弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主    文
   1 原告が被告Aに賃貸している別紙物件目録2記載の建物の賃料は,平成13年
1月1日以降1ヶ月6万1950円であることを確認する。
   2 原告が被告Bに賃貸している別紙物件目録3記載の建物の賃料は,平成13年
1月1日以降1ヶ月5万1650円であることを確認する。
   3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
   4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担と
する。
        事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 原告が被告A(以下,「被告A」という。)に賃貸している別紙物件目録2記載の建物
(以下,「被告A賃借物件」という。)の賃料は,平成13年1月1日以降1ヶ月9万97
50円であることを確認する。 
 2 原告が被告B(以下,「被告B」という。)に賃貸している別紙物件目録3記載の建物
(以下,「B賃借物件」という。)の賃料は,平成13年1月1日以降1ヶ月8万1900
円であることを確認する。
 3 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
本件は,競売によりA賃借物件及びB賃借物件の所有者となった原告が,A賃借物
件及びB賃借物件の各賃借人である被告らに対し,平成13年1月1日以降の各賃
料につき増額請求権を行使したところ,被告らはその増額賃料の適正について争
ったため,平成13年1月1日以降の各賃料額の確認を求めた事案である。
 2 争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実
(1)訴外亡Eは,別紙物件目録1記載の建物(以下,「本件建物」という。)の所有者
であったが,昭和41年頃,被告Aに対し,本件建物のうちのA賃借物件を,期限
の定めなく,賃料1ヶ月2万5000円(当月分を毎月末日限り支払う。)との約定
で賃貸した(なお,被告らは,上記賃貸借の対象にはB賃借物件も含まれてお
り,賃料は,A賃借物件とB賃借物件の全体について1ヶ月5万円である旨を主
張するが,被告らの同主張を認めるに足りる証拠は提出されていないので,弁
論の全趣旨により,少なくとも,A賃借物件について,賃料1ヶ月2万5000円の
約定による賃貸借契約が存在したものと認めるのが相当である。)。
(2) 訴外亡Eは,昭和50年頃,被告Bに対し,本件建物のうちのB賃借物件を,
期限の定めなく,賃料1ヶ月2万5000円(当月分を毎月末日限り支払う。)との
約定で賃貸した。
(3) 訴外亡Eは,昭和58年5月23日,死亡し,訴外Fは,本件建物の所有権を相
続により取得し,上記各賃貸借契約における貸主の地位を承継した。
(4) 原告は,平成12年11月1日,競売により本件建物の所有権を取得し,同年同
月6日,その旨の所有権移転登記を経由したので,上記各賃貸借契約における
貸主の地位を承継した。
(5) 原告は,被告両名に対し,それぞれ平成12年11月11日差出,同日頃到達の
普通郵便にて,平成13年1月1日以降の賃料を,A賃借物件については月額9
万9750円(消費税を含む。)に,B賃借物件については月額8万1900円(消費
税を含む。)にそれぞれ増額する旨の意思表示をした。
 3 当事者の主張
(原告)
(1) 本件建物は,昭和41年10月30日に新築され,北九州市小倉北区のJR小
倉駅前東側の繁華街の一角に位置し,建物北側は東西方向の片側1車線のバ
ス通り(歩道付き)に面している。
(2) 被告Aは,A賃借物件において「C」の屋号にて喫茶店を経営しており,被告B
は,B賃借物件おいて「D」の屋号にて呉服店を経営している。
(3) A賃借物件及びB賃借物件の各賃料は,契約締結当時から原告が所有権を
取得した時点まで一度も改定されず,原告が所有権を取得した平成12年11月
1日の時点では,近隣テナントの賃料相場に比べて著しく低額となっていた。こ
れを端的に示す事情として,被告Aは,現在の「C」の営業を始める前の昭和60
年3月から平成6年2月までの間,月額12万円の転貸賃料を得て第三者に転
貸していた。
(4) 原告が,本件建物の所有権取得後,近隣の賃料相場を調査したところ,3・3
