弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
(原告)
「被告が亡aの相続人たる原告に係る相続税の徴収のため昭和四三年九月一四日別
紙目録記載の物件に対してした差押処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とす
る。」との判決
(被告)
主文同旨の判決
第二 原告の主張
(請求原因)
被告は、原告が亡aを相続したことによる相続税についての更正処分に基づく滞納
処分と称して、昭和四三年九月一四日原告所有にかかる別紙目録記載の物件を差し
押えた。
しかし、原告は昭和三七年頃以降アメリカ合衆国に居住しており、被相続人aに係
る相続税について更正処分の通知を受けたことがないし、その納付の督促状の送付
を受けたこともないから、右差押えは違法たるを免れない。
(被告の主張に対する反論)
原告は、本件相続税について、b・cの両名またはそのいずれかを納税管理人に選
任したことはないし、その旨の追認をしたこともない。原告は、他の共同相続人と
ともに、昭和三七年五月二五日dを納税管理人に選任し、同人が本件相続税の申告
書を作成したが、その提出にあたりbらが納税管理人として署名したのは、同人ら
の誤解によるものである。被告主張の更正処分に対する不服の申立は右dの指示に
よつてなされたもので、その他bらの行動はすべて右dの指示のままになされたに
すぎない。右dが更正処分の通知書の交付に立ち会つたことは否認する。また、被
告の表見代理の主張は争う。
第三 被告の答弁および主張
一 被告が原告所有の別紙目録記載の物件に対しその主張のような差押え(以下
「本件差押え」という。)をしたことは認める。本件差押えに至る経緯は次のとお
りである。
日本国籍を有するaが昭和三七年二月二八日横浜市<以下略>において死亡し、同
人の母eは相続を放棄したので、姉fおよび原告、妹gおよびhの四名が同人の相
続人となつた。このうち、hは日本に居住していたが、原告を含む他の三人はいず
れもアメリカ合衆国に居住していた。
b、cの両名は亡aの遺言により指定された遺言執行者に就職した者であるが、右
両名(以下「bら」という。)は、同年八月三一日右相続人四名の納税管理人たる
資格において横浜中税務署長に相続税の申告書を提出した。その申告にかかる税額
は相続人一人につぎ二八二万六、五六〇円であり、いずれも昭和三八年一月二八日
までに完納された。
横浜中税務署長は、右申告に対し、昭和四〇年八月三〇日付で、相続人一人につぎ
税額六三八万五、五二〇円の増額更正をするとともに、三一万九、二五〇円の過少
申告加算税の賦課決定(以下「本件更正処分」という。)をし、その通知書を同日
横浜串区<以下略>ヘルム・ブラザーズ・リミテツド内においてbらに交付して送
達した(ただし、hに対しては、本人に交付して送達した。)。
原告は、他の相続人三名とともにbらを代理人として、同年一一月一〇日同税務署
長に対して本件更正処分に対する異議の申立をし、これが棄却されるや昭和四一年
五月一八日被告に対し審査の請求をしたが、被告は、昭和四二年四月二五日これを
棄却した。右棄却の決定書および裁決書は、いずれもbらに郵送して送達された。
本件更正処分にかかる相続税の納期限は昭和四〇年九月三〇日であつたところ、原
告が右期限までにこれを完納しなかつたので、同税務署長は同年一〇月一一日その
納付の督促状をbらに送付したが、なお納付がされないため、被告において本件差
押えをするに至つた。
二 上記のように、本件更正処分および督促状の送達は、bらに交付または郵送し
てなされたのであるが、これらは、次に求べるとおり、原告に対する送達として効
力を有するから、本件差押処分は確定した租税債権に基づき適法になされたもの
で、原告主張のような違法はない。
(一) bらは原告により本件相続税の納税管理人に選任されていたものである。
このことは、原告が日本国内に住居を有しなかつたこと、bらが、本件相続税の申
告のほかに亡aの昭和三七年分所得税の確定申告書をも提出しており(同人の死亡
後における申告であるから、法律上は同人の相続人たる原告らに代つて申告したこ
とになる。)しかも、右各申告にかかる税額は、原告らから異議の申出もなく完納
されていること、bらは、原告に異議の有無を照会したうえで、その指示に従い本
件更正処分に対する異議申立および審査の請求をしていること、原告以外の三名の
相続人もbらを通じ本件相続税の申告・納付、更正処分に対する不服申立をし、そ
