弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
社会保険庁長官が平成17年9月15日付けで原告に対してした保有個人情報の
開示をしない旨の決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,社会保険庁長官に対し,行政機関の保有する個人情報の保護に
関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という)13条1項に基づいて社

会保険庁の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求したのに対し,同
長官は,原告に対し,同法18条2項に基づいて開示請求に係る保有個人情報の全
部を開示しない旨の決定(以下「本件不開示決定」という)をしたため,原告が

本件不開示決定の取消しを請求した抗告訴訟である。
1法令の定め
行政機関個人情報保護法2条2項は「この法律において「個人情報」とは,生

存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記
述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することがで
き,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をい

う」旨規定し,同条3項は「この法律において「保有個人情報」とは,行政機
。,,
関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該行政機関の職員が
組織的に利用するものとして,当該行政機関が保有しているものをいう。ただし,
(()
行政文書行政機関の保有する情報の公開に関する法律平成11年法律第42号
第2条第2項に規定する行政文書をいう。以下同じ)に記録されているものに限

る」と規定する(なお,同法2条2項に規定する行政文書とは,行政機関の職員

が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関
の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているもののうち,官
報,白書,新聞,雑誌,書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発
行されるもの等を除いたものをいう。行政機関個人情報保護法2条4項柱書は,


「この法律において「個人情報ファイル」とは,保有個人情報を含む情報の集合物
であって,次に掲げるものをいう」旨規定し,同項1号は「一定の事務の目的を
。,
達成するために特定の保有個人情報を電子計算機を用いて検索することができるよ
うに体系的に構成したもの」と規定し,同項2号は「前号に掲げるもののほか,

一定の事務の目的を達成するために氏名,生年月日,その他の記述等により特定の
保有個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したもの」と規定
する。同法2条5項は「この法律において個人情報について「本人」とは,個人

情報によって識別される特定の個人をいう」旨規定する。

行政機関個人情報保護法12条1項は,何人も,同法の定めるところにより,行
政機関の長に対し,当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示
を請求することができると規定する。同法13条1項は,開示請求は,開示請求を
する者の氏名及び住所又は居所(同項1号)並びに開示請求に係る保有個人情報が
記録されている行政文書の名称その他の開示請求に係る保有個人情報を特定するに
足りる事項(同項2号)を記載した書面(以下「開示請求書」という)を行政機

関の長に提出してしなければならない旨規定し,同条3項は,行政機関の長は,開
示請求書に形式上の不備があると認めるときは,開示請求をした者(以下「開示請
求者」という)に対し,相当の期間を定めて,その補正を求めることができ,こ

の場合において,行政機関の長は,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を提
供するよう努めなければならない旨規定する。
行政機関個人情報保護法18条2項は,行政機関の長は,開示請求に係る保有個
(,
人情報の全部を開示しないとき同法17条の規定により開示請求を拒否するとき
及び開示請求に係る保有個人情報を保有していないときを含む)は,開示をしな

い旨の決定をし,開示請求者に対し,その旨を書面により通知しなければならない
旨規定する。
2争いのない事実及び証拠によって容易に認定することのできる事実等
()原告は,平成17年8月2日,吹田社会保険事務所において,同日付けの
保有個人情報開示請求書(以下「本件開示請求書」という)を提出し,社会保険

庁長官に対して社会保険庁の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求
した(以下「本件開示請求」という。本件開示請求書の「開示を請求する保有個


人情報」欄には「社会保険庁に保有している私の個人情報昭和34年3月から現

,」,
在までの厚生年金保険厚生障害年金保険の資料全部をお願いしますと記載され
「開示を請求する保有個人情報の特定を行うための事項」欄には「XXXX−x

xxxxx「〃〃yyyyyy「ZZZZ−YY−zzzzzzzz」と記載

,」

されていた。
(甲1,原告本人)
()社会保険庁長官は,本件開示請求が開示を請求する保有個人情報を特定し
ていないことを理由として,平成17年9月15日付けで本件不開示決定をし,原
告は,同月17日,同決定に係る通知の書面を受け取った(甲2,原告本人。

