弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告らは原告に対し、各自金一〇万円及びこれに対する被告aは昭和六一年三
月一四日から、被告bは同年二月二五日から各支払ずみまで年五分の割合による金
員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担
とする。
四 この判決は、原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、各自金五〇万円及びこれに対する被告aは昭和六一年三
月一四日から、被告bは同年二月二五日から各支払ずみまで年五分の割合による金
員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
 原告及び被告らは、昭和六〇年七月当時いずれも日本国有鉄道(以下「国鉄」と
いう。)の職員であり、原告は国鉄九州総局鹿児島自動車営業所(以下「鹿児島営
業所」という。)の運輸管理係、被告aは同営業所所長、被告bは同営業所助役で
あつた。また原告は国鉄労働組合(以下「国労」という。)の門司地方本部中央支
部自動車分会鹿児島地区協議会議長であつた。
2 被告らの不法行為
(一)被告らは、共同して、昭和六〇年(以下、特に断らない限り昭和六〇年であ
る。)七月の二三日、二四日、八月の五日、六日、一六日、一七日、二二日、二三
日、二九日及び三〇日の一〇日間にわたり、何ら合理的理由なしに、原告をその本
来の業務である運輸管理業務から外し、鹿児島営業所構内に降り積つた火山灰を除
去する作業(以下「降灰除去作業」という。)を命じ(以下、運輸管理業務から外
して降灰除去作業を命じたことを「本件業務命令」という。)、これを行わせた。
(二)原告が行わされた降灰除去作業は、まず二、三平方メートルの範囲ごとに火
山灰を箒で集め、ついで、それが飛び散らないうちにスコツプ、塵取ですくつてビ
ニール袋に入れることを繰り返すものであり、作業中には火山灰が舞い上り、一時
間と継続して行うことのできない困難な作業である。また原告が降灰除去を命じら
れた営業所構内の面積は一二〇〇平方メートルを超える広さであつて命じられた作
業時間は午前八時四五分から午後五時までの長時間に及び、途中正午から四五分間
の休憩をはさむのみで、他に休憩を取ることも許されないものであつた。そして、
七月、八月という暑さの中で、原告は前記のとおり一〇日間にわたり一人で右のよ
うな苛酷な作業を行わされたのであるが、加えて、右作業中被告らは原告を見張つ
てその監視下におき、ある時はハンドマイクを携帯して、原告の耳許で怠けるな、
もつと早くやれと怒鳴るなどの行為にも及び、みかねた原告の同僚が原告に清涼飲
料水を渡そうとして被告aから叱責されるなどのこともあつた。
(三)ところで、被告らが原告に対し本件業務命令を発するに至つた理由は、七月
二三日国労の組合員バツチ(一センチ四方)を着用したまま点呼執行業務を行おう
とした原告に対し、被告aが右バツチを外すように命じ(以下「離脱命令」とい
う。)たのに、原告が従わなかつたことにあり、その後も前記の各点呼執行業務が
予定された日に原告が組合員バツチを着用したままであつたことによるものであ
る。
(四)ところで、使用者が労働者に対して種々の業務命令を発するのは労働契約に
その根拠を有し、それ故、使用者が発することのできる業務命令は労働契約に定め
られた範囲のものに限られるものであるところ、原告の労働契約上の業務は運輸管
理業務であり、降灰除去作業は労働契約上原告の業務ではない。それ故、被告らの
業務命令は何ら根拠のない違法なものであることは明らかである。
 また、被告らが本件業務命令を発したのは右(三)に記載のとおり、原告が組合
員バツチの離脱命令に従わなかつたことによるのであるが、組合員バツチは国労の
組合員が日常着用しているものであつて、その着用が原告はじめ職員の業務の執行
に何らかの支障を及ぼすようなものではないのであつて、国労バッチは昭和四一年
に制定されて以来同四四年から四六年にかけての時期にその着用の是非が労使間で
問題とされたことはあつたが、その後は問題とされることはなく、ましてその着用
が禁止されたり、着用者に対して離脱命令が発せられたりしたこともなかつたので
ある。組合員バツチは労働組合の団結権の象徴であつて、その着用に対する離脱命
令は右団結権に対する不当な介入であり、原告は組合員として、また組合幹部とし
