弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人磯部靖、同福原忠男、同若林清、同渡辺法華の上告理由第一点ないし
第四点について
 論旨は、要するに、公認会計士の廃業の場合における身分喪失につき登録の抹消
をその要件と解した原判決は、公認会計士法(以下、「法」という。)の解釈を誤
り、ひいては職業選択の自由に関する憲法の規定に違背し、また、判例の趣旨に反
するというのである。
 法は、公認会計士又は監査法人でない者は、法律に定のある場合を除く外、他人
の求めに応じ報酬を得て二条一項に規定する業務を営んではならないとし(四七条
の二)、また、公認会計士となる資格を有する者が、公認会計士となるには、公認
会計士名簿に所定事項の登録を受けなければならないとして(一七条)、登録に関
する事務を公認会計士協会(以下、「協会」という。)に行わせているのである。思
うに、法が、右のように、公認会計士につき登録制度を採用し、その事務を協会に
委ね、しかも、登録により公認会計士となつた者は当然協会に入会するものとして
いる(四六条の二第一項)のは、公認会計士となろうとする者の法的適格性を審査
し、かつ、これを公証するとともに、その業務の公共性、社会的重要性にかんがみ、
公認会計士を所轄行政庁である大蔵大臣の監督に服させ、その監督の一端を協会に
担わせようとしたものと解される。すなわち、公認会計士となる資格を有する者は、
登録を受けることにより、公認会計士の業務を適法に営む資格を取得するとともに、
大蔵大臣及び協会に対してその監督を受ける関係に立つに至るのであつて、公認会
計士たる地位(身分)には、この二つの法的関係が互に不可分なものとして含まれ
ているのである。
 ところで、法は、公認会計士たる地位の喪失については、単に法二一条において、
公認会計士が、その業務を廃止したとき(一号)、死亡したとき(二号)、四条各
号(欠格条項)の一に該当するに至つたとき(三号)、協会は、公認会計士の登録
を抹消しなければならない旨を規定するにとどまり、具体的に何時その地位の喪失
の効果が生ずるかについては、なんらの規定をも設けていない。したがつて、この
点については、法規の合理的解釈によつてこれを決するほかはないが、その解釈に
あたつては、公認会計士たる地位の喪失が、前記のように、公認会計士の業務を営
む資格と大蔵大臣等の監督に服する関係との両者の消滅をもたらすものであること
にかんがみ、法二一条に掲げる各登録抹消事由ごとに、いかなる段階において地位
消滅の効果が生ずると解するのが法の趣旨、目的に合致するかという見地から、個
別的に考察し決定しなければならない。
 右の見地に立つて法二一条一号の場合について考えるのに、同号は、公認会計士
がその業務を営むかどうかは本来その自由に決定しうるところであるから、公認会
計士が自己の意思によつてその業務を廃止したときは、その意思に従つて公認会計
士たる地位を消滅させるべきであるとの観点から、これを登録抹消事由の一つとし
て規定したものと考えられる。この場合において、公認会計士としての業務を営む
資格という関係では、公認会計士がもはや業務を営む意思がないことを確定的かつ
客観的に表明した時点において、その地位の喪失の効果を発生させても、なんらの
不都合はない。しかし、公認会計士として大蔵大臣等の監督に服する関係について
は、直ちにこれと同一に論ずることができない。けだし、大蔵大臣による監督権の
一つである業務停止又は登録抹消の処分は、単に公認会計士としての適法な業務の
遂行を不可能にさせるにとどまらず、この処分を通じて当該被処分者が一定期間公
認会計士となる資格を喪失させる効果をも生ぜしめるのであつて(法四条五号、六
号)、監督権の一内容としてこのような作用効果をも認めたのは、公認会計士の業
務の公共性、社会的重要性にかんがみ、その公正の確保が強く要請されるためであ
り、このような大蔵大臣による監督関係は、公認会計士がもはやその業務遂行の意
思がないことを明らかにした場合においても、直ちに当然にこれを保持すべき理由
がなくなるというわけのものではないからである。それ故、公認会計士たる地位の
喪失は、当該公認会計士が業務遂行の意思がなくなつたことを明らかにし、かつ、
監督機関において監督関係の保持の必要がないと認めたときにはじめて生ずるもの、
すなわち法二一条一号の規定についていえば、公認会計士がその業務を廃止した時
ではなく、協会がこれに基づいて登録を抹消した時に生ずるものと解するのが、法
の趣旨、目的に合致するものというべきである。そして、このように解したとして
も、公認会計士は本来登録抹消の有無にかかわらずその業務を廃止することを妨げ
られないのであるから、これによつてその営業の自由に格別の拘束を受けるわけで
はなく、また、業務廃止後も監督関係の保持を必要とする特段の理由のないかぎり
協会は直ちに登録を抹消すべきものである反面、かような特段の理由がある場合に
は、ある期間右の監督関係が存続させられても、公認会計士としては当然これを甘
受すべきものと認められるから、なんら格別不当な結果を生ずるものではないので
ある。
 したがつて、右と同旨の原審の判断は正当である。所論引用の判例は、事案を異
にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とす
る違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、すべて採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓

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