弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人訴訟代理人弁護士坂千秋、同渡辺泰敏の上告理由は末尾添付のとおりであ
る。
 上告理由第一点について。
 論旨は、原判決は、公職選挙法九条及び二〇条に規定する「住所」の解釈を誤つ
た違法があるというのである。
 およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解
釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと
解するを相当とする。
 本訴の争点は、被上告人等四七名が昭和二八年九月一五日現在において、その日
まで引続き三箇月以来a村の区域内に住所を有していたかどうかの一点にあるので
ある。そこで原判決が確定した事実によれば、同人等はD大学の学生であつて、a
村内にある同大学附属E寮にて起臥し、いずれも実家等からの距離が遠く通学が不
可能ないし困難なため、多数の応募学生のうちから厳選のうえ入寮を許され、最も
長期の者は四年間最も短期の者でも一年間在寮の予定の下に右寮に居住し本件名簿
調製期日までに最も長期の者は約三年、最も短期の者でも五ヶ月間を経過しており、
休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省
するけれども、配偶者があるわけでもなく、又管理すべき財産を持つているわけで
もないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく又その事実もなく、
主食の配給も特別の場合を除いてはa村で受けており、住民登録法による登録も、
本件名簿調製期日にはB外五名を除いては同村においてなされていたものであり、
右六名も原判決判示のような事情で登録されていなかつたに過ぎないものというの
である。以上のような原判決の認定事実に基けば、被上告人等の生活の本拠は、い
ずれも、本件名簿調製期日まで三箇月間はa村内E寮にあつたものと解すべく、一
時的に同所に滞在または現在していた者ということはできないのである。従つて原
判決が被上告人等は本件a村基本選挙人名簿に登録されるベきものとし、これに反
する上告人委員会のした決定を取り消したのは正当であるといわなければならない。
 論旨は、国会議員の選挙権と普通地方公共団体の議会の議員及びその長の選挙権
とは、その本質において前者は単に成年以上の国民であれば足るのに反し(公職選
挙法九条一項)、後者は右の外に当該地方公共団体の人的構成員たることの要件、
即ち住所要件を具備することを必要とする(地方自治法一〇条、一一条、一八条及
び公職選挙法九条二項)、しかるに公職選挙法は右両者の選挙人を一の選挙人名簿
によることとしたため前者についても住所地をもつて選挙権行使の地とするに至つ
たのである(公職選挙法一九条)、しかるに原判決は公職選挙法上の住所(即ち国
会議員の選挙の場合の住所)のみを考慮し、地方自治法上の住所(即ち地方公共団
体の選挙の場合の住所)について考慮をしていないと非難する。しかしながら前示
のような事実関係のもとにおいては、被上告人等は、日常a村内E寮を本拠として
生活しているのであつて、これを同村の住民と解することに少しも支障はないので
ある。郷里またはその他の入寮前の居住地こそ、入寮後の日常生活においては直接
に関係がないのであつて、特段の事情のない限り、それらの土地になお生活の本拠
があると認定することこそ却つて失当であるというべきである。また、公職選挙法
二七〇条二項は、病院その他の療養施設に入院加療中の者に対してはその場所に住
所があるものと推定してはならない旨を規定しているけれども、学生と入院加療中
の者とではその原居住地えの復帰の蓋然性その他日常の生活の態様を異にし、右二
七〇条二項をもつて学生の場合を律することはできないものといわなければならな
い。何れにせよ同条項は療養者にのみ適用ある規定であるから、在寮学生を療養者
と同一視しなかつたことだけは明らかであるのである。論旨はまた、原判決が学資
の出所如何は住所の認定に無関係である旨判示しているのは失当であると非難する。
しかし論旨摘録の原判示は、学資の出所のみによつて住所の認定が左右さるべきわ
けのものではないとの判旨であつて、学資の出所如何は住所の認定上全然無関係で
あるとした趣旨とは解されないから、論旨の非難は当らない。
 上告理由第二点について。
 論旨は、原審は審理を尽さずして住所を認定し、またその理由において不備があ
り且つ判断遺脱の違法があるというのである。しかし、原判決は当事者の主張及び
立証に基き且つ所論すべての点をも考慮に入れたうえ、被上告人等の住所がa村に
ありと認定判断したものであることは、一件記録に徴し十分肯認できるのである。
そしてもし右修学地以外の場所に生活の本拠ありとすべき特別の事実が存在する場
合においては、かかる事実の存在を主張する当事者において主張立証すべき事項で
あつて、その主張立証のない以上、原判決に所論の各違法ありとはいい得ない。
 以上のとおり、原判決はその理由において以上説明と多少異るところがあるけれ
どもその結論は結局正当に帰し、本件上告は理由がないからこれを棄却すべきもの
とし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
 裁判官霜山精一は退宮につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

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