ての立場上からも右離脱命令に従わなかつたのは当然である。
(五)以上のとおり、被告らの本件業務命令はそれ自体としても労働契約に根拠を
もたない違法なものであるが、その内容もまた前記(二)のとおりの苛酷な降灰除
去作業であり、同作業は憲法一八条の禁ずる「苦役」であつて、また本件業務命令
が発せられた理由とされる離脱命令も何ら合理的なものではないのである。
 仮に、本件離脱命令が合理的根拠を有するとしても、原告はそれに従わなかつた
ことについて点呼執行業務を外されたほか懲戒処分をうけているのであり、また、
原告を点呼執行業務から外しても、原告は他に運輸管理係としてなすべき業務があ
るのであるから、ことさら降灰除去作業を命じる必要もないのである。それにもか
かわらず被告らが原告に降灰除去作業を命じたのは、離脱命令に従わない原告に対
して懲罰的な報復を加えて、他の組合員に対するみせしめとするためであると言う
べきである。
 したがつて、被告らの本件業務命令が不法行為を形成することは明らかである。
3 損害
 被告らの本件不法行為により原告のうけた精神的苦痛について被告らが賠償すべ
き金額は五〇万円をもつて相当とする。
4 結論
 よつて、原告は被告らに対し、各自五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌
日である被告aは昭和六一年三月一四日から、被告bは同年二月二五日から支払ず
みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告らの答弁と主張
(答弁)
1 請求原因1のうち、原告が当時国労門司地方本部中央支部自動車分会鹿児島地
区協議会議長であつたことは知らないが、その余の事実は認める。
2 同2のうち、
(一)については、被告aが原告に降灰除去作業をさせたことは認めるが、昭和六
〇年八月二二日は否認する。
(二)については、原告がどのようにして降灰除去作業を行つたかは知らない。原
告の作業中見張りを付けたこと、ハンドマイクで怒鳴つたこと、休憩をとることを
許さなかつたことは否認する。
 降灰除去作業の具体的方法については原告の自由意思に任せていたのであつて、
被告らが原告の作業状況をみたのは、被告aが八月六日の午後構内巡視の際に一
度、被告bが七月二三日午後二時ころに一度の二回のみであり、被告bがみたとき
原告は営業所通用門の階段にだらしなく腰掛けていたので、同被告は原告に対し、
「だらしない格好をしていたら部外の人に見苦しいですよ。」と注意した程度であ
る。原告はなかなか仕事にかかろうとせず、作業態度は緩慢であり、苦役などと主
張することは失当である。
(三)の事実は認める(但し、そのとき問題となつたバツチは夏季用のもので縦約
二六ミリメートル、横約二八ミリメートルの大きさのものであつた。)。
(四)及び(五)のうち、降灰除去作業が原告の業務でないとの主張は否認し、そ
の余の事実は知らない。本件離脱命令及び業務命令には合理的根拠がないとの主張
は争う。
3 同3の事実は否認する。
(主張)
本件業務命令の正当性について
1 降灰除去作業の必要性
 使用者が労働者に対して職場環境整備のための業務を命じうることは当然であ
り、降灰除去作業は鹿児島地方独特のものであつて、営業所構内の降灰を放置して
おくと、部品解体中部品に灰が付着してバスの整備に弊害が生じ、また、バスの冷
房コンデンサーに灰が付着すると冷房効果が低下し乗客に快適な輸送サービスを提
供することにも支障が生ずる。加えて晴天の日には風やバスの移動により構内の灰
が飛散して周辺住民から苦情がくるばかりでなく、職員の健康管理の面でも問題が
生じるものである。以上のとおり降灰除去作業は業務上必要な作業であつて、労働
契約と無縁のものではない。
2 本件業務命令に至る経緯
(一)国鉄は、昭和三九年以来毎年赤字額が累積し、経営状態が危機的状況に陥つ
たため、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が制定され、昭和六〇年度までに組
織の全力を挙げて経営の健全性を確保するための基盤を確立することが義務づけら
れていた。一方同五七年以降国鉄の職場におけるヤミ手当、ヤミ休暇など職場規律
の乱れが報道機関等に指摘されて運輸大臣から職場の規律総点検が指示されるに至
り、総点検の結果、職場規律の乱れが全国的に広範囲に存在することが明らかとな