3争点
本件における争点は,本件不開示決定が適法であるか否かであり,この点に関す
る当事者の主張は,以下のとおりである。
()被告の主張
ア本件開示請求が行政機関個人情報保護法13条1項2号に定める保有個人情
報を特定するに足りる事項の記載を欠いた不適法な請求であること
(ア)行政機関個人情報保護法は,保有個人情報の開示請求において,開示請求
書に開示請求に係る保有個人情報が記録されている行政文書の名称その他の開示請
求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項を記載することを求めている(同法
13条1項2号。そして,この保有個人情報の特定に関する事項は,開示請求書

の必要的記載事項であり,その記載が欠けている場合には,そのままでは開示請求
が不適法となり,行政機関の長は,行政機関個人情報保護法18条2項により不開
示の決定を行うことになる。
このように,開示請求において保有個人情報の特定が要求されるのは,開示請求
に係る保有個人情報が特定されていなければ,開示請求を受けた行政機関の長にお
いて,開示請求の対象となった情報を検索,審査して同法18条各項の決定(以下
「開示決定等」という)を行うことができないからである。そうすると,開示請

求書における保有個人情報の特定が十分か否かは,当該行政機関の専門職員が合理
的努力によって特定可能か否かによって判断することとなる。
保有個人情報は行政文書に記録されているところ,開示請求に係る保有個人情報
の特定に関し,保有個人情報が記録された行政文書が明示されない場合には,行政
機関の職員は,開示請求に係る保有個人情報の性質に照らし,それが記録されてい
る行政文書を想定し,その行政文書中の情報の中に,開示請求の対象となる保有個
人情報があるか否かを検索するということになる。しかし,一般的には行政機関に
おいて保管,管理される行政文書の数は極めて膨大であるのが通常であり,一つの
行政文書の中に記録されている個人情報の数もかなり多数に及ぶ。しかも,個人情
報ファイル(行政機関個人情報保護法2条4項)を除けば,行政文書は,保有個人
情報の検索のために体系的に整理されているとは限らない。そうすると,開示請求
に係る保有個人情報が記録されている行政文書が明示されない場合,当該保有個人
情報の特定方法が抽象的であったり,包括的であればあるほど,開示請求に係る保
有個人情報の範囲を画することが困難となり,行政機関の専門職員が合理的努力を
もってしても,保有個人情報が記録されている行政文書の範囲を画することが困難
となる。
以上のような開示請求に係る保有個人情報の量や検索の困難性に照らせば,自己
に関するすべての情報であるとして行政機関個人情報保護法13条1項に基づく包
括的な開示請求がされた場合,合理的努力によってもすべてを検索し,これを特定
することがおよそ不可能な程度に当該請求を受けた行政機関が保有する保有個人情
報の量が膨大であるときは,適法な開示請求がされたということはできないという
べきである。
なお,行政機関個人情報保護法20条は,開示請求に係る保有個人情報が著しく
大量であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決
定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合の特例を
定めているが,同条は,保有個人情報自体は特定され,検索も可能であることを前
提にしており,合理的努力によっても検索自体が不可能な場合をも想定した規定で
はないというべきである。
(イ)a本件開示請求書の「開示を請求する保有個人情報の特定を行うための事
項」欄に記載された数字のうち「XXXX−xxxxxx」は,原告の基礎年金

番号にすぎない。また「XXXX−yyyyyy」は,原告が昭和40年8月3

1日付けで厚生年金保険の資格を取得した当時の年金番号であるが,同番号は,そ
の取得以前に原告が厚生年金手帳を取得していることが判明したことにより,その
後抹消された。さらに「ZZZZ−YY−zzzzzzzz」は,原告の障害厚