平方メートル当たり1万5000円であった。そこで,原告としては,3・3平方メート
ル当たり1万3000円程度にとどめて計算し,A賃借物件については,面積が7・
26坪となるため,月額9万5000円(消費税を除く。)が,B賃借物件について
は,面積が6・05坪となるため,月額7万8000円(消費税を除く。)がそれぞれ
相当であると判断した。
 (被告ら)
(1) 本件建物のうち,バス通り(歩道付き)に面しているのは「G」であり,その隣
のA賃借物件及びB賃借物件はバス通りに面していない。また,被告Aは,A賃
借物件を転貸したことはない。
  なお,平成12年12月25日に「小倉そごう」が閉店し,その裏通りにあるA賃借
物件及びB賃借物件の通りは寂れて人通りも少なくなり,「喫茶C」の売上は,
「小倉そごう」の閉店後には2分の1に減少し,常連客以外は殆ど来店しなくなっ
た。
(2) 本件建物の2階及び3階の40・92平方メートルについては,家賃月額4万円
で賃借人を募集しており,本件建物は老朽化して水道も漏水しているにも拘わら
ず,原告はその修理に応じていないことなどを勘案すれば,平成13年1月1日
以降の賃料は,月額4万円が相当である。
(3) 適正地代の算出方法には,一般に,利回り方式(積算方式),スライド方式,
差額配分方式,賃貸事例比較方式が採用されているが,各方式には問題点が
少なくない。
本件において,利回り方式(積算方式)にあっては,継続地代期待利回りを1パ
ーセントに修正することが相当であり,スライド方式については,家賃に占める
昭和41年10月における地代部分と建物新築部分と平成13年1月1日におけ
る同各部分が明らかにならない場合には,採用の余地はなく,賃貸事例比較方
式については,本件建物の2階及び3階の家賃,「小倉そごう」跡の家賃を対象
として修正すべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 上記認定の事実(第2の2の(1)ないし(5)の事実)を前提として,A賃借物件及び
B賃借物件についての平成13年1月1日以降の適正賃料額について,以下,判断
する。
(1) 鑑定の結果によれば,鑑定人は,適正賃料額を鑑定評価するに際して,先ず,
差額配分方式,スライド方式,賃貸事例比較方式の3通りの評価手法を用いて,
それぞれの評価手法による賃料額を求めたうえで,これらを総合勘案して,A賃
借物件及びB賃借物件を合わせた全体(以下,「対象不動産」という。)の適正賃
料額を月額12万7400円と判定し,これをA賃借物件及びB賃借物件の各賃借
面積比で按分して,A賃借物件については月額6万9500円,B賃借物件につい
ては月額5万7900円をもって適正賃料額であると鑑定評価したことが認められ
るところ,これらの評価手法を更に詳細に検討すると,その内容は,概ね次のと
おりであることが認められる。
   ア 差額配分方式による対象不動産の賃料額
     先ず,対象不動産の基礎価格を2414万3000円と評価したうえ,これに3パー
セント期待利回りを乗じて得た額と対象不動産の賃貸借を継続するため通常
必要とされる諸経費等(必要諸経費等)を加算して,対象不動産の経済賃料
(対象不動産の経済価値に即応した適正賃料)を11万3600円と評定した。
     次に,上記経済賃料と実際賃料(A賃借物件及びB賃借物件が各2万5000円
であるので,合計5万円である。)との間の差額につき,契約の内容,経緯及
び諸物価等の推移,社会的公共公益施設の整備の状況等を総合的に勘案
し,これを貸主に帰属する部分を5割と判断して,差額の5割を実際賃料に加
算し,対象不動産の賃料額は8万1800円であると評定した。
イ スライド方式による対象不動産の賃料額
A賃借物件については昭和41年頃,B賃借物件については昭和50年頃から賃
貸借が始まったものであることを前提としたうえで,土地価格の上昇率,建物
価格の上昇率を重視し,次に,消費者物価指数のうち家賃指数の上昇率によ
り判定するとして,A賃借物件については3・20倍,B賃借物件については2・
45倍と評定して,対象不動産の賃料額は14万1300円であると評定した。
ウ 賃貸事例比較方式による対象不動産の賃料額
対象不動産と代替性を有する賃貸事例として3例を収集したが,契約内容とその
経緯が千差万別であり,個別性が大きく反映しているので,やや信憑性に欠
