弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,長男であるA(当時5歳)の親権者として,Bは,被告人の実弟
であり,Aと同居し,かつ,被告人からAの食事の世話などを委託されていた
者として,それぞれAを養育していたものであるが,被告人及びBは,Aに十
分な食事を与えていなかったため,平成23年6月ころには同人がやせ細るな
ど,低栄養状態に陥り,同年7月中旬ころには,同人が更にやせ衰えた上,食
欲が落ちていたのであるから,同人に十分な食事を与えるとともに,適切な医
療措置を受けさせるなどその生存に必要な保護をなすべき責任があったにもか
かわらず,共謀の上,そのころから同年8月16日までの間,埼玉県春日部市
a町b番地c所在の被告人方において,Aに十分な食事を与えず,適切な医療
措置を受けさせることもなくこれを放置し,もって同人の生存に必要な保護を
しなかった。
第2被告人は,同年8月14日午後1時ころから同日午後3時30分ころまでの
間,前記被告人方において,Aに対し,その頭部及び顔面を3回殴り,さらに,
その左顔面を数回蹴るなどの暴行を加えた。
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,実子である当時5歳の被害者に対し,十分な食事を与えず,
同人が低栄養状態に陥っていたのに,弟である共犯者と共謀の上,被害者に対し
適切な医療措置を受けさせるなどの必要な保護をしなかったという保護責任者遺
棄及び同じ時期に被害者に対しその顔面等を殴ったり蹴ったりしたという暴行の
事案である。
2本件犯行に至る経過は,概ね以下のとおりである。
被告人は,平成19年1月ころ以降,被告人方で,当時1歳の被害者,被害者
の母親である元妻のC,共犯者である弟のB及び被告人の母親と5人で暮らすよ
うになったが,Cは,同年6月ころ,被告人の日常的な暴力に耐えられずに被告
人方から逃げ出し,その後,Cと被告人は,被害者の親権者を被告人と定めて協
議離婚した。平成20年1月ころ,統合失調症を患い,被告人及びBからたびた
び暴力を受けていた被告人の母親も被告人方を出て行ったため,その後は,被害
者の面倒を見る者は被告人及びBのみとなった。被告人は,当時仕事をしていな
かったBに,被告人が昼間仕事で家を空ける間の被害者の世話を依頼し,Bもこ
れを引き受けることとなった。被告人は,Bに対し生活費等をほとんど渡すこと
がなく,被害者に与える食事としてコンビニで買ってきたパンやおにぎりなどを
Bに渡し,被害者に支給された児童手当や子ども手当の大部分を自分のために使
っていた。また,被告人は,Bが被害者を外に連れ出すことや入浴させることを
禁じるなどの制約を課し,自ら被害者を家の外に連れ出すことも滅多になく,入
浴も1,2週間に1回程度しかさせず,定期検診や病院には一度も連れて行かず,
保育所に入所させようともしなかった。被告人らは被告人方内の掃除やゴミ出し
を一切しなかったため,次第に室内にゴミが溜まり,本件当時は,各室内にゴミ
がうずたかく積み上がり,足の踏み場もない状態となっていた。
Bは,平成22年4月ころ以降アルバイトをするようになり,当初は夕方から
夜にかけての勤務であったが,同年10月ころ以降は夜勤となり,昼間起きてい
られなくなったため,被告人とも合意の上,被害者に対する食事は朝晩の2回の
み用意するようになった。平成23年1月ころ以降,被告人は,Dと交際するよ
うになり,仕事が終わった後などにほぼ毎日会っていたため,被害者の世話はほ
ぼすべてBに任せきりの状態となった。被告人らは,同年春ころ以降,被害者が
自由に部屋を出入りすると世話が面倒であるといった理由から,被告人が家にい
ない間は被害者を4畳半の部屋に閉じこめてドアに紐を巻き付けるなどして中か
らドアを開けられないようにしていた。
被害者は,以上のような生活を送っていた結果,同年6月初めころまでには低
栄養状態となり,被告人は,そのころ被害者を入浴させた際に被害者がやせ細っ
ていることに気付き,同年7月ころには更にやせ衰えていることに気付いたが,