生年金の記号番号であるが,平成9年1月に基礎年金番号が導入されてからは,使
用されていないものである。そのほかに,本件開示請求書に,本件開示請求に係る
。,
保有個人情報が記録されている行政文書を特定するような記載はないしたがって
本件開示請求書の記載を基に判断すると,原告は,社会保険庁が保有する昭和34
年3月以降の原告の厚生年金保険,障害厚生年金に関する保有個人情報のすべての
開示を求めているものと解される。
また,社会保険庁総務部総務課企画室情報公開係の担当職員が,平成17年8月
8日以降,原告に対し書面を送付し,又は原告と電話で話すなどして,再三にわた
り,原告に対してその方法を提案した上で,開示請求に係る保有個人情報の特定を
求めたにかかわらず,原告は,同年9月14日,電話で担当職員に対し,開示請求
に係る保有個人情報を特定するための担当職員の提案を拒否し,原告に関する保有
個人情報のすべてを開示するよう求め,それができないのであれば不開示決定をす
るよう申し立てた。このような経緯に照らしても,本件開示請求をした原告の合理
的意思は,本件開示請求書の記載の文言のとおり,原告は,社会保険庁が保有する
昭和34年3月以降の原告の厚生年金保険,障害厚生年金に関する保有個人情報の
すべての開示を求めるものと解さざるを得ない。
bしかし,社会保険庁が保有する昭和34年3月以降の厚生年金保険,障害厚
生年金に関する保有個人情報といった場合,その情報は,社会保険オンラインシス
テムにおいて管理する保有個人情報,被保険者に係る各種届けに関する保有個人情
報,年金受給権者に係る各種届けに関する保有個人情報,審査請求及び再審査請求
に係る保有個人情報,訴訟に係る保有個人情報,窓口等における苦情対応に関する
保有個人情報及び年金相談に関する保有個人情報と,極めて多岐にわたり,かつ,
その量は極めて膨大であって,社会保険庁が保有する昭和34年3月から現在まで
の厚生年金保険,障害厚生年金保険の資料の中から原告に関するすべての情報を検
索,抽出することは,社会保険庁の専門職員の合理的努力によっても不可能という
べきである。
(ウ)以上のとおり,原告は,昭和34年3月以降の厚生年金保険,障害厚生年
金に関するものという限定はしているものの,自己に関するすべての情報の開示を
求めている。しかしながら,昭和34年から現在までの46年間という長期間に係
る社会保険庁が保有している厚生年金保険,障害厚生年金に関する行政文書は多岐
にわたり,またその量は膨大であるから,本件開示請求は,行政機関個人情報保護
法13条1項2号に定める「保有個人情報を特定するに足りる事項」の記載を欠い
ており,不適法である。よって,本件不開示決定は適法である。
イ本件開示請求が権利の濫用であること
本件開示請求は,社会保険庁が保有する極めて膨大な保有個人情報の中から,原
告に関する情報のすべての開示を求めるものであり,担当者の合理的努力によって
もすべてを検索することは不可能である。
社会保険庁の職員は,本件開示請求を直ちに却下することなく,原告の意図に則
した補正がされるように補正の方法を示唆するなどして,本件開示請求の内容を可
能な限り特定するように原告に求めるなど真しな対応を続けたが,原告は,自分を
特別扱いにすることなどの無理な要求をし,これが認められないと上記補正に応じ
ないとして,頑なにこれを拒否した。しかも,その間,いったんは,社会保険庁の
職員が提案した手続を行う旨を明らかにしたことからしても,原告に関する情報の
全部の開示を同時に求めなければならない事情が原告にあったとはいい難い。以上
の事情に照らせば,本件開示請求は,開示請求権を濫用したものとしてその全部の
請求が許されないというべきであって,本件不開示決定は適法である。
()原告の主張
ア本件開示請求書の記載によって,本件開示請求に係る保有個人情報は特定さ
れている。被告自身,一定の特定がされていることを認めている。
この点について,被告は,社会保険庁が保有する昭和34年3月以降の原告の厚
生年金保険,障害厚生年金に関する保有個人情報が記録されている行政文書が膨大
,,,
であること上記情報の検索が困難であることなどを主張するがこれらの事由は
本件不開示決定が適法であることの理由にならない。
イ社会保険庁長官は,本件開示請求について,行政機関個人情報保護法13条
3項が規定する手続を行っていない。
第3当裁判所の判断
1本件開示請求書に行政機関個人情報保護法13条1項2号にいう開示請求に
係る保有個人情報を特定するに足りる事項の記載があるといえるか否かについて
()開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項について
ア行政機関個人情報保護法19条1項は,開示決定等は,開示請求があった日
から30日以内にしなければならず,ただし,同法13条3項の規定により補正を
,,,
求めた場合にあっては当該補正に要した日数は当該期間に算入しない旨規定し
同条2項は,同条1項の規定にかかわらず,行政機関の長は,事務処理上の困難そ
の他正当な理由があるときは,同項に規定する期間を30日以内に限り延長するこ
とができ,この場合において,行政機関の長は,開示請求者に対し,遅滞なく,延
長後の期間及び延長の理由を書面により通知しなければならない旨規定し,同法2
0条は,開示請求に係る保有個人情報が著しく大量であるため,開示請求があった
日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に
著しい支障が生ずるおそれがある場合には,同法19条の規定にかかわらず,行政
機関の長は,開示請求に係る保有個人情報のうちの相当の部分につき当該期間内に
開示決定等をし,残りの保有個人情報については相当の期間内に開示決定等をすれ
ば足りる旨規定している。以上の各規定に加え,同法が,著しく大量の保有個人情
報の開示を求める請求であることを理由に開示しない旨の決定をすることができる
旨の規定を置いていないことを併せ考えれば,当該行政機関(その長が保有個人情
報の開示請求を受けた行政機関をいう。以下同じ)の長は,当該開示請求が権利