つたため、国鉄にとつて職場規律の確立もまた重要な課題となつた。中でも鹿児島
営業所は全国でも有数の規律の乱れた職場であることが指摘されたため、同営業所
はその上部機関である九州地方自動車部(以下「自動車部」という。)と一体とな
つて職場規律の確立に取組むこととなり、同六〇年一月二二日の営業所長会議にお
いて、自動車部長は各営業所長に対し、職場規律を確立するために先ず勤務時間中
の赤腕章及びワツペン等の着用など服装の乱れを是正することを指示し、同年七月
一日には氏名札を着用するよう全職員に指示した。そして、被告aに対しては、鹿
児島営業所の実態を自動車部に報告したうえ、その指導のもとに職場規律の是正に
取り組むよう特に指示がなされたものである。
(二)右指示に従い、被告らは営業所職員に対し、先ず勤務時間中にワツペン、赤
腕章及び右氏名札と着用場所の競合する組合員バツチを着用しないように注意指導
を強めてきたところ、原告はこれに従わないばかりか、点呼妨害、業務妨害などの
行為をも行い、上着着用省略となつた六月からは縦二六ミリメートル、横二八ミリ
メートルの夏用の組合員バツチを着用するようになつたため、被告らは自動車部長
や同部総務課長らに報告し、再三原告にバツチをはずすように求め、はずさないと
点呼執行業務から外すことを警告したが原告はその態度を改めなかつた。そこで七
月一〇日総務課長から被告aに対し、原告にもう一度通告し、なお従わない場合は
点呼執行業務から外し、環境整備等の雑務をさせるようにとの指示があつたため、
同被告は、右指示に基づいて七月一五日に原告に対し、次の点呼執行業務の予定で
ある同月二三日までに組合員バツチを外すように注意し、これに従わない場合は点
呼執行業務から外す旨警告した。ところが原告は右七月二三日の点呼の際バツチを
付けたままで離脱命令に従わなかつたので本件業務命令を発するに至つたものであ
る。
(三)以上のとおり、当時国鉄がおかれていた状況、ことに職場規律の確立が内外
で強く要請されていた時期であることに照らしても、被告らが職員に対して終合員
バツチの離脱命令を発したこと、それに従わない原告に対して本件業務命令を発し
た経緯には合理的理由がある。ことに原告は補助運行管理者に指定されて点呼執行
をする立場にあり、管理者に準ずる地位にあつたものであるから、一般職員に比し
てより厳しい規律を求められてしかるべきであつて、被告らの本件業務命令が不法
行為にあたらないことは明らかである。
 仮に、本件業務命令が合理的理由を欠くとしても、被告らは上部機関である自動
車部から直接の指示を受けて本件業務命令を発したものであり、被告らがその責を
負う筋合ではない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告及び被告らが本件当時いずれも国鉄職員であり、被告aは鹿児島営業所所
長、同bは同営業所助役、原告は同営業所運輸管理係であつたことは当事者間に争
いがなく、原告本人尋問の結果によれば、当時原告は国労の組合員であり、国労門
司地方本部中央支部自動車分会鹿児島地区協議会議長であつたことが認められる。
二 被告aが昭和六〇年七月の二三日、二四日、八月の五日、六日、一六日、一七
日、二三日、二九日及び三〇日の九日間、原告を点呼執行業務から外し、鹿児島営
業所構内の降灰除去作業を命じ、これを行わせたことは当事者間に争いがなく、原
告本人尋問の結果によれば、八月二二日も右同様にして被告aが原告に降灰除去作
業を行わせたことが認められ、右認定に反する被告a本人尋問の結果は採用しな
い。
 また、被告a及び同bの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると被告b
は、原告の降灰除去作業を督励するなどして被告aに同調していたことが認めら
れ、右認定に反する証拠はない。右認定の事実によると被告bは被告aと共同して
原告に本件降灰除去作業を行わせたものと認めるのが相当である。
三 本件業務命令の違法性について
1 使用者が労働者に対し労働契約に基づき命じうる業務命令の内容は、労働契約
上明記された本来的業務ばかりでなく、労働者の労務の提供が円滑かつ効率的に行
われるために必要な付随的業務をも含むことは言うまでもない。しかしながら、そ
のような業務であつても、使用者はこれを無制限に労働者に命じうるものではな
く、労働者の人格、権利を不当に侵害することのない合理的と認められる範囲のも
