弁護士法人ITJ法律事務所

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平成14年6月27日宣告
平成12年(わ)第537号 殺人被告事件
判       決
主       文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中530日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実) 
 被告人Xは,Aと共謀の上,生命保険金を取得する目的で,被告人が経
営する宝石店の従業員B(当時20歳)を被保険者,被告人を受取人とす
る生命保険契約を締結した上,前記Bを殺害するとともに,同女に対する
加害者に偽装してC(当時27歳)をも殺害しようと企て
第1 平成2年12月25日ころ,福岡県田川市大字a字bc番地付近路
上またはその周辺において,前記Bに対し,殺意をもって,その頭部
をバット様のもので数回強打した上,その頸部を所携の果物ナイフ
(刃体の長さ約10センチメートル,平成12年押第153号の1)
で数回突き刺し,よって,そのころ,同所またはその付近において,
同人を頸部刺切創による血液の左右肺内吸引に基づき窒息死させて殺
害した。
第2 前同日ころ,福岡県田川郡d町大字e字fg番地付近路上におい
て,同所に駐車中の小型乗用自動車内の助手席に乗車していた前記C
に対し,殺意をもって,その頸部を所携の菜切り包丁(刃体の長さ約
14センチメートル,平成12年押第153号の2)で数回突き刺
し,よって,そのころ,同所またはその付近において,同人を頸部刺
切創による血液の左右肺内吸引に基づき窒息死させて殺害した。
(証拠の標目)(略)
(事実認定の補足説明)
第1 争点
被告人は,第1回公判期日において,「起訴状記載の公訴事実は,
すべて間違いありません。」と述べ,第16回公判期日においても,
同様に述べているものの,弁護人は,被告人の行為は共同正犯ではな
く,幇助犯に止まるものと主張し,被告人も当公判廷においてこれに
沿うような供述もしているので,以下,検討する。
第2 証拠上認められる客観的事実
関係各証拠によれば,以下の各事実が認められ,これらの事実につ
いては概ね争いがない。
 1 平成元年11月下旬ころ,Aが,D及びEとともに「Mオークショ
ン」という商号を用いて古物市場の開業を企図するとともに,新聞紙
上でその従業員募集をしたのに,被告人も応募して採用されたことか
ら,被告人は「Mオークション」で「会長」と呼ばれていたAと知り
合うとともに,同様に採用された本件被害者であるBとも知り合うこ
とになった。
 2 そのころ,Aは,月形刑務所で服役していたときに知り合ったEに
対して,女性社員らに会社が掛け金を払って保険金額1億円の生命保
険をかけた上,研修旅行で同女らに酒か睡眠薬を飲ませ,同女らが宿
泊している旅館に放火して,同女らを殺害して,保険金を受け取ろう
という話をしたことがあった。
 3 平成2年1月ころ,被告人は,Aと肉体関係を持つに至り,同月1
5日から,Mオークションの事務所があったAの実母F方において,
Aと同居するようになった。
4 同年3月7日,Aが火災保険金を取得する目的で前記F方に放火し
た結果,同所は焼失したが,その後も,被告人は,被告人所有の軽自
動車(以下,「ミニカ」という。)の中やラブホテルなどに寝泊まり
しながら,Aとの共同生活を続けた。
5 同年5月11日か12日ころ,被告人は,N生命保険相互会社の保
険外交員をしていたGに架電し,被告人を被保険者とする1億円の生
命保険に入りたい旨述べた。そこで,そのころ,Gは,1億円の生命
保険の設計書を作成したが,その後,被告人は,同設計書を受領する
こともなく,契約には至らなかった。
6 同年8月の盆ころ,被告人は,北九州市h区の不動産屋を訪れ,2
