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平成25年(う)第578号海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関
する法律違反被告事件
平成25年12月18日東京高等裁判所第1刑事部判決
主文
本件各控訴を棄却する。
被告人両名に対し,当審における未決勾留日数中各250日
を,それぞれその原判決の刑に算入する。
理由
被告人甲の本件控訴の趣意は,弁護人竹内明美作成の控訴趣意書及び同
補充書に,被告人乙の本件控訴の趣意は,弁護人藤原大吾作成の控訴趣意
書,同補充書(1)及び同(2)に,これらに対する答弁は,検察官工藤恭裕作
成の答弁書及び意見書に記載されたとおりであるから,これらを引用す
る。各論旨は,不法な公訴受理(弁護人竹内及び同藤原は,いずれも量刑
不当を主張する点を除き,控訴趣意は不法な公訴受理(刑訴法378条2
号)に収斂される旨釈明した。)及び量刑不当の主張である。
1不法な公訴受理の主張について
各論旨は,本件公訴は,刑訴法338条又は339条1項の事由があ
り,判決又は決定により棄却されるべきであったのに,原判決は不法に公
訴を受理して実体判決をしており,破棄されるべきであるというのであ
る。
そこで検討すると,原判決は,海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に
関する法律(以下「海賊対処法」という。)6条ないし8条の憲法適合性
は,これらが適用されない本件においては論じる余地がなく,また国際法
及び国内法の両面において日本には本件につき管轄権が認められ,さらに
被告人両名の逮捕手続等に公訴提起を無効ならしめる違法があるとはいえ
ない旨判示し,公訴棄却を求める原審弁護人の主張をいずれも排斥した。
こうした原判決の判断は,当裁判所としてもその理由を含めて是認するこ
とができる。以下,所論に鑑み,補足して説明する。
(1)海賊対処法の憲法適合性について
所論は,海賊対処法の憲法適合性について,原審同様の主張をするもの
であるが,その前提として,以下のとおり主張し,本件においては原判決
のように憲法判断を回避することはできないという。すなわち,日本国憲
法が採用する付随的違憲審査制といえども,例外的に,①ある法律関係に
適用される法規の属する法律全体が,立法権の管轄権外の事項について取
り扱っているものといえる場合,②違憲主張の対象となる条項と適用条項
とが不可分といえる場合には,適用条項がそれ自体として違憲といえない
場合であっても,法律全体の違憲性を争うことができると解されるとこ
ろ,本件においては,海賊対処法は憲法9条2項に違反する存在である自
衛隊の公海派遣等という憲法の三大原則の一つである平和主義に反する事
項について規定するものであるから,立法権の管轄権外の事項について規
定するものといえるし,その規定ぶりや制定経緯からして「海賊行為の処
罰」を定める規定と「海賊行為への対処」を定める規定は不可分であると
いえる。仮に,このように言えなかったとしても,本件においては,被告
人らを逮捕した海上保安官は,正に海賊対処行動中の海上自衛隊護衛艦に
同乗していた者であったことからすれば,海賊対処行動の憲法適合性を判
断しなければ,本件逮捕行為の憲法適合性・合法性の判断をすることがで
きない。
しかしながら,所論が依拠する見解の一般的な当否は置くとして,日本
国憲法が採用する付随的違憲審査制の下では,当事者の違憲主張に対する
裁判所の判断は,原則として当該事件の解決に必要な限度でなされるべき
もので,抽象的にある法令の違憲性を主張したり,自己に適用されない規
定の違憲を主張することなどは基本的に許されないものである。
本件において被告人両名への適用が問題となる海賊行為の処罰規定(海
賊対処法2条,3条)と海上自衛隊の海賊対処行動との関連についてみる
と,海賊行為に及んだ被告人らはアメリカ合衆国海軍兵士による制圧の結
果として拘束され,その身柄が我が国の海上保安官に引き渡されて逮捕さ
れたもので,その海上保安官が海上自衛隊護衛艦に同乗していたに過ぎな
い。また,本件に関して自衛官が海賊対処行動として武器を使用したこと
も全くない。すなわち,被告人両名の逮捕や処罰と海上自衛隊の海賊対処
