弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について
 一 本件土地賃貸借契約の更新に対する異議についての正当事由の有無に関して
原判決の認定判断したところの要点は、およそ次のとおりである。
 (一) 上告人は、本件土地に隣接する所有土地二二五一・五一平方メートルを本
拠として同土地上に収容能力合計二五〇〇トンの平家建冷蔵倉庫四棟、製氷室一、
事務室その他の附属建物を所有するほか、東京都港区内に収容能力一万一〇〇〇ト
ンの八階建冷蔵倉庫一棟を所有し、氷の製造、販売、冷蔵倉庫業等を営んでいる資
本金一億円の会社であるが、近時商品流通機構の変革に伴い冷蔵倉庫の需要が増大
し、その整備拡充に対する社会的、経済的要求が強くなつており、東京都内でも冷
蔵倉庫が不足していて、上告人自身取引先から冷蔵倉庫の設備の整備拡充を強く要
望されていた。そこで、上告人は、この要望に応じて事業設備を拡張する必要上、
冷蔵倉庫の設置に適している本件土地上に五階建中層ビルを建設して収容能力三〇
〇〇トンの効率の良い冷蔵倉庫とする構想をたて、昭和三七年ころから本件土地の
賃借人であつたD(原審口頭弁論終結後に死亡)及び被上告人B1に対しその明渡
を申し入れ、期間満了の時は賃貸借の更新を拒絶すべき意思を明示しており、更に
本件賃貸借契約の期間が満了する直前である昭和四三年六月一一日到達及びその直
後である同年七月六日到達の書面で賃貸借の更新をしない旨の意思表示をし、他方、
右D及び被上告人B1は同年七月七日到達の書面で賃貸借契約の更新請求をした。
 (二) 右Dは、被上告人B1と共同して昭和初年ころ本件土地を賃借し、その後
の昭和二五年一二月三一日には権利金一五万円を支払つて本件土地賃貸借契約の期
間を昭和二三年七月六日から昭和四三年七月五日までと約し、同土地上に本件建物
二、三、四を所有し、本件建物二の一部を居宅、残部をガレージとして、また、本
件建物三、四を各棟五戸づつの二階建店舗兼居宅等としてそれぞれ賃貸し、昭和四
三年度において年間約三〇〇万円の賃料収入を得ているほか資本金七〇〇〇万円の
E株式会社の取締役として年間七〇〇万円の収入を挙げているが、本件土地を返還
すれば年収の四割弱を喪失することとなる。
 (三) 被上告人B1は、現在本件土地上に建物を所有せず、資本金二〇〇〇万円
の規模の会社の役員として相当な収入を得ており、本件土地を使用することができ
なくなつても直接打撃を受けることはない。
 (四) 本件土地を含む附近一帯は、昭和四一年一一月東京都によつて発表された
江東再開発基本構想において防災拠点とする計画がたてられており、これが法律に
基づき具体化され法的拘束力をもつに至つた暁には、本件土地附近一帯につき建物
新築の制限、既存建物の収去等が義務付けられ、上告人において目的としている本
件土地の使用は不可能となる。
 (五) 本件建物二、三、四を店舗兼居宅ないし居宅として賃借使用している被上
告人B2、同B3、同B4、同B5、同B6、同B7、同B8、同B9株式会社ら
借家人の多くは、戦中戦後の苦しい時を右賃借建物のおかげで何とか乗りこえ、子
女を養育してようやく生活もほぼ安定したところであつて、上告人が支払を申し出
ている程度の立退料を受領するだけで低家賃の賃借建物部分から立退き他に移転す
ることは、家計上あるいは営業上重大な支障を来たすことになる。
 (六) そして、以上の事実関係のもとにおいては、上告人の本件土地賃貸借契約
更新に対する異議については正当事由がないといわなければならない。すなわち、
 (イ) 上告人において近時における冷蔵倉庫の需要の増大に応じ、かねて計画
中の冷蔵倉庫を建設して事業設備を拡張するためには、本件土地の明渡を受けるこ
とが望ましく、かつ、これがもつとも経済的な方法であるとしても、右冷蔵倉庫の
建設は上告会社存立の安危にかかわる問題ではなく、しかも、冷蔵倉庫の増設によ
る事業設備の拡張を望むのであるならば、他に土地を求め、又は、多少の支障は生
ずるにせよ現在使用中の土地をその地上にある非能率な建物を逐次建て替えるなど
することにより効率的に使用することによつて、これを達成することが不可能では
なく、更に、上告人において本件土地の明渡を受けるときは、当初予想もしなかつ
た地価上昇による莫大な利益を独占することにもなるのに対し、Dにおいて本件土
地の明渡をするときは、年収の四割弱にも及ぶ収入減を来たすという重大な問題に
直面するのであつて、これら賃貸人である上告人が本件土地使用を必要とする度合
い、その緊急性、これを使用することができないことにより被る不利益等と、賃借
人であるDが本件土地を使用することができなくなることにより被る不利益とを比
較しただけでも、上告人の本件土地賃貸借契約更新に対する異議には正当事由を肯
認し難い。
 (ロ) のみならず、東京都発表の江東再開発基本構想において本件土地を含む
附近一帯が防災拠点に予定されており、かつ、地震その他の災害対策につき世人の
