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平成23年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件(原審・東京
地方裁判所平成20年(ワ)第25956号)
口頭弁論終結日平成23年2月24日
判決
控訴人(被告)有限会社せいらく
訴訟代理人弁護士澤由美
弁理士井内龍二
被控訴人(原告)素数株式会社
訴訟代理人弁護士綱取孝治
髙井信也
弁理士旦武尚
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
1被控訴人は,控訴人商品の形態は被控訴人商品との混同を生じさせるもので
あり,また,控訴人商品は被控訴人商品の形態を模倣した商品であるから,控訴人
による控訴人商品の販売は,不競法2条1項1号又は3号の不正競争行為に当たる
と主張して,控訴人に対し,不競法3条1項に基づき,控訴人商品の譲渡等の差止
めを求めるとともに,同法4条に基づき,損害賠償として3996万円及び遅延損
害金の支払を求めた。
原審は,控訴人商品を販売する控訴人の行為は不競法2条1項1号の不正競争行
為に当たるとして,控訴人商品の譲渡等の差止請求を認めるとともに,被控訴人は
控訴人の上記不正競争行為により183万円6180円の損害を被ったとして,1
83万円6180円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で,被控訴人の損害
賠償請求を認めた。
2本件の外形的事実関係は,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概
要」のとおりであるが,要点は次のとおりである。
(1)被控訴人が平成18年9月26日から販売し,原判決別紙原告商品目録記
載の写真及び原判決別紙原告商品図面記載の各図面のとおりの形態を有する被控訴
人商品(商品名「SCRATCH」)は,直径約4ミリメートル,長さ約7.5セ
ンチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(被控訴人円筒管)と,その内
部に被控訴人円筒管の内周径とほぼ同じ直径で,長さが被控訴人円筒管より約1.
5センチメートル長い樹脂製で黒色の付属スティック(被控訴人スティック)とが
組み合わされており,被控訴人円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部
分の円周に沿って断面略三角形の刃が設けられている。
被控訴人商品は,被控訴人円筒管を持って刃の部分を皮膚に対して垂直に当てて
擦ることにより足や手の角質を削り取って除去し,被控訴人円筒管に溜まった角質
は被控訴人スティックを挿入することにより押し出して除去するという方法で使用
される。
(2)控訴人が平成19年11月26日から販売し,原判決別紙被告商品目録
記載の写真及び原判決別紙被告商品図面記載の各図面のとおりの形態を有する控訴
人商品(商品名「夢見るかかとちゃん」)は,直径約5ミリメートル,長さ約7セ
ンチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(控訴人円筒管)と,その内部
に控訴人円筒管の内周径とほぼ同じ直径で,長さが控訴人円筒管より約1センチメ
ートル長い樹脂製で白色の付属スティック(控訴人スティック)とが組み合わされ
ており,控訴人円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部分の円周に沿っ
て断面略三角形の刃が設けられている。
控訴人商品による角質除去方法と溜まった角質の除去方法は,被控訴人商品のも
のと同じである。
第3当事者の主張
本件の争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の
概要の2」及び「第3争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。なお,
控訴人の当審補充主張は次のとおりである。
1商品等表示につき(争点1−1)
(1)商品形態の商品等表示性
原判決は,非常に安易に被控訴人商品の商品等表示性を認めている。しかし,不
競法2条1項1号の趣旨に照らし,商品形態を商品等表示として認めるためには相
当な慎重さが必要である。すなわち、不競法2条1項1号が保護するのは、あくま
でも営業上の信用なのであるから、需要者の購入動機や実際の販売形態等も十分に
考慮した上で、その商品形態が出所識別機能を有するほどのものであるかを慎重に
見極めなければならない。単なる模倣商品からの保護については、不競法2条1項
3号によるべきである。
(2)被控訴人商品の形態の独自性
原判決は被控訴人商品の形態の独自性を肯定した。しかし,商品等表示性の判断
において商品形態の独自性が要件とされているのは,周知性と相まって他に類を見
ない独特の形態であれば需要者の印象に残り出所識別機能を有することになるのが
その理由であるところ,現段階において被控訴人商品と同種商品が多数流通してい
るし(販売開始時期は不明),被控訴人商品の商品形態は長さ数センチ程度の小さ
な円筒形状の金属製パイプであり,商品それ自体の形態では何らの独自性を有する
ものではない。
(3)被控訴人商品の形態の周知性
被控訴人商品の販売開始時期から控訴人商品の販売開始時期まではわずか1年2
か月であるところ,このような短期間で周知性を取得したとするためには,表示の
識別力が特に顕著であるとか,広告宣伝に莫大な費用を投じた等の特殊な事情が認
められる例外的な場合に限られると解すべきである。また,商品形態が出所識別機
能を有するに至る周知性を獲得するためにはある程度の浸透期間が必要であるし,
被控訴人商品が女性のみならず男性も対象にした商品であることからすれば,女性
のみならず男性も含めた一般消費者への周知性を検討すべきである。かかる見地か
ら見るに,被控訴人商品は雑誌に広告を行ったことはあるようであるが,広くテレ
ビコマーシャルが流されたこともなく,新聞広告も行われておらず,雑誌等での紹
介も他の美容品と合わせてものにすぎないのであり,被控訴人商品は出所識別機能
を有するほどの周知性を獲得したとはいえない。
(4)被控訴人商品の形態の持つ意味
被控訴人商品の形態は角質除去用具としての機能と密接に関連しており,需要者
はその機能性に着目して被控訴人商品を購入しているのであって,不競法2条1項
1号が保護する周知商品等表示の営業上の信用に由来するものではない。
被控訴人商品を不競法2条1項1号で保護することはその新規な構成,機能な
いしデザインを半永久的に独占的に保護する結果となり,特許法,意匠法によって