DKか2LDKクラスの賃貸マンションの部屋を希望し,その際,こ
れから宝石の商売を始める旨話した。
7 同年8月19日ころ,被告人は,北九州市h区i所在の賃貸マンシ
ョンjk号室(以下,「j」という。)への入居を申し込み,同月2
6日には正式に契約し,同月27日ころ,同所に入居した。
8 同年8月の盆過ぎから9月25日までの間において,被告人は,O
生命保険相互会社の保険外交員であるHに対し,被告人を被保険者と
する死亡保障額の大きな保険に入りたい旨述べるとともに,健康保険
がないので,会社の契約で従業員にかける保険がないか尋ねた。H
が,被告人を被保険者とする保険として勧めたものと同じ保険に会社
の契約で従業員を入れることができる旨答えると,被告人は,近いう
ちに入社する予定の若い従業員を加入させる旨述べて,Hと別れた。
一方,Hは,被告人が,保険外交員からの勧誘ではないいわゆる飛
び込みの客であり,また,若いにもかかわらず,貯蓄型の保険ではな
く,死亡保障額の高い保険を希望したことから,不安を抱き,上司で
あるIと相談の上,後日,被告人に対して,親の承諾を求めたとこ
ろ,被告人は,親との折り合いが悪いからhに出てきている旨述べ
て,これを断り,後日連絡する旨述べて,交渉を打ち切ったが,その
後,被告人からHに対して連絡はなかった。
 9 同年9月10日,被告人は,貴金属類の卸問屋,株式会社P宝飾に
架電し,X宝石の屋号で貴金属販売に向け準備中であるとして,販売
カタログ1冊を注文した。
10 同月12日,被告人は,かつてアルバイトをしていた弁当屋の同僚
であったJの紹介で,N生命保険相互会社の保険外交員であるKと面
会し,Kに対し,O生命の保険外交員からもらったという設計書を見
せた上,生命保険に入ろうと思ってO生命でプランを作ってもらった
が,保障額が少なかったので,もっと保障額の大きい保険に入ろうと
思って紹介してもらった旨述べるとともに,いまやっている宝石店の
4人の従業員も保険に入れたいと思っているが,何かよい保険はない
か尋ねた。
そこで,Kは,その日は,被告人を被保険者とする保険について,
ロイヤルワイド保険を勧め,その説明をして,被告人と別れ,その
後,同月14日ころ,上司であるLと相談の上,ロイヤルワイド保険
及び経営者大型保険のパンフレットを被告人あてに送付した。
そして,同月23日,Kは,Lとともに,被告人と面会し,ロイヤ
ルワイド保険及び経営者大型保険の説明をしたが,その際,被告人
は,現在従業員が4人いるが,社会保険などがないので,そのかわり
に従業員を生命保険に加入させたい旨話した。
同年10月19日,被告人は,Bとともに,N生命のK及びLと面
会し,被告人がロイヤルワイド保険(死亡時1億円,災害死亡時1億
5000万円)に,Bが経営者大型保険(保険契約者被告人,被保険
者B,保険金受取人被告人,普通死亡5000万円,災害死亡1億
円)に入る旨申し込み,直ちに,2つの保険の1か月分の掛金を現金
で支払った。その際,被告人は,他の従業員もいるが,Bは将来幹部
となってもらうので,Bだけ先に経営者大型保険をかける旨述べた。
そこで,同月25日,専属医による検診を行ったところ,被告人,
Bの両名とも,異常なしとの結果であったため,K及びLは,保険契
約の書類等を本社に送付したが,本社からは,Bの保険金受取人をB
の親に変更するよう指示があった。
このようにして,被告人を被保険者とする保険契約は同年11月1
日に成立したものの,Bを被保険者とする保険契約が未だ成立してい
なかった同月中旬ころ,被告人からLに電話があり,Lが,本社から
Bの保険金受取人をBの親に変更するよう求められている旨伝えたと
ころ,被告人は,自分が掛金を払って保険をかけているのだから,受
取人は自分でいいはずであり,また,経営者大型保険の契約ができな
いのであれば,被告人を被保険者とする契約も解約する旨述べた。ま
