分割を成功させるために求められる原告の専門
知識と更なる貢献・尽力に報いるため,特別な株式報奨として,本件リス
トリクテッド・ストック6470株(完全確定日平成12年9月1日)を
原告に付与する。
ウ原告は,同ストックの受領者として配当受領権及び議決権を有する。
エ原告は,同ストックに係る株式の付与を確定させる条件として,本件会
社分割の基幹業務を一定期間継続することが求められる。
(4)平成11年11月,米国HP社と米国アジレント社の分割及び日本HP社
と日本アジレント社の分割が完了し,各社は独立して営業を開始した。
(5)米国HP社の取締役会は,平成12年4月7日,同社が保有する全ての米
国アジレント社株式を米国HP社株主に分配すること(スピンオフ)を承認
した。同スピンオフに伴い,原告も,同年6月2日,当初付与分に係る米国
HP社の6470株に対応する米国アジレント社の株式2467.658株
(スピンオフの条件に従い,米国HP社株式1株につき,米国アジレント社
の株式0.3814株の割合で付与株数が計算された。)を付与されたが,
この米国アジレント社株式は,同日時点における株価の比率によって米国H
P社の株式1820株に変換されたため,結局,原告は,米国HP社の株式
1820株(ただし,当初付与分6470株と同様の制限付き)を追加付与
されたこととなる。
(6)原告は,同年8月14日,米国HP社に対し,本件リストリクテッド・ス
トックについて,①証明書を発行して住所地に送付する方法,②米国HP社
の株式管理信託銀行の口座に株式を入れる方法又は③全株式を売却する方法
のうち,①の方法を選択する旨回等した。
(7)同年9月1日,本件付与契約に基づき,本件リストリクテッド・ストック
に付されていた譲渡制限が解除された(本件制限解除)。
(8)米国HP社は,原告に対し,同月20日付けの文書により,次の通知をし
た。
ア1995年社員持株制度の条件に従い,平成11年4月30日に本件リ
ストリクテッド・ストック6470株が,米国アジレント社のスピンオフ
による配当の結果である追加の米国HP社株1820株と共に原告に付与
された。
イ同ストックに付されていた制限は,平成12年9月1日に失効したため,
原告は制限のない8290株の株式を受領する資格を得た。
ウ上記イの制限のない8290株の株式については,制限解除日から2な
いし3週間以内に株券の発行又は登録預託の手続が行われるか,又は4営
業日以内に売却要求が完了する。
(9)なお,日本HP社担当者は,本件付与日における本件リストリクテッド・
ストックの付与価格をいずれも0.00ドルとしている(これは,本件更正
請求や本件訴訟における原告の主張額とも符合する。)。
2争点(1)(本件利益の所得区分)について
(1)本件利益は,原告が常務取締役であった日本HP社からではなく,米国H
P社から付与されたものである。しかしながら,上記認定事実によれば,米
国HP社は,日本HP社の発行済全株式を有する親会社であるから,米国H
P社は日本HP社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているもの
とみることができるのであって,原告は,米国HP社の統轄の下に日本HP
社の常務取締役として本件会社分割を含む職務を遂行していたものというこ
とができる。
そして,上記認定事実によれば,本件リストリクテッド・ストックは,ヒ
ューレット・パッカードグループにおける本件会社分割の遂行上,同社幹部
役員等に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して付与されたもので
あり,米国HP社は,原告が上記のとおり職務を遂行しているからこそ,原
告との間で本件付与契約を締結して原告に対し同ストックを付与し,その譲
渡制限を所定の時期に解除したものであって,本件利益が原告が上記のとお
り職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益である
ことは明らかというべきである。
したがって,本件利益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供さ
れた非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1
項所定の給与所得に当たると解するのが相当である(最高裁平成17年判決
参照)。
(2)なお,原告は,本件リストリクテッド・ストックのうち追加付与分182
0株は,もともと米国HP社の株主である原告に対し,会社分割を原因とし
て米国アジレント社の株式が無償交付され,それが米国HP社の株式に変換
されたものであるから,所得税法25条1項1号によってみなし配当所得と
されるべきものであると主張する。たしかに,原告に対しては,平成12年
6月2日に米国アジレント社の株式2467.658株が交付され,同日時
点における株価の比率によって米国HP社の株式1820株に変換されたこ