行動との関連は極めて希薄であって,弁護人が違憲主張の対象としている
条項(同法6条ないし8条)と適用条項(同法2条,3条)とが所論がい
うように不可分であると評価する余地もない。前述した付随的違憲審査制
の運用に関する原則的立場を踏まえて,以上の諸点を併せ考えれば,所論
がいうように,被告人両名に適用される刑事処罰規定と別個の規定ないし
海賊対処法全体の憲法適合性を問題とする主張について判断する必要は認
められないというべきである。以上と同旨に帰する原判決の判断は相当で
あり,所論(1)は採用できない。
(2)刑事裁判管轄権の有無について
また所論は,本件については以下の理由により,日本の裁判所には国際
法上の管轄権も国内法上の管轄権も認められないと主張する。すなわち,
ア国際法上の管轄権について,原判決は,海洋法に関する国際連合条約
(以下「国連海洋法条約」という。)100条は「すべての国は,最大限
に可能な範囲で,公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所におけ
る海賊行為の抑止に協力する。」と定めているところ,海賊行為が公海上
における船舶の航行の安全を侵害する重大な犯罪行為であることや,海賊
行為をめぐる国際社会の対応等の歴史的沿革を踏まえ,その規定の趣旨を
勘案すると,海賊行為については,旗国主義の原則(公海において船舶は
旗国の排他的管轄権に服するというもの)の例外として,いずれの国も管
轄権を行使することができるという意味での普遍的管轄権が認められてい
るものと解するのが相当であるとしたが,同条約105条は「(海賊船舶
等の)拿捕を行った国の裁判所は,科すべき刑罰を決定することができ
る。」と明確に規定しているのであって,このような明確な規定を同条約
100条のような抽象的な規定を拡張ないし類推解釈をして否定すること
はできない,イ国内法上の管轄権について,原判決は,海賊対処法は,
公海等における一定の行為を海賊行為として処罰することを規定し(同法
2条ないし4条),国外での行為を取り込んだ形で犯罪類型を定めている
ところ,このような規定の仕方自体から,同法には国外犯を処罰する旨の
「特別の規定」(刑法8条ただし書)があるものと解され,海賊行為につ
いては普遍的管轄権が認められることを併せ考えると,海賊対処法は,公
海上で海賊行為を犯したすべての者に適用されるという意味で,その国外
犯を処罰する趣旨に出たものとみることができ,海賊行為について国外犯
処罰規定がないといえないことはもちろん,管轄を及ぼすべき具体的な行
為が法文から明らかでないともいえないとしたが,海賊行為に認められる
普遍的管轄権とは,「(海賊船舶等の)拿捕を行った国の裁判所は,科す
べき刑罰を決定することができる」という意味での普遍的管轄権であるか
ら,海賊対処法の処罰規定を適用することができる者も,日本の官憲が拿
捕した者に限られるというべきである。
しかしながら,(2)アの点については,海賊行為は古くから海上交通の
一般的安全を侵害するものとして人類共通の敵と考えられ,普遍主義に基
づいて,慣習国際法上もあらゆる国において管轄権を行使することができ
るとされており,実際,ソマリア海賊に関しても海賊被疑者を拿捕した国
が第三国に引き渡し,第三国もこれを受け入れ,訴追,審理を行った例が
多数見られるところである。こうした慣習国際法上の実情及び国家実行に
加えて,国連海洋法条約100条が,上記のとおり海賊行為に関し,すべ
ての国に対する協力義務を規定していることも併せ考慮すれば,国際法
上,いずれの国も海賊行為について管轄権を行使することができると解さ
れる。所論は,同条約105条によれば本件につき国際法上管轄権を行使
し得るのは被告人らを拿捕したアメリカ合衆国であり,日本はこれを認め
られないというのであるが,同条は,その規定振りが全体として権利方式
である上(英文では「maydecideuponthepenaltiestobeimposed」
とされており,「科すべき刑罰を決定することができる」と訳されてい
る。),同条が定めるすべての国が有する海賊行為に対する管轄権は,国
連海洋法条約によって初めて創設されたものではなく,古くから慣習国際
法により認められてきたものであって,所論の主張は,このような沿革や