た,その後,Bからも,Lに対して,自分はあの契約内容で納得して
いるし,社会保険がないので早く成立させて欲しい旨の電話があっ
た。
このような経緯を経て,Bを被保険者とする保険契約は,同年12
月1日付けで成立した。
11 その間,同年9月15日か16日ころ,被告人は,広告代理店の株
式会社Qエージェンシーに架電するなどして,X宝石が女子正社員を
募集する旨の広告の掲載を依頼し,同月20日から同月22日までの
3日間,その旨の広告がQ新聞に掲載されたが,応募者はいなかっ
た。
また,同年10月6日ころ,被告人は,北九州市h区iの印刷会社
を訪れ,X宝石のチラシ並びに被告人及びBの名刺の印刷を注文し,
同月20日,これらの印刷物を受け取った。
12 被告人は,賃貸マンションの部屋を探すにあたって,Bに手伝って
もらうなどし,その後も,Bは,jに出入りしていたが,X宝石の求
人広告に応募してきた者がいなかったことから,BをX宝石の従業員
とすることにした。なお,Bの平成2年の日記帳には,8月16日欄
には「Xちゃんに会うマンション捜し」との記載が,10月11日欄
には「PM1~2時i〔X〕だいじょうぶかな」との記載が,同月1
2日欄には「印刷屋に行く。19日出本格的にかな」との記載が,同
月19日欄には「印刷屋午後から。AM11:00保険会社と会う」
との記載が,同月22日欄には「明日から仕事」との記載が,同月2
3日欄には「仕事」との記載が,11月9日欄には「給料日思ったよ
りもすくない」との記載が,それぞれ認められ,これらの記載によれ
ば,BをX宝石の従業員にするについて,同女の了承を得た時期は,
同年10月11日ころであるとみられる。
 13 同年12月23日あるいは24日,Aは,被告人に対して,「明
日,テレクラで男を呼んでこい。いいか,これは交通事故だ。女が家
の近くで車に跳ねられる。その車の男は責任を感じて死ぬ。明日お前
はテレクラに電話して男を呼び出してここに連れて来い。男に薬を飲
ませて女を連れて部屋を出ろ。女をいったんlに送って,夕方6時ご
ろ女を呼び出してロマンスが丘の脇道に連れてきて降ろしてどっかへ
行け。」という内容のことを言った。
 14 遅くとも同月25日までに,被告人は,Aの指示に従い,実家にあ
ったバットをjへ運び込んだ。
 15 同月25日,被告人は,jに出勤してきたBとともに,jを出て,
公衆電話から飯塚市内にあるテレホンクラブRに架電し,電話に出た
Cと会う約束を取り付けて,同人を呼び出した。同日昼過ぎに,被告
人及びBは,Cとともに,jに戻って,談笑していたが,その間に,
被告人は,Cに粉末状にした睡眠薬を入れた缶コーヒーを飲ませた。
その後,被告人は,CにBを自宅まで送ってくると告げ,jを出て,
Bを福岡県田川郡l町の自宅まで送っていったが,このときまでに,
Bと同日午後6時にl駅で落ち合う約束をした。
16 一方,Aは,被告人がBを送るためにjを出て行った後,jに入っ
たが,Cは,睡眠薬を飲まされていたものの,未だ意識を失っておら
ず,Cから車の鍵を奪うことができなかったAは,「家まで送りまし
ょう。」などと言って,Cをjから連れ出し,AがC所有の小型乗用
自動車(以下,「クレスタ」という。)を運転して,判示第1記載の
福岡県田川市大字a字bc番地付近路上またはその周辺(以下,「第
1殺害現場」という)の近辺に至った。そして,Aは,睡眠薬が効い
てきたCをクレスタに残し,その離脱を防ぐために,クレスタのエン
ジンキーを抜いた上,B殺害に用いるためにjから持ち出してきたバ
ットを持って,クレスタを離れ,路傍の草むらにバットを隠して,被
告人がBを連れてくるのを待っていたところ,ほどなくBを助手席に
乗せた被告人運転のミニカがやってきた。
17 被告人は,当初の約束を変更して,同日午後6時30分ころ,l駅
でBと落ち合い,同女をミニカの助手席に乗せ,第1殺害現場へ向け