とは前認定のとおりであるが,①このような操作がなされた目的は,米国H
P社の分割により,株式1株の価値が下がったため,それを補填することに
あったことは,日本HP社の担当者及び原告が一致して認めるところであり
(甲3),これによれば,追加付与分1820株は,当初付与分6470株
の価値を維持するために付与されたものであって,両者は一体とみることが
できること,②原告は,米国HP社の株主(当初付与分6470株の保有
者)として,米国アジレント社の株式の無償交付を受けたこととされている
ものの,その時点においては,原告は,米国HP社の株式を確定的に取得し
ていたとはいい難く(この点については,後記3の検討参照),したがって,
米国アジレント社の株式を確定的に付与し,その処分を許すことは本件リス
トリクテッド・ストック付与の趣旨に反するものと考えられたことから,米
国アジレント社の株式が直ちに米国HP社の株式(ただし,当初付与分と同
様の制限付き)に変換されたものと推測されること,③制限解除後に米国H
P社から原告に対してされた通知(乙7)においても,当初付与分6470
株と追加付与分1820株は,何ら区別がされず,一体のものとして取り扱
われていることなどの事情に照らしてみると,原告に対していったん米国ア
ジレント社の株式を付与する形式が採られたのは,追加付与すべき米国HP
社の株式数を算定するための計算上の必要に基づくものにすぎず,その実体
は,当初付与分と同様の制限付きの米国HP社の株式が追加付与されたもの
であると認めるのが相当である。したがって,所得区分や所得計算において,
当初付与分6470株と追加付与分1820株とを区別して取り扱う必要は
ないものというべきである。
3争点(2)(本件利益に係る所得の帰属年分)について
(1)所得税法36条は,「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべ
き金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,
その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益
をもつて収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益
の価額)とする。」(1項),「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的
な利益の価額は,当該物若しくは権利を取得し,又は当該利益を享受する時
における価額とする。」(2項)と規定する。
ここに,「収入すべき金額」としているのは,現実の収入がなくても,そ
の収入の原因となる権利が確定した場合には,その時点で所得の実現があっ
たものとして同権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建
前(いわゆる権利確定主義)を表明したものであり,ここにいう収入の原因
となる権利が確定する時期は,それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべ
きものである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1
号43頁参照)。
(2)本件付与契約においては,上記認定のとおり,本件制限解除日(帰属確定
日)において,本件リストリクテッド・ストックに係る全ての権利は原告に
帰属するものとされているのであるから,同ストックに係る権利が最終的に
原告に帰属したのは同解除日(平成12年9月1日)であるとの解釈を許容
し得るものである。
もっとも,他方,①同契約によれば,原告は本件付与日以降,本件リスト
リクテッド・ストックを売却,入質又は移転する権利を除く全ての株主権を
有するものとされていること,②同ストックについては,原告名義で譲渡制
限株主帳簿に記入・登録され得るものとされていること,③原告が制限期間
中に日本HP社を退職したとき等には同ストックは没収されると規定されて
いるところ,これは,制限期間中原告が同ストックに係る株主であることを
前提とする規定と読めなくもないことなどに照らすと,本件付与によって原
告が同ストックに係る株主としての権利を取得した可能性も否定できない。
しかしながら,仮にこのような前提に立つとしても,本件においては,上
記認定・判断のとおり,①本件リストリクテッド・ストックに付された譲渡
制限が解除されるためには,原告が平成12年9月1日までの間,米国HP
社における基幹的地位に留まりながら継続的にフルタイムの勤務形態で雇用
契約を継続すること等の条件が付されており,これに反したときは同ストッ
クも没収されるという不確定な権利が認められているにすぎないこと,②同
ストックに係る株券は,エクスロー・エージェントとしての米国HP社総務
部長に交付・預託されており,原告は本件制限解除日までその交付を受ける
こともできないものとされているため,原告が制限付株式を処分することは,