のでなければならないものというべきである。そして、その合理性の判断について
は、業務の内容、必要性の程度、それによつて労働者が蒙る不利益の程度などとと
もに、その業務命令が発せられた目的、経緯なども総合的に考慮して決せられる必
要があるものと解される。
 そこで、先づ本件業務命令が発せられるに至つた経緯及び命じられた降灰除去作
業の状況について検討することとする。
2 被告aが原告に対し本件業務命令を発した理由は、被告aが七月二三日組合員
バツチを着用したまま点呼執行業務を行おうとした原告に対し、離脱命令を発し、
原告がこれに従わなかつたからであつて、それ以後の業務命令についても同様の経
緯であつたことは当事者間に争いがない。
3 次に、本件降灰除去作業の状況についてみると、降灰除去作業とは、桜島の噴
火活動によつて上空に吹き上げられ、東風にのり鹿児島市内に飛来して降り積つた
火山灰を除去する清掃作業であるが、火山灰は砂状の細い熔岩の砕片であつて、こ
れを除去するため、箒などで灰を一個所に掃き集めようとすると、灰が舞い上り、
灰を浴びながら作業せざるを得ず、舞い上つた灰が目に入り鼻孔から口腔内に吸引
され、ときによつては目や鼻に炎症をおこすこともあるため、同作業はかなりの不
快感と肉体的苦痛を伴うものであることは公知の事実である。
 ところで、証人cの証言及び原告本人尋問の結果によれば、前記一〇日間にわた
る作業中、原告は最初の日は水で流す方法で灰を除去しようとしたところ、右方法
は多量の灰を除去するには適切ではなく、スコツプを使うように指示され、以後は
スコツプ、箒などを使つて降灰を集め、集めた灰を袋に入れて運搬するということ
を繰り返す方法によつて作業を行つたこと、作業中の服装については特別に作業に
適した服装を配慮されることもなく、また、あらかじめ降灰除去作業を命じるとの
通告もされなかつたため、七月二三日と二四日は通常勤務する服装のままで作業を
行わざるを得なかつたこと、作業面積はおよそ一二〇〇平方メートルの広さであり
作業時間はいずれの日も午前八時三五分から夕方五時までであつて、途中昼休みと
して正午から午後一時ころまで休憩を取る以外は特に休憩を許されたこともなかつ
たこと、作業の最初の日には、d助役がハンドマイクを肩に掛けて作業中の原告を
見張つたほか、それ以後の各作業日についても原告は作業中被告らほか管理職の監
視の下におかれ、原告の同僚が原告に清涼飲料水を渡そうとしたところ被告aから
渡さなくてよいと叱責されるなどのこともあつたこと等の事実が認められる。
 もつとも、被告らは作業中原告を見張つたことはないと主張し、被告aは右主張
にそう供述をするが、証人eの証言によれば、原告の降灰除去作業の状況は被告a
から自動車部のe課長に報告されていることが認められ、また右証言及び被告ら各
本人尋問の結果によれば、当時自動車部及び鹿児島営業所では離脱命令に従わない
原告の動静は最も関心を持たれていた事柄であつたと認められ、右各事実を勘案す
ると、被告らはじめ管理者が直接、間接に原告の作業状況を監視していたことが窺
われ、右被告a本人尋問の結果はにわかに採用しえない。
4 以上の各事実に照らして本件業務命令が正当なものとして許される範囲にあつ
たか否かについて検討する。
(一)先ず、被告aが原告に対し、組合員バツチの離脱命令を発したことの当否に
ついて検討すると、組合員バツチはその着用者が組合員であることを表示するとと
もに、その着用によつて着用者に組合に対する帰属意識を持たせ、ひいては組合の
団結心を高める心理的作用を営むものと認められるところ、団結権を保障された労
働組合にとつて、組合員の団結心を高めて組織の維持強化をはかることは重要な意
味を持つものであるから、使用者としてもみだりにその着用を禁止したり、着用者
に対して離脱命令を発することは許されないと解されるが、一方、国鉄職員は国家
公務員法の適用を受けないものの、公務員とみなされ(日本国有鉄道法三四条)、
使用者たる国民に対してその勤務時間中は職務に専念すべき義務があり(同法三二
条二項)、その肉体的、精神的活動を職務の遂行にのみ集中しなければならないも
のであるから、組合員バツチの着用が右職務専念義務に反するものである場合は、
使用者としても、組合員に対して勤務中はバツチを外すべきことを命じうるものと
解すべきである。
 これを本件についてみると、国労の夏季用組合員バッチであることに争いのない
