弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 本件における被上告人の請求の趣旨は、要するに、被上告人は日本人を父として
大正九年七月二日北米合衆国カリフォルニア州において生れたもので、アメリカの
国籍とともに日本の国籍を有する日本人である。しかるに昭和一一年七月二五日附
をもつて、被上告人は日本の国籍を離脱する旨の届出が内務大臣宛になされている
のであるが、右届出は、被上告人の父Dが、被上告人不知の間に、しかも旧国籍法
施行規則三条に反して、父D名義をもつてなされたものであるから、右被上告人の
国籍離脱の届出は無効である、従つてその後右国籍離脱を前提としてなされた被上
告人の国籍回復申請並びに之に対し与えられた内務大臣の許可はいづれも無効であ
る。すなわち、被上告人は未だかつて、日本の国籍を離脱したことも、その後これ
を回復したこともないことに帰着し、現在、生れながらの日本国籍を保有するもの
であるから、本訴においてその確認を求めるというにあることは、本件訴訟の経過
に徴しあきらかである。しかして、右被上告人の国籍離脱の届出が被上告人主張の
如く、被上告人の意思にもとづかず、かつ、父Dの名義をもつて為された事実は原
判決の確定するところであるから、前記被上告人の国籍離脱の届出は無効であり、
かつ、その後、右国籍離脱を前提として為された前記国籍回復に関する内務大臣の
許可もまた無効であるといわなければならない。
 しかるに、被上告人の戸籍簿には、現に、右国籍の離脱ならびに回復に関する記
載のなされていることは、原判決の確定するところであり、かかる戸籍の訂正をす
るには戸籍法一一六条によつて、確定判決を必要とすることはあきらかであるから、
被上告人は、少くともこの点において、本訴確認の判決を求める法律上の利益を有
するものというべきである。
 ただ上告人は戸籍法一一六条によつて国籍回復の戸籍の訂正をするがためには、
判決の主文において国籍回復の許可の無効なることを宣言する確定判決を要する旨
主張するけれども、同条は確定判決の効力として戸籍の訂正を認めるものではなく、
訂正事項を明確ならしめる証拠方法として、確定判決を要するものとする趣旨であ
るから、判決の主文と理由とを綜合して訂正事項が明確にされている以上、必ずし
も、主文に訂正事項そのものが表現されていることを必要としないと解すべきであ
る。論旨は理由がない。
 すでに如上の点において本訴確認の訴に確認の利益ありと解する以上、この点に
関する原判決の判断は正当であり、他の上告論旨に対する判断をするまでもなく、
本件上告はこれを棄却すべきものである。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
 この判決は、裁判官真野毅、同島保、同河村又介を除くその余の裁判官全員の一
致した意見によるものである。
 裁判官島保、同河村又介の意見は次のとおりである。
 本件訴訟の実質は、被上告人がなした日本の国籍回復申請に対する内務大臣の許
可の無効を主張するものにほかならない。訴の形式は、被上告人が日本の国籍を現
に有することの確認を求めることとなつているが、被上告人が日本の国籍を有する
ことについては、訴訟当事者間において少しも争われておらず、本件訴訟の唯一の
争点は、被上告人のした日本の国籍回復申請に対する内務大臣の許可が無効である
か否かという点にあるのである。そして被上告人は、右国籍回復の申請ならびに許
可の無効は、その前になされた被上告人の内務大臣に対する日本国籍離脱の届出が、
被上告人不知の間に、父Dによつて同人の各義をもつてなされたことの当然の結果
である主張するのである。しかし被上告人は、前記国籍回復を内務大臣に申請した
当時は日本国内に居住していたのであり、被上告人はみずからその申請をなし、内
務大臣の許可を得て一家を創立して東京都内に戸籍の届出をした上、さらに福岡県
下に転籍までしたものであることは、当事者間に争がない事実として、原判決の確
定したところである。してみれば、被上告人は少くとも国籍回復を内務大臣に申請
した当時においては、みずからその意思を表明して国籍回復を申請して権限ある国
家機関の許可を得て戸籍の届出をしたものである。それにもかかわらず被上告人は、
本件訴訟においては、自己がかつてなした右の表示と全く矛盾した主張をして、国
籍回復の申請に対する内務大臣の許可という行政庁の処分を当然無効であるとして
否定するのである。しかし、かかる主張の許されないことは、禁反言の原則からし
ても明らかであるといわなければならない。されば、本件国籍回復申請ならびにそ
の許可を無効であると判断して被上告人の主張を認めた多数意見には賛成すること
ができないのである。ところで、行政事件訴訟特例法附則四項、昭和二二年法律七
五号(日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律)八条但書に
よれば、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、処分の日から三年を経
過したときは、これを提起することができないと規定されている。本件国籍の回復