当時連絡が取れなくなっていたDを捜し回るなどしていて,被害者の世話は従前
どおりBにほぼ任せきりにし,被害者を病院に連れて行くこともなかった。そし
て,Bは,被害者が死亡した同年8月16日までの間,被害者に与える食事の回
数を増やしたり内容を変えたりすることもなく,水分に至っては誤った判断から
与える量を以前より控えていた。
3以上のとおり,被告人らは,5歳で被告人ら以外に頼るべき存在のいない被害
者を,家中ゴミの山で足の踏み場もないという極めて劣悪な環境の下に置き,ほ
とんど外出させることはなく,室内でも4畳半の部屋から勝手に出られないよう
にし,毎日朝晩の2回のみ,おにぎりやパンなどの栄養の偏った食事を与え,水
分も十分に与えず,痩せた状態が目立つようになった後も病院に連れて行くなど
の措置を取らなかったのであり,不保護の態様は極めて悪質である。
被告人は,被害者の唯一の親権者として被害者を養育保護すべき責任を負って
いたにもかかわらず,特に平成23年1月ころ以降,女性との交際に熱中し,被
害者の世話をBに任せきりにし,その一方で,被害者の育児につき他人に口出し
されたくないという独善的な考えから,Bが被害者を外出させることなどを禁じ
ていた。そして,被害者が低栄養状態にあることを認識した後も,病院に行くと
時間やお金がかかる,自分が被害者を虐待していると疑われる,交際相手を探す
ことを優先するなどといった理由から,被害者を病院に連れて行かずに,被害者
が痩せていくのをそのまま放置していたのであり,その動機は余りにも身勝手で
自己中心的である。
被害者は,被告人らによる不保護の結果,当時5歳10ないし11か月であっ
たのに1歳児の平均体重と同程度である10.6キログラムの体重しかなく,低
栄養症,脱水症の状態に陥っていたのであり,被害者が受けた肉体的,精神的苦
痛は多大なものがある。被告人が,Bを含めた他人の介入を極力阻止し,被害者
の行動や生活を支配していた上,被害者の世話が面倒であるという考えや自分の
楽しみを優先させようとする気持ちから,被害者の世話を怠り,被害者の心身の
状態に気を遣うことがほとんどなかったことからすると,不保護によって生じた
被害者の生命に対する現実的な危険性は高かったといえる。
4本件暴行は,被告人らの不保護により衰弱していた5歳の被害者に対し,判示
のとおり執拗な暴行を加えたものである。被告人は,被害者が部屋の壁にいたず
らをしたことや,そのことを注意したことに対する被害者の反応に立腹し,当時
Dと連絡が取れず苛立っていたことも影響して犯行に及んだものであるが,これ
まで被害者が被告人らによって極めて劣悪な環境に置かれて育ち,その結果心身
の発達も遅れていたことにかんがみると,暴行に至った動機,経緯にも酌量の余
地は全くない。
5以上検討してきた本件の犯情,とりわけ犯行に至る経緯,不保護の態様の悪質
さ等からすれば,被告人の刑事責任は重く,本件は刑の執行を猶予することがで
きる事案ではない。
6被告人は,これまでにも被害者が被告人の言うことを聞かないときなどに被害
者に暴力を振るうことがたびたびあり,以前は元妻や母親に対しても暴力を振る
っていたもので,家庭内で暴力を振るう性癖は根深いといえる。また,被告人は,
公判で反省の言葉を述べるものの,その一方で,被害者がそれなりに幸せを感じ
て暮らしていたと思う旨述べるなどの公判での供述状況に照らしても,自らの犯
した罪と真摯に向き合っているとは認めがたい。他方で,被告人は,元妻との離
婚に伴い被害者を引き取り,被告人なりに被害者に対する愛情を持って接してい
た側面も皆無ではないこと,これまで前科前歴がないことなどの事情も存在する。
7そこで,以上の諸事情を総合し,同種事案の量刑傾向も勘案して,被告人に対
しては主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑-懲役5年)
平成24年2月28日
さいたま地方裁判所第3刑事部
裁判官寺尾亮

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