乙第三九号証、弁論の全趣旨により被告ら主張の日に被告ら主張の対象を撮影した
写真であると認められる乙第五一号証の一ないし四、証人eの証言及び被告a本人
尋問の結果によれば、本件において原告が着用していた組合員バツチは、昭和五九
年夏から使用され始めた縦約二六ミリメートル、横約二八ミリメートルの大きさの
いわゆる夏季用国労バツチ(布製)であつて、その表面は黒地に金色のレールマー
クをあしらい金色でNRUとローマ字が表示されているものであることが認めら
れ、右認定に反する証人fの証言はにわかに措信することができず、他に右認定を
覆すに足る証拠はない。ところで本件組合員バツチの右の形状に照らすと、右バツ
チは着用者が組合員であることを表示しているのみであつて、他に何らかの具体的
な主義主張を表示しているものではなく、その点において、具体的な主義主張を外
部に表示するワツペンや人目を引き業務の円滑な遂行に支障をきたす虞れのある赤
腕章などとは業務阻害性の程度を異にする着用物であると認められる。
 しかし、成立に争いのない乙第一三号証の一、二、第一七ないし第二三号証、第
二五ないし二九号証、証人eの証言により真正に成立したものと認められる乙第三
一号証、第三二号証の一ないし三、被告bの証言により真正に成立したものと認め
られる乙第一〇号証並びに証人eの証言及び被告ら各本人尋問の結果によれば、被
告らが組合員バツチの着用を禁止し、離脱命令を発するに至つたのは次のような経
緯によるものと認められる。即ち、本件当時国鉄は長年にわたる赤字額の累積によ
り経営上の危機に瀕しており、その再建を迫られる一方、職場規律の乱れが内外か
ら指摘されて、その是正が求められたため、それに応えるべく経営能率の向上、職
場規律の健全化などを果すことが、企業としての将来を決する重要な課題となつて
いた。右のような国鉄全体が置かれていた危機的状況を受けて、鹿児島営業所の上
級機関である自動車部は、傘下の各営業所に対し、職場規律の確立に力を入れるよ
う指示し、その中の一つとして、服装の乱れを是正すること、業務中のワツペン、
赤腕章等の着用を禁止するとともに、氏名札の着用を指示した。中でも職場規律の
乱れが全国でも最悪と指摘された鹿児島営業所所長であつた被告aは、自動車部と
打合わせて職場規律の確立に取り組むように特に指示されたため、被告bをはじめ
とする管理職らとともに営業所職員に対して、勤務時間中のワツペン、赤腕章の着
用を禁止するとともに前記氏名札と着用場所が競合するとして、組合員バツチの着
用をも禁止し、着用者に対して離脱命令を発していたものである。
 以上の本件当時国鉄が置かれていた状況、ことに労働者、使用者が一体となって
経営の再建に取り組むべき状況にあつたことを考えると、使用者が労働者に対し
て、これまで以上に職務に専念すべきことを要求することは当然許されることであ
るし、そのため従来は労使慣行として行われてきたことについても見直しをはかる
ことにも合理的理由があり、前記のようにワツペンや赤腕章とは業務阻害性の程度
が異なるものの、組合員バツチを着用して勤務することは勤務時間中の組合活動に
外ならないから組合員バツチの着用を禁止する措置に出ることにも一応の合理性が
認められるものと言うべきである。ことに、本件の場合、当時国鉄が経営の合理化
のために打ち出す種々の施策に対して、原告の所属する国労が反対する方針をと
り、そのため労使間は恒常的に対立した状況にあつたことは公知の事実であり、前
掲各証拠によれば、鹿児島営業所においても、ワツペン、赤腕章の着用などの斗争
が行われ、被告らはじめ管理職と原告をはじめとする組合員とは対立した状況にあ
ったことに照らせば、そのような状況のもとでの組合員バツチの着用は組合員であ
ることを勤務時間中に積極的に誇示する意味と作用を有するものであつて、労使間
の対立を勤務時間中にも意識化して、職場規律を乱す虞れを生じさせるものであ
り、職務専念義務に違反するところがあると言わざるを得ない。
 そうすると、結局、被告らが原告に対して組合員バツチの離脱命令を発したこと
には合理的理由があると言うべきである。
(二)そこで、すすんで被告aが命じた本件降灰除去作業の当否について検討する
と、火山灰はこれを放置しておくと被告ら主張のとおりの種々の弊害が生じて業務
の遂行に障害が生じることについては原告もこれを争わないところである。そうす
ると、降灰除去作業は職場の環境を整備して、労務の提供の円滑化、効率化をはか
