弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分について被上告人の控訴を棄
却する。
     控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。
         理    由
  上告代理人藤井俊彦、同篠原一幸、同富田善範、同栗原仁郎、同饒平名正也、
同山口修弘、同渡辺盛、同岩井重信、同辻本義雄の上告理由について
 原審は、(1) 被上告人は、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)
三条一項の適用を受ける事業の事業主である、(2) 被上告人の労働者であつたD
(以下「訴外人」という。)は、昭和四二年六月七日被上告人の本社工場において
トラクターシヨベル車の点検修理の業務に従事中、シヨベル車のバケツトを吊るワ
イヤーロープが切れ、バケツトが同人の頭上に落下したため、脳挫傷等の傷害を受
けた、(3) 右シヨベル車には民法七一七条に規定する瑕疵があつたので、訴外人
は被上告人に対して損害賠償を求める訴えを提起したところ、その上告審において
最高裁判所は、昭和五二年一〇月二五日、労災保険法又は厚生年金保険法に基づく
保険給付について、使用者は、現実の給付額の限度で、同一の事由についての損害
賠償の責を免れるが、いまだ現実の給付がない将来の給付額を控除すべきではない
として、労災保険法に基づき将来給付されるべき長期傷病補償給付から中間利息を
控除した三九五万六一一四円を逸失利益から控除することなく、右金額を含む損害
額の賠償を命ずる判決を言い渡した(昭和五〇年(オ)第六二一号第三小法廷判決・
民集三一巻六号八三六頁)、(4) 被上告人は、昭和五二年一一月二五日までに、
右判決により賠償を命じられた損害額及びこれに対する遅延損害金を訴外人に対し
て支払つた、(5) 上告人は、訴外人に対して、右労災事故に対する長期傷病補償
給付及び傷病補償年金として原判決添付の一覧表のとおり既に三九五万六一一四円
を超える金員を支給した、(6) その内、前記判決に係る訴訟の事実審口頭弁論が
終結された時から被上告人が判決で命じられた金員の支払をするまでに一二四万四
五六四円が、その後、昭和五五年一〇月二〇日までに二一六万一二六五円を超える
金員が支給されている、との各事実を適法に確定したうえ、民法の不法行為の規定
に基づき労働省が労災事故により受けた労働不能による逸失利益の損害賠償債務を
現実に弁済した使用者は、同一の事故を原因として労働者に支給されるべき労災保
険法上の長期傷病補償給付又は傷病補償年金について、弁済後に支給されるべき分
のうち、右弁済額に満ちるまでの部分について、民法四二二条により、労働者に代
位して国に対する請求権を取得するものと解されるとして、主位的には上告人が支
払つた三九五万六一一四円及びこれに対する遅延損害金の一括支払を、予備的には
既に支払期の到来した保険給付請求権のうち右金額に満ちるまでの金額及びその内
金に対する遅延損害金の支払を求める被上告人の各請求を棄却した第一審判決を変
更し、前記判決に係る訴訟の事実審口頭弁論が終結された時から被上告人が判決で
命じられた金員の支払をする時までに支給された労災保険法に基づく前記給付額を
控除した金額の限度で、被上告人の予備的請求を認容した。
 しかし、右判断を是認することはできない。その理由は次のとおりである。
 民法四二二条の賠償者による代位の規定は、債権の目的たる物又は権利の価額の
全部の損害賠償を受けた債権者がその債権の目的たる物又は権利を保持することに
より重複して利益を得るという不当な結果が生ずることを防ぐため、賠償者が債権
の目的たる物又は権利を取得することを定めるものであり、賠償者は右の物又は権
利のみならず、これに代わる権利をも取得することができると解することができる。
そして、右規定が不法行為による損害賠償に類推適用される場合についてみるに、
賠償者が取得するのは不法行為により侵害された権利又はこれに代わる権利である
と解されるところ、労災保険法に基づく保険給付は、業務上の事由又は通勤による
労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公平な保護をすること等を目
的としてされるものであり(労災保険法一条)、労働者が失つた賃金等請求権を損
害として、これを填補すること自体を目的とする損害賠償とは、制度の趣旨、目的
を異にするものであるから、労災保険法に基づく給付をもつて賠償された損害に代
わる権利ということはできない。したがつて、労働者の業務上の災害に関して損害
賠償債務を負担した使用者は、右債務を履行しても、賠償された損害に対応する労
災保険法に基づく給付請求権を代位取得することはできないと解することが相当で
ある。また、労災保険法に基づく給付が損害賠償により填補されたものと同一の損
害の填補に向けられる結果となる場合に、いかなる者に対して、いかなる範囲、方
法で労災保険法による給付をするかは、労災保険制度に関する法令において規律す
べきものであるところ、関係法令中に損害賠償債務を履行した使用者が労災保険法
に基づく給付請求権を取得することを許容する規定は存しない。
 そうすると、被上告人の請求をいずれも棄却した一審判決を変更して被上告人の
予備的請求を一部認容した原判決には、民法四二二条の解釈適用を誤つた違法があ
り、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原
判決中被上告人の請求を認容した部分は破棄を免れない。そして、前示のとおり被
上告人の各請求は棄却すべきものであるから、これと結論を同じくする第一審判決
は相当であり、被上告人の控訴は棄却すべきものである。
 よつて民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全
員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