てミニカを運転していたところ,前方の路上にAを認め,Aの横にミ
ニカを停めた。そして,同所にBを降ろすと,同所から少し離れたと
ころにミニカを停めた。
一方,Aは,Bに気付かれないようにバットを取り出すと,バット
を振りかぶって,同女の頭部目掛けて振り下ろし,同女の頭部を殴り
つけた。しかし,Aの予想に反して,Bは,気絶せず,かえって「何
で,こんなことするの」などと言いながら,Aの方にすがりついてき
たので,慌てたAは,Bを撲殺してからクレスタで轢いてもよいと考
え,なおもBの頭部をバットで殴り続けたところ,Bは道路上に仰向
けに倒れ込んだものの,殺害するには至らなかった。そこで,Aは,
第1殺害現場に戻ってきた被告人に,ナイフと水を買ってくるように
頼み,約30分後,戻ってきた被告人が買ってきた果物ナイフを受け
取り,果物ナイフでBの頸部を突き刺し,判示第1のとおり,Bの殺
害を遂げた。
18 Aは,被告人からクレスタが見当たらないことを聞いたものの,B
の死体を第1殺害現場に放置しておくのはまずいと考え,ミニカにB
の死体を乗せた上,とりあえずjに戻ることにした。
Aと被告人がj付近に戻ってみると,スペアキーを使って第1殺害
現場から離脱し,j付近に戻っていたCを発見した。そこで,Aは,
被告人に対して,jから包丁を持ち出し,Cを判示第2記載の福岡県
田川郡d町大字e字fg番地付近路上(以下,「第2殺害現場」とい
う。)の周辺へ連れて行くように指示した。被告人は,被告人の姿を
認めてクレスタから出てきたCとともに,jへ入ると,包丁を持ち出
した上,Cをjから連れ出した。そして,前記包丁をAに渡し,Cか
ら運転を依頼されたことを奇貨として,助手席にCを乗せたクレスタ
を運転して,第2殺害現場へ向かった。
第2殺害現場へ至ると,被告人は,クレスタから降り,ミニカを運
転してクレスタを追尾してきたAが代わりに運転席に乗り込んだ。そ
して,Aは,Cの頸部に包丁を突き付け,Cをして「セックスがした
きくて女をさそうたらバカにされたのでやってしまいましたゆるして
下さい」と紙に書かせた後,包丁でCの頸部を突き刺し,判示第2の
とおり,Cの殺害を遂げた。
 19 なお,X宝石の販売実績は,Kが,保険加入のお礼の意味も込めて
購入したイヤリング1対のみであった。
第3 A及び被告人の供述等要旨
 1 Aの供述要旨
Aの証人尋問調書及び検察官調書における供述のうち,A及び被告
人の動機・経緯に関する供述の要旨は以下のとおりである。
(1) Eに対して保険金殺人の話をしたことはあったと思うが,本件の
保険金殺人を本格的に考え始めたのは,平成2年8月にFから火災
保険金の一部である600万円をもらってからである。同月26日
にjを借りたときには,この火災保険金を受け取ったら,もう後は
金が入るあてがないと思って,焦っていたのは確かだが,まだ具体
的な計画はしていなかった。同年9月10日に株式会社P宝飾に販
売カタログを電話注文したときには,保険金殺人のために同社を選
んでおり,既に本件を具体的に計画していた。また,そのときまで
に,被告人にも本件の計画を話しており,その際,保険金額を1億
円にするという話もしていた。
(2) 同年12月に保険契約が成立した後,被告人に対して,保険金を
取得できたら山分けにするつもりであることを言ったことがあっ
た。その際,被告人は,返事をせずに何かしゅんとしていたが,聞
いていたことは間違いないと思う。
また,jを借りて,本件の計画を立てて,間もなくのころ,被告
人に対して,保険金が入ったら,顔を火傷している被告人の弟の顔
を整形でもしてやろうかという話をしたこともあった。その際も,
被告人から返事などはなかった。
(3) 他人を従業員として雇うつもりが,誰からも求人広告への反応が
なく,従業員は面識のあるBだけで,当初の計画通り進まないこと