関心も高まつている社会状勢にかんがみると、右構想がまだ単なるプランにすぎず、
将来法律に基づき所定の手続を経てはじめて法的拘束力をもつに至るものであるう
え、右構想によつて予定されたこと自体その後の手続において変更されることがあ
りうるものであるといつても、将来右構想の実施により本件土地上の建物の除去、
建築制限が行われるに至る公算は大であり、ひいては、上告人においてこのような
危険をかえりみず冷蔵倉庫を新築することにより本件土地を使用するとの見込は客
観的に極めて少ないといわなければならない。また、上告人は、Dらの本件土地賃
借人との関係において本件土地明渡請求が認容されたとしても、Dによる本件建物
二、三、四買取請求権行使の結果、前記借家人に対する賃貸人として借家契約を承
継しなければならないところ、上告人の右借家契約の解約申入につき正当事由の存
することはたやすくこれを肯認すべきではないとするのが相当であるから、上告人
において本件土地を自ら使用することが可能になる見込も極めて稀薄である。結局、
上告人の本件土地賃貸借契約更新に対する異議にはますます正当事由を肯認し難い
ことになる。
 二 そこで、右判断の当否について以下に検討する。
  まず、原判決の上記認定によると、上告人は、顧客の要請に応ずる等のためそ
の事業設備を拡張する計画の遂行上本件土地を必要とするのに対し、前記Dは、本
件土地を自ら使用しているものではなく、その地上に建物を建設してこれを他に賃
貸しているものであつて、本件土地の明渡をすることにより建物の賃料収入が得ら
れなくなる結果として年収の約四割を失うこととなるとはいえ、別にE株式会社の
取締役として昭和四三年度において年間七〇〇万円の収入を得ており、また、共同
賃借人である被上告人B1は、本件土地を使用することができなくなつても直接打
撃を受けない、というのである。そうすると、要旨右(一)から(三)までの事実関係
を前提として考える限りにおいては、たとえ原判決の摘示するように、上告人が営
業規模の拡大のため他に土地を求め又は現在使用中の土地を効率的に使用すること
によつて目的を達成することが不可能とはいえず、また、上告人が本件土地の明渡
を受けると地価の異常な値上りによる大きな利益をおさめる結果となるとしても、
権衡上上告人に正当事由がないと断定することはできない。
  しかるところ、原判決は、さらに要旨上記(四)及び(五)の事実をしんしやくし
たうえ、結局において正当事由の存在を肯認しがたいものと判断している。しかし
ながら、まず、原判決の認定するところによると、要旨右(四)の江東再開発基本構
想は、まだ単なるプランの域を出でず、現段階では法的拘束力のあるものではなく、
その予定されたこと自体変更されることもありうるというのであるから、現状にお
いて恒久的施設の新営が事実上抑制されているとか、この基本構想の存在のために
本件土地の附近では他の企業も恒久的施設の新営を現に手控えているとかいうよう
な他の特段の事情の認めるべきものがあるのでない限り、本件土地が右構想におい
て防災拠点として予定されている地域内にあることをもつて、上告人の本件土地使
用を必要とする度合い、緊急性ないし上告人の計画の実行可能性を減殺すべき事情
にあたると断定するには不十分である。また、要旨右(五)の事情は、本件土地賃貸
借契約の更新に対する異議につき正当事由があることが肯認された場合にはじめて
上告人と本件における各借家人との間に生起する仮定的な問題に関する事情である。
すなわち、この点につき、原判決は、土地賃貸借契約の当事者双方の事情を比較考
量した結果右の正当事由の存在が肯認されたとの前提のもとに、上告人と本件にお
ける各借家人との間に成立することとなる建物賃貸借関係につき上告人の解約申入
に正当の事由が肯認されるかどうかを検討し、これが肯認され得ない旨の判断をし
たうえ、この判断を、再び先の前提以前の段階に立ちもどつて土地の賃貸借契約の
更新に対する異議につき正当の事由があるかどうかの判断の資料とするという矛盾
を含むものであるばかりでなく、土地賃貸借契約の当事者双方の事情を比較考量す
るに当たつて第三者である地上建物賃借人の事情を参酌しようとするものであつて、
不当であるといわなければならない。
 三 そうすると、原判決がその認定した事実関係に基づき上告人の本件土地賃貸
借契約更新に対する異議につき正当事由がないと判断したことは、借地法四条一項
但書ないし六条一項の解釈を誤つたものとしなければならず、右違法は判決に影響
を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そし
て、本件については、この点に関し更に審理を尽くす必要があると認めるので、こ
れを原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    寺   田   治   郎

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