弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役一年六月に
     同Bを懲役三年に処する。
     押収にかかる日本剃刀一挺(証第一号)はこれを没収する、
     同皮製手提鞄及び布製財布各一個(証第二、三号)は被害者Cにこれを
還付する。
     原審並に当審における訴訟費用中各国選弁護人に支給した分は被告人B
の負担とし爾余の分はいづれも被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は検察官浜田竜信、被告人Aの弁護人塚本義明の各控訴趣意書
に記載されている通りであり検察官の控訴趣意に対する被告人A弁護人塚本義明の
答弁の趣意は記録中の同弁護人名義の答弁書記載の通りであるからここに之を引用
するが之に対する当裁判所の判断は次の通りである
 検察官及び被告人Aの弁護人塚本義明の各事実誤認の控訴趣意について
 原判決がその認定にかかる原判示第一の犯罪事実関係の証拠として挙示している
各証拠並に当審において取調べた証人C、D、Eの各尋問調書及び検証調書の各記
載を綜合すると右事実に関する法律上の判断を除き略々同判示の如き事実を認定す
ることが出来る。即ち是等証拠によれば被告人両名は昭和二十九年三月十八日頃の
午後九時頃岐阜市a町b丁目F株式会社工場附近の路上にて対談中のC、Gの両名
を認むるや被告人Bが言葉尻を捕えて因縁をつけ、被告人Aもこれに同調して被告
人BはCの顔面のあたりを殴打し被告人Aは同人を前記工場事務室前附近路上一段
と暗き場所に連行し拳を以つて同人の鳩尾を突き被告人Bは所携の日本剃刀を示し
て「金を貸せ」と申向げたところ時刻と云い場所柄と云い就中被告人両名の言語並
に動作に畏れを抱いた右Cが若干の所持金を交付してその場を遁れようと思惟し五
百円位持つている金は鞄の中にあると答えやがて同人の自転車の荷受の上にあつた
同人の鞄を取上げ之を自転車の上に置き鞄の中にあつた現金二万三千余円在中の財
布を取出しその口を開き百円札数枚を被告人等に手交しようとしてその中二、三枚
を掴み出そうとした瞬間その財布を目撃した被告人Bか右被害者の隙を見て之を阻
止する余裕を与えず突如右財布を持ち逸早くその場を逃走した事実を明認すること
が出来る。而して原審は右事実を以つて恐喝未遂罪と窃盗罪の二罪が成立するもの
と解し、而もこの両者は刑法所定の併合罪であるとなし、之に関する法条を適用処
断していることは洵に各所論の通りであるが、斯かる場合被告人等の右の如き所為
を検察官所論の如く強盗罪を以つて問擬するか或は恐喝の一罪と認めるか又或は弁
護人所論の如く窃盗罪の一罪と認めるか将又原判決の如く之を恐喝未遂罪と窃盗罪
との併合罪と認めるかは一に法の精神と社会通念に照し如何に法律上の評価を為す
のが合理的であるかによつて定まるものと解するを相当とする。
 仍つて先づ検察官所論の如く強盗罪を以つて問擬すべき価値ある所為なりや否や
につき按ずるに凡そ強盗罪が成立する為には行為者の被害者に加えた暴行脅迫の程
度が被害者の反抗を抑圧する程度のものであることを要することは論を俟たないと
ころである。成程本件犯行は検察官所論の通り原判示の如く午後九時頃人通りの少
い寂漠な場所で行われてはいるが、被告人等が被害者に対して用いた言辞、態度、
兇器の種類、性質、被害者の畏怖の程度に鑑み、社会通念に照し未だ以つて強盗の
構成要件たる相手方の反抗を抑圧する程度の暴行脅追の行為があつたものと認める
ことは出来ない。従つて被告人等の行為を強盗罪として処断すべきであると論、ず
るこの論旨は理由がない。
 <要旨>次に検察官の恐喝既遂の一罪であるとする論旨及び弁護人の窃盗罪の一罪
として処断すべきであるとの各論旨について併せて審究するに被告人等が本
件犯行に当り用いた前述の如き暴行脅迫の手段、その際示した兇器の種類、性質、
被害者の畏怖の程度等に鑑み、犯行の時刻場所の点を考え合せて見てもこの種の所
為は法律上の価値評価において検察官の論旨第一点の(二)に詳述する如く恐喝既
遂の一罪を以つて問擬すべきものと認むるを相当とする。蓋し恐喝罪は犯人が被害
者に対し暴行又は脅迫を加え之に因り被害者に畏怖の念を生ぜしめ、因つて不本意
なる意思決定にもとづき財物を交付し犯人が之を受領することによつて成立する犯
罪であるが被告人等が被害者Cに対し加えた前叙の暴行、脅迫は前述の通り相手方