同条の趣旨に反するものである。そして,実質的に見ても,拿捕国が海賊
被疑者の身柄を拘束し証拠も保持しており,同国にその管轄権を肯定する
のが適正かつ迅速な裁判遂行,ひいては海賊被疑者の人権保障にも資する
ことからすれば,同条はいずれの国も海賊行為に対して管轄権を行使する
ことができることを前提とした上で,拿捕国は利害関係国その他第三国に
対して優先的に管轄権を行使することができることを規定したものと解す
るのが相当である。原判決は,同条約105条の解釈については特に触れ
ていないが,その判文に徴すれば同条約に関し上記と同旨の理解に立つも
のであると考えられ,所論がいうように同条約100条のみに依拠したも
のとは認められない。所論(2)アは,原判決を正解しないものであって採
用できない。また,所論(2)イは,既に見たとおり,普遍的管轄権の理解
及び同条約105条の解釈を異にするものであって,その前提において失
当である。
(3)被告人両名の引受け行為の違法性ないし有効性について
さらに所論は,ア原判決は,被告人両名に対する逮捕手続等に公訴提
起を無効ならしめるような違法があるとはいえず,意思疎通が二重通訳に
なるなどしたからといって公訴提起が違法になるとも解されないとした
が,本件においては日本以外にも管轄権を有する国が複数あり,そのいず
れにおいても被告人両名の防御権はより手厚く保障されるはずであったに
もかかわらず,敢えて日本で被告人両名を引き受け,刑事裁判手続を行っ
た結果,その防御権が侵害されることとなったのであるから,本件公訴提
起は違法・無効であるか,管轄権が認められない,イ市民的及び政治的
権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)の規約人権委員会
は,死刑が科されないという保証なしに死刑廃止国から死刑存置国へ犯罪
者等の引渡しを行うことは同規約6条1項に反するとの見解(Judgev.
Canada,no.829/1998,Viewadoptedon5August2002,para.10.3)を
示しているところ,海賊行為に及んだ者の処罰について死刑の定めがない
アメリカ合衆国が,死刑を含む刑罰を規定する日本に対して,死刑が科さ
れないという保証なしに被告人両名を引き渡したことは,上記見解の趣旨
からすれば同条項に反するものであり,かかる違法な本件引受け行為に引
き続く公訴提起は違法・無効である旨主張する。
しかしながら,(3)アの点については,原判決が適切に説示するとお
り,本件の証拠関係に即して,適正手続の観点から被告人両名の引渡しと
逮捕,その後の弁護人選任までの一連の手続について検討しても,被告人
両名の防御権が実質的に侵害されたとは認められない。所論は,被告人両
名の防御権保障の程度について,刑事手続のある一側面のみを恣意的に取
り上げて日本と他国との間の優劣を論じる点で比較の方法自体が誤ってい
るというべきであるが,仮に所論がいうとおり日本よりもその防御権保障
が図られる国があったとしても,それはいずれの国において管轄権を行使
するのがより適当かといった問題に過ぎず,それ故に本件公訴提起を違法
・無効ならしめるものではなく,また管轄権を否定するものでもないとい
うべきである。所論(3)アは採用できない。また,(3)イの点については,
自由権規約は我が国が批准した条約であり,日本の国内法に受容されたも
のであるものの,同規約6条1項は,「すべての人間は,生命に対する固
有の権利を有する。この権利は法律によって保護される。何人も恣意的に
その生命を奪われない。」と定めているのであり,その文理に照らして,
所論がいうような解釈は直接には導かれない。しかるに,所論は,規約人
権委員会の同条項に関する上記見解に依拠して,本件引受け行為は違法で
それに引き続く被告人両名に対する公訴提起も違法・無効である旨主張す
るのであるが,規約人権委員会が個人通報制度を定める第1選択議定書に
基づいて採択する見解は,同規約を解釈する任務を与えられた機関による
決定として一定の法的意義を有するものの,当事国に対してさえ法的拘束
力は有しないとされているのであり,同議定書を批准していない日本にと
ってその規範性は一層限定的なものである。なお所論が依拠する見解の内
容につき念のため検討をしておくと,同見解は,その文理に照らせば,自