がたくさんあったことなどから,本件前に,一度,被告人に対し
て,今回の計画をやめようかと話したことがあった。しかし,被告
人と話しているうちに,折角ここまで準備をしてやってきたんだか
ら最後までやろうということになった。このときは,A一人が一方
的に話すのを被告人が黙って聞いていたわけではなく,被告人もそ
のようなことを言っていた。もっとも,被告人から言われるまでも
なく,A自身にもそのような気持ちがあり,被告人から言われたこ
とで気持ちが変わったりした訳ではない。
(4) 本件を実行に移す一連の過程の中で,被告人から反対されたこと
はない。
 2 被告人の供述等要旨
被告人の当公判廷における供述,供述書及び乙11号証添付の被告
人直筆の書面における各記載のうち,被告人の動機・経緯に関する供
述等要旨は以下のとおりである。
(1) Aから,最初に本件に関係する話を聞いたのは,8月初旬ころで
あり,会社を作って従業員を雇って,その従業員に生命保険をかけ
て,その従業員が事故かなんかで死んだら大金になるというような
話だった。ただ,競艇のレース予想をしながら,金が欲しいという
話の延長で出たような感じで,たちの悪い冗談を言っていると思
い,あまり現実味がなかった。
X宝石の従業員を雇うようAから指示されたときは,その8月初
旬の話と結びつけて考えなかったと思う。9月初旬に,保険契約の
話を聞きに行くときも,8月初旬の話が全く浮かばなかったという
と嘘になると思うが,会社で何かあったときの保障をしてやるのは
会社だからという説明をされたので,8月初旬の話とあまり結びつ
けて考えようとはしなかった。
(2) 12月11日ころ,AからBの家に案内するよう言われて,Aと
一緒にBの家に行き,その帰りの車の中で,Aが,Bに薬か何かを
飲ませて家に帰らせて,夜中寝込んだところを家にガソリンをずっ
と撒いて火を付けて,逃げ遅れてくれればいいというようなことを
言ったことがあった。しかし,Aは,ずっとそのようなことを言っ
ていたわけではなく,その後は,またいつもどおりの生活を続けて
いたので,あまり現実味を感じなかった。
Aが,Bを殺害して保険金を取得しようと考えていることをはっ
きり感じたのは,前記第2の13の話を聞かされたときだったと思
う。Aが,はっきりと「B」といったのか,あるいは「女」という
言い方だったかははっきりしないが,いずれにしても,Bを殺そう
としていることは分かった。
(3) Aとの間で,保険金の山分けの話が出たことはない。また,被告
人の弟の整形手術のために,お金が欲しかったということもない。
(4) 本件前日,Aに対して,翌日を仕事納めにしようと思うと伝える
と,逆にAから「今,幾ら金があるのか」と言われ,少し間をおい
て,Aから「もう,やめるか。」と言われた。これに対して,「折
角,ここまでしたのにもったいないね。」と答えているが,仕事納
めの話のあとだったので,宝石業務の話だと思っていた。Aから,
前記第2の13の話を言われたのは,この直後であった。(この(4)
は,乙11号証添付書面による。供述書においては,この部分は正
確な記憶に基づくものではなく,被告人は何も話していないのが事
実だと思う旨供述を訂正している。)
第4 検討
 1 以上によれば,被告人は,遅くとも平成2年9月10日に宝石の販
売カタログを電話注文する前までには,Aから,宝石屋の従業員に生
命保険をかけた上で殺害するという本件の計画を聞かされていたと認
められるところ,同日以降,被告人自身が,宝石の販売カタログを取
り寄せ,従業員募集の求人広告を出すように手配し,KやLから事業
主が従業員にかける生命保険についての説明を受けた上,現にBを被
保険者とし,被告人を保険金の受取人とする生命保険契約を締結して
いるのであるから,被告人は,Aから聞かされた計画が着実に実現に
向かっていることを十分に認識していたものとみるのが自然である。