の後更正処分にかかる税額を完納していること、bらが亡aの遺言執行者たる立場
にあつたことなどの諸般の事情から明らかというべきである。
(二) かりに、原告がbらを納税管理人として選任した事実がないとしても、原
告は、本件更正処分通知書および督促状が送達された後、bらを自己の納税管理人
として追認した。すなわち、前項記載の諸事情があるうえに、原告とbらとの間に
は本件更正処分に対する不服申立に基づく審理の過程において数回にわたり文書の
往復がなされ、また、原告はbらを通じて自己の言分を述べた書画を提出している
のであるが、これらによれば、bらの権限についてはなんら触れることなく、もつ
ぱら処分の内容(課税標準の額)についての不服を申し述べているのであるから、
bらは原告によつて納税管理人たる地位を追認されたものということができる。
(三) bらは、亡aの遺言執行者たる資格においても、本件相続税の申告および
本件更正処分通知書受領の権限を有していたものである。すなわち、遺言執行者は
相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法
一〇一二条)、相続人は相続財産の管理・処分をなしえない(同法一〇一三条)の
に対し、相続人は相続の開始を知つたときから六月以内に相続税の申告をしなけれ
ばならず(相続税法五五条)、その申告に対しては更正もなされうること、また、
相続税は相続財産に関する費用として相続財産の負担となる(民法八八五条)こと
から考えれば、少なくとも相続財産の分割によつて遺言執行者の任務が終了するま
での間は、相続税の申告をし、かつ、これに対する更正処分の通知書を受領する権
限を有すると解すべきである。そして、本件相続財産の一部が分割されたのは昭和
四〇年一二月二二日であるから、本件更正処分通知書の送達は有効である。
(四) 前記の各主張が理由がないとしても、(一)・(二)項記載の各事実およ
びbらが本件相続税の申告前からすすんで所轄税務署に出頭して係官から指示を受
け、あるいは本件更正処分に対する異議申立後係官の調査に応答したことなどから
明らかなように、横浜中税務署長は、bらが原告の代理人として、申告書の提出の
みならず、更正処分の通知書を受領する権限を有しているものと信じたのであり、
かつ、かように信ずるにつき正当な事由があつたのであるから、表見代理の法理に
より、本件更正処分通知書の送達は原告に対して効力を有するというべきである。
(五) かりに、以上の各主張が理由がないとしても、本件更正処分通知書の交付
は、原告が自己の納税管理人に選任したと主張し、かつ、本件相続税申告書の作成
に関与した公認会計士dの立会のもとになされ、同人はその場で本件更正処分の内
容を了知したのであるから、本件更正処分は原告に対して効力を生じたものとして
取り扱つてもなんら違法ではない。
第四 証拠関係(省略)
○ 理由
被告が、亡aの相続人たる原告に係る相続税についての更正処分に基づく滞納税額
の徴収のため、昭和四三年九月一四日原告所有にかかる別紙目録記載の物件を差し
押えたことは当事者間に争いがなく、昭和三七年二月二八日aの死亡により原告と
f、g、hの四名が相続人となり、遺言によつて指定されたb、cことiの両名
(bら)が遺言執行者となつたこと、原告が横浜中税務署長に右相続税の税額を二
八二万六、五六〇円と申告したところ、同税務署長は、昭和四〇年八月三〇日税額
を九二一万二、〇八〇円(増加税額六三八万五、五二〇円)と更正し、あわせて過
少申告加算税三一万九、二五〇円を賦課する処分(本件更正処分)をし、同日その
旨の通知書をbらに交付し、さらに、同年一〇月一一日原告に対し右増加税額およ
び加算税額の納付を督促する督促状をbらに郵送したことは、原告において明らか
に争わない。
被告は、bらは原告の納税管理人であつたと主張するので案ずるに、いずれも成立
に争いのない乙第一、第二号証、同第四ないし第九号証、同第一一号証、甲第二、
第四号証、証人d、cことi、jの各証言を総合すると、亡aは戦前から横浜市に
居住し、商事会社ヘルム・ブラザーズ・リミテツドの大株主としてこれに関係して
いたこと、bとiが亡aの遺言執行者に指定されたのは、右両名が故人の古くから
の親友であり、ことにbはヘルム・ブラザーズ・リミテツドの経営にあたつていた
という事情によるものであること、aの死亡当時同人の親族で日本に居住していた
のは妹のhのみであり、母および原告を含む三人の姉妹はいずれもアメリカ合衆国
に居住していたこと、公認会計士兼税理士のdは、かねてヘルム・ブラザーズ・リ