の濫用にわたるような特段の事情のない限り,開示請求に係る保有個人情報又は同
情報が記録されている行政文書が多岐にわたり,又は大量であるからといって,そ
のことだけを理由として開示をしない旨の決定をすることは許されないと解すべき
である。
イ行政機関個人情報保護法(以下「現行法」ともいう)は,行政機関の保有

(。
する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律昭和63年法律第95号
以下「旧法」という)を全部改正したものであるところ,旧法において,個人情

報とは「生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月

日,その他の記述又は個人別に付された番号,記号その他の符号により当該個人を
識別できるもの(当該情報のみでは識別できないが,他の情報と容易に照合するこ
とができ,それにより当該個人を識別できるものを含む)をいう。ただし,法人

その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関
する情報を除く」と規定され(同法2条2号,電子計算機処理とは「電子計算
。),
機を使用して行われる情報の入力,蓄積,編集,加工,修正,更新,検索,消去,
出力又はこれらに類する処理をいう。ただし,専ら文章を作成し,又は文書図画の
内容を記録するための処理その他の政令で定める処理を除く」と規定され(同条

3号,個人情報ファイルとは「一定の事務の目的を達成するために体系的に構成
),
された個人情報の集合物であって,電子計算機処理を行うため磁気テープ,磁気デ
ィスクその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことがで
きる物以下磁気テープ等というに記録されたものをいうと規定され同
(「」。
)。
」(
条4号,処理情報とは「個人情報ファイルに記録されている個人情報をいう」
),。
と規定され(同条5号,処理情報の本人とは「処理情報において識別される個人
),
のうち,電子計算機処理上他の個人の氏名,生年月日その他の記述又は他の個人別
に付された番号,記号その他の符号によらないで検索し得るものをいう」と規定

されていた(同条6号。

そして,旧法13条1項本文は,何人も,保有機関(個人情報ファイルを保有す
る行政機関をいう(同法5条2項)の長に対し,自己を処理情報の本人とする処


理情報(個人情報ファイル簿に掲載されていない個人情報ファイルに記録されてい
るもの及び同法7条2項の規定に基づき個人情報ファイル簿に記載しないこととさ
れたファイル記録項目を除く)について,書面により,その開示(処理情報が存