殊に,Aの保険金殺人の計画の最大の眼目が,被害者を被保険者とす
る生命保険の受取人を被告人とする点にあることは極めて見やすい道
理であるところ,被告人は,LからBを被保険者とする経営者大型保
険の受取人を被告人からBの親とするよう変更を求められた際には,
被告人自身を被保険者とする生命保険の解約をちらつかせてまで,強
硬にこれを拒んでいるのであって,この事実によれば,Aから聞かさ
れた計画について,本件の直前まで具体性を感じていなかった旨の被
告人の供述は到底信用しがたいというほかなく,被告人は,Aから聞
かされた計画通りに事が進んでいることを十分認識した上で,保険金
の受取人を被告人としたまま,Bを被保険者とする経営者大型保険を
成立させたものとみるのが自然である。
 2 加えて,前記第2の13のとおり,被告人は,本件の前日あるいは前
々日に,AからB及びテレクラで呼び出した男性を殺害する計画を,
殺害の日時,場所,構図等まで具体的に聞かされているのであるか
ら,遅くとも本件当日までには,本件の具体的な計画を十分認識して
いたと認められるところ,前記第2の15のとおり,被告人は,この具
体的な計画に従って,テレクラに電話して,Cをjに連れてきた上,
同人に睡眠薬を飲ませ,また,Bを一旦自宅まで送った後,夕方呼び
出して人気のない山中にある第1殺害現場まで連れ出したことが認め
られる。
 3 さらに,第1殺害現場において,Aにナイフを買ってくるように指
示されると,それに応じて直ちにナイフを購入してAに渡し,また,
Aに指示されるままに,jから包丁を持ち出してAに渡した上,包丁
を持ったAが追尾してくることを知りつつ,Cを人気のない山中にあ
る第2殺害現場へと連れ出しているが,これらはいずれも本件各犯行
に必要不可欠な行為であり,Aの要求するナイフや包丁が殺害に供さ
れることは状況からして極めて明白であるのに,被告人は敢えてこれ
らの行為に及んでいる。
 4 このように,被告人は,本件当日に限っても,本件計画を十分認識
しつつ,Cを被害者となるべき者として確保し,B及びCをそれぞれ
殺害現場まで連れ出し,凶器を準備してAに渡すなど,本件各殺害行
為と密接に結びつく行為を担当し,それぞれの殺害に必要不可欠な役
割を果たしていると認められる。
   そうすると,本件当時,被告人は,収入を得る十分な手段を持って
おらず,Aが取得した火災保険金の一部で生計を立てており,Aと経
済的には一体であったとみられる上,Bを被保険者とする経営者大型
保険の受取人は他ならぬ被告人であることなどをも合わせ考えれば,
被告人とAとの間に保険金の分配や使途についてのやりとりがなかっ
たとしても,被告人は,Aと共同してB及びCを殺害する意思のもと
に,殺害行為に密接に結びついた必要不可欠な行為を分担したものと
認めるに十分であるから,判示のとおり,被告人は共同正犯の刑責を
負うものと判断した。
(法令の適用)
 罰条
  第1及び第2の各行為   いずれも平成7年法律第91号附則2条
1項本文により同法による改正前(以
下,「改正前」という。)の刑法60
条,199条
 刑種の選択         いずれも無期懲役刑を選択
 併合罪の処理        改正前の刑法45条前段,46条2項本
文,10条(犯情の重い第2の罪につき
無期懲役刑に処し,他の刑を科さな
い。)
 未決勾留日数の算入     刑法21条
 訴訟費用の不負担      刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,判示のとおり,被告人が,共犯者Aとともに,被害者2名を
殺害したという2件の殺人の事案である。
2 被告人らは,被告人を受取人とする生命保険に加入させたBを殺害し
て保険金を取得することを企て,その際,別の男性をB死亡の加害者に
偽装して殺害することとして,2件の殺害に及んだものであるが,その