ミテツドの経理・税務に関与しており、亡aとも親交があつた者であるが、bら
は、原告を含む相続人らの希望に従つて遺言執行に関する会計上の事務処理を右d
に委託したほか、原告らの相続税の申告書の作成をも依頼したこと、そこで右d
は、aの死後間もなく日本に来ていた同人の母および姉のストーンから説明を聞く
などしたうえで原告ほか共同相続人四名の相続税申告書(乙第二号証)を作成し、
bらは自己の氏名が原告ら四名の納税管理人として記載されている右申告書に署名
して、同時に作成されたaの昭和三七年分所得税についての確定申告書(乙第一号
証。納税管理人欄にbらの署名がある。)とともに、横浜中税務署長に提出したこ
と、同税務署の所部職員から本件更正処分の通知書の交付を受けたbらは、原告お
よび米国在住の他の二名の共同相続人に処分の内容を通知し、これらの者の求めに
よりその代理人として異議の申立および審査の請求をしたこと、その審理の過程に
おいて原告らはbらを通じて異議の理由を陳述した書面を審査庁に提出したが、そ
の要旨は、本件相続税の申告および本件更正処分が有効になされたことを前提とし
て相続財産の範囲および価額を争うものであつたこと、原告ら共同相続人のうちh
のみは本件更正処分通知書を直接に交付されたが、その際同人は、相続に関する一
切の事柄はbらに委せているからと称して、係官の持参した文書使送簿に認印する
ことを拒んだこと、の各事実を認めることができる。そして、原告を除く相続人三
名が更正された税額を完納している(原告も、申告にかかる税額は納付している。
)ことは、原告において明らかに争わないところである。これらの各事実を総合す
ると、原告が本件相続税の申告書の提出その他これに関して必要な一切の事項の処
理を、他の相続人三名とともに、被相続人の遺言執行者たるbらに委任していたこ
とを推認するに十分であり、したがつて同人らは原告らの納税管理人たる地位を与
えられていたものというべきである。この点につき原告は、bらではなくdを納税
管理人に選任した旨を主張するけれども、これを認めるに足る証拠はないばかり
か、同人の作成した申告書(乙第二号証)にbらが原告らの納税管理人である旨明
記されている一事をもつてしても、原告の右主張の失当たることは明らかである。
ところで、原告のように、本邦内に住所および居所を有しない納税者にあつては、
納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、当該事項
を処理させるために納税管理人を定めなければならず、かつ、これを定めたとき
は、所定の方式によりその旨を所轄の税務署長に届け出なければならない(昭和四
五年法律八号による改正前の国税通則法八九条、同法施行令三二条一項)。そし
て、納税管理人があるときは、税務署長等が法律の規定に基づいて納税者に発する
書類は納税管理人の住所または居所に送達するものとされている(同法一二条一項
但書)。これを本件についてみるに、証人iの証言によれば、bらを納税管理人に
選任した旨の正規の届出が原告からなされていないことは明らかである。しかしな
がら、納税管理人の選任およびその届出は、前叙のように納税者たる原告の義務に
属するところであり、届出を特に要求した法の趣旨は、主として税務処理の便宜を
はかるにあると解されるから、叙上の認定のように、原告らから相続税の申告書の
提出その他これに関して必要な一切の事項の処理を委任されたbらが納税管理人た
ることを表示した申告書を提出し、税務署長において届出手続きの欠缺をあえて問
うことなく、真実同人らが納税管理人に選任されているものと認めて申告を受理
し、その後の手続を進めた場合に、右委任をした原告が自己の懈怠した届出手続の
欠缺を理由に納税管理人の地位を否定することは、許されないところと解するのが
相当である。したがつて、bらを原告の納税管理人としてなされた本件更正処分通
知書および督促状の送達は適法になされたものというべきである。
よつて、本件更正処分の無効(租税債務の不成立)および滞納処分の前提としての
督促手続の欠如を理由に本件差押処分の違法をいう原告の主張は理由がなく、原告
の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、
民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 横山 長 園部逸夫 南 新吾)
(別紙物件目録省略)

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