在しないときにその旨を知らせることを含む)を請求することができる旨規定し

ていたが,同法及び行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関
する法律施行令(平成元年政令第260号)には,上記開示請求に係る書面に記載
すべき事項について特段の規定はなかった。現行法13条1項2号の規定は,現行
法の制定に際して新設されたものである。
以上のとおり,旧法においては,開示請求の対象が開示請求者を処理情報の本人
とする処理情報に限られていたことから,旧法における開示請求については,電子
計算機を使用して比較的容易に開示請求に係る処理情報のすべてを検索することが
,,,
できたが現行法は開示請求の対象を電子計算機処理に係る個人情報に限定せず
行政文書に記録されている個人情報に拡大した(現行法2条3項,12条1項)こ
とから,いわゆる手作業による処理に係る個人情報も開示請求の対象となり,当該
行政機関の職員において,開示請求に係る個人情報のうちいわゆる手作業による処
理に係るものについては電子計算機を使用しないで検索しなければならなくなった
ということができる。すなわち,現行法においては,当該行政機関の職員は,電子
計算機を使用して検索することができない保有個人情報については,いわゆる手作
業によってこれを検索することが前提とされているものということができ,その中
には特定の保有個人情報を検索することが容易でないものも多数含まれていること
は容易に推認することができる。
以上に説示したところに照らせば,現行法が,12条1項において,開示請求は
同法の定めるところによるべきことを規定した上で,13条1項2号において,開
示請求者に対し,開示請求書に開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事
項を記載することを義務付けた趣旨は,現行法の下においては,開示請求の対象が
検索の比較的容易な電子計算機処理に係る個人情報に限らず広く行政文書に記録さ
れている個人情報(現行法2条3項,12条1項)とされたことにかんがみ,当該
行政機関の職員において,開示請求に係る保有個人情報を検索し,抽出された保有
個人情報について当該行政機関の長が現行法14条所定の不開示情報が含まれてい
るか否かを判断して,所定の期限内に開示決定等を行うことができるための不可欠
の前提として一の開示請求において開示を請求することができる保有個人情報を開
示請求者を本人とする保有個人情報のうちの一定範囲のものに限定することにある
ものと解され,開示請求者を本人とする保有個人情報のすべての開示を求めるよう
な包括的な開示請求は,現行法の容認しないものと解すべきである。
そして,行政機関個人情報保護法13条1項2号が開示請求に係る保有個人情報
を特定するに足りる事項として開示請求に係る保有個人情報が記録されている行政
文書の名称を例示していること,保有個人情報が行政文書に記録されているもので
あること(同法2条3項ただし書)などを併せ考えれば,同法は,当該行政機関の
職員が,開示決定等の前提として,開示請求に係る保有個人情報が記録されている
行政文書を特定した上で,当該特定の行政文書の中から,開示請求に係る保有個人
情報を検索することを前提としていると解される。他方で,同法13条3項は,当
該行政機関の長は,開示請求者に対して開示請求書の形式上の不備の補正を求める
場合において,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を提供するよう努めなけ
ればならない旨規定しているところ,この規定は,開示請求者が保有個人情報を特
定することが困難な場合が少なくないことにかんがみ,開示請求制度の円滑な運用
の確保を図るため,当該行政機関の長に対し保有個人情報を特定するのに参考とな
る情報を提供する努力義務を課したものであって,その趣旨からすれば,当該規定
は,開示請求者が開示請求書において開示請求に係る保有個人情報を具体的に特定
して記載することを前提としたものということができる。これらを併せ考えると,
同条1項2号にいう保有個人情報を特定するに足りる事項の記載については,少な
くとも,開示請求に係る保有個人情報が記録されている行政文書の範囲を具体的に
特定するに足りるものでなければならないと解するのが相当である。
()以上を前提にして,本件開示請求書について検討する。
ア前記第2の2()のとおり,本件開示請求書の「開示を請求する保有個人情
報」欄には「社会保険庁に保有している私の個人情報昭和34年3月から現在ま

での厚生年金保険厚生障害年金保険の資料全部をお願いしますと記載され開
,」,

示を請求する保有個人情報の特定を行うための事項」欄には「XXXX−xxx

xxx「〃〃yyyyyy「ZZZZ−YY−zzzzzzzz」と記載され

,」

ていたものの,乙第6,第7号証及び弁論の趣旨によれば,上記数字のうちXXX
X−xxxxxxは原告の基礎年金番号であること,XXXX−yyyyyyは,
原告が昭和40年8月31日付けで厚生年金保険の被保険者資格を取得した当時の
年金番号であって,その取得以前に原告が厚生年金手帳を取得していることが判明
したことにより,その後抹消されたものであること,ZZZZ−YY−zzzzz
zzzは,原告の障害厚生年金の記号番号であったが,平成9年1月に基礎年金番
。,
号が導入されてからは使用されていないものであることが認められるしたがって
上記各数字は,原告に係る厚生年金保険の事務処理に当たり原告を特定する番号と
して付されたものにすぎず,開示を請求する保有個人情報を特定するに足りる事項
であるということはできない。
そうすると,本件開示請求書に本件開示請求に係る保有個人情報を特定するに足
りる事項が記載されているか否かは,本件開示請求書の「開示を請求する保有個人
情報」欄の上記の記載について,上記()に説示した観点から検討すべきである。
イまず,同欄の「社会保険庁に保有している私の個人情報昭和34年3月から
現在までの厚生年金保険,厚生障害年金保険の資料全部」という記載を素直に読め
ば,原告は,本件開示請求書により,社会保険庁の保有する原告を本人とする保有
個人情報のうち,昭和34年3月以降に社会保険庁の職員が職務上作成し,又は取
得したものであって,厚生年金保険又は障害厚生年金に何らかの関連性を有するも
の(以下「本件対象情報」という)の開示を請求しているものと解される。