由権規約が各国において死刑制度に関する様々な見方がある中で相互に譲
歩して規定されるに至った経緯に鑑み,同規約6条1項の解釈に関して死
刑存置国と死刑廃止国を別異に取り扱い,死刑廃止国にのみ,犯罪者等に
死刑が科されることが合理的に予想される場合には死刑が科されないとい
う保証なしに犯罪者等を引き渡してはならないとの義務を課したものと解
されるから,死刑存置国である日本及びアメリカ合衆国がかかる義務を負
うことにはならない。また,同見解は,特定の犯罪類型に関して死刑が規
定されているか否かを問題にするものではない。そうすると,本件におけ
る被告人両名の引渡しは同規約に反するものではなく,それに引き続く本
件公訴提起が違法・無効となる余地はない。所論(3)イも採用できない。
所論が指摘するその余の事情を踏まえて検討しても,原判決の判断に誤
りはない。不法な公訴受理の各論旨はいずれも理由がない。
2量刑不当の主張について
各論旨は,被告人両名をそれぞれ懲役10年に処した原判決の量刑は重
すぎて不当であるというのである。
そこで検討すると,本件は,被告人両名が,自称A(以下「A」とい
う。)及び原審分離前の相被告人自称B(以下「B」という。)と共謀の
上,公海上を航行中のオイルタンカーに乗り込み,自動小銃を発射するな
どして船長らを脅迫し,同人らをして同船の操縦をさせようと探し回るな
どし,同人らを抵抗不能の状態に陥れて欲しいままにその運航を支配する
海賊行為をしようとしたが,同船の救助に駆けつけたアメリカ合衆国海軍
兵士に制圧されたため未遂に終わったという海賊対処法違反の事案であ
る。
本件の量刑について,原判決が量刑の理由の項において説示するところ
は,当裁判所もこれを是認することができる。
原判決は,犯行が未遂に終わっている反面,行為の危険性・悪質性等か
らすると,本件は,取り得る有期懲役刑の刑期の範囲内で,上限付近にも
下限付近にも位置付けられず,その中央付近に位置するものであるとし
て,本件の量刑上の位置付けを示しているが,その結論に至った理由につ
いては,本件が投資家の出資と現場責任者(リーダー)の勧誘の下に集ま
った被告人らが,自動小銃やロケットランチャーで武装してソマリアから
出航し,船舶を乗っ取り船員らの身代金を得る目的で,アラビア海の公海
上を航行中のオイルタンカーに小型ボートで接近して乗り込んだもので,
組織性・計画性の強い典型的なソマリア海賊の事案であること,本件タン
カーには24名もの船員が乗船していたばかりか,約46億円相当の重油
も積載されていたこと,被告人らは自動小銃を発射しながら本件タンカー
に接近し,上船後,レーダースキャナーアンテナ等を自動小銃で破壊した
上で,操舵室内に押し入って操舵装置を動かし,さらに施錠されたドアを
バールでこじ開けながら船内奥深くまで船員らを捜し回り,船長室ドアに
向けて自動小銃を発砲するなどしたもので,行為態様も悪質で運行が支配
される危険性も高かったことを挙げている。その上で,原判決は,被告人
両名が現場責任者等よりは立場が低いといえるとしても,いずれも高額報
酬目当てで実行部隊に加わったもので,積極的に重要な役割を果たしたと
評価でき,その役割や行動内容の点で両名の刑事責任に有意の差はないと
いうべきであるとした。そして,原判決は,被告人両名が海賊行為に参加
したのは本件が初めてであり,それまでは健康上の問題を抱えつつも家族
のために真面目に稼働してきたこと,当初は犯行を否認していたものの,
原審公判では不利益な部分も含めて事実関係を詳細に供述し,本件に参加
したことを深く後悔していることなどを,刑期を減じる事情として考慮し
ても,被告人両名を原判決主文の刑に処するのが相当であると結論づけ
た。原判決が挙げる量刑事情に不当な点はなく,それを踏まえた量刑判断
に際しての本件の位置付け及び被告人両名の刑事責任に関する判断は相当
であって,各量刑が重すぎて不当であるとはいえない。
所論は,(1)上記のような原判決による本件の位置付け自体法定刑の定
め方等に照らして不当であるとし,また被告人甲の所論は,原判決は,本
件が本邦で海賊対処法違反が問われた初めての事案であって,他の類似事
例と刑の比較はできないのに,犯行が未遂に終わった本件が既遂まで含め
て法定された刑の中央付近に位置づける理由について全く根拠を示してい