の反抗を抑圧する程強度のものではないが被害者に畏怖の念を生ぜしむるには十分
であり、且被害者は右暴行脅迫によつて畏怖の念を抱き之が為不本意ながら自己保
管中の現金の中から数百円の現金を被告人等に交付する意思決定を為し自ら自己所
有の鞄の口を開き在中の財布から百円札数枚をつまみ出し、之を被告人等に手渡そ
うとした瞬間前述の如く被告人Bがその財布を見て持逃げたのである。この場合成
程被告人Bの手中に帰した財布及び在中の現金全部を被害者が任意に交付する意思
決定がなかつたものと認め得られるとは云えこの一事を以つて原審認定の如く、恐
喝行為が未遂に終り爾余の行為が直ちに窃盗罪を構成するものと解することは理論
遊戯的な皮相の見解と謂わざるを得ない。叙上の如き事実は之を法律的に評価して
被害者が任意に財物を交付した場合と同一に考え恐喝既遂罪として処断すべきもの
と解すを相当とする。蓋し被害者が若干の金員を交付しようと決意し、現金をつま
み出そうとしている時その隙を見てその現金在中の財布を引さらつて逃げる行為は
被害者において阻止する余裕がなく犯人が財物を奪うを黙認するの余儀なきに至ら
しめた場合は任意の交付と同一視するに足るからである。従つて原判決には検察官
論旨第一点後段の論旨の如き事実誤認の違法がありこの論旨は理由があるが弁護人
所論の如き窃盗の一罪であるとの論旨は採用出来ないが弁護人の論旨も亦原審が被
告人等の所為を前記の如く併合罪と認定した事実認定を攻撃するにあるから本件所
為を恐喝罪の一罪と認むべきものである以上弁護人の論旨も亦結局理由あるに帰す
るものと謂わなければならない。而して前説明の事実誤認の違法は判決に影響を及
ぼすことが明白であるから原判決はこの点において到底破棄を免れないから検察官
及び弁護人の爾余の論旨に関する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第三百八
十二条により原判決を破棄するが本件は原裁判所及び当裁判所において取調べた証
拠により当裁判所において直ちに判決するに適するものと認めるから同法第四百条
但書により当裁判所において判決する。
 (罪となるべき事実)
 当裁判所が認めた罪となるべき事実は原判示第一事実を被告人両名は共謀して昭
和二十九年三月十八日頃の午後九時頃岐阜市a町b丁目地内F棟式会社事務室前の
道路上において被告人BはCの顔面のあたりを殴打し被告人Aは同人の鳩尾を突き
被告人Bは所持の剃刀(証第一号)を示して金を貸せと申向けよつて同人を畏怖せ
しめ同人が所持していた手提鞄の中に在つた現金約二万三千円左中の財布の中から
数百円を取出して被告人等に交付しようとし中百円札二、三枚をつまみ出そうとし
た瞬間その財布を目撃した被告人Bが被害者の隙を見て右Cに阻止の余裕を与え
ず、突如その財布を持逃し以つて之を喝取したものであると改め証拠の部に左記の
証拠を加える外は原判示と同一であるからここに之を引用する。
 追加する証拠
 一、 当審における検証調書
 一、 当審における証人C、D、Eの各証人尋問調書
 (法令の適用)
 法律に照すと被告人Aの所為は刑法第三百四十九条第一項第六十条に該当するか
ら所定刑期範囲内において同被告人を懲役一年六月に処し被告人Bの所為中恐喝の
点は刑法第二百四十九条第一項第六十条に、窃盗の点は同法第二百三十五条に詐欺
の点は同法第二百四十六条第一項に該当するところ前示前科があるので同法第五十
六条第五十七条第五十九条により累犯加重を為し以上は同法第四十五条前段の併合
罪であるから同法第四十七条第十条を適用して犯情重き恐喝の罪の刑に同法第十四
条の制限に従い法定の加重を為した刑期範囲内において同被告人を懲役三年に処し
押収にかかる日本剃刀一挺(証第一号)は本件犯罪行為に供したもので被告人B以
外の者に属しないから同法第十九条第一項第二号第二項によりこれを没収し、押収
物の被害者還付につき刑事訴訟法第三百四十七条第一項に従い訴訟費用の負担につ
き同法第百八十一条第一項第百八十二条を各適用して主文第五項掲記の通りそれぞ
れ被告人両名に負担させることとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 小林登一 裁判官 栗田源蔵 裁判官 石田恵一)

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