極めて自己中心的な動機にはもとより酌量すべき余地など微塵もなく,
自らの経済的利欲を満たすためには至高の法益である人命を犠牲にする
こともはばからないというこのような姿勢は極めて厳しい非難に値す
る。また,Aが本件を本格的に計画するようになり,被告人がAから計
画を聞かされてから,少なくとも3か月以上の期間が経過した後に,被
告人らは本件各犯行を敢行しているのであって,その間,幾度も犯行を
断念する機会があったことに鑑みれば,その犯罪意思は強固なものであ
ったといわねばならない。
個別にみても,本件を発案し,積極的に主導したのはAであり,被告
人自身が自ら犯行計画を練るなどして,積極的に保険金目的の殺害を企
図したとまでは認められないものの,被告人も,遅くとも犯行当日まで
には,本件の全容を十分理解していたと認められるところであり,その
上で被告人は,前示のとおり,Aに指示されるままに,本件に必要不可
欠な役割を果たしているのであって,被告人についても同様に人命尊重
の精神に著しくもとっていたというほかない。
3 犯行態様についてみるに,まず,被告人らは,予め気絶させておいた
Bを自動車ではねて殺害し,その後,その自動車の持ち主がそれを苦に
して自殺したように装って同人を殺害しようと企て,被告人がいわゆる
テレクラに電話して,被害者となるべき自動車の持ち主としてCを確保
し,同人に予め準備していた睡眠薬を飲ませた上,被告人とAで手分け
して,Bを気絶させるためのバットを持参するとともに同女を殺害する
ためのC所有の自動車をAが運転して,被害者両名をおよそ他人の救助
を期待できないような山中にある第1殺害現場に連れ出しており,その
後の予想外の事態を受けて,当初の計画の変更を余儀なくされてはいる
ものの,十分な準備の上で敢行された計画的犯行であるというべきであ
る。
そして,同所において,Aが,Bの頭部をバットで強打し,「何で,
こんなことするの」とすがりつく同女の頭部を非情にもさらにバットで
叩き続けた上,Cが同人所有の自動車に乗って現場を離脱しており,ま
た,同女を撲殺することもできなかったことから,わざわざ被告人に果
物ナイフを買いに行かせて,その果物ナイフでBの頸部を突き刺してと
どめを刺しており,B殺害の手口は残忍で冷酷極まりないものというほ
かない。
さらに,被告人らは,第1殺害現場へ連れ出したCが同所から離脱し
たことから,同人殺害を断念する機会を得たにもかかわらず,その後,
j付近に戻っていたCを発見するや,これ幸いと,同人を殺害すること
とし,同人をこれまたおよそ他人の救助を期待できない山中にある第2
殺害現場に連れ出し,同人の頸部に包丁を突き付けて無理心中を偽装す
るための遺書を書かせるや,そのまま同人の頸部に包丁を突き刺して,
同人を殺害しており,これまた人命を奪うことを何ら躊躇しない極めて
冷酷な犯行であり,まさに鬼畜の所業というほかない。
このような犯行において,被告人自身がB及びCの身体に直接的に危
害を加えたわけではないものの,前示のとおり,被告人は,被害者とし
てCを確保し,同人に睡眠薬を飲ませ,また,B及びCを殺害現場まで
連れ出し,Aに果物ナイフ及び包丁という凶器を渡しているのであっ
て,被告人の果たした役割は各殺害行為と密接に結びついた必要不可欠
なものであったといわなければならない。
4 そして,このような犯行の結果,被告人を信頼して,X宝石の仕事を
手伝うことを承諾し,保険金の受取人を被告人としたまま生命保険契約
が成立するように自ら保険会社に電話までしたBは,その信頼していた
被告人により山中へおびき出されて,未だ20歳の若さにして,突然に
してかけがえのない生命を奪われたのであり,その無念さには想像を絶
するものがあると思料される。いきなりAに頭部を殴りつけられてから
被告人がナイフを買ってくるまでの数十分間,Aをただ見上げていたB