ない旨,被告人乙の所論は,原判決に従えば,典型的なソマリア海賊事案
において運行支配罪の既遂となれば有期懲役刑の上限付近や無期懲役刑で
処罰されることになるが,海賊対処法は人を死亡させたときでも死刑また
は無期懲役(同法4条1項後段)としているに過ぎず,これと比較すれば
原判決の量刑は余りに重すぎる旨それぞれ主張する。しかしながら,既に
見たとおり,原判決は,本件を,取り得る有期懲役刑の刑期の範囲内でそ
の中央付近に位置付ける理由について詳細かつ適切に説示しており,その
理由として挙げるところからすれば,本件を未遂犯の中でも既遂犯に近
く,その犯行態様も相当危険な類型のものとして捉えたと考えられる。そ
うである以上,原判決による本件の位置付けは相当なものであり,これが
運行支配罪の既遂犯の量刑を過度に有期懲役刑の上限付近あるいは無期懲
役刑に近づけたり,人を死亡させた場合との比較において均衡を失する事
態を招くことにもならない。所論(1)は,いずれも採用することができな
い。
所論は,(2)実行部隊は,本件海賊行為に関与したと思われる者の中
で,投資家や現場責任者よりも下位に位置付けられるところ,被告人両名
は,本件犯行における具体的な行動からして実行部隊の中でも最も末端の
役割を担ったものであって,その責任に応じた量刑がなされるべきである
のに,原判決の量刑は,他の共犯者に言い渡された刑(Aに対し懲役5年
以上9年以下の不定期刑,Bに対し懲役11年)に比べて重すぎ,均衡を
失している旨主張する。しかしながら,上記のとおり,実行部隊に属する
被告人両名が現場責任者等より立場が低いことは,原判決もその前提とす
るところである。また被告人両名も,同人らを含む本件タンカーに乗り込
んだ4名のうち,サブリーダーであるAは上位であるものの,それ以外に
ついて上下関係はなく対等である旨自認しており,所論が指摘する諸点を
踏まえて記録等を検討しても,被告人両名が果たした役割に関して,その
刑事責任を相違させるほどの有意な差は認められない。さらに,こうした
理解に立って,他の共犯者に対する量刑と比較してみても,Aとの関係に
ついては,同人が少年とされたために少年法52条1項,2項によりこう
した量刑となったものと考えられるから,被告人両名の量刑と結論のみを
単純に比較することはできない。またBとの関係については,仮に所論が
いうとおり,同人が公訴事実を争った上で懲役11年に処せられていると
しても,既に見たとおり,原判決の被告人両名に対する量刑はその行為責
任から導かれる刑の大枠の範囲内にあると認められる以上,これがBとの
関係で均衡を失し不当であることにはならない。所論(2)は採用できな
い。
さらに所論は,(3)内戦が続く無政府状態のソマリアで不安定で貧しい
生活を強いられた被告人両名にとっては,海賊行為に参加することは生き
るために限られたやむを得ない選択であったのであり,強く非難すること
はできない旨主張する。確かに,被告人両名がソマリアにおいて置かれて
いた環境には過酷なものがあったと思われるが,海賊行為は古くから人類
共通の敵と言われるように,それ自体が極めて強い非難に値する悪質なも
のであることに加えて,被告人両名が本件犯行に参加することを決意した
直接の動機は高額な報酬を得ることにあったことに鑑みれば,この点を量
刑判断に当たり過大に考慮することは許されないというべきである。所論
(3)は採用できない。
その他所論が縷々指摘する諸点を踏まえて記録等を検討しても,上記判
断は左右されない。量刑不当の各論旨はいずれも理由がない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却し,被告人両名に対
し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中各250日を,そ
れぞれその原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用は刑訴法181条
1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととして,主文のと
おり判決する。
(裁判長裁判官角田正紀裁判官伊藤敏孝裁判官鎌倉正和)

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