事実上不可能であったといえること,③本件リストリクテッド・ストックの
趣旨に照らし,一般の譲渡制限付株式の場合に認められる株式買取請求権等
の行使は,およそ想定されていなかったものと解されること,④日本HP社
担当者は,本件付与日における同ストックの付与価格をいずれも0.00ド
ルとしており,制限解除前の同ストックは市場価格が形成されないものであ
ると認められること,⑤原告は,平成12年9月1日に同ストックにつき本
件制限解除を受けたところ,同解除は,原告が制限期間中本件付与契約を遵
守し,米国HP社及び日本HP社による本件会社分割等の業務を含む諸般の
業務を誠実に遂行したことに対する対価としての意味を有するものであるこ
とが認められるのである。
以上の点に照らしてみると,本件制限解除に至るまでの原告は,形式上米
国HP社の株主であるとはされているものの,その保有する株式を処分する
ことも,株式買取請求権等の行使によって株式の処分に替えてその価値を取
得することもおよそ不可能な状況に置かれていたものというべきであるから,
このような時点において,株式の経済的価値を取得するに至ったと評価する
ことはできず,むしろ,本件リストリクテッド・ストックに係る経済的利益
の取得は,本件制限解除によって初めて現実化したものであって,その年分
の所得として認識するのが相当であるというべきである。仮に本件付与日
(追加付与分については,その付与日)において原告が本件リストリクテッ
ド・ストックに係る経済的利益を取得したと考えるとすると,原告は,現実
には株式の価値に相当する利益を取得する手段が全くないにもかかわらず,
付与日の株価を基準として算出した所得に対応する多額の所得税の納税義務
を負うこととなるが,このような結論は,原告にとっても酷といわざるを得
ないのであって,この点からしても,上記のように解するのが相当というべ
きである。
なお,所得税法36条1,2項との関連で,これを,①原告が本件リスト
リクテッド・ストックに係る権利を取得したのは本件付与日であるものの,
上記の契約の実態に即しその収入すべき金額の帰属年分を本件年分とするか,
②同ストックに係る株主権のうちこれを換価・譲渡する権利は本件制限解除
日に取得したとして,その権利取得日の属する本件年分を収入の帰属年分と
するか,③本件利益は同条1項の経済的利益に該当し,それが発生した本件
制限解除日の属する本件年分を収入の帰属年分とするかは,説明の仕方の相
違にすぎないものと解される(なお,上記(2)冒頭部分のように,原告が本件
制限解除日まで本件リストリクテッド・ストックに係る株主権を実質的に取
得していなかったとすれば,原告が株主権を取得して本件利益を収入した日
は,本件制限解除日の属する本件年分ということになる。)。
(3)これに対し,原告は,権利等の換価可能性は必ずしも所得課税の要件とさ
れているものではないと主張するが,このような換価可能性は所得課税の担
税力を裏付けるものとしても重要であって,換価可能性ないし経済的評価可
能性の全く認められない段階で課税することは,納税者にとってもかえって
酷な結果を招くことがあることは,既に指摘したとおりである。原告は,未
実現の利益であってもみなし配当所得として課税されることがあるとも主張
するが,みなし配当所得については別段の立法上の措置(平成13年法律第
6号による改正前の所得税法25条2項2号)の下に課税されていたもので
あるから,本件リストリクテッド・ストックに係る課税関係と同視し得るも
のではない。
また,原告は,本件通知処分は,我が国において勤務会社から譲渡制限の
ない株式あるいは譲渡制限の付された株式を付与された場合にその付与され
た時点での株価相当額が給与所得として課税されることとの整合性がないと
主張する。しかしながら,前者については適正な市場価格による処分が可能
であるし,後者については裁判所により適正な売買価格が決定され換価され
得るものであるから(商法204条の5),やはり本件制限解除前の本件リ
ストリクテッド・ストックと同視し得るものではない。
(4)よって,本件利益に係る所得の帰属年分は本件年分であると解すべきであ
る。
4争点(3)(理由附記の適否)について
本件通知処分に理由が附記されていないことは当事者間に争いがないところ,
更正すべき理由のない旨の通知処分に理由を附記することを求める法令上の根
拠はないから(なお,国税通則法74条の2第1項参照),このことをもって
同処分が違法となるものではない。
5結論
よって,本件請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負
担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決
する。
東京地方裁判所民事第3部
鶴岡稔彦裁判長裁判官
清野正彦裁判官
進藤壮一郎裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