の肉体的苦痛,精神的苦痛にも絶大なものがあったと考えられる。
  一方,Cは,被告人により,まさに殺害されるためだけに呼び出され
たものであり,被告人に飲まされた睡眠薬で朦朧とする意識の中,第1
殺害現場から離脱したものの,結局は,被告人らに発見されて,山中に
連れ出され,不本意な遺書を無理矢理書かされた上,Aに頸部を包丁で
突き刺されて,未だ27歳の若さにして,かけがえのない生命を奪われ
たのであって,やはりその無念さ並びに肉体的苦痛,精神的苦痛には筆
舌に尽くしがたいものがあったとみられるところである。
このように,もとより何の落ち度もない被害者2名のかけがえのない
生命を奪ったという犯行結果は,あまりにも重大である。
5 のみならず,被告人らは,本件各犯行後,C所有の小型乗用自動車内
に,B及びCの遺体を乗せたまま,車内にガソリンをまいた上火を放つ
とともに,Cに書かせた前示の内容の遺書を捜査機関に発見させるよう
に工作して無理心中を装うことにより,捜査を撹乱するとともに,被告
人らの目論見通り無理心中事件と誤解したマスコミの過剰な取材による
遺族らに対する二次的被害を生みだしており,犯行後の情状も極めて悪
いというほかない。
6 にもかかわらず,被告人からは,被害者両名の遺族に対して,謝罪の
手紙をしたためたこと以外に,みるべき慰謝の措置はとられていないの
であって,証人として出廷したCの両親は,異口同音に一人息子であり
後継者として将来を期待していた長男を突如として失った挙げ句に,事
件発覚の当初においては,前記の如きBをCが殺害したかのような工作
が施されていたことにより,筆舌に尽くしがたい悲嘆の念と衝撃を受け
たことが窺われ,前記両親がいずれも被告人を極刑に処することを望む
旨述べているのも無理からぬところである。またBは,事件前被告人と
親しい関係にあったものであり,犯行当日には被告人がBの自宅を訪問
して同女の実母と挨拶を交わしたり,事件後に被告人がB方に架電した
際,同女の母親に自己が旅行中である旨申し向けて事件とは無関係を装
ったり,更には平成3年1月4日ころ,被告人自身がB方に赴き,同女
の仏前にお参りするなどして更に無関係を装い,その後被告人において
は約9年余りの間,所在をくらましたその経緯に照らしても,Bの母親
がその検察官調書の中で,「被告人を死刑にして下さい。」と述べてい
るのもまた無理からぬところであって,これら被害者両名の遺族の処罰
感情にはなお非常に厳しいものがある。
7 以上に照らせば,被告人の刑事責任は極めて重いものというべきであ
る。
8 他方,本件の首謀者はAであり,本件当時20歳であった被告人はA
に指示されるままに犯行に加担したものであること,犯行後9年以上経
過した後であるとはいえ,自ら警察に出頭し,Aによっては明らかにさ
れていなかった事実関係を明らかにし,また,被害者両名の遺族に対す
る謝罪の手紙をしたためるなど,被告人なりの反省の情を示しているこ
と,被告人には前科前歴がないことなど,被告人のために酌むことので
きる事情も認められる。
9 しかしながら,本件が保険金目的で人一人を殺害し,その加害者に偽
装する目的で別の一人を殺害したという悪質極まりない事案であること
に鑑みると,これら被告人のために酌むことのできる諸事情を十分合わ
せ考慮しても,被告人に対しては無期懲役刑をもって臨むほかないと判
断した。
10 よって,主文のとおり判決する。
(検察官壬生隆明,国選弁護人松井仁〔主任〕,同徳永響各出席)
(求刑-無期懲役)
平成14年6月27日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官谷       敏   行
裁判官家   令   和   典
裁判官古   庄       研

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