は、被上告人みずから申請して内務大臣の許可を得て戸籍の届出までをもしたもの
であり、被上告人においてこれを当然無効などと主張し得るものでないことは、前
に説明したとおりであるから、被上告人がその効力を争うとするには、前記法律の
規定する出訴期間内に訴を提起して国籍回復許可の取消を求め得べき事由を主張し
なければならないのである。しかるに、本件国籍回復申請に対し内務大臣の許可が
あつたのは、昭和一七年九月九日であり、本件訴訟が第一審裁判所へ提起されたの
は六年余を経過した昭和二四年中であつたことは、記録上明らかである。それゆえ、
本件訴訟においては国籍回復の効力を争うことは、もはや許されないのであるから、
かかる争を実質とする本件訴訟は、却下を免かれないものといわなければならない。
 裁判官真野毅の反対意見は次のとおりである。
 わたくしは、破棄意見であるから、その理由を述べる。
 原審において被上告人(控訴人)は、「控訴人が出生による日本の国籍を現に引
続き有することを確認する」旨の判決を求め、原審はその請求どおりの主文を掲げ
る判決をした。
 しかし、確認の訴は、法律が特に認めている場合(たとえば民訴二二五条)を除
き、現在の法律関係の存否の確定を目的とするものに限り許されるのである。事実
関係の存否又は過去の法律関係の存否の確定を求めることは、確認訴訟の対象とす
ることをえない。
 元来日本の国籍は、一様に日本国民たる法律上の地位すなわち身分であつて、そ
の国籍取得の原因が出生であると、帰化であると、国籍回復であるとに従つて別異
の国籍の存在することは認められていない。(これは恰かも所有権の内容は一様で
あつて、その取得原因が売買であると、贈与であると、相続であるとに従つて別異
の所有権の存在が認められていないのと相似ている。)
 国籍についての確認訴訟の対象として、「出生による日本の国籍」と「出生によ
らない日本の国籍」という二種類の異つた国籍が存在するわけではない。出生によ
る国籍であるか、出生によらない国籍であるかは、単に国籍取得の原因に関する区
別たるに過ぎないものである。それ故、「出生による日本の国籍を現に引続き有す
ること」の確認を求める請求の趣旨中の「出生による」という部分は、国籍取得の
原因たる過去の事実関係の確定を求めるものであつて、確認訴訟の対象としては許
されない。残るところは、日本の国籍を有することの確認だけであるが、この点に
ついては当事者間に争いがない本件においては、確認を求める法律上の利益がない
と言わなければならぬ。
 われわれ一般大多数の日本国民は、「出生による日本の国籍を現に引続き有する
こと」は真実であるが、確認訴訟の請求の趣旨(判決の主文)としてこれを求める
ことのできないのは前述のごとく確認訴訟の性質から来る当然の帰結である。それ
故、一般日本国民がかかる確認訴訟を起こしても、日本の国籍を有することの確認
を求める以外の部分は、請求として不適法であることは、おそらく誰の眼にも一見
明らかであろう。
 この道理は、本件被上告人のように外国の国籍を有する日本国民であると主張す
る者に対しても同様にあてはまるわけであつて、「出生による日本の国籍を現に引
続き有すること」は真実であつても、確認訴訟の対象として訴求することは性質上
許されないのである。
 わたくしは、本件の請求原因からすれば、被上告人が「外国の国籍を有する日本
国民であること」の確認を求めることは、可能であり、適法であり、またそれによ
つて十分目的を達することができたであろうと思う。わが国籍法においては、「外
国の国籍を有する日本国民」について特別の取扱をなし、日本の国籍を離脱するこ
とができる旨を規定している(国籍法一〇条、旧国籍法二〇条ノ二、二〇条ノ三)。
だから、国内法で国籍事務の取扱上「外国の国籍を有する日本国民」という要件(
身分)の有無は、国内的に判断せらるべき事柄であり、従つて訴訟上の問題となつ
た場合には裁判所で判断の対象となるは当然である。本件の場合には、外国を具体
的にいつて「米国の国籍を有する日本国民たること」の確認を求めてもよい。とい
つて、請求どおりの確認があつた場合においても、もとより外国ないし米国に対し
て判決の直接の効力が及ぶわけではなく、ただ国内的処理の必要上二重国籍を有す
る日本国民たることを確認するに過ぎない。そしてこれは事実関係にもあらず、過
去の法律関係にもあらず、現在の法律関係であるから、確認訴訟の対象として適法
であることは明らかである。本件で存否の確定を要する法律関係は出生による日本
国民ということではなくして、外国の国籍を有する日本国民ということであつた、
とわたくしは考える。
 多数意見は、原審において被上告人の求めた請求の趣旨および原判決の主文の適
法性について何等判断を示していないが、わたくしは上述のごとく原審における被
上告人の請求の趣旨は不適法であり、従つてこれをそのまま主文として掲げた原判
決は違法であると信ずる。それ故、原判決を破棄し、被上告人の訴を却下するを相
当とする。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   橋       潔

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