そして,乙第5,第6号証及び弁論の全趣旨によれば,本件対象情報が含まれ得
る保有個人情報としては,社会保険オンラインシステム(弁論の全趣旨によって,
個人情報ファイル(行政機関個人情報保護法2条4項)に該当するものであると認
められる)において管理するもののほか,被保険者に係る各種届出等に関する保

有個人情報,障害厚生年金の受給権者に係る各種届出等に関する保有個人情報,審
査請求及び再審査請求に係る保有個人情報,訴訟に係る保有個人情報,窓口等にお
ける苦情対応に関する保有個人情報及び年金相談に関する保有個人情報が挙げられ
ること,社会保険庁の職員は,上記各保有個人情報のうち,厚生年金保険の被保険
者及び障害厚生年金の受給権者に係る各種届出等に関する保有個人情報について,
原告を本人とするものが記録されている可能性が高い行政文書の種類を,一応,合
計35種類に特定することができたことが認められる。しかしながら,乙第5,第
6号証及び弁論の全趣旨によれば,上記35種類の行政文書以外にも,厚生年金保
険の被保険者及び障害厚生年金の受給権者に係る各種届出等に関する原告を本人と
する保有個人情報が記録されている行政文書があり得ること,上記35種類の行政
文書のうち,同一の種類の行政文書であっても,保管場所は同一ではなく,当該届
出等に係る事務処理をした各社会保険事務所又は社会保険業務センターにおいて保
管していること,上記の本件対象情報が含まれ得る保有個人情報として挙げられた
もののうち,厚生年金保険の被保険者及び障害厚生年金の受給権者に係る各種届出
等に関する保有個人情報以外のものについても,社会保険庁の職員は,それらが記
録されている行政文書の種類を一定程度想定することはできるものの,当該想定が
遺漏のないものであるということはできず,仮に遺漏なく上記の保有個人情報が記
録されている行政文書の種類を特定することができたとしても,同一の種類の行政
文書であっても保管場所が同一ではなく,当該事務を担当した各課において保管さ
れているものがあることが認められる。以上の各事実に照らせば,本件開示請求書
の「開示を請求する保有個人情報」欄の記載からは,本件対象情報が記録されてい
る行政文書の範囲を具体的に特定することはできないものといわざるを得ない。
以上によれば,本件開示請求書に行政機関個人情報保護法13条1項2号にいう
開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項の記載があったということは
できない。
()原告は,社会保険庁長官が本件開示請求につき行政機関個人情報保護法1
3条3項が規定する手続を行っていないと主張するので,この点について,以下検
討する。
ア乙第1ないし第3,第5ないし第7号証,原告本人尋問の結果及び弁論の全
趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(ア)社会保険庁総務部総務課企画室情報公開係(単に,以下「情報公開係」と
いう)は,原告に対し,平成17年8月8日付け「保有個人情報開示請求書に係

る請求内容の補正について(依頼」と題する書面(乙1)を送付し,原告は,そ

のころ,同書面を受け取った。同書面には,本件開示請求書の記載では開示請求に
係る保有個人情報の特定が不十分である旨,大阪社会保険事務局の担当者から,原
告は,原告と国との間で係属中の訴訟に係る文書の開示を希望しているようである
との連絡を受けていることから,同訴訟の第1審から上告審までに係る訴状,答弁
書,準備書面,書証を開示請求の内容とするよう補正してよいか,情報公開係とし
ては,上記のように補正をした場合,行政機関個人情報保護法14条7号ロに基づ
き不開示決定がされる可能性が高いものと考えている旨等の記載があった。
(イ)原告は,同月10日,2回にわたり情報公開係に電話を架け,同係の職員
(A)に対して上記書面の趣旨等を尋ねた。同職員は,原告に対し,同書面の趣旨
等を説明し,上記の補正をするよう求めたが,原告は,原告に関する保有個人情報
のすべてを開示するよう求め,上記補正には応じなかった。
(ウ)情報公開係では,1回のやり取りだけで不開示決定をするのは望ましくな
いと判断し,原告に対し,平成17年8月26日付け「保有個人情報開示請求書に
係る請求内容の補正について(依頼」と題する書面(乙2)を送付し,原告は,