るために必要なものであるから労働者にとつて労務契約上の付随的業務であると認
められ、これを否定する原告の主張は採用できない。
 しかしながら降灰除去作業は、前記のとおり、それ自体かなりの肉体的苦痛を伴
うものであるから、使用者が付随的業務としてこれを労働者に命ずるについては、
その作業量、作業時間、作業人員、作業方法などを考慮して、作業がいたずらに苛
酷なものにわたらないようにすべきであつて、このような考慮を欠いて、何ら合理
的理由もなしにいたずらに苛酷な作業を行わせたり、懲罰、報復等の不当な目的で
行わせたりすれば、それは業務命令権行使の濫用として違法なものとなると言わな
ければならない。
 これを本件について見ると、前記のとおり原告が行わされた降灰除去作業は広さ
約一二〇〇平方メートルの構内を七月、八月という暑さの中、長時間にわたるもの
であつて、しかも一〇日間にわたつてそれを原告一人で行わされたのであり、その
作業方法、服装などについても格別の配慮をされることもなかつたばかりか、作業
中被告らの監視下におかれていたことなどに照らすと、本件降灰除去作業は、原告
にとつてかなりの精神的肉体的苦痛を及ぼすものであつたと認めることができる。
そして、被告らが原告に対して右のような降灰除去作業を命じた理由、目的につい
て検討すると、証人g、同fの各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は点呼
執行業務を外されたにしても、その日は降灰除去作業以外に仕事がなかつたもので
はなく、運輸管理係としての日常の業務があつたことが認められるから、ことさら
原告に対して降灰除去作業を命ずべき必然性はなかつたと言うべきである。また右
各証言に原告及び被告ら各本人尋問の結果によれば、これまで降灰除去作業は外部
の業者に委託するか、あるいは職員がその必要に応じて数人で自主的に適当な時間
これを行つたことはあるが、本件のように業務命令として一人の職員に一日中長時
間にわたつて行わせたという例はなかつたと認められるのであつて、これらの事実
に被告らが作業中の原告を監視していたこと、原告に清涼飲料水を渡そうとした同
僚が被告aにこれを止められたことなどの前記認定事実を合わせ考えると、本件降
灰除去作業命令には、原告にそれを命ずる必然性もなかつたうえ、組合員バツチの
離脱命令に従わなかつた原告に対して懲罰的に発せられたものと認めざるを得な
い。
 もつとも、被告らの原告に対する組合員バツチの離脱命令には前示のとおり合理
的理由が認められ、それに従わなかつた原告には職務専念義務に反する違法が認め
られるのであるが、その違法性の程度はさほど大きいものではなく、また、労働者
の違法行為については他に労務契約上定められた懲戒の手段によるべきであつて、
本件のようにかなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせるというの
は業務命令権行使の濫用であつて、違法であり、不法行為を成立せしめるものであ
る。
 被告らは、本件業務命令は自動車部の指示に基づき発したものであるから、被告
らには責任がない旨主張するが、自動車部の指示の有無が被告らの不法行為責任に
消長をきたすものではないことは明らかである。
四 損害
 被告らの本件不法行為によつて原告のうけた精神的肉体的苦痛を慰謝するには、
一〇万円をもつて相当とするものと判断する。
五 結論
 よつて、被告らは原告に対し各自(不真正連帯)一〇万円及びこれに対するいず
れも訴状送達の日の翌日である被告aについては昭和六一年三月一四日から、被告
bについては同年二月二五日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅
延損害金の支払いを求めることができるから、原告の被告らに対する本件各請求は
右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の
負担につき、民訴法八九条、
九二条、九三条を、仮執行の宜言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 下村浩藏 岸和田羊一 坂梨喬)

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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