も法定期間内の保護しか認められないこととのバランスを著しく失する。
2商品形態の類似性につき(争点1−2)
被控訴人商品と控訴人商品は,一見,単なるパイプ状の管にしか見えない単純な
形状であるため,太さや長さが異なるだけで受ける印象は大いに異なってくるもの
であるところ,スティックの色が被控訴人商品が黒色であるのに対し,控訴人商品
は白色であって,到底類似するものとはいえない。
3混同のおそれの有無につき(争点1−3)
被控訴人商品は、商品本体自体をばら売りにするような形態では販売されておら
ず、常に包装容器にパッケージされ、包装容器には被控訴人の登録商標「SCRA
TCH」と大きく目立つように表示され、さらに商品本体にも「SCRATCH」
と表示されている。
一方、控訴人商品も同様に、被控訴人商品とは全く異なる形状・色彩の容器にパ
ッケージされ、大きく「夢見るかかとちゃん」と商品名が表示され、大きく女の子
のイラストが書かれており、被控訴人商品の包装容器から受ける印象とは大きく異
なるものとなっている。
さらに、被控訴人商品は、「日本初上陸」や「米国特許申請中」等と、輸入品で
あることを強調しているのに対し、控訴人商品の包装容器等には大きく「日本製」
と表示されている。
以上のような、被控訴人商品と控訴人商品の販売形態との差異に鑑みると、一般
需要者において、実際に店頭に並んだ商品を観察して購入する際、あるいはインタ
ーネットの通信販売において購入する際において、控訴人商品と被控訴人商品との
混同が生じるおそれは全くない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人商品を販売する控訴人の行為は,不競法2条1項1号の不正
競争行為に該当するものと認め,被控訴人は控訴人の上記不正競争行為によって被
控訴人商品に係る営業上の利益を侵害されているものであるから,不競法3条1項
に基づき,控訴人に対し,控訴人商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しの
ための展示の差止めを請求することができるとともに,不競法4条に基づき,控訴
人が控訴人商品の販売によって受けた損害の額(控訴人が控訴人商品の販売によっ
て受けた利益の額である183万6180円)及びこれに対する遅延損害金につき
損害賠償請求ができると判断する。この点に関する当事者双方の主張に対する当裁
判所の判断は,控訴人の当審補充主張についての判断を次のとおり付加するほかは,
原判決「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」記載のとおりである。
1商品等表示について(争点1−1)
(1)控訴人は,被控訴人商品の形態の独自性につき,販売開始時期は不明で
あっても,現段階においては被控訴人商品と同種商品が多数流通しているし,被控
訴人商品の商品形態は長さ数センチ程度の小さな円筒形状の金属製パイプであり,
商品それ自体の形態では何らの独自性を有するものではないと主張する。
しかし,被控訴人商品の形態が,被控訴人が被控訴人商品の販売を開始した平成
18年9月26日当時,他の商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有す
る形態であったものであることは,原判決23頁以下のイの項で認定されていると
おりである上,平成19年11月の時点においても,控訴人が指摘する同種商品
(乙23∼25)の商品の販売が開始されていたことを認めるに足りる証拠はない
のであるから,現段階で控訴人が指摘する同種商品が流通しているとしても,それ
をもって被控訴人商品の形態の独自性を否定する事情にはならないというべきであ
る。
(2)控訴人は,被控訴人商品の形態の周知性につき,被控訴人商品の販売開始
時期から被告製品の販売開始時期まではわずか1年2か月であり,このような短期
間で周知性を取得したとするためには,表示の識別力が特に顕著であるとか,広告
宣伝に莫大な費用を投じた等の特殊な事情が認められる例外的な場合に限られると
解すべきであるところ,被控訴人商品につき広くテレビコマーシャルが流されたこ
ともなく新聞広告も行われておらず,雑誌等での紹介も他の美容品と合わせてもの
にすぎないのであり,被控訴人商品は出所識別機能を有するほどの周知性を獲得し
たとはいえないなどと主張する。
しかし,被控訴人商品につきテレビコマーシャルが流されたり,新聞広告が行わ
れたことがなかったからといって,1年2か月間で周知性が獲得できないというも
のではなく,被控訴人商品が,多くの全国的な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返
し取り上げられて効果的な宣伝広告がなされるなどした結果,周知性を獲得したと
認められることは,原判決34頁以下のエ(ア)の項で小括して認定したとおりである。
控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)控訴人は,被控訴人商品の形態の持つ意味につき,被控訴人商品の形態は
角質除去用具としての機能と密接に関連しており,需要者はその機能性に着目して
被控訴人商品を購入しているのであって,不競法2条1項1号が保護する周知商品
等表示の営業上の信用に由来するものではないなどと主張するが,需要者の中に被
控訴人商品の機能性に着目して購入している者があったとしても,そのことが被控
訴人商品の形態が周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するか否かの認
定を左右するものではない。
2類似性(争点1−2)及び混同のおそれの有無(争点1−3)について
控訴人は,被控訴人商品と控訴人商品のパッケージ形状・色彩の違いといった販
売形態の差異からすれば,被控訴人商品と控訴人商品との混同が生じるおそれは全
くないと主張する。
しかし,被控訴人商品と控訴人商品の形態が類似することは,原判決36頁以下
の(2)の項で認定したとおりであるところ,需要者である一般消費者において,商
品選別の主たる要素は商品本体であるから,被控訴人商品本体の形態と類似した控
訴人商品本体を見て被控訴人商品と混同するおそれはあると容易に認めることがで
きるというべきである。
第5結論
以上より,被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決部分は相当であって,
本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
真辺朋子
裁判官
田邉実

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