けるとしたうえで,各賃貸事例につき,街路条件,交通接近条件,環境条件,
行政的条件等による補正を加えたうえで比較考量し,対象不動産の賃料額は
14万7600円であると評定した。
(2) 上記鑑定は,当裁判所の選任した公正な立場の鑑定人による鑑定であり,鑑
定方法も,鑑定手法として一般的に認知されている差額配分方式,スライド方
式,賃貸事例比較方式の3通りの評価手法を用いて,客観的な資料に基づき,
それぞれの評価手法による賃料額を求めたうえで,これらを総合勘案して最終
的な鑑定評価を行っており,鑑定結果は極めて信頼性の高いものであるというこ
とができる。
    しかしながら,本件にあっては,本件建物の従前の所有者である訴外亡E及びこ
れを相続した訴外Fは,それが温情によるものであるか怠慢によるものであるか
は兎も角として,賃貸借契約を締結して以来,A賃借物件にあっては30数年の
長期間にわたり,また,B賃借物件にあって20数年にわたり,賃料の増額をす
ることなく,当初の契約による月額2万5000円の賃料額を維持してきたもので
あるが,原告が,平成12年11月1日,競売により本件建物の所有権を取得した
ことにより,平成13年1月1日以降の賃料を,A賃借物件については月額9万9
750円(消費税を含む。)に,B賃借物件については月額8万1900円(消費税
を含む。)にそれぞれ増額する旨の意思表示をしたことが契機となって,本件訴
訟が提起されるに至ったものであり,したがって,被告らにとっては,永年維持さ
れてきた従前の賃料額が今後も当分の間は維持されるであろうとの期待があっ
たものと推察されるところ,このような期待は,必ずしも法的に保護されるべきも
のとはいい難いものではあるが,これを全く考慮から除外することは相当ではな
いこと,スライド方式による賃料額の評定は,賃料が据え置かれていた期間が
極めて長期間であるところから,本件にあっては必ずしも適切妥当な評価手法と
はいえないこと,賃貸事例比較方式による賃料額の評定は,鑑定において収集
された賃貸事例は3例の少数であって,その平均値は統計学的にみた場合には
必ずしも有意の数値とすることはできないうえ,鑑定人自身も認めているとおり,
収集された賃貸事例は,契約内容とその経緯が千差万別であり,個別性が大き
く反映しているので,やや信憑性に欠けるものであること,一方,差額配分方式
による賃料額の評定に際して鑑定人が算定した経済賃料(対象不動産の経済
価値に即応した適正賃料)は,期待利回りを3パーセントの比較的高率な利回り
で算定したにも拘わらず,スライド方式により評定された賃料額や賃貸事例比較
方式により評定された賃料額よりも低額の月額11万3600円(対象不動産に対
する賃料額)に止まっていることなどを勘案するならば,本件にあっては,鑑定人
が算定した上記経済賃料額の限度で賃料の増額を認めるのが相当であり,対
象不動産の適正賃料は月額11万3600円であると判断する次第である。
    よって,上記対象不動産の適正賃料額をA賃借物件及びB賃借物件の各賃借面
積比をもって按分すると,A賃借物件については月額6万1950円,B賃借物件
については月額5万1650円が適正賃料であると算定できる。
 2 以上によれば,原告の請求は,A賃借物件の賃料が平成13年1月1日以降1ヶ月
6万1950円であること,及びB賃借物件の賃料が平成13年1月1日以降1ヶ月5
万1650円であることの各確認を求める限度で理由があるから,同限度で認容し,
その余は失当であるから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61
条,64条に従い,主文のとおり判決する。
 (口頭弁論終結日 平成14年5月31日)
     福岡地方裁判所小倉支部第3民事部
          裁 判 官杉 本 正 樹
別紙   
  物件目録
1 所  在  北九州市a区b町c丁目d番e号
  家屋番号f番gのh
構  造  鉄筋コンクリートブロック造陸屋根・鉄骨造スレート交葺3階      建
床面積  1階  52.80平方メートル
      2階  52.80平方メートル 
3階52.80平方メートル
2 上記1記載の不動産の1階部分のうち,西側24平方メートル
3 上記1記載の不動産の1階部分のうち,東側20.01平方メートル

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