そのころ,同書面を受け取った。同書面には,本件開示請求書の記載では請求に係
る保有個人情報の特定が不十分であると判断される理由が記載されるとともに,原
告と国との間で係属中の訴訟の第1審から上告審までに係る行政文書ファイルに含
まれた個人情報を本件開示請求の対象とするよう補正されたい旨,同行政文書ファ
イルには,社会保険庁が保有する原告の個人情報のすべてが集約されているもので
はないが,開示請求時点において社会保険庁が訴訟に対応するために収集した原告
の個人情報が含まれている旨の記載等があった。
(エ)原告と情報公開係の職員(B)とは,平成17年9月1日,電話で話をし
た。同職員が,原告に対し,上記書面の趣旨を説明した上で,同書面に記載のとお
りに補正をしても不開示決定がされる可能性が高い旨の説明をすると,原告は,そ
れでは開示請求をした意味がないと述べた。さらに,原告は,社会保険庁の保有す
る原告の資格記録と吹田社会保険事務所の保有する原告の資格記録とが一致してい
ない旨,厚生年金保険の加入記録が資格取得年月日,標準報酬月額等の点において
事実と異なる旨,原告がその訂正等を吹田社会保険事務所に求めているのにかかわ
らず同事務所が適切に対応しない旨などを申し立てた。そこで,同職員は,原告に
対し,原告に関する社会保険オンラインシステム上の厚生年金保険の加入記録につ
き開示請求をすることを提案した上で,同請求をすれば大阪社会保険事務局におい
て原告の厚生年金保険の加入記録が開示されること,開示された厚生年金保険の加
入記録に誤りがあれば訂正請求を行うことができること,訂正請求が行われれば,
大阪社会保険事務局において,事実関係の調査の上,訂正を行うかどうかの決定が
されることを説明した。
(オ)情報公開係は,原告に対し,平成17年9月2日付け「保有個人情報開示
請求書に係る請求内容の補正について(依頼」と題する書面(乙3)を送付し,

原告は,そのころ,同書面を受け取った。同書面は,上記職員が同月1日に原告に
対して提案した手続の内容を明らかにして,開示請求の補正を促したものである。
(カ)原告と情報公開係の職員(B)とは,平成17年9月5日,電話で話をし
た。同職員が,原告に対し,上記書面において提案した手続の内容等について説明
したところ,原告は,同職員の提案に従って手続を進める意向である旨述べた。
(キ)原告は,同月6日,情報公開係に電話を架け,上記職員に対し,障害厚生
年金の認定日に関する疑問点等についての説明を求めた。これに対し,同職員が社
会保険事務所の年金相談コーナー等で相談するように指示したところ,原告は,吹
田社会保険事務所に対する不満を申し立てるなどした上,同職員の対応等に納得す
ることができないとして,同職員の提案に係る補正手続をしないことに翻意した旨
言明して電話を切った。
(ク)情報公開係の職員(B)は,再度原告に補正を求めることにし,平成17
年9月14日,原告に電話を架け,本件開示請求に係る保有個人情報を特定するた
めの方法として,一般的に社会保険庁が保有していると考えられる個人情報を列記
したものを原告に送付し,原告において,その中から開示を求めるものを特定する
という方法を提案した。しかし,原告は,同提案に応じず,開示請求書どおりの開
示を求め,その開示ができないのであれば不開示決定をするよう申し立てた。
(ケ)以上の経緯を経て,社会保険庁長官は,上記第2の2()のとおり,本件
不開示決定をした。
ウ以上に認定した各事実に照らせば,社会保険庁の職員らは,本件開示請求に
係る保有個人情報が原告の意向に沿って特定されるように,原告に対して,具体的
な方法を提案するなどして,原告が真に必要としている保有個人情報を忖度しなが
ら本件開示請求書の補正をくり返し求めるなどしたにもかかわらず,原告は,いっ
たん情報公開係の職員の示した提案に従って手続を進める意向を表明しながら,合
理的な理由なく翻意し,本件開示請求書どおりの開示に固執したものということが
できるから,社会保険庁長官は,行政機関個人情報保護法13条3項所定の手続を
十分に履践したものというべきであり,同長官が同項に規定する手続を行っていな
い旨の原告の前記主張は,採用することができない。
()以上によれば,本件不開示決定は適法というべきである。
2結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官岡田幸人
裁判官森田亮

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